妖精は無慈悲に舞い踊る

作者:波多蜜花


 チカチカと小さな紫色の光が明滅しながら飛んでいる。不規則な動きを見せるそれは、まるで踊るのは飽きたとばかりにピタリと止まった。
「あら、撤退なのね。了解したわ、コマンダー・レジーナ」
 プツリと糸が切れるかのように、通信は終了する。
「あっさり帰るなんて、ちょっとつまんないわね」
 潜伏活動を続けていた小さな光は、唇を尖らせて呟いた。それから光溢れる夜景を眺めると、良い事を思いついた子どものように微笑んだ。
「少しくらい遅れて戻っても大丈夫よね? ええ、そうよ! だって帰るなら手土産のひとつやふたつは必要だもの!」
 なんて素敵な考えだろうと、紫色の光は楽しげにビルの屋上から舞い降りる。
「ああ、あの人間でいいわ」
 人気のない歩道を歩く女はレプリカントではないけれど、グラビティ・チェインを得るのに情報は必要ない。そっと後ろから近寄って、背中のアンカーを女の背中を突き刺した。鮮血は情報をくれないけれど、確かにグラビティ・チェインを『ブレイクハート』にもたらしたのだった。
「あはは、これはこれでいいものね! もっともっと、レジーナ様が驚くくらい集めてあげる!」
 楽しげに笑った妖精型ダモクレスは次の獲物を求めて飛び去るのだった。


「皆、よお聞いてな。クリスマスにゴッドサンタが言っとった指揮官型ダモクレスの地球侵略が始まってしもたんよ」
 指揮官型の一体である『コマンダー・レジーナ』は、既に多くの配下を地球に送り込んでいたようで、彼女の着任と同時に潜伏していたダモクレスが動き出したのだと信濃・撫子(撫子繚乱のヘリオライダー・en0223)は言う。
「大抵のダモクレスは撤退命令を受けてレジーナの元へ向かったようなんやけど、中には行きがけの駄賃やとばかりにグラビティ・チェインを略奪してこうとするんがおるみたいでな」
 今回頼みたいのは、そのうちのひとつなのだと撫子が分厚い手帳を捲る。
「妖精型のダモクレス『ブレイクハート』が引き起こす事件なんやけどな?」
「妖精型?」
 撫子の言葉に、猫塚・千李(三味を爪弾く三毛猫・en0224)が首を傾げた。
「そうなんよ、このブレイクハートは子どもくらいの大きさの妖精型ダモクレスなんよ。本来やとレプリカントに取り付いて強制的に情報を引き出すみたいなんやけど、今集めようとしてるんは情報と違ってグラビティ・チェインやから、目に付いた人を手当たり次第にってとこやろね」
 事件が起こるのは夜の街で、人気のない場所を歩く人間を狙って行われるらしい。
「まぁせやけど、今から行けば人気のない歩道で女性を襲おうとしとるブレイクハートと接触は可能やと思うわ。ただなぁ、厄介なんが襲う寸前やないと捕捉できへんとこでなぁ……」
 可能であれば、と撫子がケルベロス達を見る。
「女性を先に逃がして自分らが囮になるんもええと思うんやけど、囮になるなら1人。1番ええのはレプリカントやね」
 もちろんそれ以外の種族であっても問題はないだろう。ブレイクハートの役目からすれば、男女関係なくレプリカントの方がより引っ掛かり易いだろうというだけだ。
「ブレイクハートは可愛らしい容姿をしとるけど、侮っていい相手とはちゃうよ。それに囮になるってことは先に一撃もろてしまう可能性もあるやろしな」
 油断は禁物だと撫子は手帳を閉じた。
「予想以上に多くのダモクレスが潜伏してたみたいやね……コマンダー・レジーナや他の指揮官達との戦いも厄介なもんになりそうや」
 それでも、まずは目の前の起こりうる被害を食い止めて欲しいと撫子はケルベロス達を見つめて言った。


