●享宴
「オラオラ、そんなもんかよ!」
一方的な怒号が飛ぶ。
鉄パイプに金属バット、やや控えめなところで角材。七人の男が武器を手に執拗に殴りつける。
「はっ、自称武闘派もたかがしれてんな」
まあ、こちらは主力の留守を狙ったのだが。
リーダー格であろう金髪の目立つ男が煙草をふかし、血まみれの男たちを眺めて鼻で笑う。
外でタイヤが軋むような音がした。長居しすぎたか、金髪が目配せすると男達が武器を構え直す。
「てめえら、好き勝手しやがって! やっちまえ、マツ!」
叫きながら戻ってきた男がマツなる男を呼んだ。
その姿を確認できたかどうかというタイミングで、襲撃者達の三人が急に歪んだ地面に飲み込まれた。
何が起こったのか、金髪達は目を剥いてソイツを見た。
それは見るからに異形。下半身はまるで木の根のように変じてコンクリートの床に溶け込んでいる。右腕は植物の蔦が絡み合ったような状態で、掌にあたる部分には花が咲いていた。
不意に、その花が輝いた――瞬間、頭部を穿たれ一人が仰け反る。
煙を上げて倒れていく男の頭部は、半分なかった。
「うわあああ」
それは奮起か恐怖か、叫びながら殴りかかった勇敢な男にマツは左手を向ける。
ぱっくりと割れた手はハエトリグサ、躱す事は出来ず、耳をつんざくような断末魔は短かった。
そのままゴミを捨てるように振り払われ転がった死体の頭部を見て――金髪は吐いた。
愉快そうに、マツを従える男は笑う。
「ぎゃはは、なっさけねえなあ! おい、マツ。俺達に逆らったヤツの末路ってのを、見せつけてやれ」
命令を聴いているか否か、マツは恍惚としたような表情で、最後のひとりに手をかけた。
●Weed murder
「やや、お待ちしてたっすよ! 皆さん」
ご足労いただきまして、と妙に恐縮がって皆に順番に頭を下げる――黒瀬・ダンテというヘリオライダーは、実に腰が低い。
話を聴かせてくれ、とケルベロスが促すと、彼は頷く。
曰く。舞台は近年急激に発展した若者の街、茨木県かすみがうら市。
「どうも最近、若者のグループ同士の抗争事件が多発してるらしいっす」
半グレっていうんすかね、とダンテは顎に手をやり首を傾げる。過激な抗争は元々の特徴ではあるのだが。
「だが、それだけなら俺たちを呼んだりしないな」
「そっす。ただの抗争事件ならケルベロスの皆さんには関係のない話っす。でも、そのグループにデウスエクスである、攻性植物の果実を体内に受け入れて異形化したヤツがいるんすよ」
そのグループは元は弱者を恐喝しているようなケチな集まりだったが、ソイツが現れてから急激に成長したらしい。
殺しを躊躇せぬ異形の怪物を、彼らは歓迎する。そして、デウスエクスも同じだ。
「このデウスエクスは力に酔って、人を殺すことを喜びにしてるっす」
ダンテの言葉に、このまま放ってはおけない――ケルベロスの意志はひとつに固まる。
「件のデウスエクスのスタイルっすけど……遠距離広範囲は根っこで掘り返し、右手でレーザーみたいな破壊光線を出すという二段構え、近づけば左手に毒を持つハエトリグサがぱくっと来るっす! ……ついでに結構タフみたいっすけど、でも、皆さんが力を合わせたら、敵じゃねえっす!」
ケルベロスを正面から見つめ、ダンテはきらきらと目を輝かせて断言した。
そして、戦場となるのは恐らくグループの溜まり場の廃ビルのエントランス。アウトローの溜まり場として有名なので一般人は近づかない。だが、今回のシチュエーションでは先客がいる。留守番しているグループの人間が三人と、奇襲を仕掛けてくるグループの人間が八人。
「まあ、皆さんの好きにしたらいいと思うっす。皆さんからしたら、敵にもならないチンピラっす!」
説得するも、殴って黙らせるも、抗争は無視してデウスエクスがやってくるのを待つのもケルベロスの自由だと。
