刈り取られるものは

作者:六月青

 秋は収穫の季節だ。
 実りの秋。食欲の秋。夕暮れの寂しさは胸に迫るものがあるけれど、それだとて仲間と騒いでいれば気にはならない。
「おう、今日飲みに行こうぜ!」
「いいねえ! いつもの店、いい魚入ったって言ってたよ!」
「うちさぁ、先週、子供に頼まれてミカン狩りに行ってさぁ……」
「ああ、ここから近いところだろ? あそこのミカン、美味いよなぁ……」
 終業時刻を過ぎたオフィス街、落ちかけた太陽に照らされて、開放感に満ちあふれたビジネスマンたちが笑いさざめいている、そのただなかに。
 突如として巨大な牙が突き刺さると、それは見る間に鎧兜をまとった三体の骨の化け物へと姿を変えた。
「な、なななんだ!? ば、化け物!!」
「た、助けてくれぇ!!」
 悲鳴を上げ逃げ惑うサラリーマンたちを、骨の化け物は容赦なく、手に持つ剣で斬り殺していく。
「オマエたちの……グラビティ・チェインを、ヨコセ!」
 噴き出す血と、吹き飛ぶ四肢。
 阿鼻叫喚のるつぼとなったオフィス街に、化け物の哄笑だけが響いていく……。
「実りの秋に畑で竜牙兵を収穫、なんていうんなら、趣味悪いわよねぇ」
 呆れたようなカナネ・カナタ(やりたい砲台の固定放題・e01955)の声に、ヘリオライダーの黒瀬・ダンテは顔をしかめる。
「帰宅時刻のオフィス街は、サラリーマンだらけっすからね。連中にとっちゃ、グラビティ・チェインの畑みたいな位置づけなんでしょう」
 カナネの聞いた噂を元にダンテが予知した内容は、三浦半島の南側にあるオフィス街に竜牙兵が出現するというものだった。
「状況を整理しましょう。まず、三浦半島最南端の城ヶ島がドラゴン勢力に制圧された。彼らは鎌倉の戦いの後、エインヘリアルとの勢力争いを見据えて城ヶ島に潜伏していたと見られているわ」
「そうっすね。ドラゴンたちはケルベロスの皆さんを侮って、負けるはずなんてない、真の敵はエインヘリアルだ、くらいだったんだと思うっす。けど実際は鎌倉奪還戦で負けたのはドラゴンの連中だった。いやー、自分マジでしびれたっすよ!! やっぱケルベロスの皆さんは超カッコイイっす!!」
 くうー、と拳を握って熱く語ったダンテは、だから、と表情を改めた。
「この敗北は連中にとって予想外だったっす。ドラゴン勢力は今、城ヶ島に拠点を築き防衛力を高めようとしてるっす。その一環として、今回みたいに竜牙兵を市街地に送り込んで破壊工作を行おうとしてるんす」
「このままじゃ、多くの人が殺されて、グラビティ・チェインを奪われてしまうわね」
 カナネがため息をついた。
「ええ、けど、竜牙兵が出現する前に避難勧告を出せば、竜牙兵は他の場所に行って別の人を襲っちまうっす。それだとますます被害がでかくなるんで、避難は竜牙兵が出て、皆さんが戦場に到着したあとになるっす。そっからなら警察を使った避難誘導も始められるんで、避難は警察に任せて、皆さんはできる限り早く竜牙兵を倒すことだけ考えて欲しいっす!」
 ダンテの予知では、現れる竜牙兵は三体だという。
 いずれもゾディアックソードを装備しており、そのグラビティを使って攻撃してくるらしい。
「ケルベロスの皆さんが現場に着けば、竜牙兵は皆さんを狙って攻撃してくるっす。だから、周囲の一般の人は警察に任せておけば大丈夫っすよ」
 一般人の避難よりも、純粋に、竜牙兵を倒すことだけを考えれば良いようだ。
「それと、竜牙兵は負けそうになっても最後まで皆さんに戦いを挑んでくると思うっす。最後まで気を抜かないで戦って欲しいっす!!」
 敵の撤退を狙うことは無理らしい。となれば、三体の竜牙兵を完全に撃破するほかはないだろう。