参加者
ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)
鏃・琥珀(ブラックホール胃袋・e01730)
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)
試作機・庚(試作戦闘機・e05126)
ノーザンライト・ゴーストセイン(ヤンデレ魔女・e05320)
篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)
火鳴木・地外(酷い理由で定命化した奴の一人・e20297)
時雨・乱舞(純情でサイボーグな忍者・e21095)

■リプレイ

●罠に掛けて
 運悪く残業となってしまった女が腕時計を見ながらエレベーターから降りてくる。守衛と軽く挨拶をしてビルから外に出れば、街灯が灯っているだけの夜道が見えた。
「ここ、駅から少しあるから遅くなると人がほとんど通らないのよね……」
 溜息混じりに呟いた女性が駅を目指して歩き出そうとした瞬間、それを引き止めるように試作機・庚(試作戦闘機・e05126)の声が響いた。
「失礼、ケルベロスデス。これから作戦が始まるデスから、作戦終了までしばらく待ってもらってもいいデスかね?」
「えっ!?」
 驚いた女性に、パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)が言葉を重ねる。
「デウスエクスが出現するという情報がアリマシタ。スミマセンが、安全確保のためこちらへ」
 社内に戻るよう、パトリシアが手を伸ばす。
「えっと、あの……」
 突然の事に慌てふためく女性に庚がケルベロスカードを見せると、やっと女性も事態を把握したのか大人しく2人の言う事に従った。守衛のおじさんが戻ってきた女性に忘れ物かと声を掛けたけれど、理由を聞くとケルベロス達の作戦が終わるまで守衛室でお茶でも飲んでいればいいと言ってくれたので、パトリシアと庚は女性を任せてブレイクハートが現れる……仲間達が待つ場所へと急いだ。
 同時刻、人気のない歩道を篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)がアイズフォンを使用しながら歩く。囮として不自然さが出ないよう、事前に話を通していた陸也と通話を行っていた。
「はは、その都市伝説全部一緒でしょう? ターボ婆もマッハ婆もロケット婆も」
 通話口の向こうで、陸也が笑う声が聞こえる。その声に感謝しながら、本当にいるかもしれないけれどと都市伝説のそれらを探すように視線を彷徨わせる。僅かに感じた気配に、自然体を押し通す為に気が付かない振りをしてゆっくりと歩き続ける。もちろん、通話は行ったままだ。
 自分の周囲には信頼できる仲間達がいる、それも佐久弥の自信へと繋がっていた。そんな彼を狙うように、後方の空中からブレイクハートはにんまりと笑みを浮かべる。
「ふふ、丁度いいところにレプリカントがいるじゃない。情報も、グラビティ・チェインも手土産にできるなんて最高だわ!」
 背中から生えた4個のアームが音もなく動き、紫色の光が揺れた。風を切る音がした、と感じると共に佐久弥が重心を右にずらす。
「ぐ……っ!」
 背中に突き刺さる2本の杭のような物の感触、それから確かに自分の腕に掴まえたアンカーの感触は自分が囮としての役目を果たした事を佐久弥に伝えていた。
「な……! あたしのアンカーを止めたの!? あんた、普通のレプリカントじゃないわね!」
「レプリカントっすよ、ただしケルベロスだけどね」
 反射的に背中に突き刺したアンカーを引き抜き、逃げようと試みるけれどブレイクハートの残り2本のアンカーを佐久弥が両手で抱え込んでいる為それもままならない。隠れていた仲間達が、ブレイクハートを捕らえたのを視認して飛び出していく。冴え渡る月の下、それが戦いの引き金となった。

