ミッション破壊作戦~悪夢の揺り籠

作者:波多蜜花


「皆クリスマスは楽しかったやろか、ゴッドサンタの撃破もほんまお疲れ様やったね」
 信濃・撫子(撫子繚乱のヘリオライダー・en0223) が笑顔を見せて集まったケルベロス達に改めてお礼を言うと、分厚い手帳を開いた。
「それでな、ゴッドサンタを撃破した事によって手に入れた『グラディウス』の使い方がわかったんよ」
 調査の結果、『グラディウス』は長さ70cm程の『光る小剣型の兵器』なのだが、通常の武器としては使用できない事が判明したと言う。
「その代わりっていうとあれやけどな、魔空回廊を攻撃して破壊する事ができるみたいなんよ」
 通常の魔空回廊であれば時間が経てば消失してしまう為、『グラディウス』で破壊するまでもないのだが、固定型の魔空回廊を破壊する事が可能となる。
「現在日本各地の『ミッション』の拠点となっとる『強襲型魔空回廊』を破壊する事ができたらデウスエクスの地上侵攻に大きな楔を打ち込む事になるやろね」
 『グラディウス』は1度使用すると、グラビティ・チェインを吸収して再び使用できるようになるまでかなりの時間が掛かるようなのだが、今回手に入れた『グラディウス』には『すぐに使用可能な物』が多数あり、それを使用して一気に、ミッション地域を解放する『ミッション破壊作戦』を行う事ができるのだと撫子が真剣な表情で言う。
「皆にはこの『グラディウス』の力を利用してミッション地域をデウスエクスの手から取り戻して欲しいんよ。どの場所のミッションを攻撃するかは皆の判断に任せるよってな、説明をよう確認して決断してな?」
 強襲型魔空回廊があるのはミッション地域の中枢となる為、通常の方法で辿りつくのは難しいと撫子が手帳を捲る。
「場合によっては敵に『グラディウス』を奪われる危険もあるよってな、今回はヘリオンを利用した高空からの降下作戦を行うんや」
 強襲型魔空回廊の周囲は半径30mドーム型のバリアで囲われていて、このバリアに『グラディウス』を触れさせれば良いのだと撫子は話を続ける。
「8人のケルベロス達……今集まってくれとる皆が、グラビティを極限まで高めた状態でグラディウスを使用して強襲型魔空回廊に攻撃を集中したら、場合によっては一撃で強襲型魔空回廊を破壊する事すら可能なんや」
 1回の降下作戦で破壊ができなくてもダメージは蓄積していく。その為最大でも10回程度の降下作戦を行えば強襲型魔空回廊を確実に破壊する事ができるのだ。
「強襲型魔空回廊の周囲には強力な護衛戦力が存在してるんやけどな、高高度からの降下攻撃を防ぐ事は出来へんのよ」
 何故、と問い掛けたケルベロスに撫子が説明を続ける。
「『グラディウス』は攻撃時に雷光と爆炎を発生させとるんやけど、この雷光と爆炎はグラディウスを所持しとる者以外に無差別に襲い掛かるんよ。それはもちろん、強襲型魔空回廊の防衛を担っとる精鋭部隊であっても防ぐ手段はあらへん」
 この雷光と爆炎によって発生するスモークを利用して、その場から撤退を行うのがいいだろうと撫子が頷く。そして貴重な武器である『グラディウス』を持ち帰るのも今回の作戦の重要な目的なのだと言った。
「魔空回廊の護衛部隊なんやけど、『グラディウス』の攻撃の余波である程度無力化できるみたいでな? まぁそうは言うても完全に無力化するんは不可能やよって、強力な敵との戦闘は免れへんやろね」
 幸い、と言うべきか混乱する敵が連携を取って攻撃を行ってくる事はないと思われるので、素早く目の前の敵を倒して撤収するのがいいだろう。
「時間を掛けすぎると脱出する前に敵が態勢を整えてしまうよってな、その場合は……」
 撫子が言いよどむが、覚悟を決めたように唇を開く。
「降伏するか、暴走して撤退するしか手が無くなるかもしれへん。……そうはならんように、気ぃ付けてな」
 攻撃するミッション地域ごとに現れる敵の特色があるだろうから、攻撃する場所を選ぶ時の参考にするといいと撫子が手帳を閉じた。
「危険な任務かもしれへん、けどデウスエクスの前線基地となっとるミッション地域を解放するこの作戦はとても重要なもんや。ウチも精一杯頑張るよって、皆も気合入れて頑張ってや!」
 そう言った撫子の瞳は、ケルベロスの力を信じる力強いものだった。