「奴らの目的は、拠点……つまり城ヶ島周辺から人間を駆逐することっす。当面の被害を防ぐだけなら片っ端から避難してもらえばいいっすけど、それじゃ人がいなくなった場所をドラゴンが拠点化して、拠点の規模がどんどんでっかくなるっす。それに、作戦が失敗して大きな被害が出ても、みんな不安になって逃げ出しちゃうかも知れないっすよ。それを繰り返していくうちに、日本全土がドラゴンの拠点に……なんて、想像しただけで嫌っすよね!」
 ぞっとしたように身震いしたダンテは、ケルベロスたちを見てぐっと拳を握った。
「だから! 皆さんに絶対、ここで被害を食い止めて欲しいんす!! 竜牙兵なんてけっちょんけちょんにやっつけて、目に物見せてやりましょう!! 皆さんなら絶対大丈夫だって、自分、信じてるっすよ!!」
 力強く言う彼に倣うように、ソフィア・グランペールが頷く。
「ダンテ殿の仰るとおりです。人々のため、なんとしても奴らをここで止めねばなりません。ソフィアもご助力いたします!」


参加者
流星・清和(ヴァリアブルバトロイド・e00984)
風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)
更科・風丁(流浪の機巧戦士・e01456)
エリオット・シャルトリュー(ディスティラリーマウザー・e01740)
カナネ・カナタ(やりたい砲台の固定放題・e01955)
紅・桜牙(紅修羅と蒼影機・e02338)
峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)
矢武崎・莱恵(オラトリオの鎧装騎兵・e09230)

■リプレイ

●ケルベロス、参上!
 アスファルトに突き刺さる牙から現れた竜牙兵に、人々の悲鳴が木霊するオフィス街。
 がしゃあん、と派手な音を立てその戦場に真っ先に降り立ったのは、流星・清和(ヴァリアブルバトロイド・e00984)だった。
「あいや、待てれぃ!ここからはケルベロスが相手をいたす!」
 盛大な名乗りに、竜牙兵が骨の頭をそちらへと向ける。
 彼に続くようにして仲間達もその場に降り立った。中でも目を引くのは、アルティメットモードになった紅・桜牙(紅修羅と蒼影機・e02338)と、プリンセスモードになったカナネ・カナタ(やりたい砲台の固定放題・e01955)だ。桜牙は赤に金色のラインが入った甲冑のような勇壮な出で立ちで、カナネは露出を抑えたフリルたっぷりの上品なドレス。だが、そのスカート部分は複数の装甲版で形成されており、鉄壁の防御を思わせるデザインだ。
「皆、安心して! 私たちケルベロスが来たからには、もう大丈夫よ!」
「心配するな、あいつらの勝手にはさせねえって」
 混乱していた人々も、彼らがケルベロスであるとわかって徐々に落ち着きを取り戻してきたらしい。到着のタイミングを見計らっていたギルがケルベロスの到着を周囲へとさらに大声で伝え、宵一が事前に調べ上げた避難経路に則って風子や克己も加わり戦場からの避難が開始された。
「おう、ケルベロスが来たぞ! 動けねぇ奴は運んでやる、さっさと逃げろ!」
「おら、こっちだ。慌てず騒がずこっちに避難しな」
「こっちはお任せ! だから竜牙兵の方は全力でいってね!」
 駆けつけた警官隊と共に誘導を始めた四人に頷くと、桜牙とカナネは竜牙兵へ向き直る。
 戦闘はすでに始まっていた。二人が人々に声をかけている間、先陣を切ったのは風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)だ。
「グラビティ・チェイン収穫も兼ねた拠点の安全確保ですか……そのような事、断じて許す訳には参りません! 凍れる刃の一撃、受けて頂きます!」
 両手で握った刀を下段に構え、切り上げる。ひやりとした冷気をまとった刃が、竜牙兵の骨を砕いた。それを合図にしたかのように、矢武崎・莱恵(オラトリオの鎧装騎兵・e09230)と峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)が風峰・恵が相手取る竜牙兵とは違う竜牙兵へとそれぞれ向かう。
