●刻む音色
目を瞑り、彼女はその規則的な音に耳を澄ます。
より深く感じ取れるよう、胸に抱いたその表面を、指先でそっと撫でる。
それは波の音よりも早く、時計の針の進みに似て、力強く、そしてどこか平坦に響いていた。
探知範囲を広げれば、その音の発生源は彼女の『胸』だけでなく、無数に存在する事が分かる。
それら一つ一つに聞き入るようにしながら、ふと思い出したように彼女は口を開いた。
「全てはあなたの望むままに、コマンダー・レジーナ」
言葉の行き先は、彼女の上司、指揮官である。
着任早々放たれた通信。それは潜伏の終わりを告げる指令だった。当然ながら、彼女もそれに従うつもり……だが。
「けれど、少し遅れるくらいは構いませんよね?」
目的のものを察知し、彼女は静かに歩き出す。そして、自分の『胸』からのものよりも、大きく響くそれに向け、まっすぐに手を伸ばした。
白磁の指が夕映えと、返り血によって赤く染まる。掴み取ったのは、綺麗に切り取った少女の心臓。
「ああ――本当に、素敵ね」
新たな煌めきをその手に、さらなる高鳴りをその胸に。
ダモクレス『早鐘のクァルブ』は、奪い取った高揚に身を浸した。
●Heart-Beat-Shuffle
「指揮官型ダモクレスの地球侵略が始まってしまったようです」
悩まし気に眉を寄せ、ヘリオライダーのセリカがケルベロス等にそう告げる。指揮官型の存在は複数確認されているが、その中の一体、『コマンダー・レジーナ』は他に先んじて地球に配下を送り込んでいたらしい。そうして潜伏していたダモクレス達は、彼女の着任に呼応し、行動を開始したようだ。
該当するダモクレスの多くはそのまま撤退したようだが、行きがけの駄賃のようにグラビティ・チェインを略奪するものも居るため、多数の事件が予知されている。
「皆さんには、その内の一体を担当していただきます」
事件が起きるのは夕暮れ時の海辺の公園。標的にされた少女は、公園の真ん中で胸を抉られ、死ぬ。単純明快ではあるが、厄介な点がいくつかある、とセリカは言う。
「これまで潜伏し続けてきたことからも分かると思いますが、この個体は気配を消す事、群衆に紛れる事に長けているようです」
つまり、事前に敵を発見し、阻止することは難しい。
「幸い、標的にされる方が誰かはわかっています。彼女が襲われる瞬間なら、確実に敵を捉える事が出来るでしょう」
どこか苦い表情を浮かべるセリカに、ケルベロスの一人が懸念を伝える。襲撃を待つとなると、その少女の安全確保に課題が残る。
「おっしゃる通りです。敵を誘き寄せる事が出来れば、その心配もなくなるのですが……」
予知の内容から、敵の狙いはある程度予想できる。それを利用できれば、状況の主導権を握ることもできるだろう。
一通りの説明を終え、セリカが話題を『指揮官型』へと向ける。
「コマンダー・レジーナはかなり多くのダモクレスを潜伏させていたようですね。今回の敵も何かしらの役割を担っていると思われます」
そう、敵の撃破は『コマンダー・レジーナ』の策を阻む事に繋がるのだ。
「何より、このような凶行を見過ごすわけにはいきません。事件の解決をお願いいたします」
最後にそう告げて、セリカは一同を送り出した。
参加者 | |
---|---|
イェロ・カナン(赫・e00116) |
ゼレフ・スティガル(雲・e00179) |
八柳・蜂(械蜂・e00563) |
繰空・千歳(すずあめ・e00639) |
キース・クレイノア(送り屋・e01393) |
オルテンシア・マルブランシュ(ミストラル・e03232) |
ロイ・メイ(荒城の月・e06031) |
大成・朝希(朝露の一滴・e06698) |
