ゲロゾンビ×モザイクリバース

作者:夏雨

 登校時間を迎えた通学路の光景。2人の女子高生は談笑しながら学校へと歩いていた。
「昨日、弟がゾンビ映画なんかレンタルしてきてさぁ――」
 女子高生はいかにゾンビが恐ろしいものかを熱弁する。
「起き上がった死体に襲われるとか、怖いっていうかキモいよね!」
「知ってる? 映画って作り物なんだよ?」
「とにかく、あんなの全然楽しめない! しかも、その映画のゾンビは寄生虫が混じったゲロを噴射するように吐き出して――」
「朝から気持ち悪い想像させんな!」
 交差点で足を止めた2人の前に、奇妙な姿をした人物が現れる。女性は両手の部位が翼と化し、そのぼんやりとした翼の像はモザイクに包まれている。その女性は手に持った鍵で女子高生の心臓を一突きで穿った。
 唐突すぎる状況に対し、2人は何も対処できなかった。
「あはは、私のモザイクは晴れないけど、あなたの『嫌悪』する気持ちもわからなくはないな」
 そう言い放った第六の魔女・ステュムパロスが鍵を引き抜くと、女子高生Aは意識を失いその場に倒れた。その傍らには風景の一部のようにモザイクの塊が浮かび上がる。モザイクは徐々に形状を変え、新たな姿を作り出す。女子高生が語っていたようなゾンビの姿がはっきりと現われ、つんざくような悲鳴が響いた。
 ステュムパロスは煙のように姿を消していた。

「『ゾンビ』……死者が魂を失いさまよう架空の怪物か。死体という忌避すべきものが嫌悪の対象となるようだな」
 『ゾンビ』について知ったザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)は、苦手なものへの『嫌悪』を奪うドリームイーターの出現を知らせた。
「『嫌悪』を奪ったドリームイーターを捕えることは今回は不可能だ。現実化した怪物型のドリームイーター、もといゾンビを倒すことに集中しろ。ゾンビを倒すことができれば、『嫌悪』を奪われた被害者も目を覚ますはずだ」
 ザイフリートはどこか深刻そうに嘆息すると、ゾンビの攻撃の特徴について説明し始めた。
「このゾンビは素手による攻撃だけでなく、嘔吐物を吐きかけるという不快極まりない攻撃を仕掛けてくる」
 ゾンビの嘔吐物はモザイク化されているが、汚い、臭い、不潔な代物に変わりはない。また、吐き出された嘔吐物はスライムのようにうごめき、体にまとわりついて攻撃を妨害しようとする。
 ゲロゾンビ、リバースゾンビ、気持ち悪い、臭そう、マジでやだ――という総意が雰囲気で伝わり、ザイフリートは空気を切り替えようとケルベロスたちをヘリオンへ促す。
「現場へ向かうぞ、ヘリオンに乗れ。汚物と死臭の苦難を乗り越え、『嫌悪』を奪われた婦女子を救ってみせてくれ」


参加者
クラム・クロウチ(幻想は響かない・e03458)
九十九折・かだん(供花・e18614)
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)
結城・勇(贋作勇者・e23059)
ユグゴト・ツァン(凹凸普遍な脳深蕩・e23397)
望月・みゐ子(雑食系草食動物・e29095)
風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)

