●縁を結ぶ青い鳥
その若者は『つながり』を願った。
良縁祈願。恋人、伴侶に限らず、学友、チームメイト、上司など人との繋がりはあらゆる方向に生まれる。それが良きものであれば――。
その願いが悪かったとは言えない。内容自体は、健康に次いで願われるよくあるものだろう。ただ強いて言うなら、タイミングが悪かった。『酉年様』という名のビルシャナの手により、直後、若者は強制的に配下にされてしまう。
「さあ、みんな私と繋がろう。今年は酉年である。共に酉年様を崇め、酉年様を奉り、365日余すところなく酉年様の年を祝うのだ!」
ばさりと、参道に現れたビルシャナはその青色の翼を大きく広げた。居合わせた何人かの参拝客の視線が何事かと集まるが、わけのわからない言葉に当然同意は得られない。
「……でなければ、せめて。酉年様のための糧となるが良い」
ビルシャナの目が剣呑な光を帯びる。実力行使に出るのは時間の問題だろう。
●合縁奇縁
「酉年様、というビルシャナが出現しました」
ヘリオライダーのセリカは、集まったケルベロス達へと視線を向けた。敵の名称はともかく、彼女の声はいつも通り深刻そうである。
続く説明によれば、このビルシャナは12年に一度だけ、特別な力を得る能力があるらしく、酉年を祝う人々の祈りを奪って急速に力をつけたものらしい。
「その力で、神社にお参りに来た方を『酉年ビルシャナ』に変貌させ、人々を殺害して更なるグラビティ・チェインを得ようとしているようです」
対象区域は広く、日本各地の神社が標的となっている。被害が出る前にそれを押しとどめるのが今回の任務になるだろう。
「今回ビルシャナ化してしまった方は、今なら撃破することで救出も可能です。ただ、今回を逃がせばそれもかなわなくなるでしょう。可能な限り今回で撃破するようにしてください」
干支と同じく鶏のような姿をしている酉年ビルシャナだが、どうやらこの個体は全身が青く、他と比べてシンプルな見た目をしているようだ。
「ビルシャナ化させられた方は、『つながり』を求めていたようです。人の縁……仲の良さや連携を見せられれば何か反応があるかも知れませんね」
また、この酉年ビルシャナはより強力なグラビティ・チェインを得るために『酉年を褒め称える』発言をした相手を最優先で攻撃する性質がある。周囲に一般人がいる状態ではあるが、これを利用すれば避難誘導を行う必要もないだろう。
「年の初めからこのような悲劇を起こさせるわけにはいきません。どうか、皆さんの力でこの事件を解決してください」
そう締めくくり、セリカは一同を送り出した。
参加者 | |
---|---|
シア・フィーネ(ハルティヤ・e00034) |
ネロ・ダハーカ(マグメルの柩・e00662) |
天司・雲雀(箱の鳥は蒼に恋する・e00981) |
スプーキー・ドリズル(凪時雨・e01608) |
阿守・真尋(アンビギュアス・e03410) |
天那・摘木(ビハインドとお姉さん・e05696) |
ショー・ドッコイ(穴掘り系いけじじい・e09556) |
アイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548) |
●今年の干支
ばっさばっさと羽を鳴らし、青いビルシャナが謎の説法を続けている。とは言え内容がよろしくない。通りがかった参拝客の反応も芳しくなく、暴れ出す寸前といったところだろうか。
「ああ……あれは良くないね」
ヘリオンから見下ろしたそんな光景に、スプーキー・ドリズル(凪時雨・e01608)が呟く。それはビルシャナ事件ではよくある光景なのかもしれないが。
「何と言うかこう、必死じゃのう」
警察への通報を済ませたショー・ドッコイ(穴掘り系いけじじい・e09556)がそれに頷き、阿守・真尋(アンビギュアス・e03410)もまた風の唸る外へと一歩を踏み出した。
「あまり待たせても悪いわね」
仲間と共に首肯し、降下する。
「さあ、皆で酉年様を称えるのだ! たーたーえーるーのーだー!」