参加者
ワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)
アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)
パティ・パンプキン(ハロウィンの魔女っ娘・e00506)
グーウィ・デュール(黄金の照らす運命・e01159)
西水・祥空(クロームロータス・e01423)
文丸・宗樹(シリウスの瞳・e03473)
ミュラ・ナイン(想念ガール・e03830)
詠沫・雫(メロウ・e27940)

■リプレイ

●作戦開始
 高高度に位置するヘリオンから空中に躍り出たケルベロス達の眼下に広がる景色は、綺麗なものだった。青い空と白い雲――けれどぐんぐんと近付く地上を見れば、住宅街の中に不自然な一角があるのが見えた。
「あれが強襲型魔空回廊……!」
 グーウィ・デュール(黄金の照らす運命・e01159)が睨み付ける様に呟く。どこか膜が掛かったようなその一角こそ、彼女の宿敵『盗掘者ヴィゴラス』が潜む場所。
「到達まで残り僅かなのだ! 皆、準備はいいのだ?」
「いつでも大丈夫です!」
 隣を飛ぶボクスドラゴンのジャックを気にしつつ、パティ・パンプキン(ハロウィンの魔女っ娘・e00506)が叫ぶ。その声に、握り締めたグラディウスを胸元に引き寄せてアリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)が答えた。他のケルベロス達も同様に返事をすれば、魔空回廊を守るように張り巡らされた半径30mドーム型のバリアが目の前に迫っていた。
 それぞれが、グラディウスへと魂の叫びを込める。それは祈りのようでもあり、強い決意のようでもあった。
「無力な人を襲うデウスエクスを誘う、魔空回廊……悲しみをこれ以上増やさない為、我が全身全霊を持ってこれを破壊する! 穿て、グラディウス!!」
 ワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)がバリアへ向かってグラディウスを突き出す横で、シャーマンズゴーストのタルタロン帝も主の真似をするようにその手を伸ばす。
「ヴィゴラスは人々が込めた多くの思いを踏みにじったのです。……許しがたい。ここで魔空回廊を破壊し、新たな悲しみが生まれぬようにさせていただきます!」
 西水・祥空(クロームロータス・e01423)の思いを踏みにじった者への怒りが、グラディウスの力となる。
「……宝物や食料を奪ったお前が宝物を奪って満足している裏で、悲しみに暮れている人達がいる。許せるほど、寛大じゃない」
 青い瞳を錨の感情で淡く輝かせ、文丸・宗樹(シリウスの瞳・e03473)がバリアを睨む。ボクスドラゴンのバジルがその想いを感じ取ったかのように、普段の天真爛漫な表情を険しいものに変えてバリアに向かってギャ! と鳴いた。
 グラディウスを握り締めたミュラ・ナイン(想念ガール・e03830)が目を閉じる。自分にはグーウィのように因果があるわけではない。けれど夢を奪うドリームイーターの行為を、繋がりさえも奪う泥棒を許す気はさらさらないのだと閉じた目を見開く。
「人々の夢を願いをぉ! 奪うなぁぁぁあああ!!」
 叫んだ言葉は、グラディウスに込められた。
「このグラディウスで魔空回廊を破壊できるんですね……」
 アリスが握り締めたグラディウスに視線を移す。グーヴィの宿敵であるヴィゴラスは彼女から全てを奪っていった。それは自分の大切な人達の大切な記憶をデウスエクスに奪われた事と似ているとアリスは思う。
「私の事とグーウィさんの事、同じではないけれど……それでも、貴方達にはもう、何ひとつ奪わせません!」
 奪われる悲しみを知っているから。アリスの込めた思いは指先からグラディウスへと走る。事前にヴィゴラスの話を聞いたパティは胸の奥に沸いた怒りを迷わず手にしたグラディウスへと込めた。
「グーウィの為を思った誰かの想いも、大事な手掛かりも全て奪った悪い奴なのだ。そんな奴がおる回廊は、絶対に皆で破壊するのだ!」
 ジャックも尻尾の炎を激しく燃やしてパティの声に答えるように大きく鳴いた。
 あそこに、彼女の全てを……そして見知らぬ誰かの想いすら奪った敵がいるのだと詠沫・雫(メロウ・e27940)が眼下に広がる光景を見る。
「なら、遠慮なんて必要ないでしょう? 悪い……いえ、悪いとは思いません、ここで倒されてくださいね」
 静かな微笑を湛えたまま、雫が手にしたグラディウスを構える。彼女の横を飛ぶボクスドラゴンのメルも力強く羽ばたいた。
「ようやく……会えるんですね。これ以上、何ひとつ奪わせるか!!」
 グラディウスを構えたグーウィの灰色の瞳は、遺跡を出たあの日から決めた目的の為に怒りを湛えて燃えていた。バリアまで、残り僅か。高められたグラビティに反応するかのように、グラディウスが雷光を帯びる。
 バリアまでの距離がゼロとなったその瞬間、8人の持つグラディウスが激しい雷光と爆炎を発生させた。それは目も眩むような激しい熱量を持ったもので、着地した彼らが目を細めながらバリアがどうなったのかと土煙が晴れるのを待った。

