コタツにみかんはいいけれど……

作者:神無月シュン

「あーもう。箱でみかん買ったのはいいけれど、どうしてこんなに腐るのが早いのかしら」
 洗面所で、女性が手を洗っている。
 買ったまま放置して、適切な保管を行わなかったみかん箱の中にある、みかんの半分ほどが既に腐ってしまっていた。それに気付かないでふたを半分開け、手を突っ込んでしまったのだ。
「ぐちゃっとしたあの感触……まだ手に残ってるわ」
 女性が顔をあげると、見知らぬ者と鏡越しに目が合う。その者――第六の魔女・ステュムパロスがニタリと笑い、手に持った鍵を背中から心臓へ向かって突き刺す。
「え……?」
 刺されはしたが、痛みも何も感じない事に女性は困惑する。
「あはは、私のモザイクは晴れないけど、あなたの『嫌悪』する気持ちもわからなくはないな」
 ステュムパロスが鍵を回すと、女性は意識を失ってその場へと崩れ落ちる。その横には1mほどもある、腐ったみかんが宙に浮いていた。

「コタツにはやっぱりみかんです!」
 集まったケルベロス達をコタツに入った、笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が出迎えた。コタツの上にはしっかりと、みかんが用意されている辺り抜け目ない。
「けど、みかんを箱で買ってきたら、しっかりと保管しないとすぐ腐っちゃうのです。腐ったみかんはやっぱり触りたくないです!」
 そういう『嫌悪』を奪って、事件を起こすドリームイーターがいるという。
 『嫌悪』を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているが、奪われた『嫌悪』を元にして現実化した怪物型のドリームイーターにより、事件を起こそうとしているようだ。
「怪物型のドリームイーターによる被害が出る前に、このドリームイーターを撃破して欲しいのです!」
 このドリームイーターを倒す事ができれば、『嫌悪』を奪われてしまった被害者も、目を覚ましてくれることだろう。

「敵のドリームイーターは1体のみで、配下などは存在しないです」
 1mくらいの腐ったみかんの形をしていて、腐った部分はモザイクで覆われている。
「腐った汁を飛ばしてきたり、体当たりなんかもしてくるみたいですよ」
 アパート外の駐車場で戦うことができ、広さは申し分ない。寒いからか人通りも多くはないようだ。

「腐っちゃったみかんは残念だけど、処分しちゃうしかないのです」


参加者
トレイシス・トレイズ(未明の徒・e00027)
赤星・緋色(小学生ご当地ヒーロー・e03584)
九十九折・かだん(供花・e18614)
薬師・怜奈(薬と魔法と呪符が融合・e23154)
灰縞・沙慈(小さな光・e24024)
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)
月島・彩希(未熟な拳士・e30745)
ジジ・グロット(ドワーフの鎧装騎兵・e33109)