●妖精は無邪気に嗤う
「家に帰るまでが偵察任務です……寄り道せずに帰りましょうって学校で習わなかった?」
 ノーザンライト・ゴーストセイン(ヤンデレ魔女・e05320)が佐久弥の傷を確認し、その手をひらりと振った。
「初の手術だから……失敗したらごめん」
 何か空恐ろしい言葉が聞こえたけれど、ノーザンライトの施す魔術切開とショック打撃は鮮やかに傷口を癒していく。ブレイクハートは悔しげに睨んだが、次々と姿を現すケルベロスに逃亡よりも戦いを選んだかのように嗤った。
「いいわ、手土産代わりにあんた達ぜーんぶ壊してあげる!」
 拘束を振り払い、ブレイクハートのアンカーがドリルのように唸る。その攻撃は一番近くに居た佐久弥を狙うが、駆け付けた火鳴木・地外(酷い理由で定命化した奴の一人・e20297)が間に滑り込み受け止める。
「……ふぅ。最近の女型ダモクレスも捨てたもんじゃねぇってことか。やるじゃねぇか」
 不敵な笑みを浮かべるけれど、地外の視線はブレイクハートのぼんっきゅっぼんな胸部に釘付けだ。嗜めるようにウイングキャットのおむちーがその頭へ尻尾をぺちんと叩き付けている。
「わかってるよ! そっちは頼んだぜ、おむちー!」
 エアシューズに力を込めて、地外が流れる星の力を宿した蹴りを放つ。その軌跡の後ろで、おむちーが翼を羽ばたかせ、清浄な風を地外へと送った。
「……随分と余裕みたいだけど、余計なことしなければ私たちに見つかることもなかったんだろうにね」
 ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)がケルベロスチェインを精神操作によってブレイクハートへと巻き付かせる。
「つかまえた……逃がさないよ」
 逃がす理由もないとばかりに赤いフードを揺らしてロベリアの鎖が敵を締め上げると、彼女の双子の姉であるビハインドのイリスが大きな鎌を手にブレイクハートの背後に現れ攻撃を加えていく。
「サードバインディングシステムリパレート、システム牙持つ影を操る狂王(キングス・マインド)、起動(イグニッション)」
 擬似サーヴァントである小型のロボットを大量に生成し、鏃・琥珀(ブラックホール胃袋・e01730)が『擬似サーヴァント:トルーパー・モデル(トルーパー・モデル)』を起動する。
「全機起動、第一小隊は周囲に展開。私の護衛をしてください」
 それは活動制限があるものの、琥珀の命令により主を守ろうと鉄壁の布陣を敷いた。ブレイクハートと縁を持つ琥珀は、彼女が動いているということは、もしかしたら本格的にハンターが動き出したのかもしれないと考えていた。
「杞憂であればいいのですけど」
 幽かな呟きは闇夜へと消え、時雨・乱舞(純情でサイボーグな忍者・e21095)がライドキャリバーのシラヌイと共に動く。
「さあ、我が幻影よ……踊りなさい!」
 印を結んだ乱舞の表情は険しい。遊び感覚で人を殺し、それによってグラビティ・チェインを手土産にしようというブレイクハートに向ける感情は怒りしかなかった。乱舞が『幻影乱舞(ゲンエイランブ)』によって作り出した影分身達とブレイクハートへ一斉に攻撃を仕掛けると、漆黒の龍を思わせるフォルムをしたライドキャリバーのシラヌイが炎を纏って突撃していく。
「千李、ウィッチオペレーションでお願い!」
「任せろ」
 ノーザンライトの声に短く答え、猫塚・千李(三味を爪弾く三毛猫・en0224)が佐久弥へウィッチオペレーションを展開する。その間に、被害に合うはずだった女性を避難させていた庚とパトリシアが戦場へと合流した。
「遅くナリマシタ! 女性の避難はバッチリデス!」
「遅くなった分、きっちり働くデスよ」
 戦列に加わったパトリシアと庚をブレイクハートが睨む。
「いいわ、手土産が増えたと思えばいいんだから!」
 逃げる隙なく自分を取り囲むケルベロス達にブレイクハートが嗤うように吼えた。