彼女は『心』に恋をして、それは『心臓』にあると信じていた。
道を違えているがゆえに、届く事のないそれは、『片思い』と呼べるだろうか。
●胸の奥の灯
潮風の流れる公園を、学生の男女が並んで歩く。どこかぎこちない会話と微笑み。頬に差した赤は、西日に因るものだけではないだろう。
「アー、どーも、スイマセン」
そんな二人に近づいた影が、たどたどしい日本語で問いかける。
「時計、が、行きたいデス。どっち? 分かります?」
「え、えっと、時間が知りたいんですか?」
「んー、違いマス。時計、柱。柱トケイ?」
あえて回りくどく返しつつ、外国人観光客に扮したゼレフ・スティガル(雲・e00179)は周囲の仲間へと視線を送った。
「接触成功、ですね」
「そうみたいね。それじゃ、始めましょう」
片目を瞑った八柳・蜂(械蜂・e00563)と繰空・千歳(すずあめ・e00639)がアイズフォンで情報を交換、次いで他のメンバーにも送信する。
「狙われるのは、あの子の『恋する心臓』でしたね?」
「ええ、だからここからは……」
大成・朝希(朝露の一滴・e06698)の確認のための問いに、オルテンシア・マルブランシュ(ミストラル・e03232)が電話を耳に当てつつ応じる。
予知によって判明した被害者候補、ミサキは今のところゼレフの応対に気を取られている。ゆえに、ここから誰が狙われるかは、ケルベロス達次第。
「――いってらっしゃい」
群衆に身を紛れさせつつ、キース・クレイノア(送り屋・e01393)が囮を担う仲間へと声をかけた。
胸よときめけ、と唱えたところで意味は無い。
軽く途方に暮れた後、ロイ・メイ(荒城の月・e06031)は仲間からの連絡に覚悟を決めた。
(「恥ずかしくて死にそうなんだが……」)
恋人と交換したタグを握り、自らの記憶と、感情に向き合う。
触れる指の感触、声、匂い。思い返し、浸るにつれて地獄で補った心臓が躍る。
彼は、恩人で、親友で、相棒で。心も、未来も、過去も、全てを捧げると決めた私の――。
「……恋って不思議ね」
「でも、そういうものでしょう」
警戒に当たる以上、囮役に注意を向けないわけにもいかない。ああ、顔に出るタイプだな、などと感想を抱いたオルテンシアに、蜂が擁護するように返す。
蜂自身もまた、そういった記憶に思いを馳せている。幸いと言うべきか、『彼』の顔はすぐにでも思い浮かぶ。一緒に出掛け、言葉を交わし、近くで見られた笑顔こそがその象徴だった。
「これを狙うなんて、随分といい趣味よね」
同じような状況にある千歳もまた、記憶を呼び覚ますことで胸を高鳴らせていた。顔、声、温もり、息づかい。死んでしまった親代わりへの想いは、今はもう届かないけれど。
そして最後の一人、イェロ・カナン(赫・e00116)は、待ち人を探すように視線をあちこちに振り向けていた。
(「この公園に、居るのか」)
実際の所、彼は長い間『彼女』を待っていた。
胸の奥で地獄が沸き立つ。失われた心臓に代わるその炎は、静かに、けれど確かな熱を宿していた。
――やっと、きみに逢える。
●逢瀬の時
行き交う通行人の中から、それは突然現れた。宵闇色の髪に、ちりばめた星のような装飾が良く映える。何故これを見落としていたのかと、そう自問する間も無くキースはその手を掴み取った。
敵の伸ばした指先が、獲物と定めたイェロの寸前で止められる。
「イェロ……!」
振り払う力はやはり人外のもの。キースの声に状況を察したイェロが振り返り、現れたダモクレス――『早鐘のクァルブ』と対面した。
「……ッ!」
「邪魔をしないで」
息を呑むイェロに、クァルブが告げる。
「あなたが居ると、音色がよく聞こえないの。どういうこと?」
