甘辛く煮たところで虫は虫

■リプレイ

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　バス停に並んでいた人々の前に、飯釜から巨大な虫の体を生やした怪物は現れた。得体の知れない怪物を目の前にして、本能的な恐怖に支配され逃げ去る人々。
　騒然となるバス停の前に、気を失ったままの笹川は放置されてしまった。誰も助け起こしてはくれない状況に気づき、笹川の友人は怪物から距離をおいた場所で右往左往する。
　怪物は脇に転がっている笹川には注意を向けず、慌ただしく走り去る人影に狙いを定めた。細長い体から伸びた無数の足がうごめき、地を這う怪物は獲物を目指して進み出していく。しかし、進路上に飛び出す人影が怪物の行く手を阻んだ。
　先手を打つ神城・瑞樹（廻る辰星・e01250）は釜頭に向かって手の平を突き出す。軽く触れただけの相手に内部から何百倍もの衝撃を生み出し、怪物の体は大きくはね上がって動きを止めた。
　瑞樹の突撃を皮切りに、続々と押し寄せるケルベロスたち。戦闘を伴い純白の翼を現すオラトリオのグレッグ・ロックハート（泡沫夢幻・e23784）。その左腕は水のように流れる流体金属に覆われていき、戦鬼の拳を形作る。
「手出しするなら容赦はしない」
　冷徹に告げたグレッグは、動き出そうとする怪物に向けて迷いなく鋼の拳を突き放つ。巨体の横腹をえぐるように命中したが、転がり出しそうになる怪物はどうにかバランスを保つ。
　遠巻きに様子を窺う危機意識の薄い野次馬を一瞥したヒルダガルデ・ヴィッダー（弑逆のブリュンヒルデ・e00020）は言い放つ。
「いつまでもそこにいるなよ、怪我をしたくないだろう？」
　その瞬間にも立花・恵（カゼの如く・e01060）の銃撃が怪物を襲った。怪物は目の前の瑞樹を押し退けることでそれ以上の攻撃を回避しようとする。
　素早い挙動で宙へと踏み出したヒルダガルデは、『地獄化』された青く輝く右脚を振り上げ、勢い良く飛び蹴りを炸裂させる。衝撃を受けた怪物の体は花壇の上に投げ出され、公園の内側へと体を滑らせる。
　怪物を公園内へと追いやる者たちを後押ししようと、ディルティーノ・ラヴィヴィス（ブリキの王冠・e00046）は剣を構え、
「相手になってもらうよ、ついでにザザムシも味わわせてもうおうか」
　ディルティーノの意志によって光を放つのは、地上に刻まれた星座の輝き。普段のおっとりした性質とは異なるフラッタリー・フラッタラー（絶対平常フラフラさん・e00172）の『地獄化』された一面が光に照らし出される。金色の瞳を開眼したフラッタリーを含め、攻勢に出る者たちは星座の加護を身にまとい前進する。

