ヒャッハァァァッ！　量産型だぁぁぁっ！

■リプレイ

●モヒカンの牙城
　茨城県、ひたちなか市の外縁部。
　未だ、ダモクレスによる侵攻の跡が深々と残る地にて、ケルベロス達は廃墟と化したビル群へと足を踏み入れていた。
「あのイオ・フォースとか言う連中……昔見たプラネットフォースの『ジ・イオ』そっくりじゃねぇか」
　廃墟の一室に潜んでいるモヒカン軍団の姿を死角から捉えつつ、ロイ・ベイロード（剣聖・e05377）は自身の宿敵の姿を思い出して言った。
　ダモクレスがイオの量産に成功したのか、それとも単なるデッド・コピーなのか。詳しいことは判らないが、なんとも面倒な代物を作り出してくれたものだと。
「またモヒカンか……。妙な縁があるもので」
　北條・計都（凶兆の鋼鴉・e28570）もまた油断なく敵の頭数を数えながら、高所より索敵を続けている仲間達へと連絡を取る。
　現状、確認できる敵の数は５体。それに対して、こちらは成谷・理奈（ウェアライダーの鹵獲術士・en0107）と、その援護に馳せ参じた者達も加えれば、総勢8名の仲間が揃っている。
　質でも数でも、圧倒的にこちらの方が上だった。残りの敵が姿を見せていないのが気になったが、しかし奇襲を仕掛けるなら絶好の機会でもある。これだけの戦力差を以て先手を打てば、短時間での殲滅も容易い。
「初めての依頼、ちょっと緊張しますね……。いや、何時も通りやれば大丈夫ですよね！」
　戦力的な優位を悟り、安堵の溜息を吐く水瀬・麗奈（アラウンドスカイブルー・e33351）。そんな彼女を横目に軽く微笑みつつ、水沢・アンク（クリスティ流神拳術求道者・e02683）は自らの力の一端を開放する。
「さて、それでは、仕掛けさせていただきましょうか。クリスティ流神拳術、参ります……！」
　燃え盛る白炎がアンクの右手袋と袖口を焼き払い、左腕が闘気に包まれる。だが、それにモヒカン軍団が気が付くよりも早く、計都が半壊状態の窓ガラスに向かって石を投げつけた。
「「ヒャッハァァァッ！」」
　異変を察知し、部屋から続々と現れるイオ・フォース達。しかし、そんな彼らを出迎えたのは、アンクの放った無数の炎弾。
「一気に行きます……！　クリスティ流神拳術四拾九式……殲輝連衝(カタストロフブラスター)！！！」
　両拳を撃ち合わせると共に、放たれた白炎の雨がイオ・フォース達に襲い掛かる。短期決戦を求められる以上、出し惜しみは無用。最初から全力全開で、必殺の切り札を叩き込むのみ。
「こっちは数で劣るんだ、よもや卑怯とは言うまいね？」
　ライドキャリバーのこがらす丸に乗ったまま、続けて計都がイオ・フォース達の群れに突撃する。完全に頭数の揃っていない相手に掛ける言葉ではなかったが、そもそもデウスエクス相手に慈悲など不要だ。
　燃え盛る車体で敵を引き潰しつつ、自らもまた炎の蹴りで、敵をモヒカン諸共に焼き払うのを忘れずに。
「……ッ！　ヒャハッ！？」
「ヒャッハァァァ！？」
　イントネーションのずれた叫び声を上げながら、イオ・フォース達が頭部を抑えて走り回った。どうやら、今までの攻撃で、モヒカンに着火したらしい。
「劣化コピーとはいえ、奴と同じ姿をしているんだ。加減は無しだ！」
　頭を焼かれてパニック状態になっているイオ・フォースの一体に、ロイは意識を集中させる。瞬間、敵の頭部が唐突に爆ぜ、そのまま倒れて動かなくなった。
「ヒャ……ッハァァ……」
　最後までまともな言葉は発さずに、機能を停止するイオ・フォース。焼け焦げたモヒカンは無残にも広がり、出来損ないのパイナップルのような頭になっている。
「本当に『ヒャッハー』しか喋れないんだ……。なんだか、ちょっとかわいそうですね……」
　言語機能をデチューンされたイオ・フォース達に多少の哀れみを覚えつつ、麗奈が紙兵を展開して行く。その間にも、理奈と彼女の助っ人達が、イオ・フォース達に容赦ない追い撃ちを浴びせて行く。
「「ヒャッハァァァッ！！」」
　徹底的に好き放題されて、完全に頭の回路が切れたのだろうか。
