少女は荒野に寝転がり、満天の星空を眺めていた。
その中心には、大好きなオリオン座。
「きれい……」
なかでもその右肩で赤く輝くベテルギウスが、好きだった。
それなのに。
突然、ベテルギウスが爆発したのだ。
「きゃっ!?」
驚いて眼を覚まし、勢い窓の外を見遣る。
しかしベテルギウスは、いつもどおり輝いていた。
「夢……だったの?」
テレビ番組で、ベテルギウスは超新星爆発を起こす可能性があると知ったから。
きっと、そんな夢を視たのだ。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
「ぇっ……」
胸を貫かれた少女の頬を、ひんやりとした風が撫でていく。
崩れ落ちる横で、1人の狩人が立ち上がった。
「あけましておめでとうございましたー! みんな、初夢は視ましたかー!?」
笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が、ぺこりとご挨拶。
「みんなの初夢、いろいろですね! けど実は、初夢にびっくりした女の子がドリームイーターに『驚き』を奪われちゃう事件が発生したのです! 力を貸してください!」
既に魔女の姿はないが、少女の『驚き』をもとにドリームイーターが現実化している。
この情報をもたらしたのは、ラトウィッジ・ザクサー(悪夢喰らい・e00136)だ。
一刻も早く解決しなければと、ねむは張り切っている。
毎度のことながら被害者は、ドリームイーターを倒せば意識をとり戻すらしい。
「ドリームイーターは、ギリシャ神話のオリオンの姿をしているのです!」
右手に棍棒を、左手には退治したライオンの毛皮を持っている。
もの凄い力持ちで、棍棒でまともに叩かれれば大怪我も免れない。
それに毛皮の先に伸びる尻尾から放たれるモザイクは、悪夢を視せてくるのだ。
「ちょっと狭いですけど、女の子の家の隣に、別の家を取り壊した新地があります!」
但し、家のなかには女の子と家族がいるので、気を付けて戦わなければならない。
それとも……と地図を拡げて、ねむは5軒分離れた公園を示した。
「広さは充分です! ブランコとかジャングルジムとかが邪魔かもですけど」
ドリームイーターは、誰でもいいから驚かせたい衝動に駆られている。
故に女の子の家の近くを歩いていれば、勝手に寄ってくるらしい。
ちなみに。
戦闘となれば、驚かなかった相手を優先的に狙ってくるのだとか。
「ねむもびっくりする夢を視たことがあるのです! わくわくどきどきする気持ちを悪用するなんて、許しちゃいけないのです!!」
お餅のように、ぷぅっと頬を膨らませるねむ。
女の子が素敵な1年を迎えられるようにと願い、ケルベロス達を送り出すのだった。
参加者 | |
---|---|
ラトウィッジ・ザクサー(悪夢喰らい・e00136) |
ロイ・リーィング(見兔放犬・e00970) |
リラ・シュテルン(星屑の囁き・e01169) |
源・那岐(疾風の舞剣士・e01215) |
ヴィ・セルリアンブルー(青嵐の鎧装騎兵・e02187) |
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524) |
ロイ・メイ(荒城の月・e06031) |
虹・藍(蒼穹の刃・e14133) |
●壱
程なくして、ケルベロス達は被害にあった少女の家へ到着した。
少女の夢よろしく、無数の星が瞬いている。
「冬は空気が澄んでいて、星が綺麗。あの星の一つひとつに命が宿っていたら、なんて考えると楽しいね」
道の隅まで『特製ハンズフリーライト』で照らして、さり気なく確認。
虹・藍(蒼穹の刃・e14133)の発言を皮切りに、8人は口々に噂話を始める。
「ベデルギウス……オリオン座ですね。私と瑠璃は森を毎日のように駆けまわって育ったので親近感があります。むしろ会うのが楽しみだよね、瑠璃?」
「うん。あの伝説の狩人、オリオンが出るなんて! 紛い物とはいえ、ワクワクするよね、那岐姉さん」
同じく、腰に『特製ハンズフリーライト』を固定して。
源・那岐(疾風の舞剣士・e01215)と源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)も、笑顔だ。
姉弟にとってオリオンは狩人の大先輩で、戦えること自体はとても嬉しい事態。
ちなみに那岐は、到着からずっと一般人を遠ざけるために殺気を放っている。
「オリオンね……神話じゃあ、矢で射抜かれ死んだらしいな」
だからこそ、その背には弓を装備して。
ロイ・メイ(荒城の月・e06031)は、書物から得た神話についての知識を披露する。
「――ペテルギウスが、爆発したら、たいへん、ね」
