ミッション破壊作戦~逆襲のケルベロス!

作者:ともしびともる

●新たなる力
「あの巨大なゴッドサンタを一捻りとは……皆さんはやっぱりすごいです!」
 ミルティ・フランボワーズ(メイドさんヘリオライダー・en0246)が尊敬の眼差しでケルベロス達を見渡した。
「そのゴッドサンタから入手した『グラディウス』ですが、有効な使用方法が発見されましたよ!」
 『グラディウス』の見た目は長さ70cmほどの『光る小型剣』なのだが、通常の武器として使うことは出来ない。しかし、これにグラビティを込めて使用することで、魔空回廊に対してダメージを与え、破壊することすら出来る兵器になるようだ。
「通常の魔空回廊は時間とともに自然消滅するので、破壊する必要はありませんでしたが……全国各地に固定出現してしまっている、『強襲型魔空回廊』を破壊するにはとても有効なようですよ」
 『強襲型魔空回廊』とはつまり、『ミッション』の拠点となってしまっている固定型の魔空回廊のことだ。これの破壊に成功すれば、現地でのデウスエクスの脅威が格段に薄まる上、その魔空回廊からグラビティ・チェインを回収していたデウスエクス種族へのダメージを与えることも期待できる。
「このグラディウスをさっそく使用して、大規模なミッション破壊作戦を決行しようという訳です! どこのミッションを攻撃するかは皆さんの選択に委ねますので、情報を確認の上、自由に選んでくださいね」
●逆襲の時来たれり!
 『強襲型魔空回廊』の周囲は、半径30mドーム状のバリアで覆われている。攻撃する際はこのバリアにグラディウスを触れさせれば良いのだが、強襲型魔空回廊があるのはミッション地域の中枢部になるため、徒歩での接近は困難と見られる。
 そこで今回は、ヘリオンでこの魔空回廊の上空に接近し、ヘリオンから飛び降りて直接このバリアへと降下、そのままグラディウスによる攻撃を行うことになった。
 グラディウスの攻撃力は、ケルベロスがグラディウスに込めたグラビティをに応じて高まるようだ。
 そしてより強いグラビティを込める鍵は、それを持つ者の意志の力、信念や願い、心の力をどれほど呼び起こせるかにあるらしい。
「効率や計算で襲撃地点を選ぶだけでなく、『私たちはこの場所のミッションを絶対に壊したいんだっ!』というような、魂からの叫びがこもればこもるほど、グラディウスも皆さんに呼応してくれるようですよ!」
 8人のケルベロス全員がグラビティを極限まで高めた状態でグラディウスによる攻撃を仕掛ければ、場合によっては一撃で強襲型魔空回廊を破壊することも可能だ。
 例え一度の攻撃で破壊に至らなくても、攻撃による魔空回廊のダメージは確実に残る。このような攻撃作戦をを多くて10回も行えば、この魔空回廊を確実に破壊できるだろうと見られている。
「強襲型魔空回廊の周囲には当然、強力な護衛戦力が存在していますが、わたし達が行う高高度からの降下攻撃を防げはしないでしょう。さらに、グラディウスは攻撃時に雷光と爆炎を発生させ、グラディウスを所持していないものに爆炎と雷光の無差別攻撃を仕掛ける性能があるのです。高性能なスモークグレネードやスタングレネードといったイメージですね。この性質を利用すれば、護衛戦力の追撃をかいくぐり、その場を離れることが出来そうです」
 しかしそれでも、魔空回廊の護衛の全てを無力化することはさすがにできず、強力な敵との戦闘は免れないだろう。
 混乱に乗じて行動できるこちらの有利があり、敵が連携を取ってくることはないと予測できるので、現れた強敵を素早く撃破して撤退するようにしてほしい。
 撤退に時間がかかりすぎてしまえば、敵が態勢を整えてしまいこちらの脱出は困難になってしまうだろう。そうなれば、敵に降伏するか暴走して撤退するかしか手段がなくなってしまうかもしれない。
「グラディウスは、一度使うとグラビティを蓄え直すまで使用不能になってしまいますが、日時が経てばまた再使用できるようになります。皆さんの命に変えるほどの品ではもちろんありませんが、これを敵に奪われること無く無事に持ち帰ることも、重要な任務の一つと思ってくださいね」
 グラディウスを手にしたケルベロス達へと、ミルティが惚れ惚れとした視線を送る。
「皆さんがヘリオンから飛び降りて魔空回廊に格好良く攻撃するところ、この目に焼き付けておきますからね! それでは皆様、いってらっしゃいませ!!」


