時を刻む翼

作者:久澄零太

「ようやく、か……」
 ディメンション・オーダーは長いため息をこぼし、山中に隠蔽された屋敷から夜空を見上げる。
「ようやく動くことができる……」
 コツリ、コツリ、窓に歩み寄り、そこに映る自分の姿を見つめた。
「私に足りないモノ、それは翼……ようやく翼を探しに行くことができる」
 ギリ……握りしめた拳から小さく音を響かせて、微かに口角を上げたそれは、まさに狂気。
「待っているがいい、オラトリオ共……内臓、血液、花……そこまで揃えてまだ足りないのなら、次は翼だ。私の完成型の為に、その翼を差し出してもらおう……」

「皆、大変だよ……!」
  大神・ユキ(元気印のヘリオライダー・en0168)は番犬達を見回し、一つ深呼吸した。
「指揮官型ダモクレスの地球侵略が始まったんだけど、その一体、『コマンダー・レジーナ』が、前々からたくさんの仲間を地球に送り込んで侵略の為の準備をしてたみたい。今回、レジーナが動き始めるのに合わせて、隠れてた仲間も動き始めるの。ほとんどはそれまでに集めた情報を持って帰っちゃうんだけど、中には帰る前にグラビティ・チェインもとっちゃおうとする個体がいるって分かったよ」
 ユキはコロコロと地図を広げて、とある住宅地を示す。
「皆に向かってほしいのは、ここに現れるディメンション・オーダーっていうダモクレスで、オラトリオの体を部品として自分に取り込んで、時空を支配する力を手にしてるの。でもまだ不完全で、自分を完成させるために、オラトリオを襲って翼を奪おうとするよ。皆にはディメンション・オーダーの出現タイミングに合わせて降下してもらって、誰かが犠牲になる前に止めて欲しいの。先に人払いしちゃうとディメンション・オーダーは獲物を求めて出現位置を変えちゃうから、通りがかった人を守るためにも、絶対に初手は失敗しないでね?」
 ジッと目を見つめて、念押ししてから彼女は一度呼吸を整える。
「ディメンション・オーダーは時を操作する力を持ってて、自分を加速させてとんでもないラッシュを叩きこんできたり、皆の時間を止めて動きを封じたり、狙った一人の時間をピンポイントで止めて、反応できない一撃を放ってきたりするよ」
 だがそれだけではないのだろう。ヘリオライダーの表情は暗い。
「厄介なのは攻撃そのものよりも、その能力の方だと思う。時を操作する力を使って、皆が攻撃する瞬間に攻撃の時間を止めて、射線から逃げちゃうの。どうやって意表を突くかが鍵になると思う……それとね、えと……そーたいせーりろん? とか言うのによると、時を止めるって事は、動いている方は高速で動いてるって事になるらしくて、それが関係するかどうか分からないけど、ディメンション・オーダーはずっと時を止めてるとオーバーヒートを起こすみたい。だから短時間ずつしか止めようとしないんだけど、皆で連携してわざと長く時間を止めさせて、熱暴走させるのもありかも……」
 解説を終えて、ユキは胸元へ両手を重ねる。
「はっきり言って、すごい強敵だよ。地球ではまだ被害者はいないけど、殺したオラトリオを何人も取り込んでるから、オラトリオの番犬は特に狙われるかも……うぅん、オラトリオだけじゃない、皆で絶対に帰って来てね……?」


参加者
レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)
神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)
神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)
ソフィア・フィアリス(傲慢なる紅き翼・e16957)
有枝・弥奈(オーバースペック気味の一般人・e20570)
結真・みこと(ょぅじょゎっょぃ・e27275)
比良坂・陸也(化け狸・e28489)
伊勢崎・恭弥(有象無象の中の一・e34826)

