機械化オペレーション

作者:鹿崎シーカー

 薄暗いホールの中を、白衣を着た男が歩いている。
 厚いじゅうたんに覆われた床に皮のくつを沈めながら、男はメスを片手でもてあそぶ。
「さあさ、みなさん。手術の時間がやってまいりました」
 優しそうな笑みを浮かべ、男はそう口にする。彼が見ているのは、ホールにずらりと並べられた手術台。そこに入院服を着せられた若者たちが拘束されていた。
 大きなヘルメットをかぶせられた彼らに、男はあくまでも優しく語りかける。
「ええ、心配することなどありません。院長たる私が直々に手術をするのです。すぐに、健康になりますよ。機械の体は、丈夫ですからね」
 院長はそう言うと、機械のベッドを作動させた。
「こんなことが許されると思うッ!?」
「貴石さん、落ち着いてほしいっす。まずは説明しないと」
 黒瀬・ダンテになだめられ、貴石・連(砂礫降る・e01343) はこほんとせき払いをした。
 とある病院の院長が、ダモクレスだという噂を聞いたようだ。
 ダモクレスは診察に来た人々を健康でも病気と診断し、手術と称してアンドロイドに改造するつもりらしい。
「予知もできましたし、間違いないっす。皆さんには、このダモクレスを撃破して患者さんたちを救ってあげてほしいっす」
 このダモクレスはアンドロイドで、チェーンソー剣を装備している。チェーンソー剣のグラビティはもちろんのこと、レプリカントのグラビティも使って戦うようだ。
 患者として捕われた人々は、広い部屋に機械のベッドに固定されている。その数は30人。ダモクレスは彼らを攻撃しないが、時間をかけすぎれば彼らはアンドロイドに改造されてしまうだろう。そうなる前に主犯であるダモクレスを倒し、患者たちを解放しなければならない。
 また、患者はホールの中央に並べられており、戦い方を工夫しなければ巻きこんでしまう可能性もある。
「あ、ちなみに院内には看護師さんとかがいるんで、解放した後は看護師たちに任せれば問題ないと思うっす」

「人をだました上にアンドロイドにしようなんて、絶対に許せないわ! この野望は、絶対阻止しなきゃ!」


参加者
貴石・連(砂礫降る・e01343)
眞山・弘幸(ドラゴニアンのブレイズキャリバー・e03070)
イピナ・ウィンテール(四代目ウィンテール家当主・e03513)
ソラネ・ハクアサウロ(暴竜突撃・e03737)
ミスラ・レンブラント(シャヘルの申し子・e03773)
シルヴィー・ノワール(レプリカントの鎧装騎兵・e06412)
クリスティーネ・ブラックロッジ(ライジングビート・e09202)
ヤマダ・タエコ(ボッチなアニソンロッカー・e11869)

■リプレイ

●手術中断
 スイッチに手をかけ、機械を作動させる。
 そうすれば、あとは患者たちがアンドロイドになるのを待つだけだ。
 従順なしもべが30体……院長はメスをもてあそびながら、その時を待つ。
 機械の駆動音を残し、静まりかえるホール。しかし、その静寂は、三分と続かなかった。
「そこまでよ、ダモクレス! あなたの陰謀もここでお仕舞い。ケルベロスがスクラップにしてあげに来たわ!」
 威勢のいい声とともに、ホールの扉が勢いよく開かれた。扉を蹴破るようにして飛び込んだのは、貴石・連(砂礫降る・e01343)。そのとなりには、ソラネ・ハクアサウロ(暴竜突撃・e03737)とミスラ・レンブラント(シャヘルの申し子・e03773)の姿。
「おやおや。これはこれは」
 唐突な乱入に、院長はメスをもてあそぶ手を止めた。
「かわいらしいお嬢さん方が来てくれたものです。お茶でも出したいところですが、今は手術中なのでね。お引き取り願えませんか」
「いらん。貴様の茶など飲む気も起きんわ。代わりに……」
 優しい笑顔とともに吐かれた言葉をつっぱね、ミスラは大きく踏み込んだ。
「この刃をくれてやる!」
 ミスラと連が共に走る。素早く距離をつめてくるふたりを前に、院長は両手にチェーンソーを出現させ……はたと気づく。
 結晶化した連の腕と地獄の炎をまとうミスラ。その背後にある扉から、侵入してくる影が五つ。
「改造なんかさせません! さあ、此方は任せて患者さんたちをお願いします!」
「救助が完了するまで、足止めをお願いします。気を付けて」
 ソラネに言葉を返すのは、オラトリオのイピナ・ウィンテール(四代目ウィンテール家当主・e03513)。さらに眞山・弘幸(ドラゴニアンのブレイズキャリバー・e03070)、シルヴィー・ノワール(レプリカントの鎧装騎兵・e06412)、クリスティーネ・ブラックロッジ(ライジングビート・e09202)、ヤマダ・タエコ(ボッチなアニソンロッカー・e11869)と続き、まっすぐに駆けていく。
 ……患者たちが拘束された、ベッドに向かって。
「……まさか」
 はめられたか? そう考える院長に向けて、砂礫の打突と旋刃脚が放たれた。

