酉年様事件~巡りて背いて

作者:ヒサ

 人混みを避けての事か、何かしらの事情があったか。その日、遅い初詣にと一人神社を訪れ神前で熱心に手を合わせていた三十代頃と思しき男性が、ビルシャナへと姿を変えた。
 彼が望んでの事では無い。が、周囲の人々が異変に気付く頃には、彼は既にデウスエクスの支配下にあった。彼はざわめく人々、主に神社の職員達を見遣ると口を開く。
「十二年に一度の酉年だというのに、この頃の貴方がたは職務に身が入っていないのではないですか? 一年通して祝わずしてどうします、酉年は『酉年様』を崇めねばならないのです。真摯に祈りを捧げ御加護を得なくては……僕の家族に何かあったら貴方がたの不信心のせいですからね!?」
 紅白の色と和服を纏ったビルシャナは、職員達へ指もとい羽を突き付け責める。その羽先には、安産や健康に関するお守りが無数に提げられていた。近々妻が出産に臨むようだ。
 だが、今の彼は『酉年様』の影響を受け殺意に染まっている。本来ならば彼がこの後受ける予定であったろうお守り達も、数少ない他の参拝客達も、この神社そのものとそれを護る職員達も。全てが台無しになってしまうまで、そう時間は要らないと思われた。

 十二年に一度、酉年の時に限り力を増すビルシャナが出現した。名を『酉年様』というらしい。酉年を祝う人々の祈りを糧に活動を始めたようだ。
「神社へお参りに来た人を狙って配下を増やして、より沢山のグラビティ・チェインを集めるつもりのようよ。これが、各地で発生するみたいで……そのうちの一件を、あなた達に止めて欲しい」
 篠前・仁那(オラトリオのヘリオライダー・en0053)は、とある田舎町の大きな山の上にある神社へ案内する予定を告げた。麓から長い石段を登る必要のある、妊婦さんやご老人には全く優しくない立地の為か規模は小さく、上空から正確に敷地内へ降りるのは難しそうで、多少山か石段を登って貰う事になるかもしれない。が、掛かっても十分程度、これが原因で手遅れになる事は無いだろう。件の男性より先に着ける可能性もあるが、予測不能な被害を出さぬ為にも、彼のビルシャナ化を待ってから対処に動いて貰いたい。
「このビルシャナは周りのひとを、殺そうと暴れる、のだけれど……、ええと、酉年をほめたたえるひと、を優先的に狙うらしいの。彼らが欲しいグラビティ・チェインに合うのでしょうね。なので、あなた達がそうした発言を心がけてくれれば、敵の注意を惹けるから、他のひと達を護れると思う」
 神社の敷地内で戦闘になるが、上手く敵を惹き付けられれば、建物等への被害も抑えられるだろう。そうなれば人々へのフォローも不要となり、戦闘に集中出来る筈だ。
「敵は、不利になったからと逃げたりする事は無いでしょうけれど、確実に倒して貰えると助かるわ。……ビルシャナの影響はまだ弱いようで、今なら『彼』も、無事に助けられるみたいなの」
 ここで取り逃がせば人としての彼は完全にビルシャナに取り込まれてしまい、救えなくなるのだという。
 誰一人悲しまずに済むように。ケルベロス達ならばそれが出来ると、仁那は敵の撃破を依頼した。


参加者
星宮・莉央(夢飼・e01286)
空波羅・満願(優雄たる満月は幸いへの導・e01769)
シグリッド・エクレフ(虹見る小鳥・e02274)
アウィス・ノクテ(ノクトゥルナムーシカ・e03311)
二藤・樹(不動の仕事人・e03613)
花唄・紡(ピティリリー・e15961)
篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)
シマツ・ロクドウ(ナイトバード・e24895)

