酉年様事件~勉強して、お祈りして。

作者:神無月シュン

 神奈川県のとある神社。正月の初詣も終わり、参拝客の人数も落ち着いてきていた。
「勉強はやれるだけやりました。試験当日に実力が発揮できますように。どうか、どうかお願いします」
 真面目な性格なのだろう。学ランを着た青年は、必死に神様へと祈りをささげている。
『おまえの祈り、しかと受け取った』
 どこからか、声が聞こえてくる。それと同時に青年は、体に力があふれてくるのを感じる。
「あ、あ……ああああああ」
 強制的に注ぎ込まれた力に、青年の体がみるみるうちに変化していく。変化が終わりそこに立っていたのは、袴姿に分厚いレンズの丸形眼鏡をした鳥人間――『酉年ビルシャナ』だった。
「僕は寝る間も、遊ぶ間も惜しんで勉強を続けてきたんだ……実力が発揮されないなんてことあるものか。そうだ、もっとお祈りしないと……お前たちも、酉年なら一年中酉年様を崇め奉るんだ。さぁ!」
 酉年ビルシャナは、周囲の参拝客へと攻撃を始めた。

「酉年様というビルシャナが出現しました」
 このビルシャナは、12年に一度だけ、特別な力を得る能力があるらしく、酉年を祝う人々の祈りを奪って急速に力をつけたようだと、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が集まったケルベロス達に説明する。
「そして、その集めた力を利用して、神社でお祈りを捧げた参拝客を『酉年ビルシャナ』に変貌させて配下とし、人々を殺害して更なるグラビティ・チェインを得ようとしています」
 酉年ビルシャナは日本各地の神社などで発生するようで、被害が出る前に撃破しないといけない。
「酉年ビルシャナは、強制的にビルシャナ化させられているだけなので、撃破する事ができれば、救出も可能です」
 ただ、今回撃破できなければ、ビルシャナ化が定着してしまい救出できなくなる。その為にも、できるだけ今回で撃破するのが望ましい。

「戦場は、神奈川県にある神社の境内になります。戦闘能力は一般的なビルシャナと、そう変わりはないようです」
 酉年ビルシャナは、より強力なグラビティ・チェインを得る為に『酉年を褒め称える』発言をした相手を最優先で攻撃する性質がある。
「周囲に一般人がいる場合も、皆さんが酉年を褒め称える発言をしながら戦闘をすれば、周囲の一般人が狙われる事はありません」
 巻き込まない距離さえ確保できていれば、避難の必要はないようだ。

「今年一年の景気づけになるよう、皆さん頑張ってください」


参加者
ユーノ・イラ(森と生きる少女・e00003)
メリッサ・ニュートン(コンタク党壊すべし・e01007)
上村・千鶴(陸上競技部部長・e01900)
メロウ・グランデル(眼鏡店主ケルベロス受験生・e03824)
ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)
狩谷・蘭華(狂銃姫・e19042)
ルビー・グレイディ(曇り空・e27831)

■リプレイ

●酉年の鳥人間
 ケルベロス達は酉年ビルシャナが現れる、神社へと続く長い階段を上っていた。
「新年早々、はた迷惑な敵が現れました……めでたい一年の始まりです。ささっと解決しましょうっ」
 ユーノ・イラ(森と生きる少女・e00003)が意気込んでいる。
「しかし、本当にブレないよねビルシャナって。其処はある意味凄いと思うよ」
 ユーノの言葉に、狩谷・蘭華(狂銃姫・e19042)が呆れたように答える。
「酉年様……? 縁起が良さそうな名前なのに、やる事は禍々しいね……」
「せっかくお参りにいらっしゃってくれたのに、ピルシャナにされちゃうなんて、許せません!」
 集めた力でヒトを強制的にビルシャナ化させる手口に、ルビー・グレイディ(曇り空・e27831)とスズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)が許せないと口にする。
「戦うのは怖いけれど、同じ受験生を此のままにしておくのは、いただけないわ……」
 上村・千鶴(陸上競技部部長・e01900)が恐怖を抑え込もうとしている。彼女にとってこの事件が初陣だ。緊張や恐怖があって当然。それを解っているからこそ、他のケルベロス達は『無理はしないようにね』、『サポートするから、やりたいようにやるといい』、『まずは自分の身を守ることを第一に』等、声をかけていく。仲間がついている、安心しろと。
「受験生の願掛けか、成就することを祈るばかりだが……ところで、酉年を褒め称えると、狙いをこちらに向けられるらしいが、どのように褒めようか?」
 ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)が事前に調べた内容を説明しつつ、皆にたずねる。
「『ナイス酉年』でゴリ押しするのはどうでしょう」
 戦闘中に咄嗟に褒めるのも大変だろうと考えて、メリッサ・ニュートン(コンタク党壊すべし・e01007)がそう提案する。
 一理あると、言葉が思いつかなくて困ったときはそれでいこうと、ケルベロス達は頷いた。
 そうこうしているうちに、階段を上り終えたケルベロス達は鳥居をくぐった。
 その先にいるのは、袴姿に分厚いレンズの丸形眼鏡をかけた、おめでたい恰好の酉年ビルシャナ。
「僕は寝る間も、遊ぶ間も惜しんで勉強を続けてきたんだ……実力が発揮されないなんてことあるものか。そうだ、もっとお祈りしないと……お前たちも、酉年なら一年中酉年様を崇め奉るんだ。さぁ!」
 酉年ビルシャナが今にも、逃げる参拝客へと襲い掛かろうとしている所だった。
「受験ですか。辛いですよね……」
 被害者が自分と同じく受験生という所に、メロウ・グランデル(眼鏡店主ケルベロス受験生・e03824)が共感するように頷いている。
「その格好では受験すらままならないだろう」
「ぜったいに、助けますからっ!」
 元の姿に戻してやると、ビーツーとスズナが、酉年ビルシャナと参拝客の間へと割り込み武器を構える。
 少し遅れて、他のケルベロス達も各々武器を構えた。

