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未だ深い夜闇が広がる明け方前、一つの人影が釧路湿原の奥地に佇んでいた。
「地球は丁度、節目の時期らしいわね……なら、その門出、私も祝ってあげようかしら」
誰にともなく呟く黒衣の女性。その傍らにもう一つ、不意に影が生まれた。
ひび割れた仮面から微かに覗くのは、生気を失いながらも鋭く研ぎ澄まされた殺気を孕んだ瞳。
「行きなさい、そして……新年とやらを、血で飾ってあげなさい」
闇を切り裂いて、地平線に一筋の光が走る。
昇る朝日に照らされるのは、すらりと伸びた細身の刃と、ボロボロにくたびれた螺旋の仮面であった。
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「明けましておめでとう、ケルベロスの諸君。今年も慌ただしく物騒な1年になりそうだが……何卒、よろしく頼む」
ヘリポートに集まったケルベロスたちを一瞥して、フレデリック・ロックス(蒼森のヘリオライダー・en0057)は開口一番、新年の挨拶を告げる。
「さて……それで、ここに来てもらったのは他でもない。死神による螺旋忍軍のサルベージが確認された」
今回、対処するのはそのサルベージされた螺旋忍軍と、深海魚型の下級死神が2体である。
当のサルベージを行った死神は既に姿を眩ませており、恐らく現地で捜索しても見つけることはできないだろう。
「敵の侵攻経路は予知によって確定している。キミたちは湿原の入り口付近で迎撃に当たってくれ。人通りも少ないので、戦いだけに集中できるだろう」
サルベージされた螺旋忍軍は比較的オーソドックスなタイプだが、身の丈近くある細身の刀剣を使うのが特徴である。
「見た目は繊細な獲物だが、その切れ味は非常に危険だ。2体の下級死神にも注意しろ、その牙はグラビティによる付加効力を容易に噛み砕くぞ」
螺旋忍軍はその武器による接近戦を得意としており、放置して下級死神に接近するのは難しいだろう。
飛び道具などで先に死神を倒すか、あるいは螺旋忍軍に真っ向から一気に火力を集中させて短期決戦を挑むか……仲間同士でしっかり方針を話し合う事が重要だ。
「めでたい新年をやつらの都合で滅茶苦茶にされるわけにもいかない。後ろで動いている死神も気にかかるが……今はサルベージされた螺旋忍軍に全力を注いでくれ、頼んだぞ」
参加者 | |
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アマルティア・ゾーリンゲン(リビングデッド・e00119) |
草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028) |
霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479) |
月神・鎌夜(悦楽と享楽に殉ずる者・e11464) |
リー・ペア(ペインキラー・e20474) |
シャルローネ・オーテンロッゼ(訪れし暖かき季節・e21876) |
薬師・怜奈(薬と魔法と呪符が融合・e23154) |
カインツ・フォーゲル(渡り鳥・e33750) |
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夜が朝に変わる刹那。薄闇に清廉な朝日が微かに交じる、そんな冬の朝。
冷えた空気の中を、音も無く歩を進める人影。そして、宙空を漂うように泳ぐ不気味な影が二つ。
ふと、ギョロリと転がる巨大な目玉が進む先の1点を捉えた。それに従うように、仮面の人影も足を止める。
「はい、ここから先は通行止めですよ」
昇る朝日を背に、立ち塞がるのは8人の人影。ケルベロスだ。
第一声を発したのは霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)。真っ黒なのは逆光で影になってるからではない、そういう服装だからである。
目的地を前に現れた障害に、下級死神はその歯を忌々し気に打ち鳴らす。
「新年早々これですか……しかも、過去の大戦で亡くなった方まで……形振り構っていませんわね」
その様を見て、薬師・怜奈(薬と魔法と呪符が融合・e23154)は小さなため息を零した。
しかし、その形振り構わないと言う姿勢は、敵に回すと最も厄介だ。どんな手段を用いてでも、彼らはグラビティ・チェインを奪う事を諦めないだろう。
「この先には人々の営みが、尊い形があるんです。あなたたちを行かせるわけにはいきません!」
「何事もなく、みんなが朝を迎えるためにも、ここで止めさせてもらうよ」
背後にはまだ寝静まっている平穏な街がある。死神たちを行かせてしまえば、その平穏は脆くも崩れ落ちるだろう。
そうさせないためにここに来た。そして、それを無視して行けるほど容易い相手ではない事を死神も螺旋忍軍も感じ取っている。
