酉年様事件~大願成就

作者:刑部

「5円でゴエンがあります様にっと、日本文化完璧デス」
 少しイントネーションのおかしな日本語で喋った男が、フフンと鼻を鳴らして賽銭箱に10枚程の5円玉を投じる。その金髪は『神風』と書かれた日の丸鉢巻きで留められており、何故か腰にはプラスチックの刀が差してある。
「今年はトリ年。今まで食べたフライドチキンにも、ヤキトリにもカラアゲにも感謝……」
 些か日本文化を間違って覚えてしまっている感は否めはしないが、その異国人はちゃんと二礼すると、目を瞑って大きく柏手を叩いた。
「『殊勝也』」
 その瞬間、頭に響いた言葉にハッと目を開けた男は、己の感情が高ぶってゆくのを自覚する。
「キャアアァァァ!」
 同時に後ろから響く女性の悲鳴。男の体はファンキーな酉年ビルシャナへと変貌しつつあった。
「もっと……もっと日本文化を大切にしないとイケナイ! 酉年は一年中酉年様を崇めなければならナイ!」
 そう言って両手に日本刀を掲げると、
「サムライバンザーイ!」
 その男……酉年ビルシャナは逃げ惑う人々を襲い始めたのだった。

「酉年様っちゅービルシャナが現れよったで」
 杠・千尋(浪速のヘリオライダー・en0044)が、ケルベロス達を前にそう切り出す。
「このビルシャナは、12年に一度だけ特別な力を得る能力があるみたいで、酉年を祝う人々の祈りを奪って急速に力をつけよったみたいや。
 ほんで、その集めた力を利用して、神社でお祈りを捧げる人を『酉年ビルシャナ』に変貌させて配下にし、人々を殺して更にグラビティ・チェインを得ようとしとるんや」
 千尋の説明に眉を顰めるケルベロス達。
「酉年ビルシャナは日本各地の神社で発生しよるから、被害が出る前に撃破して欲しいんや。
 酉年ビルシャナは、強制的にビルシャナ化させられとるだけやから、今の内に撃破したらビルシャナ化を阻止して救出できる筈や。せやけど、今撃破でけへんかったら、ビルシャナ化が定着してしまいよるから、救出でけへんようになるから、気合入れて撃破したってや」
 と千尋は続ける。

「行って欲しい神社はここや。ここで酉年ビルシャナになってまうのは、サムライとか日本文化大好きなイギリス人の男性や。神風の鉢巻きしておもちゃの刀を腰に差して参拝しとったのを、ビルシャナに変えられてまう。
 閃光を放つ他、おもちゃの刀は、鋭い刃を持つほんまもんの日本刀になって斬り掛りよるで。
 少なくなったとは言えパラパラと参拝客もおるから注意せなあかんねんけど、幸いにも酉年ビルシャナは、『酉年を褒め称える』発言をする相手を優先的に狙ってきよる。せやから、上手く発言すれば敵の攻撃対象をコントロールできると思う」
 地図を開いた千尋は、大阪府南部の神社を指し酉年ビルシャナについての注意を付け加える。

「どうも初詣に来た人らの願いを奪って力を蓄えたみたいやな。そんなもんに力を付けさせる為に願った訳やない。新年を迎えた人らを惨劇から救う為にも、みんな頼んだで」
 千尋はそう言葉を締めくくったのである。


参加者
八千沢・こはる(ローリングわんこ・e01105)
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)
クーリン・レンフォード(紫苑一輪・e01408)
弘前・仁王(魂のざわめき・e02120)
神崎・晟(海闊天空・e02896)
早乙女・スピカ(星屑協奏曲・e12638)
ハチミツ・ディケンズ(彷徨える琥珀・e24284)
唯・ソルシェール(フィルギャ・e24292)

