秋スイーツ女子救出作戦!

作者:桜井薫

「ねえねえ、最初はどれ食べる? 私は、『天使の和栗モンブラン』!」
「あたしはねー、『完熟柿の黄金タルト』かな。『ぶどう3種の夢色ジュレ』も捨てがたいけど!」
 都内某所の、とある大きなイベントスペース。
 昼下がりの会場内待機スペースは、もうすぐ開場するイベントを待つ多くの女性客でごった返していた。
 彼女たちのお目当ては、有名スイーツショップ主催の『秋のスイーツ試食会』。格安のお値段で数々の新作スイーツが食べられるとあって、わざわざ有給を取って参加する者も珍しくない、人気のイベントだ。
「……ねえねえ、あれ、何?」
 ふと、女性客の一人が、異変に目を留める。待機スペースのすぐ近くに、渦巻きのような怪しい空間が湧きだしているのだ。
「……えっ!?」
 彼女は一瞬息を呑み、そして、大きな悲鳴を上げる。その空間から這い出してきたのは、不潔な触手を生やした豚……オークだった。
「ブヒヒ……キレイナオンナノコ、イッパイイルブヒ!」
 最初の1体に続いてさらに3体のオークが渦から這い出し、たちまち会場内は阿鼻叫喚に包まれる。逃げ惑う彼女たちをオークはあっさりと触手で捕まえ、渦の中に放り込んでしまう。
「やだ……こんなの、聞いてない……!」
 甘いものを楽しみにしていただけの罪もない彼女たちは、やがて、全てどこかへと連れ去られてしまった……。
 
「オークが女の子をさらうんじゃねーかって気がして、ヘリオライダーさんに調べてもらってたら……こーいう胸糞な事件が起こる可能性がありやがるらしい、です」
 一恋・二葉(蒼涙サファイアイズ・e00018)は集まったケルベロスたちに、ムスッとした表情で報告した。
「はい、二葉さんが調査を頼んでくれて、ほんと良かったっす! おかげで、オークたちが魔空回廊から現れて大勢の女性がさらわれる事件を、事前に予知できたっす!」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は二葉の話を引き取り、予知された事件の詳しい説明を始める。
「さらった女性をオークたちがどこに連れてくかはわかんねっすけど、シャレになんねーことになるのは間違いないっす……なんつっても、オークっすからね」
 そんな悲劇を未然に防ぐことができるのは、皆さんだけ……いつものようにダンテは、ケルベロスたちへの信頼に満ちた目で皆を見つめる。
「今回オークが現れると予知されたのは、とあるイベントスペースの中っす。そこではスイーツの試食会目当てに集まった女性のお客さんたちがいて、開催待ち用に用意されたスペースに、魔空回廊が繋がっちまうんす」
 魔空回廊からは、オークの中でも強力な個体・オークチャンピオンが1体と、その取り巻きオークが3体現れるようだ。
「で、厄介なことに、女の子たちを先に避難させたりすると、魔空回廊が違う場所に出現して、結局被害を防ぐことができなくなっちまうっす」
 だから、オークたちがそこに現れてから避難してもらって、確実に奴らを仕留めて欲しい……そう言って、ダンテは皆に一礼する。
「魔空回廊が他の場所に繋がると困るんで、事前に避難してもらうわけにはいかないのは、今言った通りなんすけど……現場にいる女性が増えるのは問題ないんで、女性ケルベロスの皆さんなら、先に現場に潜入しといてもらうこともできるっす。イベントに来たお客さんのフリで紛れ込んじまえば、普通に大丈夫だと思うっす」
 本来その場にいるはずだった女性が居なくなるとやはり魔空回廊の出現に差し支えるので、本物の女性客たちに不審に思われない工夫も必要になる。
「あ、あと、男性ケルベロスの皆さんは……バレないぐらい超レベル高い女装ができるなら、潜入しておいても大丈夫っす。現場の『見るからに男率』が増えると魔空回廊が繋がりにくくなっちまうっすから、女装はちょっと……だったら、少し離れた場所で待機しててもらう感じっすかね」
 ちなみにオークの攻撃手段は、オークチャンピオンは自己強化の効果がある咆哮と触手の乱れ打ち・突き刺し、普通のオークは触手で叩いたり溶解液を飛ばしてきたりする、とのことだ。
「甘いものを楽しみにしてたとこをオークに襲われるなんて、絶対ダメっす! どうか、皆を助けてあげて欲しいっす!」
 無事にオークを撃退したら、秋の新作スイーツを楽しんでくるのもいいかもっすね……と、ダンテはケルベロスたちを送り出すのだった。