■リプレイ


 尋常ではない悲鳴が朝の交差点に響き渡った。悲鳴の元に付近の通行人の視線が集中する中、
「番犬の出番だ。皆様、避難すべき」
 非常事態を告げるユグゴト・ツァン(凹凸普遍な脳深蕩・e23397)と共に、避難を促す望月・みゐ子(雑食系草食動物・e29095)。
「今の悲鳴、聞いたでしょ? 巻き込まれないように逃げてほしいの!」
 等身大の愛らしいモルモットの姿ではあるが、周囲の人々はみゐ子の緊迫した様子を感じ取る。
 突如現れた魔女は、気味の悪い姿をしたゾンビを残して消え去っていた。
 急襲され意識を失った友人と悪夢のような怪物の間に立ち、恐怖で引きつった表情で立ち尽くす女子高生。落ちくぼんだ死人の目が女子高生を捉え、不気味な呻き声を発しながら女子高生へと迫る。直視するのもためらわれるゾンビのおぞましい姿を、巨大なハンマーを構えるドラゴニアンが女子高生から遮った。
「てめぇの相手は俺たちだ!」
 ゾンビの前に立ち塞がるクラム・クロウチ(幻想は響かない・e03458)は、「気絶したやつ連れて逃げてくれ!」と女子高生を促す。
 おびえ切った様子の女子高生に対し、九十九折・かだん(供花・e18614)は「おいで」と声をかけ、気絶している級友を抱えて共にその場から退散する。
 ハンマーの砲門を開くクラムに注意を奪われたゾンビは、
「さぁ、楽しい時間の始まりだぜ……」
 機敏に行動するシュリア・ハルツェンブッシュ(灰と骨・e01293)の攻撃を許してしまう。シュリアの放った拳は見事ゾンビの顔面に命中し、相手は大きく態勢を崩す。その瞬間を狙うように、風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)は更に銃弾を命中させる。目をむいて叫声をあげ、錆次郎を睨むゾンビの形相にぞっとしてつぶやいた。
「これが夜の街だったら、もっとホラーな雰囲気だったね」
 錆次郎に続きユグゴトもゾンビの注意を一般人からそらそうと攻撃に臨み、ドラゴンの幻影が牙をむく。

● 
 他の者がゾンビを引きつけている内に、
「危ないですよー。コスプレとかじゃなくて、本物のゾンビなんですよー!」
 朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)は付近の一般人を締め出して『キープアウトテープ』を張り出そうとする。
 轟音響く街角の光景にどよめく群衆。鈍い足取りで後ずさるばかりで現状把握の利かない集団に対し、
「ゾンビ映画っつったら、やっぱパニックものだしな」
 結城・勇(贋作勇者・e23059)は『パニックテレパス』で周囲の人々の危機感をあおった。
「――早く逃げねぇとゲロ塗れになっちまうぞ!」
 勇の一言に扇動され、付近の一般人は打って変わって我先にと非難を完了させる。
 交差点の封鎖を終え、本格的にゾンビへの突撃を開始する環は通り過ぎ様に、
「エンディングは、もちろんハッピーエンドでお願いします!」
「当然、俺たちの勝利で終わらせようぜ」
 そう言って剣を構える勇の足元からは星座の輝きが生まれ、ほとばしる光は積極的に攻勢に出る者たちに守護の力を授ける。
 輝きに包まれる環は流星の如く戦場を駆け、ゾンビへと猛攻を加えた。相手をなぎ倒そうとする環の蹴りを受け止め、踏み止まろうとするゾンビの両足は地面を滑る。
 レインコートなどを羽織った数名は、ゾンビの嘔吐を警戒し身構えていた。
 鈍い動きを見せるゾンビは攻撃にさらされ続けたが、炎を吹き出すボクスドラゴンのクエレを叩き落とそうと手を伸ばしてきた。クエレが寸でのところでゾンビをかわすと、足元に接近してきたミミックのエイクリィが標的となる。エイクリィは勇ましく注射器と電気鋸を掲げるが、ゾンビによってサッカーボールのように蹴り上げられた。
 今までの鈍い動きとは違い、ゾンビは何かのスイッチが入ったかのように凶暴な動きを見せる。ユグゴトが地面を転がるエイクリィに気を取られた瞬間、ゾンビは一気に距離を縮めた。片方の角と首根をわしづかみにされたユグゴトは、爪が食い込むほどの力に表情を歪める。同時にユグゴトの喉元に噛みつこうと開かれた口腔からは、耐え難いほどの腐敗臭があふれ出す。
 息を止めつつ、ゾンビを引きはがすユグゴト。攻撃の手を払うユグゴトに対し、ゾンビはしつこく食い下がろうとするが、響き渡るかだんの咆哮がそれを妨げる。全身の器官を震わせるようにして響くかだんの咆哮は野生の獣を想起させ、すべてのものに畏怖を及ぼし鼓膜を侵す。かだんに圧倒されるゾンビは思わず足を止め、鋼と化したみゐ子の拳をまともに食らった。
 攻勢に移ろうとするユグゴトだが、腐臭に目を回したように足取りはふらつく。顔色の優れないユグゴトに気づき、みゐ子は「大丈夫?」と気遣う様子を見せる。しかし、ユグゴトは目をむいてみゐ子から無言で後ずさっていく。みゐ子は怪訝に思いながらも、再度ゾンビとの攻防に加わる。


