ミッション破壊作戦~剣の輝き、迅雷の如く

作者:廉内球

 ヘリポートで、アレス・ランディス(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0088)がケルベロス達を待っていた。その手には、全国のミッション発令地区がマークされたバインダー。
「ゴッドサンタへの対応、感謝している。無事にクリスマスを過ごせて何よりだ」
 ゴッドサンタが残した560本のグラディウス。見た目は光る小剣だが、通常の武器にはならない。その使い方についてゴッドサンタは明かさなかったため、検討を要していた。
「これの使い道だが……魔空回廊だ。特定の場所に固定されたものを、これで破壊することができる」
 通常の魔空回廊は時間経過により消滅するが、固定型の魔空回廊はデウスエクス勢力の拠点として機能する。これを破壊することができれば、デウスエクス勢力に打撃を与えることができるだろう。特にミッションが発令されている地域にある『強襲型魔空回廊』を破壊できれば、デウスエクスの地上侵攻に打撃を与えることができる。
 グラディウスの使用にはグラビティ・チェインが必要となり、一度使えば再使用可能になるまでかなり時間がかかるようだ。しかし幸いにも、今回手に入れたグラディウスにはすぐに使用可能なものが多数あった。
「そこで、ミッション発令地域の開放作戦を行うこととなった。お前たちには、グラディウスを用い、ミッション発令地域をデウスエクスから奪還してもらいたい。場所はお前たちが決めてくれ。指定の場所にヘリオンを飛ばそう」
 
 吸収型魔空回廊は、ミッション地域の中枢にあるとされているが、地上から向かったのでは、防衛部隊に阻まれ到達は困難だ。また、途中で倒れてしまえばグラディウスを奪われる危険性もある。
 そこで今回は、高空からの降下作戦が行われる。ヘリオンから飛び降りて、魔空回廊の周辺30mに張られたドーム型のバリアにグラディウスを触れさせる。ケルベロス8人が極限まで高めたグラビティを集中的に強襲型魔空回廊にぶつければ、場合によっては一度、多くとも十回ほどで魔空回廊の破壊を果たせるだろう。
「もちろん、拠点である魔空回廊周辺には護衛の戦力もあるが、グラディウスでの攻撃の際にほぼ無力化できるはずだ」
 グラディウスの攻撃時には激しい稲光と爆炎が生じ、グラディウスを持たぬ者へと襲い掛かる。ケルベロスはこれによって発生するスモークに乗じて離脱、グラディウスを持ち帰ることとなる。
 魔空回廊の防衛部隊の無力化は、残念ながら完全ではない。強敵であるほど立ち直りも早く、戦闘は免れないだろう。
「だが、少なくとも即座に連携を取られることは無い。敵も混乱するはずだ。その隙に素早く目の前の敵を倒して撤退してくれ」
 しかし、時間をかけすぎれば多くの敵と当たらなくてはならなくなる。最悪の場合、降伏するか、死力を尽くして強行突破するか……取れる選択肢は少なく、リスクは跳ね上がる。
 また、作戦の対象とする地域によって現れる敵も異なる。場所選びや作戦の参考にするのもいいだろう。
「デウスエクスによって奪われ、ミッション対象地域となる場所は増えつつあるが……そろそろ、反撃する時だ。行ってこい、そして、無事に帰ってこい」
 アレスはヘリオンを示し、搭乗を促した。


参加者
守屋・一騎(戦場に在る者・e02341)
御門・愛華(魔竜の落とし子・e03827)
村雨・柚月(らぁめんつくるよ・e09239)
グラッシュ・リッバー(大罪人・e10999)
フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)
鍔鳴・奏(弱モフリスト・e25076)
折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)

