●雪降る夜に
雪降る釧路湿原に獣毛のフードを被った死神『ティネコロカムイ』は居た。
「そろそろ、あなたの出番かしら。この白い雪を血の赤で染められたら、素敵だと思うでしょう?」
ティネコロカムイが振り向きもせずに、後ろに佇む大男に尋ねれば大男は、言葉を発さず一つだけ頷く。
見ずとも男の動きが分かったのか、ティネコロカムイは満足気に唇を歪める。
「なら、市街地で暴れてらっしゃい。この子達を付けてあげる。あなたは、暴れることだけを考えればいいの。本能の赴くままに破壊し尽くしなさい」
大男は頷くと、ティネコロカムイの周りを泳いでいた怪魚達を引き連れ、釧路市街地へと歩を進める。
「……エインヘリアルの英雄も死ねば、ただの殺戮兵器ね」
ティネコロカムイの呟きを釧路の寒風が攫って行った。
●北の勇者
「みんな、また『ティネコロカムイ』の活動が確認された。説明次第、ヘリオンを釧路に向けて飛ばすぞ」
ヘリポートに現れた、大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)は、マフラーを巻き直しながら、ケルベロス達に話し始める。
「以前から、釧路湿原を拠点に活動が見られるティネコロカムイだけど、第二次侵略期以前に死亡したデウスエクスをサルベージし、釧路市街を襲わせると言う作戦を続けていること以外は、不明といった状況だ。勿論、このままにしておくつもりはないけど、現状は奴がサルベージしたデウスエクスを撃破していくしかない。と言う訳で、今回の撃破対象の説明に移るな」
『ティネコロカムイ』の活動は既に数カ月に渡って確認されている。
雄大としても有力な情報が無いと言うのは、もどかしいのだろうが、ヘリオライダーとして今出来ることを優先させようと歯を食いしばっている。
「今回、ティネコロカムイにサルベージされた撃破対象は、エインヘリアルの勇者だ。大柄のパワータイプで2本のルーンアックスを使って攻撃して来る」
幸い、予知によってエインヘリアルの侵攻経路が判明している為、湿原の入り口あたりで迎撃する事が可能であり、周囲に一般人のいない状態で戦闘が出来ることも付け加えられる。
「エインヘリアルの使用グラビティは、ルーンディバイド、スカルブレイカー、ダブルディバイドに加えて、広範囲に影響を与える咆哮だ。エインヘリアル自身にヒール能力は無いけど、ティネコロカムイが監視として付けた3匹の怪魚型死神がヒールグラビティを要している。延々回復されると長期戦になる恐れがあるから気を付けてくれ」
ティネコロカムイは既に姿を消しているが、怪魚型死神が居ることで、エインヘリアルの様子はティネコロカムイに直接伝わる事になるだろうと雄大は言う。
「サルベージされたエインヘリアルは、本来勇者だったみたいだけど、サルベージの際に変異強化され、殆ど意志は無くなっている。力の限り暴れまくる狂戦士と思った方がいいだろう。こんな奴が、市街に入れば、どれだけの人が犠牲になるか分からない。何としても阻止して欲しい。頼んだぜ、みんな!」
力強く言うと雄大は、冷たい風の吹くヘリポートを駆けて行った。
参加者 | |
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写譜麗春・在宅聖生救世主(誰が為に麗春の花は歌を唄う・e00309) |
天海・矜棲(ランブルフィッシュ海賊団船長・e03027) |
ヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816) |
メドラウテ・マッカーサー(雷鳴の憤怒・e13102) |
鳴門・潮流(渦潮忍者・e15900) |
ヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046) |
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597) |
灰縞・沙慈(小さな光・e24024) |
●真冬の釧路
