ミッション破壊作戦~想いの刃

作者:雨乃香

「クリスマスの皆さんのご活躍、大変ご立派でした。ゴッドサンタを撃破して無事、楽しいクリスマスを迎えられたわけですが……」
 ニア・シャッテン(サキュバスのヘリオライダー・en0089)は迎え入れたケルベロス達に労いの言葉をかけつつ、一度そこで言葉を止めると、携帯端末を操作し、手元に小剣の形をした立体映像を投影する。
「その際入手したこちらの兵器『グラディウス』、見た目は見ての通り、柄から刃先まで七十センチ程の光る小剣ですが……通常の武器としての機能は持ち合わせておりません」
 指先で映像をなぞり、ケルベロス達によく見えるように回転させつつ、ニアは続ける。
「しかしこの『グラディウス』にはとっても重要な役割があります」
 唇に指を当て、薄く笑みを浮かべ、暫しのためを取ってからニアはその性能について語る。
「なんと『グラディウス』は魔空回廊を攻撃し、破壊することができるです」
 凄いでしょう? と自らの手柄のように胸を張りながら更にニアは詳しくその性能について言葉を並べる。
 通常の、時間と共に消失する魔空回廊ではなく、固定型の魔空回廊を破壊できるということ。
 現在日本各地に存在する『ミッション』の拠点となっている『強襲型魔空回廊』の破壊に使用することで、デウスエクスの侵攻に対し、大きな抑止力として期待ができるというその役割。
 加えて、その取り扱いについても、ケルベロス達がきちんと理解できているか、一つ一つ確認しながら丁寧に説明していく。
「グラディウスは一度使用すると、グラビティ・チェインを吸収し再使用可能になるまでには時間がかかります。ですが、今回手に入れたグラディウスの大半は、すぐに使用可能な物ばかりでして、これらを用い、ニア達はミッション地域を解放する『ミッション破壊作戦』の決行が可能になりました」
 投影していた映像をグラディウスから、ミッションの存在する地域をリストアップした図に切り替えニアは頭を下げる。
「皆さんにはグラディウスを使用していただき、これらの地域をデウスエクスの手から取り戻して欲しいのです。どの地域のミッションを攻撃するかは、各地域の情報をよく確認し、皆さんで判断してください」
 ケルベロス達が地域情報を眺め、ある程度の判断を下したのを確認した後、ニアはグラディウスについて更に詳しく、情報を開示していく。
「強襲型魔空回廊が存在するのはミッション地域の中枢、歩いて到着、というわけには行きません。今回はニアがヘリオンで皆さんを目標地点上空まで運び、そこから降下する作戦を取っていただきます」
 ピンポイントで魔空回廊を狙わずとも、周囲を覆う半径三十メートルほどのドーム型バリアにグラディウスを接触させればOKですので、難しくはかんがえなくても大丈夫ですよ。とニアは軽い口調でいいながらも、その表情は真剣そのものだ。
「八人のケルベロスがグラビティを限界まで高め、魔空回廊に攻撃を集中すれば一撃で破壊することもできるかもしれませんが……魔空回廊を破壊するための兵器とはいえ、一回の降下作戦で魔空回廊を破壊できるかどうかは、わかりません」
 ダメージは蓄積するため、多くとも十回ほど同様の作戦を行えば破壊できると思いますので、くれぐれも無茶だけはしないようお願いします、とニアは釘を刺す。
「なにせ、強襲型魔空回廊は敵さんにとっては重要拠点ですから、周囲には強力な護衛がついています。降下攻撃自体は防がれることはないですが、その後の撤退戦は皆さんしだいですから」
 心配そうに言いながら、ニアは軽く作戦の流れに触れる。
 高高度からの降下の後、グラディウスによる魔空回廊への攻撃。その際グラディウスより、グラディウスの所持者以外へ雷光と爆炎による無差別攻撃が発生するため、これらを隠れ蓑にできるだけ安全に撤退してほしい、ということだ。
「グラディウスの攻撃の余波で護衛についている敵はある程度無力化できるでしょうが……全てというわけにはいきませんから、強力な敵との戦闘は覚悟しておいてください。
 場が混乱し、敵の連携が取れないうちに戦闘を収め撤退できるよう、事前にしっかりと作戦は練って起きましょう。時間をかけ混乱が収束してしまえば、勝ち目は無いと思ってください」
 暴走などは本当に最後の一手ですので、それらを当てにするようなことはないようにお願いします。
 ケルベロス達にそう強く言い聞かせニアはしっかりと彼等の目を見つめる。
「非常に危険な作戦ですが、そのぶん成功すれば見返りも大変大きいです。ですが、それ以上に皆さんの命の方が大切です。誤った判断はせず、必要な敵だけを倒し、確実に速やかな撤退をお願いします。ミッション地域の解放できても、誰か一人でも欠けてしまえばその作戦に価値などありません。
 なんとしても、全員無事に帰ってきてください、ニアとの約束です」