「兄ぃ、姉ぇが居なくても、ボクは頑張るんだからね! 行くよ、タマ! 融合だぁ~!!」
 肩にボクスドラゴンのタマを乗せた莱恵は、ルーンアックスを振り回しながら竜牙兵へと突撃していく。肩の上のタマは盛んに鳴き声を上げ、竜牙兵の注意を引きつけていた。一方の峰谷・恵は発育の良すぎる胸を揺らして古代語の詠唱を終え、光の帯を竜牙兵へと打ち付けた。
「お前たちは刈る側じゃない。狩られる側だよ。……ねえ、風丁さん?」
 彼女をかばうように回り込んできたのは桜牙だ。これで準備は整ったと、峰谷・恵は笑みを浮かべる。
 三体の竜牙兵の速やかな撃破。そのために、ケルベロスたちは五人で一体の竜牙兵に集中攻撃を仕掛け、その間他の二体は二人一組で押さえ込むという作戦をとったのである。
「お嬢ちゃんの言うとおりだ。どちらが刈り取るものか、教えてやらにゃあなんねえよなぁ?」
 集中攻撃側の更科・風丁(流浪の機巧戦士・e01456)が最前線へと躍り出ると、五連巧鎖滅撃を放ち竜牙兵の骨を折る。彼に続くようにエリオット・シャルトリュー(ディスティラリーマウザー・e01740)の構えたライトニングロッドから雷が走った。
「さくっと倒そーぜ、その方が避難している人も安心できるだろうからなー」
「及ばずながら、ソフィアもご助力いたします」
 口調こそ軽いものだが、エリオットの目は戦いの高揚にきらきらと輝いている。足下から立ち上る金色の炎も、高ぶる彼の心のように揺らめいていた。彼の言葉に頷いたソフィア・グランペール(レプリカントの鎧装騎兵・en0010)が地面に描いた守護星座が光り、仲間たちの身体を包む。その隣にゆらりと姿を現した桜牙のビハインドのレインディは、彼の指示通り周囲の物を竜牙兵へと飛ばして攻撃を加えた。
「ヒールドローン展開! 各機散開して援護開始!」
 清和の声が響き、彼の射出した小型治療無人機の群れがケルベロスたちの周囲を飛び回る。そこへ、竜牙兵の剣が振り下ろされた。名も知らぬ星座のオーラが吹き出し、前衛に立っていたケルベロスたちを襲う。その隣では、別の竜牙兵の重い一撃が莱恵を襲っていた。
「くっ……負けないよっ!」
 残りの一体の竜牙兵が、莱恵の方を向いた。二体がかりなら押し切れる、と思ったのだろう。しかしその瞬間、桜牙のアームドフォートが火を噴いた。
「俺は、ここにいる」
「お前の相手は、ボクたちだよ」
 そちらには行かせない。強い意志を持った二人の声に、竜牙兵は唸りを上げるとそちらへと突っ込んでいった。

●反撃の狼煙
 鈍い音を立て、カナネのガトリングガンが竜牙兵の鎧にめり込む。
「人をグラビティ・チェインの塊程度にしか見てないとか、おねーさんそういう無粋なの嫌いなの。徹底的にやるわよ!」
 とにかく即時撃破を、という事前の打ち合わせ通り、多数で一体の竜牙兵を取り囲む形でケルベロスたちは攻撃を重ねていた。集中攻撃班になっているのは、清和、風峰・恵、風丁、エリオット、カナネ、レインディ、ソフィア。そして、サポートにと駆けつけてくれた頼犬、フラジールだ。もう一人、マキナは奇襲を狙っているため、今は物陰に隠れている。
 竜牙兵の反撃はあれど、援護に徹している清和のおかげか傷はそこまで深くない。
 明らかに火力で勝っている為か、流れはケルベロス側に傾いていた。
「一度敵(エモノ)と見定めたからには、絶対に食らってやる」
 エリオットの恐幻想起・飢餓の絡舌が発動し、伸びる舌が竜牙兵へと絡みつく。ゾディアックソードを振り上げようとしていた骨の腕が、その舌に絡まれて動きを止めた。苛立ったような呻きが竜牙兵の口から漏れる。
「グウウゥゥ……!」
 そこへ繰り出されたのは風峰・恵の絶空斬だ。動きを止めた骨の腕に、みしり、と音を立ててひびが入る。立て続けにフラジールのアイスエイジ、頼犬の二刀・瞬柄刃が叩き込まれ、竜牙兵の構えるゾディアックソードにもひびが入った。