　狙いも定めず、怒りのままにマシンガンや火炎放射器で攻撃しまくるイオ・フォース達。だが、数でも質でも劣っている彼らなど、今のケルベロス達の敵ではない。
「さて、あまり時間を掛けるのは得策ではありませんね」
　この程度、残りの敵が集まる前に、すぐにでも殲滅してみせる。群がる敵の中へアンクが真一文字に斬り込めば、続けて響くは敵の悲愴な叫び声。
「数を相手するだけなら、それなりに得意なのですよ」
　左手を軽く振り払い、アンクは敵の群れを背にして静かに呟く。そんな彼の後ろでは、トレードマークのモヒカンを削ぎ落とされたイオ・フォース達が、悲しそうな声で「ヒャッハァァァ……」と叫んでいた。

●鉢合わせ！？
　廃ビルの外周を飛び回っていると、ミセリア・アンゲルス（オラトリオの自宅警備員・e02700）のスマートフォンに、仲間達からの連絡が入った。
「え～と……敵さん、見つかったかも～」
　他の仲間達へと目配せし、連絡のあったビルの屋上へと舞い降りる。情報が正しければ、今もこのビルの中で地上から索敵を行っていた班が戦闘中のはず。このまま屋上から下へ向かえば、敵を挟み撃ちにできるかもしれない。
「酷い廃墟なのね……。でもここに！　電気按摩専用マスィーンの原石が眠っているのね！」
　なにやら妙な野望を叫びつつ、ミステリス・クロッサリア（文明開華のサッキュバス・e02728）が壁を歩きながら屋上へと登って来た。そのまま、他の面々も合流したところで、そっと扉を開いて階段を下りて行く。
「ちょっと！　そこ、崩れやすくなってるわよ！」
　足元の階段に亀裂が走っているのに気づき、フローラ・スプリングス（小さな花の女神様・e29169）が仲間達に促した。僅かな明かりでも周囲の様子が解る彼女の目は、薄暗い廃墟の中を探索するには好都合だった。
「下から音が聞こえる……。もう、戦闘が始まってるのかな？」
　微かな爆音や金属音が聞こえたことで、耳を澄ませる牧島・奏音（マキシマムカノン・e04057）。だが、そう言って彼女が扉を開けた瞬間……果たして、その向こう側から現れたのは、重火器を装備したモヒカン野郎どもの群れだった。
「えっ……！　きゃぁぁぁっ！」
「ヒャッ！？　ヒャッハァァァッ！？」
　何ら予測していなかった事態に、それぞれ声を上げて距離を取る。恐らくは、狙って出会ったのではなく遭遇戦。しかし、この状況は少々拙い。
　こちらの人数が地上から索敵していた班の半数であるにも関わらず、敵の数は10体以上。個々の強さではケルベロス達に劣るとはいえ、さすがに戦力を分散した状態で相手にするのは少しばかり面倒だ。
「「ヒャッハァァァッ！！」」
　こちらを殲滅すべく、イオ・フォース達が一斉にマシンガンを乱射して来た。一発ずつの威力は大したことないが、しかし数が集まっているので馬鹿にできない。
「世紀末！？　ここだけ世紀末なの！？　あと８０年以上先だよ！？」
「騒がしくて野蛮な感じね！　あと、あの変な髪型もどうかと思うわ！」
　奏音とフローラが叫ぶ間にも、次々と飛来する弾丸の雨。階下の仲間と合流できなかった不安はあるが、このまま黙ってやられるわけにもいかない。
「モヒカン部分を電気按摩に変えてやるのね！　大人しく、その身を差し出せなの！」
「量産型は消毒だ～？　制圧前進あるのみ～！」
　ミステリスのアームドフォートが火を噴いて、ミセリアのチェーンソー剣が唸りを上げて敵のモヒカンを斬り落とす。なんとも世紀末な空気が漂う中、予期せぬ乱闘の火蓋が切って落とされた。

●形勢逆転！
　廃ビルの屋上近くで始まった大乱闘。だが、奇襲に成功した階下の仲間達とは違い、こちらは少々泥仕合な様相を示していた。
　個々の戦闘力は低くとも、数であれば敵の方が上手。互いに遭遇戦となった結果、無駄な消耗を強いられるのもまた必然。
　純粋な調査だけであれば、部隊を二手に分けるのも効果的だった。しかし、今回のように敵との戦闘まで考慮せねばならない場合、戦力分散は思わぬデメリットを生むこともある。
