●Warning
華奢な少女のダモクレスは、瞳を片方閉じて何らかの命令を受信していた。
「あら、撤退……はい、わかりました。レジーナさま」
指揮官からの通信を終えて、赤い瞳をゆっくりと瞬いた。
ダモクレスの名は流転。正確には流転X115。この街に随分と長く潜伏していたのだが、つい先程指揮官からの撤退命令を受け取った所だ。
流転はつまらなさげに辺りを見渡すと、黒いドレスの裾を翻しながら歩き出した。
「さて、ここでの情報収集はおしまいね。はやくレジーナさまの所に戻って、次のお仕事をもらわなくてはね」
ひらりひらりとドレスの裾をゆらして歩く少女のダモクレスは、入院病棟の傍を通りかかって、ふと足を止めた。
その建物の窓から見える少女は、自分と大して変わらない年頃。痩せ細った身体をベッドの上で点滴に繋がれ、ぬいぐるみを抱きしめて眠っていた。
「ああ……同じなのね。あの子、かわいそうに」
きっともう長くないのだ。流転は暫くじっと病室を眺めていたが、良いことを思いついたと笑みを浮かべた。
「そうだわ。あの子をわたしと同じにしてレジーナさまへのお土産にしましょう」
流転とおなじに。つまり、少女をダモクレスにして連れて行くのだと。
命令通りにずっと潜伏していたのだから、帰りにちょっとくらい良いんじゃないか、と。
それに……生きたいという願いに善悪なんてないでしょう?
「だって、病気の無い元気な身体になれるの。生きることができるのよ、素敵でしょう!」
つめたい赤い瞳を輝かせて笑顔を浮かべた流転は、その夜、病室の少女の命をその手の大鎌で刈り取ってしまう――。
●依頼
「こんにちは、ケルベロス様。新しい情報……今回はダモクレスです」
凌霄・イサク(花篝のヘリオライダー・en0186)の口調はいつもと変わらない。
指揮官型ダモクレスの地球侵略が始まったようだ。
その指揮官型の一体『コマンダー・レジーナ』は、既に多くの配下ダモクレスを地球に送り込んでいたらしく、着任と同時に潜伏していたダモクレスが動き出した。
動き出したダモクレスの多くはそのまま撤退したようだが、中には手土産にグラビティチェインを略奪するものも少なくない。多数の事件が予知されている。
「ケルベロス様方にお願いしたいのは、入院中の少女を殺害し、ダモクレス化して連れ去ろうとしている、流転X115、少女型ダモクレスの撃破です」
イサクは敵の名を告げた後、神妙な面持ちで状況を説明する。
「流転は指揮官レジーナの指示通り、街に潜伏して情報収集を行っておりました。その間、事件事案は起こしていません。撤退命令を受け取ったのち、指揮官への手土産として少女を殺害しようとしています」
潜伏中は事件を起こさずおとなしくしていたという反動もあるのかもしれない。
だが、それよりも、流転がダモクレスとなった要因に事件を起こす理由があったようだ。
「ダモクレスとなる以前、流転は病を患っており余命を宣告されていたようです」
生きたいと願うことに善も悪も無い。その通りだ。
だが、生命を絶ってダモクレス化してしまうのは、決して許されない事だ。
ヘリオライダーは小さくため息をついて、説明を続けた。
「さて、事件は夜半に病室で起こります。場所は大学病院の小児病棟病室、12歳の女の子です。侵入については此方で手配いたしますので、ケルベロス様は流転への対策を主にお願いします」
病室は1階。病状は緊急を要する程ではないが、点滴を外せない為に個室になっている。
流転は窓から訪れるようだ。ベッドは部屋の中央にあるが、少女は動けない。
窓の外、病院の中庭で迎え撃つのが良いだろう。ここならば広い。