リラ・シュテルン(星屑の囁き・e01169)の手には、星型ランプを模した照明。
柔和な表情のままウイングキャットと夜空を見詰めて、くすくすと笑う。
「お姉さんもたまに夜空見て思うんだけど、ベテルギウスって、ほんとにいつ爆発するのかしらね? 実際はもう爆発しているらしいけれど。爆発したら夜中も明るいっていうし……ちょっと楽しみよね。うーん浪漫!」
ハイテンションな動きのままに、揺れる『聲痕』の灯り。
ラトウィッジ・ザクサー(悪夢喰らい・e00136)は、いつもの調子で眼を輝かせる。
「ん? あ、あっちからなにか来るみたいだよ」
と、みんなでわいわいしながら、戦場に選んだ公園へと辿り着いたとき。
ロイ・リーィング(見兔放犬・e00970)が、ぼんやりまなこで奥を指した。
「ふーん、よく化けているなぁ。でも所詮は紛い物の化け物、だよね?」
ヴィ・セルリアンブルー(青嵐の鎧装騎兵・e02187)は、驚かずに狙われる役。
『Lampe de la couronne』を顔の高さまで上げて、全身を眺めた。
「そうか、おまえがオリオンのドリームイーターか」
「……いつも、もっと酷い悪夢の話を聞いている。どんな悪夢も、地獄に比べれば生ぬるい……ただ腹は立つな」
「なんだか屈強だねぇ。強いのかな、戦うの楽しみだよ」
「綺麗な星空には想像力をかきたてられるよね。でも、それでドリームイーターに襲われるなんてあっていいはずがない!」
那岐、ロイ・メイ、ロイ・リーィング、藍の4人も、平然と冷静に振る舞ってみせる。
「うわあ、これが、伝説の狩人かあ。やっぱり威風堂々としているし、強そう!」
心底驚く瑠璃の言葉は、ほぼ本心だ。
「ベガ、ベガ、本当に、オリオンが、空から降りて、きて、しまった、ね」
ウイングキャットとともに眼を見開いて、すぐにきっと顔を引き締めるリラ。
「きゃーっ!! やだー驚いたぁーっ!! オリオンじゃなぁ~いっ!!」
ハイテンションのおかげで、ラトウィッジは凄く驚いているように見える。
「星が爆発かぁ。ダイナミックな初夢に負けないよう、キアイ入れていくぞ!」
戦いへ気持ちを入れ替えるヴィの黒いケルベロスコートが、冷風に靡いていた。
●弐
ヘリオライダーからの情報どおり、立ちはだかるのは神話のオリオン。
地面に打ち付けていた棍棒を、高い位置から振り下ろしてきた。
「私が引き受けますっ!」
ディフェンダー2人の負担を減らしたくて、那岐は積極的に攻撃を受けに出る。
その代わり、ただでは済まさない。
距離をとるドリームイーターへ影の弾丸を撃ち込み、毒を喰らわせた。
「那岐姉さんによくもっ! 許さないからなっ!!」
勇敢な口調に変わり、瑠璃が鋭い雷を放つ。
動きを制限するという狙いも達成するべく、パラライズも付与した。
「はいはぁい! お姉さんがラブ注いじゃうっ★ 癒すぞー、めっちゃ癒す。らぁぶ!」
那岐に対して、ラトウィッジから電気ショックの贈り物。
心地よい痺れに、戦闘能力が向上した。
「ベガ、今宵は、たくさん、攻撃、よ。オリオンを、空へ、還し、ましょう」
足許へ置いておいた照明に注意しつつ、リラは一気に距離を詰める。
殴りつけた2本のライトニングロッドから、最大出力の雷を流し込んだ。
「誰も倒れさせはしないぞ! 俺達が皆の盾となろう!!」
「ヴィ、ともに耐えきろう。信じているよ、頼んだ。ラトウィッジ」
思い切り鉄塊剣を振り下ろし、ドリームイーターを叩き潰すヴィとロイ・メイ。
2人して敵を怒らせ、このあと総ての攻撃を一手に引き受ける覚悟だ。
これは勿論、メディックへの絶対的信頼の裏返しでもある。
ロイ・メイの持参した『Reve d'Etoiles』の青い光に、頼もしい仲間の姿が照らされた。
「オリオンって神話のなかの人でしょう。女の子を犠牲にしてなにをやっているの!」
遊具に注意しながら、素早く懐へと入り込む藍。
跳び蹴りを炸裂させれば、その煌めきと重力がドリームイーターの足を止める。
「ふふ、楽しいね!」
ロイ・リーィングの求めるのは、主を護れるだけの力。
だから、自分を鍛えてくれる強敵と戦う機会はある意味、嬉しいことでもある。
初手はほぼ、ケルベロス達の作戦どおりの展開となった。
●参
ドリームイーターの力に、押しつ押されつ。
なんとか全員、ダメージを受けては回復を繰り返して、その場に立っている。
「力を借りるよ!! グリフォン、その武威を示せ!!」
双刀を鞘へと納めて、瑠璃は月へ向かって右手を伸ばした。
召還するは、伝説の霊獣・グリフォン。
ひと鳴きして羽搏けば、発するプレッシャーが体力を削る。
「攻撃対象捕捉。目標を破壊する」
ヴィが、段々と動きの鈍るドリームイーターへと照準を合わせた。
