顕現、鬼将天魔

作者:刑部

 横転し炎と黒煙を上げる観光バス。
 その『秘湯! 温泉めぐりツアー』と書かれた行先表示がその炎に舐められ、黒い灰へと変わり崩れゆく。
「ひいいぃぃぃ! ひぃい! た、助けてくれ! か、金は幾らでも払うから……」
 尻もちをつき、さみしげに残った髪の毛を乱れさせた男が、手に取った砂利を投げつけながら後退する。どん! とその背に何かが当たり男が振り返り、
「ヒイイイイイィィィ!」
 と、また甲高い悲鳴を上げる。
 それは先程までバスの中で廻った秘湯の数を自慢し合っていた男……の骸。腕や足はあらぬ方向に曲がり、撒き散らされた己の臓物の中、赤黒い血に染まっていた。
 どん! 大地を踏みしめる音に再び前を向くと、『それ』が無表情のまま近づいて来る。
「だっ、誰か助けてっ!」
 男の助けを求める声が山の木々に虚しく響く。
 しかし、ここは秘湯に続く舗装もされていない道路。
 人里も遠く辺りにはバスに乗っていた人達しか居なかった……否。既にその人々は全て物言わぬ骸と化し、生きているのは彼だけであった。
「……オーム」
 それが振り上げた錫杖が振り下ろされる光景。
 それが男の見た最後の光景であった。
「疾く死滅せり、我次に向わん」
 バスに乗っていた人々を全滅させた『それ』……ダモクレス『鬼将天魔』はもう一度生き残りが居ない事を確認し、首を刎ねつつ声を発したのだった。

「やられた。先手を取られてもうたで!」
 入って来た杠・千尋(浪速のヘリオライダー・en0044) の表情が悔しそうだ。
「指揮官型ダモクレスの地球侵略が始まったみたいや。指揮官型の一体『ディザスター・キング』は、グラビティ・チェインの略奪を任務とする主力軍団を率いとって、有力な配下を派遣して襲撃事件を起こしとる。
 襲撃をしとるダモクレスは鬼将天魔 っちゅー6つの腕と4つの足を持った球体関節で動く仏像みたいなダモクレスや。
 油断しとった訳やないけど先手を取られてもうた。観光バス1台、20人強の人らが殺されグラビティ・チェインを奪われてもうた。どんだけヘリオンかっとばしても間に合えへん!」
 ドン! と机に拳を叩きつける千尋。
「せやけど、この鬼将天魔、殺した人の頭蓋骨を機械化して己の体に加えるらしく、殺し尽してその『作業』をしとる。つまり、次の襲撃に向う前にならなんとか間に合うハズや!」
 苦虫を噛み潰した様な顔で千尋は続ける。
「こいつをほっといたら、次々と被害が広がってまう。絶対阻止せなあかんのや!」
 千尋の決意に頷くケルベロス達。

「襲われたのは秘湯の温泉巡りツアーのバスで、場所はちょうど岐阜県と富山県と長野県の境目辺りで、人里から離れた森を抜ける舗装されてない道で襲撃を受けたんや」
 地図を出しながら説明する千尋に、大きなバスが入れる道なのか? と質問が飛び、
「通れるみたいやな。この道の先に少し拓けたところがあって、そこに車を止めて更に1時間歩いた所に秘湯があるそうや」
 と質問に答える。
「ダモクレスは殺し尽した人の首を刎ねて自分に加える作業をしとるから、そこを襲撃する形になるんやけど、さっきも言うた通りディザスター・キングの配下の目的は、『グラビティ・チェインの略奪』や。
 ケルベロスの撃破やないから、戦闘を回避できるなら回避して任務を続行しようとしよる。ただ、回避が難しいと判断したら全力でこっちを全滅させにきよるで、せやから最初に戦闘回避……つまり逃げるんは難しいと思わせなあんで」
 鬼将天魔の特性について説明する千尋。
「鬼将天魔は機械化した骸骨を首や腰に巻き、ぼろぼろの僧衣を纏って4つの足で立ち、6つの腕の内2つの腕で印を結び、1つに頭蓋骨、残る3つの腕に錫杖、金棒、金剛杵をもっとる。獲物を振るい、結んだ印から光線が放ちよる」
 と、敵の詳細を伝えるた千尋は、
「かなり手強い敵やけど、ここで負けたら犠牲になった人らも浮かばれへん。気合入れていきや!」
 と皆に発破を掛けたのだった。