●盗掘者と護り手達
「なんと……力及ばずか」
 ワルゼロムが依然として健在するバリアを悔しげな表情で見つめつつ、グラディウスを宗樹へと預ける。
「……破壊できずか」
 宗樹が預かったグラディウスと共に自分の持っていた物もアイテムポケットに仕舞いながら呟けば、バジルが少ししょげたように尻尾を垂らした。
「ダメージを与えた手応えはあったんだけどね」
 既に力を失くしたグラディウスをグーウィに預けながら、ミュラが込めた想いは本物だったと呟けば、
「それ以上に堅固なバリアだったという事なのでしょう。悔しいですが……」
 と、グラディウスをショルダーバックに入れて祥空が言う。けれど、ダメージを与えた事は確かなのだとケルベロス達は思う。一度で壊せる物でないのなら、次の機会を待つしかない。そう思考を切り替えた時、ケルベロス達以外の声が聞こえた。
「何があったのかと思ったら、ケルベロスなの? ああ、でも……あなた達なら素敵なお宝を持っているかもしれないよね」
 その声に、反射的にグーウィが振り向いた。そこにいたのはどこかドワーフを思わせる姿をした、ツルハシの形をした鍵を肩に担いだ女だった。
「盗掘者ヴィゴラス……!」
 グーウィの声に、全員が素早く戦闘態勢へと入る。それを笑顔で眺めながら、ヴィゴラスは言った。
「あたしの事を知ってるの? まあいいわ、そんな事よりあなた達の『宝』はどんなの? あたしにちょうだいよ!」
 無邪気さと傲慢さを兼ね備えたヴィゴラスの言葉は、戦闘の開始を告げるベルのようでもあった。
 最初に動いたのはワルゼロムで、バトルオーラを弾丸のようにヴィゴラスへと撃ち込むとそれに続くようにタルタロス帝が黒いマントを翻し、召喚した原始の炎を撃ち放つ。
「盗掘屋如きに渡す宝などないよ」
「その通りです」
 ワルゼロムの言葉に祥空が短く言い放つと左手に『ライトキング・ハーデース』右手に『十王浄玻璃』を構え、短く息を吐くと異なる2刀を巧みに操りヴィゴラスへ卓越した剣技を叩き込んだ。
「強力な敵、と言うだけの事はあるのか」
 クラッシャーからの攻撃を受けてもそれなりの余裕を見せるヴィゴラスを冷静に観察しつつ、宗樹が紐解かれた禁断の断章をグーウィへ向かって詠唱すると、バジルが短く鳴いてボクスブレスを放射する。
 ミュラが破った8枚のページを空へ放り投げ、
「マノ ハッ イェ ウー セル ダム ハッ イェ イェ ピェトァ セル」
 と、唱えれば黒一色のチェーンソー剣を装備した分身が呪毒を込めた斬撃を浴びせていく。『鏡陣八芒・第ニ節(ミラーナイン ツースペル)』を喰らったヴィゴラスは、それでもツルハシの形をした鍵を構えて笑う。
「どの子の宝からもらおうかな!」
 そう言って振り下ろされたツルハシの切っ先は、金色の髪を靡かせたアリスを捕らえていた。避ける事はできないと覚悟を決めたアリスが、ペロペロキャンディのようなゲシュタルトグレイブ『リトルプリンセス・フノス』を手にして身構えると、アリスとヴィゴラスの間に宗樹が割って入った。
「ぐ……っ!」
 手にした武器で致命傷となるような場所は逸らしたけれど、それでもその一撃は重く宗樹の体力を一気に削っていく。
「ギャ、ギャ!」
 宗樹を心配して鳴くバジルに大丈夫とだけ声を掛ける。そうだ、まだそれだけの余裕はあると宗樹はふらついた身体を立て直した。
「ありがとうございます……!」
 アリスがそう声を掛け、『Drink Me!』と刻印がされている指輪から光の戦輪を具現化して離れていく敵に飛ばす。けれど、その軌道は見抜かれていたのかヴィゴラスには当たらない。
「安心するのだ、すぐにパティが治すのだ!」
 パティの纏ったオーラが宗樹の傷を癒すと共に受けた状態異常を回復した。それに続きジャックがボクスブレスを放射するけれど、ヴィゴラスは笑ったまま避けていく。
「すばしっこい方ですね、それならこちらは如何ですか?」
 雫が咎めるように言うと、胸に手を当てて唇を震わせた。
「水を起こす、詠」
 紡がれた歌、『ティタンの長兄(オケアノス)』はヴィゴラスへ向かってその力を発揮すると、メルが属性インストールを宗樹へ注入した。
「……ようやく会えましたね」
 ヴィゴラスの名を口にしてから黙ったままだったグーウィの言葉に、ヴィゴラスが首を傾げる。
「どこかで会ったかな?」
「お前が忘れてもあっしは片時も忘れた事はないですよ。お前が盗んだあの財宝、多分あっしに生きて欲しいと願った誰かが置いといてくれた物なんですよね」
「ふうん? ああ、なんかたくさん宝取れたやつかな?」
 今の今まで忘れてた、と悪気も無く笑うヴィゴラスを睨み付け、グーウィが叫ぶ。
「……返せ! あっしの金を、過去への縁を!」
 両手に握り締めた『滅ト幸ヲ掻キ抱ク刃』を振り被り、地を割くような一撃をヴィゴラスに向かって繰り出すけれど届かない。
「あはは! もっと奪ってあげるよ! 宝は全部あたしものだからね!」
 戦いは熾烈を極めようとしていた。

