「押忍! 皆、ゴッドサンタ相手の鮮やかな戦い、見事じゃったのう。今日集まってもろうたのは他でもない。ゴッドサンタを倒した時に手に入れた、『グラディウス』の使い方が判ったんじゃ」
円乗寺・勲(ウェアライダーのヘリオライダー・en0115)は、クリスマスパーティーでゴッドサンタに快勝した記録に目をやった後、あらためて集まったケルベロスに一礼した。
「グラディウスは、光る小剣のごたる形をした長さ70cmばかしの兵器じゃが、普通の武器としては使うことができん。その代わり、『魔空回廊を攻撃して破壊する』っちゅう、なんとも特殊な力を秘めておるんじゃ」
通常の魔空回廊は、時間が経てば消失するため、破壊するメリットはそれほどでもない。だが、固定型の魔空回廊については、グラディウスによる破壊がとても有効になるだろう、と勲は言う。
「特に、今もこの日本各地で行われちょる『ミッション』。もしそこにある敵の拠点『強襲型魔空回廊』を破壊することができたら、デウスエクスの侵略を大きく食い止めることができるじゃろうの」
勲は力強くうなずき、話を続ける。
「グラディウスは一度使うと、グラビティ・チェインを吸収して再び使用できるようになるまで、かなりの時間が掛かるんじゃ。じゃが、今回手に入れた中には、今すぐ使えるだけのエネルギーを持ったもんがようけある。皆はこんグラディウスば使うて、ミッションに繋がる魔空回廊を破壊し、ミッション地域をデウスエクスの手から取り戻して欲しいんじゃ」
なお、どの場所のミッションを攻撃するかは、参加者の決断に委ねる……と、勲は表情を引き締め皆に告げた。
「じゃけん、説明をよーく確認して、悔いのない決断をしてもらいたいじゃ。押忍っ!」
気合い一番、続けて勲は作戦の具体的な展開について説明を始める。
「強襲型魔空回廊は、ミッション地域の中枢じゃて、通常の方法で辿り着くんは難しか。場合によっちゃあ、敵に貴重なグラディウスを奪われる危険もある。じゃけん今回は、ヘリオンを利用して、上空からの降下作戦で現場に近づくじゃ」
勲によると、強襲型魔空回廊の周囲は半径30mほどのドーム型のバリアで囲われており、このバリアにグラディウスを触れさせることで、魔空回廊に直接ダメージを与えることが可能だ、とのことだ。
「8人のケルベロスがグラビティを極限まで高めた状態でグラディウスを使用し、強襲型魔空回廊に攻撃を集中すれば、場合によっては一撃で強襲型魔空回廊を破壊する事すら可能じゃ」
そこまで上手くいかずとも、魔空回廊へのダメージは蓄積するため、何度か繰り返し降下作戦を行えば、いつかは強襲型魔空回廊を確実に破壊する事ができるだろう、と勲は言う。
「強襲型魔空回廊の周囲には、強力な護衛の戦力が居るじゃが、高所からの降下攻撃を防ぐことはできん。しかも、グラディウスは攻撃時に雷光と爆炎が発生して、その雷と炎はグラディウスの所持者以外に無差別に襲いかかるんじゃ。いくら強大なデウスエクスでも、魔空回廊への攻撃を防ぐことはできんじゃろうの」
また、この雷光と爆炎によって発生するスモークを利用してその場から撤退し、貴重な武器であるグラディウスを持ち帰って欲しい……と、勲は集まったケルベロスたちに再び一礼する。
「スモークにまぎれて撤退するっちゅうても、そこは強力なデウスエクス相手じゃけん、そう簡単にはいかん。グラディウスからの雷光と爆炎である程度は敵を無力化できるじゃが、それだけで全てを倒すとはいかんで、残った強力な敵との戦いになるじゃ」
幸い、混乱する敵が連携を取って攻撃してくることはないので、素早く目の前の強敵を倒し、できるだけ早く撤退するよう心がけてほしい、と勲は言う。
「時間が掛かりすぎて、脱出する前に敵が態勢を整えてしまった場合は……最悪、降伏するか、暴走して撤退するしか手が無くなるかも知れん。万が一にもそがあなことにならんよう、最善を尽くして貰いたいじゃ」
勲は眼に力を込め、くれぐれも無事に帰還して欲しい、と集まったケルベロスたちに念を押す。
「さて、肝心の現れる敵じゃが……当然、攻撃するミッション地域によって変わってくるじゃ」
