フタバシリーズ再び! スチームシェフの残虐料理教室

作者:質種剰

●辻斬り料理人
 神奈川県の雑踏。
 寒い冬空の下、いつもの通勤通学風景を繰り返す筈のそこは、あるダモクレスのせいで阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
「フェーッフェッフェッフェッフェッフェ!」
 奇妙な笑い声をあげながら巨大な包丁を振り回しているのは、ずんぐりむっくりとしたフォルムの、何処かで見たようなダモクレス。
「良いのう良いのう、新鮮な肉が沢山じゃ! ここに居るものは全員、このワシに直接調理される栄誉に浴するが良いぞ……!!」
 コック帽をつるっ禿げの頭に乗せ、白さ眩しいコックコートを着込んだそのダモクレスは、斬りつけた通行人の返り血を浴びて尚、狂ったように笑っていた。
「フェーッフェッフェッフェッ! ずっと潜伏して我慢してたのじゃ。ようやくレジーナ様からのお召しがあった最後くらい、派手にやらせて貰わねば割りにあわんわい。フェーッフェッフェッフェッフェ!!」
 何人もを虐殺して高笑いするこのダモクレス、名を『スチームシェフ・フタバ』という。
「レジーナ様へ献上する手土産のグラビティ・チェインも要るしのう」
 フタバ——そう、あのフタバだ。
 かつて機能停止に陥っていたダモクレスを修理強化し、野に放っていた『スチームドクター・フタバ』と同じ『フタバシリーズ』である。

●レジーナの配下達
「ゴッドサンタの言っていた指揮官型ダモクレスによる地球侵略が始まってしまったようであります」
 小檻・かけら(藍宝石ヘリオライダー・en0031)が、深刻そうな面持ちで説明を始めた。
「指揮官型の一体『コマンダー・レジーナ』は、既に多くの配下ダモクレスを地球に送り込んでいたらしく、彼女の着任と同時に、潜伏していたダモクレスが動き出したであります」
 動き出したダモクレスの多くは、そのまま撤退したようだが、中には行きがけの駄賃とばかりにグラビティ・チェインを略奪する者も少なくない為、多数の事件が予知されている。
「皆さんに向かって頂きたいのは、神奈川県の市街地であります。そこで、『スチームシェフ・フタバ』なるダモクレスが人々の虐殺に及ぶでありますよ」
 どうか、被害者が出る前にダモクレスの討伐を、宜しくお願いします……!
 深々と頭を下げるかけら。
「スチームシェフ・フタバは、左腕にくっついた巨大包丁を駆使して『千六本』という攻撃を仕掛けてくるであります」
 それは近距離の敵単体を何度も何度も執拗に斬り刻む技で、敏捷性に長け、時に相手のトラウマを刺激するという。
「また、右手のフライパンをグラビティで熱して、『火力限界突破』を使う事もあります」
 こちらは複数人に命中する遠距離魔法攻撃で、フライパンから放たれる赤々として理力に満ちた炎弾が、大きな火傷となって痛みを長引かせるのへ注意して欲しい。
「コマンダー・レジーナに、これ以上の情報を渡さない為にも、どうかダモクレスを撃破して事件解決して欲しいでありやす。宜しくお願いします……!」
 そう説明を締め括って、かけらは真剣に皆を励ますのだった。


参加者
ギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)
クロコ・ダイナスト(牙の折れし龍王・e00651)
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)
大首・領(秘密結社オリュンポスの大首領・e05082)
ニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)
平島・時枝(フルメタルサムライハート・e15959)
猫神・こま(黒猫大御神尊・e21926)

■リプレイ


 神奈川県。
 スチームシェフ・フタバが正体を現した刹那、雑踏が悲鳴の渦に包まれた。
「フェッフェッフェ! さぁさ旨そうな食材達よ、レジーナ様へ献上する為のグラビティ・チェインを寄越すのじゃ!」
「きゃあああ!」
 しかし、既に奴を待ち構えていたケルベロスが、フタバが斬りかかる前に一般人を護るべく、素早く立ちはだかった。
「皆様、ダモクレスが現れましたので、避難して下さい! 私達が誘導します」
 ニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)がすかさず声を張って、ガイバーン・テンペスト(洒脱・en0014)や美貴と共に彼らへ避難を促す。
 性格は思慮深く温厚、いつも雑事をこなして周りに感謝されているニルスだが、実は健啖家でもあり、その食べっぷりにも密かな定評がある。
「力持ちの方は足の遅い方に肩を貸すなどして手伝ってあげて下さい。大丈夫です、慌てず焦らずに進んで下さい」
 ニルスは戸惑う一般人へ不安を与えないよう優しい物言いを努め、力強く励まし続けた。
「スチームシェフ……かつて似たようなダモクレスが動いてたという話は聞いていますが……」
 ギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)は、フタバを視界に捉えて呟く。
 短く整えた藍色の髪と無垢な金の瞳が印象的な人派のドラゴニアン。
 勇者を目指し厳しい剣の修行を積んでいたギルボークだが、とある少女との出逢いが彼の人生観を一変させた。
 全ての行動理念がその少女に直結するようになったのだ。
 彼女の為に生きるとすっかり思い極めたは良いが、果たして想いが報われるかどうかは定かでない。
「それはともかく、このような所業、許してはおけません。少しでも被害を減らせるよう、気を引き締めて戦いましょう」
 と、真剣な声になって斬霊刀を抜き払うギルボーク。
「揺光の瞬き、ご覧あれ……あなたに見切れるかはわかりませんけど」
 刃が刹那に閃いたかと思った次の瞬間、フタバの身体から鮮血がまるで舞い散る桜のようにぱっと噴き出した。
 ギルボークがカッコつける余裕を捨ててまで神経を集中、繰り出した高速の剣技によって全身を斬り刻まれていたのだ。
「あーもう、これがバカに刃物ならぬ包丁って奴かい。フライパンで自分のオツムまで熱々になり過ぎてんじゃないのかね」
 平島・時枝(フルメタルサムライハート・e15959)も、リボルバー銃の狙いをフタバへ定めつつ、蓮っ葉な口調で呆れてみせた。
 剣と銃を操るレプリカントの少女で、赤いポニーテールとクラシカルなセーラー服が生来の活発な雰囲気を引き立てている。
 陽気な言動と冷淡かつ実利重視の思考を併せ持ち、平島仁機風塵流を胸に戦う、養父から秘伝を受け継ぎし刀剣士だ。
「血みどろの迷惑料理が振る舞われる前に、パパッと料理してやろうかい」
 そう宣言するや、レプリカントの身体機能のリミッターを瞬間的全解放し、知覚能力をも拡大させる時枝。
「……平島 塵風斎 時枝、白刃と矢弾を存分に馳走仕る。いざ!」
 更に、体の内外に纏ったグラビティ・チェインへ身体制御を任せる事で成し得た神速の踏み込みと体捌きから、フタバの顔面へ神速の一刀を浴びせた。
「さぁ、いこうか……」
 エヴァンジェリン・ローゼンヴェルグ(真白なる福音・e07785)は、いつものように言葉少なくも自らを奮い立たせるべく呟いた。
 長く伸ばしたハニーブロンドに白薔薇を咲かせたオラトリオの女性で、ツリ目がちの瞳はサファイアブルーの光を湛え、白一対の翼と共に気高い雰囲気を漂わせている。
 銀を基調に深みのある青で彩った鎧は、内なる騎士道精神を表すかのように冴えた輝きを放ち、エヴァンジェリンの凜とした佇まいに拍車をかけていた。
「弱点は……頭では無さそうだな」
 エヴァンジェリンは冷静に言うと、高速演算にて見抜いたフタバの構造的弱点——何故だかズボンや下着を穿いていない股関節目掛けて——痛烈な一撃で破壊した。
「やってやるにゃ! 悪趣味にゃ料理にゃんざ作らせないにゃ!」
 猫神・こま(黒猫大御神尊・e21926)は、斬霊刀を鞘から抜いて戦う意欲満々。
 サイドポニーに結い上げた黒髪と金の猫目が愛らしい猫の人型ウェアライダーな少女。
 天真爛漫を絵に描いた性格で外見も歳より幼く見えるが、実際はちゃんと物事を考えて行動している。
「恥ずかしいけど! プリンセスモードにゃ!」
 今も、プリンセス変身して一般人の前へ立ち、懸命に彼らを励ました。
「さぁ、みんな慌てないで避難するにゃ! こいつは私たちに任せるにゃ!」
 ニルス達がスムーズに誘導できるよう心を砕いてのこまの行動は、一般人にも確かに伝わり、彼らの動揺を和らげた。
 また、戦闘が始まってからも、
「こっちばっか見てるとあぶにゃいにゃよ?」
 神刀『荒魂』の刀身に空の霊力を込め、フタバの脚部をザックリ斬り広げて、奴の装甲を尚も突き崩すのだった。
 他方。
 ——ドサァッ!
