酉年様事件~おじゃったもんせ

作者:七凪臣

●遅れた初詣の悲劇
 年末年始は観光業に従事する者にとって多忙の時だ。
 温泉旅館の若女将を務める下流水玲子が近所の神社に初詣に赴けたのも、1月10日を過ぎての事。
 三が日はさぞや賑わったのだろう境内も、今となっては人もまばらで。この場所を日々の散歩コースにしている保育園児の黄色い声が晴れ空に高く響いている。
(「神様、お願いします」)
 手水舎で身を清め、じゃらんじゃらんと鈴を鳴らし。二礼二拍一礼の作法に法り、髪をアップにまとめた頭を深々と下げる。
(「今年も沢山、観光客が訪れてくれますように……」)
 多めに包んだお賽銭も、彼女の願いが真摯な証。
(「桜島もほどほどに噴煙を上げてくれますように……」)
 背にした鳥居の向こうに見えるお山の事を願ったのは、彼女が生まれ育ったこの地の魅力を熟知する故。武骨な山が噴煙を棚引かせる様は、一見の価値ありな観光資源だからだ――と、その時だった。
「……!?」
 玲子は息を飲み、瞠目した。
 我が身に何かが起きている。けれどそれが何なのか、彼女は分からず。分からぬ侭、しっとりとした若竹色の和装に包んだ痩身を、白い翼に紅い鶏冠――鶏に酷似した異相へ転じさせてゆく。
「酉年ナノだかラ、ミンナ一年中『酉年様』を崇メル、べし……」
 酉年様、それは玲子をビルシャナパワーで強制的に変容させ、配下と変えたデウスエクスの名前。
「観光キャクは、桜島ヲ見にカゴシマにおじゃったもんせ……っ!!」
 かくて千客万来の熊手に桜島形をした鶏冠を有す酉年ビルシャナと化した女は、グラビティ・チェインを得るべく、まずは近場の園児らに襲い掛かる。

●酉年様、奮起す
 廻る十二支、今年は酉年。
「酉年様というビルシャナが出現しました」
 まさに今年に相応しいと言えるそのビルシャナは、12年に一度だけ特別な力を得る能力があるらしい。「酉年を祝う人々の祈りを奪って急速に力をつけたみたいですが、デウスエクスも色々ですね」と少しだけ笑ったリザベッタ・オーバーロード(ヘリオライダー・en0064)は、しかしすぐさま表情を引き締める。
 何故ならこの酉年様、集めた力を利用して神社で祈りを捧げる老若男女を『酉年ビルシャナ』に変貌させ配下とし、更なるグラビティ・チェインを求め人々を殺害させようと画策しているのだ。
「皆さんにはこの『酉年ビルシャナ』にされてしまった下流水玲子さんの撃破をお願いしたいのです。下流水さんは強制的にビルシャナ化させられているだけなので、撃破さえ出来れば彼女自身は無事に救出可能です」
 されど今回撃破し損ねればビルシャナ化が定着してしまう。つまり玲子の命を救う機会は今回限りだとリザベッタは言う。

 酉年ビルシャナと化した玲子がいるのは、鹿児島市内にあるとある神社。
 既に七草の節句も過ぎているので参拝者は多くなく、広い境内には幾人かの大人と近所の保育園の園児らが散歩をしに来ている程度。しかも酉年ビルシャナはより強力なグラビティ・チェインを得るために『酉年を褒め称える』発言をした相手を優先的に狙う習性があるらしく。
「この習性を利用すれば、周囲の人々が狙われる可能性は全くありません」
 だから避難の必要性は皆無。どころか、園児らからの応援を背に戦うことだって出来るかもしれない。
「酉年様も三が日の初詣の勢いでテンション上がったのかもしれませんね。お陰でその後の落差に怒り心頭――なんて事になったのかもしれませんが……」
 若干の憐れみと再びの笑いを目端に滲ませ、リザベッタは願う口調で締め括る。
「罪なき人に災いが降りかかるなんて、あってはならない事ですから。玲子さんが無事に酉年の日常に戻れるよう、皆さんのお力をお貸し下さい」


参加者
七奈・七海(旅団管理猫にゃにゃみ・e00308)
疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)
辻・ラッカ(カワイイの探求者・e01752)
安曇野・真白(霞月・e03308)
深宮司・蒼(綿津見降ろし・e16730)
斑鳩・朝樹(時つ鳥・e23026)
氷月・沙夜(白花の癒し手・e29329)

