パネェ攻性植物

作者:狐路ユッカ

●夜露死苦
 寂れた空き地でたむろする若者。見るからにガラの悪いしゃがみ方で、ずり下がったズボンからトランクスを覗かせ何やら大きな声でしゃべっている。
「や、アイツの腕やっべーよな、何食ったらあ~なるんだよ」
「っべーよな、ユウタ強くなったっつっても」
「あれじゃ一生女も出来ないんじゃね?」
 手を叩きながら、ギャハハと笑う3人組。その背後へ、ゆらりと背の高い男が現れた。
「……おい、俺が、どうしたって?」
 しゅるり、と彼の腕だった場所から伸びる触手が3人組の1人の首に巻き付く。
「ッヒ!」
「何度お前らの窮地を助けてやったか……わかんねえのか!」
 グッと力を込め、そのまま締め上げる。気絶した仲間を見て、残りの2人は恐怖に震え始めた。
「オラァ! こないだの御礼参り来てやったぞクソがぁ!」
 どこかから現れた敵対チームの4人組。腕からうねうねと触手を伸ばす男を見て息を詰まらせる。
「お、おいなんだよそいつ……!?」
 その後に聞こえたのは、彼らの断末魔。

●喧嘩にも限度ってものが
「茨城県かすみがうら市。この街では、最近若者のグループ同士の抗争事件が多発してるみたいっす」
 要するにおっかねえ兄ちゃんがたのド派手な喧嘩っすね、と黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は付け足した。
「ただの抗争事件なら、皆さんが関わる必要は無いんすけど、その中にデウスエクスである攻性植物の果実を体内に受け入れて異形化した奴がいるんっすよ」
 こめかみを抑えながら、ダンテはため息をつく。
「なんで自分が強くなったって勘違いしちゃうんすかね……。自分の悪口を言った仲間、そして敵対勢力、まとめて殺すって算段らしいっす。まあ、意識の根底を攻性植物にもう支配されちまってますから、一度怒りにまかせて暴れたら最後、全部殺す! ってなっちまうんでしょうね」
 とにかく、危険な奴になってしまったユウタを撃破してほしい。ダンテは頭を下げた。
「攻性植物になったユウタ以外は普通の人間なんで、脅威にはならないと思うッす。つか、あんなおっかねーもん見たらいくら粋がってても逃げてっちまうと思うんで……。ユウタが追いかけないとも限らないので、早いうちにユウタをやっつけてやってください」
 あそこまで侵食されたら、もうユウタは戻らない。死者が出る前に、一刻も早く、とダンテは真剣な眼差しをケルベロス達に向ける。
 ナズナ・ベルグリン(シャドウエルフのガンスリンガー・en0006) は、小さく頷き立ちあがった。
「偽りの強さに酔って、飲まれてしまった人……被害が出る前に私達で止めましょう」
 ダンテもその言葉に大きく頷く。
「攻性植物さえ撃破してしまえば、まあ、不良らは放置でも大丈夫っす。けど……あんまり目に余るなら多少の教育的指導をしてあげても良いっすよ。おまかせするっす!」


参加者
三条・翼(地球人の刀剣士・e00373)
加賀・マキナ(龍になった少女・e00837)
神楽・火鉈(シャドウエルフの鹵獲術士・e00982)
白咲・朝乃(キャストリンカー・e03561)
獺川・祭(カワウソのゲスコット芸人・e03826)
モンジュ・アカザネ(双刃・e04831)
宮永・瑠魅花(猫族魔法使い・e11971)
ジェイソン・マイヤーズ(元殺人鬼ブギーマン・e17160)

