光線が宙を灼いた。崩された瓦礫が砂埃を巻き上げる。
既に敵との交戦中にあり負傷していたケルベロス達は、増援の出現を察知し警戒の声を発する。敵の数は、こちらの状況は──増援出現直前には敵全滅まであと僅かであった為もあり、継戦は不可能では無いと判断したものの、すぐにその判断は誤りと知れた。
「えっ……、まだ増えるの?」
「流石にこれは分が悪いぞ」
増援の出現が止まない。二、三体だったものは瞬く間に十体にも届こうとしていた。
「──ダメだ、逃げよう!」
瓦礫の高台から戦況を見ていた射手が声を張り上げる。その足場もすぐに敵の攻撃に砕かれた。
「逃げ切れる!?」
「せめて他のチームと合流出来れば……!」
彼らは歯噛みしつつも決断し、退路を塞ぐ敵へ攻撃を集め道を拓く。深手を負った者を抱えて駆け去る彼らを、敵──増援として現れたダモクレス達は追わなかった。
前方を注視するよう暫し挙動を止めケルベロス達の離脱を確認したダモクレス達は機械の駆動音を伴い、元居た位置に戻る如く各々踵を返した。
「以前『ゴッドサンタ』が言っていた話ね」
篠前・仁那(オラトリオのヘリオライダー・en0053)が告げたのは、指揮官型ダモクレス達による地球侵略活動に関して。その一体──量産型ダモクレスの試作実験を行っている『マザー・アイリス』の手勢による被害を彼女は報告し。
「量産に向いた機体を沢山戦場にばらまいてはデータを集めて、改良を繰り返しているそうなの。一体ずつはそう強くは無いみたいだけど、それでも良い勝負が出来そうな相手とかを狙って襲って来てるようよ」
単に能力だけを見ての事では無く、ミッションを終えて疲弊していたり、数で圧倒出来そうなケルベロス達も標的にされているようだ。
敵達はミッション地域の外縁部に潜み襲撃を繰り返している。被害を抑える為にも潜む彼らを逆に探し出し撃破して欲しい、と彼女は言った。
次いで彼女は敵についてを説明する。一般的なドラム缶に腕二本と脚二本を生やして目を一つ付けるとかなり近い見目らしい。同時期に作られたと思しき同一性能の個体が纏まって活動しているようで、今回の相手も同様。制作時に不要と判断された機能はとことん省かれており、彼らは二足歩行し戦闘行動の為のそれなりの知能は有するものの、発声や感情表現の類はしないようだ。
現場は、建築物であったものの瓦礫と、敵であったものの残骸が様々に散らばる朽ちた市街地。空を塞ぐものこそ無いが、地面も周囲も荒れ放題の地形を探索する事になる。ところにより見通しも悪く、敵の奇襲を受けぬよう注意を払う事が望ましい。
「──他の敵の援護でばらばらっと出て来たり、帰還直前を囲まれたり、色々あったみたいだね。今回は、他の敵が居るような奥に立ち入らなければそうそうピンチにはならないと思うけど……あのドラム缶、なるべく沢山見つけて壊せたら助かるな」
怪我人の手当等を終えそれらの出来を確認していた出口・七緒(過渡色・en0049)が、一段落したところで口を開く。治したばかりの自身の髪に絡む彼の指はやや強張っていた。
「そうね、万全の状態で向かって貰えれば、あなた達にとっては数だけの相手、と言えるのではないかしら」
深追いはせぬよう、とだけ案じてのち仁那は、帰還についての打ち合わせに移るべく携帯電話と筆記具を取り出した。
参加者 | |
---|---|
シェリアク・シュテルン(エターナル主夫・e01122) |
鳴無・央(緋色ノ契・e04015) |
裏戸・総一郎(小心者な日記作家・e12137) |
海老那・椎(ひとりでできるマン・e12845) |
アレキサンダー・フォークロア(天光満つる処に我は在り・e24561) |
空舟・法華(モヒー対策係・e25433) |
シエラ・ヒース(旅人・e28490) |
リチャード・ツァオ(異端英国紳士・e32732) |
●
「現在地がこの辺りね」
広げた地図を指し示し言ったシエラ・ヒース(旅人・e28490)は上げた目線を遠くの荒れ地へと向けた。その傍らでは、片腕に端末を抱えそこへ纏めた情報を確認していた空舟・法華(モヒー対策係・e25433)が困り顔で唸る。頬に載せた血色の液体がどろりと垂れて襟を汚した。
