水晶の輝きは暗き海の底より出ずる

作者:青葉桂都

●髑髏は霧に笑う
 青森県の沖合、太平洋を進む漁船・細波丸の乗組員たちは、濃い霧の中を進んでいた。
「今日は晴れると思ったんだがなあ」
 船長である初老の男は、前方をしっかりと見ながら船を操る。
 視線の先に、霧を割って突如現れたのは恐るべき姿だった。
 人の倍ほどもあるであろう巨大な透き通った髑髏。
 そして、船長は霧の正体を知った。
「ほほほほほほ」
 笑い声と共に髑髏の口から吐き出される蒸気。それが霧となって船を囲んでいたのだ。
 漁師たちは逃げようとするが、船の上ではどうしようもない。
 髑髏の周囲に電気が跳ねまわるのと同時に、一見透明なように見えた髑髏の内部に無数の歯車仕掛けが詰め込まれているのが見えるようになった。
 本来なら頸椎につながる部分からは、奇妙な多脚構造の機械がつながっている。おそらくは胴体に当たる部分なのだろうが、それよりも髑髏のほうが明らかに大きい。
「儚き者よ、主らのグラビティ・チェインと引き換えに、妾が永劫を与えて進ぜようぞ」
 涼やかなその声が不快に聞こえるのは、発しているのが巨大髑髏であること以上に、口を開くたびに歯車が噛み合う金属音が混ざるからだろう。
「主らは輝ける水晶となって永劫を生きるのじゃ。ほほほほほ……さあ、妾とイマジネイターにその身を捧げよ!」
 髑髏が高らかに笑うと、電気が生き物のように表面から飛び出して船上を踊る。
 電気の球が漁師たちの体に触れると、一瞬身を震わせた彼らが、大きな悲鳴を上げた。いかなる化学反応を起こしたか、電気が触れた場所から水晶に変わっていったのだ。
 やがて、船の上は静かになった。物言わぬ人型の結晶と化した乗員を乗せて、細波丸はただ、潮の流れに任せて漂っていった。

●ダモクレス始動
「指揮官型ダモクレスが地球侵略を開始しました」
 石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)はケルベロスたちに告げた。
 彼らはそれぞれに配下を操って事件を起こそうとしている。
 芹架が予知したのは、『イマジネイター』という名の指揮官に従うダモクレスが起こす事件だった。
「いえ、指揮官という呼び名はもしかするとふさわしくないのかもしれません。イマジネイターがまとめている配下は皆、規格外のイレギュラーだからです」
 彼らは、統一された作戦行動など行わない。
 イマジネイターの地球侵略のため、それぞれグラビティ・チェインの収集やケルベロス打倒など、独自の目的を持って行動を起こすのだ。
 芹架が予知したのは水晶髑髏というダモクレスだった。
 蜘蛛に似た機械が、巨大な髑髏を背負った姿をしている。そして、蜘蛛も髑髏も、半透明な水晶でできているのだ。
 霧とともに現れるこの敵は、人を水晶化させる電気を放出する能力を持っている。
 海中を徘徊して船を襲撃、乗組員を水晶に変えてグラビティ・チェインを奪い取るのだ。
 芹架の予知では中型の漁船を襲っているが、放置しておけばいずれもっと巨大な船も襲われるだろう。
 そうならないうちに、速やかに撃破して欲しいと芹架は告げた。
 水晶髑髏は強力だが単独で行動しており、配下などは存在しない。
 普段は海中で行動しているが、目標を発見すると距離を取って浮上。海水を使って霧を作り、身を隠して接近する。
 漁船の航行を中止させてしまえば、水晶髑髏がどの船を狙うかわからなくなる。
 ヘリオンで移動すれば襲撃の少し前に航路上の海に飛び込み、船に乗り込むことができる。海上なので逃がすのは無理だろうが、船室に隠れていてもらうことはできるだろう。
 敵の目的はグラビティ・チェインであるため、注意をケルベロスにひきつける工夫もあるといいかもしれない。
「水晶髑髏の攻撃手段ですが、まず電気をまき散らすことによる攻撃です」
 この電撃を浴びた生物は体が水晶化してしまう。ケルベロスならば完全に水晶化することはないが、石化したのと同じように動きが止められてしまうこともある。
 さらに電気を髑髏の表面で踊るように動かし、見た者に精神的な衝撃を与えるとともにトラウマを呼び起こすこともできるようだ。
「また、口から蒸気を吐き出して、身を隠しながら攻撃することもあります」
 見えない場所からの体当たりや噛みつきは、高い確率で追撃を受けてしまうだろう。体力に劣るものなら一撃で倒されてしまうかもしれない。
「イレギュラーな存在というのは、統一された作戦行動をとる敵とはまた違った恐ろしさがあります。もしも取り逃がしたなら次になにをしてくるかわかりません」
 予知することができたこの機会に、確実に倒して欲しいと芹架は告げた。