■リプレイ

●笑門来福
「いやぁ、今年が酉年でまこと嬉しい事よ」
 高く澄んだ空に響いた快哉の声に、びくりと白い翼が翻った。
「誰!?」
 ちょうど子らへ襲い掛かろうとしていた酉年ビルシャナ――玲子のその反応に、朗々と謳った疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)はニッと口の端を吊り上げ、なおも讃詞を紡ぎ上げる。
「酉年は好い運気を『とり』込み易い年っていうじゃないか」
「厄が取り除かれ福が飛来し、福を取り込む――運気と客を取り込む千客万来の素晴らしき御年ですね」
 御来光を閉じ込めたかの如き瞳を細め斑鳩・朝樹(時つ鳥・e23026)が続けて称えれば、穢れ無き白の箱竜を抱いた安曇野・真白(霞月・e03308)も、器用にぽんと手を打ち鳴らす。
「お姿からして縁起良し。何と神々しくていらっしゃるのでしょう」
 はぁ、と感嘆のため息を一つ零して真白、『何せ干支に連なり神霊でも在らせられる起源、さすが酉年様』というヒコの蘊蓄を耳に、ありがたや~と玲子を拝み始めたものだから。
「イヤァ、ソイホドデモォ」
 ばさりばさり。ケルベロス達の元へ翼を羽ばたかせながら寄って来たビルシャナ、目一杯照れた。序に発せられた炎が襲い来たのも、掴みはOKと思えば何のその。
 それに。
「まぁ、其方からいらして下さるなんて」
 感極まったフリして黄金の果実を掲げたエフェメラ・リリィベル(墓守・e27340)が、灯った火を消す自浄の力を真白らに与え、彼女の傍らでのんびりと欠伸をしていたウィングキャットもヒコ達へ同じ加護を授けるから、事態の深刻化は免れる。
「天を目指す噴煙は、意気揚々たる狼煙の如く。その気勢を吐く桜島にも似た鶏冠も実に立派で、有難さここに極まれり、ですね」
「「桜島!」」
 朝樹が口に上らせた一つのキーワードに、きっちり重なる二つの声。一つは当然玲子で、もう一つは――。
「そう酉年! トリニク年と言っても過言じゃない平成二十九年! そして鶏と言えば桜島どり!! スゴい! ヤバい! パない! まさに奇跡のタイミング!!」
 よいしょ、よいしょ、よいしょぉ!
 これでもかぁ! とテンション上げて反応したのは辻・ラッカ(カワイイの探求者・e01752)。彼の眩い南国の太陽のような鶏肉推しが、更に別の魂に火を灯す。
「桜島どり、食べたいです!」
 こたつへ飛び込む勢いで食いついた少女こそ、自宅警備型猫を名乗る七奈・七海(旅団管理猫にゃにゃみ・e00308)。
「鳥鍋、水炊き、から揚げ、ざんぎ、山賊や焼きに茹で鶏……」
 黒い尻尾をピンと立てて七海が次々挙げる料理名に、真白もごくり。
「干支を頂き運を頂く……皮も身もモツも美味しく頂ける鶏さんは素敵ですの。真白、フライドチキンも油淋鶏も大好きですのー」
「卵もいいですよ! ふわとろオムレツに茶碗蒸し……いけません、お腹が減ってきました」
「鹿児島ニ来タラ、先ズハ『鳥刺し』ヲォ!」
 七海と真白、二人して咲かせたメニュートークに玲子が思わずツッコミを入れたのは、酉年様の影響か、はたまた彼女自身の若女将魂ゆえか。ともあれ園児らの姿はもうビルシャナの眼中にはない。ならここは一気にと、氷月・沙夜(白花の癒し手・e29329)と深宮司・蒼(綿津見降ろし・e16730)もダメ押しにかかる。
「毎年、干支に因んだ置物などが作られるそうですけれど。酉年は特に可愛らしい物が多いそうですね。だから女性や子供に一番人気なのは酉年ではないでしょうか」
「!」
「酉年、ヤバいよな! まずなんたって飛べるし! 翼とか嘴とかマジでカッコいいし! どっかの国ではでっかい酉がすげー縁起いいって言うんだろ? つまり、他の年よりやっぱ酉年が一番ってこと、なんだぜ!」
「オハン達……!!」
 吹き荒れた沙夜と蒼の賛辞の嵐に、玲子はもだもだくねくね。円らな眼からは感極まった感涙が一滴ほろり。
 だから酉年ビルシャナは気付かなかった。ヒコとラッカと朝樹がこっそりこんな会話を繰り広げてたのを。
「酉年だからって張り切り過ぎだろ」
「正月気分もそろそろ終わり。あけましておめでとうございました、だよ。どうせ酉年は一年続くんだから、それでいいじゃない」
「一時のみ持て囃されるのは腹立たしいものですよ。とはいえ、季節と人心の移り変わりは世の常。取り物の如くお縄に付いて貰いましょう……トリだけに」
 涼しい顔でさらり朝樹がオチをつけたところで、今年も(愉快な)戦いの幕が上がる!