眼下では、ビルシャナが半ばやけになったような叫びをあげていた。
演説を続けるビルシャナのもとに駆け付け、ネロ・ダハーカ(マグメルの柩・e00662)、そしてショーが応じるように声を上げる。
「酉年に巡り会えたのは奇跡だ、何せ十二年に一度しかないもの!」
「今年の年神さまじゃ。褒めたたえんといかんのー」
ようやく出てきた同意の言葉に、攻撃寸前の体勢になっていたビルシャナの目がそちらに向いた。
「鬼門の反対側にいる酉は鬼に強くて縁起がいいの。そんな酉年様に出会えるなんて、今年はきっといい年ね」
「そうだろう、そうだろう。見る目がある者も居るではないか」
続く天那・摘木(ビハインドとお姉さん・e05696)の声に頷き、ビルシャナが満足気にトサカを揺らす。
「握手をお願いしてもいいかしら。ふわふわして気持ちよさそうですもの」
「良かろう。これもまた『繋がり』の形よ」
そんな調子であっという間に懐柔されたビルシャナを横目に、残りのメンバーは居合わせた人々に声掛けを行っていた。
「ケルベロスです。ここは私たちに任せて逃げて!」
「只今より戦闘行動を開始する、急ぎこの場から離れてくれ!」
アイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548)とスプーキーの言葉に、遅まきながら状況を理解した人々が避難を始める。
「逃げ遅れた方は……」
「大丈夫みたいだよー」
振り仰いだ天司・雲雀(箱の鳥は蒼に恋する・e00981)に、翼を広げて上空待機していたシア・フィーネ(ハルティヤ・e00034)が頷き返す。
「この柔らかさは酉年様だけのものねえ」
「そうだろう、そうだろう……ハッ!?」
調子に乗っていたビルシャナも、さすがにその状況に気付いたらしい。
「見所があると思ったが、酉年様との繋がりを断とうとするとは不届きなっ!」
握手していた羽を振り払い、その眼を妖しく光らせる。
「仕方あるまい、その信仰心だけ置いて行くがよい!」
信者の増加からグラビティ・チェインの回収に目的を変え、ビルシャナがケルベロス達へと襲い掛かった。
●#酉年様万歳
「新年一発目だ、景気良く戦おうじゃないか――息を合わせて、ね」
大切な仲間へと視線を送りつつ、ネロの手から竜の幻影が放たれる。それを受けたシアは、合わせてスマートフォンを構えた。
「鳥さんの名前、なんていうのカナー」
「私は酉年様の信徒にして、絆の伝道者! 結びの鳥と呼ぶが良い、そしてともに『酉年様万歳』と唱えよ!」
「えーと……いいね?」
シアの操作に応じてスマートフォンから謎電波が発生。仰々しく答えたビルシャナの側も、体を発光させてそれに応戦する。放たれた四条の閃光を、ディフェンダーを担うショーと、ボクスドラゴンのヨッコイが受け止めた。
「つながりを大事にするとは、あっぱれじゃのう酉年様」
傷を癒すと共に、守りを固めるべくショーがヒールドローンを展開。さらに注意を引けるよう褒めたたえる。
「でもね、繋がりって無理矢理強制されるようなものじゃないんだよ」
「悪いことする鳥さんとは繋がりたくないなー」
アイリスのエアシューズが火花を散らし、シアのスマホがシャッター音を鳴らす。
敵はより信仰心の強い者からグラビティ・チェインを回収したがっている。言葉のみの簡単な誘導ではあるが、これで狙われ方にある程度差を付けられるだろう。
「大丈夫よ。酉年様と私達には、実はもう繋がりがあるの」
癒しの慈雨を振りまきつつ、摘木がビハインドの『彼』の背を押す。にわとりパーカーを着込んだ少年、その手には何本もの串が握られていた。
「あさごはんのたまご、おひるのチキンライス、おやつのからあげ……私たちと酉年様は、命で繋がっているの」
とてもおいしかったわ。そう告げる彼女の目にからかうような色は無い。
「それもまた素晴らしい……。いや、どうだろう……?」
微妙にずれた主張に、ビルシャナが困惑を浮かべる。簡単に切って捨てられないのは、その在り方ゆえか。
(「要するに、寂しがり屋なのかな」)