■リプレイ

●化身
「もっと……もっと日本文化を大切にしないとイケナイ! 酉年は一年中酉年様を崇めなければならナイ!」
 イギリスはランカシャー州出身の日本大好きダニエルは、湧き上がる情熱に己を押さえきれずに叫ぶと、その姿が目出たい鶏の姿へと変貌し、血走った目を参拝客に向ける。
「キャアアァァァ!」
 その姿に女性の悲鳴が響く中、
「酉年バンザーイ!」
 上から聞こえる酉年を褒め称える言葉にビルシャナが顔を上げると、赤い髪を風に踊らせ、テレビウムの『九十九』と共に降下してくる橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)。
 彼女に続いて次々と降下してきたケルベロスやサーヴァント達が、着地するや否やビルシャナに向って地面を蹴る。
「白色レグホンも大きくて素敵ですが、東天紅などが威厳がありますわね。やはり酉は雄々しくもありそして美しくもある。完璧ですが……圧倒せしめよ」
 唯・ソルシェール(フィルギャ・e24292)の起こした濁流が螺旋を描いて撒き上がり、その先端が顎となってビルシャナを襲うが、酉年をあがめる声に顔を向けたビルシャナは、その双刀をもってその竜の如き濁流を裂き、ニヤリと笑ってソルシェールに踊り掛ろうとする……が、
「酉年ってすごい運気よくなる年だって言うじゃないですか! 商売繁盛、学業運もサイコー! 酉年に酉の市とかやったらすごいご利益ありそうな気がしません? ですから御利益分けて下さいな。脳天から、腑の奥まで……痺れろッ!」
 丁度背後、最初の左の位置からの八千沢・こはる(ローリングわんこ・e01105)の褒め殺しと共に、放たれた刺突撃“江雷“の一撃にその足が止まる。
「酉年の人って几帳面で集中力があってそれに加えて持続力もあるって聞いたことがあるよ。私にないところばっかりでとっても羨ましいな……」
 そこに掌を向けたクーリン・レンフォード(紫苑一輪・e01408)から放たれた幻影の竜が焔を溜めた顎で喰らいに掛るが、ソルシェールの竜を裂いた様にその幻影を薙ぐビルシャナ。
「酉年はいいですよね。物事が頂点に達する年とも言われますし、猿犬の間に立つ事で両者の仲裁もするという心意気もあります」
「来ましたわ酉年! 十一年ぶりの酉年、わたくしが生まれて初めての酉年!」
 微笑みを浮かべながら地面に手を付いた弘前・仁王(魂のざわめき・e02120)から蔓草が伸び、鶏の気ぐるみを着た彼のボクスドラゴンを裂こうとしたビルシャナを縛り、ほわほわとしたボクスドラゴンの『ババロア』の属性をインストールされたハチミツ・ディケンズ(彷徨える琥珀・e24284)が起こした爆発が、カラフルな爆煙を巻き起こし、ビルシャナの視界から参拝客を隠し皆のテンションを上げる。
「私達はケルベロスです。みなさん逃げて下さい」
 その間に宙を舞う早乙女・スピカ(星屑協奏曲・e12638)が、割り込みヴォイスで呼び掛ける芍薬を後押しする様に参拝客に避難を呼び掛け、参拝客達が次々と避難してゆく。
「鶏は知・信・仁・勇・厳と、もののふの会得すべき五徳を持つと言い。やはり佇まいからして威厳を感じる。これもまた酉年の成せる業というと言う事なのかな?」
「モット、モット褒め讃エロ!」
 箱に入ったままのボクスドラゴンの『ラグナル』と共に、迅雷の如き踏み込みで繰り出された神崎・晟(海闊天空・e02896)の突きを、双刀をもって跳ね上げ致命傷を避けたビルシャナは、かすめた側頭部から血を流しながらも、そのまま力を込める晟と睨み合う。
「みなさん、避難完了です」
 そこに声を上げたスピカが、捕食モードに変形させたスライムを嗾けた。