「うぅ、相変わらず釧路は寒いー……雪も降ってるしぃ……ホッカイロ、ホッカイロ……」
ヘリオンから降りた途端、身震いをしているのは、写譜麗春・在宅聖生救世主(誰が為に麗春の花は歌を唄う・e00309)。
「それでも、月明かりに舞う雪が綺麗ね。……けれどこの白銀の世界に血飛沫も舞う事になるのね」
舞い散る雪と、広がる白銀の世界を見ながら、メドラウテ・マッカーサー(雷鳴の憤怒・e13102)は、風に靡く美しいブロンドを片手で抑える。
「雪の月夜とは幻想的だがね。出来れば、屋内からぬくぬくと見たかったな……」
そう飄々と緩く言うのは、櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)だ。
ぼやく千梨だったが、実は今回のメンバーの中で一番雪に親しみがある人物と言っても過言では無かった。
何故なら、千梨は雪国、新潟の出身。
白く静かな雪が、全ての足跡を消し去っていく様を見るのは好きだった。
自らもその様な存在になれればと思う時もある……。
だが……。
「……寒い。……炬燵で怠惰に過ごしていたい」
雅な気持ちと、体感は全く別の物。
真冬の北海道、寒いものは寒いのである。
「それにしても、またティネ何とかカムイとかいう子の仕業なのですか。例え元は敵でも、死んだ人を無理やり起こして、こき使う様な事をするのは、許しては置けないのですよ!」
寒さにも負けず、元気に猫の耳をピクンと動かしながら元気に言うのは、ヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046)だ。
彼女は懐で暖をとる様に、相棒のウイングキャット『ヴィー・エフト』を抱きかかえている。
「……サルベージ。……折角、眠っていたのに起こされてどう思ってるのでしょうか。エインヘリアルの勇者さんは……」
誰に問うでもなく静かに呟くのは、灰縞・沙慈(小さな光・e24024)。
沙慈は緑の瞳に慈しみの色を浮かべ、未だ現れないエインヘリアルの勇者を思って憂う。
「……英雄は英雄のまま、語られて眠っていてほしかったですね」
鳴門・潮流(渦潮忍者・e15900)が降りしきる雪の中、姿の見えてきた巨体を目を細めながら見、そう口にする。
「今度こそ、目が覚めないように仕留めないといけませんね。……まずは、文字通り周りの雑魚が面倒ですけれどね。……さっさと片づけて本当の眠りについてもらいましょう」
ナイフを手に取り白き世界の奥の、勇者を睨みつける潮流。
「……ゆっくり、おやすみなさい、って出来るように頑張ろうね」
切なげに沙慈は足元の『トパーズ』に語りかけた。
●心燃ゆ
「くぁ~斯くして嘗ての英雄は、理性を失い死神の手下『狂戦士』へと成り果てて~。今、その刃を、無辜の民へと向けるのであった~ベンベン」
今にも落語でも始めるかのように吟じると、釧路に似合ってるいるのか似合っていないのか、赤いペンぐるみに身を包んだ、ヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816)が、狂戦士の前に立ちはだかる様にぺたぺたと駆けていく。
手にした『赤ペン・ものほし竿』を力強く掲げ、狂戦士に降り下ろせば、狂戦士の意志無き瞳にもヒナタが映る。
「……下は雪原、上には月。……なかなか風情があって良いんだが……アンタはお呼びじゃない。新年早々に退場して貰おうか!」
凛々しく言う、天海・矜棲(ランブルフィッシュ海賊団船長・e03027)は、腰のベルトのバックルを軽快に回す。
「変身――さあ、錨を上げるぜ!」
矜棲の言葉に呼応するかのように、羅針ドライバーが電子音を発する。
『オモカジイッパーイ! リベル! ヨーソロー!』
眩く光る白雪。
そしてそこに現れたのは、正しき心で邪悪を挫く『マスカレイダー・リベル』だった。
矜棲は『マスカレイダー・リベル』となると、精神を極限まで集中させ、狂戦士にフォースの一撃を与える。
「お二人が狂戦士を抑えている間に、私達は死神を掃討しましょう」