「取り敢えず、近くからで良いでしょうか?」
「そうですね、絞り込む……というには範囲は広過ぎますですし」
「見通しの悪い場所に注意するくらいか」
これまでの目撃情報と補足の一覧を覗き裏戸・総一郎(小心者な日記作家・e12137)はおずおずと頷いた。統計を取ってみても、敵の出現エリアに偏りらしい偏りは見当たらず、奥地での情報が無い程度。遭遇時の状況についても、戦闘中の増援に限らず不意の出現と捉えられたケースが多かったと、緋色のマフラーを垂れる部分が無くなるほどにぐるぐる巻きにした鳴無・央(緋色ノ契・e04015)が改めて告げる。
交戦に至った地形の特徴程度は洗い出せたものの、生憎これだけでは効率的な捜索が出来るとは言い難い。何しろ此処はミッション地域、僅かずつとはいえ、地形など毎日のように変わっている。実際に赴くしかあるまい。
それに、探し当てるよりは釣り出す方が早いだろう。備えの一つとしてケルベロス達は、戦闘帰りで満身創痍あるいは疲労困憊といった装いを調えて来ていた。血糊や包帯、煤汚れや痣に似せた化粧等、派手に飾られた様は痛々しい。胸から上は汚れ一つ無い姿の央も腹から下は血襖斬りを喰らって泥水へ倒れ込んだかのような状態で、出口・七緒(過渡色・en0049)は髪を纏めて面積を小さくした上で服をぼろぼろにしていた。この辺りは各々、拘りと妥協の結果だ。
「少々不快ではありますがね」
「暫しの辛抱だな。洗えば落ちよう」
糊もブラシも完璧であった一式を見るも無惨に汚しているリチャード・ツァオ(異端英国紳士・e32732)は物憂げに。じっとりと重い袖から覗く包帯と青白い顔が相俟ってシェリアク・シュテルン(エターナル主夫・e01122)はひどく儚げな雰囲気を醸し出していた。歩を進める姿もくたびれきった猫背が非常に上手い。
「ふむふむ……これで忍び足は難しいですね」
「全員一緒なのですし、少しくらいは平気だと思うのです」
サーヴァント共々煤を被ったようななりの海老那・椎(ひとりでできるマン・e12845)が彼を手本に動くと、地面を擦る音が耳についた。アレキサンダー・フォークロア(天光満つる処に我は在り・e24561)は普段の姿勢が良い為だろう、所作については苦戦している様子だった。
ともあれこの状態でめぼしい場所を歩けば向こうが此方を見つけるだろうとの考えだ。少人数にグループを分ければより早かろうが、安全の為にもそれは最終手段と決めていた。
●
陽が傾いて来て景色に朱の色が増して、探索にも疲れて来た頃にそれは起こった。
報せたのは音では無く、駆ける光の白色。為し手の見えぬ遠くからのそれに法華は声をあげるより早く、傍のシエラと位置を入れ替える。しかしそれでは終わらず、続いて広範囲を薙ぐ熱線が数名の肌を灼いた。
敵の位置は遅れて判る。光に紛れて距離を詰めて来つつあった敵を捕捉する頃、三撃目の冷気をかわす事に成功する。
「奥は抑えますです」
「なら手前を狙うわ」
「行きましょう」
そうしてそのまま各々が迎撃に動く。鎚が重く風を裂き、追撃はそれを追い越さんばかりの速さを伴い。敵に対処の隙を与えぬまま、続き黒光が戦場を染める。
「押……いえ、今回はもう少し過激な対処になりますですね」
ドラム缶の状態には新しいものと古いもの、目撃情報は両方あったが、今回は真新しいタイプのようだ。高彩度の薄紅色に塗られたそれを見る総一郎は少々落ち着かない様子だった。如何な雑魚とて素直に押されてはくれなかろう事だし。
敵は三体。少な過ぎると警戒を抱きシェリアクは周囲に目を配る。金属光沢を帯びる残骸の塔、かつての建材が成す壁。物陰には事欠かない上、今回の敵の体色は夕焼けに馴染むもの。己は一歩退いて目を配って丁度だろうと彼は敵の対処を仲間達に任せ、先の攻撃の余波に顔を曇らせる盾役を癒しの気で包んだ。
「ごー君は敵をお願いします!」
椎はサーヴァントへ爪撃を命じ、彼女自身は攻撃役を気遣い両腕を振り上げた。幼さを残す手を大きく広げて複雑に腕を振り回した後、見る者を鼓舞すべく片足立ちでびしっとポーズを決める。
「その機能美溢れたグッドデザインは大変惜しいですが、速やかに壊させて貰います!」