何より彼らは、攻性植物とケルベロスが戦い始めれば勝手に逃げていくだろう、と彼は断言した。
「あと、このデウスエクスは殺すしか手はないっす。元々無茶苦茶やってる奴ら、情け容赦は不要っす……自分は、ケルベロスの皆さんの事、信じてるっすよ!」
「さて、あなた達はどう立ち回る?」
黒い帽子、フードのついた長いコート。いかにも魔法使いといった風体の少年が、ケルベロス達を振り返る。
「俺はオラトリオの鹵獲術士、レオン・ネムフィリア」
落ち着いた声音で名乗り、小さな手を差し出してくる。
「宜しく頼むよ……俺は勝つ為なら何でもする覚悟だ」
レオンはその大きな赤い瞳に、確かな闘志を燃やしていた。
参加者 | |
---|---|
新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664) |
超宗我部・雪兎丸(五線譜の檻からの解放者・e01012) |
火岳・たける(誰かの残り火・e01622) |
木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634) |
嵐城・タツマ(地球人の降魔拳士・e03283) |
ペリム・エストルテ(インペリアルウィザード・e03609) |
霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479) |
熊谷・まりる(ウェアライダーの自宅警備員・e04843) |
●襲撃改め
熊谷・まりる(ウェアライダーの自宅警備員・e04843)は昂揚が押さえきれず、無意識に胸を押さえた。三毛猫の耳がぴんと立って、漆黒のウェーブヘアは風に煽られ揺れている。
自宅警備員だが、ファッションは完全なる山ガールである彼女は、ロープを手に「えいっ」と声をあげてヘリオンの外に身を躍らせる――ケルベロスはわざわざラペリング降下しなくてもいいのだが、彼女の場合は趣味と実益なのだろう。
「あわわっ!」
実際、彼女に続いて飛び降りたペリム・エストルテ(インペリアルウィザード・e03609)はスカートの裾を自分で押さえてそのまま飛び降りた。
ぼりぼりと頭を掻きつつ、二人が降りてくるのを確認した嵐城・タツマ(地球人の降魔拳士・e03283)が視線を向けた先で、火岳・たける(誰かの残り火・e01622)は既に目的地へ向け、歩き始めていた。彼女は終始淡々と、目的のみを見つめている。
既に背を向けている相手と視線が合うことも無く、まあそんなものかと彼も続く。
帽子を直しつつ、新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)は小さく深呼吸した。
必要以上に気負っていない、よい状態が保てている――そんなことを考える雑念が未だ甘い印だと、祖父ならばいうだろうか。
「初めての任務、しっかり片付けるとしよう」
言い聞かせるようにひとつ零す。
廃ビルの周辺は荒んでいた――生ゴミのような臭いが漂い、あらゆるガラスは割られ、壁にはあちらこちらにラクガキがある。概ねそこを根城にするグループの仕業であろうが、なるほど、これは一般人は近づくまい。
身を潜めつつ、レオン・ネムフィリア(オラトリオの鹵獲術士・en0022)はそう思った。
ケルベロス達がそれぞれに身を潜めた時には既に、エントランスでは半グレ同士の抗争――いや、一方的な襲撃と暴力の気配があった。なかなか調子が良いようで、止まぬ打撃音と知能の低そうな罵声に、霖道・裁一(残機数無限で警備する羽サバト・e04479)は嘆息した。
周囲に注意を払いつつも、ここまで夢中なら気付かれそうにないなと木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)は苦笑し、コートの下に隠した重箱を撫で、もう暫く待ってな、と囁く。