■リプレイ


 町の街灯が夜を照らし、星すら見えなくなった街中に流星が落ちる。あるいは炎、砲撃、女性。有枝・弥奈(オーバースペック気味の一般人・e20570)は更に『空を蹴る』。重力と脚力に合わせて翼を広げ、風に乗って加速。ディメンション・オーダーの後頭部を……空振った。
「……え?」
「無粋な奴らがいたものだ」
「なっ……!」
 後方を振り向いた神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)が見たのは、姉の首を掴み上げる黄金。その逆の手には狸が締めあげられており、奇襲にしくじった事を見て取れる。
「走り去れッ!」
 伊勢崎・恭弥(有象無象の中の一・e34826)の声に地上の天使が逃げ出し、煉が歯噛みしながら重力に引かれる。翼を引き千切られる神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)を目に焼き付けながら……。
「炎だの砲撃だの、よくもまあ夜中に目立つもので私を仕留められると思ったな?」
「姉ちゃん!」
 投げ捨てられた鈴を受け止める煉の腕の中、姉はそれでもなお煉の周りに氷の華を咲かせて微笑んだ。
「私は大丈夫だから……」
 自分の脚で立つ鈴は自分ではなく、弟の為に盾を張る。彼が唯一の生命線なのだから。
「がはっ!? くそ、俺たちを止めるんじゃなく、自分を加速させやがったな」
 獣人型に戻った比良坂・陸也(化け狸・e28489)が地面に叩きつけられ、符をぶちまけてしまい慌てて数枚を拾う。
「相手の知覚を舐めていましたね……」
 恭弥が鈴の背に応急処置を済ませて、止血。翼を復元する程の余裕はなさそうだ。
(でも、被害者を出さずにすんだのは不幸中の幸いなんだよ……)
 結真・みこと(ょぅじょゎっょぃ・e27275)は最低限の目標は果たせたことを確認して、ねことの羽ばたきで鈴の治療を手伝わせながら、自身は呪詛を編んで鈴の傷を癒すと共に呪力の加護を与え……口元を押さえた。
「食べ……てる?」
 D.O.は鈴の翼を獣のように貪っているではないか。
「馴染む、実に! 馴染むぞ……フハハハハ……」
 口の端から血を滴らせて、D.O.は嘲笑う。
「これは厄介な敵ですね……」
 相手を取り囲んでいるというのに、レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)の胸騒ぎは止まない。睨み合いの中、ソフィア・フィアリス(傲慢なる紅き翼・e16957)が動いた。素早く手を翳すが、気づけば敵は目の前に。
「貴様、懐かしい匂いがするな……」
「くっ!」
 時間停止したはずがソフィアは貫手の直撃を避け、鮮血を散らしながらもヒガシバによる背後からのプラズマ包丁の牽制で距離を開けさせた。
「避けただと?」
 首を傾げるD.O.をソフィアは睨みつける。
「あなた、一体何人のオラトリオをその力を得るのに犠牲にしたの!」
「貴様は今までに食べたパンの数を覚えているのか?」
 機械天使はつまらなそうに、姿を消した。