●やるべきこと
「手術中に乗り込んできて、院長に殴りかかり、挙句の果てに手術の邪魔までしてきますか……。頭に手術が必要ですね」
「結構ですっ!」
 ソラネが加速し、院長に激突する。
 チェーンソーをクロスして防ぐも、おさえきれずに大きく後退させられる。そうこうしているうちに、患者たちは次々に拘束を解かれていく。
 ばらばらと床に散らばるベッドのかけら。力づくで壊されるそれらを見ているうちに、こぶし、蹴り、斬撃と攻撃が降り注ぐ。
「この人達を巻き込みたくないのはそっちも同じでしょ? 離れて存分に戦いましょ!」
「そういうわけにも、いかないんですよっ」
 二本の刃を駆動させ、火花を散らして斬りかかる。チェーンソーの一撃はよけられ、防御されるも、打ちかかる三人を辛うじて押しのける。
 文字通り斬り開かれたスキマの先に、救助に専念する五人のケルベロスが見えた。狙いを定めた院長の胸部が音もなく変形していく。
「手くせの悪い患者には、愛のムチを!」
 開かれた胸部。のぞく発射口。そこから放出されたレーザーが、ベッドを解体していたタエコに迫る。
「タエコさん、後ろ!」
「後ろ……? う、うわぁっ!?」
 イピナの警告に、ヤマダが後ろを振り返った瞬間、すぐ目の前で閃光がはじけた。
 落雷のような激しい破裂音。しかし、ダメージはない。おそるおそる目を開くと、破壊したベッドを軽々と持ち上げる弘幸が、ヤマダたちをかばうようにして立っていた。
「焦んな。救助が終われば、後でいくらでも相手してやるからよ」
 そう言って、持っていたベッドをぽいと放る。レーザーにベッドを投げつけて相殺したのだが、どうやらうまくいったようだ。
 再び三人の猛攻にさらされる院長に背を向け、弘幸はヤマダを助け起こした。
「イケメンヒーローじゃなくおっさんで悪いな。続けるぞ」
「は、はいっ!」
 両頬をたたき、ヤマダは気合いを入れなおす。その間にもシルヴィーとクリスティーネはてきぱきとベッドを壊し、イピナは患者を抱えてライドキャリバーとともに連れ出していく。
 自らを部屋の奥へ奥へと追いやる少女たちの攻撃をいなしながら、院長はその様子をじっと見つめる。患者の数が次々に減っていき、残り十を数えたところで、院長の目を光が射抜いた。
「イピナさん! クリスティーネさん!」
「みなさんのおかげで、救助は順調です。ダモクレス、今より私たちの相手もしていただきましょう!」
「征伐の時間だ、でく人形。教育の時間だ」
 ソラネの声に、翼を広げたイピナと大鎌を持ったクリスティーネが応える。
 向かってくるケルベロス。手術を邪魔する不届き者。逃げる患者。
 それらを感情のない瞳で見つめ、院長はつぶやいた。
「……下らん」
 展開しっぱなしの発射口が、再び光輝きだす。破壊の力を持った無慈悲の光は、数秒と待たず直線となってふき出した。
 我先にと出口へ急ぐ、患者たちに向かって。
「なっ……!?」
 全員が目を見開く先で、ホールの床が爆発した。患者たちが悲鳴を上げて倒れ、ごろごろとじゅうたんの上を転がる。
「貴方、患者に何を!」
「何をお怒りになる」
 斬霊刀を構えるイピナに、院長は冷たく応じる。
「彼ら本人には当てていません。ただ、手術中に逃げようとする患者をいさめたのみ。なに、手術する傷が増えるだけです。なんの問題もない」
「テメーの利己を押し付けるなんざクソとしか言いようがねぇな」
「あなたたちに言われたくはありませんね。自分の都合で手術を邪魔する、あなたたちに」
 怒気を込めた弘幸の言葉にも、やれやれと首を振る。殺気立つケルベロスたちを前にして、余裕の態度はゆらがない。
「ま、これ以上お遊びにつきあうわけにもいきませんし、さしあたり」
 二本のチェーンソーを頭上にかかげ、院長はグリップを握りこんだ。
「手早く、始末させていただきましょうか」
 次の瞬間、ホール内に轟音がこだました。