●酉年様を崇めよ
 最初に動いたのはビーツー。手を地面へとつけ自身のグラビティを熱量と共に注ぎ込む。酉年ビルシャナの足元のつぶてが炎を纏い襲い掛かる。
 炎のつぶてに襲われている酉年ビルシャナに向かって、メリッサが駆け出す。簒奪者の鎌『ブリレ・ゼンゼ』を振り下ろし、放たれる魂を喰らう降魔の一撃。その隙に上空へと跳躍していたスズナが、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを炸裂させる。
「――あれれ。メガネどこやったんですかあ? なくしちゃったんですか~あ??」
 姿勢を下げつつ相手の懐へと潜り込むメロウ。眼鏡を模した両腕を振り上げる。振り上げた両腕が、酉年ビルシャナのアゴ下へと直撃する。
 メロウのウイングキャット、リムの羽ばたきが邪気を祓う力を前衛に与えていく。
「いきますっ」
 古代語の詠唱を終えたユーノが、魔法の光線を放つ。
「まずは、超重量級の一撃。せーの!」
 掛け声と共にルビーは、大地をも断ち割らんばかりの一撃を、酉年ビルシャナへとあびせる。ルビーのミミック、ダンボールちゃんも負けじと偽物の財宝をばらまいて攻撃する。
「さぁ、酉年様を崇め奉るのだ!」
 酉年ビルシャナが両手を広げ、破壊の光を放つ。放たれた光は一瞬で前衛を飲み込んでいく。
 戦闘が有利に進むように、立ち位置を変え蘭華が戦闘態勢を整えている。
 千鶴がビーツーへと駆け寄り、酉年ビルシャナの攻撃で受けた傷を癒す。ビーツーのボクスドラゴン、ボクスも主人を心配するようにビーツーの治療をする。
 治療を終えると直ぐにビーツーが飛び出す。その勢いのまま繰り出した拳が酉年ビルシャナの腹へとめり込む。
「酉の付く年は商売繁盛や学業充実等に繋がる年だそうです。ナイス酉年!」
 怯んでいる酉年ビルシャナへ向かって、メリッサが容赦なく鎌を振るう。メリッサが飛び退いた瞬間、ドラゴニックハンマーを砲撃形態へと変形させ構えていたスズナが、竜砲弾を放つ。着弾した衝撃で砂煙が舞う。そこに飛び込んだスズナのミミック、サイがエクトプラズムで作り出した武器で攻撃を加える。
 メロウが駆ける。繰り出す蹴りは電光石火。目にも止まらぬ速さで酉年ビルシャナの急所を的確につく。
「足止めなら任せて」
 ルビーの飛び蹴りが、酉年ビルシャナの動きを一瞬遅らせる。そこへ縛霊手の掌から巨大な光弾を撃ちだすユーノ。巨大な光弾を避けることが出来ずに、酉年ビルシャナが飲み込まれる。
「角……と、…が合同………の時……」
 下を向いたまま、酉年ビルシャナがブツブツと経文の様に勉強した内容を呟く。その声が攻撃となってメリッサの心をかき乱す。
「酉だけに『羽ばたく』から……じゅっ、じゅじゅ、じゅけ、受験も合格させてくれますよねえ! ぜったい! 絶対合格ですよねえええ!! 信じてますからねうおおおお!!」
 酉年ビルシャナを見て、なぜか攻撃を受けていないメロウが自身の受験を思い出したのか、取り乱している。
 蘭華が精神を集中すると突如、酉年ビルシャナの羽根が爆発した。突然の攻撃に酉年ビルシャナがもがいている間に、千鶴がメリッサへと魔法の木の葉を纏わせて傷を癒していく。