 ゾンビに向けて響かせるクラムの歌は相手の意識をむしばみ、確実に動きを鈍らせた。スピードが落ち込む相手を余裕で捉えて攻撃を叩き込んでいけば、いよいよおぞましい技の一端を見せてくる。ゾンビの喉元から更にせり上がってくる何かは、シュリアが巨大なハンマーを掲げた瞬間に一気に口腔から放出された。
 ゾンビへと迫っていたシュリアは、とっさに吐き出された嘔吐物をハンマーで弾く。ハンマーの頭にはモザイクの塊が張り付いた。
「おいおい、どこをどう見ればあたしがエチケット袋に――」
 嘔吐物ごとゾンビを仕留めたと思ったが、手応えがない感触にはっとするシュリア。ゾンビはハンマーを避けて足元へと潜り込み、そのままシュリアの足首をつかんで引き倒そうとした。シュリアは瞬時に反応し、ハンマーの柄でゾンビの体を突き飛ばしたが、左足には皮膚を引き裂かれる鋭い痛みが走る。
 なぜかえずいているのはゾンビだけではなく、錆次郎に背中をさすられて介抱されるユグゴトの姿があった。
「あれれ、大丈夫? ゾンビのせいでやばくなっちゃった?」
 元衛生兵の錆次郎は慣れた様子で、ユグゴトの背中をさすりながらグラビティの力を注ぎ怪我の治癒を促す。その間にも、ゾンビは腹部を痙攣させて飛距離のあるモザイクを吐き出してくる。
 クラムのいる方角へと迫るモザイクは、クエレが体を張って受け止めた。その瞬間、飛翔していたクエレは地面へと衝突したが、モザイクまみれになってしまったクエレの姿に、クラムは思わず一歩引き下がる。
「クエレ。よくやった――」
 ねぎらうクラムのことはお構いなしに、クエレは翼をばたつかせてモザイクを飛び散らす。「勘弁しろよ!」という思いをぐっと飲み込み、クラムは羽織っていた布をかざして汚れを防いだ。
 至近距離まで迫ったゾンビの傷口から、強烈な腐臭がわき出すのをシュリアは感じていた。悪臭に顔をしかめていたシュリアに、その異変は現れる。
 仲間の治療のために奔走する錆次郎は、シュリアにも治療を施そうと近寄るが、
「うわぁああこっち来んな来んな!」
 錆次郎の姿を見た途端に全力の拒否を示し、必死に後ずさる。「ゲロくせーんだよ! まじ!」と攻撃的な態度を見せるシュリアがどういうつもりなのか疑問も浮かんだが、
「そんな言い方しないでよ! ユグゴトさんに失礼でしょ――」
 シュリアの言動をたしなめる錆次郎に向かって、容赦なくハンマーを振り下ろす。「ひえっ!」と小さく悲鳴を上げて飛び退く錆次郎と入れ替わるかだんは、
「どうどう、落ち着きなって」
 武器を振るうシュリアにも冷静に対処し、軽快な身のこなしで攻撃を誘いつつ相手を引きつける。