参加者
リリィエル・クロノワール(夜纏う刃・e00028)
幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)
アマルティア・ゾーリンゲン(リビングデッド・e00119)
バーヴェン・ルース(復讐者・e00819)
リスティ・アクアボトル(ファニーロジャー・e00938)
エリース・シナピロス(少女の嚆矢は尽きること無く・e02649)
ルクレッツィア・ソーラ(銀閃のトリーズナー・e18139)
御門・美波(黒水晶・e34803)

■リプレイ

●海原へ
 ヘリオンから顔を出すと、はるか下方に海が見えた。
「寒い季節ですが、そんなことは言ってられませんッ!」
 力強く告げたのは幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)だった。
 まだまだ肌寒いこの季節に、身に着けているものは潜龍という名の競泳水着。だが、弱冠10歳の少女にとっては、これもまた修業の1つであるのかもしれない。
 鳳琴だけでなく他のケルベロスたちもどんどんヘリオンから降下していく。
 いくつもの水柱が海面にできた。
 飛行可能な者を別にすれば、目測だけで目標地点へ正確に降下するのはケルベロスと言えども難しい。
 御門・美波(黒水晶・e34803)は船を目がけて飛び出したが、残念ながらやはり落下地点はいくらか外れた位置だった。
 しかし、地獄の右翼と、サキュバスの左羽根で風に乗った少女は、水泳の飛び込み競技のごとく華麗な着水を見せる。
「おお……!」
 船から感嘆の声が聞こえてきた。
 事情が呑み込めないながらも拍手を送る船員たちの前で、船べりから小柄なツインテールの女性が顔を見せた。
「海賊のお通りだ、ってね! 安心しな、ただのケルベロスさ。そら、中に隠れてな!」
 緊張の表情を見せている船長に向かって、リスティ・アクアボトル(ファニーロジャー・e00938)は不敵に笑って見せた。
 リスティに続いて他のケルベロスたちも次々に船に上がってきた。
「……海賊を名乗るなら、船、欲しかったね……」
 ミミックのミミちゃんを抱えて、エリース・シナピロス(少女の嚆矢は尽きること無く・e02649)が言った。
「そうだなあ、クジラ号で来れりゃ気楽だったんだけどねぇ……」
 リスティが頷く。
 今回集まったメンバーの多くは、リスティを船長とする海賊船『吼えるクジラ号』の乗組員だった。もっとも、危機が迫っている状況でゆっくり船旅をするわけにもいかない。
「髑髏退治なんて、いかにも海賊……って感じ? 不謹慎だけど、ちょっと燃えちゃうかも!」
 やはり海賊船の一員である褐色の肌を持つ踊り子が、満面の笑みを浮かべた。
 リリィエル・クロノワール(夜纏う刃・e00028)がまとっている夜色のドレスからは水が滴り、どこか艶めかしい。
「人の前だ。いつもより少しは行儀よくするんだな」
 濡れた赤いポニーテールをまとめ直しながら、アマルティア・ゾーリンゲン(リビングデッド・e00119)がたしなめる。
「皆さんは……ケルベロス、なのですね?」
 船長らしき男性が、船員を代表して改めて確かめてきた。
「そうだよ、美波たちはケルベロスだよ」
 美波が無邪気な表情で頷いて、自分の姿が描かれたケルベロスカードを見せる。
「今からこの船にデウスエクスの襲撃があるって情報を掴んだから、助けに来たんだよ。危ないから、戦いが終わるまで船の中に隠れててくれると嬉しいな」
「さっさと行きな。敵はすぐに来るよ」
「は、はい、わかりました。全員、聞いた通りだ。急いで船に入れ!」
 船長が号令をかけ、甲板を走っていった。
 彼らが姿を消してすぐ、船の周囲が白一色に包まれる。
「――ム。霧が出てきたな」
 バーヴェン・ルース(復讐者・e00819)が言った。
 ケルベロスたちがそれぞれの武器を構えて、周囲を警戒し始める。
「ほほほほほ……」
 笑い声が聞こえた。
 巨大な透明髑髏が口元から霧――体内で作り出した水蒸気を吐き出しながら現れる。
「ほほほ、勇ましき出で立ちはケルベロスかえ? 妾に先回りして見せるとは、なかなか知恵者のようじゃ。されど知恵者ならば、妾に挑む愚かさにも気づくべきであったのう」
 歯車がきしむ不快な音が、鈴のように美しい声音と不協和音を奏でる。
「行儀よくするのはちょっと難しーですねえ。我らが船長の行くこの星の海で、でかいツラしてんじゃねーですよ!」
 ルクレッツィア・ソーラ(銀閃のトリーズナー・e18139)は、殺意の高そうな棘だらけのバットを水晶髑髏に向けた。
「そなたらこそ、大きな口を叩くでないぞ。妾にさような口をきいてよいのはただ一人、イマジネイターのみじゃ!」
 激しい電撃が水晶髑髏から放たれて、接近しようとした前衛たちを迎え撃った。

