願はくは雪華の夜に逢いませう

作者:奏音秋里

 愛媛県の吉田という地方には、雪んばという妖怪の存在が伝えられている。
 1本足のお婆さんが、雪の日に子どもをさらっていくというのだ。
「寒いわね……」
 そんな村を、調査のために訪れた大学教授の女性。
 住民からの聞き取りを終えて、旅館への帰路に就いたときだった。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
「貴方、何者?」
 自分とは違う女の声に振り返るも、眼に入った姿は聴いていたよりずっと若い。
 人外の姿に問うも返答はなく、代わりに鍵が胸を貫いていた。

「そういえば自分、年男なんっすよね~」
 と、黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が嬉しそうに話す。
 集まるケルベロス達も、それぞれが干支を数えたり、口にしたり。
「折角の酉年っすけど、早々にドリームイーターが現れたんっす。皆さん、今年もよろしくお願いするっす!」
 夜殻・睡(氷葬・e14891)によると、既に魔女は消えてしまっている。
 だが伝説の雪んばに酷似したドリームイーターが、周辺を彷徨いているらしい。
「ちょっと雪が積もっているみたいっすから、滑らないように気を付けてほしいっす!」
 戦場の候補としては、北西に芝の野球場と、南西に土の運動公園がある。
 いずれも雪混じりの雨が観測されており、足許がべちゃべちゃになりそうだ。
 ドリームイーターの出現ポイントからの距離は、どちらも同じくらい。
 雪んばの存在を信じていたり噂したりする人に惹かれるので、上手く誘導してほしい。
「今回のドリームイーターも、やっぱりモザイクを使って攻撃してくるっす」
 投げつけてくる雪玉くらいのモザイクは、当たった者の行動を阻害する。
 また、凍らせた髪でトラウマをえぐってくるのも厄介だ。
「きっと雪のなかで子ども達が危ないめに遭わないようにって、昔のヒトが考えたんっすね。悪い話にならないよう、ドリームイーターを倒してほしいっす!」
 昔話とは案外、奥が深い。
 だからこの伝説にもなにかしらの教訓があるのだろうと、ダンテは考えている。


参加者
ミケ・ドール(深灰を照らす月の華・e00283)
八上・真介(徒花に実は生らぬ・e09128)
蓮水・志苑(六出花・e14436)
ファニー・ジャックリング(のこり火・e14511)
夜殻・睡(氷葬・e14891)
ヴィキ・オリヴォー(ヒューマノイドアームズ・e22476)
ヨル・ヴァルプルギス(グノシエンヌ・e30468)
ルル・アルマク(ひなたの詩・e33236)

■リプレイ

●壱
 降り立った運動公園は、冬らしい白に染まっている。
 ケルベロス達は早速、土の状態を確かめながら雪んばの噂を話し始めた。
「雪の日に子どもを、な」
 言って、八上・真介(徒花に実は生らぬ・e09128)は泥濘るんだ場所を記憶する。
 雪対策として『特製ブーツ』を履いてはいるが、過信するつもりもない。
「今日みたいナ日ニ、雪んバが出るのネ」
 ヨル・ヴァルプルギス(グノシエンヌ・e30468)も、滑り止めのついた靴で確実に。
 いまは金色巻き毛の人形を介して喋っており、本人は眼を瞑って無表情でいる。
「ゆきんば、ってはじめて聞く名前だなあ。いったいどんなものだろう?」
 寒さは苦手なうえにちょっぴり怖いけれども、雪んばは気になる存在。
 滑りにくい靴に服も着込んで、ルル・アルマク(ひなたの詩・e33236)が微笑んだ。
「雪んばか……漢字では『雪婆』とか『雪姥』とか書くこともあるらしいが」
 女性恐怖症のため、必要以上に近付かないようにしつつ。
 夜殻・睡(氷葬・e14891)も、足許は『特製ブーツ』で固めている。
「……もしかしたら、山姥と同じような存在かもしれませんね」
 今宵も、ヴィキ・オリヴォー(ヒューマノイドアームズ・e22476)は冷静沈着。
 いろいろと思考した結果、導き出した可能性を口にする。
「どういうことだ?」
 ファニー・ジャックリング(のこり火・e14511)から、如何にも興味ありそ気な相槌。
 角と翼も尻尾も収納して、噂話に参加する一方で人払いの状況も気にしている。
「口減らしの為に、山に捨てられた姥。自分が食べる為に子どもをさらい、肥え太らせ最後に食べる。これはあくまで自分の想像ですが、救えない話ではあります」
 ヴィキの語る内容に、皆もそうだなと深く頷いた。
「雪のなかを夢中になって遊ばないように、とか。知らない人に着いていかないように、とか。そんな感じの教訓なのかな? なにかの拍子に、雪に埋まってしまったら危ないしな」
 其処から今度は真介が、現実的な意味を考える。
「確かに。うっかり子どもが外に出て、吹雪で見失うと困るしなぁ」
 睡も首を縦に振り、理解を示した。
「きっとユキンバというのも……大人が子どもを守るために生まれたお話」
 兄の手編みの腹巻きからの温もりを感じつつ、人一倍注意して小股で歩きながら。
 噂話に加わるのは、ミケ・ドール(深灰を照らす月の華・e00283)だ。
「寒い地方は、雪に纏わるお話が沢山ありますね」
 蓮水・志苑(六出花・e14436)も、反対側から『特製ブーツ』で雪を踏みしめる。
 いままでミケと志苑は、運動公園の出入口に立入禁止テープを貼っていたのだ。
「タタラ師が元になった妖怪の派生かな……奥が深いねぇ……」
 う~ん……と考えて、ぽつりと零すミケ。
「種類は多種多様、美しい精霊から恐ろしい妖怪まで。雪降る光景はまるで別世界、美しくもあり自然の驚異をも感じます。それらのお話はこの自然を現しているようですね。雪んばは、自然の驚異の方でしょうか」
 応えて志苑も、妖怪の起源めいたことを述べる。
「ようかいってどんなものだろう?」
 ルルも楽しそうにカラコル耳を動かして、相棒のフェネックとともに首を傾げた。
「科学的知識ナドで理解できナい不思議ナ現象とか存在のことダネ」
 知りたがりの人形が、ヨルに代わって言葉の意味を説明する。
「そーなん。物知りだな……お、お出ましだな」
 と。
 感心するファニーの視界に、顔に一本足の生えたお婆さんが現れた。