言うや否や、潮流は御業で炎を生成すると、死神に撃ち放つ。
「トパーズ、私と一緒に頑張ろうね。誰も傷つけたくないから」
相棒にそう声をかけると、沙慈は手にしたスイッチを押し、前を固める仲間達に向けてカラフルな爆発を起こす。
「私は抑えのお二人の防御力を底上げしますですよ!」
手にした光輪を盾の形にし、ヒマラヤンはヒナタへと守りの力を送る。
「炬燵でぬくぬくするには、お仕事をちゃんと終わらせないといけないんだろうな」
御業を敵を束縛する神聖な縄としながら、千梨が呟く。
(「……戦いねえ。……極稀に血が沸く事もあるが、やはり……傷つけられるのも、傷つけるのも……面倒だよ」)
死神を捕縛しながらも、千梨の熱は釧路の地の様に冷えていた。
「後ろで延々回復されても困るから、一気に弾幕を張らせてもらうわよ」
そう笑み言うと、メドラウテは両手足のパッチを開くと数多のミサイルを舞い散る雪の様に発射する。
「雪国で時間まで凍らされるってどんな気持ちかな? 死神に私達と同じ時間が流れてるかも分からないんだけどねーっ!」
大きく翼を広げて、宙を舞う様に移動しながら在宅聖生救世主は『時』と言う概念を凍らせる弾丸を死神に撃ち込む。
「くぁ、グアアッ! ……のオチ」
戦場にヒナタの絶叫が響いた。
ヒナタの両肩には二本の巨大な斧が喰い込んでいる。
「離れてもらうぜ、狂戦士!」
矜棲がリボルバー銃の引鉄を引けば、狂戦士は半歩身体をずらす。
「全く……弾を込める間に、首を持っていかれそうな攻撃力だな!」
「ヒナタちゃん大丈夫ですよー。さあ、行くのですよー! はーい、痛くしないので、逃げちゃ駄目なのですよ~?」
矜棲の牽制の隙をついて、ヒマラヤンがヒナタに特大の注射器で謎のヒールエネルギーを注入する。
「くぁ~! もう少し優しくして欲しいのでオチ~」
言いつつも、ヒナタは回復した身体で刃の如き蹴りを狂戦士に決める。
「こちらが急がないと、あちらに被害が出てしまいますね……」
再度、仲間達の攻撃的グラビティを上げる爆発を起こしながら、沙慈が言う。
「その様ね。それにしても寒いわ。体温感知機能とかOFFにできないかしらね。まあ耐えられない事もないわ。戦闘で熱くなれば問題ないしね」
寒さに不満を言いながらも、メドラウテは胸部を変形展開させ強力なエネルギー光線を放つ。
「俺も少しは本気を見せなくちゃ駄目みたいだな……。死神には贅沢かもしれないがな。龍宮の守護神は――生ある者を追い立てる」
千梨が祝詞を唱えると、1体の死神を囲う神域が生み出されされ、様々な御業が『龍』の名において降ろされ、死神を消滅させていく。
「自然の脅威を見せてやろう。……風よ、集い敵を穿て!」
潮流の巫術で引き出された風は、潮流の腕に武装として纏われると、風刃となって死神を切り裂く。
「私達の信念が死神なんかに負ける訳無いんだよう♪」
追憶に囚われず前に進む者の歌を紡ぐ在宅聖生救世主の歌が戦場に響けば、死神の牙がボロボロに崩れ始めた。
●狂戦士となった勇者
「これで終わりね!」
開いたミサイルハッチを閉じながら、最後の死神の死に際を見つつ、メドラウテが語気強く言う。
「次は狂戦士だねー! 早速だけど、最大火力いっくよー! 広めよ、天の詔を。さすれば汝に繁栄を。広めよ、天の勅を。でなくば自らの手で繁栄を。天言は届く、太陽と月が照らす領域の全てまでに」
在宅聖生救世主の詠唱と共に、彼女の頭上に巨大な光の十字架が現れる。
その十字架が視界に入った、ヒナタと矜棲は狂戦士と在宅聖生救世主の間に射線を開ける。
絶対的な質量を持った十字架は、凄まじい速度で狂戦士にぶち当たると、神々しい光を放つ。
「どう? っ!?」
在宅聖生救世主が光の中の狂戦士を確認しようとすれば、狂戦士は既に在宅聖生救世主に接敵しており、ルーンを発動させた斧を振り下ろしていた。
「いったぁーい!? こんな寒いのに服破りとか冗談じゃないんだよーっ!」
「トパーズ、あなたの魔力も貸してね。綺麗なツルの贈り物」