●千客万来
 敷き詰められた玉砂利をじゃりっと蹴って。びしっと天を指差すポーズを決めれば、気分は最強ヒーロー。
「さぁ、よいこのみんな! それから大きなお兄さんアーンドお姉さん!」
 果たして何が起きているのか。境内で起きた変事を恐々伺っていた人々へ、ラッカは意気揚々と宣誓する。
「君たちの地球と散歩コースは僕たちケルベロスが守る! まずはこのお姉さんをビルシャナから助けるよ、応援よろしくねぇ!」
「そういうわけだ。さぁさ、年初めの大立ち回り」
 若干ポカンな大人はさて置き。ラッカの煽りにすぐさま上がった園児たちの黄色い声を受け、ヒコは背の翼を大きく広げて空へと舞い上がった。
「派手に行かせてもらおうか!」
 蒼天を走る一筋の流れ星。髪に咲く白梅の花弁をひらり躍らせ、ヒコは中空からの鋭い蹴りで玲子を穿つ。
「さぁ、楽しいショーの始まりですよ。先生方もご一緒に」
 にこり。
 園児たちのみならず引率の先生陣へ朝樹が投げるのは魅惑の微笑。それにドキリと弾んだ女性陣の鼓動に呼応するよう、朝樹が帯びた得物全てが洗練されたデザインへと変化を遂げる。
「新年の祝いに紅き華を贈りましょう――散り逝く極まで、惑い続けなさい」
 右手に構える符、左手を何かを招くかの如くビルシャナへ向け。すると朝樹の指先から散り乱れる薄紅。気付けば白き鳥の異形は、視界を覆う艶やかな混沌に囚われ神経毒を仕込まれていた。
「ほら、白と紅で美しく目出度い」
 笑みと仕草、繰る力で敵までをも魅了する朝樹に、周囲の観客から甘いため息が漏れる。
 となれば、俄然。酉年ビルシャナは面白くない。
「私ヨリ目立ツナンテ許サン」
 紅の余韻を引きずる身をぶるり震わせ、玲子が威嚇の羽を広げる――が、攻撃が繰り出されるより早くラッカが先制口撃。
「酉は十二支最強! ……ってそこのヒトが言ってたー!」
 かくて後方から豪快なパスを放られた『そこのヒト』こと蒼は、即座に酉年賛辞を謳い上げる。
「そうだぜ、酉年最強! 最高ハッピー!」
 途端「デスヨネー!」とご機嫌ビルシャナ。満開笑顔で蒼と、その周囲を巻き込むように熊手についた鈴を打ち鳴らす。
 相手は行動阻害因子ばら撒きの名手。派手さはなくとも一手一手が地味に響く。
「銀華、お願いしますの」
 けれど真白は慌てる事なくボクスドラゴンへ癒しの力を振るうよう頼むと、自らは巨大ハンマーを掲げて駆け出した。
「少しだけ我慢して下さいませ」
 小柄な少女が巨大な得物を振るう姿に、見守る子らのテンションはうなぎ上り。比例して蒼のテンションもどんどん上昇――だが。
「ホント、酉年サイコーだぜ!」
 玲子を自分に惹き付けるのを忘れぬ海色の少年は、生み出した我が身の分身で自分を癒す。愉快に弾けながらも、成すべき事を忘れないのがケルベロス。そして命のみならず心も救うのもまた、ケルベロス。
「行きます!」
 一部からの羨望の眼差しを受けるショートパンツから伸びた健康的な生足で凛々しく立ち、七海は氷結の螺旋を渦を巻かせて解き放ち。
「皆様、楽しんでおられますか? 折角のお正月ですもの、盛り上がって参りましょう」
 纏う黒の衣装を、瞬時に物語のプリンセス達が着るドレスに換えたエフェメラは、再び掲げた金の林檎の加護を今度は自分たちへと注がせる。
 きら、きらり。
「「きゃー」」
 光を眩く弾くドレスに、未来のレディー達が一斉に歓喜を叫ぶ。
 予知で敵の手の内は知れていた。故に、ケルベロス達が練った策に抜かりはなく。更には振る舞いや防具特性で聴衆までをも楽しませ。
(「本当に色んなビルシャナが居るのですね。そしてそれに合わせた戦い方も……」)
 感じ入る様々を胸に抱き、沙夜は豪奢な装飾が施された剣の柄を握る。その名は『愛しい者達へのスピカ』。そして夜天に眩く輝く一等星を戴く乙女を切っ先で描き、溢れ出した光で沙夜は蒼ら前線の者たちを包み込む。
「それじゃぁ、いっくよー!」
 帯びたカワイイ武具を今だけはカッコイイ重武装に転じたラッカも、せぇの、合図と共に七色の爆風を巻き上げた。
 さすれば、園児達の瞳の輝きも最高潮。
「がんばれー、けるべろすー」
「おひめさまも、まけるなー」
 恐怖なんて何処へやら。戦場はすっかりヒーローショウの様相を呈している。

