ミッション破壊作戦~夢幻の傷跡

作者:長野聖夜

●グラディウス解析完了
「クリスマスでのゴッドサンタの撃破、皆さんお疲れ様でした」
 ヘリポートに立つセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が優しく微笑み集まったケルベロス達に小さく頷く。
「ゴッドサンタ撃破の成果として、皆さんが手に入れましたグラディウスですが、使用方法が判明しました」
 セリカの言葉に、それぞれの表情を浮かべるケルベロスたち。
「グラディウスは、長さ70cm程の光る小剣型の兵器で、通常の武器としては使用できません。ですが、その代わりに魔空回廊を攻撃して破壊することが出来るようです」
 通常の魔空回廊は時間が経てば消滅するのは、ケルベロスたちもよく知るところだろう。
 そこにわざわざグラディウスを使用する必要はない。
 ――だが……。
「固定型の魔空回廊でしたら、グラディウスでの破壊が非常に有効となります。特に、現在日本各地の『ミッション』の拠点となっております、強襲型魔空回廊の破壊が可能になったことは大きいです」
 この作戦が成功すれば、デウスエクスの地上進行に大きな楔を打ち込める。
「一度使えば、グラビティ・チェインを吸収して再び使用できるようになるまで、かなりの時間がかかるでしょう。ですが、今回手に入れたグラディウスには、直ぐに使用可能なものが多数ありました」
 その為……グラディウスを使用して一気にミッション地域を解放するミッション破壊作戦を行える。
「皆さんには、グラディウスの力を利用し、ミッション地域をデウスエクスの手から取り戻して欲しいのです。どの場所のミッションを攻撃するかは皆さんの決断に従いますので、これからする説明をよく聞いて決断してください」
 セリカの言葉に、ケルベロスたちが其々に返事を返した。

●使用方法
「まず、今回は各地域へのヘリオンを利用した高空からの降下作戦となります。……というのも、強襲型魔空回廊があるのはミッション地域の中枢になりますので、通常の方法で辿り着くのは難しいからです」
 尚、強襲型魔空回廊は周囲を半径30m程のドーム型のバリアで覆われている。
 しかし、このバリアにグラディウスを触れさせさえすれば、高空からの降下であっても十分な攻撃が可能となる。
「そこで皆さんには、8人一組のチームとなって頂き、グラディウスを極限まで高めた状態でグラディウスを使用、強襲型魔空回廊に攻撃して頂きたいのです」
 この攻撃は非常に効果的で、場合によっては一撃で強襲型魔空回廊を破壊することも可能なようだ。
「最も、一回の降下作戦で破壊できずとも、ダメージは蓄積します。最大で10回程度の降下作戦を行えば、強襲型魔空回廊を確実に破壊することが出来るでしょう」
 逆に言えば、一回で落とすためには、80人分の思いをこめてグラディウスをする必要があるといえるかも知れない。
「尚、強襲型魔空回廊の周囲には、強力な護衛戦力が存在します。ですが、高高度からの攻撃を防ぐことは出来ません。更にグラディウスは、攻撃時に雷光と爆炎を発生させます」
 これは、グラディウスを所持する者以外に無差別に襲い掛かる。
 それは、強襲型魔空回廊の強力な護衛も例外ではない。
「ですので、皆さんにはこの攻撃によって発生するスモークを利用して、その場から撤退して欲しいのです。この作戦は、ただ強襲型魔空回廊を破壊するだけではなく、貴重な武器であるグラディウスを持ち帰ることも重要ですから」
 セリカの言葉に、ケルベロス達が其々の表情で返事を返した。

●敵戦力
「魔空回廊の護衛部隊は、グラディウスの攻撃の余波である程度無力化できますが、完全には出来ません」
 その為、どうしてもその場にいる強敵との戦闘を避けることは出来ない。
「ただ、幸いなことに、グラディウスの攻撃によって敵は混乱しています。その混乱の中で連携を取って皆さんに攻撃してくることはありません。ですので、素早く目の前の強敵を倒して撤退する作戦が非常に有効です」
 逆にもし時間が掛かりすぎれば脱出する前に敵が態勢を整えてしまい、自分たちが降伏するか、或いは暴走して撤退するしか方法がなくなってしまうだろう。
「攻撃するミッション地域ごとに、現れる敵の特色があると思うので、攻撃する場所を選ぶときの参考にすると良いと思います」
 セリカの言葉に、ケルベロス達が其々の表情を浮かべて返事を返した。
「降下攻撃の時は皆さんの強い想いと気迫が、その後の戦いではいかに迅速に強敵を撃退し、撤退するかが重要になります。……特に強敵であればあるほど、動揺からの立ち直りも早いでしょう。どうか皆さん、死力を尽くしてデウスエクスの前線基地に大打撃を与えて来てください。……お気をつけて」
 セリカの祈りの籠められた呟きに其々に決意を秘めたケルベロス達が、ヘリオンに乗り込んだ。


