長閑やかな冬の夜空の双子星

作者:奏音秋里

 打ち寄せる波音と、雲の隙間に煌めく星達。
 青年は、夜空に自分の星座を探していたのだが。
「あれ?」
 視線の先には、はっきりと2人の少年の姿があった。
 此方に気付くと、怖い顔をして迫ってくるではないか。
「え、ちょっ、わぁーーーーーっ!!」
 声を上げ、眼が覚めて初めて、夢だったことを認識する。
 ふぅ……と、ひとつ息を吐き出したときだった。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 青年がなにかを言うより早く、大きな鍵はその胸を貫く。
 再び布団に倒れ、瞼を閉じるのだった。

「双子座って、冬の星座だったのですね」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の手には、星の本。
 事件のこともあり、ちょっとだけ調べてみたのだ。
「それでは、説明しますね。ドリームイーターに『驚き』を奪われてしまったのは、大学生の男性。文系ですが、宇宙に興味があるようです」
 今回の情報は、ロイ・リーィング(見兔放犬・e00970)の調査によるもの。
 現実化したドリームイーターを倒し、被害拡大を防がなければならない。
 毎度のことながら被害者は、ドリームイーターを倒せば意識をとり戻すらしい。
「ギリシャ神話の双子座の姿をしていますが、2人で1体のドリームイーターとして生まれたようです。仲がよいですね」
 繋いだ手を離すことはなく、星座よろしく向かって右側が兄で、左側が弟。
 兄は知識を喰らうモザイクを、弟は悪夢を視せるモザイクを、それぞれ放ってくる。
 そして繋がれたままの手からは、自分達を癒すモザイクも生成するのだ。
「青年は、大学から歩いて15分くらいのところに住んでいます。大学であればグラウンドもありますので、戦うには充分かと。警備員に頼めば、照明も点けていただけるでしょう」
 ドリームイーターを突き動かしているのは、誰かを驚かせたいという衝動。
 青年の家から大学までの道程の通行を制限して歩いていれば、誘導できるだろう。
 加えて。
 動じない相手へ狙いを定める性質があるため、必要に応じて利用してほしいとのこと。
「皆さんなら大丈夫ですよね。よろしくお願いします」
 にっこり笑んで、セリカはケルベロス達を送り出した。
 青年は勿論、皆の無事も、星に祈りながら。


参加者
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)
ロイ・リーィング(見兔放犬・e00970)
塚原・宗近(地獄の重撃・e02426)
ガルソ・リーィング(若き古城の領主・e03135)
リィンハルト・アデナウアー(燦雨の一雫・e04723)
幌々町・九助(御襤褸鴉の薬箱・e08515)
ヒルデ・リーベデルタ(光源氏計画遂行者・e11141)
天原・俊輝(偽りの銀・e28879)

