ミッション破壊作戦~回廊裂破 光明

作者:雨屋鳥

「先のゴッドサンタ撃破。被害を出すこともなく迅速な対応ありがとうございました」
 豪語していた攻撃が大風呂敷を広げていたのでないとすれば、被害は甚大なものとなっていた、とダンド・エリオン(オラトリオのヘリオライダー・en0145)は礼を告げた。
「そのゴッドサンタが所持していたグラディウスという兵器」
 撃破によって鹵獲できたそれは、ゴッドサンタの言葉から『戦闘にしようするものではないが、戦略兵器として使用する』ものであると、推測されていた。
「長さは70cm程の小さな剣ですが、この剣にグラビティ・チェインを注ぐと、とある機能を発動させる事ができると判明しました」
 その機能とは、魔空回廊への攻撃。
 魔空回廊はデウスエクスが出現する際に開かれる空間。通常であれば短時間で閉じてしまうのだが、そうでない物も存在する。
「伽藍岳や熊野山竜牙呪林などの侵略地帯に開かれている魔空回廊。常に開かれた状態にあるそれらは侵略地帯の奪還を妨げる最大の要因と言ってもよいでしょう」
 だが、魔空回廊を閉じる手段は無く、侵略地は未だデウスエクスの手中にある状態だった。
「一度発動すれば、かなりの時間使用できなくなるようですが即時使用可能なものが多数あります」
 このグラディウスを用い、固定型の魔空回廊、強襲型魔空回廊を破壊する。
 それが今回の作戦の目標だ。
「強襲型魔空回廊は、当然ではあるのですが敵にとっても重要なものです。その周囲はドーム型のバリアと護衛戦力が存在し、地上からの接近は無謀と断言できます」
 限りある兵器であるグラディウスが奪われる危険もある。
「ですので、ヘリオンを利用した高高度からの降下、そして攻撃即離脱を行います」
 ドーム状のバリアは周囲30mに広がってはいるが、それ自体も魔空回廊の力。バリアにグラディウスを触れさせる事で魔空回廊へとダメージを伝播、蓄積させる事が出来るだろう、との事だ。
「攻撃を防ぐバリアによって標的が大きく攻撃しやすくなっています」
 上空からの攻撃は周囲の護衛戦力に迎撃されることもないだろう。複数組で順次降下したとしても、それは変わらない。
「グラディウスはその機能を発揮する際、雷光と爆炎を発生します」
 武装としては使用できないが、混乱を引き起こす事は十分に期待できる。
 そしてそれは撤退の目くらましとしても活用できる。ダンドは通常なら突破出来るはずも無い防衛戦力の只中から、これを利用して敵の群中から脱出してほしい。と説明を続ける。
「グラディウスに込められるグラビティによって、効果には大きく差が生まれます」
 極限まで性能を引き出したグラディウスを使用すれば一度の降下作戦で魔空回廊を破壊できるとのことだ。多くかかっても10回程で破壊自体は可能でもあると予測されている。
「周囲の戦力は余波によって、ある程度無力化が図れます。それでも完全に無力化することは出来ないでしょう」
 おそらく戦闘自体は避けられない。だが、混乱の最中、連携は十分に行えないだろう。
 撤退の道を阻まれたのであれば、その個体だけを素早く撃破することが最善だ。
「デウスエクスから侵略地を取り戻すチャンスです。今回破壊出来なくとも、いつかの礎になります」
 ダンドは、そう告げた。


参加者
新条・あかり(点灯夫・e04291)
若生・めぐみ(将来は女神・e04506)
ルイン・カオスドロップ(我が身は主の無聊を癒す為に・e05195)
鷹野・慶(業障・e08354)
天野・司(不灯走にゃん燈・e11511)
ハインツ・エクハルト(光鱗の竜闘士・e12606)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
三城・あるま(転がる月・e28799)