「かなり多くのダモクレスを潜伏させていた『コマンダー・レジーナ』は、指揮官としては厄介な部類だと推測いたします。これ以上の情報収集をさせない為にも、このダモクレスはここで撃破してくださいませ」
「生きたい。うん、わかる。わかるけど、これはあかん。あかんわ。阻止せなあかん」
真喜志・脩(星・en0045)が、俺も行くと尾をゆらした。
「はい。――それでは、ご案内致しましょう」
イサクは一礼すると、貴方達をヘリポートへと導く。
参加者 | |
---|---|
夜桜・月華(まったりタイム・e00436) |
八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484) |
エルボレアス・ベアルカーティス(正義・e01268) |
ミツキ・キサラギ(狐影焦然・e02213) |
麻生・剣太郎(全鉄一致・e02365) |
ソラネ・ハクアサウロ(暴竜突撃・e03737) |
ジェミ・ニア(星喰・e23256) |
星澤・コッペ(サイボーグ小学生・e33927) |
――生きたいという願い。それは善でも悪でもなく、人の欲望。
●邂逅
病棟の明かりが、ひとつずつ消えていく。
中庭では二手に分かれて待機し、またさくらの病室では真喜志・脩(星・en0045)と共に幾人かのケルベロス達が少女の護衛に当たる。
突然現れた彼らの姿に驚いていたさくらだが、宵一がケルベロスであることを明かしてきちんと名乗れば、少女の年齢にしては落ち着いた様子で理解してくれた。ウフルがぬいぐるみの絵を描いて見せればとても喜び、恐怖や緊張感を幾分か和らげていた。
張り詰めた空気と共に敵を待つ。
麻生・剣太郎(全鉄一致・e02365)は神経を研ぎ澄ませて庭を見据える。
友人、相棒、大切な人。剣太郎を助けたい仲間達が駆けつけ、共に戦ってくれる。
(「流転……僕はあなたが人であった頃、どのような想いで日々を過ごしていたのか、判らない。判るなんて言えるわけがないけれど……」)
中庭は外灯で薄く照らされていたが、仲間が用意してきた光源が足されたお陰で随分と明るい。その明るい庭を横切れば、否でも応でも影が動いた。
現れた影は庭から病棟の方へと滑るように動く。
剣太郎の身体に緊張が走った。影の主は……宿敵、流転。
(「あなたは自らの意志で人の身体を捨てて、人類の敵となって僕たちの前に居る」)
――今は、それがすべて。
長く伸びた影は大きな鎌、その持ち主は華奢な少女の姿をしたダモクレス、流転。
黒いドレスの裾を揺らして、リボンを風になびかせて。
さくらの居る病室の窓へ近づこうとした流転は、立ち止まった。
「ここは通行止めです」
毅然と声をかけた剣太郎の立ち塞がる姿を、冷めた赤い瞳に映す。
「わたしの邪魔をするのね?」
拗ねたように唇を歪ませた流転を、ケルベロス達は二手から挟み込む。
「理由がどうであれ、殺人は容認できん」
エルボレアス・ベアルカーティス(正義・e01268)の言葉に、流転は眉を寄せた。
「殺人じゃないわ」
「残り少ない命だったとしても、ヒトでなくしていい理由にはなりません」
ソラネ・ハクアサウロ(暴竜突撃・e03737)が中庭側から追い詰める。
流転は大鎌を掲げて身構えた。
「人で無くなった方が長く楽しく生きられるもの!」
流転は掲げた鎌からきらきらと光を受けて、癒しと耐性を得る。
「誰であっても、どんな理由であっても、人の命の在り方を勝手に決めるなど許されません。それは、命をモノ扱いすることに他ならない」
剣太郎が放つライジングダークの黒光が、流転を照射する。
ライドキャリバー『鉄騎』も剣太郎と連携してスピンしながら敵に突進する。
