酉年様事件~願いを奪われた女性(鳥肉好き)を救え

作者:質種剰

●酉年と鳥肉
 年が明けてはや十日が過ぎ。
「……神様、どうか今年こそは……!」
 三が日のような混雑のピークを過ぎた神社では、1人の女が真剣に手を合わせていた。
 年末年始は仕事仕事で初詣に来る時間的余裕がなかった為に、今頃になってからようやく参拝した彼女。
 女には、時期を逃しかけても初詣をしたい、お賽銭を奮発してでもお祈りしたい大願があった。
「今年こそ、今年こそ、七面鳥の丸焼きを食べられますように……!」
 ——完全に去年のクリスマスを引き摺った願い事だが、当人からすれば真剣だ。
「今年こそデパ地下の七面鳥ブースの行列に間に合いますように。残業がありませんように。あっ、タンドリーチキンや鶏のローストも……!」
 どうも鳥肉が大好きらしいこの女に、思わぬ災難が降りかかる。
「くっくっく……さあ行け! 酉年を祝わなくなった不敬な人間どもを皆殺しにするのだ!」
 なんと、鳥は鳥でも鳥人間デウスエクスであるビルシャナに、無理やり同族へ変質させられてしまったのだ。
「酉年ならば一年中酉年を祝わなくてはならない! そして、我が『酉年様』を崇め奉らねばならないのだ!!」
 酉年様によってビルシャナにされた女は、七面鳥の丸焼きみたいな体を持ち、タンドリーチキンが連なる翼、鶏のローストそっくりな腿を有していた。

●酉年様の暴虐
「酉年様というビルシャナが出現したでありますよ」
 小檻・かけら(藍宝石ヘリオライダー・en0031)が困惑した様子で説明を始めた。
「どうやら酉年様とは、12年に一度だけ特別な力を得られるらしく、しかも酉年を祝う人々の祈りを奪って急速に力をつけているであります」
 その奪った力を利用して、神社で神頼みしていた老若男女を『酉年ビルシャナ』へ変貌させて配下とし、人々を虐殺して更なるグラビティ・チェインを得ようとしている。
「酉年ビルシャナは日本各地の神社にて発生するであります。どうか被害が出る前に撃破をお願い致します」
 頭を下げるかけら。
「酉年ビルシャナは、強制的にビルシャナにされているだけでありますから、倒すことができれば人間へ戻って救出できるであります!」
 ただ、今回撃破できなければビルシャナ化が定着して助けられなくなるのは留意して欲しい。
「酉年ビルシャナは、鹿児島県の神社に出現するであります」
 酉年ビルシャナは、より強力なグラビティ・チェインを得る為に『酉年を褒め称える』発言をした者を最優先に攻撃する性質がある。
「それ故、ケルベロスである皆さんが率先して酉年を称賛しながら戦闘して下されれば、周囲の一般人が襲われる危険は無くなるでありますよ♪」
 一般人が狙われなくなるのだから避難させる必要も無いだろう。
「酉年ビルシャナは、七面鳥バーストとタンドリーミサイルなるグラビティで攻撃して来るであります」
 七面鳥バーストは、近距離から敵単体へ見舞う破壊攻撃で、当たると強力な炎に巻かれて火傷を負う。
 タンドリーミサイルは、翼を羽ばたかせてタンドリーチキンを飛ばしてきて、距離の離れた敵にも命中する、複数人を対象にした斬撃だ。
 また、大抵食らうダメージが多いのも特徴。
「人々の純粋な願いを利用するなんて許せないであります。新年を祝う人々が集う神社で悲劇が起きないように、どうか酉年ビルシャナ討伐、重ねて宜しくお願い致します」
 かけらはそう言って、説明を締め括った。


参加者
虚南・セラ(ファントムトリガー・e02267)
比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)
シャーロット・ノーラン(スノーフレーク・e04982)
天王寺・薫(スカンク母さん・e05413)