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　巨大な剣を難なく振りさばくフラッタリーは、花壇を跳び越えて怪物の背中を踏み締め、同時に飯釜頭に向けて刃を振り下ろす。巨大な鉄塊の直撃により怪物の頭は打ち沈められ、地面は大きく砕けた。
　地面にめり込んだ釜のフタがガタガタと揺れ始めると、中から湯気と共に飛び出してくるものがあった。一斉に射出された白い塊のいくつかは地面に当たり、粉々に飛び散る。
　向かってくる白い塊を反射的に叩き落としたグレッグの如意棒の先には、白い飯粒がまとわりついていた。呪符を構えて一撃を放とうとした日御碕・鼎（楔石・e29369）は、熱々の握り飯をその身に受けながらも相手を狙う。怪物の飯釜は鋭い刃のように放たれた鼎の呪符を弾き、何ものも寄せ付けない勢いで巨体を突進させてくる。
　怪物の力任せの動きを余裕で振り切り、鼎は改めて腕に大量に付いた飯粒を見る。飯粒に混じって黒い粒のようなものが目につく。
「ザザムシ、でしたっけ。初めて見ました」
　黒い物体をより近くで見た鼎は、それが小さな虫の姿であることに気づいた。
「まあ！　なんて勿体ない……！」
　クララ・リンドヴァル（鉄錆魔女・e18856）は公園中に飯粒を散乱させる怪物に身構えていたが、握り飯の連続砲火が止んだところで、
「ええと、皆さんが機を逃さぬように、援護します……！」
　懐から取り出したスイッチからカチッという音を響かせる。
　グレッグが如意棒の両端を握りヌンチャクへと変形させたタイミングで、背後から巻き起こる爆風に包まれる。戦隊ヒーローのようなカラフルな爆煙の演出を背にした一陣は、怪物の巨体に攻撃を叩き込むことに専念する。並みの一撃では弾かれてしまう怪物の硬い外殻にも果敢に挑み、押し潰そうと迫る巨体も瞬時に回避する。
「ザザムシ、ありがたくいただくぜ。本体以外はなっ！」
　そう言う瑞樹は冷気を放つ竜巻を操り、怪物へと差し向ける。向かってくる怪物は竜巻を突き抜けて掻き消すが、その体には氷の膜が張り始め、見る見る内に分厚さを増していく。凍結し始める体には構わず、怪物は瑞樹の元へと突っ込んでくる。恵はその直前を狙って怪物を狙い撃つ。
　恵の銃撃に翻弄され、怪物は動きを止めたように見えたが、どこからともなく「パキャッ」という音が不自然に響く。例えるなら缶詰を開けるときのような音。
　追撃するタイミングを図っていた恵が頭上に現れた影に気づいた瞬間、目の前を黒いもので覆いつくされる。
「ひゃああああっ！？」
　思わず女子のように甲高い声をあげてしまう恵。
　不意打ちで現れたそれは、大量のザザムシの大和煮。頭上から中身をぶちまけた浮遊する缶は、恵の頭へと落ちて缶をかぶる形になり、同時に脳天を直撃する。
　頭への衝撃で一瞬ブラックアウトする恵の足元には、大量のザザムシが山になっている。一部の山が崩れ、ザザムシが雪崩になってヒルダガルデの足元へと押し寄せる。
「おい、ぐずぐずの群れを私の視界に放り込むな」
　ヒルダガルデがそうぼやく間にも、体の向きを反転させようとする怪物は攻撃にさらされる。虫の姿をしているとはいえ、相手はドリームイーター。俊敏に攻撃に反応する様は蛇のようでもある。

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　剣を構えるディルティーノは食欲を最大の原動力にして、怪物との戦いに臨む。しつこく食い下がるディルティーノに向けて、怪物は威かくするように釜のフタをガタガタと揺らす。それを握り飯が飛び出す前触れと捉え、ディルティーノは高らかに言った。
「さぁ来い！　今度こそ食べてや――ぶへっ！」
　目にも止まらぬ勢いで放たれた握り飯は、ディルティーノの顔面に直撃する。「あっつい、痛い！」と顔を押さえて悶えるディルティーノに対し、
「回復、するよ」
　冷静に状況を判断した鼎は呪符を操り、
「食べ物を粗末に扱うなんて、さ。悪い夢喰いだ」
　ディルティーノの元に結界を浮かび上がらせ、治癒の力を与える。
　一気に放射状に放たれた握り飯だが、フラッタリーは相手を上回るスピードを見せ、
「黒ヨリ暗kI焔ガ喰ワン」
　狂気じみた眼差しは苛烈な闘争心をむき出している。弾痕からほとばしる前頭葉の地獄が、フラッタリーの狂気性を加速させる。
　刃を接近させるフラッタリーに対し、怪物はその勢いを削ごうと大和煮缶を召喚する。頭からザザムシの黒いシャワーを浴びるフラッタリーだが、口に流れ込もうとお構いなしで大剣を振り上げ、落下しようとした缶すらもその拍子に弾き飛ばす。振り下ろされたフラッタリーの大剣が体にめり込んでいく怪物は、大剣の下でビチビチと身をよじる。
　怪物が満足に反撃できない様を見て、チャンスとばかりに山盛りになっているザザムシをつまみにいく姿がまばらにあった。
　甘じょっぱい味付けの中にほのかな苦味がぷちぷちと砕けていく。口の中に放り込んだザザムシの味を噛みしめながら、攻撃を仕掛けにいくヒルダガルデ。白い毛皮をまとう両手の縛霊手は、ヒルダガルデの獣の腕そのものに見えた。
　更にグレッグの追撃を受けて地面の上を一回転する怪物の体には、いつの間にか黒い影がまとわりつく。クララの足元に現れた魔法陣からわき出すように、クモの群れが波となって怪物へと押し寄せていた。全身を食い尽くそうとするクモの鋭いアゴが、怪物を蝕んでいく。
　怪物は身をよじって体からクモを落とそうとするが、クモの群れはサーッと引いていく。それが何を意味するのか、飛びかかるヒルダガルデの攻撃を受けて知ることとなる。
　怪物へ左右の縛霊手で殴りかかり地面へと押さえつける衝撃は、外殻に亀裂を作るほどのものだった。亀裂からは血の代わりに黒々とした無数のザザムシが飛び散るが、「おー、気色悪い」とつぶやくヒルダガルデは大した動揺を見せない。