参加者
ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)
燈家・陽葉(光響凍て・e02459)
八代・たま(地獄のエンターテイナー・e09176)
カティア・アスティ(憂いの拳士・e12838)
ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)
ダリル・チェスロック(傍観者・e28788)
天泣・雨弓(女子力は物理攻撃技・e32503)
椿・恭介(悉皆殺し・e34701)

■リプレイ


 秋田県大館市某所の上空を、ケルベロスを乗せたヘリオンが高速で飛行していた。この地を拠点としているのはキューティクルハンター・セシカ。『美しい髪』奪って自らのものにしてしまう、女性にとっては天敵と言える性質のドリームイーターだ。
「まずは魔空回廊に降下攻撃。その後襲ってくる強敵を急いで倒してダッシュで逃げる。OK?」
 念には念をと、八代・たま(地獄のエンターテイナー・e09176)が作戦を最終確認し、ケルベロス達が頷きあう。
「こーりゃ楽しそうなもんに首突っ込んじゃったなあ。難しいコトはよくわかんねーけど、全力でブッ込めば良いんだよね?」
 椿・恭介(悉皆殺し・e34701)は手にしたグラディウスを軽快にくるくる回し、降下のときが既に待ちきれないと言った様子だ。
「そうですね。思いを込めて、このグラディウスを……」
 天泣・雨弓(女子力は物理攻撃技・e32503) は退路の確認を兼ね、眼下に広がる光景を見渡す。彼女の真剣な表情は、普段よりわずかに暗く、硬い。そんな雨弓の視界いっぱいに、ナノナノのだいふくが突如割り込んだ。驚く雨弓にいたずらっぽく笑いかけ、その胸に飛び込んですり寄るだいふく。雨弓を励まそうとする小さな相棒を、雨弓は愛情いっぱいに抱きしめた。
「じゃあ準備は……いいね?」
 顔を見合わせ、覚悟を決めたケルベロスたちが次々とヘリオンから飛び降り、地上への降下を開始した。