シャルローネ・オーテンロッゼ(訪れし暖かき季節・e21876)とカインツ・フォーゲル(渡り鳥・e33750)の明確な戦意に、死神が散開し始める。
……そして、澄んだ空気に研ぎ澄まされた音が走る。螺旋忍軍の背負う鞘から、白銀の刃が引き抜かれた。
長く湾曲した刃は、死神に操られる螺旋忍軍の殺意を乗せ、ケルベロス達に向けられる。
「細身であるのが残念ですが、大型武器使い同士、話が合いそうですね」
「うーん、話を聞いてくれる顔付きには見えないですけどね」
すらりと伸びた刀身を見据えるリー・ペア(ペインキラー・e20474)の言葉に、裁一は苦笑を浮かべた。
ヒビ割れた仮面から覗く瞳は、確かな凶気を孕みながらもどこか虚ろで、その存在が既に命を手放した傀儡に過ぎない事を示しているようでもあった。
かつては、その命を賭けてケルベロス達と刃を交えた敵であり、再び立ち上がった今もそれは変わりないのだろう。しかし……。
「新年早々働き者で素晴らしいじゃねぇか死神サマよ?」
「働き者には『休み』をくれてやらなきゃな? 今度こそ永遠にゆっくり眠れるような休みをさ」
最も忌むべきは、それを弄ぶ死神の存在。
内に秘めた憎悪を焚べ、月神・鎌夜(悦楽と享楽に殉ずる者・e11464)は地獄の炎を燃え上がらせる。
鞭打たれた死者が相手となれば、巫女である草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)としてもデウスエクスと言えど見過ごす事も出来ないだろう。ニヤリと笑みながらも、サングラスの下には確固たる戦意が宿っていた。
各々が、死神の目論見を止めるべく螺旋忍軍と対峙している。
そして、それはアマルティア・ゾーリンゲン(リビングデッド・e00119)も同じだ。
頭の上に乗っていたボクスドラゴンのパフを下ろし、鉄塊の剣先を敵勢へと差し向ける。
「その後ろに控えてるヤツに好き放題させるわけにはいかないのでな、お前達には元いる場所に帰ってもらう」
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「――。それでは、失礼して!」
大きな深呼吸を一つ。自分なりに緊張をほぐしながら、シャルローネは御業を解き放つ。
冷えた空気を裂いて螺旋忍軍に掴みかかる御業に合わせて、ケルベロスは一斉に動き出した。
「パフ、援護は任せた!」
パフの力をその身に受けつつ、一足早く先陣を切ったのはアマルティア。
疾駆と共に地を削る鉄刃は、目にも止まらぬ速さで軌跡を描き、螺旋忍軍の背後を狙う。
「――アマルティア・ゾーリンゲン。推して参る」
だが、死神のサルベージにより理性は失われているとはいえ、敵も手練れ。
風に舞うような軽やかな跳躍で御業を交わし、返す刃と身に染み付いた技で鉄塊を受け流そうと構える、が。
「そう来ると思っていましたよ! 残念ですが、お縄について貰いますよ! とーう!」
それを遮るように、裁一の放ったブラックスライムが螺旋忍軍にまとわりつく。
そして、動きを封じられたところを、大地を砕く勢いで振り下ろされた鉄塊剣が直撃した。
無論、これだけで終わるほど容易い相手ではない。それに、死神たちも先手を取られたまま黙ってはいなかった。
一旦間合いを取りながら、螺旋忍軍は指で印を結むとアマルティアへ向かって螺旋を描く冷撃を放った。
「あぽろさん、今だよ!」
「任せておきなぁ!」
その瞬間、不意に木の葉が戦場を踊る。
カインツの魔力によって隠蔽された暗がりの中から、太陽の輝きを閃かせる刀身が螺旋忍軍に奇襲をかけた。
あぽろの斬撃は螺旋忍軍の精密な攻撃を僅かに逸らすには十分な一撃だ。
「さて、お魚さんに動き回られると面倒なので……」
「ここで足止めさせてもらいます」
先ほどまでのゆらゆらと彷徨うな動きとは打って変わって、死神は不規則な軌道を描きながらケルベロスたちへと襲い掛かる。
だが、それを阻むのは黒瑪瑙に封じられし力。そして、降り注ぐような雷撃の嵐。
本来は邪なるその力と、本来なら命を救うための力は今、怜奈とリーによって同じく敵対する者へと襲い掛かる。
「あなたたちの相手は、私です!」
その猛攻をかいくぐった1体の死神の牙を、リーが身を削って抑え付ける。
「随分焦ってるみたいじゃねぇか、死神共がよぉ!」
そして、その隙を突いて螺旋忍軍を捉えるのは、鎌夜の剣。
「順番ってものがあるだろうよ! まずはお前からだ、くたばりやがれ!」
両手で力の限り振るわれた刃は、死を拒絶するデウスエクスの存在に地獄の苦しみを刻み付ける。
その彷徨える虚ろな肉体は、燃え上がる憎悪を身に受け何を思うのだろうか。
●
グラビティの効力を喰らう牙を持つ死神と、それを断ち切る剣技を持つ螺旋忍軍。
パフやカインツの支援はことごとく破壊されてはいいるものの、戦いの主導権を握っているのはケルベロスだ。いわば、敵はその対処で手一杯と言う状況に近い。
「っ……なるほど、速いですね。しかし、的確で鋭い。腐っても強者と言うことですか」
