「ゴッドサンタを撃破により、クリスマスの防衛に成功しました。まずは、おめでとうございます」
ユエ・シャンティエがにこりと笑って前置きを置いた。
「改めて、ゴッドサンタを撃破した事で手に入れた『グラディウス』の使い方が判明したゆえ、ご連絡させていただきました。このグラディウスは、長さ70cm程の光る『小剣型の兵器』ですが、残念ながら通常の武器『として』は使用できません」
ユエはいくつかの単語を、あえて強調して説明する。
古代で使われたグラディウスは確かに小形の剣であったが、兵器と言う程では無い。だが武器には間違いないはずなのに?
「その代わり、と言ってはなんですが。固定の場所に作られた、常設型の魔空回廊を攻撃して破壊する事ができます」
ここで周囲の様子をユエは窺った。
それも仕方あるまい、通常の魔空回廊は、時間が建てば消失する。
ということは常設型の魔空回廊を繋げるための特別な拠点があると言うことであり、この固定型の魔空回廊は、グラディウスでの破壊がとても有効となる訳だ。
「現在日本各地の的拠点……『ミッション』という拠点とゆう地域。この『強襲型魔空回廊』を破壊する事が可能となるので、デウスエクスの地上侵攻に大きな楔を打ち込むことができるゆうことですね」
完全に制圧され手を出せなかった、あるいは回廊を直ぐには破壊できないなど、幾つか特別な場所がある。
グラディウスで回廊を破壊し、『ミッション』地域を解放すれば、人類の手に取り戻す事が出来ると言う訳だ。
「グラディウスは一度使用すると、グラビティ・チェインを吸収して再び使用できるようになるまで、かなりの時間が掛かるようです。ですが、今回手に入れたグラディウスには『すぐに使用可能な物』が多数あります」
それを使用して一気に、ミッション地域を解放する『ミッション破壊作戦』を行う事が可能と言う訳だ。
数に限りはあるのだろうが、奪われなければ、チャージしながら使うことで、かなりの場所を解放できるだろう。
「皆さんには、グラディウスの力を利用し、ミッション地域を、デウスエクスの手から取り戻して欲しいと言う訳です。どの場所のミッションを攻撃するかは、皆さんの決断に従いますので、幾つかの説明を良く確認して決断してください」
セリカがそういうと、誰かがゴクリと唾を呑み込むが聞こえた。
これまで手が出せなかった場所を奪回し、あるいは手が出せないゆえに詳しい情報を集め無かった地域をどうにかできるのだ。
とうぜん反撃も予想されるが、大きな前進であり、武者ぶるいが抑えられない者もいるだろう。
●
「強襲型魔空回廊があるのは、ミッション地域の中枢となる為、通常の方法で辿りつくのは難しいでしょう。場合によっては、敵に貴重なグラディウスを奪われる危険もあるため、今回は『ヘリオンを利用した高空からの降下作戦』を行います」
ユエは一度そこで話を切ると、みなの理解が追いつくのを待った。
中には興奮冷めやらぬ中で、話の続きを窺う者も居る。
「降下作戦でも負つなら特定対象を破壊するのは難しいでしょう。ですが、相手は回廊の周囲は、半径30mドーム型のバリアで囲われており、このバリアにグラディウスを触れさせれば良いので、高空からの降下であっても、充分に攻撃が可能です」
対象が個体出会った場合、倒すべき敵の頭の上に降下とかは不可能だが、空間そのものに干渉する武器で、空間を切るのは言うほど難しくない(流石に団扇を仰ぐ様にはいかないだろうが)。
「8人のケルベロスが、グラビティを極限まで高めた状態でグラディウスを使用し、強襲型魔空回廊に攻撃を集中すれば、場合によっては一撃で強襲型魔空回廊を破壊する事すら可能です。もちろん、一回の降下作戦で破壊できなくても、ダメージは蓄積するため、最大でも10回程度の降下作戦を行えば、強襲型魔空回廊を確実に破壊する事ができると推測されとります」
当然ながら強襲型魔空回廊の周囲には、強力な護衛戦力が存在するだろうが、高高度からの降下攻撃を完全に防ぐのは無理だ。
