節分前夜に鬼が来る

作者:森下映

「じゃあ、オニさんがきたら、みんなで豆をまきましょうね〜!」
 メグミせんせいがいった。すると、
「ばあー! オニだぞー!」
 わ、なおちゃんがないちゃった。けど、ぼくはしってるからヘイキ。あれはヨシオせんせいがおめんをつけてるだけなんだよ。もってるカナボウも、せんせいたちでつくったんだよね。
「さあ、いくよー! オニはーそと! ふくはーうち!」
「「オニはーそと! ふくはーうち!」」
 でもまめまきってたのしい。にげるオニさんにぶつけるのはなんかかわいそうだけど……あれ?
「オーニーダーゾオオオオオオオオ――オオオオオオ」
 とつぜんヨシオせんせいがおおきくなった。おへやのテンジョウにとどきそうなくらいに。
「ヨイコモーーワルイーーコモーーーーー」
「きゃあああああっ!」
「オトナモーーーー」
 ヨシオせんせいが、かなぼうでメグミせんせいをなぐりつける。血がいっぱいながれて、メグミせんせいはうごかなくなった。
 でも、ヨシオせんせいはとまらない。ナオちゃんも、タカヨシくんも、ユウコちゃんも、みんなみんな、
「ヨイコーーーーモーーー」
 おめんじゃなくて、ホンモノのオニになってたヨシオせんせいの、きんいろのめが、ぼくを、ギロリとにらんで、そして、

「うわああああああああっ!」
 ベッドで少年が飛び起きた。
「なんだ、ゆめだったんだ……あっ」
 ほっとしたのも束の間。少年の心臓は大きな鍵で一突きにされ、彼はばったりとベッドへ倒れ伏してしまう。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 そう言った第三の魔女、ケリュネイアの隣、エプロンに『ヨシオ』とかかれた名札をつけ、鬼のお面をかぶった保育士風の男性が、不気味な雰囲気を漂わせながら立っていた。

「びっくりする夢を見た子どもが、ドリームイーターに襲われ、その『驚き』を奪われてしまう事件が起きてしまいました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が言った。
「明日は節分です。被害者の男の子は、保育園で行われる豆まきを楽しみにしていたようですね」
「で、その子の目を覚ますには?」
 ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)がたずねる。言い方はよく言えば端的、悪く言えばぶっきらぼうだが、彼は何よりも少年の安否が気になるのだ。
 セリカはルースの方を向き、
「このドリームイーターを倒すことができれば、『驚き』を奪われてしまった子どもも目を覚ますでしょう。怪我もありません」

 ドリームイーターは、被害者の少年の家周辺を徘徊している。とにかく相手を驚かせたくてしかたがないようなので、少年の家付近を歩いていれば、向こうからやってきて、驚かせようとしてくるだろう。
 出現するドリームイーターは1体。鬼の面をつけた地球人の男性の姿をしているが、誰かと遭遇すると体長3メートルはある『鬼』になる。
「住宅街での戦闘となりますが、夜中ですので、人払いは最小限で大丈夫かと思います」
 また、ドリームイーターは『自分の驚きが通じなかった相手』つまり鬼になっても『驚かなかったケルベロス』を優先的に狙ってくる。この性質をうまく利用できれば、有利に戦えるかもしれない。

「被害にあった男の子が再び目を覚ませるよう、ドリームイーターを倒して事件を解決して下さい。どうか、よろしくお願いします」


参加者
花道・リリ(合成の誤謬・e00200)
リィ・ディドルディドル(悪の嚢・e03674)
ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)
茶野・市松(ワズライ・e12278)
クララ・リンドヴァル(鉄錆魔女・e18856)
ルチル・アルコル(天の瞳・e33675)
柔・宇佐子(ナインチェプラウス・e33881)