その辺りは憑依された人物の影響も色濃いだろう。そちらに思いを馳せつつ、スプーキーがホルスターの拳銃に手を伸ばす。憑りつかれたその人物のためにも、このビルシャナは撃破する必要がある。
「That's original sin」
toffee。真紅の弾丸が爆ぜ、飛び散る赤が敵の身に絡みついていく。固まったそれは石化と同等の効果を上げ――。
「林檎飴? それともチリソースかしら?」
「やめんか!」
どことなく美味しそうに染まった様子に、『彼』が嬉し気に跳ねた。
序盤の展開としては、ケルベロス達の想定通りか。
「酉年といえば尾の長い立派な雄鶏、格好良いよなあ」
「そのとおり。もっと讃えて良いのだぞ!」
ネロをはじめとする前衛が酉年様を褒めたたえ、プレッシャーを放つ閃光、そして炎による攻撃を引き付ける。
「大丈夫ですか? すぐに回復を……!」
そこに雲雀がゾディアックソードを用いて星の聖域を展開、カバーに回る。
役割分担は明確である。こうして定期的に褒めておけばビルシャナが別の獲物を探しに行く事も無いだろう。それに前衛の壁、そして癒し手が機能すれば、攻撃を担う者たちもより自由に動けるというもの。
「行くわよ、見惚れさせてあげる」
真尋のエアシューズが地面を引っ掻き、車輪が赤い炎を纏う。同時に彼女のライドキャリバー、ダジリタも炎を伴い、突撃。二本の轍が火線となってビルシャナをなぞった。
「お見事。……なるほど、効果的というのは本当らしいね」
上空から飛来したスプーキーが、敵を探りつつ追撃を入れる。
「ぬう、生意気な……!」
焔が躍り、羽毛の青さを上書きしていく。苦鳴の色から効果のほどは明らかだと言えるだろう。
そう、この戦いを決定づけたもの。それは炎である。
●炎上なう
「悪いことはダメなんだよ鳥さん」
ほら、とシアがビルシャナに画面を向ける。そこには先程撮ったものだろう、暴れるビルシャナの様子を捉えた画像が拡散されており、既に多くの反応が寄せられていた。
初詣に行こうとしたのに残念です。暴力は駄目でしょ。鶏肉買うのやめます。最低ですね。酉年早く終われ。
「何だこれはぁッ!」
各地で似た事件が起きているのも災いしたか、割と派手に燃え上がったSNSの様子に、ビルシャナの体が文字通り炎上する。嘆きと共に地面を殴るビルシャナに、シアのテレビウム、ジルが鈍器で追い打ちにかかった。
「良いじゃないか。共に踊ってもらおう、酉年様」
そんな悲惨な様子に、ネロが愉快気な笑みを浮かべる。差し出した手は魔獣と化し、炎の中へと牙を向ける。
「――終わりまで焦げんでくれ給えよ」
舞闘会:夜来たる。壮絶な連打が、ビルシャナの身を打ち据えていった。
ダメージは明確に刻まれている。敵はどうやら体力が自慢のようだが、付いた炎がそれを削り取っていく。
「このままだと焼き鳥になってしまうわよ?」
「ミディアム? それともウェルダンがお好みかな?」
真尋とアイリスのグラインドファイアが同時に決まる。燃え上がる鶏の姿に料理を連想してしまうのは、多分しかたのないことだろう。
「手羽先が良いの? でもまだちょっと早いんじゃないかしら」
ポルターガイストで飛んだ串が一点をつつきまわすのを察し、摘木が『彼』を窘めた。
「酉年様を罵倒するか、愚か者どもめ!」
先程の画面が余程腹に据えかねたのか、炎上度合いが増しそうな言葉と共にビルシャナがシアに火の玉を放つ。
そうはさせまいと、そこにヨッコイが割り込み、受け止めた。
「じーちゃん、ありがと!」
「邪魔をするか!」
怒りの声を上げるビルシャナに、ショーは不敵に笑いかけ――。
「以心伝心の相棒じゃ。酉年様よ、ええじゃろ?」
破鎧衝を放った。構造分解による装甲の排除、というよりは単純にビルシャナの羽毛が毟られる。
「ロースト・チキンには丁度良いかな?」
そこにネロがエアシューズで切り込み、奔る火花で敵を焙った。
「ほっほー、じじいらばっちしじゃの」
一旦距離を取るビルシャナから目を離さず、連携を見せつけた三人は揃ってポーズを決めて見せた。
「おのれ……!」