■リプレイ

●叫び、雷鳴となりて
 ケルベロス達の耳を高高度の強風が叩く。グラディウスを構えてヘリオンの床を蹴れば、そこは蔵王攻性樹林上空。眼下に広がる蔵王連峰、その中にうっそうとした緑の領域が一つ。それこそ、攻性植物の布陣する強襲型魔空回廊であった。
 その魔空回廊を、一つの『目』が見つめながら、上空から雷光の如く落ちる。グラッシュ・リッバー(大罪人・e10999)はこれまでの恨み、そしてこれからの為とありったけの力を込めて叫び、魔空回廊のバリアにグラディウスを突き立てた。
「ぶっ壊れろおおおっ!」
 瞬間、激しく火花が散り、衝撃波がもうもうと土煙を立ち昇らせる。同時に着地したライドキャリバー・アトモスフィアと共に、後続の為に素早く退いた。同時に、周辺の攻性植物がぐったりと伏しているのを確認する。
「恨め! 憎め! 忘れるな! お前達を殺すのは俺達だ!」
 続くはもう一つの目。片目を地獄とした守屋・一騎(戦場に在る者・e02341)は、周囲の攻性植物に聞かせるように大音声を轟かせる。その衝撃で気を失った攻性植物たちに、言葉は届いたかどうか。不運にもバリアの近くにいたデウスエクスは一様に、衝撃によってなぎ倒された。
「ぶっ――すり潰れろおおおっ!」
 バリアどころか地表すら切り裂かんとする折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)の一太刀がドームに触れ、まばゆい閃光を発した。バリアがわずかに揺らいだようにも見えたが、まだ不足。
 続いて降下する御門・愛華(魔竜の落とし子・e03827)も、構えたグラディウスに全霊を込める。
「あなた達が何度攻めてこようと、わたし達ケルベロスがいる限り決して諦めたりしない」
 やっと手に入れた反撃の為の牙。彼女が力を望むのは、全てを取り戻す為。突き立てられた刃は光と衝撃を発し、魔空回廊の姿を土煙の向こうに隠した。
 続くフローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)も、己の思いを風に乗せる。
「これ以上……『こっち』にも……『そっち』にも……無駄に命を……散らせはしない……!」
 ミッション発令地域を、放置するわけにはいかない。そうなれば周辺地域の犠牲は増す。しかし一方で、ケルベロスと衝突すればデウスエクスも死を迎えることとなる。守りたいと願う彼女にとって、緊張状態の継続は本意ではない。
 左手で構えたグラディウスが、バリアに触れる。光と音と衝撃が、広がっていく。
「ヴォォォォオォォオォ――!!!」
 静かながらも熱い叫びを物理的に上書くが如く、ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)の慟哭――グロウルボイスが炸裂した。彼はデスメタルのヴォーカリスト、叫ぶことには慣れている。グラディウスの咆哮とバリアの悲鳴も重なり、蔵王連峰にすさまじい音の衝撃波が叩きつけられた。
「魂に呼応しろ、グラディウス! 枯れ果て、吹き飛べ!」
 二人目の音楽家、鍔鳴・奏(弱モフリスト・e25076)は肩にボクスドラゴンのモラを乗せたまま、グラディウスを振りかぶり、叩きつけた。彼の胸中には『グラディウス』の名を冠する曲が流れ、楽曲の盛り上がりの最高潮に合わせて衝撃波が起きた。
 そして、最終波。
「これ以上お前らの好きにさせてたまるかよ! この星は俺たちのものだ!」
 村雨・柚月(らぁめんつくるよ・e09239)は、攻性植物の犠牲になった人々に思いを馳せる。被害は日本中に溢れ、攻性植物に寄生され命を落とした一般人も多数いる。
 許せない。
 最後の土煙が上がった。風の気まぐれで垣間見えた魔空回廊のあるべき場所は……しかし、バリアに包まれたまま。強力な攻性植物が巣食う蔵王攻性樹林の魔空回廊を一度で破ることは、叶わなかった。
「ま、一回じゃ上手くいかないわなぁ。撤退しよう」
 奏が軽い調子で言う。
「グラディウスを……」
「俺が半分引き受けよう」
 着地からの体勢を立て直したグラッシュとフローライトが、他のメンバーからグラディウスを回収し、アイテムポケットに収納する。と同時に、ケルベロスたちは走り出す。この場から離脱する為に。

●巨大なるヒドラプラント
 土煙にまぎれて逃走を図るケルベロスに、追いすがる影がひとつ。
 合成植獣ヒドラプラント。つぼみ状の頭部は不吉を感じさせる紫。いや、それよりも。
(「でかい……」)
 一騎は無意識に牙をむく。大きさがそのまま強者の証とでも言うのだろうか、ひときわ大きな攻性植物がいち早く体勢を立て直していた。
「倒さないと、逃がしてもらえないようですね」
 愛華はバトルガントレット・断華刃の刃を展開、すぐさまヒドラプラントに踊りかかる。研ぎ澄まされた達人の一撃は、ヒドラプラントの蔦に真一文字の傷跡を残した。
「ダーツの次は、年始早々草刈か。こういうのは年末のうちにやっておくものだがな」
 ウルトレスが奏でるはSilent Night Fever(サイレント・ナイト・フィーバー)。深夜の市街地なら多少遠慮こそすれ、敵地の真ん中であれば存分に爆音を響かせられる。音の圧力が、ケルベロスの底力を呼び覚ましていく。
「本来なら、スキーや温泉のために来るんだけどな!」
 デウスエクスに占拠された状況ではそれも叶わず、柚月は日本刀を抜き払った。日本刀が煙幕の中にあって白く輝き、刃の軌跡が三日月を描く。裂かれた蔓とは別の蔓が柚月の腕を食い破らんと襲い掛かるが、その前に割り込む影。
「させないっすよ!」
 一騎は片腕を差し出してヒドラプラントの噛みつきを防ぐと、自らの攻性植物に蔓の一本を襲わせる。捕食形態で一騎に噛みつく蔓を嚙み返すと、ヒドラプラントはたまらずその牙を放した。
「星の光の力で……護るよ……」
 フローライトの剣から放たれた星辰の力が、ケルベロス達を守る。傷跡は癒えてより浅く、攻性植物の毒に対する加護の力を付与していく。
「ハーモニーだ!」
 フローライトが天の力を用いるならばと、奏は地にケルベロスチェインを這わせる。鎖は守護の魔法円を描き、物理的な守りを盤石にした。さらにボクスドラゴンのモラが一騎を回復し、被害を最小限に抑えていく。
「グラディウスは渡さない……どいて!」
 茜の強烈な蹴りが、蔦とも根ともつかぬ攻性植物の足元を薙ぎ払う。だらりと力なく垂れ下がった幾本かの蔦を残った蔦で邪魔そうにどかしながら、移動しようとするヒドラプラントをグラッシュのチェーンソーが襲った。
「受けてみろ……」
 狙いすまし、仮面に描かれた一つ目で凝視しながら、チェーンソーの唸り声とともにヒドラプラントを刈り取っていく。守りが薄くなった箇所に、さらにライドキャリバーが突撃。
 生じた隙にケルベロス達はさらに距離を取ろうとするが、ヒドラプラントはまだ追撃を諦めないようだった。他の攻性植物は、幸いまだ倒れたまま。