参加者
椏古鵺・笙月(黄昏ト蒼ノ銀晶麗龍・e00768)
天崎・祇音(霹靂神な稲妻・e00948)
朔望・月(欠けた月・e03199)
フェル・オオヤマ(焔纏う剣と盾・e06499)
一色・紅染(脆弱なる致死の礫塊・e12835)
雨咲・時雨(過去を追い求め・e21688)
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)

■リプレイ


「ようやく……やっと戦える……この機会を逃すわけにはいかぬ」
「祇音」
 降下作戦直前のヘリオン内部で決戦の為の戦装束である武者鎧に身を包んだ少女、天崎・祇音(霹靂神な稲妻・e00948)の、ギュ、と不変結晶を握りしめるその手に、一色・紅染(脆弱なる致死の礫塊・e12835)が気遣う様に自らの手を重ね合わせる。
 小さく頷く祇音達を見ながら椏古鵺・笙月(黄昏ト蒼ノ銀晶麗龍・e00768)がほぅ、と息を一つ。
(「友人の天崎の手伝いをするために参加したざんしが……中々骨の折れる依頼の様ざんしな」)
 だからと言って手を抜く理由は全くないざんしがね。
 そう思い作戦用のグラビティを練り上げる笙月に頷きながら雨咲・時雨(過去を追い求め・e21688)は、脳裏に大切な女(ヒト)との安らぎの未来を思い描いていた。
(「……この戦いはそんな未来の平穏のため……リィーアちゃん……僕は君との幸せな未来のために、この戦いに勝つ。君がいるから、僕は、負ける気がしない……必ず破壊してみせるのです」)
(「2017年を迎えて最初のお仕事だね……! この場所を取り戻す……!」)
 お守りを力強く握りしめながら、自らの誓いを込めて意気込むフェル・オオヤマ(焔纏う剣と盾・e06499)。
「グラディウスか……この様な武器もあったのだな。威力を最大限に引き出したい所だが、私にできるのだろうか?」
「大丈夫ですよ、クリスティさん」
 クリスティ・ローエンシュタイン(行雲流水・e05091)の独り言に、励ますように声を掛けたのは、鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)。
 奏過の呟きに軽く頷くクリスティ。
「……それもそうだな。今私が私の為すべきことをすればいいだけか」
(「攻性植物との戦いの時に救えなかった老人や、その戦いの後救えたもの……オオヤマ達と共に戦った時に出会った少女達のことを思って、か」)
 クリスティたちの話を耳にしながら、朔望・月(欠けた月・e03199)が、隣に佇む櫻へとそっと視線を巡らせる。
「櫻、一緒に、戦ってくれますか?」
 前髪に隠れて見えることのない櫻と視線を合わせると、その先で櫻がそっと微笑み頷いてくれるその姿が、今は記憶の奥底にある背しか思い出せない『大切な人』と少しだけ重なり、勇気を得て頷き返した。
 そして、その時が訪れる。
「こういう……大規模な作戦に参加するのは、初めてなので少し緊張します……」
 降下というタイミングの直前に、月がそっと深呼吸。
「きっと、上手く行きますよ」
 奏過が励ますようにそう囁きかけ、月が再度首肯する。
「自ら志願させてもらった身です、から。逃げるわけにはいきません」
「皆さん、行きましょう!」
 フェルの呼びかけに時雨達ケルベロスが、一斉に降下を開始した。