反対側から八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)が旋刃脚で急所を貫く。
一瞬怯んだ流転が小さく舌打ちする。病室の中にも外にも、さくらを護るケルベロスの姿。窓の付近を守る数はサーヴァントも含めて多く、隙を突いて突破することは難しい。
敵の意識を病室から引き剥がそうとする瀬理の視線が流転を射貫く。
強い意志の籠もる瞳。けれど内心、苦い思いも胸に秘めている。それは、生きたいという当然のエゴを――叩き潰す覚悟。
「邪魔をするのね。だったらみんな……壊してあげる」
流転は迫るケルベロス達と距離を取る為、病室の窓からヒラリと離れた。
「ダモクレスに改造か……いやなこと思い出させるな。絶対倒さなきゃ!」
星澤・コッペ(サイボーグ小学生・e33927)は苦い表情で流転を追う。
●少女
さくらは病室の窓から庭の様子を見ていた。
光源があるとはいえ、時刻は夜。そして動きの速い戦闘。全てを目で追うことは適わなくとも、自分を狙うデウスエクスと戦うケルベロス達の存在を身近に感じる事は出来た。
「自分が自分じゃなくなるのは、怖いよ。それだけは、俺達ケルベロスもよく知ってる」
流転が窓の傍から離れると、樹はさくらに声を掛ける。
「だから『さくらちゃんが生きるため』に俺達はここにいるんだよ」
流転の姿を追っていたさくらは、己を守る為に傍に居る者達を見つめた。
ジェミ・ニア(星喰・e23256)のスターゲイザーが炸裂して流転の機動力を奪う。
さくらの安全を確保しなければ。
このまま病室から引き離して囲い込む。
(「人の心を得た機械もいれば、機械になった人間もいる」)
ジェミは流転の姿を追いながら、少しだけ思案する。
生を求める心を咎めることは、出来ないけれど……。
「流転。今の貴女は、望んだ場所にいるのでしょうか」
ジェミは問う。流転は「そうよ」と肯いた。
「機械になる事は、大切な人達と同じ時間を生きられなくなるということです」
「どうして?」
エルボレアスの旋刃脚が、流転を病棟から更に遠ざける。敵は小さく悲鳴を上げてエルボレアスを睨んだ。
「哀しい境遇ではあるが、見過ごせばまた同じような事件を起こすだろう。人類の為に何としてでも、ここで倒す」
ソラネは病室へ向けて声を掛ける。
「真喜志さん、皆さん、さくらさんをお願いします………行きましょう、ギルティラ」
脩は大きく手を振って、此方は任せろとソラネに応えた。
ボクスドラゴン『ギルティラ』がソラネに従う。
ソラネとギルティラの間に発生する変換エネルギーを利用し、周辺の金属から小型の機械恐竜を生み出した。
「必要とあらば何時までも。あなたの手となり、牙となり」
小型恐竜は簡易AIを持ち、指示したケルベロスと協力するように戦う。その爪は、敵の加護を打ち消す程の威力を持つ。人竜一体・掠竜散開……ソラネの生み出した小型恐竜が、前衛のケルベロス達の傍についた。
(「ダモクレス化……うーむ、何か引っかかるが……駄目だ、思い出せないな」)
ミツキ・キサラギ(狐影焦然・e02213)は流転を見て思案していた。己の中にある引っかかりは思い出せず、釈然としない。
どうかしましたか、と剣太郎が問う。
なんでもない、とミツキは首を振った。
今必要なのは、目の前の敵を倒す事だけ。
「まあいい、何であれ敵は殺す」
たとえ元人間であろうと、どんな過去を背負っていようと、敵に容赦はしない。
「容赦は犠牲を増やすだけだから、な」
ミツキはドラゴニック・パワーを噴射し、加速したハンマーを叩き付ける。
流転は大鎌でハンマーを受け止めた。互いに小柄な身体と大きな武器がぶつかり合う。
「ダモクレスの方が絶対お得なのに……!」
