無邪気な殺戮者・ファンテ来襲

作者:林雪

●無邪気なる殺戮者
 寒い朝のことだった。
 四国地方の、山間の限界集落が全滅した。
 静かに暮らしていた15戸の住民たちは、突如訪れた厄災に、何が起きたのか知ることすらなく死んでいく。
 平屋建ての家から畑へ逃げた者、農作業用のトラックで逃げようとした者、寝たきりで布団から起き上がることすらままならなかった者……全員が、無残に殺された。デウスエクス・マキナクロス・ファンテはこの殺戮劇をほんの十数分で成し遂げてみせたのだ。
 血濡れたチェーンソーが回転を止める。この凶器が人々に与えただろう恐怖を、理解しているのかいないのか。ファンテは無邪気な笑みを浮かべて周囲を見回した。
『生体反応? まだ、ある』
 鬼ごっこに興じる少年にも見えるそのフォルム。だが中身は無慈悲なダモクレスである。駆け出した先には背中を斬り裂かれ、息も絶え絶えの中年の女性が、犬小屋に繋がれた愛犬を逃がそうと地面を這っている姿があった。
「お前だけでもお逃げ……」
 彼女の手が、首輪に繋がるリードに伸びたその時。子供がふざけるようにその背中にファンテが飛び乗った。弱弱しい断末魔の声をあげて女性は絶命した。狂ったような犬の鳴き声をかき消すようにチェーンソーが再び回転を始める。
『心配ない、お前の大事は、お前と一緒に殺してあげるから!』
 完全に生体反応が絶えた村を見回して、ファンテは地面に耳をつける。
『次はこっちかな!』
 完全な笑顔、それだけに心の所在が感じられない。日に1本だけ運行するバスのほんの微かな排気音を追って、ファンテは山道へ向かって駆けていくのだった。

●怒涛のダモクレス軍団・ファンテ
「対地球戦線に、少なくとも『6基』の指揮官型ダモクレスが送り込まれてくる……っていうゴッドサンタの予告は事実だった。既に事件は起きてしまった。これ以上の悲劇は止めなきゃいけない」
 焦った様子で、ヘリオライダーの安齋・光弦が状況を説明し始める。事態は逼迫していた。
「指揮官のうちの1体『ディザスター・キング』の配下が殺戮を始めている。ディザスター・キングは主力軍団、任務は勿論グラビティ・チェインの略奪だ。行動が読みづらくて、残念ながらもう各地で犠牲が出てしまっているんだ」
 光弦の表情はさすがに暗い。
「君たちに撃破してもらいたいのはダモクレス『ファンテ』。外見は人間の少年みたいだけど、冷酷な殺戮マシーンだ。既に集落をひとつ完全に潰してグラビティ・チェインを奪い尽し、次の犠牲者を探してる」
 山間の集落を犬の子一匹残さず殺し尽くしたファンテは、今はその村から伸びる細いバス道に出て、バスを襲うべく移動している最中だ。
「バスって言ってもマイクロバスだからちょっと小型だけど、お客さんも運転手さんも乗ってる。それに奴を倒さない限り、また次の犠牲が出る」
 言って光弦はモニターにファンテの姿を映し出す。明るい水色の髪、少年の顔……だがその半分は回路が剥き出しになった無慈悲な機械の顔である。左腕はチェーンソーになっていて、これで集落の人々を惨たらしく殺害したものと思われた。
「バスは村を出た後橋を渡り、細い山道を延々走って国道に出るらしい。勿論、車の通りの多いところに出てしまえばファンテはその車を狙って殺戮を始めてしまうだろうから、もっと手前で倒さなきゃならない。周辺に人がいないのと、ファンテが単機で動いているのは不幸中の幸いだけど、絶対に逃がすわけにはいかない」
 ファンテの受けた指令はあくまで『グラビティ・チェインの略奪』である。周辺に人間のいる場所を求めて逃走しようとする可能性は否めない。
「君たちが襲撃する時には、地形を生かすなり多少強行手段で道を塞ぐなり、敵を逃がさないような何らかの手立てが必要になると思う。一度戦闘に持ち込んでさえしまえば、ファンテは全力で君たちを倒しに……殺しに来るだろう」
 ファンテの顔に張りついた、心なき笑顔。裏腹に無機質な瞳に、死にゆく人々はどう映ったのか。  
「……見た目以上に攻撃的な奴だよ。絶対接近戦を仕掛けてくると思う。危険な敵だけど、止められるのは君たちだけだ」