■リプレイ

●腐ったみかんとモザイクと
 ケルベロス達がドリームイーターが現れる、駐車場へ向かって路地を歩いている。
「しかし珍しくも無いであろう嫌悪に目をつけるとは、魔女も目敏いものだ」
 歩きながら呟く、トレイシス・トレイズ(未明の徒・e00027)。
「コタツにミカンは冬のマストアイテムだよね。自宅警備員的にも絶対外せないし! すぐに食べきっちゃえば腐らないし」
 赤星・緋色(小学生ご当地ヒーロー・e03584)が、みかんについて語る。
「あの緑のカビとか、水気がなあ。なんかこう……よくないんだよなあ……」
 ぼんやりと歩きながら、九十九折・かだん(供花・e18614)が腐ったみかんを頭に思い浮かべる。
「ムダなく全部食べ切りたい所だけど、どーしても腐っちゃうのはあるよなあ……」
「出来るだけ食べられる分を買うのが一番」
 塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)が仕方ない事だと口にし、腐るのを減らすにはと、灰縞・沙慈(小さな光・e24024)が答える。
 各々みかん談義をしているうちに、目的の駐車場が見えてきた。まだドリームイーターの姿は見えない。
「今のうちに戦闘の準備をしておこうかしら」
 そう言うと、『キープアウトテープ』を周囲に貼り、一般人が入ってこられないようにしていく、薬師・怜奈(薬と魔法と呪符が融合・e23154)。
 キープアウトテープを貼り終えたまさにその時、アパートの扉が開きドリームイーターが姿を現す。1mほどのみかんが宙に浮いている。ただし、一部分が腐り緑や白く色が変わっている。しかもその部分にモザイクが纏わりついているから、余計に汚いものに見えてくる。
「見た? 見た? あのみかんどーやってドア開けて出てきたんだろーね」
 緋色が不思議そうに、宙に浮いている腐ったみかんを指さす。しかし、その疑問に答えられるのは誰もいなかった。
「う、うーん、かなりグロテスクですわね……よりによって何で腐ってるかな……」
 モザイク部分を見つめ、ため息をつく怜奈。人払いのために殺界の形成を行う。
「手早く潰そう。腐ったものは、ほっとくとー広がるだけだから」
 かだんはそう言うと、汁から目を守るために持参していたゴーグルを装着した。
「おミカン、グニャグニャ……」
 モザイクと腐った部分とが合わさった場所を見て、沙慈がぶるぶると震える。
「腐ったみかんが相手……どんな相手でも怯むわけにはいかないの!」
「腐ってしもたおみかんは、焼いて消毒するデス☆」
 月島・彩希(未熟な拳士・e30745)と、ジジ・グロット(ドワーフの鎧装騎兵・e33109)が武器を構えると、他のケルベロス達も続いて戦闘態勢に入った。

●腐ったみかんの感触
 前衛の背後に爆発を起こす怜奈。その爆発は、赤色、青色、黄色と様々な色に彩られていた。その爆発の派手さに、爆発を背にした前衛のケルベロス達の士気が上がっていく。
 雷の霊力を帯びた刀を構え、トレイシスがドリームイーター目掛け飛びかかる。放たれる神速の突きがドリームイーターへと突き刺さる。
「攻撃は少し苦手、だけど頑張る、ね」
 沙慈の放った炎弾がドリームイーターの表面を焼く。そこへ、ドラゴニックハンマーを砲撃形態へと変形させ、竜砲弾を撃つ翔子。
「行って来い! 残飯処理班……じゃない、シロ!」
 着弾と同時、ボクスドラゴンのシロへと指示を飛ばす。翔子の言葉に応じ、封印箱へと入ると、そのままドリームイーターに向かって突撃した。
「緋色が退治してあげる!」
「任せろ」
 緋色が斬撃を浴びせると同時、かだんが合わせるように飛び蹴りを放つ。2人の攻撃によろめくが、すぐに反撃とドリームイーターが緋色目掛け体当たりしてくる。
 ――ぐちゃり。
 衝撃に備えて構えていた緋色だが、想定していた衝撃ではなく、腐っていた部分での体当たり。吹き飛ばされるどころか、体はドリームイーターへとめり込む。
「ぎゃー、ばっちぃ! ぺっ、ぺっ、口にちょっと入ったぁぁ!」
 緋色が離れたのを見計らって、彩希がドリームイーターへと拳を突き立てる。
「うぅ、攻撃した時の手ごたえが気持ち悪いかも……」
 拳から伝わる感触に、彩希が顔をしかめた。
 ジジがゲシュタルトグレイブへと地獄の炎を纏わせると、一気に叩きつける。
 怜奈の御業がドリームイーターを鷲掴みにする。そこへトレイシスの放つ斬撃が、緩やかな弧を描く。続けて沙慈が縛霊手で殴りつけると同時、網状の霊力を放射しドリームイーターを包む。
「ほいさ回復はお任せってね」
 翔子が緋色の回復をするのと同時に、戦闘能力を高める。
 回復を終えた緋色が、ドリームイーターへと飛びかかり攻撃を加える。続けて放たれる、かだんの絶対零度の拳。拳が触れた個所がみるみる凍っていく。
 ドリームイーターが腐った果汁を噴射する。噴射された果汁は攻撃後で近くにいたかだんへと直撃する。攻撃の勢いで後ろへと飛ばされたかだんは、着地するとみかんの汁まみれになった顔を手で拭った。
 彩希が満月に似たエネルギー光球をかだんへとぶつけ、回復させる。
 ジジの槍が稲妻を帯び、放たれた超高速の突きがドリームイーターを襲う。
「黒瑪瑙に封じられし邪よ、ひと時の快楽を差し上げましょう」
 怜奈がブラックオニキスを取り出す。秘薬により宝石に封じ込められた邪なる者が開放され、ドリームイーターへと襲い掛かる。怜奈の攻撃により動きを止めているドリームイーターへと、神速の突きを繰り出すトレイシス。
 沙慈が爪を硬化させ、ドリームイーターを貫く。突き刺さった腕を引っこ抜くと同時、沙慈のウイングキャット、トパーズが沙慈に合わせる形で爪を伸ばしドリームイーターをひっかく。
 翔子が活力を与える電気ショックをかだんに向かって飛ばす。電気を浴びたかだんが回復していく。
 緋色の放った斬撃を受け、切り口が凍り付いていくドリームイーターへと、かだんの流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りが炸裂する。
 ドリームイーターが傷をモザイクで覆い回復をしていく。
 彩希の放った満月に似たエネルギー光球を受け、トレイシスが凶暴性を高めていく。
「最近寒いし、焚火ちょーどええと思うの♪」
 地獄の炎を叩き込むジジ。ドリームイーターが炎に包まれて焦げていく。