 ゾンビとの接触を受けて様子がおかしくなる2人を気にかけつつも、攻撃の手は緩めない。加勢する環はチェーンソー式の剣を構えてゾンビへと突き進む。
「汚いなんて、気にしてる場合じゃないです!」
 致命傷を避けようと動くゾンビだが、回転駆動する刃に弾かれてみゐ子の前に無防備な態勢をさらす形になった。再び流体化する金属から形成した鋼拳を振るうみゐ子だったが、ゾンビは遠慮なしにみゐ子に向かってモザイクを吐き出す。目の前ではち切れる瞬間に遭遇してしまったみゐ子は、予想以上に悲惨な状況に追い込まれる。
「ぎゃああああ! 目にゲロがあああ! ゲロがああああ! ゲロがぁぁ!」
 絶叫しながら猛烈な勢いでゾンビの間合いから退くみゐ子。レインコートの袖で必死に顔をぬぐう仕草は実にモルモットらしい愛らしさがあるが、「かわいい」と言っているような状況ではない。
 継続されるカオスな状況にどうにか対処しようと、それぞれが最善を尽くす。
 かだんは錯乱して襲いかかるシュリアを引き付けつつ、シュリアの握るハンマーに向かって強烈な蹴りを放つ。ハンマーごと弾かれたシュリアは一時的に我に返り、
「くそっ! これ以上惑わされねえっ」
 気合を込めた一声で、自力で頭の中の霧を晴らした。
 吐いてすっきりした様子のユグゴトは吹雪の魔法を操り、ゾンビだけを竜巻のように舞う雪の中に閉じ込める。クラムは靴底の車輪を利用して滑走し、冷凍されつつあるゾンビへと迫る。車輪から散る火花は舞い上がる炎へと変わり、炎の脅威を見せつける。身構えていたゾンビだが、忍び寄ったエイクリィに注射針を突き刺され、体の自由を奪われていった。
「面倒増やされる前に――」
 宙へと体を浮かせたクラムはドロップキックの態勢を取り、
「ぶっ潰す!」
 体を覆い始めた氷ごとゾンビを蹴り飛ばした。粉々に砕け散る氷と共に、ゾンビの体は倒れ伏すように傾く。傾こうとするゾンビへ瞬時に迫る環が追撃を加えると、シュリアも攻撃を重ねていく。蹴り飛ばされて跳ね返るゾンビが、ピンボールの玉のように2人の間をしばらく行き来すると、
「ばっちいゾンビは炎で滅菌消毒なのー!」
 ゾンビへと勇ましく向かっていくみゐ子の背後には、炎の竜の幻影が付き従う。
 竜を操る勇は言い放つ。
「しっかり焼いて消毒してやるよ! ゾンビが復活出来ねぇように、消し炭にしてな!」
 みゐ子は炎を巻き上げる足技を見事に命中させ、地面を転がるゾンビの体は竜の炎に包まれていく。しばらくもがき続ける姿があったが、その原形は灼熱の炎の向こうに霞んでいった。

「全員がゾンビに見えたときは焦ったぜ」
 錆次郎に『クリーニング』の能力を発揮してもらいながら、シュリアは錯乱した時の心境を語る。
「魔女の野郎も、とんでもねーもん出してくれたな」
 そうつぶやくクラムの周りを、清潔にしてもらったクエレはうれしそうに飛び回っている。
 体や服は綺麗になったものの、みゐ子の気分は落ち着かず青ざめた表情をしている。
「あれを食らったせいでこっちまで吐きそうなの……誰か袋ちょうだいなの……」
「もう1人吐いてたけど、大丈夫――あれ?」
 錆次郎が気にかけるユグゴト本人の姿が見当たらないことに気づくが、ユグゴトはひそかに人目につかない場所へと退散していた。
 毎度毎度酒に溺れて繰り返すのと同様に、限界を迎えて嘔吐してしまうユグゴト。
「うぇ……黄鮫ゲロインの汚名は健在か」

作者:夏雨 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 10
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