参加者
ルビーク・アライブ(暁の影炎・e00512)
クローチェ・テンナンバー(キープアライブ・e00890)
ヴィンセント・ヴォルフ(白銀の秤・e11266)
暁・万里(パーフィットパズル・e15680)
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)
犬嶋・理狐(狐火・e22839)
葛城・かごめ(ボーダーガード・e26055)

■リプレイ

●血まみれの宿敵
『あれえ、なんだろうあれ?』
 寂しい山道に、突如出現した丸太の山。駆けつけたケルベロスたちが協力して作り上げた即席のバリケードである。行く手を塞ぐように積み上げられたそれを目にして走る足を止め、ダモクレス・ファンテは小首を傾げる。
『燃やすやつかな? きっとそれだあ。火を着けよう! 燃やそうふふふふ!』
 ひとまずの足止めには成功したが、ファンテは嬉々としてチェーンソーを回転させ始めた。
 その様子を、息を潜めて見張っているケルベロスたち。小暗い山の中、バリケード用に十数本を切り倒してなお、隠れる場所には事欠かない。
「……どうして笑ってるんだ」
 木立の隙間に身を隠し気配を消しているヴィンセント・ヴォルフ(白銀の秤・e11266)が感じる激しい不快、そして不安。いつになく表に出るその感情に驚きつつ、その肩を叩いて励ますヴィンセントの相棒、郁。
 確かに、ファンテの放つ気配は只事ではなかった。よく目を凝らせばチェーンソーもファンテの体も、血に濡れている。
 今にも飛び出しそうな怒りを堪えて朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)がぎゅっと拳を握りしめる。
「これ以上の殺戮は……絶対に、認めません……!」
 その傍では犬嶋・理狐(狐火・e22839)が、緊張に身を固くするエトを引き寄せていた。
「……離れないで、大丈夫よ」
 緊迫の空気を知ってか知らずか、ファンテが高い声を上げた。
『あ、お兄ちゃん、お兄ちゃんだ!』
 一度チェーンソーのエンジンを切り、ファンテは無邪気な様子で駆け寄った。
「……」
 木のバリケードよりも手前でファンテに向かい合うのは囮役を買って出たクローチェ・テンナンバー(キープアライブ・e00890)とその親友の暁・万里(パーフィットパズル・e15680)、そしてルビーク・アライブ(暁の影炎・e00512)の三人だった。芝居を打ってファンテを引き付ける予定だったが、ファンテの姿を目にした途端、クローチェの様子が変わった。
「……クローチェ?」
 様子を伺うようにルビークが声をかけるが、クローチェとファンテは見つめ合ったまま動かない。因縁浅からぬ二人の空気に、ケルベロスたち全員が釘付けになった。
「クローチェ、落ち着け。君は一人じゃない……」
 万里が制するように低く言ったが、クローチェはひどく冷静だった。否、冷静過ぎた。
「逃げて下さい。二人には指一本触れさせません」
 無機質な声がそう告げる。が、ルビークと万里は視線を交わし合っただけで、当然クローチェの傍を離れようとはしない。
『お兄ちゃん、そこにいるそれはさあ』
 ファンテは笑顔だった。笑っていても心のないその顔は、表情を消してもどこかに心を感じさせるクローチェとは対照的なものだった。
『お兄ちゃんの大事、なのかなあ?』
「お兄ちゃんお兄ちゃんって、どういうことかな……」
 葛城・かごめ(ボーダーガード・e26055)がそう呟きつつ己の肩口を無意識に摩った。どうしようもなく不穏な気配をかごめは敏感に感じ取ってしまう。が、如何な事情があれど容赦する気はかごめにはない。
「出るぞ」
 ヴィンセントが地を蹴り、潜伏していた他のケルベロスたちも一斉に襲撃に打って出た。絶対に逃がさない、その決意とともにファンテを取り囲む布陣を取る。方々に散っていたケルベロスたちが集まってくる様子を、どこか楽し気に見回すファンテ。
『わあ……』
「ヒャァハハハァッ! 残念だったなァ、ここが終点だぜ!」
 バアルルゥルゥ・アンテルエリ(ヴィラン・e34832)がケルベロスチェインを駆使して木々の間を跳び回り、更にその視線を奪っていく。
「万里くん、受け取って!」
 一華も飛び出し預っていた華逢を万里に届けた。
「心を持たない以上、いくら強大でもあんたは単なる道具だよ」
 漆黒の髪を靡かせて山道に降り立ったかごめが静かに己の拳を撫でると、スッと青白い闘気が走る。そしてエヴァンジェリンから愛剣Agateramを受け取ったルビークがそのまま切っ先を突き付けて構え、鋭く敵を睨み付けて告げた。
「分かるかファンテ、此処がお前の終焉の舞台だ」

