酉年様事件~オシャレライフ降臨!

作者:林雪

●酉年様降臨!
「今年こそは……! あんなブラック企業から転職して、休暇も趣味もエンジョイ出来るようになって、美味しいもの沢山食べて彼女も作ってそれから……」
 彼の名は鳩居翔一(35)酉年生まれ、とあるゲーム会社に勤めるサラリーマンである。年末年始の僅かな休みは風邪を治すために寝て過ごし、三日から仕事だった彼は七草もとっくに過ぎた今日、ようやく初詣に来られたのである。
 お賽銭を奮発して500円玉にし熱心に拝んでいる翔一の身に、不意に変化が起こった。
 新年三が日を過ぎ、酉年を祝う気持ちが減ったことに焦りを感じた『酉年様』の力で、翔一は酉年ビルシャナに変えられてしまったのだ!
 手足はみるみる黄色い羽毛に覆われ、目はぱっちりと開き、妙に鮮やかなブルーのトサカが揺れている。
『ウフフフ……今年は酉年! ボクも酉年! 酉年様パワーで今年はハッピーライフをエンジョイするんだ! バカンスは海外で2週間! 週に3日は筋トレ! 朝食はスムージー!』
 何だかよくわからないが、オシャレライフビルシャナがここに誕生したのである。
『仕事に振り回されてる可哀想な一般人諸君ー! 一度死んでやり直そう! 人生はオシャレでハッピーであるべきなんだよー!』
 そう声を張りながら、オシャレライフビルシャナは神社の境内にいる人々に向かって氷の輪を飛ばし始めたのだった……。

●あけおめも過ぎたのに
「みんな、お正月はゆっくりできたかな。お餅とかミカンとか七草がゆとか食べた? 僕はね、ラーメンとカレーとお餅と……ケーキも結構食べちゃった」
 なかなかの食い正月だったらしいヘリオライダー、安齋・光弦がエへへと照れくさげに笑ってそう挨拶し、コホンと咳払いをして事件の説明を始めた。
「酉年様、っていうビルシャナが出現したんだ。12年に一度、つまり酉年にだけ特別な能力を得て強化するビルシャナらしい。本当に色んなのがいるね奴ら。全部の干支分いるとは考えたくないけど……」
 酉年様は、酉年を祝ったり祈念したりする人々の祈りの力を集めて急速に力をつけ、その力を利用して神社にお参りに来ていた人を『酉年ビルシャナ』へと変貌させてしまったのだ。
「酉年様は酉年ビルシャナを配下として使役し人々を殺させ、グラビティチェインを集めようとしている。日本全国の神社で一斉にこの事件が発生してるんだ。君たちは都内の東の方にある神社に向かって、被害者が出る前に酉年ビルシャナを撃破してきて欲しい」
 ただしその、強制的に酉年ビルシャナにされてしまった人も被害者のひとりである。
「かなり強引に酉年ビルシャナ化させられてるだけだから、ビルシャナとして撃破すればその人も助けられるよ。ただし、今回撃破出来ないとビルシャナ化が定着してしまって救出出来なくなるから気を付けてね」
 倒すべき酉年ビルシャナは元はサラリーマン、真面目で地味な性格なのだがオシャレでアーバンな雰囲気の生活に憧れが強いらしく、妙に明るくハイテンションにオシャレライフを語ってくるらしい。
「あと酉年ビルシャナの特徴として、『酉年を褒め称える』発言をした相手を最優先で攻撃する、っていうのがあるんだ。より強力なグラビティ・チェインを得る為みたい。だから君たちが酉年を褒め称える発言をしながら戦えば、周囲の一般人は攻撃対象にはならない。そんなわけで避難誘導も必要ないよ。酉年を褒め称える言葉、ってなんか……ちょっと思いつかないけど、まあ酉年はすごい! 輝かしい! って言っとけばいいんじゃないかな多分」
 ヘラリとそんなアドバイスを付け足して、光弦がケルベロスたちを見回した。
「新年早々の惨劇なんて、許しておけない! 遅い参拝のお客さんたちと酉年ビルシャナにされちゃった人も、守ってあげて、ケルベロス!」