勲はミッションについての資料をケルベロスたちに回しつつ、現時点で判明してる情報を参考にして、攻撃する場所を選ぶ一助としてほしい……と皆に頷きかけた。
「作戦上の有利不利やら、色々考えるよう言うたじゃが……一番大事なんは、『何としてもこの地域を開放する!』っちゅう、確固たる意志の力じゃ」
それは単なる根性論ではなく、グラディウスの力を最大限に開放するには、参加する者たちの『魂の叫び』が必要不可欠だからだ……と、勲は力強くケルベロスたちを激励する。
「今こん時も、デウスエクス達はミッション地域を増やし続けとる。奴らの侵攻を食い止めるため、皆の強い気持ちを込めた『魂の叫び』、力いっぱい魔空回廊にぶつけてくるじゃ……押忍っ!」
いつにも増して気合の入ったエールで、勲は皆を送り出すのだった。
参加者 | |
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ウォーレン・エルチェティン(砂塵の銃士・e03147) |
レオナール・ヴェルヌ(軍艦鳥・e03280) |
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079) |
茶野・市松(ワズライ・e12278) |
峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147) |
銀山・大輔(お鍋大好き青牛おじさん・e14342) |
兎塚・月子(蜘蛛火・e19505) |
山蘭・辛夷(キセルナイト・e23513) |
●八つの魂、八つの叫び
岡山県は倉敷市に広がる、異質な空間。
それは、デウスエクスが引きも切らず押し寄せる、『強襲型魔空回廊』を守るドーム型のバリアに他ならなかった。
刹那、その上空に飛び出したのは、八つの大きな影と、二つの小さな影。
この地の終わらない侵略を止めるためにやって来た、八人のケルベロスと二体のサーヴァントだった。
「偽野郎のクソ忍者どもめ、テメェらの好きに、させるかァァァ!!」
いの一番に雄叫びを上げたのは、銀山・大輔(お鍋大好き青牛おじさん・e14342)。この地を荒らす偽ケルベロスとの因縁を抱えている大輔は、普段ののんびりとした気のいい好漢らしさから一転、ならず者めいた荒々しい様子で、思いのたけを手元の小剣に込める。
(「ついに、偽ケルベロスの尻尾を掴んだだよ……失敗するわけには行かねぇだ!」)
大輔は筋骨隆々の腕を振るい上げ、ケルベロスたちが手に入れた、強襲型魔空回廊に対する決戦兵器『グラディウス』を、空からの重力と共に叩きつけた。
グラディウスがバリアに触れた瞬間、強大な力と力の奔流が、爆ぜる。
炎と雷をまとった熱い破壊のエネルギーは、魔空回廊の中を駆け巡り、回廊を包む戦いの狼煙となった。
「この地域はオレらが絶対に何とかしてみせる! この魔空回廊もオレらがぜってーぶっ潰す!」
続く叫びは、茶野・市松(ワズライ・e12278)のものだ。傍らのウイングキャット『つゆ』が少し心配そうに見守る中、市松は手にしたグラディウスに魂と力を込め、昂ぶらせた気持ちと共に小剣を振り下ろす。
「つゆ、分かってるてーの。やることはしっかりやる。……あれをぶっ壊して平和を取り戻すために、暴れてやろうじゃあねえの。ぜってーぶっ壊す!」
普段は相棒の暴走を止める兄貴分的存在である、つゆの視線を感じたのだろう。市松は自分の側を黒い翼で懸命に追走するハチワレの毛並みにニヤリと微笑みかけ、はやる心に負けないほど、任務を着実に果たす心持ちもしっかりと持っていることを相棒に伝える。つゆは心得たように、よりぴったりと市松の側に寄り添った。
(「俺の大事な仲間、家族、依頼を共にした戦友、危険を顧みずに戦争に強力してくれた人たち……!」)
脳裏に浮かべた人々は峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)にとって、全部大切で、全部守りたくて、全部笑顔でいてほしいもの。雅也はケルベロスとして得た多くの出会いに思いを寄せながら、彼らと共に過ごすデウスエクスの脅威が去った地球を思い浮かべる。
