ネガイをゾウオとキョゼツに!

作者:麻香水娜

 森の緑に囲まれ、日本三大楼門のひとつとされる見事な朱塗りの楼門が美しく輝いている。
 一般的な会社は冬休みが開けて訪れた連休中日で、学生は冬休み最終日前日でもあり、更に新成人も訪れ、その神社は大勢の参拝客で溢れていた。
「今年1年良い年になりますように」
「第一志望合格できますように!」
「やった! 大吉!」
 ――――ズシン!
 突然、拝殿の前に4本の巨大な牙が突き刺さる。
 牙はみるみるうちに鎧兜をまとった骨の化け物――竜牙兵へと姿を変えた。
「グラビティ・チェインをヨコセ!」
「ネガイではナク、ゾウオとキョゼツを! ドラゴンサマに!!」
 口々に叫ぶ竜牙兵は周囲に血と臓物を撒き散らす。
 希望や幸せな未来を願う人々の悲鳴が森の木々を震わせた――。
 
「明けましておめでとう御座います」
 祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が穏やかに微笑む。
「新年早々ではありますが――」
 参拝客で賑わう神社に竜牙兵が現れるという予知が見えたようだ。
「……避難勧告はできないんだろ?」
 クリスマス前に関わった竜牙兵の事件を思い出しながら、グレッグ・ロックハート(泡沫夢幻・e23784)が口を挟む。
「はい。他の場所に出現して事件を阻止できなくなってしまいますから」
 しかし、避難誘導は警察などが行ってくれるので、竜牙兵撃破のみに集中して下さい、と続いた。
「時刻は15時すぎ。出現する竜牙兵は4体です」
 簒奪者の鎌を装備した個体とバトルオーラを装備した個体が前衛に1体ずつ、ゾディアックソードを装備した個体が中衛に1体、簒奪者の鎌を装備した個体が後衛に1体という編成だと説明する。
 前衛の簒奪者の鎌を装備した個体は攻撃力が高く、バトルオーラを装備した個体はかなり頑丈なようだ。中衛は状態異常を得意とし、後衛は恐ろしい命中精度を持っている。
「やつらの使うグラビティは武器のグラビティだけでいいのか?」
「はい。装備している武器のグラビティだけです」
 グレッグの問いに頷いた蒼梧は、それと、戦闘が始まれば撤退する事はありません、と付け加えた。
「新年の幕開けを血で汚すわけにはいきません。どうか、全ての竜牙兵を撃破し、人々の新たなる年を途絶えさせないで下さい」


参加者
セレスティン・ウィンディア(墓場のヘカテ・e00184)
四之宮・柚木(無知故の幸福・e00389)
月枷・澄佳(天舞月華・e01311)
ディクロ・リガルジィ(静寂の魔銃士・e01872)
峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)
円谷・円(デッドリバイバル・e07301)
玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497)
グレッグ・ロックハート(泡沫夢幻・e23784)

■リプレイ

●空から賽銭――ではなく
「せっかく新年のおめでたい時に……やれやれなんだよ」
「年が明けて早々に襲撃ですか。新たな年を祝う場を惨劇の現場にさせません」
 円谷・円(デッドリバイバル・e07301)が軽く溜め息を吐くと、月枷・澄佳(天舞月華・e01311)がグッと拳に力を込めた。
「新年早々血なまぐさい惨劇は避けないとね」
 澄佳の言葉にセレスティン・ウィンディア(墓場のヘカテ・e00184)も頷く。
「新年早々人騒がせな連中だ、奴らも正月くらい休……いや待て、そもそもあいつらに新年とか正月とかいう概念があるのか?」
 仲間達とはぐれないように細かく視線をめぐらせる四之宮・柚木(無知故の幸福・e00389)が考え込むように少しだけ眉間に皺を寄せた。
「犠牲を出さないためにも、全力で臨みます……!」
 玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497)が小さく呟き、緊張した面持ちで周囲を警戒する。
 そんなユウマの肩に、ポンと温かい手が乗った。
「気負いすぎるな」
 振り返ると、グレッグ・ロックハート(泡沫夢幻・e23784)が表情を変えぬまま静かに口を開く。

 ――――ズシン!
 突然、拝殿の前に4本の巨大な牙が突き刺さった。
「え、地震?」
「な、何だ!?」
「キャー!!」
 人々のざわめきが悲鳴に変わる。
「残念だけど、今年は辰年じゃなくて酉年だからドラゴンに連なる連中はお呼びじゃないの」
 峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)がケルベロスコートを翻しながら前衛にいるバトルオーラを装備したディフェンダー竜牙兵にマインドソードで斬りかかった。
「こちらですよ!」
 続いてユウマがゾディアックソードを持つジャマー竜牙兵にサイコフォースを放つ。
『!?』
 攻撃される気配を察知したジャマー竜牙兵は咄嗟にバックステップで回避した。しかし、避けたと思った瞬間、ユウマが動くと当時に走り出したグレッグの炎を纏った足で激しく蹴りつけられて胴の骨が焼かれる。
「よく聞きなさい、これが私の唄よ」
 前衛で簒奪者の鎌を持つクラッシャー竜牙兵との距離を詰めたセレスティンが、己の内にある闇の力を収縮させた弾丸を至近距離から放った。