●持てる力の全てを
 届かないのは力量の差なのだと歯噛みするグーウィの横から、ワルゼロムが対象を追尾する矢を放つとタルタロス帝が爪を非物質化してそれに続く。
「届かないならば、届くようにするまでです」
 精度の高い技を、そう言って祥空が緩やかな弧を描きながら敵の急所を狙って斬撃を繰り出す。そして宗樹が古代語の詠唱と共にヴィゴラスへ光線を発すると、バジルが箱ごとの体当たりをしてみせた。
 ミュラが『黒杖鉄器』を構え、ヴィゴラスのツルハシを掻い潜るように想いを込めた降魔の一撃を加える。それは彼女の想念ガールとしての信念を込めたもの。
「誰とも繋がってない心なんて心とは言えないから、デウスエクスを壊さなきゃ」
「心より、宝だよ!」
 ヴィゴラスがツルハシではなく鍵の形をした方を切っ先にしてグーウィを狙う。ディフェンダーであのダメージを喰らったのだ、耐性の高い防具といえどタダでは済まない。一番近くにいるのは――。
「タルタロス帝!」
 ワルゼロムが叫べば、主の意を汲んだタルタロス帝がグーウィの前へ出る。無慈悲な宝を奪う鍵はタルタロス帝の身体を貫いた。タルタロス帝の身体が薄くなり、消えていく。ぐっと堪えた表情のワルゼロムをよそに、ヴィゴラスが鍵を肩に担いで間合いを取った。
 アリスがそこを逃がさず炎を纏った蹴りを繰り出せば、パティがエクスカリバールを投げ付けるけれどヴィゴラスの腕を掠るのみに止まった。悔しげな主の横でジャックがボクスタックルを喰らわせる為に飛び出していく。
 戦況を見ながら、少しでもヴィゴラスの体力を削る為に雫がファミリアロッドの先端から魔法の矢を一斉に発射させ、メルがボクスブレスを吐いた。
「……これ以上奪わせるか!」
 グーヴィが掌からドラゴンの幻影を放つ。それは言霊を載せたかのようにヴィゴラスへと吼えると、炎を噴き上げた。
 幾度となく交わされるケルベロス達の想いの咆哮と敵の攻撃の応酬、永遠にも続くかのように思えたそれはヴィゴラスが宝を奪う鍵を一瞬だけ地に落としたところで終わりの兆しを見せた。
「こっちもギリギリですけどね、あっちも相当ギリギリじゃないかな?」
「はい、私もそう思います」
 ミュラの言葉に雫が頷く。
「もうひとふん張り、いくぞよ!」
 ワルゼロムがヴィゴラスへ向かって駆ける、放つのは音速の拳だ。
「我等こそは地獄の番犬。錨を巻き上げ、第五の牙を解き放て」
 祥空が黄色い炎でグーウィーを包む。それは「最も攻撃を命中させやすい軌道」を察知できるほどに感覚を鋭敏化させる『エイムインフェルノ』の炎だった。
「グーウィさん、任せましたよ」
 一瞬の酷い頭痛に苛まれ、苦しげな表情をした祥空がグーウィを鼓舞すると、宗樹がペトリフィケイションを放ち、バジルがボクスブレスを吐いた。
