シーカー・ワンダー・アラウンド

作者:鹿崎シーカー

 レーザーが頬をかすめた。ジュッと音を立てた頬の皮を押さえて後ずさる青年を、路地裏の壁が無慈悲に止める。追い詰められた青年は歯の根を震わせ、機械パーツが露出した頬を動かした。
「ち、畜生ッ……なんだよ。なんなんだよぉ……ッ!」
 遠い道路を背負うのは、銀の球体と三つの正八面体発光プリズム。プリズムはそれぞれ蒼、緑、紫の光を放ち、銀色モノアイの周囲を浮遊しながら衛星めいて回っているのだ。
『ピーピーピーピコココピコココ……』
 カメラアイが忙しなく動き青年を眺める。響く怪しげな電子音。数秒の沈黙ののち、プリズムが停止し突如として輝きを放つ!
『ブブーッ』
「ぐぁッ……」
 青年がうめき、衝撃の走った腹部を見下ろす。穴が開いた腹から黒いオイルと部品がこぼれ、焦げ臭い煙を上げていた。目をむく青年の肩、膝、胸を三色のレーザーが次々撃ち抜く!
『ブブーッ、ブブーッ、ブブーッブブーブブーブブブブブブブブブ!』
 レーザーの速度が増し、機関銃めいた速度で乱射! 高速回転するプリズムが無数の光を路地裏にたたき込みなおも掃射を繰り返す。嵐のような閃光を放つプリズムは、やがて回転速度を落として停止した。
『ストコココ、ピーッフォォォン……』
 静寂の中、銀の一つ目は周囲をきょろきょろと見まわす。ややあって、視線がぴたりと止まる。レンズを回しながら、プリズムとともに浮遊。声もなく残骸と化した青年を残し、機械の瞳はいずこかへと消え去った。


「……イレギュラー?」
「そうそう。ダモクレスの中でも、ちょっと風変わりなグループみたい」
 小首をかしげるミッシェル・シュバルツに、跳鹿・穫はお茶をすすりながらうなづいた。
 過ぎたるクリスマス、ゴッドサンタによって伝えられていた『新たなダモクレスの幹部』がついに活動し始めた。
 うち、動き出したのは指揮官型ダモクレスの一体である『イマジネイター』率いるイレギュラーズ。ダモクレスの中にあって規格外な存在である彼らは、他の集団を作るデウスエクスと違い統一された作戦は行っておらず、各々が好き勝手に行動するという変わった特性を持つ。それでいて軍団として機能するのは、ひとえにイレギュラー同士の結束の固さによるものであるらしい。性質多様、しかし仲間のために自己犠牲もいとわない彼らは、ある意味で最も厄介な部隊と言えるかもしれない。
 そして今回、『シーカー』と呼ばれる謎のダモクレスが、レプリカントの青年を襲撃し破壊するという事件が予知された。
 シーカーの行動目的は不明だが、一般人が殺害されるとあっては放置できない。急いで現場に急行し、青年を救い出してほしい。
 現場は、背の高い建物で囲われたとある裏路地。約三十メートルの一直線通路で、奥は行き止まり。この奥にレプリカントの青年が追い詰められており、路地の中央あたりにシーカーが浮遊している。そのまま戦闘に臨めば青年が巻き添えになる可能性が高い反面、シーカーは何故かレプリカントを襲撃する習性があるので救出には工夫が必要だろう。
 肝心かなめの敵戦力だが、今回は一体のみで取り巻きや仲間の類は見受けられない。シーカーの攻撃手段は、銀色の球体カメラ周囲に浮いたプリズムを使った銃撃の他、捕獲用のビームを放つようだ。
「ちょっと厄介な相手だけど、ここで逃がしたらまた別の人が襲われちゃうかもしれないからね。ここで、なんとしても倒してきて!」


参加者
白羽・佐楡葉(紅棘シャーデンフロイデ・e00912)
アーティア・フルムーン(風螺旋使いの元守護者・e02895)
ロベリア・アゲラータム(向日葵畑の騎士・e02995)
チェザ・ラムローグ(もこもこ羊・e04190)
久遠寺・眞白(豪腕戦鬼・e13208)
ジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)
ティユ・キューブ(虹星・e21021)
ヴィルベル・ルイーネ(綴りて候・e21840)

■リプレイ

 掲げた巨腕に爆発の花が狂い咲く。赤い手甲で頭をかばい、久遠寺・眞白(豪腕戦鬼・e13208)は暗い路地の壁を走った。小脇に抱えたレプリカントの青年が悲鳴を上げる。
「う……うわアアアアアアッ!」
「舌を噛むぞ!」
 視界を乱す光線の嵐。四方から轟く破砕音を聞きながら、瞬く星に目を凝らす。跳ね上がる軌跡を追いかけ、眞白は壁を蹴って跳ぶ! ティユ・キューブ(虹星・e21021)は蒼いリボン結った手を指揮者めいて滑らかに振るった。路地を斜めに斬り裂く地上の星図!