どんなやりとりが聞こえようとも彼らにとっては、どうでもいい他人のケンカである――タツマにいたっては欠伸をしている。
「お、来た来た」
超宗我部・雪兎丸(五線譜の檻からの解放者・e01012)が低い声で呟く。停止したタイヤの軋む音、二人が降り、扉を乱暴にしめる音――ケルベロス達は二人に続いて、廃ビルに飛び込んだ。
●刈り取るもの
「てめえら、好き勝手しやがって!」
男が叫び、やっちまえ、とマツを振り返った時だ。
「ぃやあぁ!」
彼らの背後より、少女が叫びながら躍りかかり。
「初めての依頼だけど……成せば成る! 大器晩成撃!!」
振り上げたスマホを思い切り叩きつけた。
異形の男は振り返り、それを植物の右腕で受け止める。ハエトリグサ状の左腕が、まりるに向けられる――が、背後から音も無く伸びた黒い鎖が、マツの腕を締め上げた。
それは、小柄な少女が伸ばした右手に繋がっている。
たけるの動きに合わせて翻ったコートから、右手にケルベロスチェイン、左手にガトリングガン、背中から右肩越しにアームドフォートが一門覗く。
雷を帯びた白刃が彼女のコートを更に揺らす。
一足で距離を詰めたケイが、容赦なく刃を突き立て、一歩で退いた。
コンクリートで固められている地面が、ぼこりと隆起し、それらが鋭い根と変化してケルベロス達に襲いかかったからだ。
ほぼ同時に、ペリムの放ったペトリフィケイションがぶつかり、石化した根は砕け散った。
攻撃を仕掛けたものたちは皆一度距離を取ったが、既により内部に進んだケルベロス達とで、既にデウスエクスを取り囲むような形になっていた。
「ケルベロス推参。そのデウスエクスだけ置いていけ」
チンピラどもを背に、恭平が静かに告げる。
彼らがなだれ込んだ瞬間こそ、すわ増援かと気色ばんだ男達だったが、一目で常人では無いと解るマツの様子と、彼に躊躇無く攻撃を仕掛けたケルベロス達を見比べ、しばし茫然としていたが、
「ほら、チンピラはシッシッ。俺たちはそこの盆栽人間に用があるんですよ」
裁一が追い払う仕草を見せると、それぞれに逃げ出した。
とはいえ、痛めつけられていた側の人間の動きは遅い。――中には腰を抜かしていたものもあるようだ。
眼前に迫った屈強な男に、金髪の男がひぃ、と悲鳴をあげた。
「お前らのチンケなケンカに興味はねー。とばっちり食いたくなかったらとっとと失せろ」
タツマは無造作に男達の襟首をひょいと掴むと、遠くに放り投げた。
向こうで鈍い音と潰れたような悲鳴が聞こえたが、彼にとってはどうでもいいことだ。マツにうっかりグラビティ・チェインを与えないために距離を取らせたに過ぎない。
とはいえ、中には慈悲もある――。
「未来の客カモしれねぇしヤンチャ共も助けてやっか」
などといい、雪兎丸が「ブラッドスター」を歌うのだが、それは異様な光景であった。
バイオレンスギターを構えつつエアギターで、ミミックのウーハー君に歯ぎしりさせて音を出すという演奏――ということにしておく――に、「五線譜に囚われない縦横無尽フリーダム音程」で歌い上げる。
チンピラどもがかなり呻いていたが、それは恐らく傷が酷い所為だと雪兎丸は思っている。なお、きちんと回復する。
――それを尻目に、ケルベロス達が何を思ったかは解らないが。
支援に来ていたカルロス・マクジョージが、傷の癒えた者の避難は任せろと請け負う。それ以外は見捨てるけれど、と無情に言い放つと、チンピラ達は慌てて何とか這い出した。
「お、貴様はこっちだ」
マツに指示を出していた男の足を引っかけ転ばせ、後で聴きたい事があると笑みを浮かべて雪兎丸は告げた。
「ということで地球に優しそうなそこの植物マン、草刈させて貰いますよ」