タクティ・ハーロット(重力喰水晶・e06699)
七種・徹也(玉鋼・e09487)
黒須・レイン(小さな海賊船長・e15710)
二階堂・燐(鬼火振るい・e33243)

■リプレイ


 人の波の幾らか落ち着いた神社の境内では、ケルベロス達8人が酉年ビルシャナの出現に目を光らせていた。
「新しいタイプのビルシャナだなぁ……強制的にビルシャナ化とは面倒臭いことこの上無いんだぜ」
 短い列をなす参拝客を眺めつつ、タクティ・ハーロット(重力喰水晶・e06699)が溜め息をつく。
「……まあ、被害者を必ず助けられるって所で大分マシかなだぜ」
 鮮やかな緑の髪と下向きに生えたツノが印象的な人派のドラゴニアンで、相方のミミックを連れている。
 楽観的な性格に加えていつも笑顔なタクティだからか、彼の周りも常々笑い声が絶えない。
 少年の心を忘れずにいながら、密かに大人の気遣いも持ち合わせた、朗らかで優しい青年である。
「うん、やっぱりから揚げは美味しいね、鶏は色んな調理が出来るからいいね」
 一方、既に唐揚げ串を頬張って酉年礼賛シミュレートに余念がないのは、比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)。
 綺麗に切り揃えられた黒い髪と意思の強そうな瞳に、黒を基調とした着物がぴたりと嵌まっているシャドウエルフの女性。
 受け継いだ魔法使いの研究を暇潰しがてら自分なりに進めたり、日々の糧と鍛錬の為に戦場を渡り歩いたりと、自由気ままな生活を送っている。
 最近は感情を表に出す事が多くなったらしい。
「ビルシャナってのは変なやつが多いが、そんなタイプは初めて聞いたな……」
 七種・徹也(玉鋼・e09487)は、まだ見ぬ被害者へ同情を寄せてか、その顔つきは神妙を極めている。
 精悍な体格と男らしい顔立ちをした青年で、黒髪を後ろで纏めた髪型が印象的。
 失った左腕を地獄化して補う傍ら、デウスエクスに殺されたという妻の復讐を果たす為に生きている徹也。
 実に正義感の強いシングルファザーだが、離れて暮らす愛娘へ対しては、子煩悩な良いパパである。
「新年そうそうめんどくさいビルシャナだ! 初詣に来た人の邪魔をするでない!」
 と、小さな身体で目一杯憤慨しているのは、黒須・レイン(小さな海賊船長・e15710)。
「まあいい、海賊船長の今年初仕事だ! 成敗してやろうではないか!」
 流れるような金髪と自信に満ちた表情が魅力的で、髑髏印のついた海賊帽がトレードマークのドワーフの少女。
 海賊船長には威厳が必要と考えて、普段から偉そうな物言いをしているが、根は優しく努力家。
「海賊船長は何を着ても似合ってしまう! どうだ! かっこいいだろう!」
 この日は頭に大きなとさかをつけ、鶏の着ぐるみを着込んで全身もこもこなレインだ。
 実際良く似合っているが、どう見ても格好良いより可愛いという形容がぴったりなのへ、本人だけ気づいていない。
「あけましておめでとーございます!」
 他方、明るく新年のご挨拶をするのはシャーロット・ノーラン(スノーフレーク・e04982)。
「新年早々、不幸をばら撒こうとするやつは、ぼくがせーばいしちゃうんだぜーっ!」
 ふわふわした白い髪と澄んだ青い瞳が綺麗な、まだ年端もいかない少女。
 髪の一部が地獄化しているブレイズキャリバーで、ころころ変わる豊かな表情が可愛らしいぼくっ娘だ。
 いつも元気な笑顔で周りを和ませているシャーロットは、酉年礼賛の下準備として鶏の着ぐるみを着用、常よりいや増した可愛さを振り撒いている。
「どー? とりじゃん? 飛べそーじゃん?」
 鶏は飛べないとツッコんでくれる仲間は、残念ながらいなかった。
 さて。
 ドシャァッ!
