システム・セイヴァー~電子の匣船システム・ノア

作者:さわま

●福岡県 某炭鉱跡地
 薄暗い部屋の中央。そこに様々な型式のコンピュータが無数のケーブルによって接続されたコンピュータの山のようなものが鎮座していた。
 その山のあちこちに設置されていた大小様々のモニター。薄暗い部屋を不気味に照らし出すそれらに何かのデータと思わしき数式が一斉に映し出される。
「演算終了。試作ナンバー5745生成開始」
 無機質な機械音声が響く。
 すると大小様々なモニター画面上の数式が次々と空中へと飛び出していった。
 そして渦を巻くように絡みあった数式はやがて何かの機械モジュールへと姿を変えた。
「――生成完了。今回の試作データの開発計画へのフィードバックを開始」
 必要な計測を終えたモジュールは再び数式へと分解され、モニター画面に吸い込まれるように消えていった。
 
●システム・セイヴァー
「福岡県北部の閉鎖された炭鉱にダモクレスの研究施設が存在することが判明しました」
 緊張感した面持ちのセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が集まったケルベロスたちに告げた。
「この研究施設は地球侵略を開始した指揮官型ダモクレス『ジュモー・エレクトリシアン』の管轄下にあるもので、ダモクレス『白河・龍造』によって生産性に特化した量産型ダモクレスの開発研究『システム・セイヴァー』が行なわれているようです」
 性能が劣る量産機であっても、通常の数十倍、数百倍の数を常時投入できる体制が整えばそれは脅威になり得る。
 圧倒的な数と量産スピードによる地上侵略を白河・龍造は企んでいるのだ。
「この研究は成功すれば恐ろしい事になりますが、幸い研究はまだ始まったばかりのようです。研究が成果を上げる前に白河・龍造の撃破が必要でしょう」
 セリカはさらに話を続ける。
「白河・龍造は3体の有力なダモクレスを従えています。
 3体のダモクレスの1体、『システム・ノア』は、研究開発の要となるダモクレスで、試作機の設計・開発に関して高い性能を保持しています。
 2体目の、『システム・マリア』は、ダモクレス製造の為の工場を展開する事が可能な、生産活動に特化したダモクレスです。
 最後の1体、『ポボス・デカ』は、トラック型のダモクレスで、資源の採掘や搬送などに特化しています
 白河・龍造を撃破すれば今回の研究の阻止はできます。しかし、この3体の配下ダモクレスの能力があれば、同じような研究が別の場所で行われる可能性は高いでしょう。配下を逃がせば潜在的な脅威は払拭され無いままになります」
 事態を察したケルベロスたちの様子にセリカが頷く。
「それは防がねばなりません。白河・龍造と配下の撃破が今回の作戦の目標となります」
 
●システム・ノア
「白河・龍造と配下は炭抗内の別々の箇所にいます。よってこちらも4チームで別々の目標に攻撃を仕掛けて貰います。皆さんのチームにはシステム・ノアの撃破をお願いします」
 さらに詳しい作戦の説明を始めるセリカ。
「坑道内では携帯や無線などの連絡は不可能です。敵側は1体が攻撃を受けると、他の3体はその事実を知ることができるようです」
 今回地の利は敵にある。4チームでタイミングを合わせて攻撃を仕掛ける工夫、あるいは敵の警戒などを予測した作戦が必要だろう。
「システム・ノアは炭鉱の制御室であった場所で量産型ダモクレスの基幹部分の開発を行っています。制御室の場所は分かっているので途中で迷うような事はありません」
 途中の警備も大した事は無いようなので、込み入った対策は必要ないだろう。むしろ強敵であるシステム・ノアとの戦闘に力を注いで欲しいとセリカはいう。
「制御室にはシステム・ノア以外に試作機が3体配置されています。戦闘となればこれら試作機も障害となるでしょう。この3体は使用するグラビティは同じですが、拠点防衛型、接近戦型、遊撃型と基本性能が異なるようです」
 試作機は量産性は無視して製作されたもので、能力はケルベロス複数人と互角のようだ。それぞれ攻撃力、守備力、命中回避性能が高くなるように設計されている。
「一方、システム・ノアは複数のコンピュータが組み合わさったような姿をしており、『データを一時的に実体化させる』という能力を持っています。本体の動きは鈍いのですが、開発中の兵器のデータを実体化させて、直接攻撃や試作機の支援を行ってきます」
 試作機たちが護衛に入るので、全ての試作機を撃破しなければ近接攻撃はシステム・ノアには届かない。システム・ノア自身の戦闘能力は有力ダモクレスとしてはさほど高く無いが、その能力は侮ってはならない。
 今回はしっかり役割化された複数の敵との戦いになる。いつも以上にチームとしてどう戦うのかが勝敗を分ける事になるだろう。
 