●長楽萬年
「蒼、大丈夫か?」
「――っ余裕、なんだぜ!」
 背後からかかった気遣うヒコの声に、僅かの間だけ呆けていた蒼は、顔を上げてカラリと笑う。事実、ビルシャナの攻撃をほぼ一人で負ってはいるが、沙夜やラッカの回復のお陰で体の方は無問題。ただ――。
(「名前も見た目もめでたそうだけど敵なんだよなー。どうせなら願い事の一つでも叶えてくれりゃいーのに」)
 と、初詣で『もっとでっかくなりたい!』と願った事を思い出し、ちょっぴりしんみりしてただけ。
「ふふ、頼もしい限りですわね」
 見守る園児たちをそのまま大きくしたような蒼の元気ぶりにエフェメラは猫のように目を細め、ふわりドレスを翻す。たまにはこういうのもいいかもしれない。なんてうっとり浸っているのは、その実、ある種の現実逃避。何故ならエフェメラは猫アレルギー。予測不能な行動をとる小動物は、彼女にとって天敵。だのにエフェメラは翼猫を連れている。
「さぁ、参りましょう――そう、静かに静かに蝕んで行くのです」
 我に返りかけた自分と猫の冷たい視線を無視し、エフェメラは魔導書を捲り。目覚めさせた闇竜の力をビルシャナにぶつけた。
 そう、大丈夫。可愛い子らの応援があれば酉だろうが猫だろうが。大丈夫ったら、大丈夫。
 現実問題、戦闘そのものは極めて順調。今もまた、ヒコが作った流れに乗った七海が、疾風と踊ってナイフを閃かせ。鋭く鮮やかに振るわれた強化ガラスの刃は、細く哭いて敵に纏わりつく戒めを一気に強化した。効果は目にも明らか。溶けぬ氷が白い羽毛のあちこちで面積を増やす。
 それでも玲子は、「酉年ばんざーい!」の蒼の声につられて必死の一撃を繰り出し、けれどあっという間に治されてしまって臍を噛む。
「楽しい時間と相成りましたでしょうか?」
 先ほど月弧を描いた刃を収め、朝樹は指先をデウスエクスへ向けた。
「華々しく羽を散らしてお逝きなさい……トリだけに」
 再び広がる、艶やかな薄紅。けれど技の優美さとは裏腹に、放つ朝樹はまさかの天丼ネタ。堪らず真白はくすりと吹き出した。
「本当、楽しゅうございます」
 今は痛みを堪える玲子も、心ではそうあって欲しいと祈り。真白も敵を示す指の先から仄かな光を放つ。
「何ヨスルトォ!」
 紅霞楼に糸掛け星。二人の狙撃手が放った、彼らだけしか扱えぬ力の強襲にビルシャナが苦痛を鳴いた。その足元は、もう千鳥足。
「いっけー!」
「そこだー!」
「任せろ! 水郷の弐式……」
 ちびっこ達のエールに応え、蒼は竜族らしい肘から下を鱗で覆われた腕を掲げて、鎌鼬の姿をした水の式鬼を招く。
「ぶった斬れ、鎌鼬!」
 すいと中空を泳ぐ式鬼。鋭い刃と化したヒレが、巨大鶏の翼を断つ。
「これで――」
 どうでしょう、と続く言葉は気迫に変えて。敵の懐深くまで七海は飛び込むと、軽く掌を添えるだけの動きで、最大限の破壊力をビルシャナの胸へと叩き込んだ。
「ア゛ァッ」
 弱り果てた鶏は既に憐れな姿。癒しを担った沙夜とラッカも顔を見合わせると、ここぞと攻勢に転じる。
「女将さん、あとでお奨めのお土産を教えて下さいね」
 内なる玲子を気にかけ続けた沙夜は、撃ち出す時空さえも凍てつかせる弾丸に真心を添え。
「愛しのデウスエクス・ガンダーラ! でもでも強引なのはカワイくないよ! 大丈夫、僕がもっとカワイくしてあげるから!」
 実はビルシャナ大好きっ子なラッカ、迸る愛と『カワイイは作れる』という思いを技術に小かさせた一撃で、残念モードだった鶏を華麗に大変身させる。
 しょぼくれ羽艶は蘇り、けれどその驚きの腕前にデウスエクスの思考は一時停止。
「ナンカ……良イ……」
 宙を彷徨う視線は虚ろで、次手を仕掛けようとする声も掠れて。最初の威勢を失くした相手に、ヒコは皮肉を笑う。
「そもそも、褒め称える事を強制するってのは信仰としてどうなんだって話だよな」
 神を名乗るのならば、神らしく。
 そうあれないのであれば、相応に。
「伝承から名を借りるなんざ百年早い。そう云うのはもっと覚悟を持ってやるもんだ――……俺のようにな!」
 緑の双眸で神を騙った酉を睥睨し、ヒコは背の双翼を大きく広げる。
「東風ふかば、にほひをこせよ梅の花――……忘れるな、この一撃」
 羽ばたきは刹那。巻いた辻風に乗って飛んだ男は、同じ翼を持つモノとして酉年ビルシャナへ引導を呉れてやった。