参加者
東名阪・綿菓子(怨憎会苦・e00417)
ジャミラ・ロサ(癒し系ソルジャーメイド・e00725)
エヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968)
メリチェル・エストレーヤ(黒き鳥籠より羽ばたく眠り姫・e02688)
桐屋・綾鷹(蕩我蓮空・e02883)
神宮時・あお(最果テ幻想花・e04014)
輝島・華(夢見花・e11960)
小花衣・雅(星謐・e22451)

■リプレイ


 長崎新地中華街、かつて食によって人々で賑わったその街も今やかつての面影もなく、廃墟と化した街並はすっかりと色あせ、人々の寄り付くこともできぬデウスエクス達の巣食う魔都となっていた。
 そんな荒廃した街の風景を上空からケルベロス達は眺めていた。
「どうにも、こう荒れていては事前のルート通りとはいかなそうですわね」
「まだ時間はあるわ、視認できる限りでいいから修正を」
「Yes, Ma'am、早急に手筈するであります」
 輝島・華(夢見花・e11960)、小花衣・雅(星謐・e22451)、そしてジャミラ・ロサ(癒し系ソルジャーメイド・e00725)の三人は上空で待機するヘリオンより身を乗り出し、眼下に広がる街と手元に用意した地図情報を照らし合わせ、今もまだ撤退に使えそうなルートを割り出していく。
 程なくして作業が終わり、全員の下に修正されたデータが届いたのを確認すると、桐屋・綾鷹(蕩我蓮空・e02883)は一つ頷いて、仲間達に確認を取る。
「それじゃ皆準備はいいな?」
「いつでもばっちりよ」
「大丈夫、です」
 東名阪・綿菓子(怨憎会苦・e00417)についで、メリチェル・エストレーヤ(黒き鳥籠より羽ばたく眠り姫・e02688)が返事を返し、それに倣うように、他のケルベロス達も真剣な面持ちで、それぞれ準備が出来たことを告げる。
 そんな中神宮時・あお(最果テ幻想花・e04014)は一人やや離れた位置より、無表情に頷きだけを返し、その雰囲気はともすればどこか思いつめているようにも見える。
「緊張してますか?」
 華のそんな言葉に、あおはただ顔をそちらへと向け、じっとその顔を見つめる。
「大丈夫です、微力ですが私や皆様がいます。必ず一緒に帰りましょうね」
 続いたその言葉に、やはりあおは言葉を返さず、かわりにその手に握るグラディウスをぎゅっと力強く握りこむ。
 そうして、作戦開始の時が訪れる。
 先頭に立つエヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968)は身を乗り出しつつ、隣に立つジャミラにふっと笑顔を向け、口を開く。
「頼りにしてる……行きましょうか、先生」
「合点承知の助。こちらこそ、頼らせて頂くであります」
 言葉を交わし、二人は同時に空へと身を投げる。仲間達も、グラディウスを手にそれに続く。
 目標は長崎新地中華街に存在する強襲型魔空回廊の破壊。
 デウスエクスの蔓延る街を取り戻すための戦いが始まった。