●落ちる翅
 ケルベロス達の攻撃の幾つかをブレイクハートが舞うように避ける様は、空中を飛ぶ姿と相まって妖精と呼ぶに相応しかった。けれど全ての攻撃を避けきれる訳でもなく、徐々に損傷は広がっていた。
「そろそろ地に落ちてみては如何デスかね」
 ドラゴニックハンマーを手に下庚がハンマーを砲撃形態に変形させ、その大きな砲撃形態を構え竜砲弾を撃ち放つ。庚が涼しい顔で反動をヒールで受け止めたその横で、ボクスドラゴンの辛が属性インストールを負傷者へと注入していく。
「同胞よ――いまひとたび現世に出で、愛憎抱くトモを守ろう。ヒトに愛され、捨てられ、憎み、それでもなおヒトを愛する我が同胞達よ――!」
 佐久弥が自身の躰を構成するネジの一本、歯車の一つとなった廃棄物のダモクレス(付喪神)達へと呼び掛け、『付喪神百鬼夜行・先導(チリヅカカイオウ)』を発動する。それらは彼の声に応え目の前の敵を戒めていった。
「ロベリア!」
「ノーちゃん!」
 ノーザンライトの声が響くと、ロベリアがノーザンライトの意思を汲んで動く。瞬時に理解できたのは、感情の縁を結んでいるからだろう。ブレイクハートに向かって突き出されたノーザンライトの掌からドラゴンの幻影が放たれると、ロベリアが鉄塊剣に地獄の炎を纏わせて敵に叩き付けた。
「火炎二重奏と書き、ドラゴニッククラッシュとルビを打つ……どや?」
「その心は……って言ってる場合じゃないね!」
 ブレイクハートのアンカーが動く様子を見てロベリアが距離を取ると、サポートで駆け付けたシヴィルのゾディアックソード『黒点』が唸る。
「同じ旅団の縁として、死力を尽くさせてもらう!」
 ロベリアと鏃が心強い味方に手を上げれば、シヴィルがそれに微笑んでみせた。
「この……っ! 邪魔しないでよね!!」
 ブレイクハートのフィルムスーツの紫のラインがチカチカと発光すると、背中から生えたアンカーが駆動音を立てて開く。大量のミサイルを搭載したポッドをノーザンライトとロベリアへ向かって撃ち放った。小さな悲鳴に満足したように嗤ったブレイクハートに、パトリシアが駆ける。
「最速最大の攻撃を叩き込んでアゲルワ」
 獣のような気迫と共に、左腕の銀籠手『神滅銀拳魔凱金剛』と右腕の金籠手『絶魔金腕修羅幻神』が唸る。
「四十八つ裂きにするワヨ!」
 敵を獣の爪で蹂躙するかの如く、『四十八つ裂き・BN(ヨンジュウヤツザキビーストナイト)』によってブレイクハートに攻撃が決まる。眼前にいるのは屠るべき敵なのだ、パトリシアに容赦はなかった。
「負けてらんねぇな!」
 パトリシアの動きに、ついでにその胸に釘付けになっていた地外がブレイクハートの懐へと飛び込むと、高速演算により敵の構造的弱点を胸だと結論付けた勢いのままに、胸部に向かって苛烈な一撃を放つ。
「油断したな! これが! レプリカントの! 力だ! ……お前の胸部装甲、やわかったぜ」
 サムズアップする地外の頭を踏み、跳躍したおむちーが翼をノーザンライトとロベリアへ向け羽ばたかせると、イリスが心霊現象を起こしてブレイクハートに金縛りを掛けた。
「あなたが動いているということは、ハンター達が動きだしたと思っていいの」
 琥珀の問い掛けにブレイクハートは答えない。最初から答えるとも思っていなかった琥珀が、胴に部分に装備されたアームドフォートをブレイクハートに向ける。
「一斉放火、撃て!!」
 主砲を一斉に打ち放てば、ブレイクハートの動きが鈍くなる。駆動系統に乱れが生じているのだろう。それを見逃さず、乱舞が螺旋手裏剣を構えた。
「シラヌイ、いきますよ!」
 乱舞の声に、シラヌイがエンジン音を響かせる。乱舞の手から放たれた手裏剣は、螺旋の軌跡を描いてブレイクハートのアンカーのひとつを破壊した。バランスを崩して地に落ちたブレイクハートに、シラヌイが激しいスピンでその足を轢き潰すと、千李が『紅瞳覚醒』により癒しの歌声を響かせる。
「そろそろ稼動限界デス? なら、とっておきをお見舞いするデスよ」