参加者
ニーナ・トゥリナーツァチ(追憶の死神・e01156)
吉柳・泰明(青嵐・e01433)
日色・耶花(くちなし・e02245)
永代・久遠(小さな先生・e04240)
浦戸・希里笑(黒鉄の鬼械殺し・e13064)
クリスティーネ・コルネリウス(偉大な祖母の名を継ぐ者・e13416)
アスカロン・シュミット(竜爪の護り刀・e24977)

■リプレイ


 木々の間から立ち上がる黒煙。
 その元には横転して燃え上る観光バスと1体の仏像の様なダモクレス。そして物言わぬ20体程の遺体が横たわっていた。
「……全て死滅せり」
 そのダモクレス『鬼将天魔』が金剛杵を振るい、恐怖にその目を見開いた女の首を持ち上げると、その首を機械化して己の体に取り込む。
「……ぬ?」
 何かを感じ作業を止めて顔を上げ辺りを窺う鬼将天魔だったが、バスの燃える音以外は何も聞こえず、小首を傾げて次の骸へと歩み寄った。
(「3……2……1……Go!」)
 その首を刎ねようと鬼将天魔が身を屈めた瞬間。
 同時通話状態なった携帯からの声で四方の森がざわめき、八方からケルベロス達が飛び出して来た。
「これだけの人々を虐殺し、あまつさえその遺体を辱めるとは……正に鬼畜の所業。これ以上の凶行は決して許さん! 既に貴様は完全に包囲されている。無駄な抵抗はやめろ!」
 丁度正面から飛び出す形になったリューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)が言い終わらぬ内に、如意棒の先を突き入れ、
「あなた方の無念。込めたのはただ一枚の羽ですが、これで貴方を止めてみせます!」
 亡骸を見回したクリスティーネ・コルネリウス(偉大な祖母の名を継ぐ者・e13416)が投じた羽が、その動きを縛りに掛ると、その袖を咥えていたドーベルマンっぽいオルトロスの『オっさん』が睨み付け、鬼将天魔が身に着けた頭蓋骨の1つが燃え上る。
「ケルベロス確認。排除プログラムの優先度低。グラビティ・チェインの収集を優先する」
「させません。一度私の手の届く範囲に入ったからには、もう逃がしはしません」
 逃走の動きを見せた鬼将天魔に対し、辺りに散らばる遺体に心の中で詫びた永代・久遠(小さな先生・e04240)の『P239』が火を噴き、
「十界天魔は、『アスラ』はどこにいる? 『ヤクシャ』!」
 ライドキャリバーの『ハリー・エスケープ』を駆り、回転する腕を突き出した浦戸・希里笑(黒鉄の鬼械殺し・e13064)の声に、
「十界天魔……DATA……」
 反応した鬼将天魔の浮きが一瞬止まる。
 その眼前に忽然と現れたのはフードを被った死神。大鎌を振るった死神は、カウンターで振るわれた鬼将天魔の金棒により霧散するが、
「疾く奔れ―」
「死を弄んだ挙句、その死体を弄ぶなんて……あなたも死神と躍らせてあげるわ」
 吉柳・泰明(青嵐・e01433)の喚ぶ雷牙を持つ黒狼が、金棒を振るった隙を狙って駆け、先に死神を現したニーナ・トゥリナーツァチ(追憶の死神・e01156)が、間合いを測る様に『死神の大鎌』で空を斬る。
「ケルベロス多数。回避の……」
 言い掛けた鬼将天魔の体に爆発が起こると、
「逃がさないわよ。その首、置いていきなさい」
 爆破スイッチを押し疲れ目を向ける日色・耶花(くちなし・e02245)の隣で、着飾ったシャーマンズゴーストの『カジテツ』が、祈りを捧げて希里笑に穢れを受けぬ加護を与える。更に側背からアスカロン・シュミット(竜爪の護り刀・e24977)。
「彼らの無念、その身に刻め……」
 振るわれた刃が鬼将天魔の右肩を抉る。
「……回避不能と判断。殲滅行動を開始する」
 声と共に鬼将天魔から禍々しいオーラが放たれ空気が震えると、木々が揺れ木の葉が舞い散る中、鬼将天魔の印を結ぶ指が複雑に動き、
「来るぞ!」
 アスカロンが言い終えるより早く、その印から閃光が放たれた。