「させっかァ!!」
 姉弟の絆だろうか。敵が見えもしないのに、鈴を庇った煉を機械の腕が貫く。
「退け」
「退かねぇ……姉ちゃんをやらせてたまるか……!」
「ならば死ぬがいい」
 心臓をえぐろうとする腕を光の縄が縛り上げようとして空を切り、陸也が舌打ちして符の残りを確認。
「武器を落としたのが敗因か?」
「なっ!?」
 D.O.の膝が陸也を捉え、遥か後方へ吹き飛ばす。くの字に折れた彼は電柱の一本をへし折り、吐血。肋骨の数本を犠牲に踏みとどまるが、同時に指が力を失い、残っていた符もその場に落してしまう。
「煉お兄さんを刺してたと思ってたらいつ間にか陸也お兄さんを蹴り飛ばしてた……何を言ってるか分からないと思うけどみこも何が起こったのか分かんないよー!!」
 ねことに泣きつくみことに、ねことは「黙って呪詛を編んどけ」と前脚でおでこてしてし。翼を広げて煉をヒール、みことは鈴へ呪詛の加護を撒く。
「大丈夫かな……」
 みことは部隊の支援役として、『その時』の為に布石を置く。されど、煉はもう一発もつかどうか……。
「うぅん、大丈夫だよね……?」
 頭を振り、少女はその役割を全うする。
「これ、本当に当たるんですかね……」
 重力を砲弾に変えて、レベッカは狙いを定めるも気づいた時には射線から獲物が逸れている。
(おかしい、どうして光線系の射撃を避けられるの? 時を止めるにしても、光と同じ速度のはずだよね……?)
 物理学において、時を止める方法は光の速度で動くこととされている。故に、光速の射撃を光速で避ける事は問題ではない。
(なんで私のトリガーの瞬間が分かるの?)
「考え事か?」
「っ!?」
 次の瞬間には、レベッカの体は宙を舞っていた。打ち上げられた体を横薙ぎに蹴り飛ばされ、地面を跳ねて喉をせりあがる鉄臭い液体をぶちまけて荒い息を吐く。
「ブァカめが! 私の科学は宇宙一ィイイイ!!」
「重力の速度は光の速度っ! いくら速くとも超高速では光を超えることはないっ!」
 攻撃直後に弥奈の重力弾が撃ち込まれるが、身を反らして避けてしまう。
「未熟! 未熟ゥ!!」
 地面を蹴った、そう思った時には既に拳は叩きこまれた後。肺の中身を空にして、民家を破壊した弥奈が酸素を求めて暴れる肺を押さえつけるように胸に手を添える。
「人払いしてなかったらヤバかったな……」
 咳込み、情報を整理する。死角ですら見えているかのような対応、天使を食らう『機械』という敵を前に、一つの仮説ができる。
「試して……みるか……」
 

「OK、そういう事なら任せな」
 弥奈に囁かれ、陸也が頷く。
「さぁて、正念場だ……!」
「まだ何かできると?」
 印を結ぼうとした陸也の手を、D.O.が既に掴んでいて……ゴキリ。骨が砕ける音がした。
「イッダァアア!?」
 指がねじれ、絡まり、手錠がかかったようになった狸の悲鳴が夜を裂く。ソフィアが浮遊する機械腕から砲撃を行い、追撃前に薙ぎ払うも、既に機械天使の姿はない。
「ヒガシバ! 七時!」
 振り向きもせず後方を狙う指示だけ飛ばし、D.O.の顔面をプラズマの拳が『捉えた』。
「何!?」
 思わぬ反撃にたたらをふむ瞬間、上空をとった弥奈が空を踏む。
「さぁて……」
 重力に身をゆだねると同時に、地面に向かって『跳ぶ』。しかし炎の蹴撃が捉えたのはやはり地面で……。
「そんなものが当たると思ったか?」
「いや、『避けると信じてた』!」
 背後をとったD.O.を、アスファルトを食い破る溶岩が呑み込んで、その全身を焼き払う。
「溶岩でも倒せない? いいや、倒すねっ! お前の弱点、ようやく見つけたぞ……陸也!」
「はいはい、てめぇら仕事だ……急々如律令!」
 陸也の声に無数の氷兵が槍を携え、機械天使を串刺しにして天に掲げた。
「いつの間に伏兵を……」
「最初っからだバーカ」
 着地に『わざと』失敗した時にばらまいた符。あれこそが、この瞬間の為に用意された罠だったと気づいたD.O.が奥歯を噛みしめる。
「どうなってんだ……?」
 自らを蒼炎に包み傷を塞ぐ煉と、彼を守る浮遊盾を生み出す鈴が呆気にとられる前で、弥奈がドヤ。
「コイツ、ソナーか何かで私たちの動きを把握してたんだ」
「あぁー!? じゃあ私の砲撃が避けられたのも!?」
「撃つ動きを感知して、撃たれる前に避けてただけだな」
 光速の射撃を避ける種が割れ、レベッカはそれなら……と、背負っていた予備弾薬と思しき鞄を投げ捨てて身軽になり、機関砲と長銃を構える。
「攻撃の瞬間を見せないようにすれば……」
「コイツに一発決められるってことか」
 重火器の照準を合わせるレベッカと、止血を終えた煉。槍をへし折り、血を垂れ流すD.O.。殺気立つ戦場に、乙女の歌が舞う。
「はっぴーうれぴーよろぴくねー!!」
 ……訂正、幼女の歌声が舞う。ついでに横にしたブイサインにウィンクまでして、「お前は何を言ってるんだ」って顔のねことの視線にもめげない!
「みことさん、あなた何してるんですか……!」
 頭痛を覚えた恭弥がこめかみをおさえつつ、陸也の折れた指の骨を組み直していると、幼女は太陽の如き笑顔で。
「呪いの歌!」
 えげつない事を口にした。
「なるほど、そういう事か……」
「強化支援、というものですね」
 自分の脚に馴染んだ呪力を感じた弥奈が太腿をペチペチ、急に視界がクリアになったような気がするレベッカはスッと目を細める。
「ちょっといじわるな魔法だよ! 弥奈お姉さん、レベッカお姉さんやっちゃえー!!」
 みことが手をぶんぶん振り回して送り出し、番犬と機械天使の決戦が始まる。