　敵の数は判っていても、それが一カ所に固まっていたり、こちらの人数に合わせて出現する数を調整してくれたりするわけではない。加えて、先に階下で戦いが始まれば、その音を聞き付けて残りの敵がビル内を徘徊し始めるのも道理だった。
「欠乏と束縛のナウシズよ、超克の力を齎せ！」
　唯一、理奈に同行していなかった助っ人の少年がルーンストーンの輝きにより仲間達の傷を癒して行くが、それとて無限ではない。既に敵は４体ほどが破壊されていたが、こちらのダメージも随分と蓄積している。
　負けることはないにしろ、このままでは無駄な被害が増えてしまう。場合によっては、多少の痛みは承知の上で、無茶をするのも仕方がないか。そう、誰ともなしに考えたところで……果たして、次に飛んで来たのは、炎や銃弾の雨ではなかった。
「壱拾四式……炎魔轟拳(デモンフレイム)！！」
　イオ・フォース達の後ろから、襲い掛かる炎の拳。振り向き様に顔面へと捻じ込まれた鉄拳が、敵の顔面を木っ端微塵に破砕した。
「アンクさん！？　それに……皆も来てくれたの？」
　思わぬ味方の援軍に、思わず目を丸くする奏音。見れば、他にも地上から索敵に向かった面々が、イオ・フォース達の背後に集結している。
「おっそーい！　フローラ達じゃなかったら、とっくに死んでたかもしれないわよ！」
　悪態を吐くフローラだったが、それもまた仲間を信頼しているからこその言葉。図らずも当初の予定通りに挟み撃ちができたところで、いよいよ遠慮なしに反撃開始だ。
「見せてやる、俺の得た翼を……！」
　こがらす丸に敵を轢き潰しながら撹乱させつつ、計都が意識を集中させる。ここまで来たら、もう出し惜しみはなしだ。最初から全力全開、フルスロットルで勝負を決めるのみ。
　舞い戻って来たこがらす丸と身体を重ね、計都の身体が機械のパーツに覆われて行く。愛車と合体し、展開される炎の翼。維持できるのは10秒程度だが、敵を葬るには十分だ。
「これが、俺の……俺達の！　精一杯だぁぁぁッ！！」
　廃ビルの天井ぎりぎりまで跳躍し、緋色の彗星の如く敵の群れに飛び込んで行く。真紅の軌跡が一筋の光となって明滅し、強烈な必殺キックが真正面からイオ・フォースの一体を直撃し。
「……ッ！？　ヒャッハァァァッ！！」
　廃ビルの壁諸共にブチ抜かれ、真っ二つに裂けたイオ・フォースの身体が落下して行く。これでまた、一体減った。既に敵の総数は半数以下。今となっては、数の優位も存在せず。
「これがっ！！　必殺の一撃だ！！」
　続けて、間合いを詰めたロイが、容赦なく敵を逆袈裟斬りで叩き斬る。己の刃に、心・技・体の全てを込めて放つ必殺剣。何の仕掛けも小細工もないが、それだけに極めればこの上なく強力な技となる。
「俺達も強くなってきているのさ。劣化コピーに負けるほど、ヤワじゃねぇ」
　そう言って、ロイが刃を納めたところで、斬られたイオ・フォースの身体が斜めにずれた。
「……ヒャハッ？」
　どうやら、自分が両断されたことにさえ、相手は気づかなかったらしい。哀れ、何も解らぬままに、切断面から火花を散らして爆発するイオ・フォース。
「大丈夫！　サポートは任せて下さい！」
「こっちでも回復するよ！　皆は、ガンガンやっちゃって！」
　麗奈が紙兵を散布し、理奈が満月に似たエネルギー光球を投げ付ける中、他の助っ人達も体勢を立て直すべく一斉に癒しの力を戦場に解き放つ。
「痛いけど我慢しなよ、すぐ楽になる」
「舞い立ち昇る龍の鳴き声をお聞かせします」
　肉体の代謝を活性化する矢が、清浄なる龍笛の音色が仲間達の傷を癒して行く中、同じく助っ人に馳せ参じていた少女が自らの背中にオウガメタルを集結させて行き。
「ハッヒャー！　消毒じゃー！」
　形成された砲塔から、豪快な火炎放射をお見舞いした。対するイオ・フォースも火炎放射器で応戦するが、残念ながら打ち消すには少しばかり威力が足りない。
「ヒャハッ！？　ヒャッハァァァッ！！」
　モヒカンが燃え上がり、右往左往するイオ・フォース。なんというか、どこかで見たような光景である。量産型ということで、反応も似たり寄ったりなのかもしれないが、それはそれ。