 相変わらずヘリオンから落下してきたのは、日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)。
 この日も小檻に蹴落とされたのだが、その理由がまた酷い。
「後でたっぷり可愛がってあげるから良い子で待ってるんだよベイビー」
 などと、黒スーツやサングラスで無駄にキメて、似合わない戯言を吐いた所為だ。
 とはいえ、サングラスはフタバの隠し玉を懸念しての準備である。気休めにしかならなくてもかけたかったのだろう。
「……雉も鳴かずば射たれまいに……立つ鳥跡を濁さずって感じで、妙な欲を出さずに黙って去っていれば司令官殿の所へも戻れたかもしれないのにな……」
 ともあれ、すっくと起き上がった蒼眞は、何食わぬ顔をして斬霊刀を振るい、フタバの肩から胸にかけてばっさり斬り払った。
「ひぃぃぃ、人間を調理するってだけでもかなり恐怖ですが……ドラゴニアンの尻尾って珍味とかそういう認定されてませんよね!?」
 クロコ・ダイナスト(牙の折れし龍王・e00651)
 失くした右腕こそ今は地獄で補っているものの、敗戦のトラウマからか、とても臆病な性格になってしまったドラゴニアンの女性。
 その為、普段こそ大変大人しいクロコだが、気分が高まると竜派だった頃の武人然とした性格に戻ってしまうらしい。
「……そういえば、鯨は尾の身が美味しいらしいな……大抵よく動かす部位の肉は美味しいっていうけど……別に他意は無いぞ?」
「ひぃぃぃぃ!? い、いまだかつてないほど身の危険——特に尻尾——を感じる敵に出会ってしまいました……」
 だが、今は余程尻尾を食われまいか心配なのだろう、蒼眞にからかわれて本気で竦み上がっているクロコだ。
「え、えっと……わ、悪さはそこまでです、ダモクレスのシェフさん!」
 故に、フタバへ啖呵を切る声も可哀想なぐらい震えていた。
「貴方のやっていることは調理ではなくてただの虐殺です! 人間は……特にドラゴニアンの尻尾は美味しくないので今すぐやめましょう!」
 それでも地面にケルベロスチェインを展開する手際はいつも通りで、クロコはしっかり魔法陣を描き切って前衛陣を守護するのだった。
 さて。
「フハハハ……我が名は、世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスが大首領!!」
 大首・領(秘密結社オリュンポスの大首領・e05082)は、相変わらず威風堂々たる態度で名乗りを上げるや、
「ほう……我が想定通りようやく動き出したようだな……スチームシェフ・フタバよ!」
 さも、フタバの襲撃を予め判っていたふうな思わせぶりに振る舞っている。
「さあ、一般人諸君よ! ここは我らに任せて逃げるのだ! ……アンドロメダ、カシオペアさんにゴルゴン三姉妹よ、急ぎ彼らを護衛せよ!」
 それでも一般人へ逃げよと勧めたり幹部達を彼らへ張りつかせたりと、図らずも生来の優しさを発揮している領。
「お義父さ……大首領様の為、避難誘導の任、お任せ下さい!」
「大首領様、ここは私もご一緒に! ——え? 私は待機ですか? そんな~」
 素直に応じるアテナ達やカシオペアと違い、直接フタバと戦う気だったアンドロメダは残念そうな声を出すも、
「ですが、秘密結社オリュンポスの大幹部として実績を残さねばっ!」
 気を取り直して一般人の避難誘導に励みつつ、密かに何やら企むのだった。
「フハハハ……我が術中に嵌っていた事に気付かず、ノコノコ出てくるとはな!! 我が掌の上で、最後まで転がされるがいい!」
 領は領で戦鎚ヴァルカンを砲撃形態へと変化させ、竜砲弾を景気良く撃ち出してフタバの胴体に見事命中させた。
 その時。
「き、貴様、あの時の!!」
 フタバが領の姿を認めるなり、異様に動揺した反応を見せた。
「もはや貴様に遅れを取るかつてのワシではない!」
 そして、何故だか丸眼鏡の奥に憤怒の炎を燃やして断言すると、
「グラビティ・チェインを集めるついでじゃ! 貴様もあの世に送ってやろう!」
 右手のフライパンから大きな炎弾を連射してきた。
「危ない!」
 エヴァンジェリンがクロコを庇って燃え盛る炎に堪える傍ら、