加えてグラディウスは攻撃時に雷光と爆炎を発生させるらしく、所持している者以外に無差別に襲いかかるため、強襲型魔空回廊の防衛を担っている精鋭部隊であっても防ぐ手段は無いだろうと言う事である。
「皆さんは、この雷光と爆炎によって発生するスモークを利用して、その場から撤退を行ってください。この作戦を可能にした貴重な武器であるグラディウスを持ち帰る事も、今回の作戦の重要な目的となります」
ユエの説明が終わると、拳を掌に打ちつけたり、足踏みする音が聞こえた。誰もが飛び出したい気持ちを抑え、具体的な場所や作戦プランを心待ちにしているようだ。
「護衛部隊は、グラディウスの攻撃の余波である程度無力化できます。
ですが敵は精鋭が多数、完全に無力化する事は不可能だと思われますので、強力な敵との戦闘は免れません。幸いながら、混乱する敵が連携をとって攻撃を行ってくるとは思われませんので、素早く目の前の強敵を倒して撤退できるようにしていきましょう」
ここで時間が掛かりすぎて、脱出する前に敵が態勢を整えてしまった場合は、降伏するか暴走して撤退するしか手が無くなるかもしれない。
だが不本意な手段を取るよりも、事前に攻撃するミッション地域ごとに、現れる敵の特色を参考に、入念な作戦を練っておくのも良いだろう。
「デウスエクスが制圧し、敵前線基地となっている、ミッション地域を解放するこの作戦はとても重要です。今も、デウスエクス達はミッション地域を増やし続けていますが、この侵攻を食い止め逆転する為、みなさんの強い気持ちと魂の叫びを、どうか御存分にぶつけてくださいまし」
ユエはそういうと話を締めくくり、改めて最後の注意事項を付け加えた。
「降下攻撃後は、無事に撤退するのが重要。敵は混乱状態でしょうが、強敵ほど混乱状態から抜け出すのは早いと思われます。強敵との戦いは必ず発生すると思って、準備を整えて置いてください。ではみなさん、この地球をよろしうお願いしますえ」
深く頭を下げ、手渡される資料を食い入るように見つめる仲間達の姿があちこちで見られた。
この作戦の成功いかんで、これからの戦いも大きく変わるのかもしれない。
参加者 | |
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ノア・ノワール(黒から黒へ・e00225) |
珠弥・久繁(病葉・e00614) |
筒路・茜(赤から黒へ・e00679) |
東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771) |
試作機・庚(試作戦闘機・e05126) |
久遠・征夫(静寂好きな喧嘩囃子・e07214) |
イリス・ローゼンベルグ(白薔薇の黒い棘・e15555) |
ヒューリー・トリッパー(笑みを浮かべ何を成す・e17972) |
●
「確かに歪んで見えるな。上から……いや、コレがあるからか」
久遠・征夫(静寂好きな喧嘩囃子・e07214)はヘリオンの扉に手を掛けながら呟いた。
とある剣を所持している為だろう、地上はいつもとホンの少し違って見える。
「コレが無いと壊すどころか、普通の町に見えるみたいね。だから迷いこんで、被害が大きくなる」
「厄介な」
イリス・ローゼンベルグ(白薔薇の黒い棘・e15555)が不機嫌そうに呟くと、 征夫も同様に頷いた。
剣を構えたのは二人だけではない。
近くを飛ぶもう一機のヘリオンに搭乗する16名が、揃いの剣を携えていた。
「古書店街は有名なところだものねー。わたしも古い本とか見てみたいけどそんな状況じゃないんだよねっ」
唇に手を当てながら、東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)は本を二・三冊、思い出そうとする。
ボケるにはまだ早いが、急に思い出せるほどではない。
やはりこういう時は、地道に本棚を漁りたいものである。
「元々住んでいた人のためにも、愛書家さんたちの為にも。再び静かに本を楽しめる、そんな場所にするためにがんばらないとねっ」
