食人魔法少女

作者:氷室凛


 人通りの少ない、静かな夜の街。
 街灯の下を幼い少女が一人で歩いていると、とんでもない光景が目に飛び込んできた。
「ふんふんふん~♪」
 ひらひらのフリルの衣装を着た魔法少女が、チェーンソーを抱えてスキップしていたのだ。
 二人は目が合った。
「あっ……ごめん。びっくりした? これいま映画の撮影で使ってるやつでさぁ……本物じゃないから安心してね」
 そう言って魔法少女は、にぱっと笑って駆けていく。
 チェーンソーを見て一瞬心臓が止まりそうになった少女だったが、安堵して再び歩き出した。
 だがしばらく歩くと背後からコツコツと足音が聞こえてきた。
 振り返ると、先ほどの魔法少女がチェーンソーを唸らせながら襲い掛かってきた。
「……なんてね♪ おいしそうな女の子発見ー! さっそく解体して食べちゃうよー! 覚悟しなさい!」
「きゃあああー!」


 と、そこで目が覚めた。
 布団で寝ていた少女はガバッと起き上がり、寝ぼけまなこをこする。自分の部屋だ。
「何だ……夢かぁ~」
 ほっと安堵する少女。
 だが、ふと見ると部屋に見知らぬ女性の姿があった。
 その女性――第三の魔女・ケリュネイアは手にした鍵を少女の胸に突き刺す。
 鍵は心臓を貫いたものの、少女はケガもせず死にもしない。これはドリームイーターが人間の夢を得るために行う行為なのだ。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 ケリュネイアはそう言うと部屋の窓を開けた。驚きを奪い取られてしまい、布団にパタリと倒れ込む少女。その体が発光した次の瞬間、窓の外には少女の夢に登場した魔法少女の姿が具現化していた。
 可憐な姿をしたドリームイーターは、重そうなチェーンソーを片手に夜の街を歩いていく。
 驚きを奪われた少女は深い眠りに落ちている。ドリームイーターを倒さない限り彼女は永遠に目覚めることはない。


「子供の頃って、あっと驚くような夢をよく見たりしますよね! 理屈は全く通っていないのですが、とにかくビックリして夜中に飛び起きたりとか……そのビックリする夢を見た子供が、ドリームイーターに襲われて『驚き』を奪われてしまう事件が起こっています!」
 ヘリポートに集まったケルベロスたちの前で笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が説明を始める。
「『驚き』を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているようですが、奪われた『驚き』を元にして具現化された魔法少女のドリームイーターが、事件を起こそうとしています。被害が出る前に対象を撃破して下さい!」
 ドリームイーターを撃破すれば『驚き』を奪われてしまった被害者も目を覚ますだろう。
「なお、敵が使用する技は『ゾディアックソード』のグラビティに準拠した技です」
 ドリームイーターは相手を驚かせるのが好きなので、指定されたエリアの周辺を歩いていれば向こうから近づいてくるはずだ。
 現場への到着予定時刻は夜になる見込み。夜なので人通りが少ないとはいえ、現場は市街地。何かしら人払いをしておくと安心して戦えるはずだ。
「街の人々を守るため、そして眠っている少女を救うため、ドリームイーターを撃破してください。それでは、よろしくお願いします」


参加者
風魔・遊鬼(風鎖・e08021)
南條・夢姫(朱雀炎舞・e11831)
音無・凪(片端のキツツキ・e16182)
アテナ・エウリュアレ(オリュンポスゴルゴン三姉妹・e16308)
ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)
アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)
フェニックス・ホーク(炎の戦乙女・e28191)
鉄砲小路・万里矢(てっぽうはつかえません・e32099)