■リプレイ

●壱
 ケルベロス達は、被害に遭った青年の自宅へと急行した。
 此処から大学のグラウンドまで、ドリームイーターを誘導する。
「どうだ、大丈夫だったか?」
「うん。ちゃんとケルベロスだって名乗ったから。照明は点けておいてくれるみたいだ。キミの言っていた戦闘時間も、伝えておいたよ」
 心配そうに、幌々町・九助(御襤褸鴉の薬箱・e08515)が顔を覗き込んだ。
 塚原・宗近(地獄の重撃・e02426)は、携帯電話を片付けながら答える。
 落ち着いて安心させるように【隣人力】の特性も活かして、話した結果を。
 2人は、事前に大学の警備員へと連絡をつけて、必要なコトをお願いしておいたのだ。
「わぁ……やっぱりいたんだね。双子さんかぁ……こいつも強いのかな? 楽しみだなぁ。それにガルソ様とご一緒、とっても心強いなぁ」」
 電話でこと足りたことに安堵しつつ、これからの出会いにわくわく。
 愛用の洋燈で足許を照らし、ロイ・リーィング(見兔放犬・e00970)も皆についていく。
「おぅ。書類整理ばかりで飽き飽きしていたからな、久しぶりに暴れるとするか」
 ガルソ・リーィング(若き古城の領主・e03135)が、胸の前で両手を打ち付けた。
 事件発覚に協力したロイとは主従のような関係で、番犬のような感覚で接している。
「星座のドリームイーターさんって素敵な響きだけど……でも、放ってはおけないもんね。悪さをする前にしっかり倒すのがお仕事、だよね!」
 言葉に合わせ、リィンハルト・アデナウアー(燦雨の一雫・e04723)の蒼白髪が揺れた。
 【殺界形成】を使って、一般人が紛れ込まないよう常に気を配っている。
「双子座のドリームイーターなんて、聞く限りはロマンチックなんですけどね。一体、どんな風に脅かしてくるんでしょうか……お、お腹痛くなってきました」
 結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)は、ぎゅうっと腹部を押さえた。
 幾ら場数を踏んだとしても、戦うことへの恐怖は簡単には消えてくれない。
「大丈夫ですよ、1人じゃありませんから」
 そんな過去を識ってか知らずか、天原・俊輝(偽りの銀・e28879)が笑いかける。
 もう、大切なモノを失いたくないから。
「2人で1体……仲違いしたら大変そうじゃのぉ……」
 ヒルデ・リーベデルタ(光源氏計画遂行者・e11141)は、ふとそんなことを呟いた。
 唇も、当てる右手の爪も、髪や瞳と同じ、綺麗な朱色に塗られている。
 そんな感じで噂話をしながら、暫く歩いていると。
「ん? あれは若しや……で、出たあああぁぁ!!??」
 なにやら気配を感じて振り返ったレオナルドの視界に、双子の姿。
 仲間も吃驚するほどの叫び声をあげて、一目散に駆け出した。
「びっくりしたのじゃ、口から心臓ならぬ火が出るところだったのじゃ」
 どちらかというと声に驚いたのだが、ヒルデも大袈裟に炎を吐いてみせる。
「えぇっ!?」
「変わった奴もいるもんだなー」
 此方は控えめに、だが驚くロイはガルソの右腕を掴んだ。
 たいして主人は驚くこともなく、ただただ感心するばかり。
「うわーっ!! 怖い顔で追いかけられるのって、割とホラーだよね!」
 メディックでもあるため、狙われないようにしっかり驚くリィンハルト。
「ううっぉおあ!?」
 段々と距離を詰めてくる双子に、九助は本気で驚愕の声を発した。
 背後に浮遊するビハインドは、素知らぬ貌で星空を見上げている。
「皆さん、もう少しです」
 俊輝の指す先、交差点を渡れば、グラウンドだ。
「質の悪い悪戯とは、まさにこのことかな。この程度で驚いていたら、これから先やっていけそうにないからね」
 動じることなく、宗近も優先的に攻撃を受ける役割を担っている。
 硬い土を踏み締めて、全員でドリームイーターと対峙した。

●弐
 改めて、照らされる姿をまじまじと見詰める。
 固く結ばれた両手も、全身が、きらきらと瞬いていた。
「演技で驚くつもりでしたが、必要無かったですね……こ、怖いですけどがんばります!」
 標的を外れたことで、攻撃に専念するレオナルド。
 二振りの日本刀を交差させつつ横に薙ぎ、空間ごと斬り捨てる。
「星を見ていたらこわーい顔のドリームイーターさんに追いかけられるなんて、びっくりっていうかホラーだよ怖いよねっ。 そんなドリームイーターさんにはご退場願うんだよぉ」
 リィンハルトは、正確に狙いを定めてウイルスカプセルを投射した。
 兄の頭部へと命中して、治癒を阻害するウイルスが拡がっていく。
「舞い散れ桜よ、敵を切り裂け!」
 理力属性の攻撃の効果の程を確かめるため、ロイの降らせる桜吹雪。
 ドリームイーターの足許がふらつき、瞼を閉じさせる。
「これ以上の悪事は許しません」
 正面からは俊輝の回し蹴り、背後からはビハインドの物理攻撃で、挟み撃ち。
 先程までの笑顔は跡形もなく、鋭い眼差しで睨み付けて。
「兄弟仲よしで結構なこった。仲よきことは美しきかな、と、言えりゃよかったんだが。悪いな、ちいとお前らにゃあ、空に還ってもらうぜ」
 火力の厄介な弟へ、ビハインドとともに攻撃を喰らわせる九助。
 金縛りにしておいて、ライトニングロッドから雷を奔らせる。
「さっき走ったので準備運動も済んだし、覚悟してね。この一撃の重さが全てを証明する」
 堂々とした態度で、宗近は真正面から鉄塊剣を構えた。
 力も想いも、持てる総てを籠めて、正確無比な一撃を放つ。
「番犬が敵を見つけたんだ。当然、主人も殴りにこねぇとな」
 得物に纏わせて、ガルソが叩き付ける炎。
 右腕から燃え移る紅蓮が、ドリームイーターの体力を削っていく。
「バスターは妾を中心に、皆を守ることに集中するのじゃ。連携をとりながら、しっかりと動くのじゃよ? 主を守るのは当然の役目じゃが、己が危なくなったら回復はしっかりするのじゃぞ」
 撃ち出したオーラの弾丸が、ドリームイーターへと喰らい付いた。
 確と言い聞かされたボクスドラゴンは、ヒルデへバッドステータスへの耐性をつける。
 ケルベロス達は、未だ眠りから覚めぬドリームイーターを、警戒しつつも攻撃し続けた。