「本ですか……。やはりその辺デスかね……」
苺が平和に暮らせるように、家族みんなので一緒に居られるような……と意気込んで居ると、どこか所在無さげな声が漏れる。
「ん?」
「ああ。回廊の破壊には強い意志が必要……だったね? それが苦手という訳だ」
苺が首を傾げると、何かに納得したように、ノア・ノワール(黒から黒へ・e00225)が頷いた。
この戦いには、強い意志が欠かせない。
だからこそ、みなのボルテージが最高潮に達するのを今か今かと待っている。
「その通りデス。『魂の叫びで性能が変わる』……デスか……一応“心”を持っているとはいえ、機械には難しい注文をされたデスね……」
試作機・庚(試作戦闘機・e05126)は苦笑を浮かべようとして、その努力を放棄した。
別に無表情な訳でもないし、大きく動いて無いだけで、苦笑いを浮かべているつもりはある。
「まぁ、やれるだけやってみるデスかね。それにしても……、みなサン、魂が叫んでいるのデスね」
「古書が奪った知識の為だけど、ある種の愛かな?」
しみじみと庚が難しさを口にすると、ノアは事も無げに言いきって見せた。
●
「(ノアってば、『ひとえに、愛だよ』……だなんて、ふふ。恰好よすぎる)」
声には出さず、筒路・茜(赤から黒へ・e00679)は少しだけ照れた。
声には出さなかったので、脳内イメージが間違っているとは、誰からもツッコミが入らなかった。
「―――あれ、なんか傾いて来た」
「あちらのヘリオンも周回軌道が変化しましたね。これでは敵に見つかる……いえ、これは……」
茜は視線が傾くのを感じたが、ヒューリー・トリッパー(笑みを浮かべ何を成す・e17972)が同じ様に傾く、もう一機のヘリオンを指差した。
「準備が出来たと、言う訳ですか」
「よし。ケルベロスの、引いては人類の。新しい反撃の一歩と一撃だ」
ヒューリーの指摘にケルベロス達は頷いて、珠弥・久繁(病葉・e00614)ら座って待機していたメンバーも立ち上がった。
全員が何時でも降下できるように位置に付き、順序良くスタンバイ。
「今まで我が物顔でのさばってきた侵略者に目にモノを見せてやろう」
久繁の言葉に促されるまでも無い、ケルベロス達は一様に気合いを入れ直し、目を閉じて開いたり、拳を掌に打ちつけている。
そして、先に扉を開いた向こうのヘリオンが、古書店街へ向けて、次々と降下しているのが見えた。
「第一波確認。こちらも続けて出る」
「平和に暮らせるようにここは私達でなんとしても破壊していくよっ。あっちの班と入れ替わるくらいのつもりでいこうね!」
先頭の征夫が出るのに続いて、苺はグラディウスを振りかざしながら飛び降りた。
心が猛るのと同時に、刃から雷鳴が迸り始める。
これが魂の叫びと言うやつか?
「結界が顕在化するデス……。あなたのようなドリームイーターが出てくれたお陰で安心して本を買うこともできなくなったデスよ……」
「同じような個体が集まって居る気配を感じます、まるで図書館……。あなた達、ドリームイーターは人々が得た経験、感情、知恵それらを奪う……そんなことは、させませんからね!」
庚が振り降ろした刃は、途中で水を進むように、何かの抵抗力を感じる。
隣でヒューリーが叫ぶのと同時に、刃が少しずつ押し込み始めた。
「その罪はかなり大きいデスからね……ここで必ず破壊してやるデスよ……!」
庚が体中から意思を動員すると、少しずつ少しずつ、綱引きで押し切る時のように、刃が何かを切り裂いて行く!
「あなた達が奪うものは、人々が生きる上で必要なもの! ……奪うくらいなら、自分達で何かを生みだしてみなさいっ!」
「ふんっ、ドリームイーターごときが何を偉そうに……他人から奪った力で調子に乗るのも大概にしなさい! あなたの知識も何もかも、この一撃で吹き飛ばしてあげるわ」
言葉の刃は、心を傷つける。
だが、ヒューリーやイリスが吠えるたびにまき散らす力は、雷鳴と共に、結界を切り割いて行くが……。
だが、それも途中まで、今回はここまでか?
誰もがそう思った時!