「ヨコセ……ヨコセ、グラビティ・チェインを!」
「まだ言うんかい!」
 最早、勝敗は決しているに等しかった。だがそれでも、竜牙兵は動きを止めない。唸りを上げて振り下ろされた剣はソフィアを狙っていたが、それを食い止めたのは清和だ。重い一撃は清和の機械の身体を抉るものの、彼にはまだ余裕がある。
「清和殿!」
「おっちゃんのことは気にせんでええ! 他にやることがあるやろ!」
「おう、任せな! ちょこまか動くんじゃあねえよっ!」
 そこへ、風丁の腕から打ち出された五本の鎖が直撃した。竜牙兵の骨がまた一本砕け、苦悶の声が上がる。
 一方、引き付け役の二組は苦戦していた。
 自身の周囲に鱗のようなエネルギーシールドを生成し、守りを高める桜牙の紋章・竜鱗(サポートコード・ドラゴンスケイル) をもってしても、竜牙兵の攻撃は一撃毎が重い。後衛でヒールをかけてくれる峰谷・恵がいるからこそ今のところ無事でいられているが、その支援がなければすでに満身創痍だったことだろう。
「さあ、骨の砕ける音を聞かせろよ!」
 ゾディアックソードの一撃を受け止め、踏みとどまって攻撃に転ずる。破鎧衝の直撃を喰らった竜牙兵の鎧にはわずかにひびが入ったが、ひるむ気配はない。舌打ちして攻撃を続ける彼の元へ駆けつけた克己が、正眼に構えた刀を振り上げ、全身全霊の力を持って振り下ろす。しかしそれでも、竜牙兵は倒れない。
 莱恵とタマの方も、援護にやってきた宵一と共に戦いを続けていたが、分が良いとは言えない状況だった。しかしどちらの組の狙いも『竜牙兵を一体ずつ引き付けておく』であることを考えれば、役目は十分に果たしていると言える。
「タマ!」
 攻撃を受けたタマの小さな身体が吹き飛び、莱恵は悲鳴を上げた。竜牙兵が、勝ち誇るように咆哮を上げる。しかし次の瞬間、それはくぐもった呻きに変わった。相手の隙をうかがっていたマキナが、見事なタイミングでミキシンググラビティを撃ち込んだのだ。その間に宵一の呼び出した三匹の白狐の霊が、傷ついたタマを癒やしていく。
「莱恵さん! 風峰さんっ、そっちはどう!?」
「あと少しです! お二人とも、もう少し持ちこたえてください!」
「任せな! この程度で、崩れるかよっ!」
 竜牙兵の攻撃を受け止めつつ、桜牙が吠える。
 そこへ、カナネの声が響いた。
「距離を詰めれば楽勝、ですって? 分かってないわね。こーいうときは……先生、出番よ!」
 ケルベロス達に取り囲まれた竜牙兵へと、ガトリングガンの銃口が押し当てられる。引き金が引かれると同時に、彼女の周囲に浮かんでいた砲台が一斉に同じ目標へ向けて砲撃を開始した。降り注ぐ弾丸の雨に、竜牙兵の骨ががりがりと削れていく。そこへさらに、風丁の五連巧鎖滅撃と風峰・恵の雷刃突が直撃した。
 鎧が砕け、剣が折れ、そして骨が砕ける。
「グオオオォォオ!!」
 耳をつんざくような咆哮を最後に、竜牙兵は物言わぬ骨の欠片となった。

●刈り取られたものは
 狙っていた竜牙兵が崩れ落ちた途端、駆けだしたのはエリオットだ。両足から金色の炎を舞わせた彼は、より形勢不利と思われる莱恵の元へと駆けつけると時空凍結弾を放った。そこへ清和が続き、新たなヒールドローンを展開する。
「よっしゃ、こっからはオレ達が相手してやんよ!」
「おっちゃんも加勢するでー!」
「エリオットお兄ちゃん、清和お兄ちゃん、ありがとー!」
 先程までの劣勢が一転、一気に攻勢に転じたケルベロス達は全力で竜牙兵を攻め立てた。グラビティが乱れ飛び、竜牙兵の身体を構成する骨が徐々に砕けていく。
「ちいと下がってな、無理は禁物だぜ。生き延びてこその戦いだからな」
 傷を負った莱恵に声をかけた風丁の全身に呪紋が浮かび上がる。頷いた莱恵に、タマが属性インストールをかけた。その間にも味方の攻撃は続き、やがてエリオットの一撃が決め手となって二体目の竜牙兵が崩れ落ちる。