 重力に身を任せ、むしろ更に加速するかのように落下しながら、地上に広がるバリアへと飛び込んでいくケルベロス達。構えられた8本のグラディウス。セシカとの因縁が深いカティア・アスティ(憂いの拳士・e12838) のグラディウスが、彼女の思いに応えて輝きを放ち始めた。
「貴女さえ、いなければ、私は、普通の女の子で、いられたのに……!」
 カティアは幼少の頃セシカに襲われ、髪を奪われてしまった。かつての美しい髪は見る影もなく、黒色に地獄化してしまっている。
「髪だけじゃ、ありません。平穏な日々も、小さな幸せも……私の、初恋も……! 全部全部、貴女が、奪っていった。一瞬で、滅茶苦茶にした……! 「返して」なんて、もう、言いません。でも、それでも……貴女を倒さないと、私は前に、進めない……! 今度こそ、なるんです。普通の子に、リア充に……!」
「私もアイツには超ムカついてんのよね。髪を奪うドリームイーターとかさぁ……女の髪を何だと思ってんだこらー! 私がこの長いのを完璧にセットするのに毎日どれだけ手間暇かけてると思ってんだ、バーカ!」
 たまは艶やかな髪をなびかせながら、ありったけの怒りを叫ぶ。
「人の髪を奪うとは何事だ、モザイクだろうと髪はあるだろう、それに満足せず他人の髪を奪おうだなんてふざけんな! 俺は別に禿げてるわけではない、禿げてるわけではないが、それでもこの髪を奪おうなんて奴に容赦する気はサラサラねえ!」
 ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)が叫ぶように、髪を大事にするのは女性だけではない。男性にとっての髪とは、時に女性以上に重要で複雑な問題を孕むのだ。
「ふざけんるんじゃありませんよ!!キューティクルは人で言う服!!全裸じゃないドリームイーター如きに如何程の魂がありますか!!」
 ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)からはウェアライダーならではの切実な魂の叫びが放たれる。
「大体以前撃破した際に結構毛並みが痛んだんですよ!! もふもふウェアライダーには死活問題なんですよ!! ヘアケアの大変さも知らずに、他人から奪えばいいなんて考えの輩にくれてやる気もありませんし、その根性をグラディウスと共に叩き斬り直してやりますよ!!」
 熱く怒りと魂を加熱させるジュリアス。一方燈家・陽葉(光響凍て・e02459)とダリル・チェスロック(傍観者・e28788)はセシカへの嫌悪と怒りを、静かに、しかし強かに燃やしていた。
「……ふざけないで。髪は女の命と言われている、そして僕達は、自分で髪を綺麗にする努力をしているの。それを他人から奪うって?」
 女子を狙う敵への義憤に、陽葉の表情には普段の明るい振る舞いからは想像もできないような怒りが宿っている。
「髪は女性の命というが、奴のやっていることは正に命を奪うに等しい。まして、年若い女性を狙っているのなら、尚更に」
 口調だけは丁寧さを保っているダリルだが、低く吐き捨てる言葉の端には明らかな軽蔑が込められている。
「髪を頂戴? そのモザイクを差し替えたところで誰かを羨み、誰かの大事なものを奪う心が変わる筈もないと自覚がないなら末期……。左様なら髪を奪うことによってその人間の人生も、壊されてしまうということに気付けない輩など、許しておける存在ではない」
「どれほどの綺麗な髪を集めようが、そんなもの、すぐに醜くなるだけだよ。そう、本当に醜いのはお前の髪じゃなく、その為に他者から奪おうとするお前のその性根が醜いんだよ」
 ダリルと陽葉によってセシカを断罪する言葉が紡がれて、陽葉のグラディウスが鋭い光を帯びる。
「……女の子達の為に、ここは破壊させてもらうよ」
「このような場所は放置しておけません。足掻かれようが何しようが、……全て壊す」
 壊す、とダリルの言葉が凄みを持って響いた瞬間、彼の静かな怒りにグラディウスが呼応し、燃え上がるような光が上がる。
「俺の筋肉は如何なる障害さえも打ち砕く。その為の筋肉、その為の今までの鍛錬だ、俺の筋肉を舐めるなぁぁあああ!!!」
 ムギの鍛え上げた両腕に掲げられたグラディウスが、彼の咆哮と共に紅蓮色の光を放つ。
「デウスエクスを許すわけにはいかないのです。デウスエクスに操られて私は、沢山の方を、そして最愛の夫を…。自己満足かもしれませんが、貴方を、デウスエクスを倒すことが償いであり私のやるべきこと、そして背負うべき十字架なのです!」
 雨弓は自身の過去と後悔、そしてケルベロスとしての揺るがぬ覚悟をグラディウスへと載せる。
「二の太刀はいらねえ!持ってけ、オラァアア!!」
 恭介が獣のように吠え、彼の沸き立つ血の衝動が極限に達したその時、ついに眼前に地上が迫り、落下の勢いとともに8本のグラディウスの切っ先が巨大な魔空回廊のバリアへと突き立てられた。凄まじい爆裂音が響き渡り、雷光と爆炎が辺り一帯を覆い尽くした。