●弐
 上手く誘き寄せられたことへの安堵と、これから始まる戦闘への緊張感。
 ケルベロス達は、いろいろな感情を整理してドリームイーターに対峙する。
「物語は、ページのなかへ。人を殺めないうちに戻してしまおう……物語の終わりは決まっているものだから……怖いものは退治されてしまうんだよ」
 戦場に響き渡る、鈴を転がしたようなソプラノの声。
 ディフェンダーへ共鳴の効果を付与するべく、ミケは緊急手術を施した。
「お前も寒いだろう、早く済ませよう」
 寒がりのため、紺地に金のアラベスクの織られたストールを巻いている真介。
 2本の妖精弓を束ね、漆黒の巨大矢を射る。
「……怒れ、叫べ、喚け、お前の敵はここに居る!」
 抜いた刀ではなく鞘を使って、強烈な一撃を叩き込む。
 睡の姿は、認知機能の低下したドリームイーターの瞳には映らない。
「白い世界に惹かれますが、無謀に出歩くと飲み込まれてしまう。そうならないためにも生まれたお話なのでしょうね。ですが、本当に連れ去られてしまうのは困ります。此処は運動公園、皆が再び遊べる場にするためにも、参りましょう」
 愛刀は氷を素材としているが、同じように美しくても、雪は怖いものである……と。
 果実に宿った聖なる光を前衛陣へ届けながら、志苑は思う。
「雪混じりの雨……霙とか、氷雨とかゆーんだっけ。油断は禁物だな」
 落ちてくる滴を拭い、瞬間、ファニーは『特製ブーツ』を履く足に力を籠めた。
 命中率を重視して、蔓の形態へと変形させた攻性植物を放つ。
「世界にはいろいろな物語があるけど、これはこどものことを思って語られた物語なんだね。それならなおさら、人を傷つかせるわけにはいかないな」
 同じくルルも、命中率の高いグラビティを選択。
 掌から生み出したドラゴンの幻影が、強烈な炎を浴びせる。
「……機体の損傷、なし。状態異常に対する耐性の向上をおこないます」
 機械的な声が、ヴィキの口から発せられる。
 修復用ナノマシンが体内を整備することで、バッドステータスを受けにくくなった。
「♪ン~逃ガさなイわ~♪」
 先程とは異なる人形の歌に合わせて、ヨルはオウガメタルで覆った拳を打ち付ける。
 ウイングキャットも、尻尾の輪を飛ばして武器封じを喰らわせた。
 しかし、ドリームイーターだってただ攻撃を受けているだけではない。
 固く凍らせた髪を、勢いよく突き出してくるのだった。