 ケルベロス達が手にする光を放つ小剣、それは人の想いを力に変える刃。
 その刃に彼等はありったけの心を乗せ、魔空回廊を破壊すべく、刃を空に渦巻く歪みへとむけ力の限り振るう。
 瞬間、その周囲に展開されている目に見えぬ膜がそれを受け止め、周囲にけたたましい音と光が弾ける。
「もうこれ以上、何も奪わせません!
 グラディウス……私達に力を貸して下さい!」
「ここで魔空回廊をブッ壊して、いずれ人間に仇為す敵は全て打ち滅ぼす!
 例え四肢を砕かれても、首ひとつ飛んでって喉元に噛み付いてやるってね!!」
「息抜きや団欒する為に中華街へ美味え料理を食いに来る人達の邪魔すんじゃねぇ、夢しか食わねえ言葉も紡げねぇ奴らなんざに居場所はねえ!」
 華の綿菓子の綾鷹の叫びが、辺りを明滅する雷光と爆炎の音に負けじと響く。
 想いをつけより強く輝きを放つグラディウス。
 収められたグラビティ・チェインには限界がある。それを放出仕切る前に、できる限りの損害を――ケルベロス達は更に強く想いを乗せ、刃を押し込む。
「此処は、返してもらう……っ」
「貴方にくれてやるものなんて一つもない」
 グラディウスの攻撃の余波を受け、街の至るところでビルの倒壊や、道路が陥没が起こり、不気味な呻き声が響き始める。
 彼等の言葉、叫びは、想いのほんのひとかけらに過ぎず、その胸の奥には言葉に出来ないもっと沢山の想いが渦まき、燻っている。
「もう大切な地を血で汚したくないわ――グラディウス様、どうか私とノイエに力を貸して下さい」
 グラディウスを握るメリチェルの手に、彼女と共にあるビハインド、ノエルが手を重ね、後押しするように力を込める。
 もはやグラディウスに込められたグラビティ・チェインは尽きかけている。
 それでも誰一人としてこの場にいるものは諦めはしない、最後の最後まで、全霊を込めて想いを込める。
 彼等は突如、その手に感じていた手応えが軽くなった事に気づく。
 澄んだ破裂音が一度、空に響く。
 歪む空に亀裂が走り、魔空回廊は砕け散るかの様にバラバラになり、虚空へと消えていく。
 ケルベロス達はその光景に、一度だけ、瞬きをする。
 事前にはじき出されていた確率はそれ程高くなかったはずだった、しかし、目の前に広がる光景と、その手に感じた手応えは、間違いなく彼等が魔空回廊を破壊したことを物語っていた。
 ケルベロス達がそのまま降り立った地上では、未だグラディウスの攻撃の余波に、同じ見た目をしたデウスエクス達は統率もとれず、ケルベロス達の姿を捕捉出来ないでいうるようで、巻き上がる粉塵と煙の中をケルベロス達は進んでいく。
「まさか、一発で破壊できるとはなぁ」
 先ほどの出来事を思い出しつつ、口元を覆いながら綾鷹は呟く。
「偶然にしろ、必然にしろ成すべき事を成せた、これは誇るべき事でありましょう」
 表情を変えずそういうジャミラの言葉に、ケルベロス達は一時表情を緩めるものの、まだ全てが片付いたわけではない。
「このまま何事もなければいいのだけれど」
 そう甘くはいかないことを雅もわかっているのだろう、警戒を強め、周囲にしきりに視線を送り、ケルベロス達は進む。
 そうして、道半ばまで来た頃だろうか、あおが足を止め、炎の揺れるビルの陰にじっと視線を向ける。
「どうやら思う様にはいかないみたいですわね……」
 華も同様に足を止め、他のケルベロス達もこちらへと向かってくるそれの存在に気づく。
「……あやたかさん、これマシュマロって感じじゃないわ」
「言ってる場合じゃねぇぜ、来るぞ」
 それは白く丸い何かだった。
 横一文字に避けた真っ赤な線、中央には黒目が、左右には別々の口が開く異形。
 そのそれぞれから音とも言葉とも取れぬ、別々の奇怪なうめき声を上げ、体と繋がらぬ手を使い這うようにそれは近づいてくる。
 イヴォルジャーキーと名付けられたそのドリームイーターからは並々ならぬ、敵意が感じられた。
 魔空回廊を破壊したケルベロス達を逃がすつもりはないのだろう、それは口を開き、遠吠えのような声をあげ、ケルベロス達に襲い掛かる。
「異形、そしてまともに言葉を発せない。可哀想な生き物ね」
 そんなあざ笑うような言葉と共に、雅はイヴォルジャーキーを迎え撃つべく、構えを取る。
「ボンジュール、夢喰い――夢から、目覚める時間よ」
 事前に決めていた作戦に従い、敵の目をひくため同じくエヴァンジェリンも敵の前へと躍り出る。
 魔空回廊の破壊成功の喜びをかみ締める間もなく、命をとした撤退戦が始まった。