●大事を壊す
 ヴィンセントが先制の蹴りをファンテに叩き込む。クリーンヒットだが、ヴィンセントの不快は消えない。吹き飛ばされながらもチェーンソーを始動させ、それで道を削りながら勢いを殺すファンテ。ルビークの決意と覚悟の声が風に混じり敵に忍び寄る。味方には守りの言葉として響くそれを斬り裂くように、チェーンソーが悲鳴を上げた。
『邪魔すると、危ないよー!』
 ぶんぶんっ、と玩具のように振り回されるチェーンソー。その刃先の威力が、どれほど危険なものかわかって環が背中に冷たいものを感じとる。
「思ってた以上に速いな……」
 愉快げに暴れるファンテから距離を取り、万里がオウガ粒子を味方に向けて放つ。
 村の人々の血を吸ったチェーンソー、なんて残虐な奴、と刀を構えた理狐が顔を顰めた。そう言えば、先ほどクローチェも、この血まみれの姿を目にした途端様子が変わったのではなかったか。一体彼とクローチェの間に何があったのか。今の理狐に言えるのはひとつ。
「……これ以上誰一人、犠牲は出さない」
 決意の言葉とともに、理狐が振るった刀から飛び出した青い狐炎がファンテに食らいついた。
『青い火、キレイだ!』
「こいつ……!」
 己の身を焼く攻撃にも、ファンテは笑っていた。不気味なものを感じるとともに、やはりここで倒さねばと環が勢い込む。しかし先に万里も言っていたようにファンテの動きは思った以上に速く、トリッキーだった。神経を研ぎ澄まし、集中して放った環の蹴りはファンテのわき腹を強襲した。
『おっとっと』
 おちゃらけるファンテの声に環が歯噛みする。次の攻撃を、と身構える彼女の鼻先を、光の花弁が掠めていく。桜? とつい鼻先をクンと動かす環。視線の先にはかごめが舞踊の如く構えを取っていた。
「大丈夫、こんな奴にあたしたちは負けない……さあ咲きほこれ!」
 輝く花弁は盾となって仲間たちの元へ咲いた。その隙間から、クローチェが光線を放つ。一刻も早く排除を、それだけを考えているのだろうクローチェは相変わらず無機質に動いていた。
「ヒャアハハ、なかなか面白いヤツじゃねーか、心はありませんってか!」
 バアルルゥルゥが負けじと戦場を跳ねまわり、ファンテの足元を薙ぎ払った。そんなバアルルゥルゥの笑い声に負けじと、というわけでもなかろうが、ウフフフ、とファンテが笑い返した。
『お兄ちゃん、大事が沢山! だね』
「……」
 ヴィンセントにとってファンテは『理解できないモノ』だ。空虚で空っぽの笑顔と大事を振り回すファンテ。ヴィンセントが知っているのは『本物』の笑顔だけだ。掌から竜の幻影を炎と共に吐きだし、短く呟く。
「大丈夫」
「そうだね、大丈夫だ。だってここで倒すもの、倒せばいいんだ」
 小さく笑って万里が答えた。彼もまた、本物の笑顔と大事を知っている者のひとりだ。双方似たような不安を抱えていたのを同時に吐き出したことで、より結束は強まり戦意は向上する。
 次ぐルビークの一撃をかわし、ファンテはスライディングで距離を詰めてきた。
「……ッ、チッ」
『えいっ!』
「ぐッ……!」
 ギュイイイン、無情のチェーンソーが理狐のコートを斬り裂き、その下の着物を斬り裂き、肉を斬り裂いた。守りを固めていたとはいえ、その痛みは激しい。肩を押さえて座り込む理狐、しかし万里が癒しの電撃を飛ばしたと同時に立ち上がり、空を切る激しい斬撃をファンテに見舞った。
「おぉ、いいねぇ!」
 その負けん気に、バアルルゥルゥが口端をつりあげた。
『血が沢山だね、お兄ちゃん!』
 クローチェは先からファンテの呼びかけに一切答えようとしない。
「パスワードの一致を確認。セキュリティーキーの照合完了……」
 より己を機械に近づけ、一刻も早く敵を排除しようとする。そんなクローチェの攻撃が空しく逸れる。仲間の誰もが彼を気遣ったが、言葉をかけるよりはまず行動で、とサイガが一撃を食らわせファンテの隙を誘う。
 だがファンテは相変わらず全身に炎を纏い、装甲の一部が外れかけても笑いながら突っ込んでくる。激しく回転する刃が、次に狙ったのはルビーク。
「ぐあっ!」
 血しぶきが上がったその刹那、クローチェの瞳の奥が一際大きく見開いた。記憶の奥底にも血の赤が翻る。
「ルビーク!」
 大きな負傷に備えていた万里が冷静に対処するが、心はそうはいかない。飛び散る血はどうしても、この一見無垢な敵がたった今起こしてきた惨劇を想起させるのだ。
「いくわよ、環」
「は、はいっ!」
 理狐が呼びかけ、環と共に狙いを絞ってファンテの武装をうち壊しにかかる。かごめもそこに加わる形で氷結を放ち攻撃に加担した。戦場に満ちているのは、怒り。
 戦いに熱くなるのはケルベロスたちの常だが、罪なき村人たちの血に興奮するような下衆はいない。
「アタシはなぁ、テメーが粉々になるのが見てぇんだよ!
 バアルルゥルゥが再びファンテを蹴り飛ばす。