●船上に走る雷鳴
 アマルティアはとっさに電撃から船長をかばった。
 刀の形をした巨大な鉄の塊を握る手へ、一瞬目をやる。肌の表面が硬質化しているのがわかった。
「雷よりも早く動けば問題あるまい?」
 ひるむことなく、アマルティアは仲間たちの誰よりも早く船上を駆け抜ける。
「一番槍は……ふふっ、ティアちゃんに譲ってあげるわ!」
「任せたよ、ティア!」
 リリィエルやリスティの声に背を押されて、アマルティアは鉄塊剣を脇構えにする。
「――アマルティア・ゾーリンゲン。推して参る」
 腕力だけで振り上げた剣を、彼女はそのまま巨大髑髏のど真ん中へと叩き込んだ。
「この……!」
 怒りの声を上げようとした髑髏を雷をまとったシャムシールが突き、ひびを入れた。
「私は後からオイシイ所を頂いちゃうもんねっ」
 軽やかなステップで並んできたリリィエルと共に、アマルティアは船室から離れた舳先のほうへと移動する。
「宝石でしかも髑髏なら海賊の獲物と相場が決まっているんですよっ! こっち向けやオラァッ!」
 連続攻撃でひるんでいるうちに、ルクレツィアが紙兵を展開して仲間たちを守った。
 ケルベロスたちは船室から離れる方向へ敵を誘導していった。
 鳳琴は海賊たちから一歩下がった位置で強く得物を握った。
「倒しがいある外見です。我が拳技で、砕いてみせましょう!」
 もともとの知り合いだけあってリスティ一味は見事な連携を見せている。頼りになる仲間たちだが、彼女たちに負けていては幸家の名が泣くというものだ。
「これで、……どうだッ!!」
 エクスカリバールを構えた彼女は、狙いどころをしっかりと確かめて鉤状の先端を髑髏へと叩き込んだ。
 巨大な水晶に蜘蛛の巣のようなひびが入る。
「よくも妾の体に傷をつけてくれたのう! 許さんぞ!」
 怒りの声を上げる水晶髑髏へ、バーヴェンの斬霊刀が切り裂き、妖精のごとく舞ったエリースの蹴りも命中する。
「待ってて、すぐに元気にしてあげるから!」
 美波はサキュバスの霧を生み出し初めているようだ。
 リスティは水の刃を踊らせながら、水晶髑髏の巨大な顔を間近かで見つめた。
「……やっぱり見覚えある気がするんだよなあ、この髑髏」
「確かに、見たことあるような。ないような……」
 呟きを聞きつけ、エリースも言葉を発する。
「こんなデカくなかったかもしれないけど、昔見つけて好事家に売り払った髑髏がこんな形だったような……」
 首をかしげるリスティに、髑髏が霧を吐きかけてきた。
「愚かなことを言うものよ。この妾を売り払ったじゃと? 妄想にしてもずいぶんとくだらぬ」
 耳障りな声がそばで聞こえる。
 霧が巨大な髑髏を覆い隠していく。
「もっとも、もしそんなことが起こったならば、7度生まれ変わろうとけして許しはせぬがなぁぁぁぁっ!」
「なんだい! 違うのになんで怒ってるんだよ!」
「さような不遜な真似、想像するだけでも万死に値するわ!」
 霧から飛び出してきた髑髏がリスティに食らいつき、小柄な体を噛み砕く。
 痛みに次に感じたのは浮遊感だった。勢い余ってもろともに船から落ちたのだ。
 仲間が呼ぶ声を聞きながらリスティは海に沈む。
 だが、水中で呼吸する手段を用意していた彼女は髑髏から逃れ、態勢を立て直した。
 アマルティアのボクスドラゴン、バフが船の上から属性をインストールしてくれる。
 戦いは、始まったばかりだった。