●迫る刻限
 敵の攻撃の性質は事前に予測されていた。より脅威となる攻撃に対して適切な防具を選択してきたケルベロス達は、その被害を想定よりもかなり少なく抑えていた。結果として攻撃に手を多く割くことができたケルベロス達に、さしものヒドラプラントも劣勢に追い込まれている。
 とはいえ、敵も攻性植物のミッション発令地域では最も強力な相手。サーヴァントは消滅し、起き上がろうとしているのか、うごめく攻性植物の個体も散見された。
 時間はない。
 風に乗って毒の粉がケルベロス達に届く。風は途中から指向性を持ち、後衛を担うケルベロスへと向かっていく。
「させない!」
 グラッシュとフローライトの前に立つ茜は、粉の届く寸前大きく息を吸った。叫びは毒をいくらか跳ね返す。並び立つ一騎も袖口で口を抑えながら、その目に灯る地獄の炎を燃え盛らせた。その手から、黒い波紋が生じる。
「まだ、戦える」
 暗示のように低く、唸るような声音。茜ともども味方を守り続け、満身創痍の二人の体力は、すでに限界を超えている。
「大丈夫……?」
 魔術的な治療を施しながら、フローライトが二人に問えば、はっきりとした頷きが返る。
「そろそろ決着をつけなくては……」
 グラッシュは気を練り上げる。集まり依られ集めたエネルギーが光を放ち、ずたぼろになったデウスエクスの蔦をかき分けその急所を目指し、直撃した。
「急いでいるんだ、本気でいくよ!」
 奏の口ずさむ歌が止む。代わり、鋭い突きがヒドラプラントの蔓を抉った。存分に怯ませたと悟った奏は笑むが、戦況が予断を許さないということもまた、彼には分っていた。
「これ以上時間をかけては、囲まれます」
 告げるウルトレスもまた、この一分間で決着をつけるつもりでいた。いや、そうせねばならないことを理解していた。ナイフを構え、ヒドラプラントの蔦を切り刻む。決め手の攻撃を通すために。
「決着をつけましょう。穿て、ヒルコ!」
 愛華はガントレットによる拘束を解除。禍々しい獄竜の力を解き放つと、その左目が紅く染まる。左腕はかぎ爪を持つ異形に変じ、振りかざし叩きつけただけで蔦はたやすく千切れ落ちた。
「これで終わりだ! 天より落ちよ星の閃き! 顕現せよ! シューティングスター!」
 柚月の手元で光が爆ぜた。生まれた星型のエネルギー弾をヒドラプラントに叩きつける。星の輝きの海に、ヒドラプラントが沈んでいく。
 そしてその光が収まったとき、合成植獣ヒドラプラントは頭部の花を散らし、枯れ果てていた。
「倒した……?」
 半ば呆然と、愛華が口にする。
「急ぎましょう。動き出した敵もいるようです」
 ウルトレスに促され、ケルベロス達は走り出す。

●帰路へ
 ケルベロス達は蔵王構成樹林を突破する。周辺の攻性植物は徐々に減り、目に付く敵影も、ミッションを受けたケルベロス達に倒されたと思しき個体ばかりになっている。走りながら振り返るが、追撃は、無し。
 念のためと駆け抜けながら、フローライトは安堵する。グラディウスは守り切った。誰一人、欠けることも無かった。
 愛華のペインキラーによって傷の痛みは誤魔化されているが、防御を担った茜と一騎の体力は限界に近い。開けた場所に出ると、膝が笑った。
「っは、ケルベロスも大変だ……でも寒さは吹き飛んだ」
 遠く山々が被る雪を見て、柚月は誰に言うでもなく呟いた。
「まずは、帰還して休息を取りましょう」
 ウルトレスの言葉に奏が頷いた。蔵王は温泉も有名で、レジャーにはうってつけだ。しかし、この場所が攻性植物の脅威から解放されるのは今日ではなかった。次こそは。
 グラッシュは空を見上げる。寒くもすがすがしく晴れ渡る青い空を。
 もうすぐ、ヘリオンの迎えが来る。

作者:廉内球 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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