「無理はするんじゃないぞ」
「ディクロにーちゃんも気をつけて!」
 ディクロ・リガルジィ(静寂の魔銃士・e01872)が、避難誘導する警察を手伝う為に走り出した弟に声をかけると、ケーシィ・リガルジィは振り向き様に笑顔で兄を激励する。
「ファラン殿は無理をしている者がいないか目を配っておいてほしい、皆で無事に帰るよう務めるとしよう」
「あぁ。お互い頑張ろうじゃないか」
 柚木がファラン・ルイ(ドラゴニアンの降魔拳士・en0152)に声をかけると、力強く頷いたファランも臨戦態勢に入った。

●ケルベロスが相手だ!
「こちらですよ! 慌てず警察の方々の指示に従って下さい!」
「ケルベロスが来たから大丈夫だよ! 落ち着いて!」
 祝部・桜は楼門から、ローレリーヌ・ピュージェは拝殿を挟んで反対側、奥参道から割り込みヴォイスを使って避難誘導の手助けをする。
 桜の隣では機理原・真理が転んでしまった一般人を助け起こし、ローレリーヌの後ろでケーシィがお年寄りの手を引いて避難誘導を手伝っていた。
「アケマシテオメデトウ、早速だけどお帰りはあちらだ」
 下品な笑みを浮べる竜牙兵に眉を顰めるディクロが、ブラックスライムによって肥大化した二本の猫尾を巻きつける。
『ナ!?』
 拘束されたジャマー竜牙兵は怒涛の連続射撃をもろに浴びてしまった。
『!!!!』
 途端に何かに怯えたように震えだす。
「近づかせない、から……」
 自分の役目はスナイパー竜牙兵への牽制だと、円が竜の幻を召喚。
『フン!!』
 咄嗟にディフェンダー竜牙兵がスナイパー竜牙兵の前に飛び出して腕を広げて竜鱗を浴びた。
「……邪魔だなー。蓬莱、今年のはじめは私たちが護るのだー」
 攻撃を庇われて眉を顰めた円が、サーヴァントの蓬莱に声をかける。ニャアとひと鳴きした蓬莱はふわりと飛び上がると翼をはためかせて前衛の邪気を祓った。
「今ここに武士(もののふ)集いて戦に挑む。――照覧あれ!」
 凛とした声を響かせた柚木が、ふわりと戦の神に舞を捧げると、前衛の仲間達が戦神による加護の光に包まれる。
「あなた達の目的を成就などさせません!」
 澄佳が近くにいたクラッシャー竜牙兵に旋刃脚で腕の関節を砕いた。
『貴様ラのグラビティ・チェインからササゲヨ!!』
 攻撃を受けた竜牙兵達は、まずは邪魔をするケルベロス達からだとスナイパー竜牙兵がセレスティンに向けてオーラの弾丸を放つ。
「危ないっ!」
 恵がセレスティンの前に飛び出し、咄嗟に顔の前で交差した両腕をオーラに喰らいつかせた。その攻撃は高い命中力により予想以上に高い火力を出しており、深いダメージを負う。そこへクラッシャー竜牙兵が簒奪者の鎌を思い切り振り下ろして恵の生命力を奪い取った。
「く……」
 恵は立て続けの連携攻撃に歯を食いしばって耐える。
『シッカリしろ!』
 ジャマー竜牙兵が地面に守護星座を描いて前衛2体を回復させながら守護させた。
『オオオオオオ!!』
 ディフェンダー竜牙兵が雄叫びを上げながら、最も深手を負うジャマー竜牙兵に気力溜めを使って傷を癒して怯えを消す。
「無理すんじゃないよ」
 ファランがルーンアックスを振るって、恵のダメージ癒しながら魔術加護を打ち破る力を与えた。