●髑髏は海の底へと
 戦闘で巻き起こる波に、細波丸の船体が揺れていた。
 敵はケルベロスに目を向けてはいたものの、船を諦めてはいないらしく、離れようとはしない。
 そんな敵を怒らせて攻撃を引き受けているのはアマルティアだ。
「主よ、安息を」
 美波の左翼が純白に輝き、銀の弾丸から裁きの光条を放つ。悪しきものを滅ぼし善なる者を救うという光がアマルティアを支えていた。
 エリースは船縁から敵にしっかりと狙いをつけていた。
 愛用する漆黒の石弓の引き金に指をかけ、片目を閉じて敵を見据える。つがえている矢はミミちゃんのエクトプラズム製のものだ。
 視線の先では、アマルティアが半身を海に沈めたまま反撃を加えていた。
「地獄よ、音を刻め。憤怒の炎を灯せ。咆哮せよ、我が心臓。――ギアを上げるぞ?」
 体から炎をあふれさせながら、アマルティアが加速し、海から飛び出す。地獄化した心臓からエネルギーを得ているのだ。
 連撃を叩き込む彼女の体が、敵とエリースの間からわずかにずれた。
「その隙……逃さ、ない……!」
 放つ矢はアマルティアのすぐそばをかすめて髑髏の眼窩を射抜き、内部の歯車まで傷つけていた。
 敵の側面に回り込んでいく彼女の視線がエリースへと向いた。
「射線に立つの、邪魔」
「間にいたからって、当てる君じゃないだろ?」
 笑みを無表情で受け止めて、エリースはそのまま移動していくアマルティアを見送る。
「戦いのさなかになにをしゃべっておるか、小娘どもが!」
 さらなる仲間たちの攻撃を浴びながら、髑髏の周囲を雷光が踊った。
 だが、とっさに跳びあがったルクレツィアの小さな体が割り込み、エリースの視線をさえぎってくれていた。
 再び海へ飛び込んでいく少女と視線が一瞬だけ交わる。
 目だけで礼を告げるエリースに、ルクレツィアもまた視線で返事を返しくれた。
 海賊たちが、鳳琴が反撃を始める。
 リリィエルの刃が空の魔力をまとって敵を切り裂き、他の者たちも続く。
 美波は大好きな天使が消えていくトラウマに襲われていた。
 髑髏の周囲を踊る放電は見たくないものを見せる作用がある。わかっていたはずだが、実際に見てしまうと心が痛む。
「こんな力を船の人たちに向けるつもりだったんだね。ケルベロス、美波達の戦力を探るために無垢な人達を犠牲にするなんて許せない。相応の報いを与えてあげるね……ふふっ♪」
 かつて喰らった魂を、自らに憑依させる。トラウマは塗りつぶされ、消えて失せた。
「さぁ、ここからが本気だよ?」
 純白となった翼を広げて、美波は髑髏へ告げる。
 そして、今度はルクレツィアを回復すべくサキュバスの霧を生み出し始めた。
「押し切るよ! そら野郎共、部品の一つもぶんどってやんな!」
 リスティが皆に号令をかける。
「アイアイサー!」
 ルクレツィアが声を上げ、他の仲間たちも船長に応じた。
 美波やバフの回復を受けて攻撃をしのぎながら、髑髏の固い体をケルベロスたちは確実に削っていく。
 バーヴェンは刀を納めてグラビティを集中させる。
「せめて祈ろう。汝の魂に……救いアレ!!」
 高速で抜きはなった刃が髑髏に深い傷を刻む。
「その命、その力――奪わせてもらう。さぁッ!」
 赤き竜を思わすグラビティをまとって、鳳琴が髑髏に刻んだひびへと連打を叩き込む。
「これがケルベロスの力か。妾だけではかなわぬこと、認めるよりあるまい。だが……グラビティ・チェインはいただいて行くぞ!」
 追い詰められた水晶髑髏が霧を吐き出した。
 ルクレツィアは船縁をつかんで小さな体を引き上げた。
 船員を守るために注意を払っていた彼女は、敵の意図に気づいたのだ。
 エリースのミミちゃんと共に霧の中に突入し、船室の入り口をふさぐ。
「邪魔じゃ!」
 幼い少女をひと呑みにするほど大きく開かれた顎の骨が、目の前に迫ってきた。
 避けられる距離ではない。避けるわけにはいかない。
 武器で身をかばいながらルクレツィアは水晶の歯に噛みつかれる。
「海賊相手に獲物をかっさらって逃げようなんて、甘いってんですよ」
 気力だけで脚を支えて、ルクレツィアは髑髏に向かって言い放つ。
「よくやったね、ルック。けど、無茶すんじゃないよ!」
 船長がかけてくれた言葉に、ルクレツィアは控えめに親指を立てて見せる。
 追いすがってきた仲間たちが背面から水晶髑髏へと攻撃を加える。
「派手にやってくれたじゃないか。バフ、ルクレツィアを治してやりな」
 サーヴァントに指示しながら、アマルティアが見惚れるほどの華麗な一撃を食らわせる。
 エリースが無言で叩きこんだ蹴りに合わせて、ルクレツィアは拳を握った。
「殺す」
 シャドウエルフなら誰もが秘めている殺気が、形となって手の中に現れた。
 大鎚の形をとった殺気を、ルクレツィアは全力で叩き込む。
「幸家の拳、受けろダモクレスッ!!」
 釘を生やしたバールを鳳琴がフルスイングすると、髑髏に刻まれていたひびが全身に広がった。
 リリィエルは二振りの刃を手に、舞い踊る。
 もはや敵は瀕死。このまま押し切るべき状況だ。
「ふふっ、リスティに花を持たせてあげるのもいいけど……スキあらば首級は貰っちゃうから!」
 巨体に似合わぬ速度で敵が逃亡を図ろうとする。
 だが、リリィエルは潮の流れのように流麗な動きで敵を追い、ひびわれた敵の装甲の内部まで貫き通す。
 敵はまだ動いていた。
 倒しきれないであろうことは彼女にも予想がついていた。
 けれど焦る必要はなにもない。
 彼女のシャムシールとカットラスは、大事な仲間からもらった大切なもの。
 その仲間がどう動いているのかリリィエルには見ずともわかっていた。
「よかったんだぜ、リエル。譲ってくれなくっても」
 リリィエルとはちょうど反対側からリスティの声が聞こえてきた。
 髑髏を挟んでステップを踏む2人の足音が重なり、潮騒の唄を奏であげる。
「イマジネイター……すまぬ……」
 船長の動きに合わせて舞い踊る水の刃が、髑髏を水晶の残骸に変えた。