■リプレイ

●異形の男
 ケルベロス達が現場に辿りつくと、そこにはうねうねと右腕から触手を伸ばすユウタの姿があった。不良たちは驚き戦きながら後ずさっている。まずい、今すぐにでも襲い掛かりそうな殺気に、白咲・朝乃(キャストリンカー・e03561)が割って入った。
「貴方がユウタさんだね。良ければ私たちとケンカしませんか?」
 スッと背に不良たちを庇うように立ち、ユウタを煽る。
「あぁ!? なんだテメェ!」
 ユウタは相手が女でも構いはしないとばかりに朝乃を睨みつけた。
「俺はそっちの腰抜かしてるクソ野郎に用があるんだよ、どけ!」
 ユウタが彼女を突き飛ばして前に出ようとしたところで、更にモンジュ・アカザネ(双刃・e04831)が立ちはだかる。
「こいつぁ、燃やしても枯れなさそうだな。厄介な少年だ……」
 はぁ、とため息をついて背に庇った不良たちに逃げろ、と合図を送る。
 腰を抜かして動けなくなっている不良たちの腕を掴んで立たせると、馬鈴・サツマは戦線のケルベロス達に呼びかけた。
「この人たちの事は後はこっちに任せるっす!」
 同じように、他の不良に肩を貸しながら風峰・蒼弥、アリアリアム・リリアンティ、ナズナ・ベルグリン(シャドウエルフのガンスリンガー・en0006)達もその場から離れる。その隣で、神宮寺・琴奈が他の不良たちが集まってくることの無いよう殺界を形成した。
「気を付けてな!」
 三条・翼(地球人の刀剣士・e00373)に呼びかけられ、ナズナは一度だけ振り返りしっかりと頷く。
「彼は何処で攻性植物を得たんっすかね」
 不良の手を取り走りながらサツマは問う。
「わ、わかんねぇよそんなん!」
 とにかくキメェ! と震える不良に、力を望む者だけを誘き寄せるのだろうかとサツマは思案顔で首を傾げた。
「なんかよく分からんが、過ぎた力の行使はただの暴力だぜ」
 翼に呆れ顔で言われて、ユウタは顔を赤くして反論する。
「わかってらぁ、俺はな、俺をコケにしたこいつらをぶっ殺すまでおさまんねぇんだよ!」
 ぐい、と翼の肩を押してターゲットである不良たちのもとへ向かおうとユウタは目を光らせる。その時、彼の足もと目がけてガトリング連射が着弾した。少し離れたところから狙っていた加賀・マキナ(龍になった少女・e00837)による牽制だ。
「ッチ、誰だコラァ!」
「行かせないよ」
 マキナはユウタを見据え、ぽつりとつぶやく。
 ユウタの背後から朝乃が大きな声で挑発した。
「攻性植物に支配されて言葉も通じないんだね。弱虫じゃ草に食べられても仕方ないよ」
 私達と喧嘩しようって誘ってあげたのに。わざとらしくそういうと、くるりとユウタが振り返る。そこへ、追い打ちをかけるように獺川・祭(カワウソのゲスコット芸人・e03826)が殲剣の理を歌い、ディフェンダーとして前に躍り出る。ユウタの苛立ちがさらに募っていった。
「……っんだとコラァ! 上等だアァァ!」

