酉年様事件~酉に願いを!

作者:七尾マサムネ

 それは、1月も10日を過ぎた頃……。
「どうか大学に合格しますように!」
 1人の少年が神社に参拝していた。
 初詣に来られなかったのも、冬期講習など、勉強に明け暮れていたせい。それだけ大学受験に賭けているのだ。お賽銭だって奮発した。
 すると祈りに没頭するうち、少年の身に変化が起こった。またたく間に、鳥の姿に転じていくではないか。
 神様のご利益? 違う。これはビルシャナの力だ!
 なんだかおめでたい雰囲気のビルシャナと化した少年は、ばさあ、と両翼を広げた。
「きっとこれは、酉年様からの試練! 酉年様を奉らない奴らを始末すれば、僕の願いは叶うはず!」
 そして元少年は、人々に牙を剥く……!

「今度のビルシャナは『酉年様』です!」
 笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)によれば、酉年様は12年に一度だけ特別な力を得るビルシャナらしい。酉年に新年を祝う人々の祈りを奪い、急速に力をつけたという。
 そして、集めた力で、神社でお祈りした人達を『酉年ビルシャナ』に変え、人々を殺害させてグラビティ・チェインをもっと得ようとしている。
「酉年ビルシャナは、日本のあちこちの神社で発生するみたいです。この人達は強制的にビルシャナ化させられているだけなので、撃破して救出してあげてください!」
 ただし、ここで逃がせば、ビルシャナ化が定着して、元に戻れなくなってしまうだろう。
「みんなに撃破をお願いしたいのは、青森県の神社に現れる酉年ビルシャナです」
 酉年を褒め称える相手を優先的に狙う性質があるようで、これを利用すれば、周囲の一般人に被害を出すことなく対処できそうだ。
「真面目にお祈りをしていた人を配下にしちゃうなんて、許せませんよね! みんなの力で酉年ビルシャナを止めてください!」
 ねむの双眸は、ケルベロス達への期待と信頼で満ちていた。


参加者
リシティア・ローランド(異界図書館・e00054)
ミューシエル・フォード(キュリオシティウィンド・e00331)
パトリック・グッドフェロー(胡蝶の夢・e01239)
ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)
ゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499)
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
ルゥ・ランユウ(碧羅天龍・e29550)
仙道・風(しゃべくり鎌鼬・e31694)

■リプレイ

●十二年に一度のレアビルシャナ!
「新年早々、面倒事を起こしてくれるなんて、本当に迷惑な奴ら」
 雪を踏みしめ、神社の鳥居をくぐるリシティア・ローランド(異界図書館・e00054)。司書の黒衣と雪の白が、絶妙なコントラストを作り出す。
 祀られた神様の説明が書かれた看板もまた、雪を被っていた。
「学問の神様……そう言えば普通に学校通ってれば、私も受験生なんだよね」
 その姿を想像するロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)。
「まあ、デウスエクスの事件を解決するついでに、受験生を助けるのも悪くないかな」
 自分の手から離れた日常を、せめて少年には守っていて欲しい。そんな本音を隠すように、ロベリアが笑う。
「被害を出さないで解決出来ると良いのですが……」
 ルゥ・ランユウ(碧羅天龍・e29550)が見渡す限り、境内に人気はほとんどない。自分達がビルシャナを引き付ければ、問題なさそうだ。
「そのためには、鳥を褒めれば良いんだったな? 羽根持ちの自覚があまり無いオレが、羽根の話をするというのもちとおこがましいが、ここはしっかと頑張ろう!」
「頑張ろう、だって?」
 パトリック・グッドフェロー(胡蝶の夢・e01239)の決意に、声が返って来た。
 参道の端に立つ鳥人……普通より豪華な出で立ちのそいつこそ、酉年ビルシャナである。
「これはなんともおめでたい見た目でござるなー。とりあえず間引きでござるなっ! きししっ!」
 仙道・風(しゃべくり鎌鼬・e31694)が仲間の背後でもらした本音は、幸い、向こうの耳には届かなかったようだ。
「頑張るとか言ってたけど、酉年様にお願いごとをしに来たのか?」
「まあ、そういうことだ」
 まず『仕掛けた』のは、ゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499)。衣服のあちこちには、酉年のお守りや縁起物が、これみよがしに付けられている。
「酉というのは飛躍の年であると聞いたぞ。何でも、新しいことを始めるには良い年なんだそうだ」
「よく知ってるな。その飾りと言い、君なら酉年様のイケニエに相応しい……ん?」
 熊手刀を構える酉年ビルシャナ。だが、その眼鏡の奥にある瞳が、あるものを捉えた。
「ぴー! とりさんだよー!」
 ぽてぽてと近づいてくる、とりさん着ぐるみの中身はミューシエル・フォード(キュリオシティウィンド・e00331)。そう言えば、昨年のお正月もこの着ぐるみを着て戦っていた記憶が。
「とりさん……」
 しばし見つめ合う、ミューシエルと酉年ビルシャナ。まるで運命の出会い。
「かわいい……」
「えへへっ、ありがとー!」
 とりさん効果は抜群だった。