●次なるお宝へと
 水晶髑髏は破片となって散らばり、もう動くことはなかった。
 鳳琴は残骸へ拳士らしく一礼をする。
「イマジネイターはあなたよりも強いのでしょうね。必ず拳を届かせてみせましょうッ!!」
 決意を告げる彼女が、もう水晶髑髏を振り返ることはなかった。
「クジラ号に敵はなし! ……なーんてねっ♪」
 リリィエルがリスティのそばで足を止め、刃を掲げる。
「よーし、野郎ども、勝ちどきをあげな!」
「ヨーホー、です!」
 リスティのかけ声に、ルクレツィアが応じた。エリースやアマルティアも声をあげる。
 美波は髑髏の残骸に歩み寄った。
「今度はあなたが永劫に彷徨う番だよ? ねぇ髑髏さん」
 ゴクリと喉を鳴らして微笑む。
「ふふっ♪ キレイで美味しかったよ。あなたの水晶は」
 その微笑みのままに、彼女は船室へと声をかけた。
 細波丸をヒールし、ケルベロスたちは陸へと帰っていく。
「……水晶の髑髏……本当に、リスティが、売ったものだったのかな」
「さあね。手に入らなかったお宝のことはもういいさ。さあ、クジラ号に戻って、次のお宝を探しに行くよ!」
 リスティの呼びかけに、海賊たちは声をそろえて応じた。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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