照射される閃光は、白く、細く。
爆発の熱に瞬間、夜が鮮やかに染まる。
「舞い散れ桜よ、敵を切り裂け!」
腰につけた愛用のランプを揺らして、ロイ・リーィングが人差し指を突き立てた。
言の葉を合図に降り墜ちる花弁は、鋭利な刃となって身を裂く。
更に、大量の幻影はドリームイーターを溺れさせ、意識の乱れも引き起こした。
「アタシの息に酔いしれちゃってぇ~ん! 享受せよ!」
投げキッスを追う吐息が、七星瓢虫の幻影を創り出す。
それがなんなのかを理解してしまえば、その先に在るのは恐怖のみ。
群を成す赤い半球形の飛来は、ドリームイーターにトラウマを視せた。
「よく見ろ。私を、全てを」
ロイ・メイの、そしてこの場で相対する者達の意思が、頭のなかを侵蝕していく。
必ず倒す、そして少女を助けるのだという、強い気構えが。
このターンで終わりだと、死を告げる心の声が。
「所詮は偽物よね。文句があるならこの攻撃、耐えてみるといい! 貴方の心臓に、楔を」
ふわっとした声の優しさとは裏腹に、その眼には殺気が宿る。
指先から連射するのは、虹色の光彩を纏う、星銀の弾丸。
最短の軌跡を描いて、藍は重力の楔を撃ち込んだ。
「さて披露するのは我が戦舞の一つ。必殺の銀色の剣閃!!」
言い放つは、幾つかある戦舞のなかでも、那岐が得意とする技である。
銀色の風を纏い、高速が故の、無数の閃光。
容赦なく、ドリームイーターの身体を斬り裂いた。
「海を、往く、貴方を射抜いた、アルテミスの、ように。わたしも、貴方を、射抜き、ましょう。さようなら、オリオン。冬の星穹へ、おかえり。愛しい、愛しい、綺羅星よ。どうか、わたしに、力を貸して」
ウイングキャットと同時に祈れば、リラを囲むように浮かぶ小さな星々。
その煌めきは鏃となり、矢柄が、矢羽が、伸びていく。
呼びかけに応えるように、一直線に飛びゆきて悉く標的の身体を貫いた。
ドリームイーターは。
反撃する力など残っておらず、寧ろそのまま崩れ落ちたのだった。
●肆
静寂をとり戻した公園の上空には、変わらず冬の星座が瞬く。
ドリームイーターの骸も、跡形もなく消滅した。
「強い敵と戦えて、俺も強くなった気がするよ。お疲れさまでした!」
その強さに敬意を表して、黙祷を捧げるロイ・リーィング。
率先して、荒れてしまった場所へエネルギー光球をぶつけていった。
暫くののち。
メルヘンな花の咲く公園をあとにしたケルベロス達は、無事を確かめるべく家を訪ねる。
玄関で、眼を覚ました少女と家族が迎えてくれた。
「吃驚したでしょう。でも、もう悪者はやっつけたから。安心して星を観てもいいからね」
藍が、優しく頭を撫でてやる。
視界を埋める青に気持ちも明るくなり、少女は嬉しそうにうんと頷いた。
「それでは、私達は立ち去るよ。きっとまた、何処かで会うこともあるだろう」
元気そうな様子に安心して、ロイ・メイも別れを告げる。
扉を閉めて眺める月に重ねて、悪夢を視続ける彼に想いを馳せた。
「わくわく、と、どきどきは、彼女の元に、戻った、の、でしょう、か。ベガ、今日は、空を、お散歩しながら、帰ろうか――今日も、星が、きれいね」
冬の大三角を眼で追い、ベテルギウスを発見。
胸に抱くウイングキャットと一緒に、リラは微笑んだ。
「冬って星がきれいだよね。あの遠い星々から、俺たちは、俺たちの星はどんな風に見えているんだろうね?」
空色の瞳に、ヴィも星空を、そしてその向こう側の宇宙を写す。
大きな宇宙のなかにある小さな小さなこの惑星を、大切に護っていきたいと想う。
「お疲れさま、姉さん。やっぱり狩人の大先輩は強かった。ゆっくり休みたいよね」
ドリームイーターとはいえ、オリオンと戦えたことに大満足の瑠璃。
次期族長の右腕として、経験を自分の力に変えようと意欲的である。
「あぁ、早く帰って休もうか。やっぱり伝説の狩人は強かったね。お疲れさま、瑠璃」
そして義姉の那岐は、義弟の成長に今宵も心を動かされていた。
森に帰って、一族の皆に戦いぶりを話す楽しみもできて、うきうきする。
「……うん。やっぱりアタシ、星座とか、わかんないわ……まぁオリオン座だけは分かるからいいのよ!」
歩きながら、しみじみ天体観測をしていたラトウィッジ。
だったのだが。
やっぱり最後まで、ゆるゆるハイテンションで場を盛り上げるのだった。
作者:奏音秋里 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年1月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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