「虫けら共が……!」
 D.O.が虚ろな翼を広げ、自らの傷を癒す。
「そんな……オラトリオのグラビティ!?」
 炎傷も、凍傷も、呪術も……全て消えて完全復活を遂げたように見える機械に、口元を覆う鈴にD.O.は鼻で笑った。
「時を支配する程に天使共を食ったのだ、これくらいはできる」
「そしてアンタは時を止められなくなる」
 この時を待っていた。そう言わんばかりにソフィアが胸に手を押し当て、何かをする前に逃げられた……が。
「やらせていただいたわよォン」
 ぷーくすくす。飛び退いた先に回り込んだ機械腕が叩き潰そうとして空振り、避けた瞬間機械腕に乗っていたヒガシバがプラズマフライパン!
「私の特性を知っている!? 貴様……ソフィアか!?」
「あら、今ごろ?」
「老いたな。かつての貴様は、一人で私と渡り合えたはずだ……」
「あの頃の力は失ったけど、得られたものもあるわ。それが知恵と経験……そして新しい力、サーヴァントよ! ……あと、旦那」
 今でも時々会っているらしく、ポッと頬を染めて目を逸らすソフィアに、D.O.が止まった。
「……本当に老いたな。やはり定命なる者は脆弱、終わりある物に価値などない!」
 世界が、静寂に包まれる。
「全ての命は常に高みを望むものだ。それは人もまた同じ」
 頬を染めたままピクリともしないソフィアと、驚いたまま固まっているみことの翼に手をかけた。
「しかし限りある命ではたどり着けぬ高みがある……神性機巧。私が目指すは、貴様ら虫けらには考えも及ばぬ究極の存在よ!!」
 ブチ。肌を引き裂き、肉が千切れる音が時計の針を進ませる。
「きゃぁあああ!?」
 突然の激痛にみことが泣き叫び、ソフィアが片膝をつく。
「やっば……」
 翼を噛み砕きその力の一端を食らうD.O.はみことの頭を掴み上げた。
「そこを退け、このガキの頭を握り潰すぞ」
「お前にプライドはないのか!?」
「くだらん」
「ひっ……痛い痛い痛い! やめてよぉ!!」
 煉を見下すD.O.は、指に圧を加えて死をちらつかせる。涙を流すみことを掲げ、番犬を下がらせた。
「『誇り』とか、『騎士道』とか、この私にそんなくだらないものはない……あるのはシンプルなたった一つの思想だけ……『勝利する』! それだけよ!!」
「図に乗るんじゃあないッ! この鉄屑がッ!」
「……ふん」
 片翼を引き千切られ、出血により青ざめながらもキッと睨むソフィアを一瞥して歩き出した時。
「ディメンション・オーダー、あなたは戦士としては凄かったわ……でも、私には皆という強い味方が最後までついていたのよ」
 ふと、かつての好敵手の姿が、今のソフィアと重なった。
「急々如律令!!」
「何っ!?」
 陸也の印を結び、吹き飛ばされた時に落とした符から無数の縄を生み出してD.O.を絡めとる。
「リューちゃん!」
「わきゅっ!?」
 投げ出されたみことを空色の獣竜が受けとめ、安全を確保。番犬が、牙を剥く。
「私の中で決定的な何かが切れた模様なんだが……」
 脚を踏み鳴らす弥奈が跳んだ。
「お前のような屑は、ここで仕留める!」
「舐めるなよ蜥蜴風情がァ!!」
 虚空を蹴り、上空で急加速する弥奈の跳び蹴りを受け止めて、軌道を逸らすD.O.に、ソフィアが、おや?
「オラトリオのグラビティまで持ち出したんだもの。そりゃーオーバーヒートもするわよね? ていうか、もうしちゃったから逃げの一手をとったのかしら?」