●討つべき者
 火花を散らし、時にじゅうたんまでも燃やしながら、院長は剣を振り回した。
 耳がおかしくなりそうなほど大音量のモーター音をまき散らし、踊り狂う。
「さてさて。いかがなさいました、さっきまでの威勢は」
 院長の挑発すら、ケルベロスたちの耳には届かない。苦悶の声も患者の悲鳴もなにもかも飲み込んでチェーンソーは絶叫する。
 耳をふさぎたいが、それではまともに戦えない。かと言って、近距離であの音を聞かされれば、戦闘に集中することさえかなわない。おまけに仲間の声すらも聞こえない。
 救助班に向かって一直線に向かってくる院長。その矛先は、最後の患者を解放しようとする弘幸たちにむけられていた。
「ここから先は通しませんよ!」
 自分のチェーンソー剣を手に、ヤマダは院長の前に立ちはだかる。ヤマダの剣が、院長のそれとぶつかり、激しい火花と騒音を放つ。
 顔と剣がくっつきそうになるほど近くで、音が容赦なく耳を打つ。
 集中力を欠いた腕から、少しずつ力が失われていく。しかし、強引に押し込む院長の両腕を、シルヴィーの鎖が縛りあげた。
「……」
 シルヴィーは鎖を引くが、院長はびくともしない。
 むしろ、その勢いすら利用してヤマダを後方へと捨て去った。
 腕を縛られたまま、院長は走る。
「さて、色々としてやられましたが……ひとまず、その患者から離れていただきましょうか!」
 モーター音にかき消されながらも、院長は叫んだ。縛られたままでも十分だと言わんばかりに、チェーンソーを突き出す。いまだ作業中の、弘幸の背中に向けて…………
 ゴスッ。
「はい?」
 鈍い音が、はっきりと聞こえた。
 全ての音が追いやられた世界にあって、院長は自分の体内で鳴った音を聞いた。
 腹部を見下ろせば、そこには地獄の炎と化した左足が深々と埋まっていた。
「やれやれ。改造されかかった患者を助けるために、自分が改造されるとはな。なんにしても静かになったぜ、シルヴィー」
「いいえ。体を作り替えるのが良いと思ったまでです」
「いい判断だ。これで……」
 呆然とする院長から、弘幸は左足を引き抜いた。
「ヤブ医者の医師免許を、剥奪できる。避けられるもんなら避けてみな」
 零距離から、渾身の蹴りが放たれた。
 炎の足は院長を空高く吹き飛ばす。両腕をつるされたような格好で、院長は宙を舞った。
 チェーンソーにかけられていた指がゆるみ、騒音が少し遠ざかる。そのスキを見逃さず、ソラネは腕を高速回転させながら跳躍。再び翼を広げたイピナもそれに続いて飛び立った。
「いい加減……やかましいんです!」
「まったくの同感です!」
 院長の背中にソラネのアームが打ち込まれ、光の剣が腕を断つ。
 鎖でまとめられた両腕はシルヴィーの光線を受け、虚空で爆発する。
 ばかな、とつぶやく頭部をつかみ、ソラネは問いかける。
「倒れる前にひとつ。恐竜型のダモクレスをご存知ありませんか?」
 倒れる前に。その一言に、院長の目がくわっと開いた。
「倒れるのはあなたたちの方です!」
 叫ぶと同時に、院長の腕や背中から無数のミサイルが飛び出した。
 小型のミサイルがホール中を駆け回り、小さな炎を咲かせる。
「私の手術を台無しにして、ただではすみませんよ。あなたたちは所詮貧弱なモルモット、我々に飼われているのがお似合いなのです!」
 無数のミサイルをばらまきながら、院長は吠えた。感情なきダモクレスの、慈悲なき攻撃は空飛ぶふたりを後退させ、さらに広がっていく。だが、それらは全て、炎をまとった物体にたたき落とされた。
「確かにな」
 地獄の炎とともに舞いながら、ミスラは言う。
「確かに、私たちは決して勇者と呼べるような立派な人物でもない。お前を倒すのに八人必要な、弱い存在なのかもしれない。だが」
 剣とスライムにはたかれ、ミサイルが宙で消え失せる。見れば、患者の方に飛んだものもまた、仲間たちによって撃ち落とされていく。
「私たちの命も、そしてこの患者たちの命も! 貴様にくれてやるほど安くはない!」
 最後の一機が斬られ、火球となって消え失せた。荒れ狂う炎と煙の裏側から、白く、聖なる光があふれだす。
「こんなものでいいか、連」
「ええ。十分よ」
 短く答え、連は光輝く聖なる左手を持ち上げる。ゆっくりと落下を始めた院長の体が、ぐんと引き寄せられた。つかんだダモクレスに、連は漆黒の右手を強く握り。
「さあ、粉々にぶっ壊れなさい!」
 気勢とともに振り下ろす。
 轟音と衝撃が、病院を震わせた。

●守るべきもの
「あれ、結局なんだったの?」
「あれ、とは」
 患者をヒールするシルヴィーの隣で、クリスティーネはあれだよ、と言う。
「ほら、弘幸さんがうるさいの平気だった、あれ」
「あのチェーンソーの音だけ聞こえなくなるように、弘幸さんの鼓膜をリシェイプしました。時間がなかったので、あのチェーンソー限定になりますが」
 また、他方。
「病気の方はいませんか? いえ、大した手間じゃないですから、気にしないでください」
「綺麗な看護師さんっていうのも、憧れちゃいますね♪」
 ソラネが車いすを運び、連は病人を見かけては飛んでいく。さらに別所では、看護師に礼を言う弘幸とケルベロスカードを渡すイピナの姿が。
 これでいい、とミスラは思う。
 自分達は決して勇者と呼べるような立派な人物でもない、一人の人間だ。しかし、それでも人々を護る為には勇気を持って矢面に立てる。それが自分たちなのだと。
 ヤマダのギターをBGMに、時間は過ぎていく。
 願わくば、守るべきもののために、強くあらんことを。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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