■リプレイ


「子どものくせにえげつない夢だこと」
 首元の金色は誰かのめじるし。まあこんな世の中では仕方ないわねと花道・リリ(合成の誤謬・e00200)が言った。
「……節分は本当に、子供達に人気のイベントなのですね」
 クララ・リンドヴァル(鉄錆魔女・e18856)が静かな声で言う。先生だとわかっていても、鬼は鬼。
「願わくば、この行事がこれからも続いて欲しいものです……」
「そういえば、季節の変わり目には鬼が出やすいらしい。子どもも寝込んだ、まるで風邪だな」
 所々金に抜けたような灰青の髪はゆるやかに。細い体に不釣り合いな黄金の鎧を両腕と両脚のみに装着し、その腕をだるーんと下げてガシガシ歩く。ルチル・アルコル(天の瞳・e33675)。
「あら、ルチルさんものしりなのよ」
 うさ耳ふわふわ、柔・宇佐子(ナインチェプラウス・e33881)。
「検索したら書いてあった」
「けんさくって、なんでもわかるのねえ」
「うむ……ネットの情報を何でも鵜呑みにするのは勧められぬがな」
 陣笠に、今日は襟巻も。ガイスト・リントヴルム(宵藍・e00822)が付け加え、
「風邪と云えば、熱はその後どうだ」
 ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)を気遣う。宇佐子も、
「そうだったのよ、医者のふようじょう、だったのよね」
「ヤブ医者の不養生な」
 クククと笑えば、くすんだ青の長い髪を結う紐の、朱蒼二色の蜻蛉玉が揺れた。茶野・市松(ワズライ・e12278)。しめ縄リングの鈴ちりん、ウイングキャットのつゆがにゃあとたしなめる。
「平熱だ」
 と本人は言うが、解熱タブレット持参。
「下がったなら良いわ。あとせっかくだから持ってきたわよ」
 リリが豆を出した。
「あまり美味しそうではないけれど」
「あたしもパパに頼んで買ってもらったのだわ」
 宇佐子も言い、ガイストも、
「我は寺で清めてもらった豆を。美味いしご利益もあることだろう」
「あの……」
 クララが辺りを見回しながら言った。
「ええと、何か聞こえるのですが……」
 言われてみれば確かに、
 ――ポリ……ポリポリ……ポリ……。
「豆、おいしい……」
「きゃっ、」
 クララが驚き、ルチルのミミック、ルービィもぴゃっと隠れる。
「大丈夫よ、ただのリィだから」
 リリが言った。何しろはらぺこが通常、リィ・ディドルディドル(悪の嚢・e03674)がこの機会を逃すはずはなかった。銀のスプーンを抱え、使い魔ドラゴンのイドもぱたぱたついてきている。
「今のはあたしもびっくりしたのだわ」
 と宇佐子は両手をもふっと握り、
「でも鬼はこわくないのよ! おどかされたって、」
「ばあー!」
「きゃあぁー」
 曲がり角の出会い頭にばったり。
「あらやだ怖ぁい」
 リリも驚いて、ぴょんと後退。とみせかけ豆を握ると、
「私はこの日のために肩をつくってきた……!」
 天虫織の袂翻る見事なフォームで豆を投げつけた。
「あの、こんな感じでしょうか」
 クララは目を瞑って豆をまく。ぱっぱっぱっと大鍋に材料を放り込んでいるような慣れた手つきに、今にも何か召喚されそうだ。
「鬼はー」
 ルチルも修復中の肘下を縛霊手で持ち上げ、
「外ー」
「痛あーっ!」
「ん、加減して撒けた」
「景気づけだー! 鬼はー外っ!」
 市松がまけば、にゃおー! とつゆも前足で豆を投げた。
「鬼がでたのよ! 鬼はそと、鬼はそとなのよ!」
 宇佐子も大袈裟に叫びながら、バンバンぶつける。ガイストは、頭を抱えて座り込んでしまった男に近寄り、
「すまぬ、皆、強くぶつけすぎたかもしれぬ。痛」
「そんな所にいると巻き込まれるぞ」
 既に巻き込まれた後にルースが言った。
「豆は結構痛いと聞いていたが真であるな。痛」
 と、その時。
「なーんちゃって」
 男が振り向き、
「オーニーダーゾオ――」
 巨大な鬼になった。ルービィが尻餅、キューブに冷や汗。
「わっ」
 ルチルは驚いたふり、
(「アブね、驚く所だったぜ」)
 市松とつゆはなんとか我慢。
「こわいのよ、おどろいたのよ」
 宇佐子はしっぽフリフリ、背中を向けてぷるぷる。さすがあざとい。鬼はぐるりと見回し、
「オーマーエー」
 ガイストを金棒で指すと、