●紡ぐ嘴
「わたくしも半分はイギリスの血が流れていますので、日本に憧れてしまう気持ちはわからなくもありませんが、迷惑を掛けてはいけませんわ」
 そう言ってハチミツは、ビルシャナがソルシェールとスピカの攻撃をいなすのを見て、前衛陣に向けオウガ粒子を放出すると、
「そう、先ずはダニエル氏には正しい日本文化を教えてあげよう。その神風鉢巻を取りたまえ」
 晟の振るう刃が煌めき、切っ先が宣言通り鉢巻を斬って落とすが、ビルシャナも空間ごと晟を裂いて出血を強いる。
「崇メヨ、讃エヨ! 酉年ノ素晴ラシサヲ!」
 クワっと嘴を開いて晟を畳み掛けようとするビルシャナだったが、ラグナルとババロアが同時に吐いたブレスに晒されると、
「その刀、カッコいいですね! 私も最近、刀に興味が湧いて持ち始めたばかりなんだよね。……どっちが新たなサムライなのか、いざ尋常に勝負だよ!」
 晟ととある廃ビルに集う『Security Corps』の仲間であるクーリンが、星空ローブの裾を翻してビルシャナの霊体を斬り抜ける。
「控エロ! 酉年ナルゾ!」
 次々と放たれる攻撃に怒ったビルシャナが放つ閃光が後衛陣を裂くが、
「いたたた。けど、負けません。皆様の為に歌います」
 直ぐにブレスを吐くババロアを見遣ったハチミツの歌声に合わせ、九十九が応援動画を流し芍薬がオウガ粒子を放出する。
 その間に、こはるのブラックスライムと仁王の蔓触手が左右から絡み付き、ビルシャナの動きを縛る中、
「アキラ、背中を借りるよ」
 後ろからのクーリンの声に上体を屈めた晟。その背を足場にクーリンが跳躍し、
「アギャッ!」
「目を覚まさせてやるから、大人しくするんだな」
 大きく息を好き込んで刃尾を揺らしたラフナルの吐いたブレスと共に、晟の鋭い突きが叩き込まれ仲間達が続くと、
(「酉年は最高だ。私も酉年に生まれたかった」)
 触れた晟から接触テレパスによって伝えられる賛辞に、ビルシャナの意識が晟へと向けられた瞬間、上からクーリンの豆柴の子犬キィが満面の笑みを浮かべ、尻尾をぶんぶんと振りながら吶喊してきた。

「酉年最高でございます」
 ソルシェールが声を上げると一撃を見舞ったスピカに反撃しようとしたビルシャナが、ぐるんと頭を向け、ソルシェールに向かって双刃を振るって空間ごと裂きに掛る。
(「笑うぐらいの鳥頭でございますね。自身も鳥頭を鏡に映して楽しんでおればよいものを」)
 裂かれた箇所を押えながらソルシェールは心の中でつぶやくと、直ぐにハチミツの起こした桃色の霧に包まれ、その傷が癒える。
「そんなに日本文化好きなら、日本刀の使い方、教えてさしあげます!」
 その間にも、切っ先を突き付けたこはるが、その切っ先に雷の霊力を纏わせで突き崩しに掛り、仁王とクーリンがそれに続く。
「酉年ハ無敵―!」
 根拠不明の雄叫びと共に体を回転させ、仕寄るケルベロス達を流れる様な動きで薙ぎ払うビルシャナ。仲間を庇ったボクスドラゴン達が大きな傷を受けて後退するが、芍薬が回復で戦線を支える。
「酉年ハ刀モ上手ク扱エルノダ!」
「流石……ですが、搦め手の攻撃はどうですか?」
 鍔迫り合いになり語気を強めるビルシャナにニヤリを笑ったこはるの指。
 指輪から伸びた光の刃を掴み、ビルシャナの脇腹を裂いた。
「姑息ナ……」
 ギロリとこはるを睨んだビルシャナだったが、逆側から一撃を見舞った晟が触れると、また急にそちらを向いて斬り掛ってゆく。
「……ここまで顕著ですと、反対に面白いですわね」
 暴流に君臨せし水牙の影響で、割合的に多く攻撃対象になっていたソルシェールは、その身を地獄の炎で包んで傷を癒し、
「人々の願いを吸って肥大化した力なれば、それをその人々の為に還元しなければなりません。それができぬのなら……それは神ではありませんわね」
 と、光の翼を暴走させて突っ込んだ。