「彼らの研究が成果を結べば、やがてはグラディウスに頼らないダモクレスの拠点が日本中に出現する日が来るかもしれません。そんな事は皆さんが阻止してくださると信じています。どうかよろしくお願いします」


参加者
天壌院・カノン(ペンタグラム・e00009)
エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672)
ラーヴル・アルージエ(花に嵐の喩もあるさ・e03697)
井伊・異紡(地球人のウィッチドクター・e04091)
ルーク・アルカード(白麗・e04248)
湯島・美緒(サキュバスのミュージックファイター・e06659)
ノルン・コットフィア(星天の剣を掲げる蟹座の医師・e18080)
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)

■リプレイ


 落ち着かない様子のラーヴル・アルージエ(花に嵐の喩もあるさ・e03697)が自分の背後へと目を向ける。その仕草を井伊・異紡(地球人のウィッチドクター・e04091)が目にしたのはこの短い時間で何度目であっただろうか。
 異紡が手元の時計へと目を落とす。この場に待機して10分が経過しようとしていた。
 ラーヴルと異紡、そして身を潜めた他の仲間たちの背後にはシステム・ノアの居る制御室へと続く入口があった。
 入口近くには『螺旋隠れ』と『隠密気流』により身を隠した、ルーク・アルカード(白麗・e04248)と湯島・美緒(サキュバスのミュージックファイター・e06659)が室内の状況を伺っている。2人に監視を任せ、残りの仲間は万が一に備えて周囲の警戒にあたっていたのだ。
 周囲の警戒へと意識を戻したラーヴルが首元の皮製の大きな首輪へと指をなぞらせる。無意識の行動だろう。異紡は同じくラーヴルの様子を心配そうに伺っていた天壌院・カノン(ペンタグラム・e00009)と目が合いうなずきあった。
 ラーヴルとノアに何か因縁めいたものがある、という事は異紡も話に聞いていた。
 因縁のあるデウスエクス。
 もしもそんな相手と対峙する機会があるとしたら自分は平静でいられるだろうか?
 そう考えればラーヴルの今の心情は察して然るべきだろう。
 と、その時であった。
 背後から機械の甲高い駆動音が鳴り響いた。
 振り返ると見張り役のルークと美緒が突撃のサインを示していた。
 どうやら他班との連携は成功したようだ。
 弾けるように制御室へと飛び込んでいくラーヴルの背中に異紡も続いていった。


