酉年様事件~襲来、川蝉御前

作者:白石小梅

●酉年様の祝福
「酉年だし、今年は良いことありそうね」
 そう言って俊子という名の女が賽銭箱へと硬貨を投じる。
「長いこと続けて来た活動が実を結び、最近は川蝉も都心の川に帰ってきてくれています。このまま野鳥たちが人と共存して生きていけるようになりますように……」
 俊子は生真面目に、野鳥の保護観察のボランティア活動の進展を祈る。人と鳥の共存は、都市部では非常に難しい課題だ。
 酉年という記念の年に、彼女の祈りは強く念じられ、そのグラビティ・チェインをある一体のビルシャナが拾い上げる。
『その願い、この力で叶えるがいい』
「へっ?」
 遠い声と共に光を降り注がせたそのビルシャナの名を……酉年様という。
 輝きが収束した時、そこに立っていた女は艶やかな翡翠色の頭をしたビルシャナへと、姿を変えていた。
『我が名は川蝉御前……この祝いの年に、野鳥たちを蔑ろにする人間どもに神罰を下し、酉年様を祭り上げん!』
 グラビティで作りあげた無数の川蝉の幻影が、目を見張る境内の人々へと降り注ぐ。

 酉年様の暴走が、今、始まったのだ。
 
●酉年様の出現
「酉年様というビルシャナが出現しました。今回の任務は、酉年様の配下の撃破です」
 望月・小夜(キャリア系のヘリオライダー・en0133)が出した一枚の画像には、何ともめでたそうな鶏の姿。
「酉年様は十二年に一度、特別な力を得る能力があり、酉年を祝う人々の祈りを吸い上げて急速に力をつけられるのだそうです。しかし、三が日を過ぎて酉年を祝う参拝客は当然、激減。怒った酉年様は、十日を過ぎても神社にお参りをした敬虔な酉年信者……と、彼が勝手に認定した人々を酉年ビルシャナに変貌させ、人々を虐殺せんとしています」
 またわけのわからぬ理屈……と、面々はうんざりと息を落とす。
「この酉年様、この一年間に力を蓄えてビルシャナ菩薩になりたかったのだそうです。三が日で膨大な力が集まって夢と希望が膨らんだのに、それが滞ったせいで癇癪を起こしたようですね」
 集合無意識の割に、動機が世俗的な権力欲や権威欲で番犬たちも首を捻る。
「酉年ビルシャナは日本各地の神社などで発生いたします。強制的にビルシャナ化させられているだけなので、撃破することで救出も可能です。今回撃破できなければ、ビルシャナ化が定着してしまいますので、確実な撃破をお願い申し上げます」
 
●川蝉御前
「酉年ビルシャナ化した人は木崎 俊子。28歳の会社員で、野鳥の保護活動のボランティアに熱心な方です。生真面目な願いを歪められてビルシャナ化しており、野鳥の幻影を用いた攻撃をして来ます。川蝉御前、と名乗っていますので、そう呼んでおきましょう」
 戦場は神奈川県のある神社となる。人々はごった返すほどではないが、賑わう程度にはいる。
「ですが川蝉御前ら酉年ビルシャナは、より強力なグラビティ・チェインを得るため『酉年を褒め称える』発言をした相手を最優先で攻撃する性質があります。その性質を利用すれば、周囲の人々を狙わせないことが可能でしょう」
 人々を避難させようとするより、酉年を褒め称えながら戦闘する方が今回は周囲の一般人は安全だという。ケルベロスが誘導しては、却って標的にされかねない。
「人々は野次馬的に騒ぐと思いますが……まあ、仕方ないでしょう。酉年様に余計な力を与えぬためにも、見守る人々の目の前で酉年ビルシャナを撃破し、被害者を救出してください。新年の始まりに、吉報を添えてやりましょう」
 そう言って小夜は出撃準備を願うのだった。


参加者
アンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468)
アルニ・カント(砂銀・e00596)
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
ガリウス・ストーム(欲望に忠実に生きる者・e16485)
マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)
服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)