参加者
ビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)
アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)
ヴァーツラフ・ブルブリス(バンディートマールス・e03019)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
ハル・エーヴィヒカイト(ブレードライザー・e11231)
鏑木・郁(傷だらけのヒーロー・e15512)
十六夜・琥珀(トロイメライ・e33151)
ウージュ・ヤオ(殀无惧・e34009)

■リプレイ

●酉年様への
『ハッピーな働き方! それがこれからのグロ―――バルすたんだぁ―――ド!』
 神社の本堂のまさに真ん前で、それは派手なビルシャナが大声を張り上げた。
 周辺の参拝客らも足を止めて注目し、足早にそのビルシャナに近づいたケルベロスたちは、若干ひき気味である。
「……新年早々おかしな奴が出てきたもんだな、おい」
 ヴァーツラフ・ブルブリス(バンディートマールス・e03019)が眉間に深いしわを寄せてそう言えば、イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)も青い瞳を瞬かせて呟く。
「見た目は派手ですが……。おしゃれ……なんですかね?」
「ビルシャナはどいつも妙な連中でございまーすが、こいつはなんとーも……なんとーも……」
 生温~い目を向けるウージュ・ヤオ(殀无惧・e34009)の後ろでやはり目を丸くしていたビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)が、はたと気づいて小声で皆に促した。
「ほ、褒めましょう、とりあえず! 確かに妙な奴ですが、褒めてビルシャナの気を引かねば」
「そうだな、注意をこちらに向けないとな」
 感心と呆れの半分くらいの表情でビルシャナを眺めていたアジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)が気合を入れて酉年を褒め始めるべく咳払いをしたのと同時、ハル・エーヴィヒカイト(ブレードライザー・e11231)がその細身に殺気を漲らせた。張りつめた空気が広がって、境内にいた一般の人々は足早に鳥居をくぐって神社を出ていく。その姿を見届けた金瞳が静かにビルシャナへと視線を移し、
「酉年最高! 羽がオシャレ!」
 と、いきなりビシリと言い放った。今度はビルシャナの方が目を丸くする。
『君ぃー酉年を称えるなんて、君わかってるね! 最高にいいグラビティ・チェイン持ってる感じするよ! 僕、酉年様にアサインされてさ、そういうマンパワー探してたんだよねぇ』
 そう、今回の敵、意識高い系オシャレビルシャナは事件の首謀者である『酉年様』によって操られ、彼に献上するためのグラビティ・チェインを集めようとしている。よって、ケルベロスたちが『酉年』そのものを褒め称えることで気を引くことが出来るのだ。
「俺たちも頑張って褒めなきゃな……えー、あれだ、なんか……なんだっけ」
 万が一にも一般人への被害を出さないようにと、鏑木・郁(傷だらけのヒーロー・e15512)が、言葉を探して首を捻る。
「う、打合せしたでしょ郁さん! 酉年! トリは飛ぶから飛躍の年なんでしょ」