「想いを遂げろ」
「ギャ!」
 ミュラがアンチヒールを付与する為に『鏡陣八芒・第ニ節(ミラーナイン ツースペル)』を放つ。
「アタシと、アタシの仲間達の想いを、止められると思うなよ!!」
「そんな想い、壊してあげるよ!」
 ヴィゴラスが言い放つと共に、グーウィを狙ってツルハシを振り上げる。
「人を導かんとする者は、人より強くあらねばならんのだ」
 苛烈な攻撃を受け止め、ワルゼロムの膝が崩れ落ちる。
「ヴィゴラスさん……グーウィさんから奪ったものを……返して貰います!」
 稲妻を帯びた超高速の突きをアリスが放つ、それはヴィゴラスの動きを一瞬でも止めるだけの威力を秘めていた。
「お菓子もくれぬ者は、そろそろ退場するのだ! グーウィ、任せたのだ!」
 パティがワルゼロムへウィッチオペレーションを展開させながら、グーウィの背中を押す。ジャックも主に倣い属性インストールを注入しながら鳴声を上げる。
「グーウィさん、どうぞ決着を!」
 雫が精神を集中させてヴィゴラスの手元を爆発させると、メルがワルゼロムの回復へ向かう。
「ありがとう……本当に……!」
 グーウィが顔を上げる。その目にはヴィゴラスを倒す道筋が見えているかのようだった。
「残った金も、命も、あっしをここへ来させてくれたこの仲間たちも! これ以上、お前に何ひとつ好きにさせるもんか!!」
 魂の、叫び。それはグラビティに載り、『いくら積んでも変えられない終焉(インエスケーパブルエンド)』をヴィゴラスへと発動させた。そしてそれは、戦いの終結をもたらしたのだった。

●勝利と、撤退と
「盗った物どこにやった、死ぬ前にそれだけ吐け!」
 消えゆくヴィゴラスに、グーウィが叫ぶ。けれど、それに答える声はなかった。
「行きましょう、これ以上の長居は無用です」
「だね、バリアは壊せなかったけど手応えはあったんだから……次が必ずあるよ」
 祥空の言葉にミュラが答える。
「生きているだけで丸儲け、とも申しますし」
 雫が言えば、パティがそのとーりなのだ! と笑った。
「グーウィさん……なくしちゃったものは……いつか、取り戻せると思います。私はそう、信じていますから……」
 アリスの言葉で、グーウィが前を向いた。
「行こう」
 ワルゼロムを背負った宗樹が走り出すと、ケルベロス達が続いて走り出す。
 その胸には、誰にも奪えない想いが輝いていた。

作者:波多蜜花 重傷:ワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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