「砕け散れ!!」
雅也の胸によぎった数多の思いは、シンプルなたった一言に込められた。彼はいつも通りニィと笑む大胆不敵な笑顔を浮かべ、ためらいなくグラディウスを魔空回廊の殻に叩きつけた。雅也の思いは、遠雷が轟くような音と光と共に、回廊のバリアを削る。
(「最初から俺の、俺たちの願いはコレしかねェンだ。そいつァ、子供たちの未来を奪うモノを送り込むためのモンだからよ……」)
何度か戦場を共にした雅也の叫びを体で感じ、続いてグラディウスを握りしめたのは、ウォーレン・エルチェティン(砂塵の銃士・e03147)だ。
「『子供たちが理不尽に死ななくて済む世界を創る』ために……」
ウォーレンが戦いに臨むのは、いつだって子供たちの未来を守るためだった。それはケルベロスになりたての時も、それなりにケルベロスとしての経験を積んできた今も、一つも変わることはない。
「消しとびやがれェェェェェ!!」
一生を連れ添うと決めたひとから贈られた、獅子のまわりに勝利を祈願する梵字が刻まれた籠手でしっかりとグラディウスを掴み、ウォーレンの想いが爆発する。魔空回廊を砕くことで近づく彼の理想を胸に振り下ろされた小剣は、確かな亀裂となってバリアに傷を与えた。
「一緒にお仕事するのは初めてだけど、やっぱ頼りになるねー、ウォーレンさんー」
旅団の仲間が見せた熱い思いに柔和な表情でうなずいたのは、レオナール・ヴェルヌ(軍艦鳥・e03280)。
「おう、あンがとさんょ。そンじゃァ……そっちも一丁頼むぜ、レオ!」
同僚からのエールを受け取ったレオナールは一転、表情を引き締める。その脳裏に去来するのは、此処にあった人々の当たり前の毎日と、当たり前の暮らし。その『当たり前』を奪ったデウスエクスへの怒りを込め、レオナールは腹の底から叫んだ。
「こんな物がある所為で湧いて出てくるなら……叩き潰れろよ!」
黒い翼が翻るように、グラディウスが鋭い軌道を描く。彼にとって、もとより空戦はお手の物だ。落下する身体を的確にバリアに寄せながら斬りつけられた小剣は、魔空回廊を覆うエネルギーの覆いに吸い込まれ、燃え盛る炎ともうもうとした煙を生み出した。
「倉敷市の皆さんの為に!」
続いてスズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)が、炎と煙をものともせずに突っ込んでゆく。銀色の髪と尻尾がたなびき、その様子はさながら素早く獲物に飛びつく銀狐のようだ。白銀の狐が引っかくように、スズナはグラディウスを振り下ろす。
「あと、茶屋町稲荷神社のためにっ! 参拝のじゃまは、させません!」
そしてスズナの生業は、小学生兼神社の巫女見習いだ。馴染みの神社で祈りを捧げる人が大切な気持ちと同じぐらい、この倉敷の地にある神社を訪れる人々も、彼女にとって大切なものだ。
「こーわーれーてーっ!」
人々が平和の中で神に祈る日々を、この地に取り戻せるように。隣で付き従うミミックの『サイ』と思いを一つに、単純明快な叫び一番、スズナはグラディウスを振り下ろした。思いを乗せた斬撃はバリアに触れ、すさまじい熱と炎、そしてまばゆい雷を引き起こした。
「今までよくもコソコソとやってくれたねぇ。次は私たちが、お前さんらを地獄の底まで追い詰める番だ」
必死な少女の叫びに続いた声は、凛と響く女傑のごとく。山蘭・辛夷(キセルナイト・e23513)はスズナと同じく銀色の髪に風を受け、豪胆さを感じさせる不敵な笑みを浮かべて、手にしたグラディウスを振りかざす。
「受け取りな! これが! お前さんらを追い詰める人類からの反撃の一手さ!」
辛夷のグラディウスは剣となり、杭となって、魔空回廊を覆う力場に押し込まれた。叫びの一つ一つに合わせるように辛夷は小剣を掴み、突き刺し、ひとたび手を離して拳を握りしめ、バリアに刺さったグラディウスの柄に金槌のごとく叩きつけた。壁に入った亀裂を押し広げるように、燃え盛る炎が衝突の場から広がってゆく。
「三ツ首騙ろうってのは上等だ」