 庚が背中や肩の装甲からミサイルポッドを出し、ブレイクハートに照準を合わせる。
「誘導方式変更、ロックオン……」
 ピピピ、と電子音が響いたと思うと、ミサイルポッドから全てのミサイルが放たれ、ブレイクハートを全方位から捉えると次々と攻撃していく。
「着弾確認、対象の活動限界が近いと思われるデス。辛!」
 庚の声に、辛がボクスタックルで体当たりをかます。既に満身創痍とも言えるブレイクハートのフィルムスーツは所々破れ、パチパチと漏電しているような音を立てていた。
「妖精も妖怪も、友好的なのから恐ろしいのまで……幅広いのも同じだね」
 佐久弥がブレイクハートに語り掛ける。それは佐久弥としてではなく、塵塚怪王としてだろうか。
「輩と呼ばせてもらおうか。輩よ、ヒトにつく気はあるかい。憎らしくも愛おしいヒトと共に歩む気は?」
 穏やかに静かに、そう問い掛けた。
「あはは! 面白いことを言うのね、ケルベロス! ないわ、あたしにとって人間はグラビティ・チェインの苗床としての価値しか見出せないもの!」
 妖精が嗤う。佐久弥がそうか、と短く言って『鉄塊剣“以津真天”』と『鉄塊剣“餓者髑髏”』を構え、ブレイクハートを十字に切り裂いた。弱々しく光る紫に、ノーザンライトが唇を噛締める。
「……投降するなら、命までは取らない」
 マインドリングから具現化した光の盾をパトリシアへ展開させながらノーザンライトが言う。
「甘いのね、ケルベロス」
 ブレイクハートが無邪気に嗤って、残った背中のアンカーをドリルのように回転させてパトリシアへ繰り出した。それはノーザンライトの作り出した盾を壊し、パトリシアに僅かな傷を負わせる。
「ワタシはアンタをぶっ壊してイイ、そうデスネ!」
 金と銀の籠手を輝かせ、パトリシアがブレイクハートへ降魔の一撃を放つ。
「ブレイクハートのハートを狙い撃ちだぜ!」
 妖精弓を構えた地外が、心を貫くエネルギーの矢を番える。口元に笑みを浮かべると、その心臓部を狙って矢を放った。それは闇夜を駆け抜けるようにブレイクハートの心臓部を穿ち、おむちーが清らかなる癒しの風をパトリシアへ向けた。
「地獄に吹くこの嵐、止まない嵐を見せてあげる」
 ロベリアが両腕を構成する地獄の一部を無数の刃へと変形させ、剣風と共に叩き付ける。『悪意の嵐(オラージュ・ド・ロベリア)』はブレイクハートの傷口を蝕んでいく。その傷口を狙うかのように、イリスが周囲の物に念を籠めて飛ばした。
「終わりね」
 短い言葉の中に、琥珀は何を思ったのだろうか。浅からぬ因縁を持つ相手に、2丁のバスターライフルを構える。そして、ありったけの力を込めて両手のバスターライフルから巨大な魔力を撃ち放った。その魔力の奔流は、ブレイクハートを飲み込んで跡形もなく消し去ったのだった。

●月は輝く
 パトリシアと庚が女性に作戦が終了した事を伝えに行き、残った者は戦闘で被害を被った箇所のヒールやその手伝いをしていた。少しファンタジーな外見になってしまったけれど、支障はないだろう。
「人と呼ぶには心が未熟……ダモクレスとレプリカントの差って、何だろ」
「私にはわからないけど、人を想う気持ちがあるかないか……なのかな?」
 ノーザンライトの独白に、ロベリアが答える。佐久弥の視線が、ブレイクハートが倒れた場所へと彷徨った。
「人に近い姿であっても、人の心を持つ者と持たざる物……そういうことなのでしょう」
 乱舞がそう言えば、シラヌイが主に寄り添うように動きを止める。
 琥珀がこれから起こるかもしれない事件の可能性を憂いながら、空を見上げた。薄く掛かる雲を切り裂くように、どんな未来がこようとも立ち向かう決意と共に――。

作者:波多蜜花 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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