酉年様事件~一年中正月、これ絶対

作者:塩田多弾砲

「……はー、遅くなっちゃったわねえ」
 留学生のダイアナ・マーチンはそうひとりごち、神社の本殿へ並ぶ小さな行列の最後尾に付いた。
「まあ、年末年始に、アメリカに一時帰国したけど……日本の大晦日と正月を体験したかったなあ。日本の伝統行事や習慣を、もっと学びたいし。初詣も……」
 物思いにふける彼女だが、やがて……何かに憑りつかれたかのように、物蔭へ進むと、しゃがみ込み、うずくまった。
 そのまま、しばらく出てこない。
「あの、どうしました?」
 心配した神社の関係者が、社務所から出てきて彼女へ声をかけた。が、返答はない。
「ええっと……日本語通じないのかな。May I help you?」
 英語で語り掛けるが、それでも返答しない。
 が、
「あけまして、おめでとうございます!」
 別人になったかのように、ダイアナは『立ち上がった』。
 その姿もまた、変化している。まるでニワトリの着ぐるみを被っている……否、ニワトリそのものになったかのように。
「今年は酉年! 12年に一度しかない重要な年デス! この一度しかない重要な時間を、どうして最近のニッポン人はもっと気合入れて祝い、過ごさないのデスか! ……ああ、わかる、わかりマスよ! 酉年だからこそ、酉年そのもの、すなわち『酉年様』をもっと崇めるべきだと皆さん言いたいのデスね!」
 姿と同様、性格も変化したダイアナがまくしたてる。その姿は、まさにニワトリ女。体中に正月飾りを括り付け、年賀状やらお年玉袋やらをアクセントとして飾っている。
「酉年なら、一年中酉年様を崇め奉るべきデス! 故に一年365日を、全て正月として祝い続けまショウ! イッツ、ShowTime! 然らざれば死あるのみdeath! あけましておめでとうございます!」
 そう言って、ダイアナは……
「『年賀状出してない』? メールで済ますんじゃないデス! 日本人だったらハガキで出すべきデス! 『おせちは嫌い』? 日本人なら必ず食べなさいデス! カレーなどもってのほか! 『電線あるから凧揚げできない』? 感電しても構わないからするデス!」
 などと口走りながら、初詣客たちに襲い掛かっていた。

「……と、このような事件が起こるみたいッス」
 新年の挨拶もそこそこに、ダンテが語る。
「どうやら『酉年様』ってな奴が、こんな事をしでかしたみたいッスね。12年に一度だけこういう特別な力を得るようで、酉年を祝う人たちの祈りを奪い、こうやって力を付けたと思われるッス」
 そして、集めたこの力を用い……神社にお参りした全国の老若男女を、このように変貌させているのだという。
「この、ダイアナってアメリカ人の留学生さんも、この『酉年様』ってやつに『酉年ビルシャナ』ってのに変貌させられ、配下にさせられたッス。そして……」
 ここから、人々を『殺害』し……更なるグラビティ・チェインを得ようと企んでいる、と。
「こいつは神社に出現してるッス。なので、被害が出る前にこの酉年ビルシャナを退治して欲しいッスね。っても、彼らは強制的に変化させられているだけであるので、今回倒す事が出来たら救出は可能ッス」
 しかし、今回倒せなければ、彼または彼女のビルシャナ化は定着してしまい、救出不可能になるという。
「なので、可能な限り今回撃破するようお願いしますッス。で、こいつが出現する場所や、その戦闘能力ッスが……」
 場所は都内の、それなりに古く歴史ある神社の境内。広さもあるので、戦う場所には困らない。
 そして、戦う時の特徴だが。
「より強力なグラビティ・チェインを得るためか、『酉年を褒め称える』発言をした者を、まず最優先で攻撃するみたいッス。これをうまく利用すれば、一般人が狙われる事無く、皆さんへと攻撃を向けさせる事ができると思われるッス。故に、避難させる必要もないッスかと」
 他にも、ダイアナ自身は『正月を含めた、日本古来からの伝統行事や習慣』にも興味があるらしいとの事。
「なもんスから、『正月続けてたら、節分や七夕やお盆など、以降の行事が出来なくなる』と指摘するのも良いかもしれないッスね」
 そして、酉年ビルシャナは、経文を唱えて心を乱したり、鐘の音を鳴り響かせてトラウマをよみがえらせたり、自身の傷を治したりといった能力を持つらしい。
「酉年ビルシャナをやっつけるのはもちろんッスが、今回は撃破したら元に戻せるッスから、犠牲者を『助け出す』って事を忘れないで欲しいッス。新年早々、人を死なせるのは後味悪すぎッスからね。ともかく、このダイアナさん含め、新年を祝う人たちを救ってほしいッス」
 皆さん、今年一年も、よろしくお願いしますッス……と、ダンテは君たちへ頭を下げた。