「侵入者を確認。兵装展開、迎撃態勢に移行」
 ノアの周囲に展開された無数の数式が次々と実体を伴った砲塔へと姿を変える。
 ノアの前に陣取った3体の試作機が入口から突入してきた侵入者たちに一斉にマシンガンの弾丸を放った。
 絶え間ないマズルフラッシュがエリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672)の特徴的な銀紫の編み込み髪に鈍い光を滲ませる。怯むことなく弾丸を掻い潜り、敵陣へと斬りこむ彼女の姿は研ぎ澄まされた1本の業物の太刀を彷彿とさせた。
 一方のラーヴルは傷つく事の無い絢爛豪華な名刀と形容できようか。
「此度の立会……盲亀の浮木、優曇華の花待ちたること久し。此処で逢ったが百年目! 過去の僕の仇だ! ここで死に絶えろ!」
 腰や背中に差した、そして身体中に仕込んだ無数の刀(それぞれが曰く付きの名刀、妖刀である)を用いて、流れ弾を弾き落とし敵へと迫っていった。
 苦無を逆手に構え敵へと一直線に突っ込むルークを無数の弾丸が捉える。刹那、その姿がかき消えた。
「今のは分身だ!」
 試作機の背後へと出現したルークが背中に斬撃を見舞った。
 虚を突いたルークの奇襲は敵陣内にわずかな混乱を生じさせる。その一瞬の隙にケルベロスたちは敵への接近を果たし、瞬く間に敵味方が入り乱れる乱戦が始まった。
 戦場を飛び交う斬撃と銃弾。その真っ只中でウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)は特注のベースギター『BIC4003/UC Model』を激しくかき鳴らした。
「こんな暗い穴倉の奥底でオモチャ造りとはいい趣味だな」
 超高速タッピングに合わせて、彼の肩や腰に担架された銃器から光線が放たれる。
「悪いがお楽しみはここまでだ。続きはあの世でやってくれ」
 戦場に暴力的なデスラッシュ・サウンドを鳴り響かせ、光線を撒き散らす。そのパフォーマンスに少しの間目を奪われていた美緒だっだが、すぐに手に持ったピンク色のギターへと目を向けた。
「同じパフォーマーとして、私も負けていられません!」
 久々の連携作戦の緊張で少し縮こまっていたのかもしれない。一度大きく深呼吸をすると、全力でキュートでポップなフレーズを口ずさむ。
 その歌声に誘われるように半透明の『御業』が美緒の身体から湧き出で、彼女の意思に応え敵へと襲いかかった。
 更に激しさを増す戦場。エリシエルと異紡は敵との接近戦を演じていた。するとその後ろからノルン・コットフィア(星天の剣を掲げる蟹座の医師・e18080)の声が聞こえた。
「白き焔舞い踊り、立ち上がりし者らに祝福を。仇名す者を惑いへと誘う加護を与えん――『白焔蜃陽楼(ハクエンシンヨウロウ)』」
 彼らの周囲に白焔が発生。ゆらめく白焔が陽炎を立ち昇らせ至近距離のエリシエルと異紡の動きを敵が捉え辛いものへと変えていった。
 今回ノルンは遊撃的な位置から仲間のサポートに徹すると決めていた。
 敵味方が行き交う戦場。さらにその後方で不気味に鎮座するノアへと目を向ける。
「厄介なことをさせる前にここを確実に落とすわよ」
 彼女の瞳に強い決意が見て取れた。


「一騎当千も万に囲まれれば討ち取られるし、万夫不当も一国を相手にはできない。数を用意しての平押しってのは冗談でもなんでもなく最強の戦術の一つなんだよね」
 敵地への突入前にエリシエルが苦笑混じりに語っていた事をカノンは思い出した。
 ノアと白河の成そうとしている計画。それはケルベロスにとっての脅威となる。いや、それ以上に力を持たない無辜の人々にとっての絶望へとなるだろう。
 幾千、幾万の絶望を今ここで断ち切らねばならない。
 カノンが試作機をキッと睨みつける。それは温和で穏やかな彼女からすれば、非常に強い感情の発露といえた。
 カノンの手には幾つかのあかね色の栞が差し込まれた本があった。
「禁忌の果実を摘み取って、栞の詩を紡ぎましょう――」
 唄うような呟きと共に、本に挟まれた栞のひとつを抜き取る。
「『栞の詩(マルス・プミラ)』」
 栞が破壊のエネルギーへと変化し敵へと撃ち込まれる。激しい紫電と目を眩ませる閃光が敵を包み込んだ。
「!?」
 何かに気づいたカノンが動こうとした瞬間。側面から別の敵の一撃が彼女を襲った。
 吹き飛ぶカノンの元にノルンが駆けつける。
「すぐに治療を……ッ!?」
 今度はノルンの顔に焦りが見えた。また別の試作機が他の仲間へと攻撃を仕掛けたのだ。
 カノンの受けた傷も決して軽いものでは無い、このままでは敵からのダメージに回復が追いつかない。元より早期決着を意識した攻撃的な布陣で臨んだ戦いではあるのだが……。
「治療にむかって、ディア!」
 一瞬の逡巡の後、相棒のテレビウムのディアに回復の指示を出す。敵が倒れるまで戦線を維持する事が最優先とノルンは判断した。
 その時だった。後方のノアから無機質な電子音声が発せられた。
「侵入者の戦力及び戦術解析完了。脅威レベルC。10分間での殲滅を目標とする」
「残念だが殲滅されるのはお前たちだ。俺たちを見くびるなよ」
 そういったウルトレスは視界の端でカノンが無事起き上がった事に心の内で安堵する。
 今回の作戦は最も堅牢な防衛型試作機から順に集中攻撃で落としていく真っ向勝負だ。そこにはノアの逃亡阻止をも視野に入れ、障害となる可能性を秘めた護衛から優先して落とすべしというケルベロスたちの深慮があった。
 しかし、集中攻撃は同時に敵にとっては狙いが読め、対策が立てやすい事を意味する。
「現状維持を優先事項とする」
 鳴り響く電子音声。
 集中攻撃に傷ついた敵の装甲に数式が纏わりつき新たな装甲が形成されていった。
「大丈夫かい?」
 異紡がダメージを負ったエリシエルの治療を行う。
「ありがとう、想定していたよりは厳しい戦いになりそうだね」
 こちらと敵の戦力は互角だ。互角の敵の最も固い箇所を力業て突破しなければならない。
 エリシエルの顔に覚悟の色が浮かぶ。
「こちらも無傷で勝利、なんて虫の良い話は最初から考えちゃいないけどね」