「ジェミ、ロベリア!」
「了っ解!」
 仁王立つジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)が腹筋に力を込め、頭上にロベリア・アゲラータム(向日葵畑の騎士・e02995)が白翼を広げ盾を構える! 星図を背にする二人の背後で投げ出される青年。ガトリング一斉掃射めいた横殴りの弾幕を、不死鳥の紋様が迎え撃つ!
「ヴィルベル! 受け取れッ!」
「おっと……」
 飛来する青年をキャッチし、たたらを踏むヴィルベル・ルイーネ(綴りて候・e21840)。焦げ茶のフードをかすめる流れ弾の数々をうっとうしげににらめつけ、片手で銀装飾のペンを取り出す。
「チェザ、これを頼むよ。動き辛い」
「ぴゃっ!」
 全身を雲めいた毛で覆ったチェザ・ラムローグ(もこもこ羊・e04190)に青年を手渡し、身をひるがえす。宙を横切る筆の軌跡が暗緑色の文字を展開。飛来する弾丸を防御した。爆発と甲高いレーザーの音を背に、チェザは頭に持ち上げた青年を見やる。
「だいじょぶだいじょぶ。ボクたちケルベロスが助けに来たんだよー。安心するなぁ……ひちぃっ!?」
 奇声を上げるチェザの真横を白羽・佐楡葉(紅棘シャーデンフロイデ・e00912)が駆け抜ける。むしった髪をバラのブーケめいた杖に巻きつけ見上げる先では、ロベリアとジェミ頭上を通る青プリズムとそれに蹴りかかるアーティア・フルムーン(風螺旋使いの元守護者・e02895)!
「せあああッ!」
 エメラルドの突風をまとった爪先が輝くプリズムを蹴り飛ばす。射線がズレた光線はティユの肩口を凍らせ地面に蒼氷を張り巡らせた。くるくる回転しながら吹き飛ぶ青プリズムに、佐楡葉の追撃! 身をひねって放たれたオーバーヘッドキックがプリズムをカメラアイに叩き返す。ジェミはアスファルトを踏みしだき、腹筋に力を込めた。
「ふんっ……でやぁッ!」
「はッ!」
 肉体と騎士の威風が光線弾幕を吹き飛ばす! ビプービプー! 銃撃を止めたシーカーが抗議めいた電子音を響かせた。
「まだまだぁッ! この私の鍛えた体、砕けるものなら砕いてみなさいッ!」
「眞白さん、作戦通り彼を頼みます。ここは私達が」
 チェザから青年を受け取った眞白が、青年を起こしうなずき返す。羊のマスコットに変化した毛の残滓を払いながら、赤い手甲で背中を叩いた。
「すぐそこまでだが護衛する。……走れ!」
「え、あっ……は、はいぃッ!」
 走り去る二人には目もくれず、ヴィルベルは懐から魔導書を取り出す。開いたページがダークグリーンの文字を浮かばせ、ホタルのように発光させた。
「やれやれ。名前には親近感があるけれど……少し暴力的過ぎやしないかい。語らい合うのは無理そうだ」
「…………」
 癒しの星屑を振りまきながら、ティユは魔女めいたドレスの胸元を握る。チチチチチ、と謎の音声をこぼすカメラアイ、光りつつ観覧車めいて回るプリズムを、ヴィルベルはフードの奥で見比べた。
「……それで? どれを狙うべきなのかな?」
「さて、わかりません」
「ぴあっ!」
 おもむろに髪を抜かれたチェザが佐楡葉をビンタする。頬に赤い手跡をつけたまま、ウェーブヘアを巻いた杖を構えた。バラの花弁が陽炎をまとう。
「わかりませんが……要は、全部壊せば解決でしょう」
『ピピーッ!』
 沈黙していたプリズムが再発光! 息を吸うジェミ、両腕に星明りを宿したティユが前に出た瞬間、シーカーは破壊光線の弾幕を張る! ジェミの体のあちこちで爆発、冷たい光は星の渦に巻かれて消える。乱射するプリズムを残し、銀のカメラは高速バック! 闇に紛れようとするその横面を砲弾が殴りつけ、銀球をくるくると回転させた。プリズムをゲートボールめいて打ち飛ばしたロベリアは、翼を広げ戦槌を持つ手を引き絞る!
