酉年様事件～一攫千金の夢を求めて

■リプレイ

●鳥、来襲
「（１２年に一度……鳥型故に酉年に力を発揮するのでしょうか）」
　リー・ペア（ペインキラー・e20474）はそんなことを考えつつ酉年ビルシャナの襲撃に備えている。
「――こんな感じでよろしく！」
　小野寺・蜜姫と諸般の事情から忘れてしまった天変・地異（ディザスタードラグーン・e30226）に作戦概要を説明するのは天満・十夜（天秤宮の野干・e00151）。
「着物じゃないのか、残念。まぁ、初詣の時期はもう過ぎてるモノなぁ」
「当たり前でしょ。何考えてるのよ、もう」
　蜜姫の姿を見るなりそんなことを言う滝川・左文字（食肉系男子・e07099）は神社に説明をしてきた帰りであり。そのまま通り過ぎると参拝者を装って時間を潰す。
　下準備はフレック・ヴィクター（武器を鳴らす者・e24378）もしっかりとしてきている。参拝やら神社の由来やら諸々を調べ、神社の見取り図を確認して頭に叩き込む。そして避難経路を把握して避難担当にあらかじめ伝えておく。同時にディフェンダーへと褒め言葉も伝える。
　フレックと別れてライドキャリバーのディートと境内を回るヴィットリオ・ファルコニエーリ（残り火の戦場進行・e02033）が異変に気付く。
　ヴィットリオはすぐさま隣人力でパニックになりそうな参拝客へと呼びかける。
「皆さん大丈夫です、僕らはケルベロスです！　皆さん、落ち着いて逃げてください！」
　鳥の鳴き声が聞こえてくるが参拝客の混乱はさほど見受けられない。
「慌てずに頼むぜ、押したりすんなよー！」
　それは久保田・龍彦（無音の処断者・e19662）もフェスティバルオーラを展開して避難を呼びかけていたからであった。
「みんな、あたしと一緒に来て！」
　同じくフェスティバルオーラで参拝客の誘導をする蜜姫、そしてサポート参加のレギンヒルド。彼女は空から避難誘導をする。
「気を付けてねー。――さて、と」
　アーシェ・ネイトラスト（ドワーフの鎧装騎兵・e20369）はビルシャナの注意を引き付けるべく呼びかける。
「いやいや、なんていうかオーラが違うよねオーラが。他の干支と比べてもご利益ありそうっていう感じだよね。格好もおめでたいしさー、やっぱ干支の中の干支、真打は違うねーって感じだよ」
　ね、と同意を求められたリーはこくりとうなずいた。
「酉、とは取り込むに繋がり、運気を取り込むのに適した商売繁盛の干支と聞きます。更に酉という漢字は、果実が極限まで熟した状態を指す漢字であり、物事が頂点まで極まった状態であるとか」
　ですから験担ぎとしては限りなくベターな選択であると言えます、とリーが褒める半分蘊蓄半分で言った。
「１２年に一度の鳥、飛翔の年だしね。鶏って野生だと空飛べるらしいし、広い空を連想させるよね。清々しい気持ちになれるかな。こんなの、他の年じゃ無理だね」
　そうヴィットリオが続けたところでビルシャナは鳥目を吊り上げてケルベロス達をにらみつける。
「お主達、そんなにグラビティ・チェインを奪われたいのか！　ならば奪ってやろうではないか！」

●鳥、強襲
　コケーという鳴き声のようなそれは当人もとい当鳥にとっては経文に他ならない。それはヴィットリオへと浴びせかけられる。
　避けられずに攻撃を受けたヴィットリオは催眠を受けるが、ビルシャナのポジション効果によってより多く受けてしまう。
　自分にかかった催眠を打ち消すべくヴィットリオは吠えた。その叫びによって自らに掛けられた催眠は消えていく。
　ディートが炎を纏って単騎で突撃をかけるがビルシャナはひらりと避ける。しかしその陰にいたフレックの攻撃を避けることはできなかった。
「酉年ってやっぱり凄いわね」
　雷刃突で突く際にそんなことを囁けばビルシャナは激昂する。