「全く、なんて固さだよ」
 動きを止めない防衛型試作機にラーヴルが小さく舌打ちをする。幾度となく集中攻撃をしかけるもノアの援護もあり撃破へと至れないまま時間が経過していた。
 敵も限界が近い事は見て分かる。ただそれはケルベロス側にも当てはまる事だ。
 戦いはどちらが先に倒れるかの消耗戦に突入していた。
 今度はエリシエルの血襖斬りが敵を捉えた。ダメージと同時に傷を癒すその業は消耗戦には最適といえたが、ダメージを与え辛い敵には効果も半減してしまう。
「ここが正念場よ!」
 ノルンが不足分の治療を施す。同じく回復に専念するディア、異紡と互いに声を掛け合い、まだ1人の脱落者も出していないのは彼女の経験の賜物といえた。
「もっとこっちを狙ってきてくださいよ!」
 傷つく仲間たちを前に、美緒が悔しそうな顔を見せた。
 こちらとは対照的に敵は狙いを定めてはこない。ディフェンダーの美緒が仲間を庇う機会も幾らかはあったが、必然的に前中衛のアタッカーへのダメージが大きくなってしまう。
 特にダメージが大きいのは前衛のエリシエルとカノンであった。
 再び損傷激しい敵の周囲にノアの数式が飛び交う。
「そうはさせません!」
 ノアの動きに先んじたカノンが試作機へと飛び出していった。回復を許せば今度こそ仲間の誰かが倒れる事になる。考えるより先にカノンの身体はそれを理解していた。
 本の栞は残りひとつ。出し惜しみをするつもりは無かった。
 しかし。
「敵性体の行動は予測範囲内。迎撃せよ」
 カノンが敵へと到達するよりも早く別の試作機の銃撃がカノンを貫いた。


 宙へと舞い散る羽。天井を見上げたカノンの意識が深い闇へと沈んでいく。
「カノン!?」
 ノルンの悲鳴にも似た声。その叫びがカノンの胸にズキンと痛みを生じさせた。
(「彼女を、皆さんを悲しませてはなりません……自らの務めを果たさなければ!」)
 それはカノンの気高き魂が肉体を凌駕した瞬間だった。
 すぐさま体勢を立て直し敵へと接敵。残る力で本から栞を抜き取り閃光を放った。
 直撃を受け、破壊された試作機にカノンの顔に安堵の笑みがこぼれた。
 だが、敵の周囲を飛び交っていた数式が刀剣へと変化を遂げ、彼女に襲いかかる。
「エラー発生……侵入者の戦力を上方修正。戦況解析の再試行を開始」
 力なく倒れ伏すカノン。鳴り響く電子音声には微かなノイズが混じって聞こえた。