「何処へ行こうというのですか?」
 壁を蹴り、シーカー背後に回るアーティア! 藍色の瞳と視線を合わせ、ロベリアのウォーハンマーが投槍のように投げ放たれた!
「あなたの相手は、こちらですよ」
 凛としたエンハンス光の軌跡を連れて飛翔するハンマー。すんでのところでスライド回避するカメラアイの背にいたアーティアは回転跳躍し真下を過ぎ去るウォーハンマーの柄をつかむ。壁を蹴って滑る銀球に追随、腰をひねりフルスイング! 突風で加速した一撃を受けたカメラはコマめいて回る!
『ピーガブーッ!』
「ふっ!」
 アーティアの腕からマントが広がり、不意打ちのビームを受け流す。追撃が止まった一瞬でカメラは自身を制動、路地裏を垂直に跳ね上がった。それを捕らえ引き留める超自然の竜巻!
『ビビーッ! ビブブブブブ!』
「逃がさない……ここで仕留めるッ!」
「なぁーんっ!」
 銃撃のため光るプリズムを蹴っ飛ばすチェザ。電子音でわめき散らすカメラアイに、暗緑色の文字列が壁面を這い迫る。鎌首をもたげたそれは、精霊文字で構成された目無しの大蛇! 風に囚われた銀球に牙を突き立てる!
「いっそしゃべってくれたら楽なんだけど。融通が利かないね、全く」
「ふんぬぁあああッ!」
 気勢を上げてジェミはヴィルベルを狙うレーザー群を弾き飛ばす。光が散った一瞬のスキに佐楡葉は杖先に竜を顕現。真紅のアギトが業火を吐き出し、プリズムを飲み込んだ。
「ジェミ、少しここ頼めるかい!」
「まっかせて! これぐらい、どうってことない!」
 ペルルを残し、ティユは脇を抜け走る。再びハンマーを手にしたロベリアは赤プリズムのビームを盾でガードし、ハンマーを振る! 鈍い音とともに滑るように吹っ飛ぶプリズムにシシィが雲めいたブレスで追撃。ボムボムと白い爆発を貫く銃撃に震える盾の裏で、蒼白の線が視界を横切った。ロベリアは右足を突き立て回り込む赤プリズムに向き直る!
「私の背を取ったつもりですか。甘いッ!」
「そーれっ! なぁん!」
 盾が突き出されると同時に、チェザが宙に浮いた毛玉をたたく。シールドバッシュと爆撃に弾かれるプリズム。悲鳴を上げるように点滅する赤を遠目に、佐楡葉は青にかかとを振り下ろす! トゲを刺しからまる魔導の赤バラ。その上から文字列が縄めいて締め上げた。攻撃を耐え抜いたジェミはアスファルトを踏み砕き、跳ねた小石をキャッチする。
「佐楡葉さん、ヴィルベルさん。ナーイスッ!」
 大きく踏み込み握ったつぶてを振りかぶる! 散弾のごとく飛ぶ石は拘束のスキマ、露出したプリズムの角に直撃し発射しかけた光線を暴発させた。狼煙めいて黒煙を上げる青に、佐楡葉が杖を突きつける。
「では、少し早いですが退場して頂きましょう。貴方よりらっむを焼きたいので」
 幻影の竜が拘束ごとプリズムをかじる。金属の軋む声を聞きながら、跳んだアーティアは目を見開いた。チェザ、ロベリア、ティユに囲まれた赤、佐楡葉、ジェミ、ヴィルベルに囚われた青とカメラ。一機足りない。
 直後、精霊文字の大蛇が爆散! 表面に呪いめいた暗緑色の模様を浮かべ、転がり出たカメラアイのさらに上、緑のプリズムが地面に向けた角に光を溜める!