続く不敵な女伊達の声は、兎塚・月子(蜘蛛火・e19505)のものだ。月子の小柄ながら凄みを滲ませる金色の瞳は、今こそ本領を発揮する場が来たとばかりにギラリと輝き、ニヤリと片頬を上げて、思いのたけをぶち込む叫びが辺りに響き渡る。
「ただしバレたが最後、テメーがなんのは晒シ首やボケがァーーッ!!!!」
威勢のいい叫び声と共に、月子の勢いをそのまま乗せたかのようなグラディウスが、強襲型魔空回廊の頂点に突き刺さった。盛大な花火を打ち上げるかのように炎が爆ぜ、小気味良い音を連れて雷が降り注ぎ、回廊のバリアとそこに覆われた一角は、見る間に炎と雷と煙の競演を繰り広げる場と変わってゆく。
それはまた、この場を取り戻しに来たケルベロスの、全ての思いがぶつけられた瞬間でもあった。
●七色の偽音
「……やった、だか?」
勢い良く着地した大輔は、辺りを覆う煙を振り払うようにぶるぶると太い首を振り、目的を遂げられたかを確かめる。
「そう願いたかったところだけど……どうやら、ちょいとばかり足りなかったようだね」
緑色の瞳を凝らした辛夷は軽く肩をすくめ、今飛び降りてきた上空から周りに視線を戻す。
彼女の言う通り、爆炎と雷光が暴れまわる戦場は、いまだ、バリアの壁がその外殻を覆っていた。
「オレら、かなり熱かったと思うんだけどよ……案外、しぶといもんだな」
市松の軽い舌打ちに、肌で感じた仲間たちの熱い叫びと、それでも一度で砕くには至らない強靭な守りへの口惜しさがにじむ。
「……ああ。でも、それなら、俺たちのやることは一つだ。いっちょ偽忍者退治と行きますか、だな!」
雅也はにっかりと仲間に笑みを送り、現れるであろう相手……『夢幻の音色』こと、偽ケルベロス鈴木・七音の姿を探しつつ、オウガメタルで味方の力を高める最初の一手に備える。
「なんかすごいことになってますー! でも、ケルベロスの七音が、なんとかしちゃうんですよ……そーれ、『幻影のリコレクション』!」
果たして、求める相手はすぐに現れた。
ギャラリーの一般人が居るわけでもないのに性懲りもなくケルベロスを騙るのは、彼女の本能みたいなものだろうか。七音は楽器の忍具を構え、馴染み深い、しかしどこか調子の外れたメロディを、前に飛び出したケルベロスたちに浴びせる。
「ニセモノの歌なんざ通さねェ、ってなァ!」
ウォーレンは大輔をかばいながら、電光石火の蹴りで七音の偽ケルベロスコートを鋭く切り裂いた。
「出ただな、クソ忍者……くらえェェ!」
大輔は七音の人を食ったようなハート型の瞳をいまいましげに見つめ、全力の突きを体当たりもろともぶちかます。
そして、大輔のみならず全員が全員と感情を繋いでいたコンビネーションで、レオナールの動きを鈍らせる砲撃、スズナの煌めく流星のキック、月子の味方を鼓舞する色とりどりで小気味良いテンポの煙が、怒涛のように辺りを駆け巡った。
「いたーい、何するんですか、この牛おっさんどもはー!」
七音はたまらず、体勢を立て直そうと偽の『ブラッドスター』を奏でる。
「何をするって、そりゃ、アンタをぶっ倒すに決まってんだろ。そーら、カリッと噛み砕いてお立ち会い、ってなあ!」
押せ押せで行けとばかりに、市松は同列の仲間たちに自慢の駄菓子の逸品・カリカリラーメンをふるまい、七音への命中をサポートする。
「出来の悪いモノマネ芸人だね。とっとと引退してもらおっか」
援護を得た辛夷は、思ってたより拙いミュージックファイターの真似事をぶった切るように、ドラゴニックハンマーのパワーを加速させた一撃を叩きつけた。
「ええ、あなたのようなケルベロスはいるもんですか! すばしっこくても、逃がしません! もえさかれ、えんゆ!」
たたみかけるようにスズナが、稲荷の眷属の力を見せようとばかりに、『狐火・焔鼬』の炎弾を放つ。七音はコートを灼いた炎を憎ったらしげに見つめ、スズナを含めた後方に向けて『殲剣の理』もどきの調べをぶつけた。
「大丈夫だ! 皆、この調子でさくさく行こうぜ!」
自回復を用いるまでもなく自力で怒りを脱した雅也は、スズナに迅速果断な癒しを送り、さらに言葉でも味方を鼓舞する。無い知恵を絞って戦況の分析を……と心を決めていた雅也は、敵の戦力そのものは恐ろしく危険というほどではないことを、やすやすと見破っていた。