だが、リーの言う通り、敵も一筋縄でいくような相手では無い。
「無理はしないで、一旦回復を優先しよう」
「あぁ、頼む。守りは私に任せておいてくれ」
仲間を守り、螺旋忍軍の一撃を一手に引き受けたリーだったが、針の穴を突くように防御をかいくぐられ予想を大きく上回る負傷を受けてしまう。
続く死神の攻撃をアマルティアが引き受ける中、カインツはリーの回復に力を注ぐ。
こちらの火力が集中している螺旋忍軍も、最早虫の息だ。そこさえ落としてしまえば後は一気に片が付くだろう。
勝負所は今だ。言葉にするまでもなく、ケルベロスたちは動き出す。
「死神さんに操られて、使い捨てられるなんて、あなたも本懐ではないはずです!」
踏み込んだ鎌夜に合わせ、シャルローネは3体の小人を螺旋忍軍の手足に張り付かせるように召喚した。
小人たちは各々の獲物を螺旋忍軍の体に突き立て、その動きを妨害する。
「話すだけ無駄だ! こいつも元よりデウスエクス、俺たちの手で死を刻みこんでやるだけだ!」
その言葉通り、鎌夜は問答無用の斬撃を繰り出していく。
苛烈な猛攻は本来デウスエクスが受ける事はない破壊と殺戮そのものを体現しているかのようだ。
「ま、デウスエクスでも死者は死者。黄泉に帰してゆっくり眠らせてやるのが巫女の役目ってもんだ!」
理由は違えど、目的は一つ。死神の援護を受け間合いを取ろうとする螺旋忍軍を、あぽろの鋭い斬撃が捉える。
「見た目の割にしぶといですね、体勢を整えられる前に何とかしたいところですが!」
「そういう事でしたら、お任せを」
裁一の言葉に、死神の相手をしていた怜奈が答える。
不意打ちで放たれた霊力の網は跳躍する螺旋忍軍の手足を絡め取り、その身を空中に曝け出した。
「ナーイスです! どこからどう見てもリア充ではないですが! 忍者と言えば爆発四散すべし。風穴空けながら!」
最後の一撃を決めるべく、裁一が狙いを定めて高々と跳び上がる。
頭巾を軸に渦巻くグラビティが激しく唸り、螺旋忍軍ごと天を突く。
一閃。そして束の間の静寂。裁一の着地と同時に、螺旋忍軍は激しく爆散と共に消え去るのだった。
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「後2体、逃がしはしませんわ!」
「小人さん、お願いします!」
螺旋忍軍を失った今、死神たちの敗北は明白だ。
しかし、死神は撤退も降参もすることはない。その身が朽ちるまで牙を剥き続けるだけだ。
「出でよ幻影の龍、敵を焼き払え!」
「パフ、私たちも仕掛けるぞ」
しかし、その牙は怜奈とシャルローネの呼び出す力によってことごとく阻まれ、届くことはない。
カインツの紡ぐ竜語魔法が生み出した炎は、パフの吹くブレスによってより強く激しく燃え上がる。
そして、その炎に紛れて一気に間合いを詰めたのは、アマルティアとリーだ。
「生憎と彼のように繊細な技はありませんが……叩き潰すのは得意です!」
豪快に振り上げられた大型のバールが死神を捉える。
だが、死神に逃げ場はない。左右、前後、そして上。全てを同時に抑えるようなアマルティアの神速の剣閃が退路と言う退路を塞いだからだ。
死神が最期に聞いたのは、無慈悲な鉄の一撃で砕けていく自分の身体が上げた悲鳴だったに違いない。
「さぁ、後1体! 何枚おろしにしましょうか。億枚おろしくらいしてやってもいいですよね?」
頭巾の下でギラリと裁一の目が輝く。ナイフを両手に飛び掛かる姿は、どっちが死神なのかわからなくなってくる程には不気味だ。
しかし、死神は退き下がる最中で、更に恐ろしいものを目にするのだった。
「温い! こいつら相手には兆単位で刻もうが、炭になるまで焼こうが、温いっ!」
それは、業火と呼ぶに相応しい炎だった。
自身の持つ地獄を、禍々しい鉄塊の刃に染み込ませ、鎌夜はそれを死神へと叩き付ける。
爆ぜる業火は死神を包み込み、焼き尽くしていく。
「さぁて、お前らも散り様で祝いな……! 新年一射目だ!」
さながら地獄そのものといった光景に、あぽろが飛び込み死神へ掌を向ける。
「明けましておめでとうッ! 『超太陽砲』!!」
煌く髪と、至近距離から放たれる焼却の閃光。
地獄の淵に昇る太陽は、欠片一つ残さずに死神を焼き払うのだった。
「今度こそ、ゆっくり眠りなよ」
サングラスを外して見上げれば、そこにはすっかり顔を出した朝日が夜を裂いて街を照らしていた。
「……」
まるで空に消えていくような太陽砲の輝きを見上げて、最後にシャルローネは小さく黙祷を捧げる。
願わくば、弄ばれた命に今度こそ安寧を、と。
朝日は昇る。例えそれがどんなに暗い夜であってもだ。
作者:深淵どっと |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年1月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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