精一杯全身を使っての大きな動きの末に彼女の片腕は敵を指し示した。その言には同じく盾役の法華が大きく頷いており、その後方では意見を異にするらしき数名が不思議そうな顔をしていた。
「こういうの、子供向けロボットにありそうですよね。寸胴ボディが素敵です」
「これで見た目が古びていたら、リサイクルと言われても信じられそうなんだが」
「どちらにしても見た目で判断するのは危険でしょうね」
目をきらめかせながらも敵の牽制に努める少女達の間を縫うよう踏み込んだリチャードが刀を振るう。与えた傷は比すれば浅くとも、舞い散る花弁が幕めいて色濃く敵達を包みその目を奪った。
初撃による被害は少なくなかったが、鍛錬を積んだケルベロス達には今のところ雑談に興じる余裕があるようだ。距離を詰めてくる敵をあしらい時折光線を散らしながら、ドラム缶談義はもう暫し続いた。
「レキはなんだか、あれを見てると胸がざわざわするのですけれど」
治癒を受けた少女はそう首を捻りつつも、二体居る敵の前衛へ立て続けに槍雨を降らせていた。
その中で、敵前衛が防御を重視している事が見て取れた。粘られる事で被弾の機会も増えそうではあるが、雷壁の守護が成される頃には自陣の護りも固められつつあった。どのくらいで倒せるかしら、などと考えつつシエラは細い手で鎚を振り上げる。
「機械の弱点は物理という話よ。装甲ごと叩き壊すわ」
常と同じに静かに言って彼女は、集中攻撃を受けていた一体へ鎚を振るう。派手な金属音を伴うインパクトの直後、敵がアルミ缶のようにひしゃげて吹き飛んだ。
「二分……は、経って無いのです?」
「このまま一旦殲滅出来ると良いですね」
「引きつけて退がれたらより安心なのですが」
「アァ!? マドロッコシイ事言ッテンナヨ、コンナノ雑魚ダロ雑魚!」
総一郎が持つ、敵意を煽る枷を繰る人形の腕が振り回されるのに合わせ、操り手へ噛み付きつつ敵を罵る文言が飛んだ。このまま敵の攻撃を誘導出来れば被害を抑えられるだろう。
が、このペースであればそこまでせずとも早々に倒せるかもしれない、との予測もあった。攻撃役達の火力を以てすれば、不可能な事では無かろう。
同様に、恐ろしい精度で敵のボディに排気口を増産している央も、今のところは敵の動きを鈍らせる必要も無さそうだと、振るった槍を持つ手を空けに移った。
●
じきに二体目を撃破した。ケルベロス達は残る一体へと距離を詰める。
「横だ」
その間隙を突く如きタイミングでの警告はシェリアクの声によるもの。反応したのは迫る凍光を視認したリチャードと、温度変化を察知した法華。追撃を皆に任せ無理矢理姿勢を変えた彼女は友人の前へその身を盾と投げ出した。
「無茶を……大事ありませんか」
「すみません、大丈夫です」
咄嗟の動きゆえに自身を護りきれず顔をしかめる彼女に、庇われた青年もまた痛みを覚えたかのよう眉をひそめた。増援の出現を確認し、三体目を撃破した攻撃手達が急ぎ戻る。
敵数は再度三体。少数ずつが分散して潜伏していたのだろうかと推測しつつ大剣を振るったシェリアクはしかし、舞い上がる砂礫の向こうに更なる同系色を見つけ仲間達へ報せた。
各々態勢を調える頃、新たに五体の姿が見える。先に到着したのはやはり光線だったが、傷そのものは軽く済ませられた。敵後衛に依って散らされた守護を、数名で修復して行く。
「戦いは数だけでは無いと教えてやるのです!」
その間にアレキサンダーが槍を放ち、総一郎が人形を御し敵を縛る。
「戦う音を聞きつけたか、彼らの間で情報が共有されたか、でしょうか?」
「では、すぐにまた来るかもですね。あまり多いと困りますが」
後方を薙ぐ光線の対処に駆け回る椎の要請に応え、ごー君は敵の注意を惹く為に再度前へ。
敵を惹き付けるのも、広範囲を捉える技も、数が増えてからが本領発揮。とはいえ。
「……流石に多いのです……」
そう間を置かずに敵は十二体まで増えていた。光線が乱れ飛ぶ中をケルベロス達は各々駆け回り、分断されるとまでは行かずとも、乱戦になりつつあった。
「ごめん助けて、壁張り直すのが追いつかない」
「ごー君、お祈りをお願いします!」
「我も助力を。済まないが攻撃は任せたい」
「承知しました」