 一撃の威力は全く変わらない。しかし、D.O.の運動性があからさまに落ちている。
「あなた高火力機体だったのね……ま、知ってたけど。この私は何から何まで計算づくなのよーっ!!」
 実際には違うんだけど、手の甲を頬に添えて高笑いするソフィアに機械天使がプッツン。
「おのれぇ!!」
 ソフィアを狙う高速の踏み込みだが、時を止められないのなら問題ではない。
「もう、傷つけさせません!」
 鈴の氷華がソフィアの前に展開、しかし一枚、また一枚と打ち砕かれて止められない。風前の灯のソフィアに拳が迫り。
「やらせるかぁ!」
 煉が滑り込む。
「死にぞこないが、無駄なことを……」
「うるせぇ! 親父にできたんだ、俺だって誰かを守るくらい……!」
 右の拳が、蒼炎の狼と化す。
「おらおらおらおらおらおら!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄!」
 二人の拳が幾度となくぶつかり合い、蒼い火の粉と赤い血飛沫が舞う。
「こいつで……燃え尽きろぉおお!」
「くたばれ、虫けらァ!!」
 ゴキリ。
「……ち……くしょう……」
 最後に勝負を決めたのは、リーチの差。僅かに届かず、撃ち負けた煉が崩れ落ちる。
「レンちゃん!」
 トドメを刺すべく、頭蓋を踏み砕く前に鈴が煉に覆いかぶさり、火球が彼を焼き払う。
「ねーこ、やっちゃえ!!」
「ぶ!?」
 みことの火球に追随したねことが顔面にびたん! すぐさま頭を潰されて消えてしまうが、既にレベッカが機関砲を向けている。
「さぁ、針のビートに震え、燃え尽きるほどヒートする時です」
「ちっ……!?」
 防御をとるD.O.は釘のような針を弾くが、その腹部が突如焼き払われる。振り向けば、後方へ飛んだ針が落ちていた奇妙な長銃の引き金を押し込んでいて。
「あの時か……!」
 レベッカが投げ捨てたのは弾薬庫ではなく、予備の砲台。折りたたまれたそれが投げ捨てた際に起動、銃形態になっていたのだ。死角からの狙撃が直撃したD.O.がよろめき、恭弥が指を鳴らす。
「さぁ、お仕置きの時間ですよ」
 足元に星空の如き輝きが現れたかと思えば、それらは真っ直ぐに伸びてD.O.を包み込むようにして捕えた。光の牢獄を引き千切ろうとする機械天使に、ソフィアが手を翳す。
「戦いは戦いで別、あんたが殺した同胞への悲しみは悲しみで別……私も何故か、どこまでも高みに登ろうとするあんたに敬意を払いたくなったのよ……」
 グッと手を握った瞬間、閉ざされた世界に沈黙の帳が降りた。
「この一撃は、あんたへの『敬意』なのよ」
 ほんの少しだけ、時を巻き戻す。浮遊する機械腕が巨大化し、ソフィアの翼がくすんだ赤紫から、美しい真紅の輝きを放つかつての翼へ。重力鎖が翼と同じ色に染まり、機械腕の後部から溢れだす。
「さよなら、私の好敵手」
 バン――ッ!
 巨大な両手が祈りを捧げるように閉じ、頂を求めた機械の時に終止符を打つのだった。

作者:久澄零太 重傷:神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 15/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 10
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