「もう、遠慮はしなくて良さそうなのね！」
　ライドキャリバーの乗馬マスィーン一九と共に、銃弾を乱射するミステリス。そちらがマシンガンなら、こちらはガトリング砲だ。一番弱っていた敵に狙いを定め、容赦なくハチの巣に変えて行く。
「その変な髪の毛、斬り落としてあげる～♪」
　続けて、ミセリアもまたチェーンソー剣でモヒカンを狙って仕掛けるが、勢い余って敵の首まで切断してしまった。可憐な少女が笑顔で凶器を振り回し、モヒカン男の首を刈っている様は、絵面的にはなかなかサイコだが。
「量産型でも倒される時ぐらい、それっぽい発声する機能は欲しかったかも～？」
　爆発する敵に駄目押しでサラッと無茶な要求をしている辺り、本人はあまり気にしていないようだ。
「何にせよ、形勢逆転ってやつだね。とりあえず、私も一子相伝の拳法家みたいに張り倒せば良いのかな？」
　残るイオ・フォースは、後二体。ここまで来れば、もう回復は必要ない。
「ほあたーっ！」
　どこぞの世紀末ヒーローの如き掛け声と共に、奏音が豪快な跳び蹴りを炸裂させる。研ぎ澄まされた、達人の一撃。それが敵の首を直撃したところで、何やら奇妙な鈍い音がした。
「……ヒャッハァ？　ヒャハッ……ヒャハァッ！？」
　見ると、先程の奏音の蹴りで首が180度回転したイオ・フォースが、状況を飲み込めないまま明後日の方向へ歩き出していた。どうやら、自分の状態が解っていないようだが……それを確かめるまでもなく、両目と鼻から火花を散らして爆発し。
「ふーくん、お願い！」
　ボクスドラゴンのふーくんに自らの傷を回復させつつ、フローラが最後の一体に狙いを定めて床を蹴る。敵も懸命に火炎放射で応戦するが、しかしフローラは避ける素振りさえ見せず。
「そうそう何度も、お洋服を焼かれたら堪らないわ！」
　長剣の刃を抜き放ったまま、駒のように回転して炎を切り裂き進んで行く。そのまま流れるような動きで、高々と跳躍して刃を振り被り。
「これで……最後よ！」
　廃ビルさえ諸共に破壊せんばかりの勢いで、豪快に敵を両断した。

●宿命の予兆
　戦いの終わった廃ビルは、再び静寂を取り戻していた。
　モヒカンが珍しいのか、先程からフローラは倒した敵の頭の部品をつついている。同じく、ミステリスもまた敵の残骸を集め、何やら画策している模様。
「お前は、もう破壊のモヒカンじゃないのね。電気按摩で私や私の姉妹の身を癒す、電気按摩モヒカンロボになるの……」
　いったい、何をどう流用すれば、モヒカン男から電気按摩ができるのか。まあ、外装の部分だけに限ってみれば、モヒカン含めて装飾程度にはなるかもしれないが。
「この残骸からは、大した情報も得られそうにないですね」
　マザー・アイリスへの手掛かりなしと判断し、部品を放り投げる計都。何故、こんな姿の連中を量産したのか、それでさえも今となっては闇の中。
「これで少しは平和になりますかね？」
「う～ん……どうだろう？」
　麗奈の問いに、奏音が少しばかり言葉を濁して答えた。確かに、このミッション地域にて奇襲される心配は払拭されたが、これで全ての戦いが終わったわけでもなく。
「今回のダモクレスの一斉襲撃……。やはり『やつ』も……。いや、群れる様なやつでは無いでしょうが……それでも……」
「プラネットフォース……。近い内に連中と会いそうだな……」
　それぞれ、己の宿敵の姿を思い浮かべ、アンクとロイが天井を仰ぐ。彼らにとっての決着。それがいつの日になるのかは、まだ誰にも解らない。

作者：雷紋寺音弥	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年2月1日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 3／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 3
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