●心あるもの
 ファンテの攻撃力は確かに高い。だがこれまで圧倒的に己より弱いものを虐殺してきたダモクレスは、攻撃に隙が多い。そこを手数で狙って動きを鈍らせていくケルベロスたちの戦術に、まんまと嵌っていると言えた。
「唯、断ち切る刃と成れ」
 ヴィンセントの攻撃はいよいよ熾烈さを増していく。暗示と呪詛を帯びた魔法の刃は衝撃波となってファンテを斬り裂いた。追うように、ルビークが畳みかける。
「無機なる瞳よ、この地獄を見ろ。俺を殺し、生かしたこの地獄を」
 ルビークの左腕がゆっくりと揺れる。焔は腕を焼いているようにも見え、腕そのものであるようにも見えた。その拳に穿たれたファンテの体は醜く吹き飛んだ。しかし。
『ねえお兄ちゃん、みんなぼくを大事にしてくれるね!』
 クルッと空中で体勢を変えたファンテは、一直線に突っ込んできた。
―― これが、お兄ちゃんの、大事なんでしょう?
 止せ。止せ。やめろ、大事なものっていうのは。
 大事なものっていうのは、ぐちゃぐちゃにするべきじゃないんだ。
『じゃあぼくは、お兄ちゃんを大事にしよっと』
 ギュイン! 非情なチェーンソーがクローチェの記憶にまで食い込んだ。
「クローチェさんっ!」
 思わず環が絶叫した。
「……!」
 武装がなければ、一撃で完全に倒れていただろうその攻撃をまともに受けてクローチェの体が地に倒れ伏す。
「……来てくれ!」
 万里が駆け寄り回復術を施しながら、周囲の仲間に呼びかけた。囲まれる彼を横目に、理狐が唇を噛む。
「あんたは一体、何なのかしらね……」
 ゆらり、剣を構える理狐の隣にかごめが影のように立つ。戦場の血埃に汚された着物が、それでも嫣然と美しい。
 静かな威嚇を試みる理狐とかごめに対して、環はどうにも抑えきれぬ様子で、一直線に加速した。
「一瞬をしのげば終わり、なんて大間違いですよ!」
 回転蹴りの摩擦で、ファンテの水色の髪までが燃え始める。
「ハハハァッ! 壊される気分はどうだァ、ジャンクさんよォ!」
 バアルルゥルゥが鎖で敵を絡めとり、弄びながら叫んだ。実際、攻撃を避けることをしないファンテの全身はあちこちガタが来ているように見えた。
 そんな中、倒れていたクローチェの治療が終わる。ムクリと起き上がり、敵に向き合う。
「……気負うなよ、君は一人じゃないんだ」
 万里が噛んで含めるようにそう告げる。ルビークとかごめがよりクローチェに近い位置を取って防御に回る。
「終わらせよう」
 そう言って跳んだヴィンセントの言葉の意味は無論、この戦いの幕引きをクローチェにさせて終わらせよう、ということだ。ヴィンセントの上段蹴りがファンテに炸裂、残る体力はいくらもない様子に見えた。