 間髪入れずに十六夜・琥珀(トロイメライ・e33151)が助け舟を出した。いきなりセリフが飛んだらしい。酉だけに。
「それそれ。まず酉が飛躍を象徴してる感じが最高にかっこいい。飛躍いいよ。俺も是非あやかりたい」
 郁と琥珀は同じ守りの要を担う者同士、極力自分たちに狙いを向けさせるべく褒め称えにかかる。更にそこに他の仲間たちも加わり、全員一丸となっての『酉年アゲ作戦』が開始された。
『うんうん、それアグリー! まじシナジー!』
 オシャレ系ビルシャナは鳩に似た動きでポッポッと首を細かく前に突き出しながら、よくわからない単語を吐いてくる。とりあえず頷いている様子だから、同意は得られているらしい。
「ニワトリは多産の象徴だし、なんてったってガラまでおいしい! 肉も骨も卵もおいしくて捨てる所ない!」
「そのとーりでーす! 鶏はどこをとっても美味! 唐揚げ、とりわさ、そして……なめろう!!」
「私をお呼びですねウージュさんっ!」
「お願い致しまーすです、ビスマスさーま!」
 息もつかせぬ怒涛の酉年ヨイショが続く。だがオシャレビルシャナは羽毛まみれの拳らしきものを顎に当て、ウンウンと頷きながら案外真剣に酉年トークに食らいついてきていた。
「えー、確か……酉年の酉は鶏と同じ意味なんですよね」 
 ビスマスはそのまま手元に瓶を取り出し、鶏肉愛を語る。
「食効能や食材としても優れてて料理法も多岐に渡る。例えばこの『ササミのなめろう』もその一つでヘルシーかつ美味なんですが……」
「」
『ああヘルシーなのはいいよね。やっぱりジャンクだとさ、フラッシュアイデアも沸かないっていうかさ……、うん』
 ほんの僅かだがビルシャナの声のトーンが下がり、どうかしたのだろうかと琥珀が首を傾げた。
「酉年っつーのは、商売の縁起がいいらしいな」
 間を置かず、ヴァーツラフが客や運気を『とり』こむことに繋がるらしいという昔ながらの日本の商売人たちのゲン担ぎを口にした。
「はン、経営者としちゃあありがてぇこったな。酉年様様だぜ」
『あれっ、君ビジネスパーソンなの?』
 確かにヴァーツラフはとある組織のボスであるので、ある意味ビジネスパーソンである。ただし、裏の。
『もしかして酉年生まれだったりする? 酉年生まれのビジネスマンってさあ、間違いないんだよね』
 ビルシャナが、完全に自分の話がしたいということが透けて見える口調で訊ねた。代わってアジサイが答えた。
「俺は巳年だが、酉年に生まれてればなぁと心底思うよ。羨ましい限りだ」
 ゆっくりビルシャナに近づきながら、アジサイがため息など交えて言った。
「しかも『酉』ってのは物事が極まった状態、って意味だそうだ。一番いい状態になる年ってことだな。最高じゃないか、期待に胸膨らむってもんだ。なあ?」
 アジサイの言葉はもちろんビルシャナの気を引くためのものであるが、その中にはビルシャナの本体である鳩居翔一に向けての言葉も含まれていた。哀れな被害者である彼を、なんとか無傷で助け、今後のことも励ましたいと思う。
「私も、酉年はいい年だと思うんです! 酉年に煮てよし焼いてよし蒸してよしの鶏肉をいっぱい食べて……そのー、親子丼にローストチキン、棒々鶏なんかも美味しいですよね!」
 もはやイリスはグルメリポートの体だったが、ビルシャナには効果てきめん。
『棒々鶏! わかってるなあ完璧だよ君たち! 君たちみたいなクライアントを探していたんだ!!』
 作戦成功、あとはこいつを倒せば鳩居も救われる、ケルベロスたちの戦意が一気に高まった!