「ダメージ自体は大した事無いのよね? 数を減らせば良いかしら」
「後衛を潰せば良いのでしょうが、だからこその壁役のようですね」
七緒が早々に申告する。すぐさまそれは対応されて、しかし法華が嘆息を交えた。ダメージが通りづらくなる事自体は、彼我の力量差からしてもさほど大きな問題とはならなかろうが、数に任せて一方的に攻められるような事態は避けたいと彼らは考える。
「なら、端から落としてみせるのです」
「派手に頼む」
アレキサンダーが背負った翼を広げて口の端を上げる。敵の死角を探し央が彼女とは別方向へ地を蹴った。
「ごー君さんは大丈夫ですか?」
個々の敵がさしたる脅威では無くとも、一人と一体でこの数を惹き付けるのは負担となろう。降魔の力を用いつつ耐える総一郎は、もの言わぬシャーマンズゴーストがそれでも、問題無いとばかり胸を張る様に安堵する。
数が揃っても敵は、前衛の壁に護られた後衛の破呪を起点とした戦法に徹しており、それを変える様子も見えないまま。ごく稀に、向けられた攻撃に対応し防いで見せた機体も居たが、それとて技量ゆえでは無くその時の状況が許したに過ぎないもの。敵前衛の護りをくぐり抜ける、あるいは壁をこじ開ける事は、ケルベロス達には決して困難では無かった。
「やっぱり小細工は要らないか」
呟く央はそれでも、正面から相手をしてやる気は無いようだ。あくまで己がやり易いよう、追尾する敵を容易く振り切り後衛へ死角から砲撃を撃ち込む。同じく軽やかに敵陣へ突っ込んだシエラは、籠手を嵌めた腕を振るい真っ向から敵前衛を薙ぎ払う。拓いた路を駆け抜けるのは、矢の如く放たれる無数の刀と槍だ。
やがて彼らは敵後衛の数を減らす事に成功し、ヒールに徹さざるを得なかった者達も徐々に攻撃へシフトして行く。今一度剣を抜いたシェリアクは敵の武装を機能不全に追い遣りつつ、その挙動を観察していた。
(「通信機能は……見ただけでは判らんか。奴らのデータ収集を阻めれば良いんだが」)
倒す事で防げるのかどうかも確たる答えは今のところ無いと彼は考え、敵の残骸を調べる事に意味はあろうかと思えど、難しそうだとかぶりを振った。
何故なら。各々が敵数を減らす事を優先した結果、ほどなく状況は落ち着いて、癒し手は操る雷の照準を狭く絞っていた。肉体に直接作用する雷撃の支援を受け、攻撃役達の勢いはより増して行く。リチャードが放った植物が、敵後衛の最後の一体を食い破り。
「これで──終わりなのです!」
翼が放つ光を纏ったアレキサンダーは前衛に残った最後の一体、通常のドラム缶とは比べものにならないほどの厚い装甲を持った合金製のそれを──これまでの十四体と同様に──、割れ物の如く盛大に破砕していた。
●
ひとまず敵影が無くなって、思い出したように疲労に襲われ彼らは息を吐いた。
「数は脅威だったのです……」
負傷はともかく所要時間に難があった──塵も積もれば、である。最後は増援が来ない時間が続いていたものの、敵がこれで終わりとは言い切れず、安心するには早い。
「幸い全員無事ですし、急いで引き上げましょう」
消耗している様子のサーヴァントを撫でながら椎が周囲を見渡す。更なる戦闘となれば、流石に被害が出かねないと、異論は出なかった。
「ドラム缶……いえ、最早屑鉄ですか。こうして見ると大分処理したように見えますが」
リチャードが肩を竦める。それすら敵には僅かな手勢なのかもしれない。敵方の動きゆえもあり不安を抱く者も居たが、それも無理のない事だろう。
しかし今回相手へ与えた打撃はゼロでは無く、それは此方の被害を抑える事に繋がる筈だ。
「もう少しで時間なのです!」
時計を見てアレキサンダーが皆を促す。まずは無事の帰還をと、それぞれが踵を返す。
(「今回の情報は、先にこちらで整理した方が良いかしら」)
最後にもう一度だけ敵の残骸を顧みたシエラは知人を案じ、夜の色に染まりつつある空をそっと見上げた。
作者:ヒサ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
|
種類:
公開:2017年2月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|