自然と、赤と空色の視線が絡まる。ダモクレスである彼女の瞳からは、感情はもとより思考を読み取る事も困難だ。しかし――。
(「覚えていない、か」)
予感はしていた。やはり、という感想と同時にイェロの表情が微かに強張る。
「イェロさん、構いませんね?」
駆け付けた朝希が武装を展開、キースと共に敵を挟み込むように位置取る。
問いの意味は明らかだ。仲間の気遣いに背を押されるのを感じながら、イェロは二人に頷いて返す。そして倒すべき『敵』を見据えて、口を開いた。
「その心臓は幾つ目だい、クァルブ」
どこで、その名を。小さな齟齬に、クァルブが小首を傾げる。
「きみを、ここから先には行かせない」
記憶のままのその仕草が、心をくすぐる。浮かび上がる感情を押さえつけ、イェロは剣を抜き放った。
敵出現の知らせを受け、他のメンバーも素早く行動に移っていた。
「……さて、ここは危なくなるからねえ、慌てず急いで逃げるんすよ」
「え? えぇ?」
突然の流暢な喋りに戸惑う学生達を逃がし、ゼレフがオルテンシアと合流。周囲に避難を促しつつ、仲間達のもとへと駆ける。
「さあ、戦闘が始まるわよ、皆逃げてね!」
剣気を解放した千歳もまた、別の場所で呼び掛けを行っていた。
「……上手くいったのかしら?」
「どうだろうねえ」
武装を解き放ちつつ、オルテンシアとゼレフが問いを交わす。ロイが作り上げた殺界の気配も感じられ、囮作戦の進行は上々だと予想できるが――。
二人が駆け付けたその時、クァルブが手にした心臓を掲げていた。
「邪魔をしないでと言ったのに……困ったわね」
物憂げに眉根を寄せ、クァルブが腕に抱いた容器を撫でる。水晶を象ったその内側には、脈打つ心臓が収められていた。
大事そうに、そっと掲げられたそれが、大きく一つ脈動する。
「これは、攻撃!?」
音の波が重圧を伴い、キースとイェロを襲う。後列へ飛び退いた朝希に影響はないようだが、クァルブはそちらに向けて踵を返した。
群衆の移動に合わせてだろうか、クァルブの行動は逃走に寄っている。
「逃がさない!」
上空から舞い降りたロイが一撃を見舞い、敵の動きを押し留める間に、キースが鉄塊剣を手に前へ出る。続く蜂も剣に手をかけるが、グラビティの活性状況から方針を転換、後続の千歳へと声をかけた。
「キースさんの方へ、お願いします!」
「了解したわ。キース、無茶しないでね」
「それは状況によるな」
具現化された光の盾を纏いつつ、キースが剣を力任せに振り下ろす。対するクァルブは『心臓』を抱きかかえるようにしてそれを防御。皮膚の下の骨格と鉄塊剣がぶつかり合い、鈍い音が辺りに響く。
蜂の毒針による追撃を振り払い、不快気に表情を歪めつつクァルブが下がった。
「……」
指先を這わせた水晶の中で心臓がリズムを刻む。クァルブの傷が塞がり、鼓動のペースが微かに上昇。だがそんな中、彼女は別の点に着目していた。
「近づけば聞こえるのね。……そう、そうなの」
薄く細められたその瞳は、周りのケルベロス達の、さらに内側を見つめるように――。
「それでは、あなたのものを貰おうかしら」
メンバーが揃い、包囲陣形を完成させたケルベロス達。そんな彼等の中の一人を、早鐘のクァルブは指さした。
●刻々と
クァルブの目的はケルベロスの心臓へと移った。これにより、逃走の危険性は大幅に下がったと言えるだろう。
心臓を媒体とした攻撃を放ってくる敵に対し、ある程度の自由度を確保したケルベロス達も攻勢にかかっていた。
「仕掛けます!」
最後方、全体を見渡せる位置から朝希がサイコフォースを発動し、敵の足元を爆破する。生じた爆煙を潜り抜け、迫り行くのは鉄塊剣を手にしたゼレフである。
「やあ、麗しい方。君にはどんな音楽に聞こえる?」
「どうかしら。あなたからは静かな音がするわね」
