酉年様事件~花は永久に美しく

作者:白鳥美鳥

●酉年様事件~花は永久に美しく
「初詣、遅くなっちゃった!」
 優花にとって、初詣は毎年欠かさず行っている。
 しかし、今年はお正月が忙しくて、随分と遅くなってしまった。
 優花は、昨年からフラワーアレンジメントの仕事に就いている。
(「花の美しさを最大限引き出せるアレンジメントが出来るようになりますように」)
 優花が、そう心からの願いを神様へ向かって願っていた正にその時、彼女に凄いパワーが浴びせられた。
 それは、酉年様のビルシャナパワー。
 それを浴びた優花は、美しい花を纏った酉年ビルシャナへと変わる。
「花は美しいのです。この自然から生まれた美しい色、形、香り……それは奇跡の代物なのです。皆さん、花は奇跡の産物。もっと讃え感謝せねばなりません! そう、鳥の羽根の様に美しい花を……そして、それを与えてくれる酉年様へ感謝と敬愛を忘れてはいけないのです!」
 花を纏った酉年ビルシャナは、強く語りあげると近くの人へと襲い掛かったのだった。

●ヘリオライダーより
「みんな、あけましておめでとう。今年は酉年だね」
 デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)は、そう語りながら話を続ける。
「酉年様っていうビルシャナが出現したんだ。酉年様は、12年に一度だけ特別な力を得る能力があるみたいで、酉年を祝う人達の祈りを奪って急速に力をつけたみたいなんだよ。それで、その集めた力を利用して、神社でお祈りを捧げた老若男女を『酉年ビルシャナ』に変貌させて配下にして、人々を殺害して更なるグラビティ・チェインを得ようとしているんだ。この酉年ビルシャナは日本各地の神社などで発生するから、被害が出る前に倒して欲しい。それと、酉年ビルシャナは、強制的にビルシャナ化させられているだけだから、撃破出来れば救出出来るよ。でも、撃破できないとビルシャナ化が定着化してしまって助けられなくなるから、出来るだけ今回で倒して欲しいんだ」
 デュアルは情報を伝えていく。
「今回の酉年ビルシャナは千葉県の神社で発生するよ。花を纏っているみたいだ。それで、この酉年ビルシャナはね、より強力なグラビティ・チェインを得るために『酉年を褒め称える』発言をした相手を優先して攻撃する性質がるみたい。周囲に一般人がいる場合も、ケルベロス達が酉年を褒め称える発言をしながら戦闘をすれば周囲の人達が狙われる事は無いから安心していいよ。だから、避難誘導もしなくて大丈夫だからね」
 デュアルは最後にケルベロス達に声をかける。
「新年を祝い願いをかける人達の気持ちが悲劇を生まない様に、みんなの力が必要なんだ。頑張ってね!」


参加者
キーラ・ヘザーリンク(幻想のオニキス・e00080)
霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)
大粟・還(クッキーの人・e02487)
干支・郷里(紅夜の亡霊・e03186)
アルベルト・アリスメンディ(ソウルスクレイパー・e06154)
虎丸・勇(ノラビト・e09789)
虹・藍(蒼穹の刃・e14133)
シャルローネ・オーテンロッゼ(訪れし暖かき季節・e21876)