参加者
一恋・二葉(蒼涙サファイアイズ・e00018)
アリル・プルメリア(なんでも屋さん・e00097)
ケーゾウ・タカハシ(鉄鎖狼の楽忍者・e00171)
写譜麗春・在宅聖生救世主(自宅天使アルタクセルクセス・e00309)
アイビー・サオトメ(みんな大好きです・e03636)
ピリカ・コルテット(くれいじーおれんじ・e08106)
篠川・尊(黒の狙撃手・e08859)
本田・縁(ぱっつん警備員・e12872)

■リプレイ

●隠し味
 オーク襲撃の予知を受け、ケルベロスたちが駆けつけた昼下がりのイベントスペース。
「『秋のスイーツ試食会』参加ご希望のお客様は、開場までこちらのロビーにてお待ち下さい」
 複数の係員が案内の声掛けをしているロビー内は、すでに多くの女性客で賑わっている。
「二葉ちゃん、ピリカちゃん、みんなでいっぱいケーキ食べようね!」
「おう、完全制覇する勢いで食ってやんよ、です」
「はいっ、『天使の和栗モンブラン』に、『洋梨の特選ミルフィーユ』、『完熟柿の黄金タルト』、他にもまだまだ……にへへっ、楽しみですっ!」
 アリル・プルメリア(なんでも屋さん・e00097)、一恋・二葉(蒼涙サファイアイズ・e00018)、ピリカ・コルテット(くれいじーおれんじ・e08106)は、待機列で写真つきのメニューを眺めながら、完璧に風景に馴染んでいた。念のためアリルが用意したプラチナチケットの効果に頼るまでもなく、その姿はどこからどう見ても、スイーツを楽しみに待ってる仲良し女子たちそのものだ。実際、一仕事こなした後のスイーツを本当に楽しみにしてるので、まったく演技の必要など無かった。
「スイーツ、スイーツ! 楽しみなんだよー」
「はい、みなさんと一緒に食べに来られて嬉しいですー」
 二葉が旅団長として管理する街から着た写譜麗春・在宅聖生救世主(自宅天使アルタクセルクセス・e00309)とアイビー・サオトメ(みんな大好きです・e03636)の二人も、楽しげに話してる様子は、甘いものに心ときめかせる女性客以外の何者でもなかった。もっとも、アイビーの方は実は男の子だったりするのだが、女の子として違和感ゼロの『男の娘』なので、何も問題なしである。

(「このようなイベントはあまり来たことないんで、ちょっと緊張するけど……女性客の皆さんが被害に合うことのないよう、頑張るっす!」)
 一方、隠密気流を身にまとい、気合いを胸にひっそりと会場の中に溶けこんでいるのは、本田・縁(ぱっつん警備員・e12872)だ。女性客として目立たぬように紛れ込みつつ、魔空回廊が繋がると予知されているロビーの様子に目を配る。
 また、ケーゾウ・タカハシ(鉄鎖狼の楽忍者・e00171)も、縁と同じく隠密気流に身を隠しながら、こちらは男性ということで現場に影響を与えぬよう、ロビーから少し離れた場所で辺りをうかがっている。いつオークが現れてもタイムロスなく駆け付けられるようすぐ走り出せる体勢で、部屋全体を見渡す。
「……!」
 と、ケーゾウが部屋の中央に目を向けた、ちょうどその時。
 ロビーの中心に、禍々しい気配渦巻く空間……魔空回廊が、繋がった。そしてその中から、穢らわしい触手と豚の頭が這い出してくる。
「人が楽しくスイーツ食おうとしてるとこに、ブサイク面で出てくんじゃねえ、です」
 案の定、予定通り現れたオークたちに向かって、二葉が心底うっとうしそうに吐き捨てる。
 スイーツ前の大事な一仕事、女性客たちを守る戦いの始まりだった。