●参
 左右で別々の姿をしているが、その生命は1つ。
 神話の双子よろしく、消える刹那まで一緒に。
 繋ぐ手から生み出されるモザイクは、そんな願いを宿しているよう。
「回復は、僕に任せて! 癒しの惠雨、その一雫、ここに」
 リィンハルトも、回復担当としての強いキモチを持っている。
 自分がいることで皆が攻撃に集中できるよう、癒しの雨を凝縮した粒で傷を癒した。
「変わった相手だけれど、最期まで油断せずにかな」
 どのような敵だろうとも、冷静な心で剣を振るう宗近。
 重厚な一撃で叩き潰し、確実に追い込んでいく。
「空の上には……」
 それだけを零して、ポルターガイストを追うように肩口から大量のミサイルを発射した。
 いまこの瞬間も其処にいるのだろうかと、俊輝は想いを馳せる。
「その手、大事なら、離すなよ……来世じゃもうちょい品よく生きな」
 ビハインドに縛られ動けぬ足許へと、九助が錫杖から放つ浄玻璃の灯。
 ドリームイーターの罪も嘘も悪意をも暴き、火葬せんと展開する。
「心静かに――恐怖よ、今だけは静まれ!」
 胸へ手を当てて深呼吸してから、その懐へと入り込むレオナルド。
 自らの心臓の炎から生み出した陽炎に紛れて、高速の連撃を浴びせる。
「地獄の業火に灼かれて消えろ! さぁ、妾に続くのじゃ、ロイ」
「はい、ヒルデさん。ええいっ!! ガルソ様っ、お願いします!」
「紅き地獄よ……我の前に立ち塞がる下賎なものを美しく飾れ……紅蓮地獄乱舞」
 大きく開いた口から、身のうちに燃える炎を吐き出すヒルデ。
 こんな面倒な戦闘など、さっさと終わってしまえという強い意思を籠めて。
 間髪入れず、ロイが砲撃形態へと変形させたドラゴニックハンマーを打ち下ろす。
 優しい姉であるヒルデから、大切な主人であるガルソへ。
 繋げられた連携に応えるべく、詠唱を終えると同時に己の業火で以て彼の身を抉る。
 流血は深紅の蓮のように固まり、末には双子の中心に咲き誇る紅蓮の花。
 砕け散れば、ドリームイーターの身も粉々に割れ、その場へ散らばった。

●肆
 変わらず、雲ひとつない星空。
 時計の針は、つい先程、日を跨いだ。
「柔らかに。けむるような雨を」
 皆の頭上へと、万物を潤すような雨を降らせる。
 口許を緩ませて、俊輝は戦闘に際して外していた『伊達眼鏡』をかけ直した。
「ありがとう。怪我は完治したから、あとはグラウンドかな。修復して学生達が使えるようにしないとだね」
 ケルベロスコートの裾に付いた汚れを払って、ぐるりと見まわす。
 宗近が主導して、グラウンドをヒールグラビティで修繕した。
「折角だし、ちょっと星空を眺めていかない? やっぱり星座は夜空で輝いてこそ、だよ」
 夕暮れよりも鮮やかなピンクの瞳を輝かせて、提案するリィンハルト。
 休憩も兼ねて、暫しの自由行動となった。
「ちょうど今晩も見えますね。あれがポルックス、あっちがカストル。綺麗な星空ですね」
(「双子座、兄弟、ですか。姉さん、いつか貴女の仇は……」)
 星の説明をしながら、レオナルドは胃のある辺りを押さえる。
 宿敵である魔女達の企みを止めるためにも、眼前のひとつひとつの事件を解決しよう。
 そう、誓いを新たにした。
「あれだな。寒いし、おでんでも食いてえなあ。なぁ、八重子もそう思うだろ?」
 ビハインドである亡き姉とともに、近くのコンビニエンスストアへと向かう九助。
 数分後、なんと全員分のおでんを買ってくる辺り、面倒見のよいお兄さんである。
「今回は偉かったな、ロイ。見付けてくるだけじゃなく、ちゃんと倒したしな」
「そうじゃのう。帰ったら、一緒に星座パフェでも食べにいくかえ? 妾、疲れたし」
「はい! ガルソ様とヒルデさんと、みんなで行きたいです」
 ガルソは、左手でわしゃわしゃっと、ロイの頭に手をやった。
 褒められると嬉しいし、更なるやる気も出るだろうと。
 大喜びの様子に、ヒルデもお疲れさまと頭を撫でる。
「強かったね、ありがとう」
 自身の星座でもある双子座へ、祈りを捧げて。
 ご機嫌なままで、2人の腕のなかへと潜り込むのだった。

作者:奏音秋里 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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