 二階堂・燐(鬼火振るい・e33243)は、相変わらず小檻にヘリオンから蹴落とされて落下していた。
 何故蹴られたか理由は定かで無いが、彼の握り締めていたラバー製カップに謎を解く鍵があるに違いない。
「昨年の終わりがビルシャナでうんざりしてたところなのに、今年の始まりもまたビルシャナかよ……」
 某旅団では『黒髪セミロング前髪M字バンクの眼鏡』と十把一絡げ気味に評された燐だが、生来の明るい性格とノリ重視の言動の軽さから、残念なイケメンとの賛辞を欲しいままにしている。
 その傍ら、
「酉年という地球の文化とビルシャナには関連が……? まあどうでもいいですね。やるべき事をやるだけです」
 虚南・セラ(ファントムトリガー・e02267)は、自分も仲間同様に鶏の着ぐるみで仮装を終えるや、抑揚のない声音で呟いた。
「……それはそれとして、私も七面鳥食べたいです」
 柔らかい光を湛えた桃色の髪と、無垢な輝きを宿す赤い瞳を持つガンスリンガーの少女。
 過去の記憶が無く表情にも乏しいその様はどこか儚いものの、性格は冷静沈着、銃を手に戦い抜くだけの度胸が微かな生気にもなっている。
 ちなみに、年相応の女性らしく家庭的でもあるそうな。
「よく分からないけど、強制的にビルシャナにしようってのはどうかと思うわね」
 天王寺・薫(スカンク母さん・e05413)は、つぶらな瞳で穏やかに苦言を呈する。
 彼女の外見はと言うと、もう見たまんまスカンクの獣人ウェアライダーである。
 二足歩行のスカンクがエプロンを身に着けた姿は何とも言えぬ強烈な印象を残すが、やはり纏う空気には女性特有の穏やかさが滲み出ていて、薫の母性に溢れた優しさを感じさせる。
 母性以外にもスカンク特有の何かが溢れ出ているのかどうかは——気にしてはいけない。


 鳥肉好きのOLが酉年様の毒牙にかかったのは、ケルベロス達が到着して十数分後の事だ。
 参拝客の列からふらりとよろけるように外れた彼女の腕が翼に変わっているのを見て、慌てて8人が包囲にかかる。
「鳥が出るぞ―、安全なところに逃げてー」
「ここは船長に任せて慌てず落ち着いて避難するんだぞ!」
 シャーロットや、赤い海賊旗を掲げるレインが着ぐるみ姿で他の参拝客へ警告するのへ合わせて、
「あ、鳥ってのはアレです。ビルシャナが出たんですよー。危ないから一応念の為に退がって頂けると嬉しいなって!」
 燐も補足して警戒を促している。
「さて目の前の被害者を助けるとしますかねーだぜ」
 早速タクティは酉年ビルシャナの気を引こうと、酉年を褒め始める。
「かーやっぱり酉年だからな! なんかこーテンション上がるというかなんというか!」
 ぴく、と酉年ビルシャナがタクティへ視線を向けた。
「へえ、貴方にも酉年の素晴らしさが判るのね?」
「勿論だぜ! 酉年だと酉に合わせて鶏肉が安くなったりするよねー、鶏肉だけじゃなくて鳥関連の物もねーだぜ」
 タクティは全肯定する調子で酉年を賛美し続け、ニバルから具現化した光の剣を構えて、酉年ビルシャナに斬りかかった。
「……はっ! ミミックが鳥の恰好を!」
 主に続けと飛び出したミミックも、黄色い嘴と赤い鶏冠を蓋の上に装着していて、実に可愛らしい。
「ミミックもやっぱり12ある干支の中でも酉が好きだったのかだぜ……!」
 タクティが感嘆する傍ら、ミミックは偽物の財宝を景気良くばら撒き、酉年ビルシャナを翻弄している。
「酉年と言えばインターネットの誕生した年だね、きっと酉年でなかったら誕生しなかったんじゃないかな」
 唐揚げ串を食べ終えた黄泉は、偶々酉年に起きたおめでたい出来事をさも酉年のお陰で起こり得たかのように褒めそやした。
 そのまま古代語の詠唱と共に魔法の光線を放って、酉年ビルシャナの身体を、まるで石化したかの如き硬直状態へと陥れた。
「酉年生まれの人ってのは、世話好きで交際範囲も広いというよな。それに情報に敏感で時台を先取りする能力にも優れているとか」
 徹也は至極冷静な声音で尤もらしく酉年生まれを称賛する。
 褒める間にも体内の豊富なグラビティ・チェインを破壊力へと変え、BlazePhoenixのオーラへ込めて、酉年ビルシャナ目掛けぶっ放した。
 ——ギャリギャリギャリギャリ!