■リプレイ

●生まれいづるは、川蝉御前
 新年も十日を過ぎた。
 神社の境内は落ち着きを取り戻しつつあるが、節目の行事はまだ多い。遅れた初詣に来る者も、彼らを客とした催し物も少なくない。
 地域に密着した様々な団体がちょっとした資金集めに屋台を開き、近所の人々や露天商はがらくた市を開く。すでに詣でた人々も、縁日気分で再び足を運んだり……。
 八人の番犬が足を踏み入れたのは、催し物も終わりつつある、のどかな夕暮れ。
「初詣くらい静かに参拝させてほしいな。空気読めビルシャナ……」
 マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)の目は暗い。それこそ、自分と恋人との初詣の予定をこの事件に潰されたかのように。
 微笑んだ機理原・真理(フォートレスガール・e08508)がその背にぽんと手を当てて。
「まあまあ……この仕事が終わったら、そのまま参拝するですよ」
 彼女は酉年様の存在を、誰よりも早くから懸念していたケルベロスだ。そのせいか、今回の任務は自然と知り合いが多い。
「久々の依頼が鳥たぁな、まっ、やるこたぁ変わらんが」
 そう言いながら苺味のチューブアイスを食べているガリウス・ストーム(欲望に忠実に生きる者・e16485)もその一人。
 アルニ・カント(砂銀・e00596)もそうだ。彼は、依頼という形式ではこれが初陣となる。
「酉年を褒めることで敵を動かす……となれば『鳥と言えば鶴は長生きの象徴。今年はきっと良い年になる』とでも語ればよいのでしょうか?」
「うん。そんな感じじゃない? ……酉年様かー。何だかすごくふざけた相手だけど、これもお仕事。頑張らないとね!」
 アンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468)は、ミニハットに姫袖のブラウス、コルセットにフリルの入ったスカートといったゴシックファッションでやってきた。
 似合っているので、誰にも疑問視されないが。
「カワセミか……綺麗な鳥だよね。『渓流の宝石』なんて呼ばれることもあるんだっけ。一時期は大分減ってたらしいけど、保護活動のおかげでまた見られるようになってきたんだよねー」
 エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672)の言葉通り、カワセミは都市開発によって山奥に追いやられていたが、近年、保護活動や河川の環境改善運動もあって、都心部に帰還しつつある。
「それをもう……どうしてこうどうしようもなくトンチキでド派手にロクでもないんだろうねえ、この手のビルシャナってのは……!」
 感慨に浸る間もなく、神社の奥では光輪が輝き、天より強大な力をもった光が降り注ぐ。
「酉年だしね。そりゃあ、鳥繋がりでビルシャナも活性化するよねー……」
 うんざりしている燈家・陽葉(光響射て・e02459)を先頭に、ケルベロスたちは一斉に境内へ走り込んでいく。
『我が名は川蝉御前……この祝いの年に、野鳥たちを蔑ろにする人間どもに神罰を下し、酉年様を祭り上げん!』
 境内へ向けて高らかに宣言するのは、艶やかな翡翠の羽根を広げ、単を紅梅の匂に襲ねた酉年ビルシャナ。
「たわけたわけたわけーっ!」
 服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)が手水場の屋根に跳び上がり、叫び声をあげた。わけがわからず目を剥いていた人々が、一斉に振り返る。
「酉年様だか何だか知らぬが新年も早々に阿呆な教義に人様を巻き込みおって! けしからんわ! いざ、ケルベロスが退治てくれようぞ!」
「な、なんだなんだ?」
「ケルベロス? ビルシャナ? 本物か?」
 人々の動揺がパニックになる間を与えず、アンノらが言葉を重ねる。
「はーい、危ないのでみんな少し下がってねー」
「はい。これは危険なパフォーマンスとなっております故に、接近はお止めください」
「参拝客の皆さんは十分な距離をとり、応援をお願いします。必ず守れるとは限りません、決して近づかないように。ケルベロスとの約束です」
 アルニ、マルレーネと言葉を重ね、人々を戦闘の場から遠ざける。川蝉御前は慌てる様子もなくちらりとそれを横目に見て。
『妾が欲しいものは酉年様に捧ぐ、祝いのみ。下賤な番犬の相手など、しておられません』
 真理が、にやりと笑って前に出る。その傍らには「酉年最高!」とのぼりを掲げたライドキャリバー、プライド・ワン。
「鶴は千年って言うですし、やっぱり酉年が一番縁起が良いのですね。鳥みたいに、酉年は未来に羽ばたく年なのです! 私たちも、羽ばたきますよ」
 その言葉に、川蝉御前はふむ、と、顔を真理に向け。
「そうそう! 辰や寅とか、そういった分かり易い強そうなものと並び立ってるってことは、きっとポテンシャルは一番秘めているんだよ!」
 陽葉が言葉を続ければ、女房姿の川蝉は重々しく頷いた。
『少しはものの道理をわかっている様子。大変よろしい。あなた方よりいただきましょう……より酉年の祝いの籠もった、グラビティ・チェインをね!』
 またわけのわからぬ理屈を……と、無明丸が頭を抱えるのも構わず、その翼を大きく広げて、川蝉御前は翡翠色の幻影を解き放つ。
 妖しくも神々しい光景に、意味不明な道理を重ね、異形の使徒は襲い掛かってきた。