「はぁ、呆れた奴だ」
力が鬩ぎ合い、共に飛び退いて離れた。
「ダモクレスになった時点で、既に死んでることに気がついてねーとはな」
「わたしは死んでないわ!」
流転は子供のように反論する。
夜桜・月華(まったりタイム・e00436)は流転の動向を第一に覗いながら、同時に剣太郎の事も気に掛けていた。この戦いは彼にとって大事な一戦。全力で戦って手助けがしたい。
月華から見た剣太郎は、いつもより少し敵へ思う事があるようだが、撃破すること自体に迷いは無かった。
この敵は此処で必ず倒さねばならない、逃がしてはいけない。それなら、月華のすべきことはひとつ。持てる力の全てで敵にダメージを与えること。
月華は全身に走る魔術回路を限界まで活性化させ、強力な魔力を身に纏う。そして流転の懐に踏み込んでから超至近距離で放つ必殺技。
「魔力に限界なんてないのですよ。私の全力をうけるのです!」
魔力で強化された肉体から、連続コンボで放つ高速の斬撃。すさまじく速い斬撃の手数は数えることすら至難だ。
「痛くない……痛くないわ、こんなの。病気とか注射とか手術とかに比べたら」
流転は強がって踏みとどまるが、ダモクレスとなった身体は確実に損傷している。
コッペは機械部となった身体を隠したまま、スパイラルアームを剣のように斬り付ける。
「おいらは生きたまま改造されちまったけど、殺してから機械にするなんて……」
斬撃を受けて、流転が僅かに身を引く。
「どっちにしろ、おいらみたいな被害者を増やさせはしないぜ!」
●流転
ドレスを翻して大鎌を振るう流転。生み出された衝撃が刃となって剣太郎達を襲った。
「ダモクレスになったら何でもできるの。遊びましょう」
歌うように誘うように紡ぐ流転の言葉は、病室の方にも届いた。
衝撃を受けながら踏み込んだ瀬理が放つのは指天殺。指一本の突きで敵の気脈を断つ。
「あんたのエゴ、生きたい想いは否定せん」
たたらを踏んで下がった流転が、瀬理を見る。
「けどな……さくらの両親は、子供の手が血に染まるようなこと絶対望んでない筈。大切な家族が化け物になるとか、うちなら絶対ありえん、許せん事やから。だから絶対に守る」
瀬理にしてみれば、大事な妹に置き換えて考えれば、それは許せない話だ。
「あんたの親は、まだ人だった頃、何て言うとった?」
「……しらない、忘れたわ」
ダモクレスの赤い瞳は冷たく、つまらなさそうに答える。
剣太郎はオラトリオの回復の力を疑似的に再現するドローンを無数に展開する。
「疑似オラトリオ動力機、システム起動。ヒーリングエフェクト広域展開」
翡翠の光が広がって、衝撃の刃による傷を癒していく。
「――生きる為に、機械となった……」
剣太郎の視線はまっすぐに流転を見据えた。
「そうよ、死んじゃったら何もできないのよ」
流転がダモクレスとなって得たのは、力と身体。
けれど引き替えに何かを失った。それはきっと、大切な何か。
剣太郎は上手く表現できない理不尽さを感じていた。
「ダモクレスになるという事は、家族や友人、大切な人を捕食する側に立つということ」
ジェミは音速を超える拳を繰り出して、敵へとぶつける。
「きゃっ」
「だったら何のために生きるのか、情愛は生きるために捨てて良いものなのか?」
拳を受けて吹き飛んだ流転が、空中でくるりと身を回転させる。
「しらないしらない。わたしは、生きる為に生きたのよ」
ただ生きたかったのだと、ダモクレスは告げる。
偽りなど無い。そしてダモクレスとなった今、情愛が何なのか理解も興味も示さない。
「邪魔をしないで!」
「彼女の人としての生を貴女が勝手に決めて良いことじゃない!」
普段口数が多くは無いジェミだが、これだけは伝えたかった。