 煙と混乱の怒声が巻き起こる中、ケルベロスたちが地上に着地する。
「手応えはあったけど、壊せた!?」
 たまが髪をたなびかせて接地し、攻撃地点を振り返る。
「分からない……まずは、脱出しよう。……力を貸してね、鎖理獲」
 陽葉がそう言い、ケルベロス達は立ち込める煙の中を走り出す。混乱に乗じて敵中を駆け抜けていると、不意に彼らの周囲に声が響いた。
「面白い真似をするわね、あなた達」
「………そこかァ!?」
 恭介が笑いながら、声と気配だけを頼りに煙の中へと飛びかかる。煙幕の裏から奇襲で放たれた鍵が現れ、恭介の刀によって間一髪相殺された。煙から現れたのは長髪モザイクの女、キューティクルハンター・セシカだ。
「あの、若草色の髪は……!」
 カティアが思わず呟き、セシカがニコリと笑う。
「あら……もしかして、この髪の子?」
 奪った髪を誇らしげになでつけるセシカ。『セシカ』と同類の個体は複数いるようだが、この個体がカティアを襲った者で間違いなさそうだった。
「あんたが欲しがってる世界一綺麗な髪なら、ここにあるぜ。尤もあんたが他人の髪を手に入れる事は、もう二度とないけどね」
 たまは不敵に笑んで、自慢の髪をふわっとかき上げてみせる。
「本当、とても素敵だわ。あなた達のグラディウスと髪を私に頂戴? そうしたら見逃してあげるかも」
 セシカが鍵を振りかざし、カティアが咄嗟にたまを庇う。しかしセシカは明らかにカティアを狙って、その鍵を差し出していた。
「えっ……!?」
「もうあなたには興味ないわ。嫌よそんな汚い髪」
 セシカは嘲笑い、鍵でカティアの胸をえぐる様に突き刺す。蹲ったカティアの目には、悪夢の日のセシカが現れる。
「嫌……!」
 響く高笑いが目の前のセシカのものなのか、トラウマが見せる幻なのかカティアには分からない。嗜虐心を満たして笑うセシカを止めたのは、炎をまとったムギの鋭い拳だった。
「やめろ。お前にはもう何も奪わせない」
 赤鬼と化したムギが、怒りとともに燃え盛る裏拳をセシカに放つ。咄嗟に飛び退いたセシカが体制を立て直している隙に、ダリルがスターサンクチュアリを展開してカティアのトラウマをかき消した。
 肩で息をするカティアの両肩を、駆け寄ったジュリアスがすぐさま支える。
「すみません、私……!」
「あなたは、今を生きていいのですよ」
 ジュリアスの言葉にしばし瞠目するカティア。その直ぐ側で、陽葉が手にした弓を引き絞った。
「痛みも努力も知らないお前に、これ以上仲間を傷つけさせない。さあ、見切れるかなっ!」
 金鳥の弓から鋭く解き放たれた一閃はセシカの鍵に狂いなく射ち込まれ、吹き飛んだ鍵の一部がセシカの背けた顔に吹きかかる。
 ケルベロス達の攻撃を受けながら、セシカは鍵の先から薄刃を作り、たまの髪を狙って放った。たまは体をよじり、ギリギリでその攻撃を避ける。
「あっぶな……! どんなに羨ましがられたって、あんたなんかに指一本触れさせないっつーの!!」
 べーっと小さく舌を出しつつ、たまが氷結の槍騎兵を召喚する。氷兵達の攻撃は氷塊となってセシカの身に纏わりついていく。
 短期決戦を狙うケルベロス達は、序盤に状態異常の付与を意識した攻撃を行い、ダリルはトラウマ攻撃の対策を急いだ。セシカの強力な攻撃は、各々が防具をうまく活かして凌いで見せる。
「そちらのペースには、させません!」
 敵がヒールによる自己強化を図ったのを見て、雨弓が飛び出す。雨弓に構えたセシカの死角から、既に回り込んでいただいふくがハート光線を放つ。だいふくの不意打ちに合わせて雨弓が回し蹴りを放ち、生み出した暴風がセシカの髪を激しく巻き上げて乱していく。
「強いのね。それなら……」
 相手の戦略性の高さを察したセシカは、中衛のジュリアスに狙いを絞って攻撃を加え始めた。舞い踊る薄刃に、ジュリアスの毛先が次々と刈り取られていく。
「だぁーっ!? ケアが大変だというのに、まったくもう!!」
「集中攻撃で足を潰して援軍を待とうってか? つまんない戦法とっちゃって」
 ジュリアスは怒り、恭介は興ざめしたような口調で言いつつ、刀の鞘に触れながら駆け出す。
「どうせなら僕を狙ってくれないかなあ? そのほうが断然楽しいからさ!!」
 恭介は挑発しながら二刀を構え、夢幻・十六夜散華を繰り出す。舞い落ちる花弁のように気まぐれで不規則な恭介の連斬撃が、セシカの髪とモザイクを切り刻んでいく。
