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「ふっふっふっ……ズワイガニを丸ごと一匹ひとり占めできるなんて、これ以上ない贅沢だよね!」
幼い少女がニコニコしながら、コタツに置かれた鍋の蓋を開けた。
もわっと湯気が上がる。白菜やニンジン、豆腐、えのき等が並ぶ中、ズワイガニが丸ごと一匹鎮座していた。その並々ならぬ存在感に、少女も目を細める。
「それじゃ、いただきまーす!」
早速切り分けようと少女がキッチンバサミを手に取ると、鍋の中のカニがピクリと動いた。
「えっ!? あんなに煮込んだのにまだ生きてるの!?」
少女は大きく目を見開く。
ぐつぐつ煮立つダシの中で、カニは静かに身を起こした。
すると赤い甲羅に覆われたその体が突如ムクムクと巨大化していった。
重みで鍋が砕け、中身が飛び散る。
「きゃーっ!」
コタツにのしかかる巨大ガニを前に、少女は尻もちをついた。
カニは片方のハサミを振り上げると、勢いよく突き出してきた。いともたやすく壁が崩落し、轟音が部屋に響き渡る。
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と、そこで目が覚めた。
布団で寝ていた少女はガバッと起き上がり、寝ぼけまなこをこする。自分の部屋だ。
「何だ……夢かぁ~」
ほっと安堵する少女。
だが、ふと見ると部屋に見知らぬ女性の姿があった。
その女性――第三の魔女・ケリュネイアは手にした鍵を少女の胸に突き刺す。
鍵は心臓を貫いたものの、少女はケガもせず死にもしない。これはドリームイーターが人間の夢を得るために行う行為なのだ。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
ケリュネイアはそう言うと部屋の窓を開けた。驚きを奪い取られてしまい、布団にパタリと倒れ込む少女。その体が発光した次の瞬間、窓の外には少女の夢に登場した化け物の姿が具現化していた。
巨大なズワイガニの姿をしたドリームイーターは、巨体を揺らしながらのしのしと夜の街を進んでいく。
少女は深い眠りに落ちている。ドリームイーターを倒さない限り彼女は永遠に目覚めることはない。
●
「子供の頃って、あっと驚くような夢をよく見たりしますよね! 理屈は全く通っていないのですが、とにかくビックリして夜中に飛び起きたりとか……そのビックリする夢を見た子供が、ドリームイーターに襲われて『驚き』を奪われてしまう事件が起こっています!」
ヘリポートに集まったケルベロスたちの前で笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が説明を始める。
「『驚き』を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているようですが、奪われた『驚き』を元にして具現化されたドリームイーター……巨大ズワイガニが、事件を起こそうとしています。被害が出る前に対象を撃破して下さい!」
ドリームイーターを撃破すれば『驚き』を奪われてしまった被害者も目を覚ますだろう。
敵は巨大なズワイガニの姿をしている。ドリームイーターは相手を驚かせるのが好きなので、指定されたエリアの周辺を歩いていれば向こうから近づいてくるはずだ。
「なお、敵が使用する技は『フレイムグリード』に準拠したグラビティです」
現場への到着予定時刻は夜になる見込み。夜なので人通りが少ないとはいえ、現場は市街地。何かしら人払いをしておくと安心して戦えるはずだ。
「街の人々を守るため、そして眠っている少女を救うため、ドリームイーターを撃破してください。それでは、よろしくお願いします」
参加者 | |
---|---|
八代・社(ヴァンガード・e00037) |
眞月・戒李(ストレイダンス・e00383) |
アイン・オルキス(半人半機・e00841) |