 攻撃の余波に混沌に陥る廃都の中心近くでケルベロス達は煙と炎に紛れ、立ち塞がるイヴォルジャーキーと熾烈な戦いを繰り広げていた。
 敵の隙を伺い戦闘中にでも少しでも撤退ルートを進みたいケルベロス達ではあったが、そのような甘い隙を見せてくれる相手ではないことを、一連の攻防ですぐにわかった。
 一度に複数のケルベロスを攻撃する手段を持たない敵に対し、雅とエヴァンジェリン、二人が矢面に立つことで攻撃を分散するケルベロス達は個々が大きなダメージを負う事はあっても、すぐにカバーに入ることでその陣形が大きくずれることはなかったが、逆にその陣形を迂闊に崩すことも出来ないでいた。
 その上目の前のデウスエクスは傷を受ける度、怒りに不気味なうめき声を上げ、その傷を再生する。その度に敵の攻撃は徐々に激しさを増していく。
 このまま戦い続けていては拉致が空かないどころか、状況は悪くなる一方。
 敵へのダメージは確実に蓄積してはいたが、グラディウスによる目くらましもそれ程長く続くわけではない。早急に勝負を決める必要があった。
「綺麗な花吹雪、楽しんで下さいませ!」
 華が杖を振り上げ、敵の頭上を指し示す。それを気に止めた様子もなく、敵はその舌を伸ばし彼女へと振り下ろす。その攻撃を雅が両の手で受け止め苦悶の表情を浮かべながらも耐え忍ぶ。
 彼女の傍につき従うウイングキャット、アステルは主の力になろうとその背の羽を広げ、癒しの力をもってその援護に回る。
 一瞬のその攻防の後、華の魔力によって生成された花がイヴォルジャーキーの頭上で咲き乱れ、散り、花弁となって降り注ぐ。
 戦いで蓄積したダメージを負い打つようなその攻撃に、怒りを忘れるかのように怯む敵の独立する舌を弾き返し、雅は懐へと潜り込む。
「熱く、燃え滾れ」
 その身を一時炎が焼き、瞬く間に一振りの剣となったそれをしかと握り、一閃。火の粉が尾をひく一刀が敵の体を深く切りつける。
「生者必滅!!」
 畳み掛けるように綿菓子が虚空より抜き出した身の丈に合わぬ蛮刀を敵の体目掛け振り下ろす。いかなモノも両断するその一撃に変えるのはしかし、鈍い手応え。
 体を傾け、口にくわえた鍵で攻撃を防御したイヴォルジャーキーの体にはその刀身の中程までが埋まってはいたが、致命傷には届かない。
 そのまま球体の体を回転させ綿菓子の体勢を崩そうとする敵を目掛け、あおの作り出した幻影の龍が襲い掛かる。
 その攻撃を受けて尚、接近を強行しようとする敵の瞳目掛け、エヴァンジェリンは槍を突き出す、しかし寸での所でその体に似合わぬ素早い動きで、イヴォルジャーキーは距離をとる。
 そこを狙い済まし放たれたライフルの光の奔流。
 ジャミラの放ったそれにより凍て付いた敵の側部を目掛け、黒と白の軌跡。綾鷹の振るう左右の刀がイヴォルジャーキーの体を切り裂いた。


