ミッション破壊作戦~強襲戦線

作者:白石小梅

●ミッション破壊作戦
「クリスマスに現れたゴッドサンタの撃破、お疲れ様でした。愉快なサンドバッグでしたね。さて、奴が格納していた小剣型兵器の用途が判明いたしましたので、ご報告いたします」
 そう言って、望月・小夜(キャリア系のヘリオライダー・en0133)は資料を配る。
 描かれているのは、発光する小剣兵器『グラディウス』。
「通常武装としては使用不可能な代物です。その能力は『魔空回廊を攻撃して破壊する』というものでした」
 面々は首を捻る。魔空回廊は放っておいても消えるのに、破壊する意味がどこにあるのか?
「城ヶ島を思い出してください。グラディウスが効果を発揮するのは固定型の魔空回廊です。特に、現在日本各地でミッション上の拠点となっている『強襲型魔空回廊』を破壊することが出来るのです。すなわち、デウスエクスの地上侵攻の前線基地をね」
 にやりと笑んだ小夜は、解説を続ける。
 グラディウスは一度使用すると、次の使用までにかなりの期間グラビティ・チェインを吸収させねばならないという。
「ですが今回入手したグラディウスにはすぐに使用可能なものが数多くありました。この度それを使用し、一気にミッション地域を開放する『ミッション破壊作戦』を発令いたします。該当地域の強襲型魔空回廊を破壊し、地域を開放することが今回の任務となります。説明を良く聞いて、出撃先を選択してください」
 
●小剣兵器『グラディウス』
「強襲型魔空回廊が存在するのは、ミッション地域の中枢です。護衛兵力も存在し、徒歩で行くのは不可能。場合によっては貴重なグラディウスを敵に奪われる危険もあります。故に、ヘリオンを利用した高高度降下作戦を行います」
 強襲型魔空回廊の周囲は半径30メートルのドーム状バリアで覆われており、このバリアにグラディウスを用いて攻撃すればよいという。その為、上空からの降下で攻撃が可能だ。
 重要なのは、攻撃方法だ。
「八人のケルベロスがグラビティを極限まで高めた状態で、グラディウスによる攻撃を集中すれば、一発で回廊を破壊することも可能かもしれません。もちろん、一度の降下作戦で破壊出来なくても、ダメージは蓄積します。最大でも十回も爆撃してやれば、確実に破壊できるでしょう」
 回廊の周囲には強力な護衛戦力がいるが、高高度からの爆撃を防ぐ術など存在しない。
 更に、グラディウスは攻撃時に激しい雷光と爆炎を発生させる。これはグラディウス所持者以外を無差別に襲う性質を持つため、敵の護衛部隊は攻撃を防ぐどころか大混乱に陥るという。
「皆さんは、攻撃によって発生するスモークを利用し、撤退してください。グラディウスは再利用可能な兵器です。持ち帰るまでが任務ですよ」
 
●地域選択と護衛戦力
 回廊の護衛部隊はグラディウスによる爆撃の余波である程度は無力化できるが、完全に制圧できるわけではない。強大な敵であるほど、混乱からの復帰は早く、追撃自体は避けられないという。
「ですが敵は混乱しており連携は取れません。復帰してきた強敵を素早く倒し、撤退を完了してください。時を掛けすぎれば敵も態勢を整えます。その場合は、もはや力を暴走させて強引に包囲を噛み破るか、降伏するかしかなくなるでしょう」
 くれぐれも気をつけるようにと、小夜は念を押しつつ。
「攻撃するミッション地域ごとに現れる敵には特色があります。敵情報を分析して、攻撃場所を選ぶ際の参考にすると良いでしょう」

 
 詳細情報は資料に添付してもあるので、良く読んで出撃地域を選ぶようにと、小夜は言う。
「この任務は、敵前線基地の強襲爆撃作戦です。皆さんが無事に帰還を果たすまでが任務。成功を祈っております。それでは、出撃準備をお願い申し上げます」
 小夜はそう言って頭を下げた。


参加者
マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462)
デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)
月隠・三日月(黄昏の猟犬・e03347)
レイ・ジョーカー(魔弾魔狼・e05510)
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
夜殻・睡(氷葬・e14891)
井関・十蔵(羅刹・e22748)