沙慈がトパーズと一緒に作った折り鶴は、回復の魔力を携え、在宅聖生救世主に舞い降りる。
「螺旋の力で凍ってもらいます」
螺旋エネルギーを氷結の力に変えて潮流が放てば、ヒナタが高熱の炎弾を撃ち出す。
矜棲の銃弾が千梨の氷の騎兵が、次々と狂戦士を襲うも、狂戦士は荒々しく斧を振り下ろし、前を固める者、特に矜棲とヒナタに傷を負わせていく。
「強化されてるとは言え、まともに考えられなくなった様な子に負ける私達では無いのですよ! 雪降る夜にも月は輝くのですよ!」
満月のエネルギーをグラビティに変えて、ヒマラヤンが矜棲に捧げる。
「そろそろ倒れてくれないかな?」
影の如き闇の一撃を加えながら、千梨は狂戦士にそう囁く。
(「……俺なら死んだ後まで戦うなんて、御免だが。アンタはどうなんだろうな? ……答えは聞けないし……勝手に終わらせるけど」)
「狂っていても勇者。あなたにとっては、不本意な復活だったと思うけれど……楽しめたわ。……でも、もう終わらせましょう」
グラビティを中和するエネルギー光弾を放ちながら、少しだけ寂しそうにメドラウテが呟く。
「皆さん、もう一度攻撃力を上げます。だから……」
『終わらせてあげて下さい』
沙慈は狂ったように暴れ狂う勇者を悲しげに見る。
(「……二度も倒されるのはきっと不本意だと思う。でも、あなたを街には行かせられないの。…… 恨むなら、死神さんを恨んで」)
色取り取りの爆発が起こると、4人の前衛が一斉に動いていた。
在宅聖生救世主の『黒沙羅双樹』が牙を剥き、潮流の風の刃が狂戦士の肉体を裂いた。
「くぁ! さ~バーサーカーよ! ソラに還る時がキタのオチね!! 赤ペンさん、渾身のスイング~! あ、かっ飛~ばせ~~あ~か~ペン。あソ~レあ~か~ペン!」
何処から出したのか、赤い木製バットを手にしたヒナタは、渾身のスイングで狂戦士を殴打する。
「最後だ、せめて派手に散って逝け!」
矜棲は、銃から撃ち出した銃弾に獅子の刻印を施した星剣から発生させた剣撃を合わせ、弾速を加速させると最後の一撃として狂戦士に弔いの言葉と共に放った。
……一瞬の静寂。
舞い散る雪の音だけがハッキリとケルベロス達の耳に聞こえる。
ゆっくりと、狂戦士……いや、エインヘリアルの勇者の身体は前に倒れた……。
●真白の祈り
「……死してエインヘリアルとなり……再度死して、狂戦士か。運命の皮肉だな。デウスエクスとは言え……何度も蘇るのは、疲れそうだな。今度こそ、ゆっくり休みな」
降り積もる雪の中、少しずつ身体が粉雪の様に崩れていくエインヘリアルの勇者を見降ろしながら、千梨は呟く。
「本当にティネなんとかは何がしたいんでしょう? いい加減なんとかしないと……いたちごっこなのですよ」
消えゆくエインヘリアルを見ながらヒマラヤンが言う。
「全くだよーっ! ナントカカムイは何が目的なんだーっ! 毎度毎度寒い思いさせてー……釧路ばっかり狙って、嫌がらせかーっ!」
在宅聖生救世主もヒマラヤンに同意する。
雪降りしきる中、ケルベロス達はエインヘリアルの勇者への祈りを済ませると、温かなヘリオンへと足を向けた。
唯一人、沙慈だけはすぐにヘリオンへと戻らなかった。
雪が強くなる中、トパーズが沙慈に擦り寄る。
「……きっともう起こされることはないから。……おやすみなさい。オリガミ、灯籠も折ったんだ。この灯籠が行く先を迷わずに教えてくれるよ。今度こそ、ゆっくりおやすみなさい」
沙慈は既に身体全てが消失したエインへリアルの勇者が倒れた場所に、折り紙と灯籠を捧げる。
折り紙……その昔、神に祈りを捧げる為に人々が紙を折ったのだと言う神聖な道行を残して、沙慈はその場を後にした……。
作者:陸野蛍 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年1月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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