(「あの時……あの時っていつだっけ。確かにコイツ見た事ある気はするんだが……」)
 領は火傷を必死に我慢する無表情の内で、自分の頼りない記憶と戦っていた。


「思い返せばダモクレスの中で大規模に動いていた奴らは意外に少なかったというか……こういってはなんですが、ギャグ調のものが多かったような……」
 丁寧な物言いながら、ダモクレスの所業を冷めた目で評するのはギルボーク。
 愛用の斬霊刀に空の霊力を宿すとフタバのずんぐりした身体へ新たな刀傷を刻みつけて、既に自分へ向けさせていた怒りを更に倍増させた。
「仁機風塵流、即興・BBQの太刀ってなぁ!」
 時枝は肘から先を内蔵モーターでドリルみたいに回転させ、機敏に加速してフタバへ肉薄。
 ズブリとドリルをそのむっくりした腹へ抉り刺して、高威力の一撃を見舞った。
「大丈夫ですか? 食べられたりしてませんよね!?」
 泣きそうな声になりつつもバトルオーラに意識を集中させるのはクロコ。
 溜まったオーラを領へ向けて一気に放出し、フライパンによる火傷を綺麗さっぱり治癒してみせた。
「さてはて、あのつるつる頭にはどんな秘密が隠されているのでしょうね~」
 明日香も領に薬液をぶっかけて、事態を面白おかしく見守る構えだ。
「……どうせなら美少女のダモクレスにおっぱいダイブをしたかったような気もするけど、まあフタバシリーズの方が遠慮無く攻撃出来ると考えればいいか……」
 蒼眞は口でこそ彼らしい煩悩塗れな発言をするも、フタバへ斬りつける太刀筋からは真剣な気迫が看て取れる。
 達人の域にまで到った一閃をフタバの太い脚へ繰り出して、あまりに卓越した刀捌きで奴を圧倒、文字通り凍りつかせた。
「うぐぐ……貴様、よくも毎回毎回ワシの邪魔をしてくれる……あの時の屈辱、決して忘れんぞ!」
 フタバは意識を蝕む怒りも身体に苦痛を齎す凍傷にも耐えて、領への抑えきれぬ感情をぶつけようと、コック帽を被った頭頂部を向けてきた。
 すると。
 パカッ——!
 コック帽がまるで花開く蕾のように6分割されて展開。
「うわ、眩しっ!?」
 帽子の内側は無駄に鏡張りされていて、領が顔を背ける程に中心部の禿頭の光量が増して見えた。グラビティが淡くない光を放っているのだ。
 だが、帽子を開いたフタバの意図は、目眩しなどでは無い。
 ハゲを際立たせるだけに見えた光が次々と緑の球体に具現化して、散弾銃の如き速度で襲いかかってきた。
「はっ……!!?」
 領は緑の光球に胴を貫かれながらも、頭にずっと巣食っていた靄が晴れる心地がした。
 スチームシェフ・フタバと以前会った気がする——そんなデジャブの正体をはっきりと思い出したのだ。
 あれは何処のスーパーだっただろうか、領は料理人の格好をしたレプリカントと商品を奪い合い、取っ組み合いの喧嘩にまでなった事がある。
「フハハハ……三流料理人めが……この海ぶどうは私が狙った獲物よ! さぁ、我が手に集え食材よ―!」
 ブチッ!?
「……あっ」
 そう。領はヒートアップする余り、狙っていた海ぶどうと間違えて、スチームシェフ・フタバの髪の毛を豪快に毟り取ってしまったのだ。
「フハハハハ! 無様だなスチームシェフ・フタバよ! 海ぶどうを我に奪われた悔しさから自分が海ぶどうになってしまうとはな!」
 全てを思い出した領だったが、あたかも最初から覚えていたかのように言い放ち、フタバの頭を念力で爆破してみせる。
 ——但し、自分がうっかり髪の毛毟った事実は伏せて。
「……海ぶどう?」
 エヴァンジェリンは、蒼い瞳を思わず見開き首を傾げてから、身軽に跳躍する。
 流星の煌めきと重力宿りし飛び蹴りがフタバの後頭部へ鮮やかに炸裂、その機動力を大きく削ぎ落とした。
「……やっぱり、髪の毛、無かったんですね……」
 と、フタバの頭から目を逸らしつつも、駆け戻ってきたニルスはアームドフォートの砲台を全てフタバに照準を合わせて、
「ともかく、料理を冒涜するその立ち振る舞い、正して差し上げますっ」
 無数のレーザーを一気に浴びせ掛け、赤熱フライパンごとフタバの右腕を焼き尽くした。
「メカのくせに毛根を気にするにゃ!」
 こまはフタバのコンプレックスを言葉の刃で切り裂いてから、更に斬霊刀を見舞う。