●泡立て、分離
「やだ、オーク!?」
「なんでこんなとこに……!?」
 事態に気づき、たちまち女性客たちは騒然となる。
「皆さーん、一旦おあずけみたいですっ! 焦らずここから外に出てくださーいっ」
 楽しげにメニューを見ていたピリカは、スイーツで満ちた夢の世界からハッと我に返り、会場内の一般人に呼びかけた。持てる隣人力も駆使して明るく親しみやすく声を張り、パニックを起こしかけた女性客たちに、ピリカたちを頼りに動いてもらえるよう尽力する。
「指示に従って逃げやがれ、です!」
 二葉もさっと武器を掲げて戸惑う人々の注意を引きつけ、ピリカの誘導をアシストする。
「に、逃げるって、どこに……!?」
 ロビーのほぼ真ん中に現れたオークを前に、一瞬方向を見失った女性客たちの一部は、焦った様子でケルベロスたちの指示を求める。
「えっと、とにかく奴らから離れるっす!」
「あいつらは俺たちに任せて、いったん外に逃げろ!」
 縁の声に合わせ、会場の外から素早く飛び込んできた篠川・尊(黒の狙撃手・e08859)が出入口を指差し、近くにいた客たちを導く。
「そうだっ、会場を開けてください! こっちが近い人たちは、部屋の中に避難をっ!」
 ピリカはとっさの判断で、近くにいたスタッフに、まだ閉鎖されていたメイン会場の開放を依頼した。外に出るのにオークの側を横切ることになるのは、かえって危険だと考えての機転だ。声をかけられたスタッフはうなずき、慌てつつも会場のドアを開ける。
「焦らなくても大丈夫だよ。ボクたちがちゃんとガードするから、落ち着いて近い方に逃げて」
 アリルもしっかり者店長らしい堂々とした態度で、オークと客たちの間に割って入り、ミミックの『みっくん』と共に、浮足立つ女性客たちを導く。
「ほら、こっちへ」
 恐怖で固まりかけていた女性の一部を、ケーゾウは手を取って近い方の扉に案内する。一見軟派とも取れる行動だが、確実に被害を抑えることに貢献していた。
 やがてケルベロスたちは、オークを中心に外に近い方向にいた客たちは建物の外に、会場側に近い方向にいた者たちは会場の中へ、それぞれ誘導を完了させた。
「皆さんの避難、大丈夫みたいです!」
 アイビーがロビー全体をチェックし、仲間たちにうなずきかける。多少の混乱はあったが、ロビーに一般人が残っている様子はない。
「オンナ、イッパイイタノニ……オマエラ、ユルサナイブヒ!」
 ひときわ大きな体と立派な触手を揺らして、リーダーとおぼしきオークがケルベロスたちに憎悪を向ける。
「あんたらの体に風穴を開けてやる。覚悟しろ」
 尊をはじめとするケルベロスたちの方も、もちろんオークを逃す気などさらさらなかった。