 ライドキャリバーのたたら吹きも鶏の羽をつけた格好のまま突撃、酉年ビルシャナの足を容赦無く轢き潰した。
 一方。
「酉年は実りの年らしいからな! みんながおっきくなれるのも酉年のおかげ! 後、鶏肉が美味しいから!」
 鶏着ぐるみで歩くのにも慣れ、無邪気に翼を羽ばたかせて酉年大好きアピールをするのはレイン。
 味方のサポートも抜かりない彼女は、前衛陣の後ろから色鮮やかな爆発を発生させて、爆風を背にした彼らの士気をぐんと高めた。
「そう、酉年の素晴らしさが解る貴方達からは、沢山のグラビティ・チェインが奪えるわね……!」
 酉年ビルシャナは、被害者女性の意識が一切感じられない様子で、タンドリーミサイルを撃ってきた。
 すぐにたたら吹きとミミックがレインや薫を庇って、代わりにダメージを喰らう。
「よくやった、たたら吹き」
「ミミックさんナイス!」
 徹也やタクティも安堵の息だ。
「ぼっこぼこのチキンナゲットにしてやるんだぜーっ!」
 シャーロットもばたばたバサバサと鶏らしく地面の上で羽ばたきながら、精神を極限まで集中させる。
「あけおめーっ、ピルシャナたいさーん!」
 そう宣言するや否や、
 ドバンッ!
 酉年ビルシャナの鳩胸が突如爆発、手酷い怪我を負った。
「今回は説得無くていいらしいのは助かるね。斬ればなんとかなるんでしょう?」
 鬼門大通天を鞘から抜いて、ニヤリと自信ありげに笑うのは燐。
 卓越した技量からなる太刀筋で、まさに達人の一撃と言える一閃を酉年ビルシャナへ叩き込んだ。
「酉年のおかげで可愛い鶏の着ぐるみが着られますコケ」
 セラは、鶏の着ぐるみの丸いフォルムから想像もつかない身軽さで跳び上がる。
「こうして着ぐるみ仲間ができたのも酉年のおかげですコケ」
 酉年ビルシャナの頭目掛けて重力宿りし飛び蹴りを見事炸裂させ、その機動力を奪った。
「そうですわね。あたしも酉年の恩恵を受けていますとも。きっと酉年だから鶏肉が大量入荷されて安く買えるんですものね?」
 主婦目線で酉年を褒めるや、半透明の『御業』に炎弾を撃たせるのは薫だ。
 炎弾は酉年ビルシャナの腹へ吸い込まれるように命中、全身焼き捨てる勢いで轟々と燃え盛った。


 戦いは続いた。
 ケルベロス達の徹底した酉年礼賛のお陰で、酉年ビルシャナの攻撃が全て8人へと向かい、一般人が未だ被害に遭っていないのは幸いである。
「酉年ってだけでいいこと起こる気するよね! 他の年じゃ考えられないんだぜ」
 タクティも相変わらず酉年をべた褒めしながら、ドラゴニック・パワーを噴射したリギュラをぶんぶん振り回す。
「……もしかしたらクリスマスの七面鳥とかも酉年大特価とかあるかもだぜ? 酉年ってやっぱり素敵だなってなだぜ!」
 加速させ勢いをつけたハンマーで重い一打を繰り出し、酉年ビルシャナをぶちのめしてみせた。
「……ミミックさんまさか本当に酉年好きとかそんなんだったりします? だぜ」
 ミミックはミミックでやはり仮装にノリノリな気配を見せつつ、がぶりと酉年ビルシャナの胴体へ喰らいついた。
「レインボーブリッジの完成も酉年だね、本当に酉年は凄い事が起こるね、きっと今年も凄い事が待ってるに違いない」
 黄泉は、鋭い槍の如く伸ばしたブラックスライムで、酉年ビルシャナの胸を容赦無く貫いた。
 傷口からじわじわと体内を汚染されても尚、酉年ビルシャナは攻撃の手を緩めず、七面鳥バーストを放ってくる。
「そうはさせるかだぜ!」
 すかさずタクティがセラを背中で守って、ダメージを肩代わりした。
「つまり酉年すげー! ぱねー! ……ところで、海賊船長はいつおっきくなれるのだ?」