●交戦
 ガッと朝乃の胸ぐらをまだ人間の手をした左手で掴む。それをやめさせるように、ジェイソン・マイヤーズ(元殺人鬼ブギーマン・e17160)がシャドウリッパーを繰り出す。
「……クッソ……!」
 ジェイソンのチェーンソー剣を避けるために朝乃から手を離し、ユウタは飛び退いた。
 皆で話し合った時に、もうユウタは救えないだろうという結論に達し、戸惑いがあったジェイソンだったが、今は迷っている暇はない。せめてユウタが苦しむ時間が短くて済むよう、心を鬼にして挑むしかないのだ。ジェイソンはグッと歯を食いしばり、ユウタを見据えた。
「ッんだ、テメエもやんのかアァ!」
 そこへ、神楽・火鉈(シャドウエルフの鹵獲術士・e00982)もディフェンダーである祭の隣に位置取ってシャドウリッパーを仕掛けに来た。
「そう、何度も同じ手にっ……かかるかっつーの!」
 どけろ、と叫びながら火鉈を突破しようとするユウタに、火鉈は両腕を広げて立ちふさがる。
「いかせませんよ」
「うぜぇ! 死ねぇええ!」
 ぐわっとユウタの左腕がハエトリ草のような形に変わり、火鉈に噛みつく。
「あぁあぁっ!」
 右肩に噛みつかれ毒を流し込まれた火鉈が呻いた。そのまま、その場に膝をつく彼女を鼻で笑うと、ユウタは走り出そうとする。そこへ、どこからか矢が飛んでくる。ウル・ユーダリル(狩人・e06870)の狙撃だ。カッと己の足もとに突き刺さった矢に、ユウタは歯ぎしりした。
「まだいやがんのかぁ!」
 その声にこたえる声は無い。がなり声を上げるユウタの前に、祭の指示を受けて十九箱・七四三号が飛び出ていく。そのまま武装具現化でユウタの足を狙い、その動きを足止めした。
「良い感じッスよ!」
 祭はグッと拳を握る。
 どこかから神崎・修一郎の応援する声が聞こえる。ユウタはもはや不良たちを追うことはしない。この、自分を止めようとする忌まわしいケルベロス達をのしてやる。その思いがざわりと彼の両腕の植物をざわめかせた。宮永・瑠魅花(猫族魔法使い・e11971)はその様子を見て切なげなため息を漏らす。
「既に面影すらもなくなりつつありますわね……哀れな姿ですわ」
 右腕の触手をうねらせ、左腕のハエトリ草をパクパク動かすユウタは、既に人ではなかった。目の前の彼に一体何が起こって、こうなってしまったのかはわからない。けれど、このように危険な思考を持って凶悪な行動に出るのであれば……。瑠魅花はキッと前を見据え、表情を変えた。
「どんな理由があったとしてもやってはいけないこともあるわ!」
 言いながら殺神ウイルスを放つ。ざん、と音を立てて彼の右触手の一部が切り落とされた。
「ッハハ……勝ったつもり……かよぉ?」
 ニタリと笑うユウタの右触手が、再生するかのように根元からにゅるりと伸びる。
「……ッ!」
 そして、近くにいた祭の腕に触手をからめてギリリと締め上げた。
「くっ……」
 己の右腕を締め上げる触手に眉を顰める祭。そこへ、朝乃のストラグルヴァインが伸びてきた。
「力って言うのは賢く使ってこそって教えてあげるよ」
 ユウタの胴体を、締め上げる。ユウタは慌てて祭に絡めていた触手を振りほどき、みじろぎした。
「クッソ、なにしやがっ……放せエェェ!」
 そこを狙い、翼が斬霊斬を叩きこむ。どさり、とハエトリ草状の右腕が落ちた。不良たちの避難誘導から戻ったセレナ・スフィード(薬局店員・e11574)が負傷している火鉈に気力溜めを、ナズナが祭に祝福の矢を施す。
「大丈夫ですか!?」
 その声に、傷を回復させた二人は振り返り頷いた。

●パネェ
 朝乃の触手を振りほどき、ユウタが怒りに震えながら地団太を踏む。
「畜生が! いい気になりやがってえェ!」
 まだ、今なら話が通じるかもしれないとわずかな望みをかけて桐生・神楽が叫ぶ。
「それは君の為になる力じゃない! 仲間を傷付ける事が君の望みなのかい? 君が苦しんでまでやりたかったことはそんなことじゃないだろう?」
「仲間だァ!? 知るか、俺の事を隠れてボロクソ言ってやがったこいつ等が仲間な訳あるか!!」
 殺す、全て殺すまでだ! と高らかに宣言し、ユウタは己の足をズズ……と徐々に地面と一体化させる。どうして、と言いかけた神楽の肩をそっと叩き、ナズナは小さく首を横に振った。
「哀しいですが……」
 来ます、とナズナは弓を構える。ケルベロス達は頷き、ユウタを見据えた。
 朝乃が軽やかにステップを踏みながら宣言する。
「溺れるほどの春を奏でてあげる!」
 フルートの音に乗せたハルホリックがユウタを包む。その音を打ち消す事が出来るはずもなく、ユウタは呻いた。
「援護するにゃ!」
 サポートに駆け付けていたミルディア・ディスティンが、続いて破鎧衝を撃ち込む。
「あああぁあっ! く、そ……!」
 ズ、ズズズ……。ついに、地面と完全に一体化したユウタが咆哮を上げる。ユウタを中心に、ユウタに攻撃を仕掛けていたケルベロス目がけて地面が沈み込むように波打った。
「……っきゃあぁぁ!」
 朝乃がバランスを崩してその場に頽れる。次に一撃お見舞いしてやろうと控えていたモンジュも、ぐらりと足もとを土に取られてよろめいた。ジェイソンがチェーンソー剣を地に突き刺して振動に耐えつつ、低く唸る。
「ッハハハハハハハ! 俺をコケにした報いと思え!」
 高笑いをするユウタ。祭はその隙を狙って語り始める。
「さぁさ聞いて仰天見て絶倒、本日の演目は世にも不思議なカワウソ語り。お代は笑顔と拍手で頂ければ幸いっスよ……!」
 それを聞くケルベロス達は徐々に活力を取り戻し、折った膝をもう一度立て直す。続いて、火鉈がステルスリーフを舞わせれば先刻の大打撃が嘘のように三人が立ち上がった。
 だん、と翼のフォートレスキャノンが火を噴く。
「報い? なんだって?」
「ひぎっ……」
 地上と一体化した足の一部を貫いた弾丸にユウタが悲鳴を上げた。
「(ケンカを売るならそっちも覚悟しろよ)」
 腹に据えてる覚悟が違うんだよ、と翼はユウタを睨みつける。ユウタのような覚悟の無い粋がり方は、響くものなんてない。
 ずい、と前方に躍り出てモンジュが旋刃脚をお見舞いすれば、ユウタは低く呻く。
「てめぇは、自分のしたことの報いを受けるんだな」
 怒りをあらわにした一撃を受け沈みそうになる体を、ユウタは必死にもたげて何か言おうと口をパクパクさせている。
 その後方から、ナズナのクイックドロウが撃ち込まれた。
「……正気に戻ることがないならば、せめて」
 安らかに。唇だけがそう動いた。
「ぅぐ、が……っ!」
 同じ方向から、マキナのミキシンググラビティが飛んでくる。抵抗する間もなく、ユウタはその触手をちぎり落とされた。追い打ちをかけるように瑠魅花が迫り、居合切りで残る触手をも切り落とす。
 ジェイソンは、既にボロボロになったユウタの息の根を止めるべく、両手に携えたチェーンソー剣を振るいスカーレットシザースを放った。生じた炎に焼かれながら、ユウタは力なく呟くしかなった。
「ち、きしょ……」
 ジェイソンは複雑な心境でその最期を見届ける。
「(彼ももう少し早ければあるいは……)」
 自分のように助かったかもしれない。……過ぎたことを考えすぎてもいけない。ジェイソンは軽く頭を振り、仲間達にお疲れ様です、と声をかけた。