●モザイクまみれのみかん
 ケルベロス達の攻撃を受け、何度も損傷個所をヒールした結果、所々に纏うモザイクの量は増えていく。更にヒールが間に合っていない場所からは中身の果肉が見えている。
 しかも、凍っていたり焦げていたり。一つのみかんで冷凍みかんと焼きみかんを同時に作ろうとしたような、なんともカオスな状態に……。
「皆を護らなくっちゃ。アカツキも一緒に頑張ろうね!」
 モザイクに覆われている部分から目をそらし、彩希はアカツキに声をかけている。
「うーん、中途半端に中の蜜柑も見えてますし、もっとグロテスクになりましたわ」
 怜奈は停めてあった車の陰から飛び出すと、容赦することなくナイフで斬り刻み、傷を増やしていく。
「かえってモザイクを掛ける事により、より想像力が膨らんでしまう気がするな」
 弧を描く様に斬撃を加えていくトレイシス。続けて沙慈の拳がドリームイーターへとめり込む。そのまま網状の霊力がドリームイーターに絡みついていく。
「腐りものが怖くって主婦がやってられるか!」
 翔子が叫ぶと同時、構えた砲撃形態のハンマーの砲身から竜砲弾が放たれる。着弾と同時に緋色が攻撃を加え、ドリームイーターが吹き飛ぶ。
「合わせる」
 吹き飛んだ先、待ち構えていたかだんが絶対零度の拳を叩き込む。
 トレイシスへ向かってドリームイーターが突撃する。そこへ、彩希が割り込み攻撃を受ける。
「誰も傷付けさせない! わたしが皆を護ってみせるんだからっ!!」
 護り抜く誓い。その決して砕かれぬ闘志を裂帛の咆哮に乗せ、周囲に解き放つ彩希。込められた闘志が周囲の仲間の傷を癒していく。
 超高速の突きでドリームイーターを串刺しにするジジ。その背後から続いていた怜奈が飛び出し、ナイフの刀身にドリームイーターを映し出す。その瞬間、具現化された鏡像がドリームイーターに襲い掛かる。
「其方に精魂があるか分からぬが……その嫌悪、断ち斬らせて貰う」
 トレイシスが刀を構え、振るう軌道は赫灼の奔流。繰り返される斬撃はまさに剣舞。光纏う刃は躯を斬らず精魂を断つ。
「痛いよ、ゴメンネ……」
 爪を硬化させ、沙慈がドリームイーターを刺し貫く。続けて放たれる緋色の斬撃。
 ドリームイーターが必死に体をモザイクで覆い治療していく。
 その隙に、彩希の回復をする翔子。かだんの鋭い蹴りがドリームイーターにめり込む。
 ドリームイーターへ攻撃を加えるたびにぐちゃりという音が響く。度重なる攻撃で、もはやみかんなのかどうかもわからないほどに、モザイクが周りを覆っている。
 彩希が満月に似たエネルギーを緋色へと送る。
 地獄の炎をドリームイーターへと叩きつけるジジ。ドリームイーターがメラメラと燃えている。
「これが炎上……! 自宅警備員に、うちもなれるカモ……」
 渾身のボケだと、チラチラとツッコミ待ちするジジ。
「それ、炎上違いだー」
 自宅警備員の緋色の直々のツッコミに、ジジが満足そうに笑う。
「もういいですわ、退場願いますわ」
 2人のやり取りを横目に、怜奈の御業がドリームイーターを鷲掴みにする。そこへトレイシスの刀が月のような弧を描く。
 沙慈の御業が炎弾を放つ。
「さっちゃんに続くっ!」
 ジジが稲妻を帯びた槍を構え突進する。炎弾がドリームイーターへと命中すると、炎で包む。それと同時、ジジの槍がドリームイーターへと突き刺さる。
「そこで足止め食らっときな」
 翔子が手を振り下ろすと、強烈な雨が突如ドリームイーターの元へ降り注ぐ。
「潰えて、終え」
 動きを止めたドリームイーターへと、樹氷のように変化した腕を叩き込む。かだんの重い一撃に、触れた個所からみるみる凍っていく。
 ドリームイーターが態勢を整えて、彩希目掛け果汁を飛ばす。彩希のボクスドラゴン、アカツキがそれを受け止める。
「ありがとう。アカツキ!」
 アカツキの横を走り抜ける彩希。その勢いで放たれる電光石火の蹴り。
「ひっさーつ!」
 気合と共にグラビティチェインを纏わせた武器を、力の限り振り下ろす。強力な一撃を受けドリームイーターは地面へと叩きつけられ、そのままバウンドして上空まで吹き飛ぶ。
 打ち上げられたドリームイーターが上空で膨れ上がる。
 ――パンッ!
 破裂音と共に上空から果汁が雨の様に降り注ぐ。
『うわあああぁあぁぁぁあ!』
 ケルベロス達の悲鳴が辺り一帯に響き渡った。