■リプレイ


 無音飛行するヘリオンの中で降下口から吹く高空の風に体を撫でられながら、天野・司(不灯走にゃん燈・e11511)は眼下遠くに見える結界を見つめていた。
 神仙沼。北海道に広がる森林地。高山の植物を豊かに抱え、湿原や湖沼が多く広がるそこはかつては多くの人が足を運ぶ有数の観光地であった。
 その面影も今はなく、ただ一つの植生に支配された異形地があるのみ。
「取り戻す」
 と司が言葉を紡ぐ。長い自然の歴史を紡ぎ、多くの人々の思いを湛えるはずの場所。そこにある魔空回廊はその軌跡を辿る事を許さず世界から切り取っている。
 忘却を強いている。
 司が握る剣は、思いに形なき応えを返している。壁を掴んだ司は吸い込まれるような眩みを起こす地上へと飛び出した。
「愚昧なる定命の者共……っすか」
 司の直後飛び出したルイン・カオスドロップ(我が身は主の無聊を癒す為に・e05195)は以前、ここへ来た時に脳内に響いた声を思い返し、嘲笑した。
 たかが宇宙人が、と彼の口からは悪意に満ちた言葉が零れては風切る音に消えていく。
「俺らケルベロスの前じゃお前らも死にゆく存在なのに、いつまで上位者ぶってんすかね」
 結界が、地面が視界に広がっていく。荒ぶ風に抵抗しながら彼は体勢を整えていく。
「そんなら、神に捧ぐ俺の悪意と人間の智慧の下、その下らねぇ余裕ぶち壊してやるっす!」「生きる為に他者を喰らう、それは生命としての正しい在り方でしょう」
 三城・あるま(転がる月・e28799)はデウスエクスへの理解を示しながらも、徹底的に抵抗する意思を込めてグラディウスの機能を発動させる。
 ただ、搾取されるだけではない。生命としての在り方であるならば、それはこちら側にも適応する。
 おとなしく食われてあげる訳もない。と彼女は静かに覚悟を口に出す。
「力の限り、生き足掻きますよ」
 地上からの迎撃はない。ヘリオライダー達の予測に外れはなかった事を微かな安堵を浮かべながら君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)は蠢く異形の植物に視線を向けた。
 あるべくもない植物の姿に彼の脳裏に浮かぶのは、不快感だった。本来あるはずの姿を捻じ曲げ、狂わせている。
 それを驕りと言わずして何と表すのか。
 加速度的にその大きさを増していく視野の中の結界は、もはや一秒とも経たず指の触れる距離にまで迫る。
「――っ!」
 柄を両手で握り、眸は迫る結界の表面へとグラディウスを叩き付けた。
 その瞬間に、ともすれば意識を失うほどの轟音と閃光が走った。八つのグラディウスから放たれた雷撃と爆炎が周囲を包み込んだのだ。


 その直前、若生・めぐみ(将来は女神・e04506)は赤らめた頬を寒気に晒していた。
「でも、彼らの思いは本来、胸に秘めて表に出ないもの。それを表に出させ、あまつさえ、無辜に人たちを巻き込ませ、最後にはめぐみたちケルベロスに倒される」
 今まで出会ったビルシャナ化した人々。その主張はお世辞にも真っ当とは言えないものもあったが、その影で失われた命がある。
「そんな悲劇は、もう沢山です!」
 思いと共に叩き付けたグラディウスの触れた結界が、極彩色の淡い光を波立たせ、歪むのをめぐみは確かに目にした。
「ビルシャナの所為で死んだ人も、絶望した人も、いっぱい見てきた。助けられたのは、ほんの少しだ」
 ハインツ・エクハルト(光鱗の竜闘士・e12606)は声を絞り出す。いつかの思いが喉を絞めて、流れ込む空気を押し返す事をひどく難しく感じさせていた。
 その表情は、常、接している相手が見れば怪訝な顔をするだろう。
「もうあんな思いをしたくもないし、させたくもない……これ以上あいつらをのさばらせる訳にはいかない!」
 濃い敵意を纏わせたグラディウスはその思いを体現するように、周囲へと轟音をまき散らす。
 弾けた雷火が視界を埋める直前にその場を離脱した彼の目には地面を埋める様に這う植物が統率を失ったように蠢くのが見えた。
 城ケ島の金の竜。失った仲間。もう見れない笑顔。護れなかった人たちのことを忘れたことなど一日もない。
 新条・あかり(点灯夫・e04291)は人々への思いを込め振り下ろしたグラディウスが手の中で沈黙していくのを確かに感じていた。
 重くなったようにも、軽くなったようにも感じる変化にあかりは、再使用はすぐには無理だと断じ背を向けた魔空回廊を肩越しに見やる。
「クソが……っ」
 純然たる悪意を吐き出して鷹野・慶(業障・e08354)は、結界を見上げた。
 ビルシャナへと向けた憎悪。自らの人生を狂わせたその元凶へと向けた憎しみと悪意は、強い手ごたえを彼に返していた。
 だが、そびえる結界は未だその形を崩さずにいる。
 怨嗟すら孕んだその一撃ですら、魔空回廊を破壊するに至らなかったのだ。
「……っ」
「退きましょう」
 強く下唇を噛む慶へとあるまが撤退の意思を告げる。苦々しげに結界から目を離した慶は、既に撤退に移っている仲間に合流する。
 周囲ではグラディウスが放った無差別攻撃によって植物たちが騒がしく蠢いている。地面が一つの生命体のようにすら思える光景を横目に彼らは走り出す。
「……森の小道が」
 先導するあるまは、発動させた効果が薄い事に舌噛みする。
 ビルシャナの影響下にある植物。一面を占めたそれらは微かにその道を譲るばかりでケルベロス達を一直線に逃がす事を許しはしなかった。
「……っ」
 それでも地を駆けるケルベロス達の前方に、地中から蛇が這い出るようにのたうつ植物がその先を阻んだ。枯れた様に固く、深き緑に力強さを感じさせるその植物は、その身を膨らませ、群れを折り束ね、重なり、やがて人型をした鷲の異形を作り上げていた。
「愚かしき常命の者共よ」
 老い果て尚強大なる神。オンネウカムイ。
「朽ち落ち、地に解し、命を草木へと燃べよ」
 現界せしその偽体は、言葉と共に絡み合う植物の壁を作り出しケルベロス達の行く先を閉ざしていた。