裁一は爆破スイッチを手に、不敵に笑む。
ケルベロス達を見渡すマツは状況が解っているのか否か。茫洋な顔立ちな男だ。正直な所、強そうなイメージは全くない。攻性植物として変貌した姿も、右腕左腕下半身と好き勝手な植物に変じているためにか何処か間抜けた印象である。
だが、彼の言葉に少し眉を上げた。
「デウスエクスの力で好き勝手できてよかったなぁ。……いい気になんなよ、雑草ヤロー」
タツマはにっと歯を見せ笑い――獣のような眼光で睨み付けた。
雑草、という言葉に、いよいよマツの表情が強ばった。
「俺が雑草だと」
「あれ、違いますか」
心底意外そうに裁一が首を傾げた。
対するマツの答えはひとつだった。
「ブッ殺す」
何かを振り払うかのように、大振りに右腕を振るうと、彼らに向けられた花の中心が発光する。
「全身むしり取って丸ハゲにしてやるぜ!」
はッ、と笑ってタツマは地を蹴った。放たれたレーザー砲が掠めた肩を焼いたが、彼は気にしなかった。距離を詰めた勢いそのままに、身体を倒し、旋刃脚で生身の身体を狙う。
攻撃の狙いは裁一だったようだが――その間に小柄な影が入る。
僅かに焦げたような臭いがしたがそれは仲間に任せ、
「……確実に。追い詰めて。殺す」
コートを割るように背後から伸びたアームドフォートをマツへと向けて、たけるは淡々と次の攻撃姿勢に入る。
意を得たりと高らかと歌われる雪兎丸の旋律を無視したブラッドスターの効果は、確かだ。
「デストローイ!」
空を裂く鋭い蹴りによろめいた男を、裁一の時空凍結弾が貫く。砕け散った氷が植物の表面を白く染める。
「神の雷霆の欠片をくれてやる」
黒い瞳で鋭く射貫き、恭平は雷纏う杖を振るう。
走る雷撃を追うように、レオンが掲げたファミリアロッド放たれた火の玉が更に続き、マツの周囲は様々な色彩がぶつかり合って爆ぜた。
両腕をクロスさせ、耐える姿勢のマツにウーハー君が噛みつく。
「今日は頼りにしてんだぜ、ポヨン!」
軽い調子で声を掛け、ケイが重箱のような封印箱からボクスドラゴンを解き放つ――赤いスカートを揺らめかせ、何となくぽよぽよとした印象のドラゴンが姿を現すと、早速主に属性インストールで支援する。
ケルベロス達の攻撃に、マツは手を出せずに身を守るしかできないようだった。
更に畳みかける――ペリムは詠唱を開始する。
「我は影に命ず! 汝の穢しき魂に永遠の安息を……」
詠唱の最中から、一つ一つ影が浮き上がり形を成していく――完了した時には、十一本の影の剣が中に浮かび上がっていた。
黒い軌跡が次々とマツを刺し貫いてく。
「うおぉーー!」
ウェーブヘアを振り乱し、まりるが突進していく。
「スマホ1台でも炎上! ブレイズクラッシュ!!」
炎を纏うスマホで豪快に殴りつける。
対して、舞うように軽い身のこなしで、ケイは抜刀の姿勢に入りるとそのまま流れるように居抜く。絶空斬が、彼女の穿った傷を更に深める。よい手応えだ、と彼は口元に笑みを浮かべる。
猛攻、そう称するに相応しいケルベロス達の連携の前に――マツは、笑った。
そして、眼前に根が迫る。
●刈り取られるもの
この力の前に、人はすぐに潰れてしまうから、つまらないと思っていたところだった――そう叫び、マツは両手を天に掲げて笑った。
いつもより多く大きく根を潜らせるイメージで、ケルベロス達へと放った。それは既にぼろぼろの床を覆うほどの勢いで浸食する大木の根となって、実現する。
ケルベロス達を飲み込むほどのそれは、恐ろしい速度で伸びて、幻のように消える。
残されたのは傷付いたケルベロス達の姿だけである。未だ死んでいない。未だ楽しめる、そういう意味でマツは笑んだ。
草野郎などと笑う輩はすべて自ら制裁を与えてきた――社会からのハズレ者、雑草のように踏みつけにされるものの癖に生意気だろう?