 降下により体全体を覆う風。
 紅染達が風に流されて目標地点から外れぬよう、笙月が翼を広げて風を受け流しつつ、滑空しながら周囲を見る。
「皆さん、目標はあれです!」
「どうやらそのようだな」
 竜の翼を広げ滑空の態勢を取っていたフェル、白き翼を広げ川の水の流れのように風を受け止め滑空するクリスティが、祇音達を誘導するように告げる。
 まるで雪景色に溶け込むかのように薄っすらと白い膜の様なものに覆われたている回廊。
 それこそ……今回の目標。
「あれが……」
 息を呑む月を目の端に捉えつつ、祇音の全身を震えが走る。
 ――絶対に、人々の、地球のすべての変化を奪わせはしない。
 確固たる彼女の決意に応じるように、短剣が雷を纏い始めた。
「アエテルヌス……」
 自らの不変という名の欠落を埋める為に変化を奪う宿敵たる少女。
 彼女が真に求めしもの、それは『変化』。
 であるならば……。
「望みどおりに変化をくれてやる……! 回廊を砕け……グラディウス!」
 祇音の叫びと共に短剣で結界を抜け。
 凄まじいまでの爆炎と雷光が迸った。
「うぉぉぉぉ! 力を貸して! グラディウス!」
 フェルが負けるものかとばかりに気迫を込めて自らの短剣へと呼びかける。
 呼びかけに応じて、フェルの短剣が白銀色の光を纏った。
「絶対に……打ち砕いてやる!」
 フェルの短剣が光り輝き、雷光と爆炎によって大地を蹂躙する。  
 その間に、静かに目を瞑り滑空しながら瞑想を行うことでグラビティを練り上げていたクリスティがその瞼を開いた。
「破砕の鉄槌を受けるがいい」
 今までの出来事を振り返りながら。
 クリスティが放った短剣がバリアを突き抜け、魔空回廊を爆発が覆う。
 祇音達の攻撃により結界が揺らぎ、回廊全体を覆っている激しい爆発と雷光、そしてこの回廊から送り出される敵を思いながら、月は小さく頭を振る。
 ――変化は、確かに必要かも知れません。
 変わることを知らなければ、それは何も知らないのと同じこと。
 そもそも『変わりたい』という思いは誰もが何処かで持っているもの。
 それをアエテルヌスが求めることを一概に悪だと言い切れるのだろうか。
(「けれど……」)
「貴女の望む『変化』を認めるわけにはいきません」
 自分は共にこの作戦に参加した者たちの中では未熟だろう。
「ですが……この場へ向かった代表として、託された身でもあります」
 ――故に。自身の弱さに甘えるつもりなんてない。
「出来る限りの力で、想いで……僕はこの世界を、人々を守って見せます!」
 叫びと共に月の放つグラディウスから白き雷光が飛散して魔空回廊を切り刻んでいく。
「ふむ。そうでありんしな」
 月の奏でた『魂の叫び』を感じながら、笙月は思う。
(「私は誰かを守る的なことはしないざんしが」)
 けれども、『ケルベロス』という立場上、ほっといても『守る』ということはついて回る。
(「まあ、ケースバイケースってやつざんしな」)
 それは、今回の『攻める』ことに関しても同じこと。
「では、張り切って派手にぶちかましてやるざんしヨ♪」
 ニコリと唇に微笑みをたたえながら。
 以前に再会した宿敵の不甲斐なさを思い浮かべていく。
 その時の腹立たしさが『憤怒』の感情へと姿を変え。
 その怒りが目の前に広がる光景に向けて爆ぜた。
「なぁ―――にっ! 勝手にっ! 侵略されているざんしかね!! こんのぉ―――馬鹿者が!!!」
 溶岩の様に溢れ出るその想いを叩きつけ。
「貴様も、吹き飛べ!! はぁああああっ!!!」
 笙月から放たれた短剣から爆光が飛び散り。
 辺り一帯を憤怒の赤へと染め上げていく。
「消えてもらいましょう……この地からっ!!」
 笙月に合わせて奏過が自らの想いを籠め短剣を放つ。
 これは、反撃の狼煙。
 彼らによって奪われたのは、土地だけではなく。
 傷を負ったのは時雨の様な仲間達だけでもない。
 ――失われたものは戻らないけれど。
 奪われたものであれば、取り返せる可能性はある。
 ――だ か ら。
「この世界に住む人々の為に……奪われたものを取り戻すっ!」
 奏過の叫びと共に、短剣を突き込むと同時に放たれる『力』。
 高められたグラビティが、魔空回廊を襲う。
 ――この地は。
「……ううん」
 紅染が想いを籠めて静かに首を横に振る。
 ――この星の全ては、僕たちが生きてきた証。
「そして……」
 祇音達と一緒に、これからも生きていく、大切な世界。
 決して、『不変』に渡していいものじゃ、ない。
 決して、諦めていいものじゃ、ない。
(「だから……!」)
「無常迅速……けれど、それでも精一杯生きるために……! 奪われたなら、取り戻す……!」
 紅染の想いと共に短剣から炸裂する光が、回廊を覆った。
 紅染達の言う全ての人々。
 その中に含まれる、時雨自身と、自分が愛する人。
「……僕はリィーアちゃんの事を、心の底から愛している! だから!」
 勝って見せる! 破壊して見せる!
 最愛の人への想いを依代にして、時雨の短剣から力が迸る。
 迸った雷光が魔空回廊と周囲の全てを容赦なく巻き込んだ。
(「この作戦は、これまでの『守り』を変える作戦。これからは、攻めに転じて、人々を地球を『守る』……!」)
 だから、ここで歩みを止められない。
 その想いを籠め、祇音が祈り。
「……やりましたか……?!」
 フェルが思わず息を呑みながら問い掛けるように呟いている。
 ――8人の魂の形は、グラディウスに確かな力を宿したが。
「……ダメか……」
 クリスティが悔しげな表情を浮かべて息をつく。
 依然として、回廊はその場に存在していた。
 だが、確実にダメージは与えた筈だ。
「あこやん、紅染。皆のもの。急ぎ逃げるぞ」
 雷光と爆炎の中、混乱する回廊の周囲で祇音が声を掛ける。
 ――だが。
「……ニガサナイ」
 モザイクのかかった水晶に取り込まれ、その身を包帯に包んだ少女が、水色の長髪をなびかせながら、彼女達の前に立ち塞がった。