■リプレイ

●酉年様事件~花は永久に美しく
 千葉県にある、とある神社。そこで、世にも不思議な光景が展開されていた。参拝をしていた女性が、酉年の素晴らしさを謳う、おめでたい感じの羽織袴の鶏へと変貌したのだ。
 それを見てどよめく人々の間を割って、ケルベロス達が酉年ビルシャナの前に立ちはだかった。
 念のために、キーラ・ヘザーリンク(幻想のオニキス・e00080)が、周囲に誤って人が入らない様にキープアウトテープを貼っていく。そして、酉年ビルシャナが人々へと向かわない様に、ケルベロス達による酉年を褒め称えが始まった。
「酉年っていいよね!僕たちの中にも羽ある子も多いし! それに飛翔って感じでワクワクするしねえ」
 オラトリオでもあるアルベルト・アリスメンディ(ソウルスクレイパー・e06154)の言葉に、酉年ビルシャナは反応する。嬉しいのか、身に纏った花……梅の花がふわっと咲き乱れた。割と分かり易い。
「酉のつく年は商売繁盛に繋がるらしいね! 今年は日本がますます元気になるに違いない!」
 虎丸・勇(ノラビト・e09789)の言葉に、うんうんと酉年ビルシャナは頷く。梅の花は紅白になり更に舞った。
「酉年は他の年と違って年賀状もフルカラー必須! 羽がカラフルだから、新年から華やかな気持ちになるよね」
 アルベルトと同じくオラトリオである、虹・藍(蒼穹の刃・e14133)が青い翼を自慢げにぱたぱたさせてみたりもして。勇と藍の言葉は本来は緊急用の褒め言葉なのだが、綺麗に花が咲いていくのでそれに合わせる形を取る事にしたのだ。実際、目の前の酉年ビルシャナは綺麗な梅の花以外の様々な花にも彩られ、花も花弁も舞っていて、かなり綺麗な状態になっている。
 止めのように褒め称えるのは霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)、とキーラの言葉だ。
「酉年の年賀状をお得意さんとか店長の知り合いとか貰うんだけどさー、気合入った写真とか撮ってくる人がいてその人らの分でも鳥が結構色々見れて可愛いのやらカッコイイのやら色々見れて結構参考になるんだよなぁ。もちろん絵でも。申年とか未年とかじゃあんまりこういうことないし、鳥の種類が豊富で楽しめるのって酉年の年賀状ならでは、だよなー」
「酉は、申と戌の間……いわゆる「犬猿の仲」と言われる両者を取り持つ年ですから、さぞ人の縁に恵まれた良き年となることでしょうね。そういえば、酉も非常に王のような威厳を感じるお姿をしておりますね。頭の鶏冠、髭のような顎の肉垂……。そのような酉の名を冠した年であれば、どっしりと構えて過ごせるような気がしてまいります」
 喜び絶頂に至った酉年ビルシャナは美しい数々の花々を咲かせながら、大喜びでカイトとキーラに向かって突撃していった。