■リプレイ

●心は報われない
 石段を駆け上り息を吐く。鳥居をくぐった少し先に、伝え聞いていた見目の男性の背を見つけケルベロス達は安堵した。参拝の順番待ちにと並ぶ彼の次の位置を確保する如く、シマツ・ロクドウ(ナイトバード・e24895)がそっと距離を詰める。辺りを見渡したシグリッド・エクレフ(虹見る小鳥・e02274)は、授与所に職員が居るのを見つけそちらへ足を向けた。
 そうしてケルベロス達は、男性がビルシャナとなるまで──彼の真摯な祈りに『酉年様』が目をつけるまで。一分にも満たぬその時間を、堪え難くも堪えた。

 骨格が変ず。ざわめきは静かに伝搬する。トリの瞳が景色を映し、
「どうも、酉年様。シマツです」
「え、あ、どうも。酉年、様の配下ですが、一応僕も酉年です」
 小柄な少女が落ち着き払った微笑みと共に折り目正しく会釈する様に虚を突かれていた。その間に数名のケルベロスが、浮き足立つ人々のケアに動く。
「貴方達は逃げて。アウィス達、ケルベロス」
「なるべく手短に済ませますんで暫く離れてて貰えますか」
 アウィス・ノクテ(ノクトゥルナムーシカ・e03311)と星宮・莉央(夢飼・e01286)は困惑や脅えを見せる参拝客達をビルシャナから遠ざけるように。
「もし皆様が戸惑っておいででしたら、お声掛け頂けますかしら」
「良ければ『酉年ないわー』とでも唱えながら」
 シグリッドに対応を頼まれた職員達が急な事態にまごつくのを見、二藤・樹(不動の仕事人・e03613)が一つ具体的な行動を勧めてみていた。
 敵が『酉年を褒める者を狙う』のであれば、逆をすれば安全だろう、というのが彼らの考えだった。無論保証は無く、それ単独では怒らせる可能性も考えられたが、フォローに回る覚悟と準備はして来ている。
「と、『トリドシナイワア』ですか……?」
「お母さん違います、『酉年ないわー』です」
 困惑を拭いきれぬままなれど、ケルベロスの言う事だからと人々が従い始める。先陣を切った壮年の職員が口にするにはフランク過ぎる文言が、難解な言語を取り敢えず発音してみたかのような棒読みで流された。が、隣に居た二十歳前後の娘がすかさず訂正に入り完璧な抑揚で例示を再現した。人々の手本は彼女に任せられそうだ。
「上手じょうず。あとは、酉うるさいとか、『西』と紛らわしいとか、ちょっと派手過ぎない? とかでもいいかも」
「聞こえてますよそこの銀色っぽいお嬢さん!?」
「まあまあ」
 広まった『酉年ないわー』に目を細めたアウィスの新たな勧めをビルシャナが聞き咎める。くわっと視線を転じようとする彼を押し留めたのは篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)だった。
「ああは言ってますけど、それでも俺達酉年の良さは解ってるっすよ」
「ねー、酉年良いよねー。色も紅白で他の十二支よりおめでたい感じするし!」
 宥めつつ彼はビルシャナの肩に手を掛け相手の視界から人々を押し出させる。花唄・紡(ピティリリー・e15961)が流れに乗って声を張り上げた。
「日の出を思わせる色合いですね。それに相応しく、酉年とは学問や商売で成果を得られる年と言われているとか」
 合わせて頷いたシマツの声、感心の色を滲ませたそれは周囲の雑音を制しビルシャナの耳にしかと届く。
「酉年が申年と戌年の間なのは二匹が喧嘩しねぇようにって話もあるらしいな」
 犬猿の仲、との言葉を挙げて空波羅・満願(優雄たる満月は幸いへの導・e01769)。こんなもの褒めた事が無かろうが、本音ではどうでも良かろうが、聞かせる相手がデウスエクスだろうが、人命の為だ。ケルベロス達は懸命に『酉年素敵! 酉年凄い!』な空気を醸し出す。
 その努力が功を奏し、ビルシャナは満足げな顔で胸を張り、彼らを見渡した。
「貴方がたはよく解っているようですね。今年の訪れに早々に馴れきってしまった不心得者達とは違う。酉年を祝う心を言葉でも表現するその敬虔さ。その思いこそが『酉年様』の力となるのです」
 ビルシャナの長台詞の間に、人々の対応にあたっていたうちの二名が手を空けて合流した。シグリッドなど、鞄から出した可愛らしい鶏ぬいぐるみを腕に抱いて褒める準備万端である。
「ですが大多数の者達の不信心ゆえに『酉年様』はご立腹。年始の祈りと同等のグラビティ・チェインを求めているのです。ですから……大変惜しくはありますが、酉年を祝う心をお持ちの貴方がたを丸ごと、頂きたく思います」
「はっ、やってみやがれ鶏ガラが」
「ではこちらも──その体を、取り返させて貰いますね」
 心を伴わぬ事実には蓋をされたまま。敵からの宣戦布告に満願は眉を逆立て攻撃的に笑み、シマツはそれまでと同じ調子のまま口の端を更に持ち上げた。