「オドロイテーナイーー」
「いや驚いておるぞ。此の顔故わかりにくいとは思うが……」
 竜派なので仕方ない。ガイストは考え、
「『おおう、驚いた!』」
 言い直し、痛くないよう加減して豆を投げた。一方ルースは、
「ああ、吃驚した。とても」
 棒読み。
「アヤーシイー」
「ほれ証拠だ」
 ルースは鬼に豆をぶつけ、ついでに摘む。
「美味い。高級大豆なだけある」
「聞き捨てならないわね」
 リィがやってきた。
「自分のを食え」
「もうなくなるし。高級じゃないし」
「……アーノー」
「うるさい」
 リィが振り向く。
「大体それで脅かしているつもり? つまらないわね。ルースの飼ってる病魔の方がよっぽどグロテスクよ。あ、ルース豆しまわないで」
「……。ヨ、ヨシーオマエーカラー」
「えいっ」
「イタ」
「えいっ、えいっ」
「イテ、イテ」
 いまだクララの豆が容赦なく鬼を襲う!
「リンドヴァル」
 リリが軽くケープを引っ張った。と、
「きゃっ!」
 それに驚いて目を開けるクララ。
「え? ……きゃっ……!」
 両手で口元をおさえた瞬間、豆が落ち、
「あ、勿体無い」
「あの……まだありますから」
 拾おうとしたリィにクララは予備の豆を渡す。と、
「強くなる豆だ。食っとけ」
 ルースは指で摘んでリリの唇に押し付けた。
「胡散臭……」
「何か言ったか」
「いえ何でも、」
 開いた僅かな隙間から、ルースが指先ごと『総合劇薬』をリリの口へ押し込む。と、
「イテ」
 ルースの指を噛んでから薬を飲み込んだリリは、
「甘くて美味しいわ」
「ラムネ味だ」
 ルースは親指を意図なくぺろりと舐める。すると見ていたリィ、
「何を食べてるの? 合法なんとかってやつかしら」
「食い物じゃない」
「リリが美味しいって言ったわ」
「なにかおいしいものがあるの?」
「ラムネ? オレも喰いてぇ!」
「気になる」
 宇佐子に市松、ルチルも群がり、
「お前らは鳩か。もう1度言うがこれは食い物ではない。薬だ」
「サプリメントよね」
 リリが言った。
「……とにかくお前らは後だ後」
 ルースが追い払うと、
「仕方ねーな、じゃあ何を隠そう駄菓子屋稼業のオレから、一丁派手に売り込もうじゃねぇの」
 市松が袂に手を入れ取り出したものは、
「今日のオススメはこちらのカリカリラーメン! 噛めばどんな小さな的でも射貫く事ができるようになるって代物だい! ほれほれ、試しに食ってあの的を射貫いてみない!」
 戦場商売駄菓子屋繁盛。つゆが羽ばたきながら、市松の耳に内緒話。
「は? 普通のラーメンが良い? んじゃお湯を入れりゃあ良いだろ! さあさあ、噛み砕け泥棒! 『カリッと噛み砕け!』」
 仕込みも万全。ばらまかれたラーメンをつゆとリィは直接カリッ、イドはスプーンにのったものをカリッ。ガイストはきょろきょろ、
「あの、ここに……」
 クララが指差すと、
「嗚呼、かたじけない」
 陣笠にのっていたラーメンを取って、カリッ。
「あたしも食べてみたいのだわ」
「るるも興味がある」
 宇佐子とルチルがいい、ルービィもフタをぱくぱく。
「んじゃこれも後で、」
 市松が答えると、
「オーマーエーターチー」
 はっ。
「オードーローイーテーナーイー」
「そんなことないわよ。怖ぁい」
「るるは驚いた」
「甚く驚いている。先程も申したが我は此の顔故、」
「あの、驚きました……」
「よかったらもう1回びっくりのポーズするのよ」
「あーわかったわかった」
 アピールを始めた面々をルースが黙らせ、
「驚いた奴手を挙げろ。……よし、いいか。つまりお前が狙うべきはコ、イ、ツ、ら、だ」
 手を挙げていない市松、つゆ、リィ、イドを順に指差し、鬼に説明。
「ヤブ医者に言われるとヤな感じだが、そうだ」
 市松が言った。
「ちなみに此奴は挙げている。よって違う」
 中途半端な挙げ具合のルチルを補足すると、藍色の瞳がちろ、と上目にルースを見返す。
「ワーカーター」
 鬼が頷いた。
「では……鬼退治、開始です」
 途端、色とりどりの爆発。爆風はスイッチを押したクララ自身も包み、彼女は帽子が飛ばされないようぎゅっとつかむ。
「綺麗ねえ」
 リリが言い、
「テンション上がってきたのだわ!」
 宇佐子とルービィがぴょん。
 そう、戦いはこれからだった。