●あたたかい光
 前衛の仲間達を守護の光が包む。
「ありがとうございます!」
 サークリットチェインを使ってくれた山田・ビートに力強く笑いかけたユウマは、星座の守護がついたクラッシャー竜牙兵に向かってグラビティブレイクを放った。その間に恵は光の盾を自分の周りに浮遊させながら傷を回復する。
(「またグラインドファイアを使ったら見切られる。しかし、他じゃ前衛の2体が邪魔で届かんな……」)
 ならばと、セレスティンに目配せしたグレッグは、クラッシャー竜牙兵に真っ直ぐ向かうと戦術超鋼拳を叩き込んだ。頷いたセレスティンは影の弾丸を放つ。
『ガアアアアアア!!!』
 ステラ・ハートのメタリックバーストで鋭い感覚を更に研ぎ澄まされたセレスティンの黒影弾は、グレッグの攻撃で脆くなったところにクリティカルとなって、クラッシャー竜牙兵はガラガラと音を立てて崩れ落ちた。
「めでたい雰囲気を壊してくれるなよ、骨どもが」
 掌を翳したディクロがドラゴンの幻影を呼び出してジャマー竜牙兵を炎に包む。
「今度こそー……」
 円が狙いすましてスナイパー竜牙兵にライトニングボルトを放った。今度もすかさず庇いに入ろうとしたディフェンダー竜牙兵だったが、竜鱗を浴びた影響で体が思うように動かず、スナイパー竜牙兵を雷が包む。そして蓬莱が今度は後衛に清浄の翼で邪気を祓った。
「峰谷殿! 無理はされるな!」
 柚木が恵の周囲に光の盾を浮遊させて防護させながら、一気に回復させる。
「攻撃してくる前に燃やし尽くします」
 集中して狙いすました澄佳が熾炎業炎砲を放った。その炎弾は竜牙兵の腰骨を焼きながら貫通する。
『オオオオオオ!!!』
 叫ぶジャマー竜牙兵は中心の骨を失い、上半身だけが地に落ちた。
『貴様等ァァアアア!!』
 スナイパー竜牙兵は咆哮とともにグレッグに向かって音速を超える拳を放つ。
「させませんっ」
 ユウマが素早くグレッグの前で大剣を体の前で盾代わりに拳を受け止めた。速度の乗った鋭い拳は受け止めた大剣を持つ手に衝撃を伝える。
 更にディフェンダー竜牙兵が気咬弾でユウマを喰らいつかせた。
 そこへファランがブレイクルーンを使い、避難誘導を警察に任せて合流したサポートメンバーが次々にヒールをかけて癒す。
 しっかりダメージを癒されたユウマと恵は完全な攻勢へと転じ、セレスティンがクイックドロウを放つとグレッグが旋刃脚でほぼ動けない状態にした。円が懐に飛び込んで瞬間に蓬莱がキャットリングを飛ばし、それが命中したと同時に斉天截拳撃を胸元に叩き付ける。
『!!!!!』
 怒涛の攻撃に叫ぶ間もなく、ディフェンダー竜牙兵は背中から土煙を巻き上げながら倒れた。
「最後だ。気を引き締めるぞ」
 仲間達を鼓舞するように声を上げた柚木は再び舞う。今度は後衛の者達を光に包んだ。
「我が身に映すは、戦乙女の槍使い」
 澄佳は、巫術で制御した『ヴァルキュリアランサー』の魂を己に憑依させる。すると背に光の翼が生え、魂の力を具現化させて創り出した槍で連続攻撃を撃ち込んだ。
『オオオオオオ!!』
 最後の1体になっても憎悪の炎を消さないスナイパー竜牙兵は、気力溜めを使おうとオーラを操ろうとする。が、今までは痺れも気にせず動かせていた体もダメージでいう事をきかなくなってきたようで、オーラを練る事ができない。
 うろたえる竜牙兵にファランの旋刃脚が脚の骨にヒビを入れる。
「ロックハートさん、終わりにしましょう」
「あぁ」
 ユウマが最後の竜牙兵を見据えたまま、戦闘前に温かな手で自分を後押ししてくれたグレッグに口を開くと、短く力強い声が返された。
 グラビティを大剣に乗せたユウマが頭上から一気に振り下ろし、同時にグレッグが紅蓮の炎で覆われた左腕の拳で左胸を焼き焦がしながら貫く。
『ガアアアアアアアアアア!!!!!』
 最後に残った竜牙兵が上げた断末魔の叫びは、森の木々を揺らして空に吸い込まれた。

●祈願
 全ての竜牙兵を撃破し、ケルベロス達は手分けしてヒールや掃除に取り掛かる。
 手分けして避難した一般人や誘導に尽力した警察の者にも怪我はないかを確認し、転んだり建物にぶつかってしまった人々にはヒールを施した。
「やっぱ助けがあるって心強いもんだね。ありがとう」
 ヒールがひと段落してファランがサポートに駆けつけてくれた仲間達に笑顔を広げる。
「ありがとな」
「助かったわ」
 ディクロが弟のケーシィの頭を優しく撫で、セレスティンは義理の娘であるステラに微笑みかけた。
「折角だし参拝していきたいな」
 蓬莱を抱いて撫でながら円がぽつりと呟く。
「あぁ。今年の健康と安全を願って参拝していくのもいいな」
「そうですね。お参りしていきましょう」
 柚木が口元を緩めると、澄佳も笑顔で頷いた。
(「当たって欲しくない予感程良く当たるものだが、被害が出なくてよかった」)
 ほっとした顔や何かを祈るような声、ケルベルス達に感謝を告げる声に囲まれたグレッグが表情を変えぬまま胸を撫で下ろした。
「良かったですね」
 賑やかな周囲の状況に、ユウマがグレッグに笑顔を向ける。
「何回あいつらが来てもボクらケルベロスがしっかりやっつけるから怖がらないで安心してねっ」
 怖い思いをした一般人達に、恵が力強い笑顔を向けると、更にケルベロス達に感謝する声が大きくなった。

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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