『ん……? 足、変かな? でも何だかお兄ちゃんもフラフラだね、あはは』
 確かに、完全に回復していないクローチェの動きは重い。
『ほら見て! ぼくまだジャンプできるよ!』
「あっ、てめえ!」
 突如そう叫んでファンテが跳び上がり、バアルルゥルゥのチェインが弾かれた。クローチェ目がけて振り下ろされたチェーンソーを止めたのは、白い手。
「その攻撃は通さない……!」
 割って入ったかごめが素手を突き出し、チェーンソーを掴むようにして攻撃を受け止めた。血が煙り、苦痛にかごめの表情が歪む。
「ヒャハハ、無茶するねえ。嫌いじゃねーな!」
 バアルルゥルゥがそうはしゃぎ、クローチェはその血を瞳に映して、前に進む。
『邪魔されちゃった!』
「奴に退く気はない。その意味がもうすぐお前にもわかる……」
 ルビークが呟き、クローチェのその背に祈りの言葉を送る。万里もまた、その集中を助けるべく無言でオウガ粒子を注ぎ込む。
 理狐が鞘に納めた刀でファンテの腹を突くと、彼の体は地に倒れた。その姿を、無機質に見つめるレプリカントの瞳。ダモクレスのものとは決定的に違う、心を宿した瞳だった。
「……」
 お兄ちゃん、その呼びかけにやはりクローチェは答えなかった。
「パスワードの一致を確認。セキュリティーキーの照合完了。Lastnumberシステム起動します……」
 振り上げた拳が、超高速でファンテの胸元へ捩じ込まれた。グシャリ、胸を貫いた拳は地面にまで到達し、クローチェはそれを黙って引き抜いた。
『ぼくが、大事、だから……、こわすの?』
 ジジッ、と音がして、回路の焼き切れる焦げ臭い臭いが立ち込めた。
「違いますよ、私の大事なものは他にあります」
 最後の判断を、心に委ねる。それが彼の選んだ戦い方だった。
 

 この山道を、明日もバスが走るのだろうか。乗る者のいなくなった村のことを思えばケルベロスたちの心は重くなったが、まずは道に築いたバリケードを手分けして撤去し、ヒールを行った。その間にファンテの亡骸は、グズグズと炭が燃え尽きるように黒く砕けていっていた。何も言わずに道を修復する友の姿を見守るルビークと万里。言葉以上に伝わる心を、今は黙って感じているのだろう。
 環は無言で全滅した村の方へ頭を下げた。守れなくてごめんなさい、でも今後は。
 ダモクレス軍団との戦いはまだ始まったばかりだと、ケルベロスたちは皆知っている。
 二度と悲劇を起こさせない。心無いものへの怒りと決意が夜の空に昇っていった。

作者:林雪 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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