軽口と共にグラビティ・チェインを武器に乗せ、叩き込む。破壊力に満ちたその一撃を敵は軽やかに避けて見せた。
前衛でアタッカーを務めるのはイェロとゼレフ、そしてもう一人、隙を窺うロイに、クァルブの視線が向く。
「でも、そう、あなたからはワルツが聞こえるの。素敵よ」
「物好きだな。……とはいえ、渡す気は無いぞ」
胸に抱いたルビーの火を挟み、ロイが仕掛ける。
「よく見ろ。私を、全てを」
義眼。紫の眼で空色のそれを捉え、戦意の塊を叩き付けた。
「……構わないわ。みんな退けた後に、ゆっくりいただきましょう」
応対から、ダメージのほどは窺い知れない。抱えた『心臓』から炎弾を生み出し、クァルブが反撃に出た。
夕日の下の公園で、刃と火線が交錯する。心臓への拘りと、攻撃に対する怒りが主要因か、クァルブの狙いには偏りが見られる。とはいえ敵の主軸は広範囲への攻撃だ。数による減衰はあれど、前衛で壁役を担うキースとオルテンシア、そしてサーヴァント達の負担は大きい。
「さあお手伝いの時間よ。……オルテンシアもお願いして良い?」
「任せておいて」
「魚さんも、よろしく」
千歳の『飴細工の小人職人』を皮切りに、オルテンシアが気合溜めで、シャーマンズゴーストが祈りを捧げて仲間の傷を癒していった。
「背中は請け負うわ。思う存分戦って」
「ああ、助かる」
千歳達の献身に言葉少なに礼を言い、イェロもまた敵へと斬りかかる。火炎を纏った斬撃、だがダメージとはまた別に、敵はノイズの混じったような不快感を露にした。
「あなたの音……やっぱりどこか、おかしいわ」
「ん、嫌われたもんだね」
拒絶と共に放たれる音の衝撃。庇いに入ったミミックの鈴の後ろで、イェロが苦笑交じりに応じる。
続く戦闘の中、朝希がグラビティブレイクの一撃と共に声を上げた。
「あなたは本当に、何も覚えていないんですか?」
「……何故かしら、怒っているの?」
我慢ならないと言った様子の彼に、体勢を崩されながらもクァルブが小首を傾げる。イェロからある程度の話を聞かされているからこその言動、朝希としては大事な仲間のための当然の義憤だろう。
「朝希……」
特に、当の本人がそれを受け入れているとなるとなおさらだ。
(「そういう顔もするんですね」)
中列からそんな様子を読み取り、蜂が目を細める。状況から詳細は掴み切れないが、しかし。どうやら、この敵とイェロは何か互いに特別であるらしい。
「何故、心臓を求めるんですか?」
だからだろうか、攻防の中の向かい合う一瞬、そんな問いが彼女の口をついて出た。
「これでは、足りないからよ。分かるかしら?」
クァルブが示すように、手にした『心臓』を前に出す。だがその真意を問い質す前に、敵はさらに言葉を続けた。
「あなたも綺麗な音がするのね。まるでミモザの花のよう」
「……ッ!」
蜂の眼前で、『心臓』が脈打つ。だが衝撃波が走る直前に、ミミックのカトルがその身を晒した。
「蜂、気を付けてね」
「……ええ、助かりました」
自らのサーヴァントを回復しながら、オルテンシアが注意を促す。とは言え、今回の彼女の立ち位置は『味方の援護』。
「大丈夫、あなたの事は絶対に守るわ。でしょ、カトル?」
自由に戦えるよう促し、彼女もまた戦線に戻っていった。
戦いはやがて佳境に至る。繰り返される攻撃にサーヴァント達から限界を迎え、壁にも穴が生じ始めていた。
「まだよ、何とか堪えて!」
千歳がマインドシールドを張りなおす傍ら、朝希と、傷ついたロイが反撃に出る。
被害状況は大きいが、それは敵も同じこと。スターゲイザーの一撃に合わせ、ロイが傷口から溢れた炎を弾丸に変えて撃ち込み、獲物を追い詰めていく。
「くっ……!」