●酉さんのよいところ、見てみたい
「……あれっ、ミューがいつも見てる漢字と違うよ?」
 ビルシャナの背負った旗を見て、首を傾げるミューシエル。
「知らないのか? 干支の時はこの『酉』を使うんだ。この文字には酒を入れるツボの意味があって……」
 さすがは、受験生を素体としたビルシャナ。豆知識を入れ込むのは、お手の物のようだ。
「ほぇー……初めて知っちゃった!」
「これくらい常識だ」
 ミューシエルに尊敬のまなざしを注がれ、酉年ビルシャナが眼鏡をくい、と上げた。
 いい獲物だ、と攻撃を仕掛けようとするが。
「ところで、そっちで何をやっているんだ?」
「よしっ、完成~! うんっ、カッコいいね!」
 見て見て! とシルディ・ガード(平和への祈り・e05020)が披露したのは、鳥型の雪だるまだった。仲間達の協力で出来た力作だ。
「なかなか良い出来ではないでしょうか?」
 ルゥも満足げな、愛嬌のあるフォルムと凛々しいポーズの雪だるまを、しげしげと見つめる酉年ビルシャナ。
「立派な酉年様の雪像じゃないか」
「でしょ? 鳥はなんといっても翼がいいよね。翼があればどこまでも飛んで行けるもんね。空から見るこの世界はどんなにきれいなんだろう? ぼくも鳥になりたいな~」
「そうですね。自由には誰しもが憧れるものですから」
 雪だるまとビルシャナを交互に見つつ、両腕を広げるシルディと、うなずくルゥ。
「それに翼は飛べるだけじゃない」
 大きく翼を広げパトリックとティターニアが、ふわり、飛んでみせる。
「こうも寒いとやっぱり羽根は温かいよな? よくわかるぜ」
「うん、良いよね酉。美味しいし……」
「食べるなよ!?」
 うっとりするロベリアに、酉年ビルシャナのツッコミが炸裂した。
「人の糧ともなるのですね、酉とは尊いものです」
「あ、ああ……」
 ルゥのフォローに、酉年ビルシャナも怒るに怒れない様子。
 褒められすぎて、獲物もよりどりみどり。
 皆が酉年トークで引き付けている間に、ゼフトが周りにキープアウトテープを張り巡らせていた。この調子なら一般人がターゲットになる事はなさそうだが、戦闘の余波を受けるのは好ましくあるまい。
 準備が整えば、本格的に攻める時だ。
「酉年には商売繁盛を願うのも通例ね。経済も良くなり素晴らしいことだと思うわ」
「そうでござるよ! 景気がよくなれば万々歳でござるよ何かと!」
「そうか。なら僕の願いの為に倒れてくれ!」
 リシティアと共に褒めちぎってくれた風へと、切りかかる酉年ビルシャナ。
 だが、反対に躍りかかったのは、風だった。
「お命頂戴でござるよ!」

●酉の呪縛を解き放て!
 いつコイツの首掻っ切ってやろうかと、そんな事ばかり考えていた風に、容赦はなかった。
 紅い瞳は殺意の証、氷で虚空に螺旋を描く。
「褒めるか攻撃するか、どちらかにしろ! というか、大人しく倒されろ!」
 酉年ビルシャナの熊手刀と、リシティアの幻竜がぶつかりあった。さながら酉と辰の対決。
 ばさあ、と威嚇するように翼を広げ、跳躍するビルシャナ。『飛んだ』とは言ってない。
 そこへ目がけ、対空砲火が飛んだ。ミューシエルの気咬弾だ。
「あれ? 着ぐるみは?」
「ごめんね、ぬいじゃった!」
「君の酉年愛はその程度だったのか」
 単に、狙われ過ぎてはいけないからである。
「そういえば、ここって学問の神様が祀られてるんだよね。知恵の象徴と言えば鷹・ワシ・フクロウとかの鳥、だよね。今年はちょうど酉年だし、すごいご利益がありそう!」
「雪だるまを作ってくれた君か!」
 言うや否や、ビルシャナがシルディに、鶏型の火炎を浴びせた。だが、ポンっと現れた火トカゲが、それを受け止める。
 更に、ルゥが光の盾を張り巡らせた。
「これで耐えてください」
「ありがとう!」
 シルディへ再度攻撃を仕掛けようとしたビルシャナが、視界にビハインドのイリスを収めた瞬間、硬直した。妖術にでもかかったかのように。
 そこへ、ロベリアの黒鎖が絡みつく。
「捕まえた! 逃がすつもりは無いよ」
「逃げるつもりなんてない! 君達から力を奪って酉年様に願いを叶えてもらうまでは!」
 足を取られ、じたばたする酉年ビルシャナを眺めていたパトリックが、ふと呟く。
「それにしても、おめでたそうな姿だな……まてよ?」
 雷刃突を繰り出した直後、はた、と気づくパトリック。
「酉の市って確か11月じゃ無かったっけ? それを模るとは、いよいよもって、全く解らんなぁ……」
 そして、敵の息が上がっているのを見て、ケルベロス達が攻勢を強める。
「酉は酉でも、お前らは呼んではないというのよ。さっさと片付けてしまいましょう」
 そう告げるリシティアの後方から、シルディの射撃が飛んだ。弾かれるビルシャナの熊手刀。
 とっさに手を伸ばしたつもりが、顔面から雪にダイブした。風の疾風鎖鎌に足を取られたのだ。
 ぷはっ、と顔を上げたビルシャナの体が引っ張られる。反動で距離を詰めた風が、その身を薙ぐ。
「メガネメガネ……」
「合格には努力だけじゃなく運も大事だぞ」
 落ちた眼鏡を拾い上げたビルシャナの眉間に、ゼフトの銃が突きつけられる。
 トリガーを引けば、ぱあん、と音が鳴る。
「運は足りないようだな」
「く……酉年様のご加護さえあれば!」
 酉年ビルシャナのくちばしから、何やら聴き慣れない呪文がこぼれ出る。よく聞けば、それは鳥類の学名を並べたもののようだ。
 しかし、経文は掻き消された。ロベリアの嵐の刃に飲み込まれたからだ。千切れた羽が、はらはらと宙に舞い散る。