　リーはヒールドローンで前衛の防御を固めつつ、そんなビルシャナの様子を見て酉年褒めにも効果があることを興味深そうに見ていた。
　攻撃の様子からビルシャナをジャマーだと判断した十夜は無数の死霊を召喚した。
「死霊と氷塊、好きな方で逝っちまいな！」
　次いで巨大な氷塊を降らせる滅魂と氷鎚の溶鉱炉（コキュートス・キューポラ）。呪術と質量の二段攻撃がアサルトヒットし、ビルシャナを襲う。
　死霊が消えると続けてアーシェが地裂撃を繰り出す。強烈な一撃でのけぞるビルシャナにキャットリングが飛ばされた。
「そういえば年賀状お年玉なら当たったぜ！」
　龍彦はそんな言葉とともに鎌を手にして激しく斬り付ける。その傍らでボクスドラゴンのコラスィがヴィットリオへ属性を注入して傷を癒している。
　わりとトサカにきているらしいビルシャナに柏手を打つのは左文字。
「どうか今年一年の武運長久をお願いします」
　ビルシャナに祈願をした後、ご利益を試さんとばかりに与銘・山掛月を一瞬にして抜刀し、居合い斬りで斬り捨てた。
　全体のポジションを確認してスナイパーを選択した地異が破鎧衝でビルシャナに強烈な一撃を与える。
　多少のダメージは食らったものの、ビルシャナはまだピンピンしている。　
　先程褒められたことをしっかり記憶していたビルシャナは鳥目で前衛を見たかと思えばそれは閃光となって襲いかかって来る。だが身を呈して仲間達を攻撃から護るのはディフェンダーの２人と１体、そしてサポート参加の真理。
　ヴィットリオは霊力を帯びた紙兵を散布して自分を含めた前衛の回復を行うと同時に耐性を高める。ひらりと舞う紙兵を受けながらディートはスピンをかけてビルシャナの足を轢く。
　魔剣「空亡」を振るい、フレックは斬撃を放った。それは当たり所がよかったようでアサルトヒットし、ビルシャナの袴の裾が千切れ飛ぶ。
　ビルシャナの足止めをすべくリーは杖というよりメイスと形容したほうがしっくりくるライトニングロッドを砲のように構えて雷撃を発射した。
　雷に打たれて痺れるビルシャナは次いで爆破される。それは十夜が先の攻撃時に貼り付けていた見えない爆弾のせいであった。爆破による煙がおさまると同時にボクスドラゴンのアグニが箱に入って体当たりをする。
　攻撃の手は止まない。ウイングキャットが羽ばたきで前衛を癒すと同時にアーシェは高速で体を回転させてビルシャナへと突っ込む。回転の勢いは止まらず、そのままもう一撃余分に喰らわせた。
「知ってるか？　神社でも祭事の為に鶏を飼ってる所もあるそうだぜ。すげぇよな！」
　賛美の言葉とともに回復に重点を置く龍彦が奏でるのは「ブラッドスター」。コラスィの属性注入とともに仲間の傷を癒す。
　オウガメタルを鋼の鬼と化して左文字は戦術超鋼拳でビルシャナを撃ち貫かん勢いで殴り付けた。
　吹っ飛ばされたビルシャナは地異の足元へ。彼は指天殺で攻撃を与える。
　砂埃を払いつつ立ちあがったビルシャナは眩いばかりの光を放った。黄金でギラギラした体から発されるそれは清めの光。ビルシャナは体力を回復させるついでに若干貧層になっていた袴も元に戻した。
　回復の手が足りないと判断したヴィットリオは紙兵をさらに撒く。
　紙兵の守護を受けたフレックはヴァルキュリアブラストで突撃する。
　フレックが駆け抜けたすぐ後、リーはライトニングメイスを構えてフォートレスと同時に展開し、ビルシャナへ雷撃の嵐を浴びせかける。
　続けて十夜が滅魂と氷鎚の溶鉱炉によってビルシャナの周囲にまるで壁のように死霊を呼び出し、苛む。
　逃げられない状況下でアーシェがスイッチを押した。とたんに爆発するビルシャナ。煙がおさまればウイングキャットが爪とぎの要領でばりばりとその足をひっかく。
「聖なる木よ、邪気を払え！」