「やら……せないッ!」
 壁に足を引っかけ再跳躍。かすれた精霊文字の残骸を退け、機械の宝石に手を伸ばす。ピガーブガガー! 銀の瞳が耳障りな電子音を叫び緑プリズムは素早くスライド。アーティアの真上に陣取りさらに輝いた!
 舞い上がるダイヤモンドダスト。白い霧の向こう側、冬の月光を反射する赤い巨腕。
「砕け散れッ!」
 限界までひねられた体が巨大な赤手甲を撃ち出した! 全力を込めた眞白の拳は冷気を突き抜け、緑プリズムを激震させる。落ちてくるプリズムをアーティアがマントで払いのけた瞬間、凍結光線はティユの左肩に命中! 二の腕から首にかけてを氷で覆う!
「ぐっ……!」
「てゆーっ!」
 ロベリアを盾越しに吹き飛ばし、ティユに跳ね返る赤プリズムにチェザはシシィと頭突きを打ち込む。緑プリズムは壁に亀裂を入れて急降下した眞白の拳に殴られ壁面に埋まった。
「ロベリアさん! 合わせてッ!」
「……! 了解しました。チェザさん、下がってください!」
 羽織ったコートを投げ捨て跳躍するジェミ。ロベリアは翼を広げて制動をかけ、力強く羽ばたく。オーラ渦巻くハンマーの打突が赤を撃ち、バリスタめいた飛び蹴りを受けて飛来する青に向かって吹き飛ばす! 空中で激突した宝石表面が割れて欠片が散った! 佐楡葉はブーケのような杖を振り、火竜を顕現。爆炎が路地裏を照らし二つのプリズムをチェザごと燃やす!
「ぴああああああっ!」
「ああっ、らっむがうっかり巻き添えにー。今夜はジンギスカンですねッ……!」
 炎を貫くレーザーが佐楡葉の頬を白く焦がす。鮮烈な赤の中で、よりまばゆい紅と群青が膨らむ! 無事な右腕を操りティユは星波を拡散。即座に組み上がる星図を弾幕が飲み込んだ! 荒れ狂う閃光が竜の幻影を押し流し路地の壁を穴だらけにする。変色していくローブでかばった魔導書を開いたヴィルベルはささやくように精霊文字を読み上げていく。
「魂導き、華と散れ。パピリオ・オーラティオ」
 バラバラと独りでにめくられるページが精霊文字の胡蝶を放す。星図を頼りに弾幕を泳ぐ蝶の群れが仲間たちの傷をなで、血をぬぐう。炎を押しのけた二つのプリズムは、亀裂から脱した緑と共にカメラアイの下へ上昇。銃撃しながら飛翔する!
「逃げられると思う? ……させないっ!」
 振り返り両手を組むジェミ。上向けられた手の平に、防御姿勢を取る眞白が飛び乗った。暗緑色の蝶と破壊の雨が降る地獄の中で、ジェミは思い切り背中を曲げた!
「あなたのお仲間なら……きっと逃げないでしょ? あなたはどうなのかしら! 眞白さん、行っけええええッ!」
 跳ね上げた手が眞白を投げる! ビームの洗礼を弾く右腕が黒く染まり脈動。軋みながら肥大化する巨腕の隙間で、伸びた犬歯を食いしばる。膝を折り、空を踏みしめる!
「逃げれると思うか。……この、鬼の拳からッ!」
 上昇が止まると同時、空気が破裂し破砕音! ひび割れた赤プリズムの前半分を漆黒の拳が押し潰し、粉々に砕いた。振り向きかけたビープ音を鳴らしかけた銀球と二個のプリズムを、超自然の竜巻が捕らえる! 払ったマントごと光線を防いだアーティアは風をまとった手を握って引き絞った。竜の咆哮めいて響く風の音!
「はぁぁぁああッ! 疾れ、唸れ、夢想の刃!」
 赤プリズムと墜落していく眞白を無視して、カメラアイはブザーを叫ぶ。青、緑のプリズムが輝きを増し銃撃の雨を強めていく! 爆発と砂煙、地上をたたく光に、白い羽が舞い落ちる。ロベリアは大上段に振り上げたハンマーを、渾身の力を込めて振り下ろす!