■リプレイ

「魔法少女ですか……ドリームイーターになったというからにはまともなものではなさそうですね」
 街灯に照らされた夜の街を歩きながら、アテナ・エウリュアレ(オリュンポスゴルゴン三姉妹・e16308)がつぶやく。 ケルベロスたちは、敵の捜索と一般人の避難誘導のため、四人ずつ二手に分かれて行動していた。
「一般人が解体されて食われる前に何とかしないとな」
 黒い喪服に身を包んだファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)は、冷静にそう話す。
「夢に驚いただけで目を付けてくるとかタチの悪い奴だね。……面倒だしパパッと倒そうか」
 アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)は冷ややかに言って、青いマフラーに顔をうずめる。
「夢は脳ミソが記憶の整理中の出来事なんだとか聞いたことあるけど……チェーンソーでぶった切られる夢とか、一般人にしちゃただの悪夢だわなぁ……もっとも、そんな悪夢にあたしらは立ち向かうわけだけど」
 音無・凪(片端のキツツキ・e16182)は一般人の姿を見るなり、その無機質な右腕を振り払って剣気解放を発動する。
「オイ、お前らどっかいけ!」
 凪のしゃがれ声が響く。不機嫌な不良のような近寄りがたいオーラを放つ彼女を見て、周囲を歩いていた一般人はそそくさと逃げ出していった。

 一方、別の班の四人も、着々と人払いを進めつつドリームイーターを探していた。
「今日も悪い子をやっつけちゃおう! ドリームイーターには大事な物を返してもらうよ。偽りの魔法少女に慈悲はないんだよー」
 フェニックス・ホーク(炎の戦乙女・e28191)は、無事に依頼が成功するよう祈りつつ、夜の街を進んでいく。この寒い中、褐色の肌を大胆に露出しているフェニックスは、特に寒がる素振りも見せなかった。
「一体どこに隠れているのでしょうか。そろそろ出てきて欲しいものですが……」
 全身黒ずくめの風魔・遊鬼(風鎖・e08021)は、布の隙間から覗く片目で辺りを見回す。まだ敵の気配はない。
「チェーンソー持って歩いてたらデウスエクス関係なく危ない人だからなー」
 頭に二本のツノを生やした鉄砲小路・万里矢(てっぽうはつかえません・e32099)は、そう言って苦笑する。何としても一般人が襲われる前に倒さねばならない。
「チェーンソーを持った魔法少女……ホラー映画でも見た後だったのでしょうか……? チェーンソーホラーは映画とかだけで十分なので、被害が出る前に倒させてもらいましょう」
 ウェーブヘアを揺らしながら、南條・夢姫(朱雀炎舞・e11831)は辺りにキープアウトテープを貼っていく。
「るんるんるん~♪」
 やがて気の抜けた鼻歌とともにドリームイーターが現れた。フリフリの衣装に身を包んだその魔法少女は、服に似合わない禍々しいチェーンソーを手にしている。
「あ、もしもし、おまわりさん? なんかチェーンソー持ってスキップしてる危ない奴がいるんで大至急来てくれませんか?」
 と、万里矢は警察に通報するフリをして仲間へ連絡する。
「コレ魔法少女なんですか!? 最近は杖ではなくチェーンソーなんですか!? 確かに、神を殺す武器だと聞いたことが……」
 アテナが目を丸くしていると、やがて別の班の仲間たちが駆けてきた。
 合流して全員そろったところで、ケルベロスたちは各々の武器を手にドリームイーターと向かい合う。