「というか、人を襲うよりも自分を磨くことから始めなさい!! と言っても無理ですかね? 自分だけが髪の痛みと戦っていると思っているような輩にはね!!」
 集中狙いされたジュリアスは怯むことなく、両手のルーンアックスに傷つけられたもふもふへの怒りを込めて敵へと飛び込んだ。セシカを十文字の衝撃が襲い、さらに大量の髪がバラバラと舞い散る。
「く、よくも私の……!」
「何を言う、人の髪を狙うんだ、逆にお前の髪を狙われたって仕方ないよな?」
 敵の背後を取ったムギが、炎をまとわせた腕でセシカの髪へと振りかぶる。
 血相を変えて髪を振るい、その髪を庇うかのように振り返ったセシカ。あっさりと策に嵌ったセシカに、ムギが笑った。
「悪いが本命はこっちだ……本当に醜いのはお前の髪じゃない。お前の心だ!」
 ムギは上腕筋を躍動させ、晒された胸部へと燃える拳を力の限りに叩き込んだ。渾身の一撃をまともに喰らい、吹っ飛んだセシカの身体が、衝突した民家の壁すらぶち抜く。
 体勢を崩した敵に、勝負を決めようとケルベロスたちが次々と追撃を放つ。それに加わろうとしたカティアは、自らの髪に触れ、一瞬の迷いを生じる。彼女のその肩に、ダリルが触れた。
「ジュリアスが言った通りです。未来の為に戦うあなたの姿に、恥ずべき事は何もない」
 ダリルはそう言って、カティアの背に癒しの白い翼を咲かせた。振り返ったカティアは少しだけ泣きそうに笑い、すぐに決意の視線で敵を見据えて、忌み続けてきた黒髪の地獄を発動させた。
「……私、嫌いなんです、この、地獄。けど……貴女を、倒す、ためなら。全て、出し切ります……!!」
 苛烈にも美しく燃え上がるカティアの髪。カティアは炎を上げながら宿敵に向けて全力で飛翔する。その姿にセシカは、カティアの姿を羨むように両手を伸ばしていた。
「貴女に、貰ったもの、返します……!」
 次の瞬間、カティアの放った地獄の炎がセシカの全身を包んだ。
 業火に焼かれ、悲鳴をあげてもがくセシカ。
「……私一人を倒したって、魔空回廊がある限り、私たちは髪を奪い続けるわ。……ああ、でも私は? 私が集めた髪はどうなるの?」
 炎が巻き起こす風に、彼女の奪い続けた髪とオラトリオの花が舞い上がる。
「……嫌、行かないで、返して、私の髪……!!」
 それはセシカが幾度となく聞いた、少女たちの叫びと同じものに違いなかった。
「あんたに嘆く権利なんかない! 思い知れ、髪ドロボウ!!」
 たまが吐き捨てるように言うと、色とりどりの髪が舞い散る中、セシカの姿は跡形もなく消えていった。
 セシカを倒したのを確認し、ケルベロス達は再度撤退を開始する。ムギが持参した発煙筒とたまのエスケープマインによる煙幕を作り出し、彼らは作戦範囲外へと速やかに走り出した。

「ごめんごめん。ちょっと魔空回廊を眺めて戻ろうと思ったら、なんでか迷っちゃって」
 撤退完了直後に姿を消し、何故か数百メートル離れたところで発見された恭介が頭を掻きつつ詫びる。
「もう、撤退しきった後だったから良かったけど……」
 陽葉は安堵しながらそう言い、魔空回廊のほうを見上げる。
 魔空回廊は、破壊には至らなかった。それでも、ドーム状のバリアには彼らの攻撃によるダメージ痕がありありと刻まれている。
「攻撃にも成功し、グラディウスも私達も無事。……十分な成果を上げたと言っていいのでしょうね」
 雨弓が言い、ジュリアスはカティアを見やって微笑む。セシカが言っていたように、この地には新たな『セシカ』が現れるのだろう。それでも、カティア自身の宿命は、一つの転機を迎えられたに違いなかった。
「……これで何もかも終わった、とは、言いません。それでも……皆さん、本当にありがとう……!」
 ありったけの感謝を込め、カティアが言葉を紡ぐ。彼女の掌には、失ったはずの菫の花が優しく握られていた。

作者:ともしびともる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年1月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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