 レインはグラビティにて作られた旗を地面へ突き刺す事で、タクティや徹也の傷を癒し、前衛陣を更に強化する。
「ぼくも援護するぜっ? さー回復だっ!」
 シャーロットも、酉年を褒める度に酉年ビルシャナからタンドリーチキンをぶっ放される前衛陣を案じて、薬液を雨のようにサァッと振り撒いた。
「ぼく、鳥大好きー、みてみて、ぼくも鳥だぜ?」
 それでいて、着ぐるみの翼をぱたぱたしながら鳥を褒めるアピールも忘れない。
「……今気づきました。着ぐるみ着てると銃が撃ちづらいですね、これ」
 セラは、着ぐるみ姿のままふっと我に返って遠い目をしつつ、SR-361 Third Moon Customを持ちにくそうに構える。
(「言ってて思いましたが、どう考えても褒め称えるというよりコケにしてますよね。これ」)
 それでもどうにかこうにか引き金を引いて、周囲に展開させていた無数の光の玉を一斉発射。
 酉年ビルシャナの体を幾度も撃ち貫き、その体力を大幅に削った。
「まぁ、一般人へ攻撃がいかなくて何よりですわね。ホッとしますわ」
 と、薫は獣化した腕に重力を集中、高速かつ重量のある一撃を酉年ビルシャナへ叩き込んだ。
「昨年末、あんたのお仲間には伝えたはずだよ。『鳥頭に生きて迎えさせる酉年は無い』と」
 燐は、鬼門大通天に鬼の霊力を極限まで集約させて、全力のフルスイングをかます。
「12年後も、24年後も、その先も……もう二度と戻って来られない彼方まで、ぶっ飛ばしてやる!」
 ガキィン——!
 鉄槌が金床を叩くかのような鋭く硬質な轟音の中に、酉年ビルシャナの骨肉が確実に砕けただろう怪音も響かせて、奴を宣言通りぶっ飛ばした。
「清々しい新年の始まりには、お祓いが必要ってね……おやすみよ!」
 それに加えて、
「即ち、酉年生まれの人物はグループに一人は絶対に必要な人材だと言える。こんな人間を生み出すだなんて……酉年はすげえなァ」
 徹也が、酉年ビルシャナの落下するタイミングに合わせて、ファミリアロッドによる刺突を見舞う。
「う、ぐ……ッ……酉年……万歳……!!」
 右手だけで繰り出された一撃ながら、その狙い澄ました軌道も威力もまさに達人の領域であり、残り僅かな体力となっていた酉年ビルシャナの息の根を止めるには充分でもあった。
「よーっし、ぼくらのだいしょーりだぜっ!」
 無邪気に飛び跳ねるシャーロットの足元で、酉年ビルシャナの特徴的な嘴や翼、尾羽や足の爪がゆっくり消え失せていく。
「大丈夫ですか? ——良かったらこの唐揚げ食べませんか?」
 元の姿に戻った女性へ、黄泉が呼びかけた。
「それにしても酉年のビルシャナかぁ……毎年こういうのが来るのかな」
 朦朧とした顔つきながら無事に起き上がった女性は、とりあえず唐揚げ串にありつけて幸せそうである。
「何か大切なものを失ったような気が今更してきましたが、気のせいですね、うん」
 鶏の着ぐるみを着込んだまま、遠い目をするセラ。
「何気に神社狙いって、どうかと思うわね」
 薫は控えめな風情ながら苦笑いしている。
「らっきー、大吉だったぜーっ」
 シャーロットは社務所でおみくじを引いて大喜び。
「おめでとうシャーロットさん、幸先良いスタートだね。生き別れのお兄さんとか見つかったもんねー。うぇい!」
 同じ旅団の燐にからかわれていた。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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