●オイタはほどほどに
「よし……他に危険はないっスね」
 祭がふぅと息をつく。この荒れてしまった地面やら何やら、あとは不良たちが喰い散らかしていたものを片付けねばならない。が、ヒールはともかく不良どもの後片付けは……。
「自分で始末つけさせないとっスね」
「よし、じゃあ俺が呼んでくるぜ」
 翼がサッと走って不良たちを呼び戻しに行く。機理原・真理達も手伝って、ケルベロス達は崩壊した場所を確認しながらヒールをかけていった。
 不良たちはバツが悪そうにポイ捨てしたゴミを拾っている。
「真面目や理性って大事ですよね」
 朝乃は己の攻性植物をぱくぱくさせながらぷわぷわと共に不良たちへ笑いかけた。
「ヒッ……ハ、ハイ! そっすね!」
 攻性植物にすっかりビビりきっている不良はペコペコと朝乃に頭を下げる。
「ナズナさんもそう思わない?」
 傍らでヒールをかけているナズナにそう問いかけると、ナズナはこくりと頷いた。
「はい。……調子に乗り過ぎるとこういうことが起こるのでしょう、ね」
「ヒィ、すんません!」
 ペコペコと図体のデカい男子7人が縮こまる様はなんだか滑稽で、朝乃とナズナは顔を見合わせ小さく笑った。
 ――これに懲りたらきっとまた酷い事はしないよね、と。
「なんだかんだユウタには世話になってた様っスし、死ねばどんな奴でも仏様っスから。最後に手ぇ合わせる位しても罰は当たらないと思うっス」
 ほら、と祭はかつて仲間だった不良たちの背を押す。
 不良たちは、己の行いを反省して、頬をぽり、と掻いた。かつては友人だったユウタが自分たちのからかいの所為もあって、暴走して、ついには滅ぼされた。静かに、ユウタが消えた場所に向かって合掌する。
 ケルベロス達がヒールをかけている部分が、少しずつ様子を変えていくのがわかった。まるで、仲間の祈りに答えるように……かつては雑草が生い茂っていた場所に秋の花々が咲いていく。
「少しはユウタの鎮魂にもなるといいっスね……」
 ぽつり呟いた祭の言葉に、戦いを終えたケルベロス達は静かに静かに頷くのであった……。

作者:狐路ユッカ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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