 ヒュン! とリリの投げたバールが飛ぶ。
「ウオオー」
 バールが眉間にぶち当たり、鬼は後ろへ反り返った。
「ユールーサーンー」
「よっしゃ、来い!」
 市松は突進してくる鬼に、喰い気味に迫る。
「ガーー!」
 ガキン! と火花が散った。振り下ろされた金棒を、市松がブレードで蹴り止めたのだ。そして、
「隙だらけであるぞ」
 回り込んでいたガイストが、ガントレットの指先1つで気脈を断つ。ガイストは動きの止まった鬼の間合いから抜けつつ、
「皆、撒いた豆で足を滑らせぬよう……遅かったか」
 つるっとルービィがまた尻餅。構わずルチルはぶらんと両腕を下げたまま鬼を『直視』する。
「『泥沼の安寧、融け落ちて、沈む快楽に耽るがいい。』」
 機械少女の人工的な幻視の魔眼。斯くも甘き堕落の園――トキシック・メルトダウン。鬼の目には『猛烈な虚脱感と多幸感に襲われる空間』の映像が焼き付けられる。筈だが、
(「夢喰い共に魔眼が通じるならいいが」)
「鬼の目があっちこっちいっちゃってるのよ!」
「ヨダレ垂らしてる」
 宇佐子とリィが言った。通じたようだ。
 ルービィも、吐き出したエクトプラズムから主人の物に似た具足を作り出すと、両手に持ってエイとぶつける。そして市松へは宇佐子が傷を癒すオーラを送り、
「真の自由か……」
「にゃ?!」
 遠い目をする市松に焦るつゆ。わたわたするつゆも可愛いけれど可哀想、と、
「茶野」
 リリが呼ぶ。
「ジョブレスといえば聞こえはいいけれど、要は無職よ」
 はっ。
「危ねぇ、無職の誘惑怖ぇ……ってキモ!」
 うぞうぞと黒いものが寄ってきていることに気づき、市松が飛び上がった。
「失礼ね。回復よ」
 リィが言う。
「回復……? あっ! オレ超元気だから! ほら!」
 シュシュと市松、つゆとシャドーボクシング。
「そう? ならあっちに行って」
 リィの指示にうぞうぞは方向を変えた。市松にはそっとイドが属性をインストール。そして、
「ウウ、オ、オオ、」
 事実何であれどうであれ、鬼にたかる姿は黒い蛆。その言葉が正しいのかもわからない。が、とにかく、蛆が去った後の鬼の姿は喰い荒らされたそれだった。