「グぐっ……」
 非物質化した刀身に斬りつけられ、フタバが霊体のみを汚染破壊された激痛に苦悶してのたうち回った。


 それでもフタバはしつこかった。
 巨大包丁の千六本や火力限界突破に加えて、コック帽からの海ぶどう乱射を満遍なく使いこなしてきた。
「あの光弾……何というか、育毛剤の噴射にも見えますね」
 ギルボークは海ぶどうから仲間を護るべく立ちはだかって、反撃とばかりに七天抜刀術・壱の太刀【血桜】を再び繰り出した。
「間違って貰っちゃ困るねぇ、こちとらキャベツじゃなくて三つ首犬様だってなぁ!」
 千六本を喰らった時枝も、反撃とばかりに武器を選ばぬという仁機風塵流・天剣【雷雄刀】に則って、リボルバーを連射する。
「右腕を失えど龍王と呼ばれし我が闘気に一片の衰え無きことをその身で味わうがいい!」
 クロコは地獄化した右腕に龍王の闘気の渦を纏わせ、力一杯フタバのツルツル頭を殴りつけた。
「貴様は間違っている! 味わい! そして括目せよ! 之が人々に圧倒的なパワーを与える真の料理だとなっ!」
 と、心を込めたバレンタインチョコレートをぎゅいんっと投擲するのは絶華。
「感じるか! ってあれ? ダモクレスでも駄目……か?」
 本人は攻撃のつもりじゃ無さそうだが、威力は充分だ。
「ランディの意志と力を今ここに! ……全てを斬れ……雷光烈斬牙……!」
 とある冒険者のような軽い身のこなしで飛び上がり、フタバとの距離を詰めるのは蒼眞。
 稲妻の闘気を篭めた斬霊刀で深々と斬りつけ、着地すると共にその丸みを帯びた背中を斬り裂いた。
「いざ毛根を灼滅にゃ! ……にゃ? にゃんか間違えたにゃ? けど気にしないにゃ!」
 こまは半透明の『御業』をけしかけて炎弾を撃たせ、フタバの頭を大火事にしている。
 残り少ない横の毛もこまの目論見通り、すぐに焼き尽くしてしまうだろう。
(「ダモクレスさんの地球侵攻……大きな戦いの兆し……嫌な感じなのです。でも、罪無き人達を守る為にも立ち向かわなくてはなりません」)
 ニルスは強い決意を固めてアームドフォートの主砲を一斉発射。
「そして、その先駆けとなるこの戦いにも……負ける訳には!」
 フタバへダメージと共に少なくない衝撃を与えて、その腕の全てを痺れさせた。
 トライザヴォーガーも激しいスピンを起こしてフタバへ突撃、分厚い脚部装甲を轢き潰した。
 フタバを鋭い視線で見据え、高速演算にて構造上の弱点を確認するのはエヴァンジェリン。
「これで……、仕舞いだッ!」
 強い気迫を込めて破鎧衝を繰り出し、フタバの下半身へ打撃を重ねた。
「つまりだ……貴様は、食材を料理する側ではなく、される側だったというわけだ!」
 領は、冥府に住まうとされる三つ首を持つ犬の化け物を冷気と共に召喚、スチームシェフ・フタバへけしかける。
「さぁ、受けるがいい……我が、オリュンポスの力をな!!」
 化け物は領の意思に忠実にフタバへと襲い掛かり、冥府の番犬に相応しい過剰演出も意識しながら、その巨体を捕らえ貪り喰らった。
 だが、領は知らない。
 領自身の手でフタバに格好良くトドメを刺させる為、あたかも彼の攻撃に見せかけて、幹部達が一斉攻撃していた事を。
 メティスが勇人疾風、イーリスが刃纏いし七色鳩、アテナが戦闘神ノ破城槌、カシオペアはT/Nereisを同時に放っていたのだ。
「さあ、この全武装一斉掃射、受けて下さいっ!」
 また、アンドロメダも皆と一緒に攻撃していたが。
「……あ。ま、まあ、一発なら誤射っていいますし、大丈夫ですよねっ!」
(「それに、事故に見せかければ、大首領の座を私のものに……」)
 内なる野望のせいか、見事に主砲を領へぶち当ててしまうのだった。
 こうして、スチームシェフ・フタバはケルベロス達の手で討ち取ったものの。
「……アンドロメダよ、腕を上げたな……ゲフッ」
 何故か引導を渡した張本人の領までが、骸の隣に転がる羽目となった。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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