「いい加減、大人しく這い蹲りなさいッ!」
『ピピーッピピーッピピーッ!』
 打ち据えられ呑まれていく青! エマージェントコールも虚しく落ちながら抵抗の銃撃を繰り返す。だがそれらは、砂ぼこりを押しのけて膨れ上がった巨大な羊毛に受け止められた。怒声とともに生えたパンチが佐楡葉を追放!
「はぶぅっ!」
「食材じゃないから! さっゆのおばか!」
 飛び出した佐楡葉は口の端の血をぬぐい、迫るプリズムに向き直る。目と鼻の先で放たれたビームに肩口や腹を射られながらも赤いブーケを突き出した。真紅の花弁が鮮血めいて禍々しい魔力をまとう!
「ごほっ。……See you later」
 次の瞬間、無数のトゲがプリズムを貫き引き裂いた! 赤熱した欠片の落ちた羊毛が、暗緑色に変化する。
「咲き誇り、散り誇れ。ロサ・ストゥルティ」
 柔らかな毛を突き抜ける、無数の黒バラ。色を咲かせた束はカメラアイと残る緑をからめとり、竜巻に引きずり込まんとす! 抵抗する二機は銀の戦槌に殴られ、奈落と化した路地の闇に落ちていく。羊毛を竜巻で吹き散らしたアーティアは、風の爪で最後のプリズムを黒いバラごと斬り裂いた。
「風螺旋、龍哭刃ッ!」
 ひび割れをえぐられ、砕ける緑。武器を失ったカメラアイに映る景色を、ティユは蒼い瞳で見返した。
「悪いね。あんまり見ないでくれるかな」
 パチンと弾いた指から飛ぶ星が、無機質な瞳を貫き夜空に消える。風穴を開けられた銀球ははかない電子音を吐き、黒薔薇に包まれ圧し潰された。


 数十分後。路地裏はヒマワリ畑に変貌していた。地面から壁までを覆い隠す、季節外れの黄色い花弁。その下には夜空に輝く真珠色の星という神秘的なアートが水面のように流動している。
 そんな路地裏の出口、
「ほら、佐楡葉さんもケンカしないの。落ち着いて」
「くっ……放してください。今日の夕飯はジンギスカン……あんなにこんがり焼きあがった羊をむざむざと……!」
「お前……チェザをなんだと思ってるんだ」
 苦笑いのジェミ、呆れ顔を浮かべる眞白に抑えられた佐楡葉が杖を振り回す。当のチェザはペルルとシシィを抱っこし、ドヤ顔。
「ワイ、大勝利」
「はいはい。ちょっとじっとしてておくれ」
 じゃれる子竜の腹をもちもちとなでるチェザに、ティユは星の粉を振りかける。銃撃痕もろとも消えていく火傷を目の当たりにし、世界終焉めいた表情の佐楡葉をよそに、ロベリアは戦場跡となった路地裏を見つめた。
「あれは、結局なんだったのでしょうね。斥候のようですが……最近活発なダモクレスと言い、何かの前触れでしょうか?」
「さて、ね。真相は闇の中じゃないのかな。結局、何もしゃべらなかったわけだし」
 淡々と告げるヴィルベルの隣で、アーティアは騒ぐ五人に視線を向ける。髪をむしったり殴り返したりとケンカを始める二人を、他の三人が仲裁に入る。幾分か平和な戦いを見ながら、アーティアは小さくつぶやいた。
「そういえば気付いた? あいつがバリバリ撃ちまくってたビーム……多かったから分かり辛かったけど、よく見たら全部急所狙ってた」
「……普通じゃありませんか? 相手は機械なわけですし、それぐらいできると思いますが」
 首を傾げるロベリア。一方でヴィルベルはあごに手を当て、ローブ奥から知的な瞳をのぞかせる。
「変じゃない? そんな攻撃してたくせに、やたら逃げようとしてた。ずーっとレプリカントの二人見ながら」
「ふむ……確かに気になるかな。逃げつつ攻撃する探究者、か。……何を探していたのかな」
 三人の間に沈黙が降りる。更けていく夜の中、ぴゃーぴゃーと喚く声が密かにこだましていた。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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