●参
 避ける間もなく、鋭利な刃に貫かれた睡。
 物理的なダメージ以上に、無理矢理に思い起こされる記憶の方が苦しい。
「ぁあっ!」
 滅多にない大声とともに達人の一撃を放ち、ドリームイーターはなんとか振り払った。
 だが、過去に経験した息苦しさが蘇る。
「落ち着いて、睡。さぁ、目を閉じて。信じ給え。祈り給え。そして厳正なる裁きを受け入れ給え」
 後衛から声をかけるミケは、敢えてその名を呼び、黄金の光を発した。
 トラウマに引きずり込まれないように、光を受け入れられるように。
「弾けろ」
 左手は口許の赤いマフラーにかけたままで、ドリームイーターまで零距離に迫る。
 暗赤色のリボルバー銃を押し当てて、ファニーは引き金を引いた。
「無慈悲な常闇の氷結、刹那に堕ちよ」
 言葉に呼応するように、愛刀の刀身から無数の氷柱が出現する。
 志苑が刃を振り下ろせば、その総てが突き刺さりて咲き誇る氷の華。
「今度はこの技を使ってあげるよ」
 いい感じにダメージを蓄積できているように感じて、威力重視の攻撃に切り替える。
 鋼の鬼を纏ったルルの拳が、ドリームイーターの身を砕いた。
「出でませ、異界の傀儡師」
 四肢に幾本もの魔力糸を巡らせて、しかし伸びる先は誰にも視えない。
 ヨルは踊らされるままに身を任せ、両手に持つ武器でダメージを与えていく。
 糸に乗るウイングキャットも、鋭く伸ばした爪でかの顔を引っ掻いた。
「彼の水、彼の天、忌まわしいほど蒼く……それでもなにより美しい」
 とり出した金の懐中時計を触媒として、澄んだ蒼い水を精製する真介。
 魔力を籠めるとそれは矢のカタチへと変化し、真っ直ぐにドリームイーターを襲った。
「子どもをさらう妖怪、ですか。さらったあと、子ども達はどうなるのでしょうか。やはり食料として食べられてしまうのでしょうか……一種のデウスエクスだったかもしれませんが、いまはこのドリームイーターを討伐すること、ですね」
 普段は口数の少ないヴィキだが、小声で呟いて考えを整理する。
 見抜いた構造的弱点へ、痛烈な一撃を命中させたのだった。

●肆
 一進一退の攻防が続くも、数的差異もあり次第にケルベロス達が有利になっていく。
 数ターンを消化すれば、もう、虫の息だ。 
「頼んだよ。けど気を付けて」
 杖から戻ったフェネックは、旅路をともにしてきた大切な友であり相棒でもある。
 優しく声をかけてから、ルルは魔力を籠めて射出した。
「私達の勝利は揺るぎません」
 やはり冷静に言い放ち、無表情のなかでも鋭い視線を飛ばす。
 左手を前に出して放ったヴィキの降魔の一撃が、魂を喰らわんと襲いかかった。
「一方的に生み出されたのに理不尽な気もするけど……Buona notte.」
 非物質化した斬霊刀を横薙げば、ミケの眼前で崩れ落ちる躯。
 長い睫に縁どられた黄金の瞳を閉じて、おやすみなさいと優しく告げた。
「みんな、お疲れさま。地面とか自分たちとかヒールして、特に問題なければ帰還しよう。ただでさえ足許が不確かなうえに雨も強くなるかもだし、暗くなったら更に危ないしな」
 真介は眼鏡をあげて、自分達や運動公園の状態を認識する。
 綺麗なままの水仙や山茶花が眼に入り、少し顔を綻ばせた。
「んじゃ、あっちの穴を補修してくるぜ」
「なら俺は反対側を」
 皆で手分けして、運動公園の現状復帰。
 ファニーも睡も率先して、抉れた地面や崩れた塀を補修していく。
 甘いモノの好きなファニーと、辛いモノの好きな睡。
 帰ったらなにを食べようかなぁとか、お互いに頭のなかで考えていた。
「教訓から出た話なれど、害を成せば其れは唯の『昔話』ではなくなってしまいます故……『雪んば』が子どもを守る御話に戻れましたなら、幸いかと存じます」
 3体の人形を抱き締めて、ヨルは修復を終えた運動公園へと別れを告げる。
 大好きな夜を歩き、被害者の女性のもとへ。
「いらっしゃいました!」
 道の端に倒れていた女性を、抱き上げて癒す志苑。
 暫しの呼びかけの末、意識の戻ったことに、ケルベロス達は胸を撫で下ろすのだった。

作者:奏音秋里 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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