「い、行くよ……!」
 フェルによって周囲にばら撒かれた紙兵の群れに守られながら紅染が空中に飛び出し、アエテルヌスへと星の力を帯びた蹴りを叩きつける。
 紅染の一撃にアエテルヌスが僅かに傾ぐ間に、クリスティが掌から竜を象った炎を放つ。
 短い詠唱と共に放たれたそれが少女の結晶を焼き、続けて時雨が氷河期の精霊を召喚、氷のブレスを吹き付けている。
 吹き付けられたその一撃にその身を凍えさせながらも、少女はカッ、と目を輝かせ。
 その身を覆う結晶が眩い光を放つとともに、笙月達に襲い掛かった。
「やらせないよ」
 月が爆霊手から紙の兵士たちを散布して迫りくる氷から笙月と祇音を庇った時雨とレイジを守ろうとしていた。
 それを邪魔しようとする少女に心霊現象で攻撃を加え妨害する櫻。
「天崎、行くでありんすよ」
「行くぞ、アエテルヌス……!」
 時雨の影から飛び出しながらドラゴニックハンマーを大振りした笙月が生命の進化を奪う氷を帯びた一撃を叩きつけると同時に、属性インストールで自らを回復するレイジの影から飛び出した祇音が黒い刀身を持つ刀、建御雷神に周囲を破壊し続ける雷光を吸収させ、雷の刃へと変化させ、下段から振り上げる。
 笙月の一打を辛うじて受け止めるアエテルヌスの体を雷光の如き速さの刃が一閃。
 裁きの雷による一撃に僅かに喘ぐ少女の懐に奏過が飛び込み『飛走』に、星々の力を纏わせ蹴りを放つ。
 顎を蹴り抜かれたアエテルヌスの周囲を凍てつかせるべくクリスティが時空凍結弾。
 周囲の『時』を凍てつかせるそれにその身を射抜かれながら、少女は髪を逆立たせた。
「コトワリヲカエルコトナド……!」
 呟きながら、かっ、と光を放ち、祇音達を『不変』という名の石棺に押し込めようとする。
「くっ……」
「祇音!」
 紅染が呼び掛けながら、氷によって作り上げられた槍を持つ騎兵を召喚し、その肩を貫いて石棺の完成を防ぐ間に、負けるわけにはいかぬと祇音が建御雷神を翻し上段から袈裟懸けに振るって、毒による傷を拡大していく。
 だが、その身はぼろぼろだ。
 ……その時。
 ――わたしは歌う。
 記憶の奥底に眠る言葉の『かけら』達。
『あの人』の背と共に繋がり、重なり合ってくるそれらを口ずさみながら。
 それは……『月』の祈り。
 由来が分からずとも、自らの懐旧と、前に向かって進むと決めた『変化』を受け入れるための、『うた』。
『うた』が祇音の傷を癒し石棺を破壊していく。
 櫻が周囲に散らばる石片をアエテルヌスに叩きつけ、牽制する間に。
 笙月がヌンチャク型に変化させた如意棒で不変の石棺となる光を捌きながらその身を叩き、レイジが雷を帯びたブレスを吐きかけた。
「この場を……切り開く!」
 連続攻撃に動きを止めた少女に、フェルが詠唱を完成させると同時に、空に向けて天へとその手を掲げる。
 同時に周囲に吹雪が舞い……地面から無数の氷が生み出され、氷の針となってアエテルヌスの全身を貫いた。
 度重なるバッドステータスの蓄積に、その体を癒そうとする彼女だったが……。 