●受験は元の姿に戻ってから
「頑張れー」
「ケルベロス負けないでっ!」
 遠巻きに眺めていた、参拝客の応援が聞こえてくる。さながらヒーローショーの出演者にでもなったみたいだ。応援で気力があふれてくる。
 応援が煩わしかったのか、酉年ビルシャナが参拝客の方へと向きを変える。
「貴方の相手は私達だ。ナイス酉年!」
「眼鏡は大事だよね、ナイス酉年!」
 酉年ビルシャナの注意を参拝客から逸らすため、酉年を褒め始めるメリッサと蘭華。
「酉年は、十二支の中で一番すごくてカッコ良くて可愛いんだよ。ナイス酉年、万歳酉年」
「な、ないす酉年っ……?」
 続くようにルビーが褒める。ユーノも困惑しながら続く。
「そういえば、酉のモチーフはニワトリで、縁起がいいそうですっ!」
「鶏は、唐揚げがとても美味しい! 鳥は私達の食生活をより潤す素晴らしい存在! そんな酉の年なら、今年はとても良い一年になるわ!」
 積極的に褒めていくスズナ。食に関して褒める千鶴。
「十二支でも犬猿の仲を取り持つ立役者。ナイス酉年!」
「酉年さまはほんとうにスゴイ! お客さんを『トリ』込んで経済を活性化させたり、例年なら素直になれない二人の仲を『トリ』もってゴールに導いたり、なんて他の干支にはできませんよ!!」
 ビーツーとメロウは仲を取り持つことを中心に褒める。
 褒める。褒める。とにかく褒める。
 褒めちぎり、酉年ビルシャナの注意がこちらに向いたのを確認し、酉年ビルシャナの懐に飛び込むと、ビーツーは斬撃を放った。
「魔人、降臨!」
 掛け声と共にメリッサの全身に、禍々しい呪紋が浮かんでいく。
 スズナの飛び蹴りに、合わせるように魂を喰らう降魔の一撃を繰り出すメロウ。
 オーラを溜めユーノがメリッサの傷と不調を回復させる。
 ルビーの放つ強烈な一撃が酉年ビルシャナを襲う。よろめくも酉年ビルシャナが炎を放つ。放たれた炎は孔雀の形へと変わり、ルビーを焼き払う。炎に包まれているルビーを千鶴がオーラで包み込み回復を行っていく。
 蘭華の銃弾が正確に頭部を撃ち抜く。
「……足元注意、だな」
 頭部に銃弾を受け怯んでいる酉年ビルシャナの足元から、ビーツーが地面へと力を注ぎこみ炎のつぶてを飛ばしていく。
「貴方のグラビティを眼鏡でゲット! メガネッ……ブリンガァァァァァァァァァ!」
 かけた眼鏡を擦り付けるように、酉年ビルシャナを軸に自身の体を大回転させるメリッサ。まるで人間プロペラのような動きで擦り付けた眼鏡から体力を奪っていく。
「そういえばわたし、干支は酉のはず……です!」
 スズナの目の前に狐火の弾丸がうまれる。
「きつねですけどねっ!」
 手を一振りすると、狐火の弾丸は地を這うように、高速で酉年ビルシャナへと飛んでいき、足へと命中する。
「い、今治しますっ」
 ルビーへと魔法の木の葉を纏わせ回復するユーノ。
 電光石火の蹴りを放つメロウに、蘭華と千鶴が続けて攻撃を加えていく。酉年ビルシャナが反撃しようとするが、体が痺れて動けないでいた。
「最後は、どーんといくよ」
 ルビーが小さな流星型のエネルギー弾を放ち、酉年ビルシャナを撃ち抜くとそのまま地面へと倒れた。
 倒れた酉年ビルシャナの姿が、元の学生の姿へと戻っていった。

●1年の願いを込めて
 青年へと駆け寄り、ビーツーが無事を確認すると安堵する。しばらくすると青年が目を覚ました。
「受験が上手く行くよう願ってるよ」
 メリッサが知的なリムレス眼鏡を青年に手渡し、ニコリと笑った。
 折角だしお参りしていこうという話になり、ケルベロス達は賽銭箱の前へと並んで各々、願いや抱負を口にしていく。
「今年もみんな、幸せでいれたらいいな」
 幸せを願うユーノ。
「無病息災で、がんばれますように! それと、今回まきこまれた学生さんが、全力をだせますように!」
 健康と被害者の青年の事を願うスズナ。
「めがね、めがね、めがね……」
 頭にあるのは眼鏡の事ばかりなメリッサ。
「今年もお兄ちゃんと一緒に楽しく過ごせますように」
 蘭華が願うのは大好きなお兄ちゃんの事。
「今年は積極的に外に出ていくよ。目指せ、アクティブな自宅警備員」
 目標を掲げるルビー。
「受験、合格しますように……!」
 ビクビク、こそこそと千鶴が願うのは自身の受験の事。しかしこちらは完全な神頼みな様子。
 同じように受験合格を願うメロウ。青年の受験が上手くいくようにと祈るビーツー。
「あれだけ勉強内容を復唱できるなら、必ず合格できるだろう」
 お参りを終え階段へと向かう途中、青年の合格祈願を優先する余りに、自身の抱負を祈り忘れていた事をビーツーはふと思い出す。だかそれも自分らしいなとビーツーは苦笑する。
 おみくじや御守りがどんなものがあるのか、きょろきょろと見て回っていたスズナだが、皆が帰ろうとしているのに気が付いて、慌てて追いかける。
「凄く鶏の唐揚げが食べたくなって来たよ。不思議だね」
 蘭華のお腹が鳴った。
 どこかで食べて帰ろうかと、話をしながらケルベロス達は神社を後にした。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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