ハル・エーヴィヒカイト(ブレードライザー・e11231) |
立花・吹雪(一姫刀閃・e13677) |
スヴァリン・ハーミット(隠者は盾となりて・e16394) |
細咲・つらら(煌剣の氷柱・e24964) |
アリシア・クローウェル(首狩りヴォーパルバニー・e33909) |
「境界形成――」
中性的な顔立ちのハル・エーヴィヒカイト(ブレードライザー・e11231)は、現場に到着するとまず殺界形成を発動した。
「――人払いは完了した。周りは気にせず存分にやるといい」
まばらにいた人影もほどなくして消え去り、ケルベロスたちは敵を探して歩きだす。
「大きいカニは好きだけど、食べられない上に危険なカニが相手じゃそうも言ってられないや。さっさと片付けて、女の子も町の人達も守らないとね」
夜の市街地を歩きながら、眞月・戒李(ストレイダンス・e00383)は仲間と共に辺りを見回す。今のところ敵の気配はない。
「ズワイガニのドリームイーターですか。巨大とのことですがどれほどの大きさなのか……」
立花・吹雪(一姫刀閃・e13677)は周囲を警戒しつつ、続ける。
「新年早々悪い夢に見舞われるのは可哀想ですね。少女を救い出すためにも負けられません。皆さん油断せずに参りましょう!」
「はい! 私達にとっては巨大なズワイガニなど、驚きにはならないのが寂しいところですが……余り動き回られても迷惑なので丁寧に解体してあげましょう」
そう言ってアリシア・クローウェル(首狩りヴォーパルバニー・e33909)は口元に笑みを浮かべる。
「かにかにっ! なんでも地球では冬や年末年始の風物詩と聞きましたっ!」
細咲・つらら(煌剣の氷柱・e24964)は両手を広げたままくるりと一回転する。彼女はこう続けた。
「退治したら食べられると言うわけではないのがちょっぴり残念ですけれどっ、はりきってパパッとがんばりましょーっ!」
しばらく歩き回っていると、やはりドリームイーターのほうから出向いて来た。
軽トラよりも一回り大きい巨大なカニが、十本の足を不気味にうごめかせながら目の前に現れた。姿形はズワイガニそのものだが、サイズが大きすぎる。
ケルベロスたちは若干驚きはしたものの、叫び声を上げるほどではなかった。
「それにしても立派なカニだね。これ一匹でカニ鍋百杯分くらいの身が取れるんじゃないかな」
あまりの大きさに、スヴァリン・ハーミット(隠者は盾となりて・e16394)は肩をすくめる。巨大ガニを映す彼の左目にはターゲットサイトのような模様が刻まれていた。
「話には聴いていたが相当な大きさだな、倒しがいがある……大事にならない内に始末をつける」
アイン・オルキス(半人半機・e00841)は素っ気なく言って身構える。ドリームイーターの巨体は的としてはずいぶんと大きい。
「カニはいいんだが、食いきれるサイズで、騒がしくない感じで頼みてえな……怪獣大決戦みたいなのは片付けがめんどいから却下で」
八代・社(ヴァンガード・e00037)はポリポリと頭をかき、敵を睨む。
「さっさと済ませて寝正月の続きだ。行くぜ、野郎ども」
そう言い放ち、社は飛び出していく。
交戦が始まった。
アインはすぐさまオルキス・ファミリアを発動。無人機をいくつも召還して前衛の支援を行う。
『歪め。おれの魔弾をくれてやる』
一方、社は詠唱と共に銃口から無数の光弾を打ち出した。数珠繋ぎに放たれたそれは、ふわりと浮かんで宙に留まる。
そして社は飛び込み、至近距離で格闘戦を仕掛けていった。
乱戦の中、戒李も何とか接近してドレインスラッシュを放つ。緋色の刃がしたたかに打ち付けられた。
敵の甲羅は硬く、そう簡単には打ち破れない。だが折を見て破壊することはできそうだ。
戦いはまだまだ序盤。確実にグラビティを当てて敵を消耗させていきたいところだ。
「これは驚いた。これほどの大きさとは……鍋にしたら何人前になるだろうか? あるいは炭火で炙って食べるのも一興か?」
ハルは敵を見つめながら言った。本当に食べるつもりはなくとも、驚かせたがっている相手を見ると、逆に脅かしてみたくなる。