●翡翠の祝い
 川蝉御前は高く笑い、番犬たちは身構える。
「おお! やっちまえ!」
「俊子さんは友達なの! どうにか助けて!」
 遠巻きになった的屋たちや野鳥保護活動の仲間と思しき人々が、声を張り上げる。
「おう! 俺らに任せておきな! 行くぜ!」
 チューブアイスを咥えたまま、ガリウスが観衆に親指を立ててみせる。そのまま雄叫びを上げて、彼は猛々しく魔人へと変貌する。
 人々が歓声をあげる中、川蝉御前の解き放った翡翠の輝きは小鳥の形を取って前衛に降り注いだ。
「援護するよ。そう簡単には攻撃なんて通させやしない」
 マルレーネの鎖が、前衛に守護の陣を形成する。弓矢のように突っ込んでくる小鳥の群れが、網に掛かるように食い止められて消失していく。
 それでもなお隙間を縫った攻撃は、真理と陽葉が受け止めて。
「範囲攻撃で来たですか。なかなか、侮れない威力ですよ」
「交代で引き受けるのは、単独攻撃の時だね。じゃあ、行くよ!」
 雨と降る翡翠の嵐の中を、のぼりを掲げたプライド・ワンと真理が突進し、陽葉の矢は間隙を縫う一閃と化して敵を狙う。
『ほほほほほ、酉年を称えよ。もっともっとよ』
 しかし三重の攻撃は、敵に触れる寸前、深緑の障壁に弾かれた。
「バリア? んー、本体はノーダメージに見えるけど、違うね……全力でバリアを維持してるだけっぽいから、みんなそのまま畳みかけちゃえ!」
 アンノが分析しながら前衛に星の加護を降り注がせる。愛らしいゴス乙女の姿をして、くいっと膝を曲げて指をさせば、味方に穿たれた呪縛は解かれていく。
 特に誰も疑問はない。
「十二単なんか着てるし、基本は動かず闘うタイプなんだろうね。バリアを砕いて、懐に一撃入れれば決着ってことか」
「なるほど。あいわかった!」
 エリシエルと無明丸は、そう言うなり川蝉御前に突っ込んでいく。
「ろくすっぽ聞こえてはおらぬじゃろうがこれもお主を救う為じゃ! 一切容赦せん! いざ覚悟し往生せい! ぬぅあああああああーーーッ!」
 思い切り振り上げた拳を、ただ全力で振り下ろす。その一撃は、川蝉御前の眼前で弾けるように障壁に阻まれつつも、大きなノイズを走らせて。
「一撃入れば終わるなら良かったよ。その羽を血で汚すのは今一つ気が進まないんだ」
 無明丸を翼で弾いても、その脇にはすでにエリシエルがいる。炎を纏った足蹴りが、川蝉御前を蹴りつけた。
『鬱陶しいわ』
 ばりばりと弾ける障壁の中、川蝉御前は煩わしい連撃を払うべく、翡翠の炎をその手に燃やす。
「いけない……!」
 最大火力の単独攻撃。食い止めんと、後方で呪言の詠唱を始めるのは、アルニ。
「起動。顎を開け、火なる龍。命令。私が許す、敵を喰らえ……」
『ほほほ、遅いわ。焦げて伏せよ!』
 だが、火炎が放たれる瞬間、割って入った紅い影があった。
「いよっ! 酉のつく年は商売繁盛に繋がるらしいのです、素敵なのです!」
 それは、己の体を急速に進化修復させて防御の姿勢に入った、真理。
 翡翠炎が小柄な体を焼き飛ばすも、真理は受け身を取ってしゃがみ込む。その頭上を飛翔するのは……。
「収束……その力を以て火災を示せ!」
『……!』
 アルニの火炎竜。
 爆炎の直撃を受け、川蝉御前は慌てて炎を払う。
 と、そこに響くのは、ガリウスの声。
「良い感じじゃん! 負けてらんねェな! 行くぜ!」
 トラウマボールが、サッカーのロングシュートよろしく敵の眼前に弾け飛んだ。バリアを砕きこそしなかったものの、華麗な連携を前に敵は苛立たし気に地団太を踏んだ。
『この……野蛮な猿どもめ! もう許さぬ! 大人しく、酉年様に捧ぐ供物となれ!』
「……本気で来ますよ。皆さん、お気をつけて」
 アルニの言葉に合わせて、番犬全員が改めて身構える。
 翡翠の巨鳥はひと羽ばたきして浮かびあがり、浮遊したまま印を組んで輝きを増す。
 甲高い鳴き声が、境内に酉年の祝いを歌う。