　龍彦はダメージが蓄積しているヴィットリオを宿り木の守護で癒した。魔法のヤドリギで描かれた魔方陣は癒すとともに邪気を払う効果もある。
　納刀状態から一瞬で抜刀した左文字がビルシャナを斬り捨てると地異がセイクリッドダークネスですり潰すように打ち砕いた。

●鳥、落命
　レギンヒルドのサポートの甲斐もあって大きなトラブルもなく参拝者を誘導することに成功した蜜姫が戻ってきた。ビルシャナはそんな彼女へひと鳴きして経文で攻撃しようとするが、それは真理が代わりに受ける。
「トサカとか冠みたいだし、たたずまいも結構堂々としてるし、鳥の王様みたいなオーラあると思うんだけどね」
　まじまじとトサカを見てヴィットリオは地獄の炎弾で狙い撃った。その炎を撒き散らかさん勢いでディートがスピンを披露し、これでもかと足を轢き潰そうとする。
　ディートが走り抜くと次いでフレックは愛刀を振るう。それとグラビティとを共鳴させて時空間「ごと」切り裂く一撃を放つ時刻み。切られた相手はそれを認識させないと言われる、鋼の戦乙女と唯一の愛刀たる魔剣の秘儀は尋常ではない威力を振るった。
　切られるビルシャナを包むのは雷撃。リーのライトニングメイスから放たれる雷は２発。それぞれが正確にビルシャナへ当たる。
　ビリビリと痺れているビルシャナへと十夜は獣化している手に重力を集中させて獣撃拳を喰らわせようとする。だがビルシャナは攻撃を相殺しようとするが、それはアグニの吐く炎の息によって阻止されてまともに喰らった。
「酉年って身近な感じでいいよねー。食卓の味方？　そんな感じでさー」
　炎に包まれるビルシャナへと能天気な言葉とともにアーシェが喰らわせるのは大地をも断ち割るような強烈な一撃。
　龍彦は「ブラッドスター」を演奏する。その音は前衛の仲間達へ活力を与えて傷を癒す。
「ヘッ！　捕えたぜ……こっちだってただ逃げ回ってたわけじゃないんだぜ？　調子に乗って暴れすぎたな！」
　左文字の鎧装忍術・糸織千刃がビルシャナを絡め取る。フィルムスーツを形成している繊維状演算回路を解いて織り上げられた霞網はビルシャナを捕らえた瞬間、刃のように鋭く硬質化させて切り刻んだ。
　そして、捕らえられているビルシャナを地異がロックオンレーザーで攻撃する。
　龍彦の奏でる音色に合わせるように蜜姫が奏でるのは「紅瞳覚醒」。メロディは異なる２つの旋律が混ざり合い、１つの音楽として戦場に響き渡る。
　ビルシャナも負けじと発光した。眩しいだけのそれは清めの光としてビルシャナの傷を多少回復させた。
　それをさせまいとヴィットリオは左手に纏ったレイヴニスロガルに地獄の炎を纏わせて叩きつける。
　燃え盛る炎を斬り広げようとフレックは愛刀で絶空斬を放つ。その軌跡は与えた傷を広げると同時に思惑通り炎を広げた。
　炎の次は雷。制圧射撃の如く注がれる雷撃の嵐はリーの展開したアームドフォートから放たれる。
　続いては氷塊。十夜の召喚した死霊がビルシャナを囲い、その真上から落とされる氷。
　押し潰されたビルシャナをアグニが箱に入ったままタックルをして押し出し、ウイングキャットがじゃれるように引っ掻いたところでアーシェのスピニングドワーフが見事なタイミングでヒットした。
　ざっくりと切られたビルシャナは弾き飛ばされて宙を舞う。それを狩るように龍彦は鎌を投げた。回転する鎌はビルシャナを刻む。その最中、コラスィは龍彦の指示を聞かずにポジションを変更する。
　地面に叩きつけられてバウンドするビルシャナ。左文字は戦術超鋼拳で装甲ごと砕くかのような攻撃をお見舞いした。そのおかげでパラパラと破れるのはビルシャナの纏う衣類。
　ついでと言わんばかりに地異が破鎧衝で服を剥ぎ取った。おかげで酉年ビルシャナはちょっと派手なビルシャナという外見に。