その言葉を受け、恐怖を感じたのか微妙に身構えるドリームイーター。
ハルは走り寄って刀を振り上げ、『終の剣・久遠の刹那』を放った。
真紅の刃が無数に浮かび上がり、四方から敵の体を貫いていく。白く染まった髪をなびかせながら、ハルは二本の剣を左右から振るった。
甲羅に刺さった紅い刃が衝撃で割れ、破片が舞い上がる。
「カニ狩りの開始です」
アリシアは拳を振り上げて降魔真拳を放つ。
「陸にあがったカニなど狩られるが定め、どちらの鋏から斬り落としてほしいですか?」
言いながら彼女は殴打を叩き込む。
やられっぱなしで頭にきたのか、ドリームイーターはふらつきながらも突然距離を取った。
そして片方のハサミを掲げる。そして揺らめく炎を球形に押し固め、投げ飛ばしてきた。
炎弾はアインの真横に着弾した。火柱と熱風が巻き上がる。とっさに反応していなければ直撃していただろう。
「その綻び、更に歪ませてやる!」
アインは杖を突き伸ばして炎弾を放った。ドリームイーターはかわそうとしたが、爆風に巻き込まれてしまった。その巨体が赤い炎に捉えられ、燃え上がる。
「さて……何やらおっきくて強そうですが、まさか見掛け倒しってんじゃ……ありませんよね?」
つららは氷の剣を投げつけた。その顔には普段とは違う不穏な笑みが浮かんでいる。
「つららちゃんと追いかけっこ、……しーましょ」
まとわりつく炎を振り払ったドリームイーターは、さっと横に移動して氷の剣を回避した。しかしどこまで逃げても剣は追いすがってくる。
軌道を変えながら飛んでいく剣を、つららは空中で握り直す。そして思いっきり敵の体に突き刺した。
ドリームイーターは巨体を揺すりながら至近距離で炎弾を放った。炎の奔流が炸裂し、つららの体を焼いていく。
倒れ込んだつららの前に立ちはだかったのは、スヴァリンである。
「レディを悪夢から護り切ってこそ、紳士だよね!」
スヴァリンは仲間の前に立って敵をけん制しつつ、マインドシールドを発動する。温かな光の盾が現れ、つららの傷を癒すとともに守りを固めていった。
敵のほうもうかつに手出しできず、仕掛ける機会をうかがっている。
「たしかに堅そうな甲殻ですが貫き通させてもらいます」
その隙に吹雪はスヴァリンの影から飛び出し、『雷華』を放つ。
稲妻をまとった斬魔刀を振り抜き、鮮烈な光と熱を帯びた斬撃を繰り出していく。その刃は甲殻を焼き切り、敵の足を一本切り裂いた。
切れ目から肉厚な身が大量に溢れ落ちる。
ポン酢をかけて海鮮丼にしたらおいしそうだな、と吹雪は思うのだった。
元はと言えば、この巨大ガニは子供の夢から生まれた化け物。とどめを刺せば跡形もなく消えてしまうだろう。
少しもったいないような気もするが、倒さないわけにもいかない。
ドリームイーターはハサミを振り上げた。また炎弾を打ってくる気だろう。それを見たアインとハルは相手の攻撃を妨害するべく、それぞれ左右から突っ込んでいく。
「その関節、一つ一つ砕かせてもらう」
アインは雷をまとった武器を突き伸ばす。敵のほうも炎弾を宿したハサミを勢いよく突き出してきた。
二つのグラビティが激突し、雷と炎が糸を引いて周囲にたなびく。
火の粉を浴びながら、アインは何とか炎弾を打ち破り、敵の甲羅を武器で貫いた。
「脚が多ければいいというものではない。まぁ私が言えた義理ではないかもしれないが」
敵のもとへ迫ったハルは両手の剣に霊力を宿して切りかかる。空色の光を放つ二本の刃が、堅牢な甲羅に十字傷を刻んだ。
『綺麗な空だよ。ほら、見える?』
さらに戒李が畳みかける。優しくそう声をかけて敵の間合いに入り込むと、戒李は抱くようにして片腕を伸ばした。
緋色に輝く軌跡を残して、鋭利な爪を突き立てる。
敵は足を一本掲げて防ごうとしたが、その足は戒李の爪にスッパリと掻っ切られてしまった。
攻撃を終えた戒李は一度飛び下がる。
そこへ炎弾が飛んできた。戒李は反応しようとしたが間に合いそうにない。