●砕けた翡翠
 ……境内には、闘いの閃光が飛び交っている。
「鶏肉って、豚肉や牛肉に比べると健康的だしね! きっと酉年にかこつけてちょっと安めで提供されるに違いないよ。酉年最高!」
『良く聞いておれば、称えているようで、喰らいたいだけではないか!』
「フライドチキン美味しいです。酉万歳、なのですよ!」
『やかましい! 敬意を払うならせめて生産者から直に買え! 定価で!』
 怒りの鳴き声と共に、翡翠の輝きは何度も弾け飛ぶ。ついに、のぼりを掲げていたプライド・ワンは爆炎から主人を庇って力尽きた。
『使い魔では何の足しにもならん! グラビティ・チェインを寄越せ!』
 真理と陽葉は良く攻撃を誘導し、中衛以降の被害はほとんど無かった。陽葉の調弦の音色が真理の背を支え、スパイラルアームが果敢に障壁と激突する。しかし二人は今や、痣と火傷の傷も生々しい。
「二人が限界だよ……! 攻撃誘導はもう十分だ、片をつけなきゃ!」
 そう言うエリシエルにも、傷は少なくない。
 ディフェンダー二人で誘導を続ければ、前衛は常に攻撃に晒される。敵に列攻撃があるならば、庇いきれぬ分も出る。アンノは全力で前衛を支えてきたが、時間が経つほどに負担は大きくなる。
「ぬぅ……! 思いのほかタフな奴じゃ! これで、抜くぞ! 合わせてくれい!」
 無明丸とエリシエルが、川蝉御前を挟み込んだ。
「おぉおおお!」
「山辺が神宮石上、神武の御代に給はりし、武御雷の下したる、甕布都神と発したり……万理断ち切れ、御霊布津主!」
 瞬間、大小の小太刀と一対の百節根が、流星群の如く連撃を叩き込む。障壁は緑電を弾けさせながら、みるみるうちにひびを走らせていく。
『小癪な! ええい、これで終わりよ!』
 障壁が砕くまであと一歩……と言うところで、川蝉御前は空身を捻り、怒涛の連撃を脱する。
 次は駄目だ。前衛がもうもたない。
 その時だった。弾け飛んだ縄が、障壁ごと敵を縛り上げたのは。
『……!』
「酉年は未来に羽ばたく素晴らしい年……その始まりに、誰も倒れさせたりしない」
 マルレーネの禁縄禁縛呪に合わせて飛び降りてくるのは、ガリウス。
「おう。大賛成だ! 行くぜ! ブーストナッコゥ! 酉年最高だな!」
 空のアイスを吐き捨て、頭上から振り下ろされた重撃。
 遂に障壁は、硝子が割れるように砕け散る。
 それでも川蝉御前は最後の足掻きを見せ、翡翠色の爆炎を解き放った。酉年を称えた、ガリウス目掛けて。
『死ね、野蛮な猿め!』
 塵と化すほどの全力の火炎。だが、ガリウスは金色の盾に囲まれながら受け身を取って地に降り立った。
『な、に……!』
「あはっ! 僕がいるのに無策に突っ込ませるわけないじゃん」
 それはアンノのマインドシールド。そして彼が目配せする先には、すでにアルニが印を結んで。
『お、の、れぇえええ!』
「目標補足。空間固定。魔術起動。起源を騙り。神聖を盗み。破壊を以て……原罪を断つ!」
 赤熱した流星が、川蝉御前を刺し貫いた。
 翡翠色の輝きがその身を破るように迸り……そして収束する。
 息を呑んで輪を縮める群衆の真ん中に、ぱたりと倒れたのは被害者の女。
 群衆が歓声と共に番犬たちを取り囲み、倒れた女を助け起こす。
 川蝉御前は、もうどこにもいなかった……。