「やらせないのです!」
 閃光が放たれるのとほぼ同時、久遠が機械式の魔導杖XMR-01aを振るい雷壁を展開するが、閃光はいともたやすくそれを突き破り耶花目掛けて飛ぶ。そこに割って入ったのはハリー・エスケープ。
 その重騎士にも似た装甲が閃光を受けてひしゃげ、8身ほど弾き飛ばされ白煙を上げる。
「流石……侮れない」
 希里笑はハリー・エスケープが消滅していない事を確認すると、全ての銃口を鬼将天魔に向けて打ち放ち、その反動で思い出のマフラーの先が踊る。
 希里笑の放った銃弾が爆ぜたのに合わせ、クリスティーネと泰明が続くが、鬼将天魔が錫杖を振るって応戦する中、
「まだまだ。全砲門、一斉掃射。目標を殲滅する!」
 アスカロンの千引岩により守りを増したリューディガーの砲門が、一斉に火を噴いて追い打ちを掛け、巻き起こった白煙の中、今度はそれに合わせてニーナと耶花が攻勢に出る。
「……オーム」
「! 気を付けて閃光か来ます」
 ハリー・エスケープに治療を施していた久遠は、白煙の中、印を結ぶ腕が複雑に動いている事に気付き声を上げると、その久遠目掛けて閃光が放たれた。
「……生憎と君相手にこの程度で倒れるつもりは毛頭ない」
「希里笑さん!」
 その射線に割って入った希里笑の左腰辺りが一部消滅し、とめどなく流れる鮮血に小さな悲鳴を上げた久遠が、鞄から手術道具を取り出して駆け寄る。
「治癒の時間を稼ぐ。続け!」
 ハリー・エスケープが希里笑を庇って立ちはだかり、ガトリング砲を掃射する中、足に焔を纏ったリューディガーの号令と共に、ケルベロス達は頭蓋骨を消して偽骸装着する鬼将天魔に対し、一斉攻勢に転した。

 泰明の突きを金棒で跳ね上げた鬼将天魔が、錫杖を振り回して仕寄ったケルベロス達を押し返すと、
「隙ありよ。仕事も恋も一歩退いたところから確実に狙わないとね」
 とタイミングをずらしての攻撃で跳び蹴りを見舞った耶花が、ウインクして飛び退さり、カジテツはその後方で、ゆらゆらと腕を動かし怪我の多い者から順番に癒し続けている。
 久遠が放り投げた薬剤瓶を打ち抜いて前衛陣を回復させると、リューディガーと希里笑が再び押し出し、それをニーナが後押しするが、
「……オーム」
 その攻撃と鍔迫り合いと演じながら結ばれた印から、クリスティーネ目掛けて閃光。
「えっ……」
 リューディガーらに続こうと距離を詰めていたクリスティーネは、激しく打ち合う中、まさか自分に攻撃が飛んで来るとは思っておらず、完全に虚を突かれ閃光が直撃する。
 ……刹那、オっさんがその袖を咥えて思いっきり引っ張った事で体勢を崩し直撃を免れるが、左の上翼とウェーブの掛った銀色の髪の一部に激しい損傷を負う。
「ありがとう、オっさん」
 その痛みも忘れ、オっさんを撫で回すクリスティーネだったが、オっさんはそんな事より仕事だと言わんばかりに、そっけなく鬼将天魔に踊り掛ってゆき、カジテツが静かに祈ってクリスティーネの傷を癒す。
「ほんと怖いわね。けど、あなた達の無念を晴らすため、そして被害者をこれ以上出さない為にも頑張るわよ。趣味も合わなさそうだしね」
 周りの遺体をちらりと見た耶花がそう言ってスイッチを押すと、鬼将天魔の体表で爆発が起こり、鬼将天魔が偽骸装着でその傷を補うと、首の辺りにあった頭蓋骨が1つ消え、少し形の違う機械化された頭蓋骨が浮かび上がってくる。