「くっ……」
しかし間一髪でスヴァリンが間に入った。
彼は戒李をかばって破鎧衝を放つ。炎弾が炸裂し、禍々しい炎が広がっていった。
スヴァリンは火柱に包まれたまま声を上げる。
「今だ、イージス!」
彼の指示通りボクスドラゴンはブレスを吐き出し、油断していた敵に浴びせた。
「――歪め。おれの魔弾をくれてやる!」
社は、グラビティの着弾で穴が開いた路地を踏み越え、吠える。
一気に接近してドレインスラッシュを放った次の瞬間、無数の光弾が雨のように降り注いだ。次々と絶え間なく爆風が沸き起こり、敵の甲羅が少しずつひび割れていく。
ドリームイーターはゆっくりと後退しつつ、両方のハサミを高く掲げた。やがてそれぞれの先端に炎が宿った。
そして二つの炎弾を生成すると、同時に打ち出してきた。狙いは最も敵に近い位置にいた社である。
社はとっさに両腕を盾にする。眩しい炎が散り、圧倒的な熱量と共に弾けた。
吹雪は即座にマインドシールドを発動する。光の盾が浮かび上がり、社を守るようにして鎮座し、傷を回復させていく。
その時、ドリームイーターは急に距離を詰めてきた。驚くケルベロスたちをよそに、敵は炎を宿したハサミを振り下ろす。
熱と衝撃でアスファルトの路地がめくれ上がり、大きな穴が開いた。
しかしアリシアは飛び上がってその攻撃をかわしていた。
「カニの甲殻といえど、アリシアに斬れぬものなどありません」
彼女は空中で身を翻し、高速で二振りの斬撃を繰り出す。
「驚きとともに消えゆくがいいでしょう」
二つの斬撃が同じ個所に叩き込まれ、硬い甲羅がばっくりと裂けた。敵を斬るこの瞬間にこそ、アリシアは無上の喜びを覚えるのだ。
「それでは終わりに致しましょう、これで最後です」
つららは両手で鎌を振り上げ、真正面からギロチンフィニッシュを放つ。
敵も片方のハサミを掲げて応戦しようとしたが、もはや炎弾を生成する余力も残っていないようだ。
つららは手にした鎌で、ハサミごと甲羅を叩き割った。
その割れ目から、赤と白の綺麗なカニの身が飛び散っていく。
ドリームイーターはその一撃で力尽きたようだ。舞い上がったカニの身が地面に落ちる前に、敵は爆散して消滅してしまった。
対象の撃破を確認したケルベロスたちは、ひとまず安堵し、互いの無事を確認する。
「残存ファミリアの半分は修復作業に入れ。残り半分は損傷したファミリアの修理だ」
アインは周りの被害状況を確認しつつ、片手を掲げてオルキス・ファミリアを発動する。
「急に寒くなったような気がするぜ……」
白い息を吐きながら、社も周辺のヒールを始めた。
戦っている最中は常時動いているのでさほど気にならなかったが、こうして立ち止まっていると夜風が冷たい。
「さてさて、これで女の子も目を覚ますはずですねっ!」
上機嫌のつららはスキップ交じりに続ける。
「大きなカニさんが食べられなかったのは残念でしょうけれど……その分たーくさん、普通サイズのカニさんを食べてもらいたいですよねっ!」
「……普通サイズのカニ、食べたいですね」
吹雪は手をこすり合わせながら呟く。カニすき、カニしゃぶ、カニ鍋……やはり温かい食べ物を連想してしまう。
「そうだね、今度は食べられるカニのお世話になりたいなあ」
戒李はうなずく。先ほどの巨大ガニも夢があるが、やはり食べるなら普通のサイズのほうが食べやすそうだ。
「さぁこれで少女も目を覚ますことだろう。任務完了だ」
ハルは仲間たちのほうを振り返り、柔らかな表情でこう続けた。
「せっかくだから今日は帰ってカニ鍋でもしよう。あのような化け物ではなく真っ当なカニを使ってな」
作者:氷室凛 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年1月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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