「桜島見物するならどこがいーい?」
 ねぇねぇと可愛らしくじゃれつくラッカに、若竹色を乱れなく着こなす姿に戻った玲子は「それなら城山がいいかしら」と微笑む。
 ビルシャナから解き放たれた玲子は、念の為にと沙夜の癒しを受けてすっかり元気。十は若返った気分よ、とケルベロス達へ礼を述べて観光案内を請け負った。
「真白ちゃんはお芋さんよね?」
「はっ、はい! 宜しければ……」
「任せて! で、七海ちゃんは桜島とりのジャーキーだったわね。黒豚味噌もお勧めしていい?」
「美味しい物でしたら何でも歓迎です!」
「ならさつま揚げも食べてもらわなくっちゃ」
「え? 何、美味いもの!? 俺たちも行くんだぜ!」
 美味談義につられた蒼に誘う視線を向けられたヒコは、『ホンモノのトリドシサマだー!』と懐いてくる園児らの囲みからこれ幸いと抜け出す。
「何とも賑やかな事だこと。でも、お正月だもの、楽しんだ者勝ち、ですわよね」
 それなら私もご一緒に、とお姫様から魔女に戻ったエフェメラが駆け出すのを真白と沙夜は見つめ、ふと待ちぼうけを喰らっているだろうヘリオライダーの少年の事を思い出す。
 折角の遠征だ。残り時間を楽しむくらい、彼も許してくれるだろう。土産を渡せば、きっと笑顔になってくれる筈。
「お宿の方は、何れ改めて」
「いつでもおじゃったもんせ」
 女将の手を取り未来の予約を取り付けた朝樹は、境内に去りゆく一同の輪から一度外れ、社へ恭しく頭を垂れてこの地を守る真なる神に礼を尽くし。
「では、僕も行くとしましょう」
 弾む七つの背を追い、とりどりな鹿児島の魅力に想いを馳せた――酉年だけに☆

作者:七凪臣 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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