彼女の人生は、彼女のもの。
誰かに別の人生を与えられるのは、違う。
「やはり人類の敵だな。ダモクレス、いや、デウスエクス……」
エルボレアスは特別な薬液の雨を戦場に降らせる。
「はい、エルさん。……倒しましょう」
剣太郎や皆の頭上から、守護薬液(ディフェンドレイン)が降り注いで癒しと同時に防御力を上げる。回復の効果は上がっていた、治療補助による効果だ。
「あなたの言うとおり、機械になればこれからも生きられるでしょう。しかし、それはヒトの道を外れた生き方です」
機械からヒトになったレプリカントとして、ソラネは語った。
機械の体になることの苦しみを。
ソラネの騒音刃は、凄まじい音響と同時に敵の呪的守護を破る。
「ダモクレスに記憶も人格も体をも奪われて、どう「生きている」と言えるんだ」
ミツキの指天殺が気脈を断ち、敵を石化に似た状態にする。
敵は鎌を杖のように支えにして踏みとどまった。
「関係ないわ、こうやって遊べるんだから」
流転が大鎌を振り回す。
「私なら、生きてるって思えないのです」
大事な事、大事な人。忘れたら、失ってしまったら、きっと生きていると思えない。
月華はシャドウリッパーで影の如き斬撃を繰り出し、急所を密やかに掻き斬っていく。
コッペの旋刃脚が急所に追い打ちをかけて貫いた。
●淘汰
さくらはベッドの上で身を起こし、守る者達と共に外を見守っていた。
戦いの合間交わされた言葉は、全てでは無いが耳に届く。
窓辺に佇んでいた仁王が小さく零した。
「死んで改造される……それは果たして本人だと言えるのだろうか。意志を捻じ曲げられて、だとしたら元の本人ではないと思う」
「わたし改造されちゃうの?」
クーリンが視線を合わせて微笑み、首を振った。
「ううん。大丈夫。流転からサクラを守るね。きっと、皆がバーって倒してくれるよ」
窓の外で、戦闘は続いていた。
流転は自らを癒しては衝撃波を放ち、ケルベロス達は受け止める。病棟の方へ行かせぬ為の守りの陣形から、徐々に攻撃に転じた。信頼する仲間がさくらを守っているから、彼らは流転との戦いに集中することができた。
しかし敵は見た目ほど華奢では無い。1体のみ単独でレジーナの配下として潜伏し、情報収集を行っていた者。ダモクレスとなった身体は人間のそれとは違う丈夫さで、尚且つ超人的な動きが出来る。流転はダモクレスとして初めての戦いを、自由に動ける身体を、満喫しているようにも見えた。
「ダモクレスの方が便利でしょう、ほら」
流転はコッペに狙いを定めると、大鎌に理力を乗せて振り下ろした。
咄嗟にシャーマンズゴースト『プリン』がコッペを庇う。
流転は刃を斬り返して、プリンに追撃する。刃は威力が迸っていた。
「プリン!」
コッペが呼ぶと、プリンは一瞬満足そうな表情を見せて、地に崩れ落ちた。暫く起き上がれそうに無い。
「壊れちゃった? やっぱりダモクレスの方が……」
流転の赤い瞳が愉悦に似た色を浮かべたが、次の瞬間には言葉が途切れた。
瀬理の刃が、流転の身体に深々と突き立てられていたから。
生粋の捕食者である虎の本能に従い、重力を嗅ぎ分け、そこに力を纏わせた武器を穿つ。虎撃:執燥猟牙――まるで、哀れな被食者に慈悲なく食い込む、鋭い牙のように。
「くっ……」
血を滴らせて離れる流転を、瀬理は睨めつける。
剣太郎のキャバリアランページが流転の足元を崩した。
影の中から漆黒の矢が生み出される。
「餮べてしまいます、よ?」
矢は尾を引いて変幻自在な軌道を描く。流転を射抜き、生命を奪う。
――Devour、それはジェミが捕食者だった頃の能力の名残。
エルボレアスの守護薬液が仲間達に重ねて降り注いだ。衝撃波の損傷を修復し、皮膚を強化する。