■リプレイ

●新春の朝
 その出撃は、年明けと共に行われた。
 新春の刺すような朝日の中、無数のヘリオンが各地へと飛び立っていく。
 奪われた街へ。隠された拠点へ。
 この星へ穿たれた、傷口へ。

 開いたハッチの向こう。遠く眼下に日本海に面した港湾都市、舞鶴。
 京都府有数の工業と製造業の町にも、侵略者の牙は打ち込まれていた。
 建物の窓は割れ、壁は砕け、鉄骨を無残に晒して、街の一部は廃墟と化した。
 今や行き交う人々のない街路では、無機質なマスクと黒衣の一団が、漆黒のコートを翻す番犬たちと一進一退の攻防を繰り広げている。
 人々はその戦火が拡大しないことを信じながら、震えて暮らす以外になかった。
 そう。
 今までは……。

●天空
 朝日の中、ケルベロスたちが高空を舞う。
 傍らにシャーマンズゴーストの竹光を連れ、井関・十蔵(羅刹・e22748)が、口元を綻ばせながら小剣兵器を眺めて。
(「いやはや……胸が躍るねえ。デウスエクスどものお株を奪う奇襲作戦とはよ。何十年も奴らの小汚えケツを眺めてきたがな……この作戦が成功すりゃあ、さぞかし胸がすくだろうぜ」)
 気が遠くなるほどの奪われた年月を経て、今、己が反攻の尖兵として空を切っている。
「カッカッカッ! 長生きはするもんだなぁっ。奴らの吠え面拝めるたぁ、冥土の土産にしてもお釣りが出らぁ! さあ、行くぜ!」
 捻った小剣が、金色の輝きを放ってその想いに呼応する。
 相棒のライドキャリバー、ファントムと共に降下しながら、レイ・ジョーカー(魔弾魔狼・e05510)が横目にその輝きを見て。
(「想いの強さに呼応する……なるほどな。これがグラディウスか」)
 マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462)もまた、祈るように小剣を胸に抱いた。
(「ずっとこの機を待っていたぞ……! 敵の前線基地を強襲できるまたとないチャンス……必ずこの場で破壊してくれる!」)
 二人が心に浮かべるは、人々の平凡な日常。素朴な幸せ。
 思い出すは、それを突然に奪い去る者どもへの強い怒り。
 艶やかな花の嘲笑が二人の脳裏をよぎり、必滅の決意が燃え上がる。
「さっさと、ぶっ壊れてもらうぜ……魔空回廊!」
「人々を護ることは我が意志であり、信念! 此度は刃となりて、回廊を叩き斬る!」
 白雲の背景に、二つの輝きが灯る。
 強き想い。それは、例え根源を煮立つ怒りに拠るとしても。
 月隠・三日月(黄昏の猟犬・e03347)が抱く憎悪は、語られることなく胸の内に響く。
(「私は……螺旋忍軍が嫌いだ。あの種族自体が大嫌いだ。奴ら全員を地球から完全に放逐するため、まずはこの前線基地を叩き潰す!」)
 隣を舞うリリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)の脳裏には、焔の過去が蘇る。
(「掃除大隊……覚えているかしら? あの時の、エルフの集落を。蹂躙し、略奪し、滅ぼした村々を。アタシが、ケルベロスになってしまった、その理由を!」)
 僅かに目を細めて、二人の乙女は剣を頭上へ。すなわち大地へ向けて掲げる。
「貴様らの企み全て……魔空回廊もろとも、灰塵に帰す……!」
「もう二度と……あんな惨劇を、繰り返したりしないッ!」
 灯った輝きに続くのは、デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)。その激怒は、奔放な生き様の裏返し。
「どれだけ欲を消してきたか。これから消す気か。考えただけで吐き気がするわ! 欲とは、その人の可能性! 私は欲望を愛してる、だから、貴方達はここで潰す!」
 重なり合った金色の直線が指し示すのは、廃墟と化した市街に蠢く、侵略の徒。
(「欲望を消された者の為に……そしてこれからその灯を消されない為に! リリーちゃんの抱く欲望を、ここで叶える為にもね!」)
 片や、未来への祈りを強く念じる者も。
(「テロなんざかましてどれだけの笑顔を奪おうってんだ……ふざけやがってッ!」)
 ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)の煮え滾る想いを、夜殻・睡(氷葬・e14891)の一言が代弁する。
「やだよな……テロなんて許したらまた孤児が増える」
 寂し気な響きの奥にあるのは、冷徹な怒りと未来を築く意志。
(「俺みたいなのはもう、増やさない……」)
 不器用な睡に代わって、ランドルフが吼え猛る。
「守る……! 守ってみせるッ! 絶対に誰にも奪わせねえッ! 『笑顔』という名の命を! 未来をッ! これが俺の意志だ! 誓いだッ! 覚悟だあああッ!」
 金剛の輝きは八重に連なり、舞鶴の街へとまっしぐらに突き進む。
「……我等に慈悲を、彼等に罰を。妖精と耀星の契りに従い、応じ来られよ。外なる螺旋と内なる神歌に導かれ、その威光を以て破壊と焦燥を与えん」
 リリーの唇が歌うように祈りを捧げ始めた時。街の誰かが金色の流星を指差した。
「そして我と我等へ徒成す者に、宇宙と虚空の理の、捌きと裁きの鉄槌を降せ。耀星伝承……異節『羅閃』! この機は、逃さない……!」
 その瞳が開かれた時。街路の番犬たちが防御を叫び、振り返った黒衣の一団は、目を見張るように足を止めた。
「无・塵・罪・雷・穿・瀑……」
 それぞれの想いを胸に、八つの閃光が稲妻の如く空を断つ。
「……断!」
 衝突の瞬間、天は裂けた。
 痺れるような衝撃と共に、視界は白く弾け、音が消える。
 飛び散った雷撃は空気を砕き、土煙と蒸気とが瞬く間に街の一角を呑み込んだ。