参加者
ノア・ノワール(黒から黒へ・e00225)
ワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)
筒路・茜(赤から黒へ・e00679)
桜狩・ナギ(花王花宰の上薬・e00855)
鈴木・犬太郎(超人・e05685)
セルティ・ジーヴェン(天女様のメイドさん・e09786)
ヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)
イ・ド(リヴォルター・e33381)

■リプレイ

●酉年様の厄誕
「あけまして、おめでとうございます!」
 神社に現れた『酉年様』の姿は、実に奇妙かつ『滑稽』ではあったが……同時に『危険』な雰囲気をも醸し出していた。人がニワトリの着ぐるみを着こんだかのような『それ』……『酉年様』と化したダイアナの、ニワトリの頭部、ないしはその顔には、普通の鶏のそれとは異なる、禍々しい表情を浮かべていたのだ。
 神社の巫女や関係者たち、そして参拝客らが、その異様さに後ずさるが……。
「ほう、これはまた……正月から、誠に縁起の良い物を見た。『酉年』のビルシャナ、とはな!」
 何かの教団の教祖がごとく、威厳ある声と言葉に、『酉年様』は振り返った。
 視線の先には、緑玉のごとき瞳と、長く伸びた紫の美しい髪、そして色白の肌を持つ、シャドウエルフの女性。その右半面を覆うは、片眼鏡のような仮面。
 彼女の名は……ワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)。
「知っておるか、タルタロン帝」
 彼女の近くには、忠実な従者か騎士のごとく控えているシャーマンズゴーストの姿が。
「酉年は、『取り込む』……つまりは、運や脚を取り込む事を意味する、商売繁盛にはもってこいの干支よ。いや実に、めでたいのぅ!」
 主人の言葉を聞き、タルタロン帝は肯定するかのように体をゆすった。
「……今、酉年はめでたいって言いましたデスか?」
 そしてワルゼロムの言葉を聞き、『酉年様』は振り返った。
「うむ、申したぞ。のう? 鈴木・犬太郎(超人・e05685)殿?」
「ああ、言ったぜ。あと、俺も残念ながら……今年24歳で、年男なんだよな」
 ワルゼロムとともに並ぶは、精悍な顔つきと体つきの青年。彼、犬太郎の姿を見た『酉年様』は、満足げにうなずいていた。
「そうデスかそうdeathか! それはなによりデス! まさに神に捧げる命に相応しい方々デス!」
『酉年様』は、ワルゼロムと犬太郎へとその顔を向けた。その隙に、犬太郎は『酉年様』の後ろに立つ仲間たちへと目くばせした。
 それを見て、うなずくはノア・ノワール(黒から黒へ・e00225)。長い黒髪と、赤いまなざしが蠱惑的に魅力的なサキュバスである彼女は、足元のボクスドラゴン・コレールとともに、周囲に集まった野次馬たちの人払いをしはじめた。
「さあみんな離れて、ちょっと危険だよ。茜、手伝って」
「―――はい、ご主人様! さあみんな、下がって下がって」
 明るい桃色の瞳と髪を持つドラゴニアンの美少女、筒路・茜(赤から黒へ・e00679)がノアを手伝う。
 野次馬たちは二人のおかげで距離を取って離れたが、『酉年様』はそれに気づかず呵呵大笑。
「そうデス! まさに今年は酉年! 酉イヤー! 故にワタシの大天下なのdeath! さー、ワタシを崇めひれ伏すデス! さすれば……そのご褒美にはるかな眠りの旅を捧げてやるデス!」
 遠回しに『命を奪ってグラビティ・チェインを得る』という事を伝えた『酉年様』だが、
「……『非合理的』、だな」
 ワルゼロムと犬太郎は、『酉年様』の肩越しに……クールに言い放つ彼の姿を見かけた。
 浅黒い肌と金髪を持つ、犬太郎同様に精悍な青年……レプリカントのイ・ド(リヴォルター・e33381)が、そこにはいた。