「あなたが我が儘を通すのであれば、私たちも我が儘を通させて頂きます」
ソラネの凜とした声が告げた。羽織る着物が冬の夜空の下ではためく。
撃ち放った気咬弾のオーラが、流転の喉笛に喰らい付いた。
「ぐ……ッ」
藻掻く敵へと、攻勢を掛ける。
ミツキは符術の応用で全身を強化した。
Blitzen Schlag――音の壁を越えた最高速で駆け回り、全方位から怒濤の連続攻撃。流転は地に叩き付けられた。
そこへ月華の掌から生まれたドラゴンの幻影が、起き上がりかけた流転を焼いた。
「……まずはプリンの分!」
コッペのマインドソードが流転の右腕を斬り落とした。
●Hybrid army
隻腕となった敵は、左腕で大鎌を振り下ろした。狙いは痛烈な痛手を与えた瀬理。剣太郎が素早く動いてダメージを肩代わりする。
「まだ邪魔をするの?」
「――僕は人として、人ならざるあなたの在り方を否定します」
剣太郎は刃を受け止めたバスターライフルを握りしめ、強く押し返した。
瀬理の跳び蹴りが炸裂して、ジェミの日本刀が弧を描き斬り付ける。
急所を裂かれた流転は悲鳴をあげて、転がりながら距離を取る。
鉄騎がガトリング掃射で威嚇した。剣太郎はブレイブマインの多色な爆発で仲間の士気を鼓舞する。エルボレアスの緊急手術が剣太郎の傷を大幅に癒した。
ミツキの凍結させる超重の一撃が、敵を捉えた。流転の手足が凍り付く。
「終わりなのです……!」
月華の零式白夜は白い輝きを放った。刃に『死』を纏った斬撃は、流転の首筋へと振り下ろされた。
赤い冷たい瞳を見開き、全身を痙攣させながら、損傷した首元にスパークが迸る。
爆ぜた電流が収まると、ゴトリと人形のように倒れた。
動かなくなったダモクレスの傍に剣太郎が歩み寄る。そして静かに敵の骸を見下ろした。
「今、あなたを完全に『破壊』します。恨んでくれてもいい、憎んでくれてもいい」
返事は無いし、赤い眼は何も映さない。
剣太郎は無言でバスターライフルを構えて、流転を完全に機能停止させた。
そしてぽつりと呟く。
「世界は、理不尽と不平等のかたまりなんですよ……」
そんな剣太郎を見上げたミツキが、静かに口を開く。
「敵に容赦はしない……が、無慈悲にはなれねーよな」
後で弔いの巫女舞をしても良いかとミツキが問う。
剣太郎は頷いた。流転を埋葬してあげましょう、と。
撃破を果たしたケルベロス達は、現場をヒールで修復し、さくらの安否を確かめる。
些か緊張した様子はあるものの、さくらはケルベロス達に感謝を告げた。
「わたし、むずかしいことはわからないわ。でも、改造はイヤ」
そう言って、首を振った。コッペはほっと安堵する。
瀬理が、またお見舞いに来ても良いかと尋ねると、嬉しそうに頷いていた。
「全部終わったのです。もう安心なのですよ」
笑顔で話しかける月華に、さくらははにかんだ笑みを浮かべた。
見守っていた剣太郎の硬い表情も、安堵に和らいでくる。
「皆さん、ありがとうございました」
ベッドや窓を元に戻して、ケルベロス達は病棟を辞する。
「お騒がせしてすみませんでした。おやすみなさい」
ソラネが礼儀正しく挨拶をして静かに扉を閉めた。
こうして、ひとりのダモクレスはケルベロス達によって眠りについた。
作者:藤宮忍 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年2月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 1
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