最初は風船のように、歪むだけだった結界も、少しずつスパークが生じてガラスが割れるかのよう空間にヒビが入り始める。
●
「向こうの班はもう先に降り始めてる。だけど……この感じ、行けるんんじゃないか? よしっ」
征夫は目を閉じて、過去に意識の端を伸ばし始めた。
あの時の光景を思い出し、手には力を込め始める。
「アンタ等の生み出した『下半身潰れたゴキブリ』ドリームイーターを私が見つけた所為で友人や他の人がゴキ体液ぶっかけられたりして……あの後本気で友人に謝ったりしたんだ。」
「ちょっ…。できればそう言うのは……」
征夫がゴキブリ関連の話題を始めた時、思わず茜は目を見張った。
なんだかゲンナリした瞬間に、上の方に吹っ飛ばされたようなイメージすらする。
「有効みたいだから、ほっときなさい。それとも口を塞いで欲しい?」
「うんうん♪」
ノアが諦めた顔で茜に声を掛けると、彼女は唇を突き出しているような表情をした。
勿論お互いに冗談なのだが、半分くらいは本気でもある。
「あんな物を生み出してお前等を本気で許さない、くだらねぇ叫びとか知るかっ!」
「やった、か? 生命の果実……今まで働かずに貪る蜜は美味しかったかい? 言わずともわかる、俺もそうだった。だから、今から報いを受けさせる。今ここで俺も報いを受ける!」
征夫の刃で臨界を越えて、ガラスの様なイメージが、爆煙に変わり始めて行くのが判る。
その様子に久繁もまた、目を閉じて、告白するように言葉を紡ぎ始めた。
「亡くなった命だけは戻らない。だからこれからを防ぐ、今からの行いで俺の罪を贖おう!!」
弾けて行く。
切り裂いていく。
久繁たちの言葉で、熱き思いで、結界が砕け散って行くのが判る。
「このまま行けそうだね……なら話は早い。ボクの意思は『渇望』――この魔空回廊を破壊し、白紙の書を倒す事で彼の溜め込んだ古書の知識に触れる事が出来たなら、その時は……」
ノアは最後の言葉を力に替える。
それは、目の前に形を為す存在。それをかき抱く為の力、そして思いだ。
「そして、それはボクが今最も求めているものなんだから。さぁ、ボクの知識の礎となって貰おうか!」
ノアの一撃で、結界が完全に崩れ去ったのが判る。
見れば仲間達も、ほぼ同様に刃を抱えて、着地していくのが見えた。
長い様な気もしたが、振りかえれば、一瞬の出来事だったのかもしれない。
鳥が羽ばたくような、紙片が風に舞うようなイメージと共に、古書店街の結界は、ここに消え去った。
だが、それで終わりでは無い!
「はい、ご苦労さん。お疲れだね、大活躍だね? じゃ後は引き継ぐから私達へおいしいトコロを譲って交代しよか?」
茜はとても満足だった。
最後の瞬間、ノアは自分を見て、その気持ちを力に替えてくれた。
それだけで満足できる。
さあ行こう、ボスがこっちに来てるようだけど、倒してしまえば良いよね。
「―――、さ、白紙の書。私"達"の意思の元、糧となってもらおうか?」
ケルベロス達は一様に、笑ってグラディウスを仕舞う。
そしてそれぞれの得物に持ち替えて、雷光と爆炎の中、やって来る強力なデウスエクスを迎え討った!
●
「こいつだけ倒して、脱出するぞ!」
立ちこめるスモーク等無視して、久繁は敵の気配に鉄拳を叩きつける。
巨大な書を震動させるのだが、ソレは内側から、ブルブルと震え始めた。だが苦しんでの者とは思われない。
「夜が零れる……出番デス、辛」
「黒には黒だ、コレール!」
庚は箱竜の辛に声を掛けて走り出すと、ノアも霧状の箱竜、コレールに指示を飛ばした。
巨大な本よりインクが滲み出し、視界は黒へと染まり始める。
「それが君の知識の端かい? ならば上等だね呑み込んでしまえばいい!」
いきなりのピンチに面白いじゃないかと嘯いて、ノアは灯から黒い炎を挙げて対抗し始めた。
炎は黒い霧と化し、傷ついた仲間達を癒して行く。
「来た来た来たー。見たかい、こんな傷何かじゃ止まらないし、止まってやらない。私の意思はいつだって常に『ノア』と共にあるんだよ」
茜は血笑を挙げて傷の痛みを抑えながら、指で拳銃の形を作り上げた。
闘気は形無き弾丸と化し、ズキューン♪という言魂と共に撃ちだされていく。
「流石にやりますねー庇いきれなかったよ。でも、こんなんじゃケルベロスはくじけませんよー」
苺は足踏みしてアスファルトを割るほどの震動を放つと、目を閉じして心を澄ませる。
『勇敢なる戦士に戦う力を与えたまえ!』
鼓舞するような苺の声と共に、徐々に癒しの力が胸に湧き上がる。
まずは此処に、これを大地と共振させ、十分に増幅してから、その輪を仲間に拡げることで、傷ついた仲間を癒すのだ。
「強襲型魔空回廊なんて随分とご大層なものを作ってくれたものね。でも、この損害を笑って見て居られるかしら?」
「笑ってなんか居させやしないし、次々と破壊して行ってやる!」
イリスは黄金の加護を周囲に振りまくと、逆手で天に文字を描いた。
重砲撃を掛けながら何なのかを確認した征夫は、翼を広げ壁を蹴って助走すると、空に描かれた文字を踏み込む。
『飛竜脚・・・行っけぇぇぇっ!』
それは文字を刻み込む、刻印。
空を掛ける流星たちに連なるように、上空から降下して行った。
連なる流星とは何か?