 1対8……いや、サーヴァントを含めると1対11になるのだが、そんな数の差など些事だと言わんばかりに、連携のとれたケルベロス達の攻撃を幾度となく跳ね返し、時に痛撃を見舞う鬼将天魔。
「貴様っ!」
 踏み込んだ鬼将天魔が遺体を踏み付けたのを見て、眉を吊り上げた泰明が切っ先に怒りと雷を湛えて突き掛ると、飛んで来た気咬弾が爆ぜ、機械化された頭蓋骨の1つが壊れる。
「それが命の担保になっているのよね? 全部潰してあげるわよ」
 その気咬弾を飛ばしたニーナが、死神の大鎌を小脇に、その衣を翻して一気に距離を詰めると、耶花とクリスティーネがそれに続く。
「フローラ、お前の技借りるぞ!」
 その攻撃に気を取られた鬼将天魔に逆側からアスカロン。
 右足を軸としたムーンサルトの蹴りを見舞い、鬼将天魔が向き直るより早く距離をとるが、鬼将天魔はリューディガーの放った弾を弾き、希里笑と切り結びながら、印を結んだ両腕だけをアスカロンに向け、閃光を放つ。
「つっ……」
 アスカロンは思わず『家守』を嵌めた腕で顔を庇うが、衝撃は来ず駆け抜ける風圧に魂魄の外套が揺れる。
 直撃を受けなかったのは轍を刻んで射線に入ったハリー・エスケープが受けたからであり、この一撃を受けその重騎士の如きライドキャリバーは、久遠が回復を飛ばすより早く消滅してしまう。
「戦闘データ集積……」
 鬼将天魔の顔がぐるんと動いて戦場を見渡し、何かを呟くが剣戟の喧騒で良く聞こえず、再び印を結んで閃光を放とうとするが、
「そうは何度も同じ手は喰らわないわよ」
 ニーナは印を結ぶ腕の動きだけを注視しており、その腕が印を刻み始めた瞬間、その腕に斧刃を叩き込んだ。その動きにギロリと視線を向けた鬼将天魔が、
「―滅せよ」
「滅するのは貴様だ、覚悟せよ」
 振り下ろす金棒を庇って入った泰明が刃で受けて睨み返し、渾身の力を込めて押し返すと、その泰明の力に仰け反る形になった鬼将天魔が蹈鞴を踏む。
「そこだ」
 そこに狙い澄ましたアスカロンの放ったエネルギー光弾が爆ぜ、鬼将天魔は錫杖をついて倒れるのを堪える。