「命ず」
 魔空回廊へとぶつけても消える事のない憎悪が、その声色からは滲み出ていた。
「眇たるものよ転変し敵手を排せ」
 睨む先にはオンネウカムイ。命ずる先は根に侵食された大地。慶の放った呪文に応じた地面は、幾千幾万もの羽音を響かせ偽体へと襲い掛かった。食害を起こす羽虫へと変化した砂粒があるまのオウガ粒子による補助を受け、ビルシャナの体を貪っていく。
 体を削り取っていく羽虫を薙いだビルシャナへと重力を込めた強蹴が叩き込まれた。
 流星の如き輝きを纏い強襲しためぐみに続いて、眸のビハインド、キリノがビルシャナの背後から斬撃を繰り出していた。
 だが、体を切り飛ばされようと、オンネウカムイは動じない。その翼を広げ慶へと視線を送る。
「根差せ」
 傍観するかのような眼差しに彼は術の制御を失い、羽虫は土くれへと戻っていく。放たれたグラビティチェインを伝い、植物への献身を彼の心に植え付けんとする視線をハインツが遮った。
「余所見してっと危ないぜ!」
 黄金の光を放つライオットシールドを構えたハインツは、自らと仲間を死へと誘導させる視線を正面に受け止めながらも偽体へとオルトロスと共に突貫する。
「――『想』ッ!」
 彼の想いに応え、降魔の術がドリームイーターの力を呼び覚ます。モザイクに象られた巨大な腕は、強さへの願望。彼らの行く手を阻み盾となる植物をオルトロス、チビ助が切り裂いて、肉薄した彼の強大な拳がビルシャナへと轟然と叩き込まれる。
「コア展開」
 衝撃に撤退を防いでいた植物の壁へと吹き飛んだ偽体へと、エメラルドグリーンの光線が追い打ちをかけた。
 眸の胸部から放たれた光は過たずビルシャナの体を焼く。
「その命、ここデ終わらせテやろう」
 攻撃の残滓を胸から発散させながら、眸は指にはめたマインドリングを剣の形状へと変化させて言う。
「続くぜ!」
 ハインツと入れ替わる様に、司が攻撃を受けた直後のビルシャナへと迫る。
 掲げるのは巨大な鎚。
「お前も一つの命だってのに……戦わないと、先には進めない」
 その瞳には悔いを愁いを滲ませるが、迷いだけは浮かばせない。ドラゴニック・パワーの噴射によって猛烈な加速を得たハンマーが身動きの取れぬオンネウカムイの体を地面へと叩き落す。
「……呪文っ」
 翼を折りながらもビルシャナは、攻撃の手を緩めない。その口から紡がれる音は、意味を持ってケルベロス達に降りかかる。
 曖昧に言語として意味を為さず、概念のみを植え付ける様な声は、攻撃の意思を揺るがせんとするが、慶のウィングキャット、ユキの施していた加護によって薄らいでいく。
「前だけ見て進む力を」
 そして、武器を握る事への疑念を払う赤い花吹雪が、彼らを後押しする。
「今を切り拓く力を」
 傍らに羽を持つオウガメタルを浮かばせたあかりのグラビティが仲間を回復させ、鼓舞していく。
「短期決戦だから相手を痛めつけられないのだけが残念っすけど」
 その吹く赤の幕を背後にルインは、オンネウカムイへと攻撃を重ねる。硬い鉱物の砕ける音が響き、鋭利に砕けた水晶を宙へと投げた。
「さあ、時空の狭間を駆けろ」
 実体なき猟犬。ルインがそう呼ぶ何かが音もなく駆け、偽体を貫いて消え失せた。
 体を損傷し、腹部を貫かれても気にした様子もなくオンネウカムイは未だ立ちふさがっていた。
「厄介な相手っすね……」
 ルインは思わずと言ったように零す。
「時間をかける訳にもいきません」
 呟いた彼にあるまが返す。すでに戦闘に突入してから数分がたっている。
 グラディウスによってもたらされた混乱も治まりを見せつつある。
「巡れ」
 だが、偽体オンネウカムイも消耗を見せている。草葉の壁から雨の様に滴る清水を身に浴びるビルシャナの片腕はなく、鋭いまなざしもどこか濁ったように鈍く光っている。
「勝機は十分、皆で帰るんだよ」
「あア、そうダな」
 あかりが、自らを庇いビルシャナの洗脳を受けた眸をヒールしながらも、オンネウカムイを観察し言う。あかりは無作為に響いていた植物たちのざわめきが静まりつつある事に気付きながらも、いざとなれば自らその言葉を覆し殿を務める覚悟をしていた。
「……」
 同様の覚悟を決めた眸は、手にした鉄塊剣を大きく振りかぶり肉薄する。
 地獄の炎を纏わせ、その体を両断せんと振り下ろした刃は僅かにオンネウカムイの体を削りとるのみだった。
「……っ、ダが」
 攻撃から逃れるために左へと跳ねた先には、ライオットシールドに拵えた武具を持ったハインツがいた。
「余所見すんなつったろ!」
 裂帛の叫びと共に振るわれた大盾がビルシャナの体を激しく殴打し、エクスカリバールが飛来しその体を裂く。
「……お前達を犠牲に、俺達は進む」
 投擲を行った司が、目を伏せ言葉を紡ぐ。だがそれはビルシャナへは届かない。
 その呟きは慶の悪意に満ちた言葉にかき消える。
「いい加減に、くたばりやがれ。神仏気取りのクソ鳥ィ!」
 暴言を吐き捨て、召喚した竜の幻影が巨大な火炎となって、オンネウカムイの体を包み込む。
「この身……朽ちようとも――」
 糧と、ならん。
 その言葉を遺し、オンネウカムイの偽体は焼け焦げた植物の塊となって地面へと崩れ落ちた。