●意識高い言葉よくわからん
「ガイアグラビティ生成……模倣開始っ!」
 そう叫んだビスマスの武装がビルシャナによく似たシルエットへと展開される。
『あ、それもしかして酉年様リスペクト? ウィンウィンだね』
「よくわかりませんが、ご当地の気を食らいなさいっ、孔雀炎・なめろうウエポン!」
 ビスマスが振るうのはさんが焼きを思わせる型の斬馬刀。幅広の無骨な武器が炎を巻き起こし、鶏肉ハンバーグに似た香ばしい香りとともにビルシャナに襲いかかった!
『ギャヒィ! 全然孔雀炎じゃないッッ!』
「そ、そういう仕様ですっ……ナメビスくん、行きなさい」
 ほんの僅かに赤らみながらビスマスがボクスドラゴンのナメビスを促す。その姿を見遣りつつ、アジサイが光の壁を呼び出した。
「頼もしい限りだな。守りの方は任せておけ」
「ああ、俺も体張らせてもらう! 仲間に手出しはさせない」
 放ったエネルギー光弾を追うように、郁が前に踏み出し壁となる。
 その守護を受け、攻撃の要であるふたりが刀を並べた。イリスとハルの髪が同時に風に揺れ、それはまるで絵のように凛々しく美しい。
「銀天剣、イリス・フルーリア―――参ります!」
「我が内なる刃は集う。無明を断ち切る刹那の閃き、絶望を切り裂く終わりの剣……!」
 ほぼ同時に左右に跳んだふたりの切っ先が、やはりほぼ同時にビルシャナへと到達する。無意識に互いの呼吸を読んだ一撃は、激しく敵を斬り裂いた。
「ハァッ!」
「ブレードライズ・エーヴィヒカイトッ!!」
『ギャァア?!』
 羽毛の先を焦がす炎を消すのに必死になっていたビルシャナに、先制攻撃が深く食い込む。そこへ、戦いへの追い風をさらに吹かせる琥珀の明るい声。
「いくよ! Hit the Bull's-Eye!」
 踊るようなその声にあわせて、ウイングキャットのそらが戦場を駆け抜ける。
「鶏肉……、じゃないビルシャナ、逃がしませーん。いきまーすよチョーキさん!」
 何かワクワクを抑えきれない風に、そして食欲も抑えきれないのかヨダレを堪えながらウージュが拳を構え、相棒のオウガメタルに檄を飛ばした。その様子を、ハッとしたようにイリスが見つめた。
『ボゲェッ!』
 ウージュに真っ芯をブチ抜かれ吹き飛んだビルシャナ。初撃からかなりのダメージを食ったが、意識の高い鳥はスックと立ち上がる。
『フフッ……君たちの力は見せてもらった。ここからは僕のサジェッションタイムだ!』
 カッコイイ顔でそう言うがイマイチわからない。わかるのは、ビルシャナが手元に生成した氷の輪が危険だということだけである。
『コンプライアンス!』
 本当に言いたいだけ感の強い掛け声とともに、複数の氷の輪がケルベロスたちに向かって放たれた。
「させない!」
 郁が更に前に出、拳を繰り出しそれを叩き落す。すり抜けた攻撃も仲間たちに直撃はしない。砕けた氷は擦り傷を与える程度である。
『こしゃくな!』
「生意気抜かすんじゃねえぞ、鳥ヤローが」 
 いつの間にかビルシャナのサイドに回り込んでいたヴァーツラフの降魔の蹴りが、横腹にめり込んだ。
 酉年アゲ作戦と同様、ケルベロスたちは圧倒的攻撃力で畳み掛けた。
「なるほど、あなたはこの攻撃がお嫌いみたいですね……ソウエンさん、行きますよ!」
 またしてもオウガメタルに呼びかけるビスマスの姿をじっと見ていたイリスが、ぐっと自分の両拳を握りしめて口を開いた。
「ええと……お名前呼べなくてごめんなさい。余り使ったことがないので勝手がわかりませんが……、一緒に戦ってくださいっ!」
 その可愛らしい呼びかけに応じてか、オウガメタルの硬度を纏った拳はビルシャナに激しく食い込んだ。タタキ、という料理を思い出したウージュが舌なめずりをする。
「その旨そうな体、喰らい尽くしてやるでございまーす!」
「どうも早いとこ、パーティーに移行した方が良さそうだな」
 余裕の笑みすら見せるアジサイ。身を挺して守りを固める琥珀を回復しつつ戦況を見る。負けはなし、と見てとるが決して油断はしない。いつ、何を食らってもいいように回復の手段は整えてあった。
 攻撃は確実、かつ迅速。ヴァーツラフが特注弾を乱れ撃ちし、不敵に言い放つ。
「さあ、ミンチにしといたぜ。あとはどいつが料理するんだ?」
『お、おのれ人をささみハンバーグみたいに……』
「おっと、動くなよ」
 まだ立ち上がろうとするビルシャナに、郁が再度銃口を向けた。グラビティ製のライフルがその動きを封じると、ハルが前に出る。だがハルは一度は抜いた刀をそのまま鞘に納めた。
「酉年最高、焼き鳥は美味いから是非もなし……そろそろ夢から覚める時だ」
 静かにそう呟いて、長い睫毛をハルが伏せた。そこに響くのは、イリスの詠唱。
「この世界を傷つけし者に、皆等しき永久の眠りを……―――」
 静かな祈りの姿から、一転突き出された銀色の衝撃破。
『ぐああぁアアアアッッ! あああぁ……っ?!』
 とどめを刺された瞬間、羽毛は飛び散って風に消え、生身の鳩居の体がビルシャナから解放された。近くにいたハルと郁がその体をしっかりキャッチする。
「ここは……? 僕は、一体」
 呆然とした様子で青ざめる鳩居に、駆け寄ったウージュが二カッと笑って見せた。
「どうでございまーすか鳩居さーま、これからささみのなめろうパーティにでも!」