　するとビルシャナは体力を回復させるべく光を放った。遮る衣服がない分だけ先程よりも光は強いが回復量は変わらない。
　発光がおさまる前にディートに乗ったヴィットリオが突撃した。騎乗しながらフレイムグリードを放ち、ディードはヴィットリオを乗せたまま激しいスピンでビルシャナを攻撃する。
「ソラナキ……唯一あたしを認めあたしが認めた魔剣よ……今こそその力を解放し……我が敵に示せ……時さえ刻むその刃を！」
　フレックは力ある言葉とともに魔剣「空亡」とグラビティを共鳴させる。時空間ごと切り裂く時刻みはビルシャナを切り捨てる。
　メイスを砲のように構えたリーは雷を撃ち出す。雷はジャストヒットし、そしてビルシャナを痺れさせた。
　そんなビルシャナを穿つ十夜の獣撃拳。高速の一撃がビルシャナのこめかみにクリーンヒットした。
　逃すまいとアーシェは遠隔爆破で爆破する。まるでボロ布のように吹き飛ばされるビルシャナへウイングキャットが尻尾の輪を飛ばして当てた。
　ひらひら落ちてくるビルシャナを待ち構えていたかのようにコラスィがブレスを吐いた。ブレスにまみれて落ちるビルシャナを龍彦は鎌で激しく斬り付ける。
　そして地に伏せる直前。与銘・山掛月を抜刀し、左文字はビルシャナを瞬時に斬り伏せた。刀身を鞘に納めると同時にビルシャナは崩れ落ちた。

●鳥、結末
「どうもありがとうございました！」
　酉年ビルシャナの撃破に成功し、無事に青年を救出する事ができた。
「助かってよかったが服が汚れてるな。そっちの着物も綺麗にしてやるぜ」
　左文字はクリーニングで青年を含めた参拝客の汚れた衣類を綺麗にした。
　あらかたのクリーニングが終了すると、次に取り掛かるのは被害個所の修復。
「あっちは僕が修理してくるよ。行こう、ディート」
　ヴィットリオはディートとともに少し離れた箇所の修理へ赴く。
　地異も破損した塀の修理を。
　ヒールドローンを操るリー。定命化して日が浅い彼女はまだ感情的な思考がほとんどできず、酉年褒めという理詰めだけでない方法が成功したということを考えつつ修復をする。
　十夜は蜜姫とレギンヒルドとともに補修をしていた。
「これで終わり！　遅めのお参りして帰るんだぜ！」
　ブレイブマインを使用しての補修であったために若干カラフルになった砂利だが補修は補修。十夜は満足そうに向かう。
「あたし達もお参りしましょう」
　修理を終えた２人もお参りをすべく向かう。
「（コラスィが言う事を聞きますように……）」
　熱心に手を合わせているのは龍彦。それは心からの願いであったが、肝心の相棒はと言えば興味なさげに傍らにちょこんと座っていた。
　境内には参拝者用にと焼き餅が振る舞われている場所があった。
　アーシェはふらふらと誘われるようにそちらへ行き、近所の農家さん提供のもち米で作られた餅を美味しそうに頬張る。その食べっぷりに提供元の農家さんも嬉しそう。
　そのすぐ近くに設けられた椅子に座っているのはフレック。
「実際に大きなお金を手に入れると気が大きくなってしまってやがては破滅するって事があるらしいけど……堅実が一番かもしれないわね」
　今回のビルシャナを思い返してふっと息を吐き、海苔が巻かれた餅を食べる。もきゅもきゅと餅を食べるその姿は戦闘時の名残を垣間見ることのできないくらい歳相応の少女の姿であった。

作者：香住あおい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年1月25日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 2／感動した 0／素敵だった 3／キャラが大事にされていた 0
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