うまくいかない苛立ちは元より、体に付いた炎を振り払うべくビルシャナが雄叫びを上げる。気合を入れなおした事により、火勢も少し落ち着くが……。
「残念だが、ここからが本番だ」
切り込んだスプーキーが、炎を纏ったエアシューズでさらなる一撃を加える。体勢の崩れたビルシャナを、すかさずアイリスと真尋が捉えた。
「まだまだ終わらないんだから!」
「もっと熱くなってもらうわよ」
グレイブの切っ先が傷跡をなぞり、チェーンソーがそれをさらに抉り出す。炎はさらに勢いを増し、ビルシャナを覆っていった。
「よし……!」
「素敵素敵、タイミングも完璧だったわ!」
決まった連携に、三人がハイタッチを交わす。それを見て地団駄を踏むビルシャナには、追加で攻撃が加えられていった。
「その調子です、皆さん」
雲雀のオラトリオヴェールが味方を包む。状況は明らかにケルベロスの側が優勢。当然、敵もそれを体で感じ取っている。
「ぐ……何故この信仰が伝わらぬ!」
自然と、回復に奔走する雲雀に敵の視線が向く。ケルベロス達と違い、単騎のビルシャナは明らかに回復が追い付いていない。悔しがるような、羨むようなそれを感じ取り、雲雀は敵に向き合った。
「無理強いする信仰は、すぐに廃れてしまうものですよ」
憐れみの色もそこにはあったかも知れない。だが彼女が見据えているのは、その先である。
「貴方は流れ星に何を祈るでしょうか――」
憑かれ、ビルシャナと化した青年。戦いを終わらせ、彼を取り戻すべく雲雀は真っ直ぐに弓を引く。
stella transvolans。想いを乗せた一矢が、隙を見せたビルシャナを貫いた。
戦闘も佳境に差し掛かり、ケルベロス等の攻撃にビルシャナが追い詰められていく。
「せーのっ!」
シアのニートヴォルケイノに合わせ、真尋のスターゲイザーが、ショーの破鎧衝が繰り出される。
「酉年様、このままでは……」
積み重なったバッドステータスの影響か、まともに動けないビルシャナはそれらを受け、ふらふらとよろめいた。
「そうね、そろそろ良いかしら」
うゆうゆと主張するビハインドに応え、摘木がファイアーボールを放つ。合わせて飛んだ串達が、その炎を纏ってビルシャナへと降り注いだ。
焼き鳥にしては随分ダイナミックな風情だが、とにかく。誰かがそれに食いつく前に、ケルベロス達が火を通した『料理』は消滅の時を迎えた。
●あけましておめでとうございます
ビルシャナの皮が焼け落ち、憑き物が取り払われた青年が元の姿を現す。
「あ、あれ。僕は……?」
「やあ、おかえり」
戻ってきた彼を笑顔で迎え、スプーキーが上着を肩にかけてやる。周りの戦闘痕に、節々を負傷したケルベロス達の姿。記憶に少々混乱があるようだが、救い出された青年もやがて状況を飲み込み始めた。
「ありがとうございます」
「いいのいいの、もうちょっと安静にしてて!」
屈託のない笑顔で応じ、アイリスが青年と、周囲にヒールを施していく。
ケルベロス達の勝利によって事件は解決した。この場所にも、少しすれば参拝客の姿が戻るだろう。
「よければ一緒に皆でお参りする?」
「ふむ、いい考えじゃのう」
アイリスの声掛けにショーが応え、シアとネロが互いに顔を見合わせる。
「うん、せっかくだし」
「行こうか、一緒に」
一同は、そうして社の方へと足を向けた。それと共に歩み、雲雀がヒールによって形を取り戻した鳥居を見上げる。
「今年はどんなご縁が結ばれるのか楽しみです。願わくば、皆様にも素敵なご縁が沢山ありますように」
「……きっと君も出逢えるよ。酉年が終わっても、支え合いたいと願える仲間に」
そう言って青年の肩を一つ叩き、スプーキーもまたその後を追っていった。
作者:つじ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年1月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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