●酉年生まれは不在の模様
 冬にも関わらず舞った薄紅の花弁は、満願が従える桜木によるもの。放たれる金光に背を押されるかのように、負った翼の光を纏いシマツが宙を駆け抜けた。
 迎え撃つのは呪鐘の音。されど互いにぶつかるには至らず各々が炸裂する。音響に思考を侵されながらも目を眇め堪えた紡は頬を持ち上げ笑顔を浮かべた。
「マンゴーちゃん、お願いね!」
 祈りを乞うて。彼女自身は纏う銀流体を御した。攻め手達が、砕くべき敵を過たず捉えられるように。
 それに合わせ、まずは護りを固めるべきと各々が動く。苦痛を和らげる加護を求め、星陣が結ばれる。その間の敵の牽制には獄炎が踊り、呪詛を孕む薬剤が爆ぜた。
 敵の動きは油断ならぬそれ。人々の身に関しても未だ安心は出来ず、護衛がてら動くのに手一杯な仲間も居る中で。敵の出方を警戒するにあたり、敵と対峙する者達は今一度口を開いた。
「酉って羽があるもんね、『飛翔』って言葉が似合うよね! 他の年より明るい未来がありそうな気がするよね!」
「酉年生まれの人って直感が鋭くて決断に迷いが無いんだってね、すっげーよね! 親切で面倒見が良いし社交性も高いんだって憧れるね! でも恋愛は慎重に行くんだってさ真面目でかっけーよね!」
「そだね、確かに酉年生まれの人って美人が多いし性格良い人も多い気がする! あたしも酉年に生まれたかったなあー」
「ねー! やっぱ酉年が一番だよ羨ましいよね!」
 三、四年ズレて生まれた年長の二人が、少年少女に溶け込める勢いで矢継ぎ早。年少者達が熱意と共に同意の声をあげているところへ、人々の安全を確保し終えた二名が戻って来た。
「今年は『ひのととり』なんだって。なんかかっこいい」
「ねー。酉年パないわー」
 白青の円い瞳を無垢に輝かせてビルシャナを見上げるアウィスの言に短く同調した樹は爆破準備を進めながら皆へ避難状況を報告する。例え神社が全壊しようとも怪我人は出さずにおけそうだ。無論神社も無事が一番ではあるけれど。敵に張り付かんと動く前衛達を手伝い、中後衛も本格的に敵を追い込みに掛かった。竜炎と不意の爆発が連鎖して、手狭な広場へ敵を圧す。焚き上げ待ちのお守り類を散らかしたが各々胸中での謝罪に留め、グラビティを細やかに操り結構な頻度で此方の攻撃をいなす敵の関心を散らさぬべく、ケルベロス達は更に褒め言葉を連ねて行く。
「酉といえば鶏ですわよね。雄鶏はその鳴き声で真っ先に朝を告げて下さいますわ。太陽を従えているかのようで素敵でしてよ!」
「うんうん、格好いい!」
「さすが酉」
 ぬいぐるみを利き手側の肘に挟むようにして弓を引くシグリッドの言に、再度銀の粒子を放つ紡が華やいだ声を添える。周囲の地形情報を腕のコンソールに打ち込んでいる樹が真面目な顔で頷いた。
「それに酉は仲をとりもって、お家の人達も守る。えらい。すごい」
「家内安全もカバーとか格が違うね!」
「酉年はワシが育てた」
 その身から冷気を立ち上らせ非物質の弾を生成しながらのアウィスの拍手に、護りを強化すべく星辰を重ねた莉央が乗ずる。敵との間合いを計測している樹が大真面目に断言した──自宅警備員的には外せない領域なのかもしれない。
(「……アウィス達、寅年」)
(「その辺はシーで」)
(「わかった」)
 今年十九歳になる二名の視線が交わった。育つ前に食べてしまいかねないとかは伏せておく。
 シマツが無数の棘を生やす姿に変形させた鈍器で敵を打ち据え羽毛を引き裂くが、敵の動きを鈍らせきるにはまだ掛かる。佐久弥が大剣を御し相手の敵意を煽り、向かって来たところを満願が庇い凌ぐ──耐える準備の方は万全だ。