●花を舞い散らす酉年ビルシャナ
 酉年ビルシャナは翼をはためかす。そこから生まれるのは輝く羽。それは強い光を放つ羽根となり純白の薔薇の花弁を纏っていた。放たれる光の羽根と花弁はカイト達の視界を一気に奪っていく。
(「私も翼があるし、酉には親近感もあるから好きなんだけど、何もビルシャナにならなくたって良いじゃない!」)
 藍はそんな気持ちを抱きながら、酉年ビルシャナに狙いを定めて煌めきを伴う重い蹴りを叩き込んだ。
「花は奇跡の産物……。まさにその通りですけど、酉年は関係ない……ですよね」
 シャルローネ・オーテンロッゼ(訪れし暖かき季節・e21876)は、そう呟く。しかし、目の前にいる酉年ビルシャナは花が美しく彩られている。酉年とは全く関係ないが、この酉年ビルシャナにとっては重要らしい。そんな相手に向かい、シャルローネは御業を放ち縛り上げた。花弁がひらひらと舞い散る。綺麗だ。
「エリィ、皆を頼んだよ!」
 ライドキャリバーのエリィにそう声をかけると、勇は構える。
「悪いけど、じっとしててね」
 勇は螺旋の力を雷に変え、ナイフに纏わせると、酉年ビルシャナに向かって斬り付け眩い閃光が走る。そこに合わせてエリィが炎を纏い突っ込んだ。
 アルベルトがSoulscraper……赤い弾丸を撃ち放つが、酉年ビルシャナは花をひらひらと舞わせかわす。
「っと、残念。これは当たらなかったかー」
 命中しなかった事は残念だが、アルベルトにはもう一つの役割がある。仲間達や周囲の人達に注意を払うように視界を広げた。
「十獣が一匹、干支郷里……貴方を救いに来た」
 ビルシャナに因縁を持ち、強い殺意を持つ干支・郷里(紅夜の亡霊・e03186)。今回は殺す訳では無く、被害者を救う事。それでも心は燻るけれど……。
 しかし、目の前にいるのはビルシャナに代わりはない。気持ちを切り替え、郷里は力を篭めてビルシャナの急所を狙い蹴りつけた。
「……そうですね、全体的な状況を考えますと」
 大粟・還(クッキーの人・e02487)は、仲間達の様子を見ながら状況を判断し、身に纏ったオウガメタルから、オウガ粒子を放つ。それはキーラ達の神経を研ぎ澄ませていった。彼女の相棒のウイングキャットのるーくんも同じく清らかな風を送り込んでいく。実家が農家である還は、花に対する気持ちは分かるのだけれど、それと酉年との関係がよく分からない。ビルシャナはよく分からない、改めてそう思った。
 相変わらず綺麗に花が咲き乱れている酉年ビルシャナ。次は身に纏っている花々を次々と凍らせていく。氷となった花はまた趣の異なった姿となり、凍てつく花々は冷気と共にカイト達に向かって花嵐を起こした。それを受け止めたカイトは、そのままカウンター攻撃に入る。
「凍てつかせるっていうのは、こういうのも有るんだよ!」
 カイトは冷気を纏ったようなオーラの弾丸を酉年ビルシャナへ叩き込んだ。
「格好いいぞー!」
「頑張れ、ケルベロスー!」
 気が付けば、境内に集まっていた人達は遠巻きにケルベロス達に声援を送ってくれている。それにシャルローネは照れた顔で小さく手を振って応えた。カイトの相棒、ボクスドラゴンのたいやきも嬉しそうに飛び回り、声援は一層大きくなった。
「これは……負けられませんね」
 気合を入れ直し、シャルローネは炎と化した御業を放つ。それに合わせて藍がルーンの輝きを放つ一撃を加えた。酉年ビルシャナの花が見事に舞い散っていく。その花弁が地面に落ちる前に勇が渦巻く炎を蹴り放ち、エリィが轢き潰しにかかった。
「みんな、回復するよー」
 アルベルトは美しいベールで郷里達を包んで癒していく。キーラと郷里はその間に酉年ビルシャナに飛び込むと、次々に気脈を断つ一撃を加えた。酉年ビルシャナに咲き乱れる花々の動きが鈍いものに変わっていく。また、少し、花も枯れて来ていた。
 還はカイト達の護りを重ねていく。還はカイトへ、るーさんは郷里達へと護りの力を高めていった。
 花が枯れ始め、酉年ビルシャナは明らかに力が無くなって来ている。しかし、己を奮い立たせる様に高い声で鳴く。その声は郷里の耳に響き渡り始めたが、エリィが走り込み、その音で声をかき消していった。
 カイトは酉年ビルシャナに強烈な一撃を叩き込む。それに続いてたいやきの餡子のブレスが襲い掛かった。
「貴方の心臓に、楔を」
 藍は虹色に光る星銀の弾丸を酉年ビルシャナに撃ち込み、楔を与えていく。ひらりひらりと散っていく花弁はどんどん多くなっていった。
「この子達はちょっと乱暴者、ですよ」
 シャルローネは3人のとんがり帽子を被った小人を呼びだし、酉年ビルシャナに容赦ない攻撃を加えていく。畳み込むように勇は飛びかかると、その身体に触れ爆破させ、アルベルトは素早い銃弾を撃ち込んでいく。
「Is de tijd van het oordeel...(今、裁きの時……)」
 占い師であるキーラが引くタロットは「審判(XX)」。そのタロットに念じ、裁きの雷を酉年ビルシャナに落とす。それにより、身に纏い咲き乱れていた花が焼け焦げる様に散っていった。
(「拳に怒りと憎しみを乗せて……無辜の命を救ってみせよう。だから、ビルシャナは消えて散れ!」)
 郷里は、その想いを心に深く刻み込む。
「我が右手に宿る龍よ……暴風の爪を以て我が敵を貫け!」
 右手にある宝玉に込められた龍の気を解放し、暴風をガントレットに纏わせ、そのまま酉年ビルシャナを貫いた。
 酉年ビルシャナは、その攻撃を受け、美しい白い羽根を沢山舞わせていく。そして、そこには意識を失った優花が倒れていた。