 黒曜壁の影から半身を晒した仁王が突き出す腕。そこから伸びた蔓触手がソルシェールに斬り掛るビルシャナを幾重にも絡めようとするが、
「オノレ小癪ナ……」
 それに気づいたビルシャナが、刀をコンパクトに振るい蔓触手を裂きに掛る。
「なかなか理に適った対応をしますね」
 その動きに眼鏡の奥の瞳を輝かせる仁王。
 舞う彼のボクスドラゴンも、既に着ぐるみがズタズタに裂かれており、お返しとばかりに刀を振るうビルシャナ目掛けブレスを吐いた。
「蒼き炎よ、かの者の罪をこんがりと焼き払え。ちなみに焼き鳥は、鳥皮が好きです」
 空を飛びながら軽口を叩いたスピカから舞い落ちる蒼い花びらの様な炎が、ビルシャナに付着して燃え上ると、その炎を裂く様にクーリンとこはるが左右から挟撃し、正面から踏み込んだ晟の刃が弧を描く。
「シェアァァァ! 酉年ノ威光を思イ知レ!」
 直後、ビルシャナの体から閃光が迸ってケルベロス達を穿ち、閃光の中、ビルシャナの二刀が晟の体を狙う。
「やらせっかよ! そんな威光なんぞクソくらえだ!」
 芍薬の伸ばした手から飛ぶ光の盾が、その双刃を防ぎ止める。その間に九十九が応援動画を流し、ハチミツの起こすカラフルな爆煙が、閃光に圧されたケルベロス達を奮い立たせる。
「グヌウ……」
 更に押し込もうとするビルシャナだったが、その体が思い通りに動かず呻いた。
 重ね掛けられた各種バッドステータスの効果が、ボクスドラゴン達のブレスによって増大しているのだ。
「これは焼き鳥の串ではありません。串に刺すのは部位を分けてからです」
「もっと動けなくして差し上げます」
 本気とも冗談ともつかない台詞を吐いたスピカが、足の止まったビルシャナに如意棒を突き入れ、仁王の蔓触手が追い打ちを掛ける様にビルシャナの足を縛り上げる。
「モット、酉年を、酉年ヲ崇めサセナケレバならないのデース!」
「残念。もう直ぐ2月だから節分なの。歓迎されるので赤鬼で、酉はお呼びじゃないのよ。エネルギー充填率……100%! いくわよ、インシネレイト!」
 なぜか九十九が流す『鶏が缶詰に加工されていく動画』を傍目に、芍薬が掌の熱エネルギーを叩き込んだ。

●帰趨
「何故ダ、何故酉年ヲモット崇メナイのデース!」
 ビルシャナが再び閃光を放つが、心なしか当初程の威力は無い様に感じる。
「そういうのは心の中ですればいいのですわ。強要するものではないですの。ね? ババロア」
 薄緑色の髪を揺らしたハチミツが、オウガ粒子を放出して閃光の傷を癒すと、頷いたババロアも大きく息を吸い込んでブレスを吐く。そのババロアに合わせてラフナルと仁王のボクスドラゴンもブレスを吐き、3色のブレスに見舞われたビルシャナは、
「スモークは、スモークはヤメロ!」
 とボロボロになった羽の生えた腕を振って羽ばたく。
(「酉年ほど高貴な干支はないな」)
 その間隙を突いた晟による槍の一撃と共にテレパスで伝えられる賛辞に、ビルシャナがくわっと目を見開くが、
「そろそろ学習した方がいいですよ」
「さぁ、残ったその羽、毟り取ってやります!」
 注意が晟に向いた隙に、スピカとこはるが捕食モードとなったブラックスライムを嗾け、合わさって巨大化したブラックスライムがビルシャナを呑み込んだ!」
 ……が、そのブラックスライムを突き破って閃光が走り、千切れ落ちた中から、
「アッブナ!」
 汗だくで現れ、肩で息をするビルシャナ。
「クックドゥドゥドゥ!」
 カッっと目を見開き甲高く鳴くと、流れる様な動きで近くのケルベロス達を薙ぎ斬りに掛るが、その刃も鋭さが感じられない。
「はいはい、無駄な足掻き、無駄な足掻き」
「画竜点睛というやつです。数多の力、今ここに」
 小馬鹿にした笑みを浮かべた芍薬と九十九の回復をハチミツも後押し、それらの傷もあっという間に塞がって元に戻り、仁王がボクスドラゴンに魔神を降臨させると、ボクスドラゴンが龍化し、ビルシャナに牙を突き立てた。
「そのまま喰らわれるん、だよ! Destruction on my summons―!」
「幾つもの牙で圧倒せしめよ」
 クーリン喚び出したコヨーテと、ソルシェールの起こした濁龍が、仁王のボクスドラゴンに手こずるビルシャナに左と上から襲い掛った。
「ガハッ……ドウシテ……辰年はダイブ前ニ終ワッタ……ノニ……」
 そう言ってビルシャナが膝から崩れ落ちると、糸が切れた様に羽毛が抜け落ち、元の姿のダニエルさんが倒れていたのだった。

 こうしてダニエルをビルシャナ化から救い出した一行は、唯の提案で彼と共に近くの喫茶店で、彼も交えて守るべき日本の文化について、大いに語らい合ったのだった。

作者:刑部 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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