●食欲の侵食
 敵の攻撃精度低減は滞り無く進んだ。だが自分達の攻撃を当てる事に関しては、手こずる事となった。呪詛を厭うた敵の祈りはかの身を護り、即ち敵の攻めが緩んだ為にその際は癒し手達も攻撃に回りそれを無為にと、根気強く幾度も繰り返した。双方に疲労ばかりが蓄積して行き、しかしやがて意地と巡り合わせが好機を掴む。
「フォローはするよ。やっちゃって」
 地雷をばらまく手を緩めても良い隙を見出した樹がすかさず警護ドローンを展開する。直後に飛来した敵の攻撃に抗しそれらが癒し手達の負担を減らす。
「お手間をお掛けして申し訳ございませんわ……!」
「ごめん、ありがと」
 精密に御されたドローン達の的確な仕事ぶりに、援護重視で動いていた者達が謝意を示す。ならば代わりにと攻めに転じた彼らが為した眩さが、極光の如く重なり舞い散る。
 ──叶うなら、かの男性が妻の為に揃えたであろう品々を無傷で返してやりたかったけれど。それだけの余裕が無い今、せめて彼自身の無事を、ケルベロス達は強く祈る。
 ただそれでも、あがけるならば。舞うよう跳んだシマツは敵の背面へ回り込み、鈍器の連打を仕掛ける。螺旋の嵐にそれでも慈悲をと乞うた。敵の身を縫い止める間に詰め寄った佐久弥の足が強く地を踏むのに合わせ、砂が熔けて標的の足元を攫う炎と化す。
「酉年って鶏肉のセールとかも増えるから良いっすよね」
「あぁ、美味いよなぁ」
 反して少年の声は穏やかに。唐突に再開された話を理解する為の半拍を挟み、その身で以て仲間を庇い傷だらけになりながらも身に宿す力に依って肉体を保たせていた満願が相槌を打った。彼を案じ身を挺した紡もまた、疲労に浅くなる呼吸を宥めつつ同意の声を。ふと盾役達の目が合ったけれど、互いへの心配はその視線にだけ籠められた。降魔の力と備えで各々凌いでいる二人はともかく、同じく盾たる綿花はもう限界が近い。
「鶏って煮ても焼いても美味しいっすよね」
「水炊き、あったまる」
「親子丼も良いよね、鶏親子が主役だし」
「鶏というと蹴爪や羽も格好良いと思いますわ」
(「……少々、お腹が空いて参りましたけれど」)
 唐揚げ、手羽先、チキン南蛮、棒々鶏。鶏肉料理の名前が乱れ飛んでいた。足も煮ると美味だとか、ザンギは唐揚げとは違うとの力説及び詳細解説とかも。
「安くておいしい庶民の味方。鶏サイコー」
「……最早酉年では無くて鶏肉を褒めてません?」
「いやいや、これも酉年だからこそだよ!」
「うん。酉年えらい」
「酉年! 酉年!」
 ビルシャナにツッコまれ出したがケルベロス達は勢いで乗り切らんと絶賛を続ける。淡々冷静語調が標準な者が複数居る為にその声音と内容の熱さが酷いギャップを生んでいたが、観客も居ないので問題無い。
 疲弊した敵は既に脅威と呼ぶには不足。されど此方の負傷も無視出来ぬ域、癒し手たる莉央は治癒に専念する旨を仲間達へ告げた。ゆえ、他の面々は攻撃に注力して行く。
「ちょっと止まっててね」
「Trans carmina mei──」
 すぐに助けてあげるから、とばかり、明るく言った紡の脚が敵の胴を薙ぐ。寒気そのものを織る如く透明にそよぐアウィスの声が標的を捉え振動を奏でた。
「てめぇの肉は美味いんだろうな?」
 鶏ガラ、と呼び掛ける敵意は満願のもの。抗う間も与えずに、少年の右腕が黒炎を纏う。蒸気と獄炎を噴く鯨形を供に、獣は獲物へ牙を突き立てる。
「あ、でも」
 苦痛に吐息だけを零す敵に代わり応じるのは佐久弥。
「美味しくなくなるかも」
 陽光にきらめくのは呪う骸の名を宿す二振り。放たれるのは決して逃がさぬ為の大技。軌跡は傷を刻み、傷は虚ろに欠けて炎熱に燻る。
 喪失の重みに色を失くす、トリの顔。顧みて、莉央がふと呟いた。
「……行事だらけの現代じゃ、酉年崇めるにしてもやっぱ三が日くらいになるよ」
 世間はもう節分の空気、正月気分を引っ張るにしても鏡開き辺りが限界だろうと。
「十二年中実働三日かー」
「あ、年末は? 投函前の年賀状の裏面程度じゃ半休くらい?」
「んー、ちょっと不労所得っぽいかも?」
 して、感慨深げに息を吐いた樹と社会人トークに発展していた。
 ヒトならぬかの身が失くした肉はされど、その性質に見合った匂いに焦げて。
「──ああ、後で屋台に唐揚げ食べに行こっかな」
 香った端から潰えて行く、正しくヒトへと解放され行くその様を見届ける紡が小さくごちた。