そう、この力の前には、誰も逆らえない。
「ケッ、随分と気分良さそうだな、雑草ヤロー」
血の混ざった唾を吐き、再びタツマが悪態を吐く。しみじみ頷くのは裁一である。
「いやはや、しぶとい植物ですね~。雑草みたいに鬱陶しい生命力ですよ、ほんと」
丁寧なようで痛烈な棘を感じさせる言葉に、耐えきれずマツは叫んだ。
そして珍しく、自ら二人に向かって飛びかかっていく。
「オレは雑草じゃねぇ! そこらのゴミとは違うンだァァ!」
「うっせえ」
さらりと躱し、タツマはそのまま相手の勢いを利用して破鎧衝を顔面にと叩きつける。オマケにもう一撃、身体を狙って蹴り上げ突き放す。
生身部分も頑丈なのはデウスエクスゆえ――それでも少し昏迷したのか、血走った目で虚空を睨んでいる男の左肩が、唐突に爆ぜた。
「植物人間……爆発しろぉ!」
スイッチを手に裁一が笑っている。
マツはよろめき、一歩下がる。その表情は自分の身に何が起こっているのか、よくわかっていないようにも見える。
状況を見て、回復よりも攻撃に転じるべしと、とっさに判断した恭平が詠唱を開始する。
「大地に眠りし黒の刃よ。彼の敵を浸食し爆ぜて砕けろ!」
黒曜閃華――、その歌うような声音が終わると、マツの身体が内側から炸裂する。
魔術で生み出され、爆ぜた黒曜石の欠片がぱらぱらと地に落ちたが、彼はそれをしらぬだろう。
痛みと混乱に今度こそ血を吐いたマツは、目の前に現れた影に目を瞠る。
「はははははははは!」
無表情のまま、高らかに笑いながら、たけるはボーパルカノンを全力で叩きつける。
再び詠唱を始めたペリルの周囲に影剣が浮かび、レオンは龍の幻影を形にする。
ウーハー君を噛みつきに向かわせた雪兎丸の身体から、龍の紋様が薄く浮かぶケイオスランサーが伸びる。
「ひと足速く 誰より速く!」
まりるが叫ぶ。
三対六翼に見えるオーラが背後に広がり、彼女は駆けた。
「そして、当たって砕けろ但し砕けるのはお前だ! 飛翔奪取!!」
旋風のように、旋風とともに。全力で彼女はその力をぶつけ、マツから残された体力を奪い取る。
ぐらぐらと揺れる身体を支えきれず、不格好な状態であるが、まだそれは立っていた。
「オレは……雑草じゃ……」
やれやれ、まだそれかいと、冷やかすような声がした。
お前の過去も行いも、何も興味は無い――。
「固い事は言わねえ。死んでもらうだけよ!」
納刀したまま、皮肉げな笑みを浮かべたケイが待ち構えていた。
「念仏を唱えな。それとも、辞世の句でも詠んでみるかい?」
そんな頭もなさそうだが。言外に嗤うと、どこからともなく桜吹雪が舞い上がり、燃え尽きる。
烈風散華――その桜の幻影に、マツが何を見たかはわからないが。
「次は良い子に生まれてくるんだな……成敗!」
少なくとも彼が納刀した時、男は真っ二つに裂けて、背中から倒れていた。
●終宴
「よし、問題なかったな」
息を吐き、恭平はマツの死体を見た。植物は枯れ果て、ひからびたようになっている。
ひっくり返したりするまでもなく此処には何も無いと解る状態だ――収穫なしか、と残念そうにひとつ零す。
「そういえば、何だかんだで全員逃げたようですねえ」
裁一の言葉に、たけるは無表情で頷いた――マツを連れてきた男の話である。
はあ、と残念そうに息を吐いたのは雪兎丸だ。引き留めのための策をいくつか弄したのだが。
「ユッキーも頑張ったんだけどな~怪我もしてなかったし戦闘中に逃げやがったか」
勝ったのにどこか消沈するような彼らの姿を見てかどうかはわからぬが、くいとタツマが指で外を示す。
「外に車残ってるけどよ。何なら調べてから帰るか」
「そうだな……調べないよりはいいだろう」
彼の提案に恭平が頷く。
「それでしたら、私もご一緒してもよろしいでしょうか?」
ペリムも乗った。情報の妖精さんででデウスエクスの情報を纏めるつもりだった。更なる情報が出る可能性があるなら、参加したいと。
そんな仲間達のやりとりを遠目に、ケイはポヨンを労うように撫でつつ、
「真っ当に生きてりゃきっと真っ当に死ねただろうに」
恨むんじゃねえぞ――言い捨てて、背を向けた。
惨めな死に様、恐らく悼むものもいない。半グレ仲間はどうだろうか、あまり良い想像はできない。
しかしそれがその道を選んだものの末路であろうと。
何よりも――。
「悪意に魅入られデウスエクスと化したら……その命で贖うしかないんだよ」
そっと目を伏せ、まりるはぽつりと零す。
彼に対して祈る言葉も哀れみもないが、これがデウスエクスとの戦いかと、秘かにスマホを握り直したのだった。
作者:黒塚婁 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2015年9月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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