「治すのは得意なんです私……だから……その逆もよく知ってます……」
 その時には奏過が接近して殺神ウイルスを放ち、罅割れた結晶の中に放り込んでいた。
 放り込まれたカプセルが結晶内で爆発し、傷を癒そうとしていた少女の行動を阻害。
「続けます」
 相殺によって回復を無効にした奏過が星を帯びた回し蹴りを放ち、時雨が雷刃突でその身を貫く。
 本来であれば見切れる筈のその突きだったが、突如として彼女の足元に生まれ落ちた澄んだ水による水溜りが手足の様に動き、その足を掴み取っていた。
「絡め手は、これでも得意な方でな。……オオヤマ」
「クリスティさん! 任せてください!」
 クリスティの合図に雄たけびを上げて答えたフェルが走り、チェーンソー剣を横薙ぎに振るう。
 ギザギザに光り輝く刃が容赦なく少女の両足を斬り裂き、足の腱を斬り裂いた。
 氷と足止めの重ね掛けにより動きの鈍った彼女に向けて、紅染が自らの身に邪神を降ろす。
『荏苒、兇行』
 呟きと共に、全てを凍結させるとされる光線が水晶ごと少女を射抜き、少女がぐらりとよろめいた。
「降り注げ!!」
 笙月がその隙を見逃さず、砂鉄と化したかつて銘刀と呼ばれた刃のなれの果てに螺旋の力を籠め、黒水晶の翼の形を象らせ。
 その翼を無数の鋭利な羽根となって飛散させまるで驟雨の如く上空から少女へと降り注いでその全身を斬り裂いていく。
「我が力、我が雷……その身に受けて塵へと帰るがいい……霹靂神『疾風迅雷』!!」
 此処が押し時と判断した祇音が天空より雷を落としてその雷を纏い、全身から雷光を迸らせながら跳躍。
 その後、雷の如き神速で飛び蹴りを叩きつけ、その水晶を砕き、少女の身を撃ち抜く。
 レイジがそれに合わせるように体当たりを敢行し、時雨の影がまるで影法師の姿を象り、勝手に走り出して、体当たり。
 影による強烈な一撃にアエテルヌスと時雨本人が驚くのを尻目に櫻が心霊現象で少女を締め上げ、相殺により余裕の生まれた月が、殺神ウイルスを注入する。
 奏過がドラゴニックハンマーを振り被り、その身を凍てつかせる攻撃を放つ。
 それから数分後。
 アエテルヌスが地に倒れ伏すと同時に紅染達ケルベロスはその場から撤退した。


「破壊こそできませんでしたが……ダメージを与えることには成功しましたね」
 奏過が戦いの中で育まれた熱を冷ますため、持参の酒を一口。
「皆、無事で良かったです! グラディウスも持ち帰れましたし」
 折角なので、とご相伴にあずかりながらフェルが呟き、クリスティがそれに頷き追手が来ていないことを確認する。
「……次は、必ず」
「そうでありんしな」
 祇音の悔し気な呟きに笙月がそっと頷いた。

作者:長野聖夜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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