●みかんの保存は適切に
 ドリームイーターを倒したのはいいが……ケルベロス達は一人残らず、全身果汁まみれに。髪の毛や指の先からぽたぽたと、果汁が滴り落ちている。
 それに辺り一帯果汁まみれで、みかんの匂いが漂っていた。
「腐る前に食ってやれるのが、一番良いんだが、なあ」
 鹿耳を元気なく寝かせ、伏し目がちにため息をつくかだん。みかん汁まみれの手を軽く舐めると渋い顔をする。
「ドリームイーターに襲われた人心配だし、確認しにいこ」
 緋色の提案に、ドリームイーターが出てきた扉を開け、被害者の様子を見に行く。
 被害者に傷一つなく、程なくして意識を取り戻した。
「もう大丈夫」
 沙慈が被害者の女性へと声をかける。
「みかん同士が圧迫している所から腐るらしいぞ」
「蜜柑の保存方法だけど、段ボールにヘタ側を下にして並べて、新聞紙を挟んで並べると良いんだってね?」
 みかんの保存方法を色々と話している、トレイシスと翔子。
「ダメにならないように、早めに食べてあげてね」
 それが一番と沙慈。
 被害者の無事を確認し外へと出ると、周囲に水をまき果汁を洗い流し、ヒールをしていく翔子と彩希。修復しながら怜奈がキープアウトテープを剥がし片付ける。
「銭湯ないかしら……? お風呂で綺麗になりたいですわ……」
 ベトベトになっている全身を眺め、呟く怜奈。
「こたつにみかんは素晴らしいと思う。あれは快楽のひとつだな」
 みかんの匂いに包まれて、トレイシスがこたつとみかんの組み合わせについて語る。
「美味しいおミカン食べたくなったね」
「さっちゃん、おみかん買いにいきまショー」
 沙慈の言葉に、抱き着きながらジジが答える。
 銭湯とみかんが売っているお店を探すため、商店街がある方向へと歩き始めたケルベロス達だった。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 1
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