 明らかに勢いを失いつつある鬼将天魔に対し、更に波状攻撃を仕掛けようとするケルベロス達だったが、このタイミングでガソリンタンクに引火したのか突如バスが爆発する。
 轟音と共に叩きつけられる熱風。無論グラビティによるものではないのでダメージは皆無であり、ケルベロス達も鬼将天魔から目を逸らす様な事はしないが、幾人かが意図的に、あるいは無意識の内に、犠牲者達の亡骸を熱風から守る様な動きを見せた。
「……怨嗟起動」
 その動きを見た鬼将天魔が小声で何か言うと、その体表に現れた機械化した頭蓋骨が人の顔へと変貌する。
「なっ……」
 怨嗟に満ちた瞳を虚空に向ける幾つもの顔に、クリスティーネが絶句していると、
「いやぁぁぁあああああ!」
「助けてくれ! 助けてくれー!」
「なんでもするから! なんでもするから命だけは!」
「おかーさーん!」
 その顔達が口々に喋り始め久遠が思わず耳を塞ぐなど、明らかな動揺が広がるケルベロス達。
「貴様ッ、貴様だけは……決して逃がさん! 貴様が手にかけた人々の痛み、苦しみ……思い知れ!」
「なんでもするから! なんでごひゅッ!」
 憤怒の表情でリューディガーの繰り出した如意棒が、懇願する男の顔ごと鬼将天魔の体に突き入れられる。
「惑わされるな! ここで奴を倒さねば、もっと多くの命が奪われる!」
 味方に向って咆えるリューディガー。無論、そんな事は皆理解している。が、心と体が上手く結び付かなかったのだ。だが、その声にオっさんが刃を口に飛び掛り、
「確かに……喪った命はもう戻せない。だが、これから喪われようとしている命は……!」
「なんとも腐った性根ね、見下げたものだわ。貴方の魂もきっと腐りきった様に不味いのでしょうね。死を愚弄する愚かな影は波の上の木の葉の如く揺れ、もたらされる死は歪に踊る」
 懐刀を左手に構えたアスカロンが、地上ギリギリを滑る様に飛んで鬼将天魔の腰辺りに一撃を見舞い、目深に被ったローブの奥から蔑みを湛えた紅い瞳を向けたニーナが、詠唱と共に大鎌を向けると、鬼将天魔の中、鳴き叫んでいた女性の顔を潰して死神が現れる。
「想像していた以上に悪趣味よあなた。さてどうするの? 逃げたければどうぞ、動いてもいいわよ」
 ルージュを引いた唇から蠱惑的に呟いた耶花の放つシャープシューター116が鬼将天魔の眉間を貫き、
「頭部損傷……修復を、ドッグに……修復を……」
 ビクンと体が震え、その動きが一瞬止まる。
「平穏な旅と命は疎か、遺体までも踏み躙ろうとは、許し難い。後悔の念も懺悔の言葉もいらん。唯々滅せよ!」
「私が私であり続けるために、ただまっすぐに……君を力一杯拒絶する」
 嗾けた黒狼の牙と共に泰明が愛刀を繰り出し、希里笑がドリルの様に回転する腕を突き入れた。
「ガッ……」
 だが次の瞬間、その背から突き抜けた閃光と共に希里笑の口から鮮血が溢れる。至近距離で鬼将天魔が印を結んだのだ。
「浦戸さん……」
「私に構うな。トドメを!」
 クリスティーネの言葉を遮り、鮮血を吐きながら咆哮する希里笑。カジテツは無言のまま祈りを捧げ続け、
「永代さん」
「任せて下さい」
 クリスティーネが久遠を呼びながら振り返ると、久遠は既に手術道具を手に鉄壁スカートの裾を翻し希里笑に向って駆け出していた。
「絶対に許しません!」
 それを確認して鬼将天魔に向き直ると、クリスティーネはチェーンソー剣の駆動音を響かせて斬り掛る。
「こんなところで……私の手の届く所で、仲間を! 死なせる訳、ない、で、しょ!」
 言葉ごとに手を動かす久遠が希里笑の回復を図る間、鬼将天魔に一気呵成の総攻撃を仕掛ける仲間達。浮き出た顔はことごとく潰れ、幾重にも刻まれた傷からは血ともオイルともつかぬ液体が溢れ出ている。
「エラー……戦闘継続に深刻なエラー……」
 そう鬼将天魔口にしたところで、ニーナとアスカロンの攻撃が決まって音声が途切れ、続くリューディガーとクリスティーネの攻撃で2つの腕が落ち、泰明と耶花の攻撃でその首を落とされた鬼将天魔は、遂に動かなくなり、その場に崩れ落ちたのである。

「この手でトドメを刺せなかったのは残念だ」
「何言ってるんです。あんな無理して、命があっただけ良かったですよ」
 思う様に動かない体にぼやく希里笑の背中を久遠が叩くと、その隣に消滅していたハリー・エスケープが陽炎の様に揺らめいて現れた。
「……ごくろうさん」
 その姿に希里笑の目が少し細くなる。
「6つ首が無いのは仕方ないわね」
「あぁ、仕方がない。俺達に出来るのは、この様な事が二度と起こらぬ様、禍根を断つ事だけだ」
 ニーナの言葉に黙祷を捧げていた泰明が応じ、
「戻してあげたいけど、違う人のだったらそれはそれでアレだしね」
 耶花の言う様に、鬼将天魔の体に幾つか頭蓋骨があるのだが、どれがどの遺体の物か判らず、鑑定でもして専門家に任せる事になった。その三人の前ではクリスティーネが、
(「間に合わなくてごめんなさい……」)
 と心の中で詫びながら、真摯な祈りを捧げており、傍らに立つアスカロンも、
(「間に合わず、申し訳ない。せめて……安寧なる眠りを……」)
 その冥福を祈っていた。
「この様な非道……許さんぞダモクレス」
 リューディガーは戦闘時に剥がれ堕ちた鬼将天魔の破片を踏み付け、その怒りを露わにする。
 ともあれ、犠牲者は出たもののケルベロス達は鬼将天魔のそれ以上の活動を阻み、撃破する事に成功した。一行は遺体を回収に来る行政の車を待ちながら、この様な事件を起こすダモクレスを止めて見せると、決意を新たにするのであった。

作者:刑部 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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