●酉年様の困惑
「非合理的? 非合理的デスと? なんて事を言いやがりますデスかっ!」
 振り返り、激昂する『酉年様』。その変わりようといきり立つ様子から、周囲のギャラリーはどよめき恐れたが……イ・ドはまったくひるむことなく言い放つ。
「いいや、まったくもって非合理的だ。キサマの望んでいた『日本文化』を学ぶ上でも……なおのこと『非合理的』だ」
「ぐぬぬぬ……どこが非合理的デスか! 言うデス! その『理由』をッ!」
 感情的にわめきたてる『酉年様』に対し、
「ああ、言ってやろう」
 対照的に、理知的に言い放つイ・ド。
「一つ。『来月』に目を向けるがいい。もうじき二月になる。その頭に待ち受けるは、『節分』だ。己の検索によれば、この『節分』という行事において、日本の人々は『恵方巻』を食する習慣がある。干支よろしく、その方向を向いてかぶりつくらしいが、それがJapanese・Styleだ」
 そして……と、彼は付け加える。
「オセチでも、雑煮でも、この『恵方巻』は実現できまい」
「なっ……ななななな、何を言ってるデスか! おせち料理は日本の文化、日本の心のよりどころデス! 代わりに伊達巻や昆布巻で行えばいい事デス!」
 うろたえる『酉年様』だが、イ・ドは呆れたようにかぶりを振った。
「そちらこそ、何を言っている。……そも、オセチ自体が高級で、毎日食べるには向かない品だろうが! キサマ……毎日オセチを食するが真に合理的か、自分の財布の中身を鑑みるがいい!」
「う、うるさい黙れデス! おせちは美味しいのです! だから毎日食べるべきなのデス!」
 早くも論理性を失った言動に、イ・ドの後ろから姿を現した鎧武者姿の少年が歩み出た。
「ったく、ニワトリ野郎が何わけわからん事言ってるんや。ほんま、新年早々はた迷惑なやっちゃな。焼き酉年様にしたろか?」
 桜狩・ナギ(花王花宰の上薬・e00855)の言葉に、
「ああ、全くはた迷惑極まりないな」
 鬢髪と金の瞳を持つ、人の姿を有したドラゴニアンの青年が相槌を打った。彼の名は、ヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)。近くには、巨大な拳状の一輪マシン『魂現拳』が控えている。
「何が『わけわからん』デスか! 日本文化を否定するキサマラの方がはた迷惑death!」
 と、徐々に訳の分からない発言になっていることに気付かず、『酉年様』は吠えるが。
「いいや、はた迷惑なんはそっちや! 確かに正月はめでたいもんやけど、他にもおもろい行事は盛りだくさん、ぎょうさんあるんや! 自分、正月だけ祝って他の行事を否定するんは、それこそ日本文化の否定やないか?」
 そう言って、ナギは己の姿を、鎧兜に身を包んだ自分の姿を見せつけるかのように、胸を張った。
「見てみぃ、『子供の日』……五月五日の『端午の節句』には、こないな鎧兜を着たり、鯉のぼりを揚げて、日本男児の健康を願うんやで! これも正月の前に潰すいうんか?」
「ぐ、ぐぬぬ……」
 もはや、言い返す事すらできない『酉年様』。更にそれに畳みかけんと、ヒエルが口を開く。
「ああ、365日ずっと正月など、それこそ……日本の伝統行事を潰す行為だ。日本という国は昔から、春夏秋冬、それぞれの『季節』に合った『生活』や『行事』を行う。『正月』も、その一つ」
 そして……と、ヒエルは区切り、言葉を続ける。
「『季節』が過ぎ行き、物悲しさを感じつつも、次の『季節』を向かい入れる。そしてまた……一年後に出会う喜びを、『行事』をもって示すんだ。彼らが……イ・ドが言った『節分』、そして今ナギが言った『端午の節句』も、そういった『行事』の一つ。それらは全て、正月に勝るとも劣らぬ大切なもので、それぞれはまた楽しくおもしろいものだ」
「そやそや! あんさん、見てみたくないんか? 五月五日に、沢山の鯉が空を泳いどるとこ! 端午の節句の柏餅やチマキ、食ってみたくないんか!? だったら頑張って正気に戻りや!」
 ナギがヒエルの言葉を肯定し、
「そうだ。『節分』もまた、来るべき年に備え、厄払いを行う『行事』。正月と同じく大切で、正月とは異なる魅力がある。それを否定する、というのか?」
 イ・ドがヒエルの言葉を後押しする。
 ヒエルはそれらにうなずき、
「それに、もう一つ……お前の国でも『クリスマス』をはじめとした、さまざまな『行事』があり、やはりその時々には、その限られた時を大切に過ごしているはずだ。それらもまた、大事な伝統行事……それを踏まえて尋ねるが……」
 彼は『酉年様』へと、鋭い視線とともに……その『問い』を放った。
「今のお前の行為は、本当に『伝統行事』を大切にしていると言えるのか?」
「……」
 もう返答すら出てこない。
 が、
「……黙れ、黙れ黙れだまれえええっ!」
 先刻までの空気が塗り替えられたかのような、鬼神のごとき形相が『酉年様』に浮かび上がった。