 異紡が敵のブレードを白薔薇を刻んだ硝子の剣で受け止める。
 そして剣を切り返し敵へと身体を密着させると、空いた片方の掌でそっと敵へと触れた。
「消えていく。失っていく。焔によって焼けていく」
 その行為は攻撃と呼ぶにはあまりに弱々しく思えた。
「全能なる神は失われ独り立ちの時は告げられた。古き時代は終わり新しき時代が始まる」
 異紡の掌が敵から離れる。すると触れていた箇所から焔が溢れでていった。
「過去は失われても、その記憶は再演されるのさ……世界によってね」
 焔 に包まれ苦しむ敵に物悲しげな目を異紡は向けた。
 荒い呼吸を整えたエリシエルが愛刀『二代孫六兼元真打』を構え直す。関の孫六の名で知られる最上大業物は激しい斬り合いにも少しとして欠けることは無かった。
「コイツに比べるとボクもまだまだ未熟だなぁ……」
 無理を重ね最早限界に近い自らの身体に対し、強く、そしてしなやかで折れることも欠ける事も無い鋼。自分もいずれはその域に達したいと齢十八の天才剣士は想った。
「山辺が神宮石上、神武の御代に給はりし、武御雷の下したる、甕布都神と発したり」
 脱力からの縮地・無拍子。敵が気づいた時にはその眼前に刃があった。
「万理断ち切れ、御霊布津主!」
 最速の斬撃が敵を切断してみせた。


 ノアがケルベロスの殲滅を宣言してから10分が経過していた。
「10分が経過したが俺たちはまだ5人立っているぞ。そっちは残り半分だ」
 ルークがニヤリと笑みを浮かべる。
 カノンに続き限界を迎えたエリシエル、異紡、ディアも戦闘不能となったが、敵は守りと攻撃の要を失っていた。
「……状況確認。迎撃を続行」
 ノアの周囲に展開した砲門と試作機のマシンガンが一斉に放たれる。
 残った前中衛の美緒とウルトレスがその銃弾の前へと踊り出る。互いに頷きあった2人は愛用の楽器を激しく奏で、魂のセッションを開始する。
「『Silent Night Fever(サイレント・ナイト・フィーバー)』!」
 ウルトレスが擦り切れた指から血が噴き出すのも構わず超高速のビートを弾き出す。
「私だって――『The Last Howling mild (ザラストハウリングマイルド)』!」
 それに負けず劣らずの早弾きを美緒が魅せる。
 美緒のギターから弾け飛ぶ衝撃波が次々と敵に弾け飛び、着弾していった。
 突然バチンと弦の切れる音が美緒の耳に聞こえた。
 横に振り向けば腹に銃弾を受け、床にしゃがみ込んだウルトレスの姿が。
 顔を青ざめた美緒に最後の力を振り絞ったウルトレスが不敵な笑顔を見せた。
 涙を堪えた美緒が更に魂のこもった早弾きを敵へとお見舞いしていく。
 ここがチャンスとばかりに敵へと接敵するルークの姿が次々と増えていった。
 一人が二人。二人が四人。分身が分身をよび、四方八方から敵へと襲いかかる。
「これでトドメだ――」
 敵の銃弾の雨嵐がそれら分身を掻き消していく。そして残った最後の一人――。
「『影遁・暗夜之攻(ファントムレイド)』』
 最後の『分身』も搔き消える。同時に背後へと忍び込んでいた本物のルークの一撃が敵の首を斬り落とした。


 残るはノア一体。守るものの居なくなった機械の山に対して、ケルベロスたちは猛攻を止める事は無かった。
「お前が覚えているかは知らないが……」
 冷たい目をしたラーヴルが半ば機能を停止しかけたノアへと一歩ずつ近づいていった。
「甚大なエラー発生……全端末の90%の停止を確認。計画の続行不能。error……」
 崩れ落ちていくコンピュータとモニターの山。その山の中からミイラのように干からびた男が姿を現した。
 ラーヴルが腰の刀を居合い抜く。
「『散華閃光流・落下椿』」
 シャッと金属の擦れる音と再び鞘へと刀が収まる音。
 直後、男の首がポトリと地面に落ち、システム・ノアは完全に機能を停止した。


「ノルンさん、ありがとうございます」
 目を覚ましたカノンが心配そうにこちらを見るノルンに笑顔をみせた。
「激しい戦いだったけど、全員無事で何よりだよ」
 異紡がふうと息を吐く。
「何か手掛かりがあれば良いのだが……」
 ウルトレスに部屋の設備やノアの残骸を調べていた美緒とルークが首を横に振った。
「これは後で調査し直すなり、残った資料を解析するなりした方が良さそうだね」
 エリシエルが肩をすくめる。
「何か気になるものでも?」
 異紡の声にノアの残骸に目を落としていたラーヴルが振りむく。
「いや、何でも無いよ」
 そう答えた少女の顔には複雑な笑みが浮かんでいた。

作者:さわま 重傷:天壌院・カノン(ペンタグラム・e00009) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 12/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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