●廃墟の街
 ……。
 周囲は灰に濁った白い闇に包まれ、帯電した空気がばちばちと弾ける音を響かせている。数メートル先を見るのがやっとだ。
「やった……の?」
 そう言って咽こんだリリーを、ランドルフが助け起こして、首を振る。
 その視線の先……靄の奥で、巨大なバリアは辛うじて持ちこたえていた。
「いや……まだご健在だ。あの手応えで……大した頑強さだぜ! 大丈夫か、リリー」
「開く者が籠めたグラビティが強いほど、回廊も強力に固着する……か。なるほどな。リーゼンフェルト殿の宿敵は、侮れぬ相手のようだ」
 そう言いながら三日月が、起き上がる十蔵に手を貸して。
「ハッ! でもそう長持ちしそうには見えねえな。初撃としちゃあ十分じゃねえか? 黒マントどもも、十分びっくらこいたろうよ」
 リリーは悔しさに口を結んでいるが、回廊は紫電を迸らせてノイズに揺れている。ダメージを受けているのは確実だった。
「この靄、帯電してるな……それがばちばち弾けて更に蒸気を生む……結構、このスモーク長持ちしそうだ」
 睡が霞に指を近づけると、それはばちりと静電気を放った。
「じゃあ、早いところ撤退と行きましょう。熱く叫ぶのはあんまりキャラじゃないんだけど……たまにはよかったわ♪ さ、こっちよ」
 地図記録を頼りに、デジルが先導して裏路地へと入っていく。
 戦闘音は一時的に散発的なものになっていた。今は敵も味方も、煙幕の中。自身の状況把握が精一杯なのだろう。
「合図を送りたいが……この視界じゃ無意味か。高高度から降下潜入、拠点を爆破して支援なしに脱出……テロ工作はこっちだな」
 レイが少しばかり自嘲気味に笑う。
 その時だった。マルティナが、靄を切り裂く音を捉えたのは。
「……来るぞ! 避けろ!」
 抜き放った一閃が飛び出した鎌を弾く。前方に揺らめいた黒い影は、無線を手にすると、言った。
「敵影、補足……グラディウス所持者と確認……隼隊、応答せよ」
 だが無線機からは激しいノイズが流れるのみ。返答はない。
「この電磁場の中だ。無線など役には立たん……悪いが、突破させてもらうぞ」
 剣を構えるマルティナの横に、リリーが並んで。
「掃除大隊……待ち望んでいたわ。この日、この時の為に鍛えた業……その全てをぶつける機会をねッ!」
 その言葉に、自分たちの襲撃を生き延びたことを感じ取ったのだろう。敵はマスクの向こうで皺の寄った目を細めた。
「全て俺たちの不手際の招いたことか……因果なことだ。ならばここで、全てを清算しよう。スパイラルコマンドー、隼隊隊長、黒の隼がな」
 白煙の立ち籠める中を、隼が跳躍する……。