●ささみなめろうパーティ!
 平穏の戻った境内には、神主らの好意でテントとテーブルが設けられ、そこにケルベロスたちが集まった。もちろん人間に戻った鳩居も一緒に、である。
「ささみを日本酒に浸して電子レンジでチンしまして、それを裂き味噌や薬味でよーく叩いて練って練って練りまして更にその日本酒も加えながら叩き練って完成したのが、ささみなめろうです!」
 絶対美味しいやーつ、である。レシピを説明しつつ、それをコッペパンに挟んで鳩居に渡すビスマス。
「……おいひい……」
 そこへ琥珀が、笑顔で大きめのおにぎりを差し出す。
「おにぎりも握ってきたから一緒に食べよ。中身色々あるから好きなの選んで下さい!」
「あったかいお味噌汁もありますよ。具はおあげとおねぎです」
 イリスが魔法瓶からカップに注いだ味噌汁はほかほかと湯気を上げていた。
 まだ自分に起きたことが理解出来ず呆然としていた鳩居だが、一口ふた口と食べる度に彼に生気が漲っていくのがケルベロスたちにもわかった。
「……美味しいなあ……」
 あったかい、美味しい。とても単純なことのようだが、人の心を元気にする最強の呪文である。
 おにぎりを自分も頬張りながら琥珀が言う。
「元気になったら何か鳩居さんの好きなことが出来たらいいね。お仕事ばっかりじゃなく」
「……あんまり忙しすぎて……食事とかも疎かにしてるうちにこういう、誰かとゴハンを食べて、美味しいなって言う時間も取れなかった。けど僕、ゲームは大好きなんです」
 ウージュの表情がパッと明るくなり、ハルも目を見開く。左右からススッとふたりは鳩居を囲んだ。
「いつもお疲れ様でございまーす! ウーはゲーム大好きでございまーすから、鳩居さーま達のお仕事には感謝しかありませーん」
「それは俺も言いたかったんだ。君がこれまでカップそばをすすりながら会社で年越ししたり、休日を返上して完成させてきた作品で俺たちゲーマーは遊ばせて貰っている。いちプレイヤーとして敬意を表しよう」
「……!」
 口をもぐもぐさせながら、感激に涙目になる鳩居。アジサイがポンと彼の肩を叩く。
「今年はきっと良い年になるさ。今後も辛いこともあるだろうが、でも、その辛いことの中に少しでも良いことを見つけたらそれを大事にしてほしい」
 笑顔で頷きながら、郁はその様子を見守る。今日のこのパーティで元気を取り戻した鳩居が選ぶ道はきっと明るいものになるだろう。
「まだまだありますよー」
 そのささみなめろうを肴に既に日本酒を相当量飲み、ご機嫌の様子でヴァーツラフがガシッッ! と鳩居の肩を掴んだ。
「お前らはこっちだ」
 未成年組の前にドンとジュースを置き、鳩居には酒瓶を差し出す。
「鳩居、オメーはいけるな? ところでどうだ、うちに来るってのは。うちの『企業』によ」
 エッ? と青くなる鳩居。ニヤリと口端をつり上げるヴァーツラフ。
「なに、仕事の内容に目を瞑れば今よりはホワイトだろうよ! ハハハ!」
「は、は、ハハハ……」
「ダメでございまーす! 鳩居さーまにはこれからも面白いゲームを!」
 新年早々災難に見舞われた鳩居だったが、ケルベロスたちのパワーを分けて貰い気分は前向き。酉年生まれは飛翔の年、というのも案外本当のことになりそうだ。

作者:林雪 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 3
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