●人々の祝い
 境内のヒールも終わり、片付けも人々が手伝ってくれて、神社は暖かな賑わいを取り戻している。
 そんな中、拝殿に向けて、ぱんっと手を叩く音が響く。しばらくの沈黙の後、マルレーネはそっと振り返った。
「無事で、よかった……」
 ヒールも終わり真理は大方の傷は癒えたものの、癒え切らぬ分には包帯や絆創膏が貼ってある。
「少々、無茶しちゃいました……ありがとうです、マリー。色々あるかもですが……今年一年も、無事で一緒にいましょうね」
 無茶をするのが性分といえど、割り切れるものではない。ため息を落としながら、お守りをもらいに行く二人に、お疲れ、と、声を掛けるのはガリウス。
「お仕事完了ってな。一仕事した後はまた格別なんだよな。真理も食べるか? 限定品の苺だが」
 チューブアイスをやり取りしながら、階段を降りる三人を迎えるのは、アルニ。
「お疲れ様です、先輩。共に仕事をするのは初めてでしたが、色々と参考になりました」
「被害者の人は?」
 マルレーネが訪ねる。示された方では、救出された木崎俊子が、仲間たちと話していた。
「まったくお主も難儀な目にあったのう……しかし川蝉御前というネーミングセンスはどうなのじゃ?」
 無明丸の問いかけに、俊子はどぎまぎしながら首を振った。
「な、何にも覚えていないんですよ……なんかこう、野鳥たちを助けられるような力を授かったりしてたんですか?」
 その質問に、エリシエルが「いや、全然」と首を振って。
「所詮は紛い物の神様さ。神様ってのは『見守っていてくれるもの』であって『願いを叶えてくれるもの』じゃあない。あたしはそう思うよ」
 アンノは階段に座って、すらっとした足を投げだしている。
「そうだね。鳥たちに酷いことをしたのも、保護をしたのも、人間だし。僕も応援するよ……ところでさ」
 酉年様がいるなら戌年様とかもいるのかな?
 それは、ふと思いついて口にしたこと。
 陽葉がため息を落としながら、神社で引いたおみくじを結びつつ。
「勘弁してよ……毎年そんなもんが現れちゃ、たまったもんじゃない」

 ……こうして、酉年様の野望は砕かれ、新年の祝いは平穏のままに保たれた。
 しかし、酉年である限り、その大いなる野心は留まることを知らないだろう。
 酉年様の尽きぬ野心を思い、少しうんざりした気持ちで番犬たちは帰路につく。
 彼が次に現れるのは、果たして……。

作者:白石小梅 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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