●平穏訪れる神社にて
「思い切り殴ったけど、怪我とかないかな?」
「大丈夫ー?」
「大丈夫だった?」
 倒れた優花を助けに郷里とアルベルト、そして勇が駆け寄る。続いて、他のケルベロス達も優花の様子を見にやって来た。優花の手当てをしていると、今まで遠巻きに見ていた参拝客が集まって来る。
「みなさんのお陰で無事にいられた。ありがとう」
「やっぱり、皆さんは凄いですね」
 笑顔で感謝を述べてくれる。それが嬉しいし、ちょっと照れてしまう。
 アルベルトと還とるーさんがメインで手当てをしていた優花も目を覚ましてくれた。
「大丈夫? 災難だったね。でも、お騒がせなビルシャナはやっつけておいたから、お姉さんは安心して、素敵な、良いお仕事をして下さい」
「はい。助けて頂いて……本当にありがとうございます」
 藍の言葉に頷くと、ケルベロス達に何度も優花はお礼の言葉を重ねた。
 損傷が出てしまった所はヒールで直していったが、参拝していた人達も掃除などを手伝ってくれた。助けてくれたお礼に、と笑顔でそう言って。
「本当に、優花さんも助けられて、皆さんが御無事で良かったですね」
 シャルローネも笑顔になる。こうして優花を助けて、沢山の人に応援してもらい笑顔を貰って……良い年の始まりだ。それに皆も頷いた。
「じゃあ改めて、皆でおまいりして帰ろっか!」
「せっかくですからね。私もまだしていなかった初詣をして参りましょう」
 アルベルトは笑顔で皆を誘い、キーラも頷く。あまり表情の無いキーラだけれど、薄っすらと優しい笑顔になっていた。
「(月並みですが、今年もより多くの人が笑顔で暮らせますように……)」
「(私、そして周囲の人たちの無病息災でありますように……)」
 キーアと藍はそう願いを込めて。
 今年で前厄となる還は、おみくじを引いてみる。結構、厄年に怯えている還はどきどきと結果を開き……。
『大吉』
 その字が目に入っただけで還はとても嬉しくなってしまって……。
「やりましたー!」
 普段はローテンションな還だけれど、これならテンションも上がってしまうものだ。還が大喜びしているのが嬉しくて、るーさんも嬉しそうに彼女の傍を飛び回った。そんな様子を見て、アルベルトも早速おみくじを引いてみる。
「わ、僕、大吉だ! 帰ったらくろたまに教えてあげないと!」
 向こうでは、カイトの周りを急かす様にたいやきが飛び回っている。手にしているのはフライドチキン屋の割引クーポン。早く買って食べたいようだ。
「分かった、分かったから急かさない!」
 そう言うカイトを気にしていないのか、服を引っ張っていく。
「だから、引っ張るなって! ちゃんと買うから、買うから、な?」
 優花と話しているのは郷里。
「そうなの、あなた、花を育てているのね?」
「ああ、だからフラワーアレンジメントってどんなのかなって」
「そうね……色々な花々が持つ美しさを組み合わせて、それぞれが引き立てあい綺麗に飾るの。そして……貰った人が笑顔になれる……それが理想で目標かしら」
「……笑顔になれる……」
 優花の話が郷里は心に染み込むような気がする。それは花を育てている……花を大切にしている心が共通しているからだろうか。
 勇はエリィに寄りかかりながら空を仰ぐ。良く晴れた、綺麗な空。
「えへへ、皆今年もいい一年だといーね!」
 アルベルトはそう言って笑う。それに、皆、頷いて微笑んだ。
 そう良い一年でありますように。ケルベロス達を応援してくれた人達の笑顔を思い浮かべて――。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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