●黒の隼
 会敵して、数分。
 全てを覆う白い闇の中、この一角だけに激しい戦闘音が響いている。
「会って早々悪いが俺たちゃ時間が無くてな、とっとと倒させてもらうぜ!」
 ランドルフの放つ気咬弾が降り注ぐ中を、アーマーを頼りに黒の隼は強引に押し通る。
「……! デジル、気をつけろ! 隊員どものレベルじゃねえ!」
「ええ。さすがは隊長格ってわけね。でも、我欲を押し殺し他者の欲を消すような奴に、負けるわけにはいかないのよ」
 デジルの肢体に巻き付いたオウガメタルが、超高速の拳を放つ。しかし黒影は殴られつつも受け流すと、足を首に絡めてデジルを押し倒した。
「……っ!」
 その後頭部へ向けて螺旋を収束した拳が落とされる寸前、その体に飛びついたのは、マルティナ。
「させはしない……!」
 純白の軍服と黒衣の装束がもつれ合い、螺旋掌とサイコフォースの爆発が重なり合う。
 だが黒の隼はダメージも顧みず、再び跳躍した。
「くっ……捨て身か!」
 黒影は態勢の整わぬマルティナの首を切らんと圧し掛かる。瞬間、脇腹の付近が爆発して、黒の隼は受け身の態勢のまま吹き飛ばされた。
「やっぱり魔法が有効だな。反応が鈍いから上手く入る。井関は、回復頼む」
 サイコフォースで敵を弾いたのは、睡。彼が黒の隼と激突した後ろでは、竹光が祈りを捧げて十蔵のブレイクルーンが輝いた。
「任せときな! マルティナは俺たちが支えるぜ。畳みかけといてくれや!」
 睡との揉み合いから距離を取った黒の隼に向けて、ファントムが炎を纏って突っ込んでいく。激突したファントムは、しかし雄叫びと共に放たれた螺旋の拳に横腹を貫かれた。
「相棒……! 良くやったぜ! 休んでな!」
 光と消える車体を足場に、跳躍するのはその主人。相棒を砕かれた怒りを込めて、五重の銃弾が雨のように降り注ぐ。
「構ってる暇はねえんだよ……! 全てを撃ち抜けっ…ブリューナクッ!」
 だがその場に残ったのは黒いマントと僅かな血痕のみ。黒の隼は横っ跳びに跳躍して直撃を免れ、突進してきた三日月とリリーの刃と火花を散らした。
「身を捨てて攻め一辺倒か。クラッシャーで味方の援護もないならそれしかないが、生憎だったな。全員で帰らせてもらうぞ!」
 三日月の刃が焔と変わり、激しい連撃が黒の隼を押し込んでいく。
「燃ゆる憎悪……生き延びる意志……仲間との絆、か。なるほど、グラディウスを使いこなせるわけだ」
 黒の隼は攻撃を受け流すが、全てを防げるわけではない。更にそこに、リリーが稲妻突きで突っ込んで。
「分かっているわよ……名と所属を名乗った以上、アンタは生きて帰るつもりなんてない。目的は足止めだってね! でも、させやしないわ!」
「是非も無し……全て、俺の不手際が故」
 だが老いた目は、まだ死んではいない……。