● 
「もっと踏み込んで来い。鬼の名が泣くぞ」
 ガイストが鼻で笑う。
「ナーニーオー」
 ドスンドスンと鬼がガイストに向かった。待ち構えるは光り輝く左手。ガイストは自分の背丈の倍はある鬼の前で飛び上がり、ガシリとその首を掴むと、闇纏う右手で重い一撃を喰らわせる。
「グーーアアアー」
 鬼は前へのめるが金棒を支えにギロリと前を見た。だたルースがついと向けたcaseG-Netzachから迸った雷と、
「るるもこれだけは得意だ」
 ルチルが一斉に発射したアームドフォートの砲撃に、鬼は立ち上がることができない。そして、
「『完全制御は無理ですが、まぁ、それも面白いでしょう』」
 だから試すのは1度だけ。魔力がクララのケープと灰色の髪を舞い上げて、紅の軌跡が魔法陣を描き出した。
「今晩のおかずはオーガビーンズですよ」 
 魔法陣から解き放たれたのは蜘蛛集うコロニー。
「ウ、ギアアーーーー」
 恐れ知らぬ黒い波が鬼を覆い尽くし、蹂躙する貪婪な食欲で鬼の皮膚を食い千切り、嵐のように住処へ戻っていった。蜘蛛群召喚――サモンスウォーム。
「グーーオオオオオオオーーーー!」
「喧しい」
 雄叫びにリリが眉を顰める。
「近所迷惑よ、お黙りなさい。『この世の何より優しい夢を』」
 唱えれば天使の翼が白い羽根を零し、ここは水面。霊雨集いて水精と成る。
「『水の女は微笑み湛え、這って絡んでお前に縋る』」
 鬼を閉じ込める冷たい閨。詠い奏でる子守の挽歌、
「『永遠無窮に捧げられん』」
 魂の解――オンディーヌ。びしょりと濡れた鬼が取り残された。
 鬼は相当な体力を有していた。だが妙に連携の良い相手であったが不運か。
「あの……大丈夫ですか?」
 クララの薬液の雨を沁みず痛まず優しく癒し、宇佐子は盾役を無職へ誘う。イドも庇いの傍らせっせと回復。ルチルは自分の役目と援護に徹し、ルービィも準じて駆け回る。
 鬼が猛烈にまいた豆は、リィが放ったオーラで相殺。逃さず市松が炎を蹴り放った。そして、
「『ほーくす、ぽーくす、ぱーく!』」
 宇佐子ちゃんが『まほう』をとなえると、なんかよくわからないエネルギーだんがてきのほうへ、ぶっとんでいきました。
 続くよくわからない爆発に、ゲホゲホ鬼がよろけた真後ろ、DAAthの加速でルースが跳び上がる。
 鬼に金棒、医者に釘バット。両手で握ったそれをフルスイング。ガシュ! と釘が肉を抉り勢い飛ばす音がして、
「どっちが鬼かわかんねぇな」
「鬼より鬼畜よ」
 市松とリリが言う。
「『――推して参る』」
 鬼の真正面にはガイスト。被ったままの陣笠は余裕の証拠。蒼光の太刀振るわれて、生まれ出るは翔龍。輝く龍が闇を割く。
「『けして、けして、逃れ得ぬ』」
「グーーアアアアーーー」
 無龍『夜行』。鋭い爪と牙が鬼の喉首を食いちぎり斬り捨てた。皮1枚、鬼の頭が垂れたかと思うとごとりと落ち、続き全てが霧散していく。
(「少しは、厄除けになったでしょうか」)
 クララが外した長手袋をふわりと、その跡へ落とした。
「でも、やっぱり、鬼は実在しない方が良いですね」
 ガイストも一息、
「みな、お疲れだ」
「状況終了、厄除けも終わり。子供もこれで目を覚ますか。と、豆は片づけていかないのか?」
 ルチルがたずねると、
「鳥のブレックファストだ」
 ルースが言う。リィはしゃがみこみ、
「やっぱり勿体無いかも。マメーギャザとかあればいいのに……」
「それよりいい加減蛆しまえ蛆!」
 うぞうぞを避けながら市松が言った。ガイストは豆をリィに分け、
「これも酒のつまみにならぬ事もないが、年の数だけ食すのは大変だ」 
「あたしは6つじゃ少ないからもっと食べるのよ」
 宇佐子はぼりぼり。ガイストは襟巻をまきなおし、
「寒い中の仕事であったな。酒でもひっかけて帰ろうと思う」
「じゃあリィはワインでも飲むわね」
「其れは……もう少し時を待たねばな」
「俺もビールが飲みたい」
 取り出した煙草をルースが咥えれば、つゆを構っていたリリが気づいてライターに火を点けた。月明かりの下影が重なって、煙草の先に火が移る。
「これだけでかい鬼に豆を撒けたのだから、今年は安泰よね」
 吐かれた煙と逆へ視線を動かし、リリが言った。
「とっとと帰って酒飲んで寝ましょ」
 今夜も2人、暇潰し。

作者:森下映 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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