●心はあるべき処へ
 生真面目に謝罪した男性を人々は責めなかった。だがそれゆえに自責に頭を抱える男性を、ケルベロス達が宥める。
「むしろ旦那さんも被害者ですから。悪いのはデウスエクスですから。その為に俺達が居るんです」
「厄落としっすよ、今年分の厄が物理的にきっちり祓われたんっすからもう大丈夫」
「参拝にいらした方にも神社の方にも怪我人は居ませんでしたし、建物等も修復出来ました。貴方様が気に病まれる必要は無いかと」
「これでも気張ったんでな、切り替えて貰えた方が俺らも有難ぇ」
「そーだよ、疲れてるなら何か食べよ? 『お父さん』は元気で居なきゃね!」
「神社で言うのもなんだけど、遠くの神様に頼み込むより、旦那さん自身が奥さんの隣にいてあげる方がずっとずっと良いと思うよ」
 新たな命を預かる身、妻自身も不安だろう。それを分かち合い支え得るのは、不可視の加護では無く愛する人の温もりだ。経験の浅い少年少女達にだって、第三者であるからこそかもしれぬが、解る。
「ええ、お守りにも想いを託されておいでかとは存じますが、奥様はきっと──」
「──きっと何より、貴方の帰りを待ってるよ。新しい家族に会うの、楽しみだね」
 未だ無理があろうとも。笑顔は、彼が愛する家族の為にこそ。

 神前を騒がせた事の埋め合わせも兼ねて、折角なので参拝に並んだ。
「小吉……『願望:気ながくすれば調う』、『健康:障り無し』……」
 その後、数名が神籤を引いた。大きな災いも無く努力は報われるといった運勢を読み上げるシグリッドの声が末尾寸前で淀む。
「どしたの?」
「……『学業:励め』」
 聞いて、現役の学生とかつての学生が複雑な顔で目を逸らした。他人の神籤だけど他人事でも無い。
「……『学業成就』も頂けますかしら」
「承知しました」
 兄の為の祈りに加えて三つ目のお守りを手に取った少女に、推定大学生の巫女が神妙な顔で頷いていた。

作者:ヒサ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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