●辛口スパイス
「アリル、ピリカ、油断すんじゃねーぞ、です!」
 二葉は信頼する友人たちに声をかけながら、全身を地獄の炎に包み、己の力を大幅に強化する。
「はい、わたしです!」
「ボクの翼! 全開でいくよっ」
 ピリカは、ただでさえ強敵のところに命中力が高まってるオークチャンピオン対策を兼ねて、前衛たちを鼓舞し狙いをさだめやすくする援護の技。アリルは、前に陣取る3体のオークたちをまとめて地獄の赤黒い翼で包み、相手の動きを阻害する技。彼女の声に呼応して、二人はそれぞれのとっておきの技で戦端を開いた。
「ピコピコ音、たくさん聞いてってくださいっすよ……!」
 縁もまた、自分のオリジナル曲を大音量の電子音に乗せ、手下オークたちをまとめて攻撃する。特に顔をしかめた1匹は、テクノな旋律に混乱をきたしたようだ。
「縁ちゃん、ナイスだよ! よし、私も……『ガルド流拠点防衛術奥義・緋統天則千年王国』!」
 続いて在宅聖生救世主が、味方の拠点を守る力を込めた十字の雷撃で3体のオークに攻撃を重ねる。こちらは先ほど別の1体が、かすかに動きを鈍らせた……完封とまではいかずとも、ケルベロスたちが互いに連携しての戦い、幸先はまずまずといったところだ。
「オマエラ、ナマイキ……オレサマ、ツヨイ、クラエブヒ!」
 オークチャンピオンがふがいない手下たちへのうっぷんを晴らすかのように、自分に狙いを定めている生意気な敵……アイビーの体を切り裂こうと、穢れた触手を鋭く伸ばす。
「危ねーぞ、アイビー! 二葉が守ってやる、です!」
 すかさず二葉はオークの前に割り込み、アイビーをかばって攻撃を代わりに受けた。
 さすがに親玉格の強靭な触手は、防御の体勢を取っていようと痛くないはずもない……が、自分の街に出入りするかわいい男の子(?)の手前、ちょっと格好つけて、何とか涼しい顔を保って見せる。ボクスドラゴンの『蒼海石』は、そんな主人のやせ我慢を察してか、素早く属性の力で彼女を癒やした。
「二葉さん、ボクのために……すみません! ……許しません!」
 アイビーが、怒りを込めてペトリフィケイションの古代語を詠唱する。
「……ガッ! オマエ、ホント、ナマイキ!」
 二葉を傷つけた申し訳無さとオークへの怒りがこもった魔法の光は、オークチャンピオンの体をまともに貫き、石のように体を重くする一撃を食らわせた。
「この弾、避けれると思うなよ!」
「『死』ってやつが欲しくないかい? 初めてだろうから、俺が優しくエスコートするぜっ!!」
 親玉の動きが鈍った好機を逃さず、尊とケーゾウは手下のオークたちに銃弾と『死』の恐怖をばらまいた。
「……グガァ、ッ!」
 素早く繰り出した攻撃でケーゾウが動きを鈍らせたオークに、尊の狙いすました破壊の弾丸が鋭く突き刺さり、1体のオークが断末魔の咆哮を吐き出す。
「ヤッタナブヒ! オレタチ、オマエラ、ヤッツケル!」
 手下オークの残り2体は、仲間を倒した強烈な攻撃が放たれた後方のケルベロスたちに向け、触手の穢れた溶解液を放った。
「チッ……!」
「あっ、プリムっ!」
 汚らしい液体を腕に受けた尊が、眉根を寄せて舌打ちする。
 また、ピリカを狙った溶解液は、ボクスドラゴンの『プリム』がすかさず飛んできて、愛する主人をかばって代わりに受け止めた。プリムは薄桃色の体を懸命に広げ、その赤い瞳には何が何でもピリカを守る強い意志が宿っている。
「ありがとっ! プリムも皆も、すぐ治すから、大丈夫だからねっ!」
 大事な相棒・プリムの奮闘に、主人のピリカも存分に応える。長い髪をしゃんと揺らし、流れる様に繰り出される癒しの効果を高めたカラフルな爆発が、ピリカを含めた前衛たちを癒し、士気を高め、攻撃に力を与えた。
「ピリカちゃん、サンキュだよ! さあ、残りもさっさと片付けよっか!」
 友の援護を受けたアリルは、力を増したフレイムグリードの炎弾を放ち、残る手下オークの1体に痛烈なダメージを食らわせる。
「アリルちゃん! よし、これなら行けるー!」
「こっちもフィニッシュ、決めるっすよ!」
 さらに、在宅聖生救世主は死の力を纏った鎌を同じオークに振り下ろし、その垢じみた首筋から、見事に魂を刈り取って見せた。そしてもう1匹には、やはり同じギロチンフィニッシュの技を繰り出した縁の鎌が、深々と突き刺さっていた。
「チョウシ、ノルナ! オレサマノチカラ、ミセテヤル!」
 配下を失ったオークチャンピオンが、腹の底から湧き出す欲望のまま、ロビーに咆哮を響き渡らせる。その触手には歪んだ力が満ちあふれ、元々凶悪な力は、ひどく危険なまでに高められていた。
「あいにく、こっちはそんなもん見る気なんてさらさらねー、ですよ」
 二葉はそんなオークに付き合う義理などないとばかりに、小さな体で軽々と持ち上げた鉄塊剣を、力任せに叩きつける。
「グギャ……ッ!」
 オークはそれまでに積もり積もっていた多くの状態異常に動きを阻害され、二葉の攻撃をかわしそこねた。
「二葉さん、すごいです! ボクも負けません!」
「そんなザマじゃ、俺のスピードは抑えられないぞ」
「汚いオークが、身の程を知れ」
 アイビー、ケーゾウ、尊の男性陣(一部男の娘)が、二葉に続き、次々と技をたたみかける。鋭い槍のように伸びたブラックスライムが、流星の煌めきを宿した素早い蹴りが、速すぎて見えない弾丸が、容赦なく立ち尽くすオークに襲いかかった。
「……オレサマノ、チ、チカラ……ガ!」
 女性たちを蹂躙しに来たつもりが、男性の手でとどめを刺される……それは、オークにとって、これ以上ない屈辱に他ならなかっただろう。
 濁った叫びを残し、オークチャンピオンは、醜い触手をだらりと床に広げて倒れ伏した。