●酉年様の激怒
「正月は犬が喜んで庭を駆けまわり、猫はオコタで丸まるんデス! てめえらみてーな正月を否定するダボどもは今すぐお炊き上げ……ぐはっ!」
 最後の『ぐはっ』は、レプリカントの美少女メイド……セルティ・ジーヴェン(天女様のメイドさん・e09786)が問答無用で殴りつけた際の呻き声。
「……」
 言葉無いまま、セルティはひたすらパンチパンチパンチ。それはまるで、怪獣とジャガーとがコンビを組んだかのよう。
「おお! すげー!」
「いいぞねーちゃん、やっちまえ!」
「ニワトリ怪人やっつけちゃえ!」
 遠巻きにギャラリーも騒ぎ立てる。
 後方に殴り飛ばされた『酉年様』は、石畳の上へと飛ばされ、無様に転がった。
 衝撃で、奇妙な方向へと首が曲がった『酉年様』だったが……立ち上がると、すぐにそれが回復し始める。
「正月のめでたさは、否定させないデス! 
「はっ、何がめでたさを否定しないだぁ? それは、グラビティ・チェインを手に入れるための建前だろ?」
 犬太郎が、回復した『酉年様』の前に立ちはだかる。
「……好き勝手、させられねぇな」
 拳を握り締め、構えた犬太郎だが。
「……!? なんだっ?」
『酉年様』のブツブツ言う声が耳に、脳に突き刺さるかのように……己の精神に食い込んだのだ。
「……不覚……!」
 殴り掛かろうとしたセルティだが、彼女もまた混乱したかのようにきりきり舞っている。
 だが。
「行け、『魂現拳』!」
 ヒエルの命を受け、巨大な拳型マシンが『酉年様』へと突進する。火炎をまとった体当たりが功を奏し、ビルシャナ経文が途絶えた。
「タルタロン帝、やれぃ!」
 次は、ワルゼロムの声。
 炎に焼かれ、衝撃にのけ反った『酉年様』へと、タルタロン帝の斬撃が襲い掛かる。
『酉年様』の口から、ないしは嘴から、苦痛の悲鳴がほとばしった。
 経文が消え、セルティは再び殴り、殴り、殴りつける。ジャブの連打で反撃を許さず、ストレートをニワトリ頭に叩き込み、ボディをアッパーカットで殴り上げ、宙へと放り投げる。
「行って、茜!」
「―――はいっ!」
 すかさず、ノアの指示を受けた茜が、行動に移った。
 天空に、黒き魔法陣……狂気と邪悪と、暗黒と深淵とが混合されたかのような、魔界への扉めいた魔法陣が出現し……遠巻きにケルベロスたちを見ていたギャラリーがどよめいた。
「―――『餌の時間だよ……』」
 茜の、可憐なドラゴニアンの美少女の言葉とともに、魔法陣から異様な『それ』が姿を現す。
「な、なんだ!?」
「なんか、スゲーぞおい!」
「かっこいい!」
 それを見て、周囲の野次馬たちは恐れおののき、ざわついた。
『それ』は、超巨大なドラゴンの『首』。
 幾千もの鎖に縛られた、天空を覆わんばかりのドラゴンの首が、魔法陣から生じていた。
 天地をも食らう事ができそうな、その顎を開いたドラゴンの首は、
「―――『……ドライグッ!!!』」
 茜の言葉とともに、猛烈な火炎を『酉年様』へ吐きつけた。
「ひいいっ! 火、火―っ!」
 茜の『捻繋召喚(クレイジーアクセスコード)』により、召喚された魔獣『ドライグ』の首が放ったブレスは、文字通り『酉年様』に直撃し、焼き鳥にしかけた。
 が、それでも転がって逃れようとしたが。
「……一撃だ、俺のたった一撃を……」
 逃れた先には、犬太郎の姿が。
「……全力で完璧に、お前にブチ込む!」
 彼の獄炎とともに放たれた、拳の一撃。
『神風正拳ストレート』が、『酉年様』の存在を殴り飛ばし、彼方へと消し去った。