「こいつでまだ倒れねぇとはめんどうくせぇ」
 新たな口のように開いた傷口からモザイクをサラサラと零しながらも、イヴォルジャーキーの戦意は衰えるどころか、左右の口か息の漏れるかのような、あるいは、何かが泡立つかのような、そんな音を漏らし、両腕を振り上げる。
 一手を短刀で弾き、二手目を避けようとした綾鷹の目の前にその鋭い爪が迫る。虚空に浮かぶその手の届く距離を見切ることは、至難の技。
 苦い表情を浮かべ衝撃と痛みに備える綾鷹。しかしその一裂きを受けたのは彼の体ではなかった。
 エヴァンジェリンの胸元が大きく裂け、地がぽたぽたと流れ落ちていた。
 深い傷であるのは誰の目にも明らかだ。
 すぐに手を伸ばそうとする綾鷹、そして治療のため駆け寄ろうとするその二人に対し、彼女は首をふり呟く。それは戦場の音にかき消され碌に聞こえはしなかった。しかし、それでもその意味を汲み取ることは出来た。
 徐々にではあるものの薄れ行く煙幕、微かに響く何かが列を成し迫る音。あとどれほどの残っているのか、わからない、しかし、そう多くもないだろうことは、この場にいる誰もが理解していた。
 メリチェルは伸ばしかけたその手をグッと握り、胸元にあて、声を上げる。
「――飛べなくても問題ないわ。
 この歌声とこの棘であなたを捕えて離さないから」
 戦場に似つかわしくないその澄んだ歌声。言葉を解さぬドリームイーターすらも虜にする歌声。
 その歌声すらも切り裂かんばかりの勢いで綿菓子の振るうのチェーンソーがイヴォルジャーキーの瞳を袈裟に切りつける。虚を突かれたイヴォルジャーキーの瞳から、涙のようにモザイクが溢れ、止まらない。
 音のない声が魔力を揺らす。声を伴わない詠唱はそれでも術者の魔力の流れを汲み、その形を顕現させる。
 あおの目の前、作り出された風の刃は、綿菓子につけられた傷を庇うかのように両の手で覆うイヴォルジャーキーのその掌ごと、横一文字にスッパリと切り裂いた。
 上下に分かれてなお、不気味に蠢く口からはただ空しく音だけが漏れ、やがてその姿は風に吹かれる砂の如く、どこへともなく消え去った。


「皆様、お疲れ様でした」
 歌声を止め労いの言葉をかけるメリチェル、それをうけ、脱力し、その場に崩れ落ちそうになるケルベロス達、いつも通りの依頼であればそれで問題はない。
「建物の修復……は、流石に無理ね」
「あまりゆっくりはしてられないみたいね」
 雅の言葉に、綿菓子もまだほんの少し上ずる声で同意する。
 ここは未だ敵地であり、魔空回廊の破壊によりこの地にいる以上のデウスエクスがやってくることはなくなったとはいえ、残党を始末するにはこの人数では流石に厳しい。復興にはまだ暫くの時間がかかることだろう。
「治療も本格的なものは、帰ってからでありますな」
 ジャミラは肩を貸すエヴァンジェリンの顔を覗き込みながら、ほんの少しだけその表情を曇らせる。
「いつもアリガト、先生。
 先生が居たから、頑張れた」
 そんな彼女の不安を払拭するかのようにエヴァンジェリンは笑って見せる。
「うーし、さっさと退却するとすっか。道は俺が斬り開いてやらぁ!」
 綾鷹の声に、ほんの僅かながら休憩を取っていたケルベロス達は、再び歩き出す。
 歪みの消えた、本来あるべき姿を取り戻した空を眺めていたあおに華がいきましょうと声をかける。
 灰色に寂れた街の風景が、空と同じように元の姿を取り戻す様を想像しながら、彼等は歩く。
 その想像が現実となり、彼等が今日駆け抜けた道をゆったりと歩く日が来るのはそう遠くはないだろう。

作者:雨乃香 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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