「あらぁ、最後の一体になっちゃったわねえ。うふふ、おとなしく蜂の巣になってちょうだいよ?」
 最後に残ったのは、桜牙と峰谷・恵が引き付けていた竜牙兵だ。カナネが笑いながら、爆炎の魔力を込めた大量の弾丸を撃ち出す。竜牙兵の身体が、炎に包まれた。
「情報ダイレクトリンク完了。補助ユニット射出……、ユニットパーツリビルド……パーツドッキング開始!」
 清和の機体から射出された補助ユニットドローンが、ケルベロス達に合体していく。回復支援と戦闘補助を同時に行うドローンの援護を受け、桜牙が竜爪撃を放った。鈍い音がして骨が砕け、竜牙兵が呻く。
「やっぱり、殴るのが手っ取り早いな」
「ひゅー! あ、桜牙のそれ、なんだ!? 鱗か!?」
「おう。コード・竜鱗、初披露だぜ」
「かっこいいな! オレも負けてらんねー、殴る!」
 歓声を上げたエリオットが、足下から金色の炎を撒きながら拳を突き出す。音速を超えたその拳は、竜牙兵の骨を叩き折った。そこへ風丁の左腕から放たれた五本の鎖が、微妙にタイミングの違う五連撃となって襲いかかる。
「教えてやるよ……もう地球は、襲われるだけの弱者じゃねえってな!」
 その一撃が、決定打だった。
 三体目の竜牙兵が、骨の欠片となって崩れ落ちる。
「やったー! ボクたちの勝ちだー!」
 豊かすぎる胸を黒いビキニから零れんばかりに弾ませて、峰谷・恵が歓声を上げた。
 流れ弾などで周囲の建物や道路に被害はあるものの、風子をはじめとした避難のサポートがあったこともあり人的被害はほとんどない。多少怪我をした人間はいるが、それとて軽いものだ。構えていたガトリングガンを下ろし、カナネが息を吐く。
「終わったわね。さ、皆に安心してもらうために、直すもの直しちゃいましょう」
「うん! ボクもヒールするよ、怪我してる人はこっちに来てー!」
「あ、待って待って! タマもやれるよ!」
「んじゃ、オレはヒール持ってないから、瓦礫とか片付けるの手伝うぜー」
「ああ、いいですね。ボクも手伝いますよ」
 ケルベロスたちはヒールを使えるものと使えないものとで分かれ、破壊されてしまった建物の修復や、怪我を負った一般人の治療に当たることにした。きちんと人々の不安を除かなくては、本当の意味で目的を果たしたとは言えないと判断してのことだ。不安そうな顔をしていた怪我人たちも、一人ずつ手当てされていくうちに落ち着いてきたようである。
「もう大丈夫だよっ。襲ってきた奴らはやっつけたし、また来てもボクらケルベロスが絶対にやっつけるから」
 それでも不安がる人々には峰谷・恵がラブフェロモンを使い、その豊満な胸に抱きしめながら撫でてやる。違う意味で落ち着かなくなる男性が多発したが、それはもう致し方あるまい。
「ケルベロスはいつだって駆けつけるわよ! だから、心配しないで!」
「そーそー。オレ達に任せとけば心配いらねーって!」
「そうそう! おっちゃんもすぐ来るからのう、なーんにも心配いらんで!」
 明るく人々を励ます仲間達の背中を見つつ、風丁は元の姿をおおむね取り戻したオフィス街を眺めた。
 もはや大勢は変わったのだ。
 地球は襲われ、搾取されるだけの弱い存在ではない。その脅威に立ち向かい、撃退するための牙を手に入れた。
 この星を単なる刈り取り場のように扱うものがいるのならば、思い知らせてやらねばならない。
 刈り取られるものが、なんなのか。
 狩られるものが、誰なのかを。
「……ま、生き延びて好きなことやって、生を楽しむ。それが出来てこそ、勝利ってもんさね」
 自分を呼ばわる仲間の声に応じると、風丁はそちらに足を向ける。
 彼の足下で、最後まで残っていた骨の欠片が、砂のようにさらさらと崩れていった。

作者:六月青 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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