「いち、に、さん……八人もいるじゃん! やったぁ大漁だ! みーんな解体して食べちゃうから覚悟しなさい!」
 そう言って魔法少女はチェーンソーをブンブン唸らせる。
『ちょいと邪魔させてもらうぜ?』
 すぐに凪が五界・陽炎を発動。黒い炎を周辺に展開して守りを固めていった。
「魔法処女の名を被る、食人鬼よ!」
 アテナは重厚な機械槍を出現させ、両手でそれを握る。
「お義父さ―……じゃなくて大首領様が為、このオリュンポスが聖騎士アテナが成敗いたします!」
 アテナは黒い翼をはためかせて前進し、槍を投げつけた。敵は回避する素振りも見せない。矢のように放たれた槍は、少女の胸を穿った。
 いきなり初撃から敵の出鼻を挫いた――と思われたが、少女はニヤッと微笑む。危険を察知したアテナは少し距離を取った。
 続いて凪が駆け出し、オウガメタルをまとった拳で達人の一撃を叩き込む。魔法少女はチェーンソーで受け止め、盛大に火花が散る。
『これを避けられるかしら?』
 夢姫は大きな手裏剣を手に取り、思い切り放り投げる。少女は後退しつつ、チェーンソーを振って手裏剣を切り裂いた。
 見事なまでに真っ二つにされてしまったが、夢姫は口の端を吊り上げてほくそ笑む。
「ふっ……甘いですね」
 次の瞬間、影から飛び出してきたもう一枚の手裏剣が少女を切り裂いていった。さらにウイングキャットも光の輪を飛ばす。
「うう……やったなー! もう泣いて謝っても許さないぞーっ!」
 魔法少女は血をほとばしらせながら地面を転がると、立ち上がってチェーンソーを大きく横に薙いだ。
 するとその前方に半透明の藍色の氷が波のように広がり、ケルベロスたちのほうへと迫ってきた。
 アビスは味方の前に出て両手を掲げ、『氷縛結界・鎖牢封印』を発動する。周囲の地面から氷の鎖が伸び、敵のグラビティを絡め取っていった。
 だが予想以上に威力があり、アビス一人では抑え切ることができなかった。鎖を打ち破り、周囲の空間を凍結させながら藍色の氷が飛来する。
 アビスはやむをえず、みずからの体でそれを受け止めた。美しく輝く氷がまたたく間に彼女の半身を閉ざしていく。驚くほど冷たく、特に真冬のこの時期は辛い。
「……ふーん、これぐらい大したことないね。驚かせたいならもう少し頑張ったら?」
 アビスは小さく震えながらもそう強がってみせる。
「今度はこっちの番だぜ」
「ああ、早く片付けよう」
 万里矢と共に、ファルゼンも一気に距離を詰めていく。
 敵の懐まで飛び込んだ万里矢は、電光のような回し蹴りを放つ。そしてファルゼンも縛霊撃を叩き込み、網のような霊力で敵の体を絡め取った。
 二人の攻撃を受けて吹き飛ばされた魔法少女であったが、またすぐに立ち上がる。
 少女は唸るチェーンソーを振り上げながら走り寄ってきた。
 だがフェニックスが両手のライフルを構えて引き金を絞り、二本の閃光を放つ。少女が足を止めると、その目の前の地面が弾け飛んだ。外しはしたが、もともと牽制もかねた銃撃。これでは少女のほうもうかつに接近できない。
 フェニックスの背後ではウイングキャットが味方にヒールをかけつつ、軽やかに飛び跳ねて踊っていた。
 歯噛みする少女に、黒い影が静かに忍び寄る。
「…………」
 遊鬼は無言のまま少女の背後に回り込むと、両手のクナイを振りおろす。二本のクナイがその背中を捉えた。
 少女が振り返ってチェーンソーを振り抜くも、遊鬼はひらりとかわして地面を蹴り、素早く下がる。
 少女が遠距離攻撃を放とうとしたその時、背中のクナイが着火し、轟音を上げて炸裂した。爆炎は少女を飲み込み、黒い煙がもくもくと夜空に立ちのぼる。
 遊鬼のクナイは火薬で成形されたのものだったのだ。
 