「逃ゲ切れタ、よウだな」
 眸が振り返ると告げる。
 地面を這うような植物の群れは遠く、追手がすぐに顕現するという事はもうないだろう。
「助かったね」とあかりが嘆息する。グラディウスによる混乱がうまく作用していたお陰で、戦闘を乗り越えそれ以降的に捕まることもなく逃げおおせたのだ。
 混乱の収拾に、時間がかかったのも僥倖だったと言える。
「でも回廊の破壊はできなかったのです」
「グラディウスは全部無事、ま、上々じゃないっすかね」
 あるまが少し気の抜けた声で言うと、ルインが自分が持ち帰った一振りを揺らして言う。
 各人が持っていたグラディウスは守り通せている。回廊への攻撃も行え、作戦は成功した。
「みんな無事だしな」とハインツが笑みを浮かべる。味方を庇っていた面々の消耗は他と比べ著しいものだが、結局誰一人として戦闘から脱落することもなかった。
 だが、振り返る慶の目には勝利の悦楽は存在していなかった。彼にあるのはビルシャナの侵攻。その拠点を破壊出来なかった事への口惜しさ。
「今回は破壊できませんでしたけど」
 めぐみがその言葉を代弁するように、全員が見つめる先へと述べる。
「けれども、ダメージは入ったはず。いつか、破壊してみせます」
 しばし言葉なく遠くを見つめた彼らの頭上からヘリオンの羽音がゆっくりと降下してきていた。

作者:雨屋鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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