各所の負傷の影響か、ふらついたクァルブとイェロの目が合う。
この時間もじきに終わる。ほんの微か、一縷の希望にも、見切りをつける時が来たのかも知れない。
「――!」
そう、思わず足を止めた彼に、クァルブの手元から炎が殺到する。
追い詰められた敵の決死の炎弾は、しかし立ちはだかったキースによって阻まれた。限界を超える衝撃。だがキースは膝をつくのを拒否するように、剣を地に突き立てる。
ちりん、と。右腕に着けた鈴が、それに合わせて軽やかな音を立てた。
「イェロ」
「……わかってる」
背を向けたままの一言に、ばつが悪そうにイェロが応じる。無意識に、指先は懐に仕舞った硝子片に伸びていた。
約束とは違ってしまった。それとも、これこそが約束通りだろうか。「行け」と語る仲間の背中を越えてイェロは足を踏み出した。
「蜂、先生、頼めるかな?」
「ああ、待ってたよ」
「さぁ、行きましょう」
蜂の手から放たれた毒針が敵の反撃を止め、その間に迫ったゼレフの鉄塊剣が唸りを上げる。防御姿勢を取るクァルブを、しかし豪剣はからかうように行き過ぎた。
「……!?」
本命は、その後ろを走る銀のナイフ。狙い済ました達人の刃が、クァルブの腕を跳ね上げる。生じた隙は一瞬。自ら追撃にかかる事は出来ないが、しかし彼の目的は果たされた。
(「――いっておいで」)
刃を振り抜き、身を翻したその場所には、既にイェロが切り込んでいる。放たれたのは、星の一振り。
十年前の転機を、イェロ・カナンは思い出す。そこからの道行は、この瞬間へと繋がっていた。
この場所に辿り着けたのは、共に戦ってくれた仲間達のおかげで、そんな人達に出会えたのは、炎に燃える心臓のおかげだ。
(「だから、ありがと」)
後悔はしていない。出会ったことも、心臓を差し出したことも――。
流星が水晶を貫き、心臓を、そしてクァルブ自身を打ち抜いた。
水晶が割れ、赤が零れる。
「そんな、私の――」
心臓が、とダモクレスが嘆きの声を上げる。自らの負傷を一切顧みないその様子から、敵の混乱ぶりが窺える。鼓動を失った静寂は、彼女にとってそれだけ耐え難いものなのだろう。
「クァルブ」
剣を引いたイェロの呼び掛けに、力尽きかけたクァルブが反応を見せる。そして縋るように、手を伸ばした。
「……おいで、この身の内に」
夜の旅へ。手を取り、抱き寄せたその胸で、炎が脈打つ。残されていた彼女の命はそれに包まれ、彼の心臓へと消えていった。
夕日は沈み、星が瞬く。灯は静かに、去ることなくそこに在った。
●残響
半壊した理性がエラーを吐く。記憶領域の深く、深くに仕舞っていたものが否定を擦り抜け、浮かび上がる。
少年の姿と、鼓動の音。それは一度この手に抱き、そして失われた音色のはずだった。
静寂の中だからこそ良く聞こえる。目の前にあるそれは、記憶のものとは振幅も周期も違っている。けれど彼女の回路は、最初からそれらの一致を結論付けていた。
「クァルブ」
ずっと、ずっと心臓の音だけを追いかけてきた彼女だからこそ、導き出せた一つの答え。
「……ハナン?」
そう口にし、ひび割れた視界の中でその音色に、そのぬくもりに手を伸ばす。
『懐かしい』鼓動と、あたたかな光を感じ、彼女はゆっくりと目を閉じた。
これが彼女の恋の終わり。そして彼の、十年に渡る恋路の果て。
「――おやすみ、よい夢を」
作者:つじ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年2月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 0
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