●老隼、墜つ
 黒い鎌が、飛翔する。
「させないと……言ったはずだ!」
 だがその一撃も、マルティナが受け止める。純白の軍服に血がしぶき、遂にたった一人の守護の要も膝をついた。
 だが。
「私に……構うな! 行け……!」
「ああ! 十分な仕事だったぜ! 後は任せな!」
 すぐさまレイの銃弾が、黒の隼の腿を抉った。
 ここに至り、わかったことがある。黒の隼は強い。その攻撃力は、圧倒的だ。
 だが、八人を相手に勝つには、一点、足りないことがある。
「早速仕事して貰うわよ、スターアップル。貴方が潰した希望の分までね」
 敵の背後に現れるのは、片腕を樹木で包んだ魔法少女……今はいない宿敵の影が、茨を放って敵を突き刺す。
 そう。スナイパーが多く配された布陣に足止めを穿たれながら、複数のクラッシャーの攻撃を一人で受け流せるほどの体力が、敵にはなかった。全力の打ち合いの中では、いずれ先に膝を折ることになる。
「ん、そろそろとどめだ」
 睡の螺旋掌を前に、黒の隼は辛うじて跳躍した。だがそれも、完全に避け切るには至らず、足を取られて吹き飛ばされる。
 もはや敵は満身創痍。
「強えな。だがお前さんの強さは、仲間と連携してこそのもんだ。諦めて、コイツで爆ぜな」
 ランドルフの向けた銃口を、老いた瞳がねめつける。
「端から勝ちの目など、拾うつもりは……ない!」
 黒い影は、持てる最後の力で跳躍した。最後の最後に彼が降り立ったのは……倒れていたマルティナの前。
「……!」
 目にも留まらぬ速さで黒の隼が拳を振り下ろすと同時に、ランドルフが放った銃弾が爆発した。
「グラディウスが……!」
 だが、マルティナは無傷のまま。爆風に転がった黒の隼の手には、彼女のグラディウスが握られていた。
「これさえ……奪えば……」
 だがその時、黒の隼はがっくりと膝を折った。足に、ざっくりと短刀が突き立っていた。
「忘れてもらっちゃ困るぜ。傷ついた仲間の傍には、俺がいらぁ。だせぇマスク外して嗅いでみな。乙な香りだぜ」
 回復を竹光に任せて短刀を放ったのは、十蔵。
「お……ぉおお……!」
 それでもなお、敵は雄叫びを上げて小剣を投げ捨てようとする。その手頸が空を飛んだ剣閃に挟み込まれて、千切れ飛んだ。三日月の二刀斬空閃。
「今だ、リーゼンフェルト殿! グラディウスを!」
「任せて!」
 ずり落ちたグラディウスをリリーが抱え込み、黒の隼の顎をスターゲイザーで蹴り上げる。
 今だ。とどめを。憎き仇に。
 だが彼女の手の中には、人類の限りある切り札が握られている。怒りのまま敵に向かおうとする足を引き留め、リリーは叫んだ。
「スモークが晴れるわ! みんなとどめを! 急いで!」
 怨霊の如くグラディウスに縋りついてこようとする黒い隼を、レイの銃弾が弾いた。すぐさま飛び込んで来た睡の刃がその胸倉を地面に刺し留め、デジルのハンマーが黒いマスクを押し潰す。
 黒の隼は、狩りをしくじった老隼が森の闇間に堕ちる如く、散った……。

●反攻の日
「敵影、補足!」
「グラディウス所持者と確認……!」
「隊長が戦死……! 逃すな!」
 スモークが晴れ、黒衣の集団は統率を取り戻して八人に迫る。
 十蔵がマルティナに肩を貸し、レイとランドルフの銃弾が追いすがる黒衣を牽制する。
 烏の群れの如く廃墟から湧いて出た黒衣どもから、無数の鎌が飛来する。脇を固める三日月と睡が、次々に迫り来る黒閃を弾く。
 リリーの胸には、堅く握り締められた小剣。
 ふと、先頭を走るデジルが足を止め、手を振った。
 同時に、廃墟の向こうから無数のケルベロスコートが棚引いて、襲い掛かって来る黒衣の一団と激突する。
 一気に燃え上がった戦場の歓声の中を、八人は走り抜けて行く。

 2017年。人類は遂に道を転じる。
 そう。
 これは迎撃ではない。
 この日、天より降り注いだ想いは、反攻の狼煙を上げたのだった……。

作者:白石小梅 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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