●酉年様の終焉
「……あれ?」
 ダイアナが目覚めると、
「すげーなあ、さっきのドラゴン召喚、マジすごかったッス!」
「美少女だし、かっこいいし! 一緒に写真いい?」
「―――、いや、あの……」
「へえ。茜、ボクよりモテモテだね」
 ギャラリーに囲まれている、ノアと茜の姿が。
 そしてダイアナ自身は、自分が参道脇で介抱されていると気付くのに……多少の時間を要した。
「気が付いたか? 調子はどうかの?」
 ダイアナの耳に、ワルゼロムの声が届く。そしてタルタロン帝の姿を見て、彼女は思わず声を上げた。
「体の具合はどうだ? どこか、痛むところは?」
「もしどこかを負傷しているなら、救急車を呼ぶが?」
 犬太郎とヒエルが、ダイアナの顔を覗き込んでくる。大慌てでダイアナは立ち上がった。
「あ、だ、大丈夫です。ええと……なにか変なニワトリに、ワタシ……」
 やがて、徐々に記憶が鮮明に。何かに取りつかれたかのように、酉年を崇めるよう強制しようとしていた事を、ダイアナは思い出した。
「ま、最悪な初夢見たようなものだ。忘れてしまうのがよかろう」
「そうだ。それに、悪夢見たら良い事が起こるというから、今年一年は良い事が起こるぜ。きっとな」
 ワルゼロムと犬太郎の言葉に、ダイアナは恥ずかしさを覚え縮こまった。
 ダイアナが周囲に目を転じると、仲間らしい者たちが後始末をしている。
「………」
 セルティは、戦いの余波を受け崩れた石塔を直し、
「……こんなもんやろか? ……ってそこ! サボらんといてや!」
 ナギは、散らばった絵馬やおみくじなどを集め、結びなおしていた。
「今回、戦闘には不参加だったが……ふむ、検索すると、日本文化とは興味深いものだな。己の知らない知識がかなりある」
 ナギに言われても、イ・ドは手にしたアイズフォンで何やら検索中。
「あー……それでだな」
 ヒエルがぶっきらぼうに、しかし優し気な口調で、ダイアナに語りかけてきた。
「大晦日はもう過ぎてしまったが、神社への参拝は今でもできる。まずは今の行いを神様に謝り、今年一年の幸せと平和を願ってみたらどうだ」
「参拝を……今から、ですか?」
「ああ。その後は御御籤や御守……やる事は色々ある。酉年一つに拘っている場合ではないな。来年の戌年、再来年の亥年と、正月はまたやってくる。じきに二月になるが……初詣するのには、今この場で行っても、遅くはないだろう」
 そうだ。まだチャンスはある。
 今年の正月は祝えなかったが、きっと来年からはその機会もあるはずだ。
「そう、ですね。大変なことをしちゃったんですから、まずは神様にお詫びしないと」
 そう言ったダイアナが、本殿へと向かおうとした時。
「ああ、それから。……あけまして、おめでとう」
 ヒエルは呼び止め、力づけるような微笑みとともに言い放った。

作者:塩田多弾砲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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