それは当然、ケルベロス以外にあるまい。
「……この際ですから言っておきます。ドリームイーターは、なんで精神衛生上よろしくない……正気度が減りそうな奴が多いのですかっ!?」
「きっと仕様なのデス」
ヒューリーと庚が同時に本の中央、目玉の様な部分に降り注ぐ。
二人の蹴りは重力すら巻き込んで、渦巻くように敵の動きを縫い止める。
なお、身も蓋も無い庚のツッコミを聞いて無い様で、ヒューリーは力いっぱいバールを握りしめた。
●
「聞いてるんですか? 《白紙の書》、あなたもそうですよっ!」
白紙に押された刻印を拡げるように、ヒューリーは振り被ったバールで殴打するのであった。
そこへ仲間達も第二撃・第三撃と、次々に撃ち放つ。
「今度はやらせないのデ……あ、なんで目から水が出るのデショウカ?」
庚は人々と一生を共にした機械達の物語りが、不思議と脳裏によぎるのを感じた。
子供が生まれた時にやって来て、御爺さんと成って死んでいく時に共に朽ちて行く大きな時計。あるいは花嫁さんと共に赴くタンス達。
摩耗して消えて行くのも悪くないと、胸に突き刺さった紙片を見ながら、他人事のように目から水を流す。
「それは涙って言うんだよ。前は見えるんだよね?」
「……学習しました、ひとまず問題ないのデス。『対象をロック ファイア』敵の動きを牽制します」
ノアは彼女の意識に同調すると、指でそっと涙を拭ってあげる。
おかげで庚は視界が晴れたのか、レーザー放って敵の動きを止める事にした。
「―――。あはは恰好いいなあ」
茜は多少、ホンのちょっとだけムカっとしたものの、特に気にしては居なかった。
あえて言うならコンマ・マイクロセカンド秒くらい、それもノアでは無く、庚の方である。
とりあえずノアがナチュラルに恰好よいのは仕方ないと、笑顔を浮かべて攻撃に移った。
『餌の時間だよ、ドライグッ!!!』
茜の声と共に、時空の向こうでナニカが首をもたげた。
刻の彼方に幽閉されし、とある伝説の魔獣に良く似たナニカが目を覚ます。
無数の鎖に囚われたソレは、赤き竜王にも匹敵するほどの吐息を放ち、周囲を焼き焦がすのであった。
ぶすぶすと焦げていく白き本に、一同は余裕と疑問の双方を浮かべる。
「やったか? あと少しで……」
「でも、ボスにしては倒れるの早くない? 火力とか物凄かったのに」
久繁はページを数枚まとめて斬り飛ばしたが、力なくペラペラと羽毛の様に吹き飛んで行く。
その様子に攻撃を受け止めて居た苺は、先ほど食らった、紙とは思えないほどの凄まじい鋭さの手紙手裏剣を思い出した。
この相手は確かに格上、簡単に倒せる相手では無いはずなのだ。
「大方、さっきの雷光と稲妻でダメージを負ったんでしょ。雑魚も寄って来ないしね」
イリスはそう分析すると、四方に種をまいて急成長させた。
「薔薇に抱かれて死ねるなんて光栄よ、あなた」
イリスの創り出した無数の茨は、檻を形成して本を包み込んで行く。
「では、せっかくですし、このまま倒してして逃走しましょう」
「さあ。お前の傷はなんだ? それをもう一度抉りだそう」
ヒューリーがバールでフルスイングを掛けると、久繁は書に刻まれたタイトルらしき部分を抉り取る。
「んじゃ、私が先に行くねー」
「よし、このまま脱出しましょう。他にも生き残っていたり、他所から増援が来る可能性があります」
苺は箱竜のマカロンにも援護してもらいながら、飛び蹴り繰り出して、スモークの向こうに見える影を蹴り飛ばす。
続いて征夫は息を整えて落ち付きを取り戻しながら、撤退すべき方向に砲撃を放った。
煙の中を駆け抜けるケルベロス達には、それは明日の夜明けを告げる鐘の音にも聞こえた……。
「まずはデウスエクスを狩るワイルドハントを開催しよう。そしていずれ……」
「その時は……」
そしてノアと茜は煙に紛れ、指をからめ合い手をつないで駆けて行ったのである。
作者:baron |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年1月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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