「やったかな?」
 フェニックスは煙の中で目を凝らす。その直後、魔法少女が飛び出してきた。
 チェーンソーが振り下ろされる。フェニックスはライフルを掲げてそれを防ぎつつ、少女の脇腹に旋刃脚を叩き込む。
「うっ……」
 のけぞる少女のもとへ、さらに夢姫が駆け寄り、スターゲイザーを放つ。光り輝く飛び蹴りが決まり、星のような閃光が散った。
 そして遊鬼が片手を掲げ、氷結の螺旋を飛ばす。少女はチェーンソーで切り裂いたが、凍てつく氷がその体を侵食していった。
 ケルベロスたちが一旦距離を取って体勢を整える一方、少女もゆっくりと武器を構える。
 チェーンソーを持った血まみれの魔法少女――もうそれだけでホラーである。
 だが相手はドリームイーター。しかも人間を食べるらしい。可憐な外見に騙されてはいけないのだ。ケルベロスたちは容赦なく攻撃を仕掛けていった。
 着実にダメージを重ねていく一方で、敵はたびたび自身にヒールをかけつつ、しぶとく反撃してくる。
 少女はチェーンソーを振って藍色の氷を広げた。広範囲が氷結し、前列のケルベロスの体に厚い氷がまとわりつく。
「チェーンソーと魔法少女たぁどっかで読んだ小説みたいだねこりゃ」
 凪は即座に『五界・陽炎』を発動した。闇色の地獄炎がふわりと広がって味方を包み込んでいく。揺らめく炎が、味方の体に貼りついた氷の一部を消し去り、ダメージを癒していった。
 一方、アテナは聖剣エクスカリパーを握り、駆けていく。敵が突き出したチェーンソーの刃がアテナの頬をかすめていったが、彼女はそのまま剣を突き伸ばして少女の胸を貫いた。
 そして万里矢は地面を蹴り、その鋼鉄のような翼を広げて急加速する。万里矢はナイフを振り上げ、ジグザグスラッシュを叩き込んだ。
 その一撃によって、仲間たちが付与したBSがさらに上乗せされていった。
 普段は面倒くさがりな万里矢であったが、やる時はやるのだ。戦闘となればなおさら手は抜けない。
「もう許さないよ! みんな冷凍してテイクアウトしちゃうんだから~ッ!」
 魔法少女はチェーンソーを振り回して周囲の地面に氷をぶわっと広げた。
「冷凍!? そいつは困るな!」
 万里矢は後方に跳んで回避する。しかし藍色の氷が流水のようにうねりながら急速に伸びてきた。
 ファルゼンは仲間をかばい、縛霊手でそれを受け止める。彼女の肌や黒衣に半透明の氷が広がっていったが、シャウトでしぶとく持ちこたえる。そしてかたわらのボクスドラゴンもヒールを施して主人をサポートする。
 凍てつく氷に閉ざされて体が冷え切ってもなお、ファルゼンは落ち着いていた。敵も味方も、そして自分自身でさえも、必要とあれば利用する。それだけのことだ。
 ファルゼンの背中から、アビスが飛び出していく。
 ボクスドラゴンを引き連れたアビスはオウガメタルに覆われた拳を振り抜き、破鎧衝を放つ。その鋼の拳でチェーンソーを押し弾き、渾身の力で少女を殴りつけた。
 チェーンソーが路地に転がり、魔法少女は倒れ込む。
「いやーっ! ごめんなさいごめんなさい! お願いだから食べないで!」
 少女はなぜか自分が解体されて食べられると思っているらしく、路地に寝転がったまま頭を抱えてじたばたしていた。
 ケルベロスたちが苦笑しながら見守る中、魔法少女の姿をしたドリームイーターは爆散し、その体は塵となって消滅した。
 敵の撃破を確認したケルベロスたちは、ほっと息をつく。
「魔法少女も夢のない時代になったものです……」
 アテナは剣を納め、つぶやく。
「これで一安心ですね。皆さんお疲れさまでした」
 夢姫は明るく言って微笑む。実は人見知りな彼女であったが、依頼中は頑張って普通に話すようにしている。
「さてと、やる事やって帰ろ」
 アビスは壊れた路地を修復するため、ヒールを始めた。
「無事に終わってよかったな」
 ファルゼンは背後からアビスに近づき、ひんやりと冷たい手を頬に押し付ける。
「……っ!」
 不意を突かれたアビスはびくりと肩をこわばらせるのだった。
 やがて街のヒールが終わると、ケルベロスたちは帰途についた。
 その道中、被害者の少女の自宅を通りがかった。窓からこっそり中を覗くと、幼い少女がすやすやと眠っていた。
 今はもう驚きの感情を取り戻したため、明日になれば目を覚ますことだろう。
「一般人からしたら今回のドリームイーターは非常識な存在なんだろうけど、ケルベロスも大概だねぇ」
 そう言って凪は頭をかく。
「偽ケルベロスの夢なんて見られた日には厄介なことになりそうだ、衆目を集め過ぎるのも良くないかもね」
「確かにそれは困りますね……ではそろそろ撤収しましょうか」
 遊鬼は肩をすくめて歩き出す。わんぱくな子供たちなら本当にそんな夢を見るかもしれない。
 ケルベロスたちはそそくさとその場を後にするのだった。

作者:氷室凛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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