「当たり前の暮らしを奪った報いはその身で払え……! 叩き潰れろよ、お前っ!!」
普段ののんびりした調子から一転、苛烈な『軍艦鳥』の誇りを胸に、レオナールは七音に殺到し、仲間の与えた傷をジグザグに切り裂いた。強い痛みと勢いを増す不愉快な状態異常に、七音の人を小馬鹿にしたような表情が強く歪む。
「その調子だァ、レオ! 分身だか何だか知らねェが……子供たちが平穏に生きていくためにゃァ。……テメェは、邪魔だ」
同僚の与えた鋭い一撃に鼓舞されたかのように、ウォーレンは砂塵を潤す硝煙と弾丸の雨を、容赦なく十字砲火で見舞った。命中率に不安のある威力重視の技がしたたかに命中したのは、ウォーレン自身の気合いと、的確にもたらされていた味方の補助と、しっかり相乗効果が噛み合った結果だろう。
「下手なモノマネショーは、とっとと幕引かななァ。あたいが千秋楽に花ァ添えたるわ」
月子は、凄惨さすら感じさせる迫力ある笑顔を浮かべた。そして、目の前の猿芝居を繰り広げる粗悪な偽忍者と浅からぬ縁を持つ者・大輔に向け、戦う力を大幅に賦活する地獄の炎を、全身全霊を込めて放つ。そのごうごうと燃え盛る炎は、さながら憤怒の鬼火のようだ。
「オゥリャアァァァァ! テメェのドタマ、カチ割ってやるぞゴルァア!!!」
月子の激しい炎が乗り移ったかのように、かつて戦った螺旋忍軍と同じ姿をこの世から塵すら残さず消し去る意志を示すかのように、大輔の大きなドラゴニックハンマーが翻った。フラストレーションと溜めた怒りの力が込められた一撃は、彼が叩き出し得る最大のダメージとなって、七音の胴体をしたたかに吹き飛ばした。
「くっ……!」
たまらず身体をよろめかせ、立っているのもやっとといった様子の七音が、忙しく戦場を見回す。逃げた本体と同じように、幻影である彼女もまた、逃げようとしているかのようだった。
「逃げるんか? 偽忍者ってのも、大したことないんやなあ!」
その様子を素早く見咎めた月子は、手持ちのグラディウスをこれ見よがしにちらつかせ、自らの前に突き立てて見せた。七音は一瞬気を取られたような視線を向けたが、すでにそれを奪うことまで頭が回る状態では無さそうだった。
「……大気の鉄槌を、其の身に受けろ!」
レオナールは我が手に集う風を束ね、風圧の爆弾と化した大気を凝縮し、七音に叩きつける。暴れる風は激しいダウンバーストとなって荒れ狂い、ケルベロスコートを模した衣装を切り裂き、わずかに残っていた七音の力を、完膚なきまでに奪い去っていった。
「……! 私は、ここまででも……魔空回廊がある限り、何人でも……!」
七音の悪態が、戦いに荒れた一帯にこだまする。
それが、彼女の最後の一言だった。
●明日への道
「よっしゃ、ひとまずは仕事完了、ってな! さ、急いで撤収するぜ!」
グラディウスから巻き起こった炎や雷、そしてスモークが消えつつある戦場を見渡し、雅也は仲間に呼びかける。
「できれば本体も探してしばいたりたかったけど……まあ、しゃあないわな」
「ああ、残念だども、ここは引くだ」
月子と大輔が互いにうなずく。
魔空回廊が残っており、周りの戦力を削るグラディウスの力も打ち止めになりつつある状況とあれば、ケルベロスたちのやるべきことは一つ。着実に任務を果たした戦果を持ち帰り、しっかりと無事に帰還することだ。
「一つ一つゲート潰していけば、いつかは出会えるさ。コツコツやっていこうさ。ねぇ?」
少しばかりの口惜しさを胸に撤退する仲間に向け、辛夷は力強い声で、今日の結果をより良い未来につなげるよう、艶然と微笑んだ。
確かに七音の言う通り、魔空回廊がある限り何度でも幻影は蘇るのだろうが……必ずいつか、『その日』は訪れるのだから。
作者:桜井薫 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年1月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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