●願いは本物の神様に
「お前のような鳥もどきに酉年は相応しくないわ。一瞬で消し炭に変えてあげる」
 リシティアのスカートのすそがはためいた直後、天から飛来した轟雷が、酉を裁く。
「これは神罰よ。雷神のね」
「いいや、酉年様こそ唯一の神!」
 焦げたビルシャナも、自分が劣勢だと理解しているようだ。鳥人の表情は読めずとも、声に焦りがにじみ出ている。
「怖いか? チキンは逃げてもいいんだぞ。いや、お前は元からチキンか」
「うん。チキン、美味しいよね」
 攻性植物をうごめかせるゼフトと、闘気をまとうロベリア。
「誰が逃げるもんか! 食われるもんか!」
 言葉とは裏腹にすっかり腰の引けている酉年ビルシャナに、ティターニアが肉薄する。こちらを振り返った瞬間、ブレスをお見舞い。
 慌てて顔面を払ったビルシャナを、今度は冷気が襲った。パトリックの起こした冬の嵐。自慢の羽毛も、これには耐えられまい。
 装飾品をばらまき、無様に転がったビルシャナの口から、くそう、と罵声がこぼれる。
「せめて1人くらいは!」
 狙われたのは、回復役のルゥだった。酉年を褒めてくれたし。
 だが。
「攻撃もできますよ?」
 ルゥは一転、荒々しく、牙を剥いた。捕まえようと迫るビルシャナを、体術でさばく。
「方天戟を喰らいなさい!」
 豹変に戸惑うビルシャナを、その得物が貫く。
 そして反対側からミューシエルの振るった鎌が、ビルシャナを切り裂いたのだった。
「しめるならこれが一番……あっ、このとりさんは食べられないんだった!」
 死んでないよね? と鎌の柄でつついてみると、倒れたビルシャナが、びくん、と痙攣した。
 かと思うと、みるみる人間の姿を取り戻していく。
「はっ、僕は一体何を」
「合格祈願に来てたんでござろう?」
 風に言われ、思い出す少年。
 しかし、境内の荒れた様子を見た途端、その表情がかげる。
「もしかして、これは僕が……こんなバチ当たりな事してたら、神様も願いを叶えてくれないだろうな……」
「ビルシャナに選ばれるくらい君の願いは強く、本物って事だからね。それには自信をもっていいと思うよ。あとはその力を試験本番に傾ければ、きっと願いはかなうはずだよ!」
「ですね」
 シルディとルゥに励まされ、少年も少し自信を取り戻したようだった。
「あ、ありがとうございます! 頑張ります!」
「その意気だ。さて、後片付けだな」
 パトリックやゼフトらが周囲をヒールする間に、他の仲間達が雪かきを始めた。
「そう言えば、ちゃんと初詣に行ってなかったな……。お参りしてこうか」
「ついでにおみくじを引いて今年の運勢でも占ってみるでござるよ」
 雪かきを終えたロベリアと風が、手を合わせる。それからレッツおみくじチャレンジ。
 おみくじの結果に一喜一憂する仲間達を見届けたリシティアが、静かに踵を返す。その背中を追うように、神社を後にする一行。
「さ、僕も早く帰って勉強しなきゃ……ん?」
 一行を見送った少年が、違和感を覚えてポケットを探ると、いつの間にかお守りが入っていた。
「これって……」
 お守りに見入っていた少年は気づかなかった。
 ゼフトが背中越しに、軽く手を挙げていた事に。

作者:七尾マサムネ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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