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　ヒルダガルデの一撃を受けても怪物は暴れ続け、ヒルダガルデは巻き込まれるのを避けるため後退をよぎなくされる。しかし、確実にダメージを蓄積された怪物には衰えの兆しが見え始めた。恵はその動きを見逃さず行動に出る。
「こっちだ、よ」
　呪符の力を引き出す鼎は氷像の鬼武者を出現させ、怪物の注意を引きつける。その間に恵は怪物の背後へと回り込む。鼎の操る氷像とかち合う怪物の動きを慎重に見極める恵は、巨体に弾かれそうになる瞬間、怪物の真上へと跳躍する。真下に外殻の亀裂を捉え、高速の連射を放つ。高エネルギーの粒子が輝きを放ってほとばしり、亀裂に着弾した弾丸は火花のように散り散りになる。
　怪物は苦しみ悶えるようにけいれんする体を引きずり、体を丸めて攻撃に耐え抜こうとする。限界が近いことを意味するのか、怪物は防戦に徹する。
「見た目はともかく、味は悪くないね」
　むしゃむしゃとザザムシを味わうディルティーノ。その様子を虫類が苦手な恵は、引き気味に見ていた。当然ディルティーノからザザムシを勧められても「結構です！」と拒否を貫く。
「うう、見てるだけなら平気だけどさぁ……」
　ザザムシのシャワーを浴びたショックが抜け切らない恵に対し、ディルティーノは食欲のままに刃を翻し、
「本体は１番おいしいかもしれないね」
　グレッグは左腕に紅蓮の炎を宿し、『地獄化』の片鱗を引き出してみせると、
「加減はしてやれないからな……精々楽に死ねるよう祈る事だ」
「まあまあ、うまかったぞ。それは別として、そろそろ掃除をさせてくれ」
　縛霊手に青い炎をまとわせるヒルダガルデと共に、攻撃を繰り出す。
　連続する灼熱の攻撃に、炎の色が交わる。激しく火の粉が散る中で、怪物はやがてのた打ち回り続けるようになった。
「焼き加減はウェルダンがいいなぁ」
　完全に食材を見る口調のディルティーノは巨体にも怯まず、相手をスライスするつもりで果敢に刃を向ける。
「もっと火力を上げた方がいいんじゃないか？」
　そう言う瑞樹の周りには炎が吹き上がり、円を描いて宙へと集まる火柱は１つの炎弾となる。炎を操る瑞樹は怪物に向けて炎弾を放つが、怪物はウェルダンどころか木っ端みじんに吹き飛び、ついに最後のときを迎えた。その拍子に土ぼこりに混じって大量のザザムシが飛散し、再び悲鳴をあげる恵は誰よりも強い拒否反応を示した。
「それではー、お片づけとー参りましょうかー」
　すっかり普段のおっとりした様子に戻ったフラッタリーは、皆に被害状況の把握を促す。バス停付近にいた笹川の友人と共に笹川を保護し、ベンチに横たえる笹川の目覚めを待つ間、ヒールによる修繕を行う。
「笹川君が健やかに成長して欲しいとの、お婆様なりの親切心だったのでしょう……ね」
　目が覚めた後、少しでもザザムシに対する意識が変わることを願いながら、クララはつぶやいた。

作者：夏雨	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年2月3日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 1／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 4
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