●本日のメイン
 戦いを終えたケルベロスたちは、避難完了後再び閉じられていた会場の扉を開け、無事に危機が去ったことを告げる。
「おつかれさま。オークはボクたちが退治した、もう心配はいらないよ」
 アリルの言葉で、会場の女性客とスタッフたちに、心から安心した空気が広がってゆく。
「ケルベロスの皆様……この度は、本当にありがとうございました。おかげさまで、最悪の事態を防ぐことができました」
 チーフパティシエの名札をつけた女性シェフが、8人の前に進み出て、丁寧に頭を下げる。どうやら、このイベントの責任者のようだ。
「皆さん、大丈夫だったっすか?」
 縁の問いに、彼女はにっこりと微笑んだ。
「はい、逃げる時に軽い怪我をされたお客様や、慌てて会場に避難してきた方がぶつかって駄目になったスイーツ少々など、多少の被害はありましたが……おおむね、無事に済んだと言って良いかと存じます」
 シェフの言葉通り会場の一部には、すりむいた手足に応急手当を受けた女性客や、隅に寄せられたテーブルの上にある潰れたスイーツなど、ちょっとした災難の形跡が見受けられた。どうやら、避難で生じた混乱の爪跡、といったところらしい。
「あれれ、大変なんだよ。できるだけヒールするから、遠慮なく言ってねー」
「はい、ありがとうございます」
 在宅聖生救世主の申し出に、パティシエは笑顔でうなずいた。
「それはそれとして、無事オークも倒していただいたことですし……あらためて『秋のスイーツ試食会』、始めさせていただきたいと思います。もちろんケルベロスの皆様もご一緒に、私どもの秋の新作スイーツ、存分に味わっていって下さい!」
 会場の女性客たちが、歓声を上げる。
 むろんケルベロスたちにも、異存があろうはずもない。というか、むしろ試食会を楽しむのがメインの目的だったかも知れない。
「よーし! 皆、思いっきりスイーツ満喫していくぞ、です!」
 二葉の宣言に、皆のテンションは最高潮だ。女子だけではなく、なにげに男性陣もスイーツを楽しみにしていたようで、ケーゾウや尊もしっかり会場の中に消えてゆく。
「わあ、待ってました! あ、あの……取り替えっこしながら食べ比べ、とか、やってみてもいいですか?」
「おうアイビー、遠慮せず一緒に食うぞ、です」
 もじもじと可愛く申し出るアイビーに、二葉をはじめとする女性陣が集まり、キャッキャウフフとスイーツ女子の輪を広げてゆく。
「ボク達のおかげで助かったんだもの、いっぱい食べても誰も文句を言わないはずだよ、ねっ? ……持ち帰ってもいいよね?」
「はい、もちろんですよ。どうぞ係の者にお申し出下さい」
 しっかり持ち帰りも画策するアリルの言葉を聞きつけたシェフは、クスッと笑って彼女の申し出を快諾した。
「よし、ピリカちゃん、早く箱に詰めて! 皆にもって帰るよ」
「はわーっ、これも、それもおいしい……っ♪、って、はいっ、喜んでっ!」
 夢見心地でスイーツを味わっていたピリカは、アリルのお土産詰めを手伝いながら、帰りを待つ仲間たちの笑顔を思い浮かべる。
 おいしいスイーツたちの、幸せの魔法の力……それは、人々の笑顔を守ったケルベロスたちへの、何よりのごほうびだった。

作者:桜井薫 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。